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隠されたモノ

 ――――

「……う……つぅ……っ」

 激しい衝撃に意識が浮上してきた。
 それと反比例するように、何かが浮上してくる轟音が遠くなっていく。

「……ぐっ……。いったい、何が……?」

 遠くなりそうな意識を必死に止め、辺りを確認する。

「……!!」

 黒い光の柱が消えている。
 そして柱のあった場所に、学園の地底から空まで見渡せる巨大な穴が開かれていた。

「これ……って……」

「くっ……う……」

「……! セルシアッ!!」

 背後からセルシアの声が聞こえた。
 振り返れば、上半身を何とか起こしているセルシアの姿が映る。

「セルシア、大丈夫か?」

「何とか……それよりっ、流星雨はっ……!? 始原の学園は!?」

 俺が駆け寄ると、セルシアは傷を押さえながら辺りを見回した。
 この様子なら、セルシアは大丈夫っぽいな。

「……うっ……つつ……」

「は~……う~……あ~……」

 ブロッサム、シルフィー。他皆さんも身体を起こす。
 他のみんなもとりあえず無事らしいな。

「見よ……なんじゃあれは!?」

 無事だったことにひそかに安心していると、キルシュが空を見上げて叫んだ。
 全員その方向へ顔を向ける。

「お空に光の壁ができて……黒い流れ星が弾かれて行くの!」

 トウフッコが目を丸くする。
 その言葉通り、流星雨が壁に遮られ、消えていく光景が上空で広がっていた。

「流星雨を……? 結界、みたいなものかな?」

「これは……まさか!」

 アイナのつぶやきに重なるように、アガシオンが苛立たしげに舌打ちした。

「おのれ! ゲシュタルト、セントウレア、サルタ……! 小癪な真似を……!!」

「え……? まさか、校長たちの仕業か、コレは!?」

「校長先生たちが、世界を守ったのかっ!?」

 三校長の名が出たことにカエデとジークが食いつく。
 それを気にも止めず、アガシオンの独白は続く。

「この世のすべての教え子を破滅から守る、極大校長魔法……。千年以上前に失われたと聞いていたが……」

「極大校長魔法……だって……!?」

 聞き慣れない単語にブロッサムが驚いた。
 俺らの視線がブロッサムに集まる。

「それって……自らを犠牲にしなきゃ使えない、神話級の儀式魔法じゃ……」

「自分を犠牲に……やてっ!?」

 カータロが目を見開いた。他のみんなも驚いている。

「流星雨は校長たちの使った魔力の天蓋に受け止められしまい、さらにエネルギーを阻まれた始原の学園も浮上できなかった……」

「――ブロッサム。おまえ……なんで……」

 なんでわかるんだ。
 言いかけて、だけど言葉が出なかった。

「――あれ……? なんで……なんで俺、こんなこと……」

 ブロッサムも、自分自身に戸惑っていたから。

「……やはり。おまえはまだ、わからないようだな」

 ブロッサムのつぶやきに答えたのはアガシオンだった。
 その顔は、どこか哀れみも浮かんでいる。

「おまえは気づいていないのか? 突如溢れた光の力を。我が闇をことごとく掻き消した、その清浄なる力を」

「……俺の、力……」

「――始原の鐘を見た時、懐かしい想いが溢れただろう」

「……!!」

「……何が言いたいんだ。アガシオン」

 知らないことに対し、恐怖感を抱き出しているブロッサムを庇うように前に出た。
 アガシオンは俺を気にせず、ブロッサムだけを目に映す。

「我が力を封印した、忌ま忌ましい光の英雄の複製。神の一人にしてノーム族の始祖たる者に“作られし者”」

「作、られ……た……?」

「……どういう、意味だ……」

 アガシオンの言葉の意味が理解できない。……いや。理解、したくなかった。
 だけどアガシオンは、俺らの予想を遥かに超えた真実を口にした。

「おまえはロアディオス=アルケミアスによって、初代ウィンターコスモスの魔力結晶より作られし人形。太古の錬金術で生まれし人工生命体ホムンクルス。……初代の複製品だ」

