隠されたモノ
――――
「……う……つぅ……っ」
激しい衝撃に意識が浮上してきた。
それと反比例するように、何かが浮上してくる轟音が遠くなっていく。
「……ぐっ……。いったい、何が……?」
遠くなりそうな意識を必死に止め、辺りを確認する。
「……!!」
黒い光の柱が消えている。
そして柱のあった場所に、学園の地底から空まで見渡せる巨大な穴が開かれていた。
「これ……って……」
「くっ……う……」
「……! セルシアッ!!」
背後からセルシアの声が聞こえた。
振り返れば、上半身を何とか起こしているセルシアの姿が映る。
「セルシア、大丈夫か?」
「何とか……それよりっ、流星雨はっ……!? 始原の学園は!?」
俺が駆け寄ると、セルシアは傷を押さえながら辺りを見回した。
この様子なら、セルシアは大丈夫っぽいな。
「……うっ……つつ……」
「は~……う~……あ~……」
ブロッサム、シルフィー。他皆さんも身体を起こす。
他のみんなもとりあえず無事らしいな。
「見よ……なんじゃあれは!?」
無事だったことにひそかに安心していると、キルシュが空を見上げて叫んだ。
全員その方向へ顔を向ける。
「お空に光の壁ができて……黒い流れ星が弾かれて行くの!」
トウフッコが目を丸くする。
その言葉通り、流星雨が壁に遮られ、消えていく光景が上空で広がっていた。
「流星雨を……? 結界、みたいなものかな?」
「これは……まさか!」
アイナのつぶやきに重なるように、アガシオンが苛立たしげに舌打ちした。
「おのれ! ゲシュタルト、セントウレア、サルタ……! 小癪な真似を……!!」
「え……? まさか、校長たちの仕業か、コレは!?」
「校長先生たちが、世界を守ったのかっ!?」
三校長の名が出たことにカエデとジークが食いつく。
それを気にも止めず、アガシオンの独白は続く。
「この世のすべての教え子を破滅から守る、極大校長魔法……。千年以上前に失われたと聞いていたが……」
「極大校長魔法……だって……!?」
聞き慣れない単語にブロッサムが驚いた。
俺らの視線がブロッサムに集まる。
「それって……自らを犠牲にしなきゃ使えない、神話級の儀式魔法じゃ……」
「自分を犠牲に……やてっ!?」
カータロが目を見開いた。他のみんなも驚いている。
「流星雨は校長たちの使った魔力の天蓋に受け止められしまい、さらにエネルギーを阻まれた始原の学園も浮上できなかった……」
「――ブロッサム。おまえ……なんで……」
なんでわかるんだ。
言いかけて、だけど言葉が出なかった。
「――あれ……? なんで……なんで俺、こんなこと……」
ブロッサムも、自分自身に戸惑っていたから。
「……やはり。おまえはまだ、わからないようだな」
ブロッサムのつぶやきに答えたのはアガシオンだった。
その顔は、どこか哀れみも浮かんでいる。
「おまえは気づいていないのか? 突如溢れた光の力を。我が闇をことごとく掻き消した、その清浄なる力を」
「……俺の、力……」
「――始原の鐘を見た時、懐かしい想いが溢れただろう」
「……!!」
「……何が言いたいんだ。アガシオン」
知らないことに対し、恐怖感を抱き出しているブロッサムを庇うように前に出た。
アガシオンは俺を気にせず、ブロッサムだけを目に映す。
「我が力を封印した、忌ま忌ましい光の英雄の複製。神の一人にしてノーム族の始祖たる者に“作られし者”」
「作、られ……た……?」
「……どういう、意味だ……」
アガシオンの言葉の意味が理解できない。……いや。理解、したくなかった。
だけどアガシオンは、俺らの予想を遥かに超えた真実を口にした。
「おまえはロアディオス=アルケミアスによって、初代ウィンターコスモスの魔力結晶より作られし人形。太古の錬金術で生まれし人工生命体 。……初代の複製品だ」
――瞬間、時間が止まった気がした。
俺も。ブロッサムも。周りのみんなも絶句している。
「ブロッサムが、初代ウィンターコスモスの……魔力結晶……!?」
「だから……ネメシアの闇を消せた……のですか……?」
「……というか。ロアディオスって……あのロアかいな!?」
セルシアとフリージア、カータロも、アガシオンの言葉の中にいた人物に驚いてる。
もちろん俺も……。心当たりがあるから。
「……う、嘘だろ……? 俺が……初代ウィンターコスモスの、魔力結晶って……」
「おまえは我が力を封印したアイツとよく似ている……いや、違う。――同じ顔だ!!」
「……!!」
その言葉に打ちのめされる。
……俺も否定できなかった。ブロッサムの家で、初代ウィンターコスモスの絵画を見たから。
同じだと、思ってたから。
「計画は狂ってしまったが、問題ない。もはや校長どもに力はなく、人形の方も恐れるほどでもない。……我を阻む者はいない!」
ゆっくりとアガシオンは柱があった場所に歩いて行く。
大地には巨大な穴が開いていた。
「長く始原の学園が眠っていた闇の世界――大魔王アゴラモート様が封印された大地。その入口は今開いた」
「いりぐ、ち……?」
あの先が……闇の世界……?
