闇の世界
「……おお! 全員揃ったようじゃの」
「アユミたちが最後でっせ!」
転移魔法で再びモーディアル学園・校長室に戻ってきた俺らプリシアナ組。
闇の世界の入口前にいる、キルシュたちドラッケン学園とカータロたちタカチホ義塾の二組が振り返る。
「いよいよ……闇の世界への突入だね。みんな! 準備はいいかい?」
セルシアの問い掛けに、俺たち全員が力強く頷いた。
「イェーイ! クライマックスだー!!」
「じゃあ、毎度お馴染み……で、先陣はアユミたちに切ってもらわなくっちゃね」
「またかよ」
ロクロの提案に、行く前からやる気が失せた←
頼むから――おまえらから先に行けェェェッ!!!
「……叫びたい。非常に」
「まあまあ、アユミちゃん。それらのストレスは、全部アガシオンに向けて発散させちゃおうよ。攻撃力とか上がると思うよ?」
「怒り任せか。やめろ、絶対」
シルフィーの案は、即ブロッサムがツッコミで却下した。
……けど……うん。悪くはないかも←
「まあ、いつも通りのペースで行きましょう? 緊張して足手まといになられる方が困りますもの」
「いや。やる気が殺る気になって暴れられるのが困るんだが……」
「ゆ、ユリ様。カエデ……あの、言うならもう少し婉曲に……」
「お姉ちゃん、早く早く!」
「リンツェはともかく、おまえらは……」
一瞬くらりと眩暈がしたが、まあマイペース(過ぎる)輩なので特に気にしない方向にした。
じゃないとこっちの身がもたない。
「よし。じゃあ……テメーら! 全員闇の世界にカチコミじゃああああッ!!!」
『おーーーーーーッ!!!』
「ヤクザとの闘争しに行くみたいな感じなんだよ!?」
全員の叫びとブロッサムのツッコミを受けながら、俺は真っ先に闇の世界の入口に飛び込んだ。
――――
「……っと!」
入口に飛び込み、闇の世界とやらに足を踏み入れた。
俺の後から、次々とみんながやってくる。
「着いたみたいだね~」
「ここが、闇の世界なの?」
「そうそう。私が偵察に来た時もここだったよ!」
フェアリー三人があちらこちら見渡しながら言い合う。
「ここが……」
アガシオンがいる闇の世界。
地下深くにあるせいか空は暗く、だけど空間系の魔法によるものなのか、昼間のように辺りはハッキリ見える。
何故か月もあって、それも光源となっているしな。
「ねぇねぇ、お姉ちゃん。後ろの建物は何かな?」
「あ?」
クイクイ、と袖を引っ張られ、アイナの指差す方向を見る。
「……遺跡?」
「……の割には、少し巨大過ぎませんこと?」
俺のつぶやきに、ユリが小首を傾げて返答する。
パルテノンみたいな外観な遺跡はボロボロで、中は辛うじて無事だが、見る陰なんてない。
「遺跡……でしょうか?」
「……いや。違う。これは、始原の学園の校舎……だと思う……」
「本当ですか? ブロッサム」
リンツェとフリージアの間で、片手で頭を押さえてるブロッサムが続ける。
「また記憶が流れてくるんだよ。この学校が綺麗な状態だった時の記憶なんだけど、これとよく似た建物が思い出したから、間違いないと思う」
今度はちゃんとした記憶らしいな。
今までと違ってブロッサムがハッキリと答えた。
「たしかに……あの廊下は、巨人族が入れるほど大きい。あの部屋には、空を飛ぶ種族が入れるようなドームが作られているし……」
「見て! あの壁には、タカチホで使われている字も書かれているの!」
セルシアやトウフッコも、次々と校舎の特徴を発見していった。
他の仲間も校舎内を物珍しそうに見ている。
