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新たな旅立ち

 ――――

 校門の前に中庭にやってきた。
 べつに時間かける気も無いし。

「えっと……たしか……」

 木々を見渡して、そしてそのうちの一本に目を止める。

「……やっぱりいた」

 正確にはその木の下にいる、セレスティアの少年にだ。
 ゆっくり近づき、背後から声をかける。

「ブロッサム」

「……アユミ……」

 あいつ……ブロッサムがゆっくりと振り返った。
 来ることを予感してたのか、あまり驚いた表情をしていない。

「よく、ここがわかったな」

「まあな。だってさ、ここ」

 ブロッサムに言いながら、目の前の木に触れる。

「ブロッサムの好きな――桜の木なんだし」

 顔だけブロッサムに向けながら、笑みを浮かべた。
 ここはプリシアナ学院で、一番綺麗な桜が咲く、ブロッサムの好きな花。

「おまえ、ふらふらーっといなくなった時は補習か自室かここだからな。今回は上二つは無いだろうなって思って」

「そう……なのか? 気づかなかった……」

「無自覚か。ま、いいけど」

 ブロッサムの場合、補習の確率の方が高いからな← しかたないか。

「なあ、ブロッサム」

「……なんだよ」

「ブロッサム、大丈夫か?」

「は……?」。

「アガシオンに言われたこと」

「…………」

 言って……ブロッサムは無表情になった。
 いや、ただの無表情じゃなくて……凍てついた無表情?
 ……とにかくそれくらい怖い。

「……えっと。……ほら、あの時ほとんど時間がなかったし。だから、早急に答えを求めすぎたかなーって」

「…………」

「いや……べつに悪意とか無いんだよ? ただ、その……言われたことがまだ燻ってないかなー、とか。俺に何かできること無いかなー、とか……うん……」

「…………」

 隣のブロッサムから無言の圧力。思わず背を向け、だんだんと何を言えばいいかわからなくなる。
 こいつ……なんで時々こんなに怖くなるんだよ!!

「……だ、だから、な……」

「なあ」

「へ……あら?」

 短く返事をした。と思ったら、いきなり肩に重みが。
 ブロッサムが背後から寄り掛かり、頭を俺の肩に乗せていた。

「……何か、ある?」

「…………」

 ちょうど髪に隠れてしまい、ブロッサムの顔が見れない。
 とりあえず言えるのは……ブロッサムの突発的なこの行動は、心底俺に甘えたい、縋りたいって時に起こる行動だってことだ。

「やっぱり怖い? ……べつに戦うことは強制しないぞ。待っててもいいから」

「…………違う。戦うことは、怖くない」

 肩に額を付けながら、ようやく話し出してくれた。
 緊張しているのか、縋り付く手に力が入る。

「俺が、初代ウィンターコスモスの代用品って言われたことなんだけどさ……」

「うん」

「……アレは。俺が人間じゃなくて――化け物って意味なのかな」

「……は?」

 一瞬、頭の中が凍結した。
 ブロッサム……今、なんつった……?

「だってさ……俺、ロアに“作られた”って言われただろ。それ……人間じゃないってことになるじゃないか……」

「それは……」

「作られた俺は人間じゃないなら何なんだよ? 初代の人形? ……結局、化け物ってことだろ」

「ブロッサム……」

 言われたことに……正直絶句してしまった。
 抱えていたものがここまで深くなっていたなんて。

「……そんな顔するなよ。元々一人みたいなものだし。たいして変わらないさ……」

「なっ……」

「どうせセルシアと俺は違うんだ……みんな、俺じゃなくて、“ウィンターコスモス”の家名だけを見ているから」

「…………っ」

「だから「ブロッサム」……え」

 次々と自分を蔑む言葉に、俺の我慢が切れた。
 腕の中でくるりと振り返り、ブロッサムと真っ正面から向かい合う。

「どれだけ卑屈になればいいんだ。……誰がいつそんなこと言ったんだ?」

「違っ……ただ、俺は……そう思っただけで……!」

「だから? だからみんな自分を嫌ってるって? 気味悪がってるって? ……そんなの、おまえのただの思い込みだろ!」

「……っ」

 今度はブロッサムが黙る番だった。
 俺も言葉を続けて言う。

「そんなの気にする連中じゃないだろ? いたとしても俺が黙らせてやる。……だって」

 言って、ブロッサムの頬に触れる。
 不安げな瞳を正面から受け止めて、言い切った。

「今、俺の目の前にいるのは、初代でも人形でも、ましてや化け物でもない。……ブロッサムという存在だ」

「……!」

「ずっと俺たちを助けてくれて。俺らとピッタリの連携が取れて。俺らと馬鹿騒ぎを起こしたり巻き込まれたりして。……一緒に俺と学院回ったのは、他の誰でもないブロッサムだ」