魔王が封印されている世界だと……。
「あの穴……光の柱がほとばしった場所が、闇の世界の入り口!?」
「止め……なきゃ……ふにゃにゃっ……。ダメ……。さっきの衝撃で、身体が……動かないン……」
フォルクス、ネコマ。他の皆もダメージが大きいらしい。うまく身体が動かないらしい。
その間にアガシオンは黒い魔力を操り、始原の鐘を手元に引き寄せた。
「この始原の鐘から力を引き出して、我自身が闇の世界の封印を一つ一つ解き、アゴラモート様を直接目覚めさせよう」
「直接!?」
「復活したアゴラモート様は、悪に染めた始原の学園をこの世界に浮上して下さるだろう。その時こそ、この世界は破滅へと導かれるのだ!」
「あ…………ああ……っ」
ブロッサムの悲痛なつぶやきが後ろから聞こえてきた。
アガシオンが闇の世界の入口で振り返る。
「所詮は代用品……ここでおとなしく待っているんだな。――フフ……ハハハハハハ!!!」
「…………っ」
最後にブロッサムに視線を向けてから。
そう言ってアガシオンは闇の世界の入り口に飛び込んだ。
「ブロッサム……その……」
「…………俺は……」
ぽつりとつぶやくブロッサム。
前に回って耳を傾ける。
「俺は……人間じゃない、のか? 初代ウィンターコスモスの複製って……」
「……それは……」
……まずい。どう言おうか。
たしかに……言われたことは、中々受け止めきれないものだからな。
「……アガシオンの言葉通り、初代ウィンターコスモスとおまえは同じ存在、だと思う。……実際俺も繋がりがあると思ってたし」
「…………」
「……けど」
震えるブロッサムの手を握る。
他の誰でもない、ブロッサムの手を、な。
「例えおまえが何だろうと、俺はブロッサムを信じる。だって、俺をずっと助けてきたのは――ブロッサムなんだから」
「…………」
俺の言葉を聞いて……完全に黙り込んだ。
……言い方、間違えたか?
「うにゅにゅ……っ。校長たちを失い、ブロッサムは再起不能。さらにアガシオンめは闇の世界に……!」
「モタモタしてる場合じゃないよ! 追いかけよう!」
「なんじゃと!?」
ダメージ受けたにも関わらず、レオが立ち上がりながら叫んだ。
それに諦めかけてたキルシュが驚く。
……つーか勝手にブロッサムを再起不能にすんなや。
「だって! ボクらが止めなきゃ、誰がアガシオンを止めるんだ!?」
「無茶言いよるなあ……。でも、わいも今回ばかりはレオに賛成や」
堂々と言い切ったレオに、カータロがため息をつきながら賛成した。
そして諦めムード漂っていた空間に、次々とみんなが立ち上がっていく。
「そうだ。兄様がアガシオンの力から世界を守って下さっているなら……僕たちの使命は、奴を打ち倒すこと」
セルシアも立ち上がり、キルシュと向き合う。
「――僕たちが、本当にアガシオンを倒す時が来たんだ。キルシュトルテさん」
「……!」
その言葉に、キルシュの目に再び希望が宿り出した。
「そうじゃな。我が王家が果たすべき使命……」
「そして、我が先祖が果たせなかった使命」
英雄の末裔の二人が立ち上がった。
そして視線は俺に集まる。
「我らだけでは無理だったかもしれぬが、今や我らにはアユミたちがおる」
「アユミたちを先頭に、ドーンともう一回ぶつかってやれば、きっとアガシオンをぶちのめせるで!」
「……やっぱり俺がやるのかよ」
おまえら……頼むから人を当てにするの、やめてくんない?