「様々な種族と文明の特徴勢揃い……本当にここは、始原の学園跡なんだな」
「でも~、ずいぶん派手にぶっ壊れてるよね~。建物だって、無事なの少しだけだし」
「……たしかに」
見ていたシルフィーはガレキを拾いながらつぶやいた。俺もそれに頷く。
目の前の建物はボロボロとは言え中は無事なので、直せばまだ使えそうだ。
けどほとんどの建物は中も破壊されており、ひどいものは塵も残っていなかった。
「い、遺跡として見ても、こ、構造物がす、少なすぎるんだな」
考え込む俺らに、意外にもヌッペが答えた。
ヌッペは辺りを見回しながら続ける。
「ほ、保健室やじ、実験室の跡は綺麗に残っているけれど、き、教室や体育館は地盤ごと消えてるんだな」
「じ、地盤ごとって……どうやって、ですか……?」
「こ、これは自然崩壊ではなくて、魔法爆発か何かで、ばばば、バラバラになったと思えるんだな」
リンツェの質問にもあっさり答えた。
ヌッペの観察眼にネコマが「くっわしー!」と目を輝かせている。
「つ、土とか、建物のことは、く、詳しくわかるんだな」
「なるほどな。……しかし、魔法爆発、な……」
壊れた校舎を見ながら、ふと思う。
(……魔法による爆発が原因だとしても、その割には大規模過ぎないか?)
始原の学園がどれほどの規模かは知らないが、巨人族なんかも通っているらしいから、結構な大きさのもののはず。
だけど建物を塵にまでさせるほど爆発だなんて、いったいどれだけ強力な威力なんだ?
「始原の鐘から溢れた、あのエネルギーくらいか……?」
それくらいじゃなきゃ、ここまで破壊できない気がする。
そう思って、思わずつぶやいた時だった。
「……あははっ。相変わらず君は鋭いねぇ、アユミ?」
『!?』
突如、今の空気に不自然な声が前方から響いてきた。
驚いてそこに目を向ければ、予想外の人物。
「ロア……!?」
「やあ。ひさしぶりだね」
現れたのは……交流戦以降姿を見せていなかったロアだった。
予想外過ぎて、全員が固まっている。
「ロア君、なんで……」
「ここにいるか? ……やだな。アガシオンから俺のこと聞いてるはずだよ?」
相変わらずとぼけた口調は変わらない。
……が、口にした言葉は、嫌でも反応してしまう。
「……ロア」
「何?」
「……おまえ。いったい、何なんだ」
アガシオンは言っていた。神の一人でノーム族の始祖と。
……つまり、彼はただのノームのはずがない。
意味がわかってるのか、クスクスと可笑しそうに笑っている。
「アガシオンから聞いての通りだよ。すべてのノーム族の始祖。最古の錬金術を持つ者。……つまりね? 俺は始原の時代に生まれた者。今の時代で言うなら、神様の一人なんだ」
「か、神やって!?」
「ノームの始祖……つまり、僕たちのご先祖様ってこと……?」
「ええええええ!!? こいつがフォルクスたちノームのご先祖様あああ!!!?」
カータロの叫びにフォルクスがつぶやいて、それにさらにジークが倍のシャウトをする。
それにロアは、何故か腹を抱えて笑い出す。
「アハハっ。正確には、俺はノームとは違う存在なんだけどね。ノームたちの魂を作っただけ」
「え? でも、ロア君はノームしか見えないの」
「そうだよ。アガシオンにばれるとまずいから、依代に入ってばれないようにしてるんだ。特別な依代だからね」
「……とにかく、おまえはただのノームじゃない。そういうことでいいんだな?」
「そういうこと♪」
ため息をつきながら俺が言えば、ロアは楽しげに言う。
本人のノリはともかく、ロアの正体に、俺たちは改めて驚くのだった。
