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闇の世界

「……おお! 全員揃ったようじゃの」

「アユミたちが最後でっせ!」

 転移魔法で再びモーディアル学園・校長室に戻ってきた俺らプリシアナ組。
 闇の世界の入口前にいる、キルシュたちドラッケン学園とカータロたちタカチホ義塾の二組が振り返る。

「いよいよ……闇の世界への突入だね。みんな! 準備はいいかい?」

 セルシアの問い掛けに、俺たち全員が力強く頷いた。

「イェーイ! クライマックスだー!!」

「じゃあ、毎度お馴染み……で、先陣はアユミたちに切ってもらわなくっちゃね」

「またかよ」

 ロクロの提案に、行く前からやる気が失せた←
 頼むから――おまえらから先に行けェェェッ!!!

「……叫びたい。非常に」

「まあまあ、アユミちゃん。それらのストレスは、全部アガシオンに向けて発散させちゃおうよ。攻撃力とか上がると思うよ?」

「怒り任せか。やめろ、絶対」

 シルフィーの案は、即ブロッサムがツッコミで却下した。
 ……けど……うん。悪くはないかも←

「まあ、いつも通りのペースで行きましょう? 緊張して足手まといになられる方が困りますもの」

「いや。やる気が殺る気になって暴れられるのが困るんだが……」

「ゆ、ユリ様。カエデ……あの、言うならもう少し婉曲に……」

「お姉ちゃん、早く早く!」

「リンツェはともかく、おまえらは……」

 一瞬くらりと眩暈がしたが、まあマイペース(過ぎる)輩なので特に気にしない方向にした。
 じゃないとこっちの身がもたない。

「よし。じゃあ……テメーら! 全員闇の世界にカチコミじゃああああッ!!!」

『おーーーーーーッ!!!』

「ヤクザとの闘争しに行くみたいな感じなんだよ!?」

 全員の叫びとブロッサムのツッコミを受けながら、俺は真っ先に闇の世界の入口に飛び込んだ。

 ――――

「……っと!」

 入口に飛び込み、闇の世界とやらに足を踏み入れた。
 俺の後から、次々とみんながやってくる。

「着いたみたいだね~」

「ここが、闇の世界なの?」

「そうそう。私が偵察に来た時もここだったよ!」

 フェアリー三人があちらこちら見渡しながら言い合う。

「ここが……」

 アガシオンがいる闇の世界。
 地下深くにあるせいか空は暗く、だけど空間系の魔法によるものなのか、昼間のように辺りはハッキリ見える。
 何故か月もあって、それも光源となっているしな。

「ねぇねぇ、お姉ちゃん。後ろの建物は何かな?」

「あ?」

 クイクイ、と袖を引っ張られ、アイナの指差す方向を見る。

「……遺跡?」

「……の割には、少し巨大過ぎませんこと?」

 俺のつぶやきに、ユリが小首を傾げて返答する。
 パルテノンみたいな外観な遺跡はボロボロで、中は辛うじて無事だが、見る陰なんてない。

「遺跡……でしょうか?」

「……いや。違う。これは、始原の学園の校舎……だと思う……」

「本当ですか? ブロッサム」

 リンツェとフリージアの間で、片手で頭を押さえてるブロッサムが続ける。

「また記憶が流れてくるんだよ。この学校が綺麗な状態だった時の記憶なんだけど、これとよく似た建物が思い出したから、間違いないと思う」

 今度はちゃんとした記憶らしいな。
 今までと違ってブロッサムがハッキリと答えた。

「たしかに……あの廊下は、巨人族が入れるほど大きい。あの部屋には、空を飛ぶ種族が入れるようなドームが作られているし……」

「見て! あの壁には、タカチホで使われている字も書かれているの!」

 セルシアやトウフッコも、次々と校舎の特徴を発見していった。
 他の仲間も校舎内を物珍しそうに見ている。

「様々な種族と文明の特徴勢揃い……本当にここは、始原の学園跡なんだな」

「でも~、ずいぶん派手にぶっ壊れてるよね~。建物だって、無事なの少しだけだし」

「……たしかに」

 見ていたシルフィーはガレキを拾いながらつぶやいた。俺もそれに頷く。
 目の前の建物はボロボロとは言え中は無事なので、直せばまだ使えそうだ。
 けどほとんどの建物は中も破壊されており、ひどいものは塵も残っていなかった。

「い、遺跡として見ても、こ、構造物がす、少なすぎるんだな」

 考え込む俺らに、意外にもヌッペが答えた。
 ヌッペは辺りを見回しながら続ける。

「ほ、保健室やじ、実験室の跡は綺麗に残っているけれど、き、教室や体育館は地盤ごと消えてるんだな」

「じ、地盤ごとって……どうやって、ですか……?」

「こ、これは自然崩壊ではなくて、魔法爆発か何かで、ばばば、バラバラになったと思えるんだな」

 リンツェの質問にもあっさり答えた。
 ヌッペの観察眼にネコマが「くっわしー!」と目を輝かせている。

「つ、土とか、建物のことは、く、詳しくわかるんだな」

「なるほどな。……しかし、魔法爆発、な……」

 壊れた校舎を見ながら、ふと思う。

(……魔法による爆発が原因だとしても、その割には大規模過ぎないか?)