 ――瞬間、時間が止まった気がした。
 俺も。ブロッサムも。周りのみんなも絶句している。

「ブロッサムが、初代ウィンターコスモスの……魔力結晶……!?」

「だから……ネメシアの闇を消せた……のですか……?」

「……というか。ロアディオスって……あのロアかいな!?」

 セルシアとフリージア、カータロも、アガシオンの言葉の中にいた人物に驚いてる。
 もちろん俺も……。心当たりがあるから。

「……う、嘘だろ……? 俺が……初代ウィンターコスモスの、魔力結晶って……」

「おまえは我が力を封印したアイツとよく似ている……いや、違う。――同じ顔だ!!」

「……!!」

 その言葉に打ちのめされる。
 ……俺も否定できなかった。ブロッサムの家で、初代ウィンターコスモスの絵画を見たから。
 同じだと、思ってたから。

「計画は狂ってしまったが、問題ない。もはや校長どもに力はなく、人形の方も恐れるほどでもない。……我を阻む者はいない!」

 ゆっくりとアガシオンは柱があった場所に歩いて行く。
 大地には巨大な穴が開いていた。

「長く始原の学園が眠っていた闇の世界――大魔王アゴラモート様が封印された大地。その入口は今開いた」

「いりぐ、ち……?」

 あの先が……闇の世界……?
 魔王が封印されている世界だと……。

「あの穴……光の柱がほとばしった場所が、闇の世界の入り口!?」

「止め……なきゃ……ふにゃにゃっ……。ダメ……。さっきの衝撃で、身体が……動かないン……」

 フォルクス、ネコマ。他の皆もダメージが大きいらしい。うまく身体が動かないらしい。
 その間にアガシオンは黒い魔力を操り、始原の鐘を手元に引き寄せた。

「この始原の鐘から力を引き出して、我自身が闇の世界の封印を一つ一つ解き、アゴラモート様を直接目覚めさせよう」

「直接!?」

「復活したアゴラモート様は、悪に染めた始原の学園をこの世界に浮上して下さるだろう。その時こそ、この世界は破滅へと導かれるのだ!」

「あ…………ああ……っ」

 ブロッサムの悲痛なつぶやきが後ろから聞こえてきた。
 アガシオンが闇の世界の入口で振り返る。

「所詮は代用品……ここでおとなしく待っているんだな。――フフ……ハハハハハハ!!!」

「…………っ」

 最後にブロッサムに視線を向けてから。
 そう言ってアガシオンは闇の世界の入り口に飛び込んだ。

「ブロッサム……その……」

「…………俺は……」

 ぽつりとつぶやくブロッサム。
 前に回って耳を傾ける。

「俺は……人間じゃない、のか? 初代ウィンターコスモスの複製って……」

「……それは……」

 ……まずい。どう言おうか。
 たしかに……言われたことは、中々受け止めきれないものだからな。

「……アガシオンの言葉通り、初代ウィンターコスモスとおまえは同じ存在、だと思う。……実際俺も繋がりがあると思ってたし」

「…………」

「……けど」

 震えるブロッサムの手を握る。
 他の誰でもない、ブロッサムの手を、な。

「例えおまえが何だろうと、俺はブロッサムを信じる。だって、俺をずっと助けてきたのは――ブロッサムなんだから」

「…………」

 俺の言葉を聞いて……完全に黙り込んだ。
 ……言い方、間違えたか?