「……では、ブロッサムのことも、ホントにあなたが……?」
ホッとしたところ、フリージアが恐る恐るたずねた。
それに再び、辺りが静かになる。
「……そうだよ。俺が君を――初代の力を持つ君を生み出した」
「……っ」
その言葉に、ブロッサムが息をのむ。
突き刺さる視線の中、ロアはブロッサムを目に写しながら続ける。
「初代から渡されていた魔力結晶を、“本物”のブロッサムと特別な錬金術で融合して君が生まれた」
「本物……“死産した方のブロッサム”のことか」
「なるほど。あれはこういうことでしたのね」
「で、では……ブロッサムの母君についていた、ノームのお医者様も……」
「うん。俺だよ」
ブロッサムが実の子じゃないことを知っていた俺とユリ、リンツェもそれぞれ納得した。
ロアはブロッサムの前に来ると、相変わらず読めない笑みで話しかける。
「魔力結晶の影響でね。君は彼にそっくりになっちゃったんだ。……君の肩に、花の形の痣があるよね?」
「……あ、あるけど……?」
「アレね。闇を払う、ウィンタースノーの聖なる力を受け継いだ契約印。……初代にも同じ位置に、同じ形の痣があるんだ」
「……!!」
バッ、と肩を押さえながら、ブロッサムは後ろに下がる。
子供の頃からの痣が、実はこんな意味があったなんて、な。
「頭に流れる記憶は、多分魔力結晶に眠っていた初代の記憶だろうね。記憶が入っていることって多いし」
「……では……本当に、ブロッサムは……」
何とも言えない顔でセルシアがロアに再確認する。
自分の先祖が、まさかこんなことになってるとは思ってもなかっただろうな。
「正真正銘、初代の力の受け継いだ者だよ」
「……そう、か……」
「ブロッサム……」
「……大丈夫。受け止めるって、決めたから」
不安に揺れながら、それでもブロッサムは小さく笑いながら頷いた。
それにホッとしながら、ロアに向き直る。
「ロア。用件はそれだけか?」
「いや? あともう一個」
「あんのかよ。さっさと言えや」
「うん。言うからちょっと待ってて」
イライラ気味に言うが、ロアは涼しい顔で気にせず。
そして先程の遺跡に向けて、何故か手招きした。
「……あっ! あの子!」
「おまえは……」
ロアの手招きにより、遺跡から姿を現した。
そいつを見て、シルフィーが喜びながら叫んだ。
「ライラちゃんだ~!」
「うん……」
現れたのは色違いのプリシアナ制服を着たノーム。闇の生徒会メンバー、ライラだった。
シルフィーは喜んでいるけど……俺は予想外だったので、再びロアに顔を向けた。
「おい、ロア。なんでおまえとこいつが一緒にいるんだ」
「ちょっとした諸事情だよ~。……で、用件その2なんだけど、ライラをアユミたちと一緒に、つまり仲間にしてほしいんだ」
「いいよ~!」
「却下!」
ロアの提案は、シルフィーと俺の即答により意見が分かれた。
「アユミちゃん、なんで~? いたら頼もしいよ~」
「何の理由も言わずに連れて行けるか! 理由を言え、理由を」
「理由ねぇ……」
問い詰めるが、にこにこ(いや、にやにやか?)としてる。
相変わらず考えが読めない奴だな……。
「……いずれライラは必要になるから、かな」
「必要? なんだよ。何かあるのか?」
「なんか、ちょースゲー力とかあるのか!?」
バロータの横でレオが目を輝かせてる。
そんな都合よく……いや、ロアならありえるか←
「まあ……そんなところ」
「…………」
どうやら今は教える気は無いらしいな。
……しかたないからいいけど。
「不利な状況にはさせないだろうな」