たしかに俺しか倒せないだろうけどさ……俺を先発隊に入れるなや!!←
「……言っとくが俺はブロッサムを守るのが最優先事項だからな。次に仲間。世界は三番目だ」
「え? アユミは世界が滅んでもいいの!?」
「どうでもいいわ。世界など。元々英雄も勇者も嫌いだし」
「「ええええええ!!?」」
「言い切ったな、おまえ……」
即答する俺に、レオとジークが絶叫。バロータが何とも言えない顔をする。
みんなもだけどな←
「シルフィーと、ブロッサム。そして皆が居てくれたから、俺は勝てたんだ。俺一人じゃ何もできない」
「……アユミ……」
「ブロッサムを守る。それが最優先だ。言っとくがブロッサムが死んだら、魔王を滅ぼした後に俺も死ぬぞ」
「おいおいアユミ……んな冗談は……」
「冗談じゃない」
苦笑いを浮かべる全員に、ドスのある低い声で返す。
「ブロッサムがいない世界ならいらない。誰も守れない、誰かが欠けた結末なら、俺はいらない」
「アユミ……」
「それならやるべきことをやった後、俺も消える。……それくらいの覚悟で挑んで戦ってやる」
俺の気迫がすごかったのか、全員が何も言えなかった。
当然だ。……俺は本気だから。
「そういう訳で、だ。死なれたくなかったら全力でブロッサムを守れ。以上」
「ブロッサムが絡むと、異様に雰囲気変わりますわね、あなた」
睨みも気にせずにこにこと笑ってるユリは、首だけブロッサムに振り向く。
「よかったですわね。心の底から信じていただける方がいまして」
「……あ……う……」
「……あなたは、これでも信じられないと?」
ユリの問いに、気まずそうにブロッサムが俺に視線を向けた。
「お……俺は……」
「…………」
「……やっぱり、正直受け止めきれていない。けど……でも」
まだ迷いが見れる。
それでも表情がさっきよりはマシだった。
「アユミが“俺”を信じてくれるなら……まだ、頑張ってもいい、かな……」
「……そうか」
……ホントはきっと。まだ迷ってるし、受け止めきれないのだろう。ただの空元気なのはわかってる。
でも、今は何も言わない。今言っても、多分心の奥底まで届かないだろう。
「……んじゃ。もう傷つかないよう、今度こそ完膚なきまでにアガシオンは叩き潰してやる。おまえが生きるなら、俺も死ななくていいし」
「そうだな! それで大魔王の復活阻止でハッピーエンド、ってわけだな! くーっ! 勇者っぽいぜ!」
「英雄っぽい!」
「いや、コレ完全に俺が仕留める形だから!」
人の話聞いてたぁぁぁ!?
他力本願型の倒し方だからね、コレ!
「みんな。ここからが本当の戦いになるみたいだ。闇の世界を、僕たち三学園の力で踏破する!」
「うん! えいえいお~! って感じだね~」
全員を見回して言うセルシアに、シルフィーも拳を上げて頷いた。
「でも、準備を怠っちゃいけないの」
「は、はい。アガシオンの部屋までは、確保しましたからね……」
「これからは魔法で行き来もできるもんねっ」
ここでトウフッコがセーブをかけた。
それにリンツェ、アイナが賛同する。
「そうですね。パーティごとに一度学園に戻って、補給を済ませるのもよろしいかと思います。……それに……」
フリージアも言いかけ、ちらっと気まずそうにセルシアに目を向ける。
「ああ……。兄様のことも……気になる」
気づいたらしい。セルシアが小さく頷く。
……そうだった。校長は今どうなってるんだろうか……。
セルシアなんか特に気になるだろうな。セントウレアは兄なんだし。
「で、で、でも、闇の世界に行って、もし戻ってこれなかったら、ど、どうするんだな?」
「ああ。たしかに帰れない可能性もありますわね。未知の世界ですもの♪」
ヌッペの言葉に笑って言ってのけたユリ。
いや、それ笑い事じゃないよね!? 困るんだけど!!