 大きく丸く見開いた目と向き合う。
 届くと信じて。前を向けと願って。

「だから自分が化け物とか。そういうこと言うなよ。……仮にそうだったとしても、俺はブロッサムから離れない」

「…………っ」

「……おまえは十分頑張ってきたんだから。みんなと居たくないなら、待っててもいいんだ」

「……なんで」

 ぽつりと、ブロッサムが言葉と同時に涙を零した。

「なんで……なんで、おまえは毎回、そうなんだよ……! 俺の欲しい言葉ばっか……っ」

「ブロッサムのことは知ってるつもりだから、かな? そりゃ、月日は多くないけど、だからって短くもないだろ?」

「……バカじゃないか」

 痛いくらい身体を抱きしめられる。
 でも苦しくない。ブロッサムにやられたら、むしろ心地良いから。

「……悪かった。少し……いや、かなり不安だったんだ。やっぱり、自分のことだから……」

「うん。そうだよな。……少しはわかるよ」

 俺も……予言の子だってわかった時も同じだから。

「あ……予言の子だから」

「……そ。巻き込まれまくりな」

 予言の子。神とやらが勝手に決めた非常に迷惑な運命。
 そのせいで自分は他の人と違う存在だと。巻き込んではいけないんだと。
 ……一人なんだと、思ったことがあるから。

「一人じゃ無理でも、俺がいるから。俺は死ぬまで……死んでもブロッサムの仲間だから」

「……ああ。俺も……アユミの仲間でいる。予言の子じゃなく、アユミの……」

「……サンキュ」

 心の荷が降りた。
 互いに笑みを浮かべる。

(……大丈夫)

 俺らは一人じゃない。
 ずっと支え合える仲間だって思えあえるから。

「一緒に行こう、ブロッサム」

「……ああ! 行こう!」

 差し出した手を握ってくれる。
 俺も、掴んだこの手を決して離すまいと、強く握り返した。

 ――――

「……あ! 来た~!」

「もー! 遅いぞー、おまえらー!!」

「悪い悪い。ブロッサムがしつこくって……」

「おい! 俺一人の責任にする気か!?」

 ブーイングを言うシルフィーとレオに片手で詫び、背後ですぐブロッサムがツッコミを入れてきた。
 うん、いつも通りだ。

「まあまあ。もうすぐ闇の世界行きなんだしさ」

「だよなー。闇の世界へ突入かー。……いよいよラストダンジョンって感じだなぁ」

 俺の言葉に、非常に切替の早いレオが頷いた。
 それにチューリップがクスクスと笑う。

「会いたがってた魔王もいるみたいだし。レオの希望が叶ってよかったじゃない」

「いやー、まさか本当にこんなことになるとはねー。英雄学科を卒業して、適当に自称・英雄になるのかなあ、とか思ってたけど」

「自称って……」

 自分で言うのか。そしてよくわかってるじゃないか←

「うん! まさかこのボクが選ばれし戦士だったとは!」

「あら。意外に、レオも自分のことわかってたのね」

「まあねぇ。ほら、ボクってアホの子だけど、バカじゃないから」

「それ、たいして変わらくね?」

 ブロッサムが即座にツッコミを入れた。
 俺もそれに同意はする。一応レオにも知識はある……はず←

「次にみんなで帰る時は、すべてが終わった時ってワケか」

「必ず全員で、プリシアナ学院に戻ってきましょう」

「ああ、そうだな」

「当然だ。誰一人欠けたら意味がないんだからな」

 セルシア一同のセリフに大きく頷く。
 例え勝って生き延びても、守れなきゃ意味が無いんだから。

「……よし。準備はいいか?」

「当たり前だろ」

「もっちろん~♪」

 頷き返すブロッサムとシルフィー、セルシアたち。

「じゃ……行こうぜ? 闇の世界になっ!」

 緊張が解けるよう、わざと軽く言った。
 それにみんなも乗ってくれる。
 ……今度こそ戦いに、終止符を討つ!
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