「大丈夫だよ。アユミたちと一緒に居れば、ね」
「…………。わかった。いいだろう」
「し、信用する気かよ!? いくらなんでも「あ゙?」あ、ごめんなさい……」
騒ぎだしたジークを横目と低い声で黙らせる。
ちょいちょい、とライラを手招きすれば、そいつは俺らの前に来る。
「じゃあ預かるが……テメーはどうするんだ?」
「俺? んー……とりあえず、ここを直してるよ。君たちにも必要でしょ?」
「たしかに……保健室や実験室を修復すれば、ここを拠点とすることができるかもしれませんね」
ロアの案にクラティウスが頷いた。
……たしかに、拠点は必要だよな。モーディアル学園攻略時に、よーく思い知ったよ。
「地上から必要な物資を運び込み、皆様の力を合わせれば、きっと可能です」
「よし。ではしばらくの間、みんなで始原の学園遺跡の修復じゃな!」
「そうですわね。……ですが、この闇の世界を全く知らずにいるのも危ないのではなくて?」
ユリの言葉に「たしかに」みたいな空気が生まれた。
そうだな。地上と違うんだし。何が起こるか予測不能だ。
「……よしアユミたちよ。そなたらに探索と偵察を頼もうぞ」
「俺らか。まあいいけど」
修復よりは楽しめそうだしな。
特に不満も無いので頷いておいた。
「うわ、オレも行きたいな~、それ!」
「修復には力仕事も必要や、しばらく我慢せな!」
よく言ったカータロ!
ジークはおとなしく待ってろ。
つーかアイナの傍にいるんじゃねぇ!!!←
「俺がほとんど直しちゃったからね。物資さえあればアユミたちが使える程度には、すぐに修復も済むと思うよ?」
「ありがとう。ここにいる全員が利用できるレベルまで修復が終わり次第……僕たちもアユミたちを追いかけよう!」
「アユミ、よろしゅう頼むでー!」
「任せとけって!」
作業に取り掛かり始めるカータロたちに片手を上げてから、俺もくるりと振り返った。
「じゃあ……行こうぜ」
「ああ」
「は~い。ライラちゃん、行こっ?」
「うん」
満場一致。三人も特に拒否は無い。
全員の意見が合った為、俺たちは未知なる闇の世界へと足を進めていった。
「アユミたちが最後でっせ!」
転移魔法で再びモーディアル学園・校長室に戻ってきた俺らプリシアナ組。
闇の世界の入口前にいる、キルシュたちドラッケン学園とカータロたちタカチホ義塾の二組が振り返る。
「いよいよ……闇の世界への突入だね。みんな! 準備はいいかい?」
セルシアの問い掛けに、俺たち全員が力強く頷いた。
「イェーイ! クライマックスだー!!」
「じゃあ、毎度お馴染み……で、先陣はアユミたちに切ってもらわなくっちゃね」
「またかよ」
ロクロの提案に、行く前からやる気が失せた←
頼むから――おまえらから先に行けェェェッ!!!
「……叫びたい。非常に」
「まあまあ、アユミちゃん。それらのストレスは、全部アガシオンに向けて発散させちゃおうよ。攻撃力とか上がると思うよ?」
「怒り任せか。やめろ、絶対」
シルフィーの案は、即ブロッサムがツッコミで却下した。
……けど……うん。悪くはないかも←
「まあ、いつも通りのペースで行きましょう? 緊張して足手まといになられる方が困りますもの」
「いや。やる気が殺る気になって暴れられるのが困るんだが……」
「ゆ、ユリ様。カエデ……あの、言うならもう少し婉曲に……」
「お姉ちゃん、早く早く!」
「リンツェはともかく、おまえらは……」
一瞬くらりと眩暈がしたが、まあマイペース(過ぎる)輩なので特に気にしない方向にした。
じゃないとこっちの身がもたない。