「あ、それなら大丈夫っぽいよ」
ここでフォルクスが穴の方を指さした。
つられて俺たちも穴の方へ顔を向く。
「今、チューリップさんが穴の中に入って、戻ってきたから」
その言葉通り、穴の中に入ったと思われるチューリップがこちらに戻ってきた。
っていつの間に!!?
「うおおおい!! この状況で偵察かよ! プリシアナの生徒は自由人か!?」
「いや~、ついつい、どんなヒミツが眠ってるのか気になって……」
「いや、つい。じゃないだろ! つい、じゃ!」
ジークのツッコミにカエデも頷く。
ホントいつの間に行ってたの? そして帰って来れなかったらどうする気だったの?←
「だって私飛べるし。どうせみんな後から来るだろうから、大丈夫かなーって」
「いや、そういう問題じゃなくって」
「でも安心して! ちゃんと双方向に使える魔法のゲートになってるみたいだよ!」
「あ、それはよかった……って人の話聞いてる!!?」
頼むから人の話聞いて!!
なんでどいつもこいつも戦闘力よりスルースキルの方が高いの!?←
「ほほほ。あっぱれじゃ」
「ええ♪ でかしましたわね♪」
キルシュとユリはにこにこと笑ってる。
……もう無理なんだけど。やっぱりツッコミはブロッサムじゃなきゃ無理!!←
「では、学園ごとに順番で一度学校へ戻り、全員の準備が整ったら、闇の世界へ突入じゃな!」
「……そうするか。おい、転移魔法の準備、よろしく」
魔術系学科の連中に言ってから、気づかれないようため息をつく。
ホントころころ空気変わるな……。
魔法でそれぞれの学校へと帰還する中、こっそりそう思う俺だった。
「……う……つぅ……っ」
激しい衝撃に意識が浮上してきた。
それと反比例するように、何かが浮上してくる轟音が遠くなっていく。
「……ぐっ……。いったい、何が……?」
遠くなりそうな意識を必死に止め、辺りを確認する。
「……!!」
黒い光の柱が消えている。
そして柱のあった場所に、学園の地底から空まで見渡せる巨大な穴が開かれていた。
「これ……って……」
「くっ……う……」
「……! セルシアッ!!」
背後からセルシアの声が聞こえた。
振り返れば、上半身を何とか起こしているセルシアの姿が映る。
「セルシア、大丈夫か?」
「何とか……それよりっ、流星雨はっ……!? 始原の学園は!?」
俺が駆け寄ると、セルシアは傷を押さえながら辺りを見回した。
この様子なら、セルシアは大丈夫っぽいな。
「……うっ……つつ……」
「は~……う~……あ~……」
ブロッサム、シルフィー。他皆さんも身体を起こす。
他のみんなもとりあえず無事らしいな。
「見よ……なんじゃあれは!?」
無事だったことにひそかに安心していると、キルシュが空を見上げて叫んだ。
全員その方向へ顔を向ける。
「お空に光の壁ができて……黒い流れ星が弾かれて行くの!」
トウフッコが目を丸くする。
その言葉通り、流星雨が壁に遮られ、消えていく光景が上空で広がっていた。
「流星雨を……? 結界、みたいなものかな?」
「これは……まさか!」
アイナのつぶやきに重なるように、アガシオンが苛立たしげに舌打ちした。
「おのれ! ゲシュタルト、セントウレア、サルタ……! 小癪な真似を……!!」
「え……? まさか、校長たちの仕業か、コレは!?」
「校長先生たちが、世界を守ったのかっ!?」
三校長の名が出たことにカエデとジークが食いつく。
それを気にも止めず、アガシオンの独白は続く。
「この世のすべての教え子を破滅から守る、極大校長魔法……。千年以上前に失われたと聞いていたが……」
「極大校長魔法……だって……!?」
聞き慣れない単語にブロッサムが驚いた。
俺らの視線がブロッサムに集まる。
「それって……自らを犠牲にしなきゃ使えない、神話級の儀式魔法じゃ……」
「自分を犠牲に……やてっ!?」
カータロが目を見開いた。他のみんなも驚いている。
「流星雨は校長たちの使った魔力の天蓋に受け止められしまい、さらにエネルギーを阻まれた始原の学園も浮上できなかった……」
「――ブロッサム。おまえ……なんで……」
なんでわかるんだ。
言いかけて、だけど言葉が出なかった。
「――あれ……? なんで……なんで俺、こんなこと……」
ブロッサムも、自分自身に戸惑っていたから。