「うにゅにゅ……っ。校長たちを失い、ブロッサムは再起不能。さらにアガシオンめは闇の世界に……!」

「モタモタしてる場合じゃないよ! 追いかけよう!」

「なんじゃと!?」

 ダメージ受けたにも関わらず、レオが立ち上がりながら叫んだ。
 それに諦めかけてたキルシュが驚く。
 ……つーか勝手にブロッサムを再起不能にすんなや。

「だって! ボクらが止めなきゃ、誰がアガシオンを止めるんだ!?」

「無茶言いよるなあ……。でも、わいも今回ばかりはレオに賛成や」

 堂々と言い切ったレオに、カータロがため息をつきながら賛成した。
 そして諦めムード漂っていた空間に、次々とみんなが立ち上がっていく。

「そうだ。兄様がアガシオンの力から世界を守って下さっているなら……僕たちの使命は、奴を打ち倒すこと」

 セルシアも立ち上がり、キルシュと向き合う。

「――僕たちが、本当にアガシオンを倒す時が来たんだ。キルシュトルテさん」

「……!」

 その言葉に、キルシュの目に再び希望が宿り出した。

「そうじゃな。我が王家が果たすべき使命……」

「そして、我が先祖が果たせなかった使命」

 英雄の末裔の二人が立ち上がった。
 そして視線は俺に集まる。

「我らだけでは無理だったかもしれぬが、今や我らにはアユミたちがおる」

「アユミたちを先頭に、ドーンともう一回ぶつかってやれば、きっとアガシオンをぶちのめせるで!」

「……やっぱり俺がやるのかよ」

 おまえら……頼むから人を当てにするの、やめてくんない?
 たしかに俺しか倒せないだろうけどさ……俺を先発隊に入れるなや!!←

「……言っとくが俺はブロッサムを守るのが最優先事項だからな。次に仲間。世界は三番目だ」

「え? アユミは世界が滅んでもいいの!?」

「どうでもいいわ。世界など。元々英雄も勇者も嫌いだし」

「「ええええええ!!?」」

「言い切ったな、おまえ……」

 即答する俺に、レオとジークが絶叫。バロータが何とも言えない顔をする。
 みんなもだけどな←

「シルフィーと、ブロッサム。そして皆が居てくれたから、俺は勝てたんだ。俺一人じゃ何もできない」

「……アユミ……」

「ブロッサムを守る。それが最優先だ。言っとくがブロッサムが死んだら、魔王を滅ぼした後に俺も死ぬぞ」

「おいおいアユミ……んな冗談は……」

「冗談じゃない」

 苦笑いを浮かべる全員に、ドスのある低い声で返す。

「ブロッサムがいない世界ならいらない。誰も守れない、誰かが欠けた結末なら、俺はいらない」

「アユミ……」

「それならやるべきことをやった後、俺も消える。……それくらいの覚悟で挑んで戦ってやる」

 俺の気迫がすごかったのか、全員が何も言えなかった。
 当然だ。……俺は本気だから。

「そういう訳で、だ。死なれたくなかったら全力でブロッサムを守れ。以上」

「ブロッサムが絡むと、異様に雰囲気変わりますわね、あなた」

 睨みも気にせずにこにこと笑ってるユリは、首だけブロッサムに振り向く。

「よかったですわね。心の底から信じていただける方がいまして」

「……あ……う……」

「……あなたは、これでも信じられないと?」

 ユリの問いに、気まずそうにブロッサムが俺に視線を向けた。

「お……俺は……」

「…………」

「……やっぱり、正直受け止めきれていない。けど……でも」

 まだ迷いが見れる。
 それでも表情がさっきよりはマシだった。

「アユミが“俺”を信じてくれるなら……まだ、頑張ってもいい、かな……」

「……そうか」

 ……ホントはきっと。まだ迷ってるし、受け止めきれないのだろう。ただの空元気なのはわかってる。
 でも、今は何も言わない。今言っても、多分心の奥底まで届かないだろう。

「……んじゃ。もう傷つかないよう、今度こそ完膚なきまでにアガシオンは叩き潰してやる。おまえが生きるなら、俺も死ななくていいし」

「そうだな! それで大魔王の復活阻止でハッピーエンド、ってわけだな! くーっ! 勇者っぽいぜ!」

「英雄っぽい!」

「いや、コレ完全に俺が仕留める形だから!」

 人の話聞いてたぁぁぁ!?
 他力本願型の倒し方だからね、コレ!

「みんな。ここからが本当の戦いになるみたいだ。闇の世界を、僕たち三学園の力で踏破する!」

「うん! えいえいお~! って感じだね~」

 全員を見回して言うセルシアに、シルフィーも拳を上げて頷いた。

「でも、準備を怠っちゃいけないの」

「は、はい。アガシオンの部屋までは、確保しましたからね……」

「これからは魔法で行き来もできるもんねっ」

 ここでトウフッコがセーブをかけた。
 それにリンツェ、アイナが賛同する。

「そうですね。パーティごとに一度学園に戻って、補給を済ませるのもよろしいかと思います。……それに……」

 フリージアも言いかけ、ちらっと気まずそうにセルシアに目を向ける。

「ああ……。兄様のことも……気になる」

 気づいたらしい。セルシアが小さく頷く。
 ……そうだった。校長は今どうなってるんだろうか……。
 セルシアなんか特に気になるだろうな。セントウレアは兄なんだし。

「で、で、でも、闇の世界に行って、もし戻ってこれなかったら、ど、どうするんだな?」

「ああ。たしかに帰れない可能性もありますわね。未知の世界ですもの♪」

 ヌッペの言葉に笑って言ってのけたユリ。
 いや、それ笑い事じゃないよね!? 困るんだけど!!

「あ、それなら大丈夫っぽいよ」

 ここでフォルクスが穴の方を指さした。
 つられて俺たちも穴の方へ顔を向く。

「今、チューリップさんが穴の中に入って、戻ってきたから」

 その言葉通り、穴の中に入ったと思われるチューリップがこちらに戻ってきた。
 っていつの間に!!?

「うおおおい!! この状況で偵察かよ! プリシアナの生徒は自由人か!?」

「いや~、ついつい、どんなヒミツが眠ってるのか気になって……」

「いや、つい。じゃないだろ! つい、じゃ!」

 ジークのツッコミにカエデも頷く。
 ホントいつの間に行ってたの? そして帰って来れなかったらどうする気だったの?←

「だって私飛べるし。どうせみんな後から来るだろうから、大丈夫かなーって」

「いや、そういう問題じゃなくって」

「でも安心して! ちゃんと双方向に使える魔法のゲートになってるみたいだよ!」

「あ、それはよかった……って人の話聞いてる!!?」

 頼むから人の話聞いて!!
 なんでどいつもこいつも戦闘力よりスルースキルの方が高いの!?←

「ほほほ。あっぱれじゃ」

「ええ♪ でかしましたわね♪」

 キルシュとユリはにこにこと笑ってる。
 ……もう無理なんだけど。やっぱりツッコミはブロッサムじゃなきゃ無理!!←

「では、学園ごとに順番で一度学校へ戻り、全員の準備が整ったら、闇の世界へ突入じゃな!」

「……そうするか。おい、転移魔法の準備、よろしく」

 魔術系学科の連中に言ってから、気づかれないようため息をつく。
 ホントころころ空気変わるな……。
 魔法でそれぞれの学校へと帰還する中、こっそりそう思う俺だった。
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