「よし。じゃあ……テメーら! 全員闇の世界にカチコミじゃああああッ!!!」
『おーーーーーーッ!!!』
「ヤクザとの闘争しに行くみたいな感じなんだよ!?」
全員の叫びとブロッサムのツッコミを受けながら、俺は真っ先に闇の世界の入口に飛び込んだ。
――――
「……っと!」
入口に飛び込み、闇の世界とやらに足を踏み入れた。
俺の後から、次々とみんながやってくる。
「着いたみたいだね~」
「ここが、闇の世界なの?」
「そうそう。私が偵察に来た時もここだったよ!」
フェアリー三人があちらこちら見渡しながら言い合う。
「ここが……」
アガシオンがいる闇の世界。
地下深くにあるせいか空は暗く、だけど空間系の魔法によるものなのか、昼間のように辺りはハッキリ見える。
何故か月もあって、それも光源となっているしな。
「ねぇねぇ、お姉ちゃん。後ろの建物は何かな?」
「あ?」
クイクイ、と袖を引っ張られ、アイナの指差す方向を見る。
「……遺跡?」
「……の割には、少し巨大過ぎませんこと?」
俺のつぶやきに、ユリが小首を傾げて返答する。
パルテノンみたいな外観な遺跡はボロボロで、中は辛うじて無事だが、見る陰なんてない。
「遺跡……でしょうか?」
「……いや。違う。これは、始原の学園の校舎……だと思う……」
「本当ですか? ブロッサム」
リンツェとフリージアの間で、片手で頭を押さえてるブロッサムが続ける。
「また記憶が流れてくるんだよ。この学校が綺麗な状態だった時の記憶なんだけど、これとよく似た建物が思い出したから、間違いないと思う」
今度はちゃんとした記憶らしいな。
今までと違ってブロッサムがハッキリと答えた。
「たしかに……あの廊下は、巨人族が入れるほど大きい。あの部屋には、空を飛ぶ種族が入れるようなドームが作られているし……」
「見て! あの壁には、タカチホで使われている字も書かれているの!」
セルシアやトウフッコも、次々と校舎の特徴を発見していった。
他の仲間も校舎内を物珍しそうに見ている。
「様々な種族と文明の特徴勢揃い……本当にここは、始原の学園跡なんだな」
「でも~、ずいぶん派手にぶっ壊れてるよね~。建物だって、無事なの少しだけだし」
「……たしかに」
見ていたシルフィーはガレキを拾いながらつぶやいた。俺もそれに頷く。
目の前の建物はボロボロとは言え中は無事なので、直せばまだ使えそうだ。
けどほとんどの建物は中も破壊されており、ひどいものは塵も残っていなかった。
「い、遺跡として見ても、こ、構造物がす、少なすぎるんだな」
考え込む俺らに、意外にもヌッペが答えた。
ヌッペは辺りを見回しながら続ける。
「ほ、保健室やじ、実験室の跡は綺麗に残っているけれど、き、教室や体育館は地盤ごと消えてるんだな」
「じ、地盤ごとって……どうやって、ですか……?」
「こ、これは自然崩壊ではなくて、魔法爆発か何かで、ばばば、バラバラになったと思えるんだな」
リンツェの質問にもあっさり答えた。
ヌッペの観察眼にネコマが「くっわしー!」と目を輝かせている。
「つ、土とか、建物のことは、く、詳しくわかるんだな」
「なるほどな。……しかし、魔法爆発、な……」
壊れた校舎を見ながら、ふと思う。
(……魔法による爆発が原因だとしても、その割には大規模過ぎないか?)
始原の学園がどれほどの規模かは知らないが、巨人族なんかも通っているらしいから、結構な大きさのもののはず。
だけど建物を塵にまでさせるほど爆発だなんて、いったいどれだけ強力な威力なんだ?
