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隠されたモノ

「やった……な……」

「ああ……」

 ブロッサムのつぶやきみたいな言葉に、俺も小さく頷く。
 アガシオンを倒した俺たちはクリスタルの前で立ち尽くしていた。
 実際ガチで疲れたし、倒せたことにいまいち実感が湧いてない感じがしているからな。

「み~……シヴァを発動された時、ホントに死ぬかと思っちゃったよ~」

「アガシオンのシヴァは強力でしたものね。受けたら即死は免れそうにありませんでしたわ。……リンツェ。あとついでにカエデ。よくやりましたわね」

「そ、そんな……俺は、その……たいしたことは……」

「ふっ。そりゃ、護衛の俺が仲間を守れないなんて失態をする訳には――って誰がついでだ!!」

 褒められたリンツェは真っ赤な顔でぶんぶんと首を横に振り、カエデは褒められたと思いきや、ついでに呼ばれた事にツッコミを入れる。
 いや、ツッコミ遅いから。

「落ち着けよ、カエデ。おまえとリンツェの功績が大きい事はわかってるから。おまえらが揃って一撃を与えたから、俺はアガシオンを倒すことができたんだから」

「そうだよ! すごいよ、リンツェ君! カエデもありがとう!」

「は……はい……!」

「うぅ……。なんか、釈然としねぇ……」

 俺とアイナにも褒められ、赤くなりながらニコッて笑顔を浮かべた。ホントにリンツェって可愛い系ディアボロスだな、うん←

「……! アユミ! 宝具が……!」

「え……うぉおおお!?」

 ブロッサムに言われ、視線を宝具へ。
 三つの宝具が輝いている……!

「これは……まさか……」

 輝く宝具を出しながらつぶやく。
 それを確認すると、同時にバタバタとこちらへ向かってくる足音が聞こえてきた。

「ようやくたどり着いたぞ!」

「いざ、アガシオンっ……!」

「覚悟せえやっ!! ……って、あら!?」

 キルシュトルテ、セルシア、カータロを先頭に、三学園の全員が駆け込んできた。
 ……遅ェよ、おまえら←

「終わっちまったんだけど。そんなに数が多かったのか?」

「だとしたらよかったですわ♪ 大物、私たちがちょうだいしちゃいましたもの♪」

 俺に頷きながら、ユリが楽しそうに言う。
 だからさ。世界の危機だってわかってる?