「……やはり。おまえはまだ、わからないようだな」
ブロッサムのつぶやきに答えたのはアガシオンだった。
その顔は、どこか哀れみも浮かんでいる。
「おまえは気づいていないのか? 突如溢れた光の力を。我が闇をことごとく掻き消した、その清浄なる力を」
「……俺の、力……」
「――始原の鐘を見た時、懐かしい想いが溢れただろう」
「……!!」
「……何が言いたいんだ。アガシオン」
知らないことに対し、恐怖感を抱き出しているブロッサムを庇うように前に出た。
アガシオンは俺を気にせず、ブロッサムだけを目に映す。
「我が力を封印した、忌ま忌ましい光の英雄の複製。神の一人にしてノーム族の始祖たる者に“作られし者”」
「作、られ……た……?」
「……どういう、意味だ……」
アガシオンの言葉の意味が理解できない。……いや。理解、したくなかった。
だけどアガシオンは、俺らの予想を遥かに超えた真実を口にした。
「おまえはロアディオス=アルケミアスによって、初代ウィンターコスモスの魔力結晶より作られし人形。太古の錬金術で生まれし
――瞬間、時間が止まった気がした。
俺も。ブロッサムも。周りのみんなも絶句している。
「ブロッサムが、初代ウィンターコスモスの……魔力結晶……!?」
「だから……ネメシアの闇を消せた……のですか……?」
「……というか。ロアディオスって……あのロアかいな!?」
セルシアとフリージア、カータロも、アガシオンの言葉の中にいた人物に驚いてる。
もちろん俺も……。心当たりがあるから。
「……う、嘘だろ……? 俺が……初代ウィンターコスモスの、魔力結晶って……」
「おまえは我が力を封印したアイツとよく似ている……いや、違う。――同じ顔だ!!」
「……!!」
その言葉に打ちのめされる。
……俺も否定できなかった。ブロッサムの家で、初代ウィンターコスモスの絵画を見たから。
同じだと、思ってたから。
「計画は狂ってしまったが、問題ない。もはや校長どもに力はなく、人形の方も恐れるほどでもない。……我を阻む者はいない!」
ゆっくりとアガシオンは柱があった場所に歩いて行く。
大地には巨大な穴が開いていた。
「長く始原の学園が眠っていた闇の世界――大魔王アゴラモート様が封印された大地。その入口は今開いた」
「いりぐ、ち……?」
あの先が……闇の世界……?
魔王が封印されている世界だと……。
「あの穴……光の柱がほとばしった場所が、闇の世界の入り口!?」
「止め……なきゃ……ふにゃにゃっ……。ダメ……。さっきの衝撃で、身体が……動かないン……」
フォルクス、ネコマ。他の皆もダメージが大きいらしい。うまく身体が動かないらしい。
その間にアガシオンは黒い魔力を操り、始原の鐘を手元に引き寄せた。
「この始原の鐘から力を引き出して、我自身が闇の世界の封印を一つ一つ解き、アゴラモート様を直接目覚めさせよう」
「直接!?」
「復活したアゴラモート様は、悪に染めた始原の学園をこの世界に浮上して下さるだろう。その時こそ、この世界は破滅へと導かれるのだ!」
「あ…………ああ……っ」
ブロッサムの悲痛なつぶやきが後ろから聞こえてきた。
アガシオンが闇の世界の入口で振り返る。
「所詮は代用品……ここでおとなしく待っているんだな。――フフ……ハハハハハハ!!!」
「…………っ」
最後にブロッサムに視線を向けてから。
そう言ってアガシオンは闇の世界の入り口に飛び込んだ。
「ブロッサム……その……」
「…………俺は……」
ぽつりとつぶやくブロッサム。
前に回って耳を傾ける。
「俺は……人間じゃない、のか? 初代ウィンターコスモスの複製って……」
「……それは……」
……まずい。どう言おうか。
たしかに……言われたことは、中々受け止めきれないものだからな。
「……アガシオンの言葉通り、初代ウィンターコスモスとおまえは同じ存在、だと思う。……実際俺も繋がりがあると思ってたし」
「…………」
「……けど」
震えるブロッサムの手を握る。
他の誰でもない、ブロッサムの手を、な。
「例えおまえが何だろうと、俺はブロッサムを信じる。だって、俺をずっと助けてきたのは――ブロッサムなんだから」
「…………」
俺の言葉を聞いて……完全に黙り込んだ。
……言い方、間違えたか?