「始原の鐘から溢れた、あのエネルギーくらいか……?」
それくらいじゃなきゃ、ここまで破壊できない気がする。
そう思って、思わずつぶやいた時だった。
「……あははっ。相変わらず君は鋭いねぇ、アユミ?」
『!?』
突如、今の空気に不自然な声が前方から響いてきた。
驚いてそこに目を向ければ、予想外の人物。
「ロア……!?」
「やあ。ひさしぶりだね」
現れたのは……交流戦以降姿を見せていなかったロアだった。
予想外過ぎて、全員が固まっている。
「ロア君、なんで……」
「ここにいるか? ……やだな。アガシオンから俺のこと聞いてるはずだよ?」
相変わらずとぼけた口調は変わらない。
……が、口にした言葉は、嫌でも反応してしまう。
「……ロア」
「何?」
「……おまえ。いったい、何なんだ」
アガシオンは言っていた。神の一人でノーム族の始祖と。
……つまり、彼はただのノームのはずがない。
意味がわかってるのか、クスクスと可笑しそうに笑っている。
「アガシオンから聞いての通りだよ。すべてのノーム族の始祖。最古の錬金術を持つ者。……つまりね? 俺は始原の時代に生まれた者。今の時代で言うなら、神様の一人なんだ」
「か、神やって!?」
「ノームの始祖……つまり、僕たちのご先祖様ってこと……?」
「ええええええ!!? こいつがフォルクスたちノームのご先祖様あああ!!!?」
カータロの叫びにフォルクスがつぶやいて、それにさらにジークが倍のシャウトをする。
それにロアは、何故か腹を抱えて笑い出す。
「アハハっ。正確には、俺はノームとは違う存在なんだけどね。ノームたちの魂を作っただけ」
「え? でも、ロア君はノームしか見えないの」
「そうだよ。アガシオンにばれるとまずいから、依代に入ってばれないようにしてるんだ。特別な依代だからね」
「……とにかく、おまえはただのノームじゃない。そういうことでいいんだな?」
「そういうこと♪」
ため息をつきながら俺が言えば、ロアは楽しげに言う。
本人のノリはともかく、ロアの正体に、俺たちは改めて驚くのだった。
「……では、ブロッサムのことも、ホントにあなたが……?」
ホッとしたところ、フリージアが恐る恐るたずねた。
それに再び、辺りが静かになる。
「……そうだよ。俺が君を――初代の力を持つ君を生み出した」
「……っ」
その言葉に、ブロッサムが息をのむ。
突き刺さる視線の中、ロアはブロッサムを目に写しながら続ける。
「初代から渡されていた魔力結晶を、“本物”のブロッサムと特別な錬金術で融合して君が生まれた」
「本物……“死産した方のブロッサム”のことか」
「なるほど。あれはこういうことでしたのね」
「で、では……ブロッサムの母君についていた、ノームのお医者様も……」
「うん。俺だよ」
ブロッサムが実の子じゃないことを知っていた俺とユリ、リンツェもそれぞれ納得した。
ロアはブロッサムの前に来ると、相変わらず読めない笑みで話しかける。
「魔力結晶の影響でね。君は彼にそっくりになっちゃったんだ。……君の肩に、花の形の痣があるよね?」
「……あ、あるけど……?」
「アレね。闇を払う、ウィンタースノーの聖なる力を受け継いだ契約印。……初代にも同じ位置に、同じ形の痣があるんだ」
「……!!」
バッ、と肩を押さえながら、ブロッサムは後ろに下がる。
子供の頃からの痣が、実はこんな意味があったなんて、な。
「頭に流れる記憶は、多分魔力結晶に眠っていた初代の記憶だろうね。記憶が入っていることって多いし」
「……では……本当に、ブロッサムは……」
何とも言えない顔でセルシアがロアに再確認する。
自分の先祖が、まさかこんなことになってるとは思ってもなかっただろうな。
「正真正銘、初代の力の受け継いだ者だよ」
「……そう、か……」
「ブロッサム……」
「……大丈夫。受け止めるって、決めたから」