「ええーっ!! じゃあ……アユミたちがアガシオンを倒しちゃったの!?」

「ま、そーなるな」

「ボクがごっつぁんゴールで倒したかったよ~~~ッ!!! え、消滅しちゃって剥ぎ取りもできないの!?」

「剥ぎ取りって……」

 いや、レオ。奴を相手に何を剥ぎ取る気?←

「み、みんな、大群倒すのに、じ、時間かかったんだな」

「たしかにすごい数だったもんね。今思えば、私たちもよく出られたものかも……」

 ヌッペに頷くアイナのつぶやき。
 どんな大群だったんだ、ホントに。

「でも素晴らしいことだよ。アユミたちの力を讃えよう」

「せやな。さっすがやでえ、アユミたち!」

「ありがとう。けどセルシア。手を離せ」

 賞賛してくるみんなに素直に礼を言う。
 俺の指を自分のとちゃっかり重ねるセルシアには黒い笑みで対応したけど←

「それにしても、三つの宝具、すっごい輝いてるな……!! その力で、“始原の学園”ってのが復活するのか?」

「……だと思う。多分」

 ジークムントはブロッサムの隣で輝く宝具を見つめる。
 曖昧に答えるブロッサムだけど、多分この力こそが、始原の学園を復活させるのは間違いないだろうな。

「アユミさん。創成のプリシアナッツの実を……」

「……おう」

 フリージアに促され、俺は宝具と創成のプリシアナッツの実を掲げた。

「……!」

 宝具は輝きを増し、空中に浮かびながら合体していった。
 一際強い光を放ったのあと、光り輝く鐘――“始原の鐘”が現れる。

「これが……」

「……始原の……鐘……?」

 鐘を見ながらつぶやく俺とブロッサム。
 モーディアル学園の闇の中、鐘の音が鳴り響く。

「おお……美事じゃのう……我ら三つの学園が、力を合わせた証……」

「やったー! ハッピーエンドだーーーっ!!!」

「ねぇねぇ! それで次は何が起こるのン? 昔の学校が、ニャニャーンって飛び出してくるのン?」

 鳴り響く始原の鐘を見て、全員がそれぞれ喜び合った。
 ……たしかに、長い道中だったからな。

「予言の時に間に合い、始原の学園復活のエネルギーは制御できたのか……?」

「いや、そこまで知らねぇよ。なあブロッサム――」

 セルシアのつぶやきに言いつつ、ブロッサムの方へ顔を向けた。

「……………………」

「……ブロッサム?」

「……! あ……な、なんだ? アユミ」

 始原の鐘に目を奪われていたブロッサムは俺に呼ばれ、ハッとなる。

「べつに、ただもうすぐ学園復活だなって……。……大丈夫か? 疲れた?」

 たずねてみれば「いや……」と小さく首を横に振る。

「大丈夫。体調がどうこうってわけじゃないから」

「そう、なのか……?」

「ああ。……そんな心配そうな目をするなよ」

 ……そんなにアレな顔だったのか?
 ブロッサムが苦笑しながら続ける。

「そうじゃなくて……前と変わらない音で、懐かしいなって……」

「そうか……。……え?」

 頷きかけ、だけど途中で弾かれたようにブロッサムを見上げた。

「……今、なんつった?」

「え? 何って……」

 ブロッサムはキョトンと目を丸くしている。

(今の言葉……)

 ブロッサムは言った。“前と変わらない音で、懐かしいな”と。
 ……始原の鐘は今復活したのに、なんで懐かしいんだ?

「ブロッサム。その……」

 ……何なんだ。この不安は。とてつもなく嫌な予感がする。
 困惑しているブロッサムを見上げ、どう切り出そうかと口ごもる。

「――遅かったようだな」

「っ!? だ、誰だ!?」

 その時だ。
 突如背後から、聞き覚えある声がしたのは。
 全員がその方向へ顔を向ける。

「あ、アガシオン……!?」

 顔を向けると……アガシオンがいた。
 倒したはずだぞ……なんで!?

「アガシオン!? さっき倒したのに……!?」

「まさか! 双子の兄弟がいたのか!?」

 ブロッサムやレオも驚いている。
 それにアガシオンが愉快そうに高笑った。

「フハハハハ! 今おまえたちが倒したのはベコニアが作ったカラクリ人形だ」

「なっ……」

 人、形……だと!?
 あの馬鹿でかい魔力を秘めたアレが、人形だって!?

「ベコニアが言ってた“アレ”って、さっきのカラクリ人形だったのか!」

「影武者の相手をさせられた、というワケですか……」

「その通り。うまく時間稼ぎをしてくれたようだな」

「くそっ……」

 バロータ、フリージアの言葉に唇を噛み締める。
 ようやく終わった、と思ったのに……!

「始原の学園が蘇りし時の莫大なエネルギー……。それは時として大陸に災いをもたらしかねぬ大いなる力だ」

「……それを制御するため、学園の復活前に響かせる物。それが、始原の鐘――」

「え……?」

 アガシオンの説明に、ブロッサムが補足した。
 ――なんで、知ってるんだ。ブロッサム……。

「そう。そして、始原の学園は目覚め始めた! 今や始原の鐘は強力なエネルギータンクと化した!! 膨大な力が溢れ出すぞ!」

「何……!?」

 その言葉のあと、奇妙な揺れを感じた。同時に何か大きな力が昇ってくる。
 まさか……これが!?