 始原の学園がどれほどの規模かは知らないが、巨人族なんかも通っているらしいから、結構な大きさのもののはず。
 だけど建物を塵にまでさせるほど爆発だなんて、いったいどれだけ強力な威力なんだ?

「始原の鐘から溢れた、あのエネルギーくらいか……?」

 それくらいじゃなきゃ、ここまで破壊できない気がする。
 そう思って、思わずつぶやいた時だった。

「……あははっ。相変わらず君は鋭いねぇ、アユミ?」

『!?』

 突如、今の空気に不自然な声が前方から響いてきた。
 驚いてそこに目を向ければ、予想外の人物。

「ロア……!?」

「やあ。ひさしぶりだね」

 現れたのは……交流戦以降姿を見せていなかったロアだった。
 予想外過ぎて、全員が固まっている。

「ロア君、なんで……」

「ここにいるか? ……やだな。アガシオンから俺のこと聞いてるはずだよ?」

 相変わらずとぼけた口調は変わらない。
 ……が、口にした言葉は、嫌でも反応してしまう。

「……ロア」

「何?」

「……おまえ。いったい、何なんだ」

 アガシオンは言っていた。神の一人でノーム族の始祖と。
 ……つまり、彼はただのノームのはずがない。
 意味がわかってるのか、クスクスと可笑しそうに笑っている。

「アガシオンから聞いての通りだよ。すべてのノーム族の始祖。最古の錬金術を持つ者。……つまりね? 俺は始原の時代に生まれた者。今の時代で言うなら、神様の一人なんだ」