不安に揺れながら、それでもブロッサムは小さく笑いながら頷いた。
それにホッとしながら、ロアに向き直る。
「ロア。用件はそれだけか?」
「いや? あともう一個」
「あんのかよ。さっさと言えや」
「うん。言うからちょっと待ってて」
イライラ気味に言うが、ロアは涼しい顔で気にせず。
そして先程の遺跡に向けて、何故か手招きした。
「……あっ! あの子!」
「おまえは……」
ロアの手招きにより、遺跡から姿を現した。
そいつを見て、シルフィーが喜びながら叫んだ。
「ライラちゃんだ~!」
「うん……」
現れたのは色違いのプリシアナ制服を着たノーム。闇の生徒会メンバー、ライラだった。
シルフィーは喜んでいるけど……俺は予想外だったので、再びロアに顔を向けた。
「おい、ロア。なんでおまえとこいつが一緒にいるんだ」
「ちょっとした諸事情だよ~。……で、用件その2なんだけど、ライラをアユミたちと一緒に、つまり仲間にしてほしいんだ」
「いいよ~!」
「却下!」
ロアの提案は、シルフィーと俺の即答により意見が分かれた。
「アユミちゃん、なんで~? いたら頼もしいよ~」
「何の理由も言わずに連れて行けるか! 理由を言え、理由を」
「理由ねぇ……」
問い詰めるが、にこにこ(いや、にやにやか?)としてる。
相変わらず考えが読めない奴だな……。
「……いずれライラは必要になるから、かな」
「必要? なんだよ。何かあるのか?」
「なんか、ちょースゲー力とかあるのか!?」
バロータの横でレオが目を輝かせてる。
そんな都合よく……いや、ロアならありえるか←
「まあ……そんなところ」
「…………」
どうやら今は教える気は無いらしいな。
……しかたないからいいけど。
「不利な状況にはさせないだろうな」
「大丈夫だよ。アユミたちと一緒に居れば、ね」
「…………。わかった。いいだろう」
「し、信用する気かよ!? いくらなんでも「あ゙?」あ、ごめんなさい……」
騒ぎだしたジークを横目と低い声で黙らせる。
ちょいちょい、とライラを手招きすれば、そいつは俺らの前に来る。
「じゃあ預かるが……テメーはどうするんだ?」
「俺? んー……とりあえず、ここを直してるよ。君たちにも必要でしょ?」
「たしかに……保健室や実験室を修復すれば、ここを拠点とすることができるかもしれませんね」
ロアの案にクラティウスが頷いた。
……たしかに、拠点は必要だよな。モーディアル学園攻略時に、よーく思い知ったよ。
「地上から必要な物資を運び込み、皆様の力を合わせれば、きっと可能です」
「よし。ではしばらくの間、みんなで始原の学園遺跡の修復じゃな!」
「そうですわね。……ですが、この闇の世界を全く知らずにいるのも危ないのではなくて?」
ユリの言葉に「たしかに」みたいな空気が生まれた。
そうだな。地上と違うんだし。何が起こるか予測不能だ。
「……よしアユミたちよ。そなたらに探索と偵察を頼もうぞ」
「俺らか。まあいいけど」
修復よりは楽しめそうだしな。
特に不満も無いので頷いておいた。
「うわ、オレも行きたいな~、それ!」
「修復には力仕事も必要や、しばらく我慢せな!」
よく言ったカータロ!
ジークはおとなしく待ってろ。
つーかアイナの傍にいるんじゃねぇ!!!←
「俺がほとんど直しちゃったからね。物資さえあればアユミたちが使える程度には、すぐに修復も済むと思うよ?」
「ありがとう。ここにいる全員が利用できるレベルまで修復が終わり次第……僕たちもアユミたちを追いかけよう!」
「アユミ、よろしゅう頼むでー!」
「任せとけって!」
作業に取り掛かり始めるカータロたちに片手を上げてから、俺もくるりと振り返った。
「じゃあ……行こうぜ」
「ああ」
「は~い。ライラちゃん、行こっ?」
「うん」
満場一致。三人も特に拒否は無い。
全員の意見が合った為、俺たちは未知なる闇の世界へと足を進めていった。