「ネメシアが始原の鐘の復活を急いでいた理由は、これだったのか……!!」

 揺れの中、ネメシアが急かしていた理由に気づいたセルシアのつぶやき。
 その間にも、揺れはどんどん大きくなっていく。

「さあ……予言の時だ。今こそ始原の学園復活のエネルギーを、闇に染めてくれよう!」

「――! みんな、アガシオンを止めろっ!!」

「無駄だ無駄だああああああっ!!!」

 セルシアの叫びにアガシオンが高笑う。
 そしてアガシオンの叫びと共に、闇のクリスタルが移動を始めた。
 それとほぼ同時に、光の柱が天へと貫く。

「悪の流星雨よ! この世を闇に染めよ!」

 そして止めようとする俺たちの目の前で、その光の柱の中に闇のクリスタルが飛び込んでしまった。

「ああ~! クリスタルが~!」

「光が黒くなっちゃってる! 馬鹿ーっ!!」

 シルフィーとレオが黒くなった柱を見てわめき立てる。
 その他みんなも、黒い柱を絶望感に満ちた表情で見上げていた。

「くっ……! 止められない……のか!?」

「フハハハハハ!! あらゆる生徒の心が悪に染まるぞ! そしてその魂を糧として、我が宿願――大魔王アゴラモート様の復活が成就するのだ!!」

「テメェ! させるか!」

「アユミ!!」

 どうにか止めようと、再びアガシオンへと走り出す。
 だが黒い光の柱から放たれた衝撃が、俺を――全員を薙ぎ倒してしまった。

「うあああぁぁぁッ!!!」

「ぐぅッ!!!?」

「ふ……無駄な真似を……」

 衝撃波によって吹っ飛ばされる俺たち。
 その中、アガシオンはゆっくりと、俺のすぐ近くに倒れているブロッサムに近づいていく。

「……“もう一度”眺めるといい……。“自分を犠牲にして守ったもの”が、“今度は”すべて消え行く様を……」

「……犠牲、って……っ」

 ブロッサムが犠牲……? もう一度? 今度は?
 ――いったいどういう意味だ……?

「さあ、滅びが始まる! その目に焼き付けろ!」

 アガシオンの叫びに呼応するように、黒い光の柱は大きくなり、上空で花火のように弾けていった――。

 ――――

「世界中に鳴り響いた始原の鐘の音――実に美しい音でした」

 プリシアナ学院・大聖堂。
 校長会議用の連絡水晶の前にいるセントウレアが、空を見てつぶやいた。

「しかしこの天の暗さ……。そしてあのまがまがしい流星の群れは……」

「アガシオンの奴めが、一枚上手だったようですな」

 水晶越しにサルタがため息をついた。
 ゲシュタルトも(銅像なので表情は変わらないが)悔しそうにつぶやく。

「始原の学園が甦る時の聖なる光の柱を邪悪なものに変えてしまう……何と言うことを」

「……あの流星雨が世界に降り注げば」

 その時。セントウレアの後ろに“彼”が現れた。
 三校長に笑みを向けながら、彼は続ける。

「世界中に悪の種を蒔かれるよ。――君たちの教え子の心の中にすら、ね」

「どうする?」と楽しそうに彼はたずねる。

「闇が広がっていく……。私たちは愛しい教え子を闇の只中に送り込んでしまいました」

「…………」

「けれど私は、今や信じています。あの子たちが自らの力で闇を振り払い、この世界に輝きを取り戻してくれることを」

「……そっか」

 セントウレアの言葉は、納得いったものだったらしい。彼は嬉しそうに頷いた。

「じゃあ君たちの教え子が光を取り戻すまでの間、あの邪悪な流星雨を止めておかないとね。……覚悟はできてる?」

「もちろん。危難の子供たちを守り、この世界を次の世代に継がせることこそ、大人の誉れ。覚悟はとっくにできておりますぞ」

 彼の問いに、サルタは迷うことなく頷く。
 他二人も同じだ。

「極大校長魔法を使います。……後のことはお願いします。ロアディオスさん」

 校長は背後の彼――ロアディオスことロアに頷いてみせた。
 ロアも笑顔のまま、校長に頷き返す。

「始原の神々よ。すべての学び舎の子らに祝福を」

「我ら始原の学園の意思を継ぐ者。神代の教えを伝える者」

「この身のすべてを盾として、大地を守る天蓋へと変えたまえ」

 セントウレア。ゲシュタルト。サルタ。
 三人の校長がそれぞれ祈りを捧げ、魔力を解放する。

「「「極大校長魔法!!!」」」

 三人の校長の声が揃った。
 そして次の瞬間、校長たちは光に包まれていった。
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