「か、神やって!?」

「ノームの始祖……つまり、僕たちのご先祖様ってこと……?」

「ええええええ!!? こいつがフォルクスたちノームのご先祖様あああ!!!?」

 カータロの叫びにフォルクスがつぶやいて、それにさらにジークが倍のシャウトをする。
 それにロアは、何故か腹を抱えて笑い出す。

「アハハっ。正確には、俺はノームとは違う存在なんだけどね。ノームたちの魂を作っただけ」

「え? でも、ロア君はノームしか見えないの」

「そうだよ。アガシオンにばれるとまずいから、依代に入ってばれないようにしてるんだ。特別な依代だからね」

「……とにかく、おまえはただのノームじゃない。そういうことでいいんだな?」

「そういうこと♪」

 ため息をつきながら俺が言えば、ロアは楽しげに言う。
 本人のノリはともかく、ロアの正体に、俺たちは改めて驚くのだった。

「……では、ブロッサムのことも、ホントにあなたが……?」

 ホッとしたところ、フリージアが恐る恐るたずねた。
 それに再び、辺りが静かになる。

「……そうだよ。俺が君を――初代の力を持つ君を生み出した」

「……っ」

 その言葉に、ブロッサムが息をのむ。
 突き刺さる視線の中、ロアはブロッサムを目に写しながら続ける。

「初代から渡されていた魔力結晶を、“本物”のブロッサムと特別な錬金術で融合して君が生まれた」

「本物……“死産した方のブロッサム”のことか」

「なるほど。あれはこういうことでしたのね」

「で、では……ブロッサムの母君についていた、ノームのお医者様も……」

「うん。俺だよ」

 ブロッサムが実の子じゃないことを知っていた俺とユリ、リンツェもそれぞれ納得した。
 ロアはブロッサムの前に来ると、相変わらず読めない笑みで話しかける。

「魔力結晶の影響でね。君は彼にそっくりになっちゃったんだ。……君の肩に、花の形の痣があるよね?」

「……あ、あるけど……?」

「アレね。闇を払う、ウィンタースノーの聖なる力を受け継いだ契約印。……初代にも同じ位置に、同じ形の痣があるんだ」

「……!!」

 バッ、と肩を押さえながら、ブロッサムは後ろに下がる。
 子供の頃からの痣が、実はこんな意味があったなんて、な。

「頭に流れる記憶は、多分魔力結晶に眠っていた初代の記憶だろうね。記憶が入っていることって多いし」

「……では……本当に、ブロッサムは……」

 何とも言えない顔でセルシアがロアに再確認する。
 自分の先祖が、まさかこんなことになってるとは思ってもなかっただろうな。

「正真正銘、初代の力の受け継いだ者だよ」

「……そう、か……」

「ブロッサム……」

「……大丈夫。受け止めるって、決めたから」

 不安に揺れながら、それでもブロッサムは小さく笑いながら頷いた。
 それにホッとしながら、ロアに向き直る。

「ロア。用件はそれだけか?」

「いや? あともう一個」

「あんのかよ。さっさと言えや」

「うん。言うからちょっと待ってて」

 イライラ気味に言うが、ロアは涼しい顔で気にせず。
 そして先程の遺跡に向けて、何故か手招きした。

「……あっ! あの子!」

「おまえは……」

 ロアの手招きにより、遺跡から姿を現した。
 そいつを見て、シルフィーが喜びながら叫んだ。

「ライラちゃんだ~!」

「うん……」

 現れたのは色違いのプリシアナ制服を着たノーム。闇の生徒会メンバー、ライラだった。
 シルフィーは喜んでいるけど……俺は予想外だったので、再びロアに顔を向けた。

「おい、ロア。なんでおまえとこいつが一緒にいるんだ」

「ちょっとした諸事情だよ~。……で、用件その2なんだけど、ライラをアユミたちと一緒に、つまり仲間にしてほしいんだ」

「いいよ~!」

「却下!」

 ロアの提案は、シルフィーと俺の即答により意見が分かれた。

「アユミちゃん、なんで~? いたら頼もしいよ~」

「何の理由も言わずに連れて行けるか! 理由を言え、理由を」

「理由ねぇ……」

 問い詰めるが、にこにこ(いや、にやにやか?)としてる。
 相変わらず考えが読めない奴だな……。

「……いずれライラは必要になるから、かな」

「必要? なんだよ。何かあるのか?」

「なんか、ちょースゲー力とかあるのか!?」

 バロータの横でレオが目を輝かせてる。
 そんな都合よく……いや、ロアならありえるか←

「まあ……そんなところ」

「…………」

 どうやら今は教える気は無いらしいな。
 ……しかたないからいいけど。

「不利な状況にはさせないだろうな」

「大丈夫だよ。アユミたちと一緒に居れば、ね」

「…………。わかった。いいだろう」

「し、信用する気かよ!? いくらなんでも「あ゙?」あ、ごめんなさい……」

 騒ぎだしたジークを横目と低い声で黙らせる。
 ちょいちょい、とライラを手招きすれば、そいつは俺らの前に来る。

「じゃあ預かるが……テメーはどうするんだ?」

「俺? んー……とりあえず、ここを直してるよ。君たちにも必要でしょ?」

「たしかに……保健室や実験室を修復すれば、ここを拠点とすることができるかもしれませんね」

 ロアの案にクラティウスが頷いた。
 ……たしかに、拠点は必要だよな。モーディアル学園攻略時に、よーく思い知ったよ。

「地上から必要な物資を運び込み、皆様の力を合わせれば、きっと可能です」

「よし。ではしばらくの間、みんなで始原の学園遺跡の修復じゃな!」

「そうですわね。……ですが、この闇の世界を全く知らずにいるのも危ないのではなくて?」

 ユリの言葉に「たしかに」みたいな空気が生まれた。
 そうだな。地上と違うんだし。何が起こるか予測不能だ。

「……よしアユミたちよ。そなたらに探索と偵察を頼もうぞ」

「俺らか。まあいいけど」

 修復よりは楽しめそうだしな。
 特に不満も無いので頷いておいた。

「うわ、オレも行きたいな~、それ!」

「修復には力仕事も必要や、しばらく我慢せな!」

 よく言ったカータロ!
 ジークはおとなしく待ってろ。
 つーかアイナの傍にいるんじゃねぇ!!!←

「俺がほとんど直しちゃったからね。物資さえあればアユミたちが使える程度には、すぐに修復も済むと思うよ?」

「ありがとう。ここにいる全員が利用できるレベルまで修復が終わり次第……僕たちもアユミたちを追いかけよう!」

「アユミ、よろしゅう頼むでー!」

「任せとけって!」

 作業に取り掛かり始めるカータロたちに片手を上げてから、俺もくるりと振り返った。

「じゃあ……行こうぜ」

「ああ」

「は~い。ライラちゃん、行こっ?」

「うん」

 満場一致。三人も特に拒否は無い。
 全員の意見が合った為、俺たちは未知なる闇の世界へと足を進めていった。
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