「うにゅにゅ……っ。校長たちを失い、ブロッサムは再起不能。さらにアガシオンめは闇の世界に……!」
「モタモタしてる場合じゃないよ! 追いかけよう!」
「なんじゃと!?」
ダメージ受けたにも関わらず、レオが立ち上がりながら叫んだ。
それに諦めかけてたキルシュが驚く。
……つーか勝手にブロッサムを再起不能にすんなや。
「だって! ボクらが止めなきゃ、誰がアガシオンを止めるんだ!?」
「無茶言いよるなあ……。でも、わいも今回ばかりはレオに賛成や」
堂々と言い切ったレオに、カータロがため息をつきながら賛成した。
そして諦めムード漂っていた空間に、次々とみんなが立ち上がっていく。
「そうだ。兄様がアガシオンの力から世界を守って下さっているなら……僕たちの使命は、奴を打ち倒すこと」
セルシアも立ち上がり、キルシュと向き合う。
「――僕たちが、本当にアガシオンを倒す時が来たんだ。キルシュトルテさん」
「……!」
その言葉に、キルシュの目に再び希望が宿り出した。
「そうじゃな。我が王家が果たすべき使命……」
「そして、我が先祖が果たせなかった使命」
英雄の末裔の二人が立ち上がった。
そして視線は俺に集まる。
「我らだけでは無理だったかもしれぬが、今や我らにはアユミたちがおる」
「アユミたちを先頭に、ドーンともう一回ぶつかってやれば、きっとアガシオンをぶちのめせるで!」
「……やっぱり俺がやるのかよ」
おまえら……頼むから人を当てにするの、やめてくんない?
たしかに俺しか倒せないだろうけどさ……俺を先発隊に入れるなや!!←
「……言っとくが俺はブロッサムを守るのが最優先事項だからな。次に仲間。世界は三番目だ」
「え? アユミは世界が滅んでもいいの!?」
「どうでもいいわ。世界など。元々英雄も勇者も嫌いだし」
「「ええええええ!!?」」
「言い切ったな、おまえ……」
即答する俺に、レオとジークが絶叫。バロータが何とも言えない顔をする。
みんなもだけどな←
「シルフィーと、ブロッサム。そして皆が居てくれたから、俺は勝てたんだ。俺一人じゃ何もできない」
「……アユミ……」
「ブロッサムを守る。それが最優先だ。言っとくがブロッサムが死んだら、魔王を滅ぼした後に俺も死ぬぞ」
「おいおいアユミ……んな冗談は……」
「冗談じゃない」
苦笑いを浮かべる全員に、ドスのある低い声で返す。
「ブロッサムがいない世界ならいらない。誰も守れない、誰かが欠けた結末なら、俺はいらない」
「アユミ……」
「それならやるべきことをやった後、俺も消える。……それくらいの覚悟で挑んで戦ってやる」
俺の気迫がすごかったのか、全員が何も言えなかった。
当然だ。……俺は本気だから。
「そういう訳で、だ。死なれたくなかったら全力でブロッサムを守れ。以上」
「ブロッサムが絡むと、異様に雰囲気変わりますわね、あなた」
睨みも気にせずにこにこと笑ってるユリは、首だけブロッサムに振り向く。
「よかったですわね。心の底から信じていただける方がいまして」
「……あ……う……」
「……あなたは、これでも信じられないと?」
ユリの問いに、気まずそうにブロッサムが俺に視線を向けた。
「お……俺は……」
「…………」
「……やっぱり、正直受け止めきれていない。けど……でも」
まだ迷いが見れる。
それでも表情がさっきよりはマシだった。
「アユミが“俺”を信じてくれるなら……まだ、頑張ってもいい、かな……」
「……そうか」
……ホントはきっと。まだ迷ってるし、受け止めきれないのだろう。ただの空元気なのはわかってる。
でも、今は何も言わない。今言っても、多分心の奥底まで届かないだろう。
「……んじゃ。もう傷つかないよう、今度こそ完膚なきまでにアガシオンは叩き潰してやる。おまえが生きるなら、俺も死ななくていいし」
「そうだな! それで大魔王の復活阻止でハッピーエンド、ってわけだな! くーっ! 勇者っぽいぜ!」
「英雄っぽい!」
「いや、コレ完全に俺が仕留める形だから!」
人の話聞いてたぁぁぁ!?
他力本願型の倒し方だからね、コレ!
「みんな。ここからが本当の戦いになるみたいだ。闇の世界を、僕たち三学園の力で踏破する!」
「うん! えいえいお~! って感じだね~」
全員を見回して言うセルシアに、シルフィーも拳を上げて頷いた。
「でも、準備を怠っちゃいけないの」
「は、はい。アガシオンの部屋までは、確保しましたからね……」
「これからは魔法で行き来もできるもんねっ」
ここでトウフッコがセーブをかけた。
それにリンツェ、アイナが賛同する。
「そうですね。パーティごとに一度学園に戻って、補給を済ませるのもよろしいかと思います。……それに……」
フリージアも言いかけ、ちらっと気まずそうにセルシアに目を向ける。
「ああ……。兄様のことも……気になる」
気づいたらしい。セルシアが小さく頷く。
……そうだった。校長は今どうなってるんだろうか……。
セルシアなんか特に気になるだろうな。セントウレアは兄なんだし。
「で、で、でも、闇の世界に行って、もし戻ってこれなかったら、ど、どうするんだな?」
「ああ。たしかに帰れない可能性もありますわね。未知の世界ですもの♪」
ヌッペの言葉に笑って言ってのけたユリ。
いや、それ笑い事じゃないよね!? 困るんだけど!!
「あ、それなら大丈夫っぽいよ」
ここでフォルクスが穴の方を指さした。
つられて俺たちも穴の方へ顔を向く。
「今、チューリップさんが穴の中に入って、戻ってきたから」
その言葉通り、穴の中に入ったと思われるチューリップがこちらに戻ってきた。
っていつの間に!!?
「うおおおい!! この状況で偵察かよ! プリシアナの生徒は自由人か!?」
「いや~、ついつい、どんなヒミツが眠ってるのか気になって……」
「いや、つい。じゃないだろ! つい、じゃ!」
ジークのツッコミにカエデも頷く。
ホントいつの間に行ってたの? そして帰って来れなかったらどうする気だったの?←
「だって私飛べるし。どうせみんな後から来るだろうから、大丈夫かなーって」
「いや、そういう問題じゃなくって」
「でも安心して! ちゃんと双方向に使える魔法のゲートになってるみたいだよ!」
「あ、それはよかった……って人の話聞いてる!!?」
頼むから人の話聞いて!!
なんでどいつもこいつも戦闘力よりスルースキルの方が高いの!?←
「ほほほ。あっぱれじゃ」
「ええ♪ でかしましたわね♪」
キルシュとユリはにこにこと笑ってる。
……もう無理なんだけど。やっぱりツッコミはブロッサムじゃなきゃ無理!!←
「では、学園ごとに順番で一度学校へ戻り、全員の準備が整ったら、闇の世界へ突入じゃな!」
「……そうするか。おい、転移魔法の準備、よろしく」
魔術系学科の連中に言ってから、気づかれないようため息をつく。
ホントころころ空気変わるな……。
魔法でそれぞれの学校へと帰還する中、こっそりそう思う俺だった。