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暗黒校長

 セルシアたちが他の生徒の助けに向かい、そして俺たちは最深部――暗黒校長室にたどり着いた。

「ここが……」

「校長室か……案外外見は普通だな」

「いや、校長室まで変だったら嫌だぞ。俺は……」

 意外と普通な外見の校長室に俺がそう言えば、ブロッサムにつっこまれた。
 いや、たしかにそうだけど←

「それよりさ~。突入するなら早くした方が良くない?」

「そうですわね。早く突撃しないと、キルシュに追いつかれてしまいますわ。せっかくの大物を取られるのはシャクですもの」

「ここで勝ち負けの問題か?」

「ユリ様……世界の危機ですよ……?」

 シルフィーの言葉にユリが楽しそうに頷いた。隠し切れない戦闘狂部分にカエデは呆れ、リンツェが控えめに注意する。

「それじゃ、話し合ってもしょうがないから、開けちゃおっか」

「そうだな。だけどおまえは開けるな。開けるなら俺がやる」

「ええ~!?」

 意気揚々と叫ぶアイナを無理矢理後ろに下げる。
 またこいつが傷つくのは見たくない……というかアイナ。おまえ、後衛だってわかってる?

「……行くぞ!」

 覚悟を決め、扉を開けて足を踏み入れた。

「……!?」

 広間の中央には、黒々としたエネルギーを放つクリスタルが浮かんでいる。何なんだ、コレは。

「こ、怖いです……」

「なんかこれ、ヤな力が集まってるよ~」

「とても邪悪、です……」

「というか。闇しか感じませんわね♪」

「なんでおまえ楽しげなの? 戦士学科の俺ですら、鳥肌立つレベルでヤベェってのは分かるんだけど」

「ううっ……す、すごく、気持ち悪い……」

 同じくクリスタルを見た他の皆のつぶやき。
 特に闇術師のユリと光術師のブロッサムは強い反応を受けている。
 ユリは楽しげに、ブロッサムは苦しげに。まさに正反対の反応をな。

「これは……」

「それは我が闇の世界から抽出し続けた悪のエネルギーを結晶化させた……“闇のクリスタル”だ」

『!?』

 突如俺たちとクリスタルの間に現れた。
 ドクン、と強く心臓が締め付けられる。

「間もなく星々の位置が定まり、予言成就の時が来る……」

「……アガシオン!」

「“始原の学園”が復活する時のエネルギーが、このクリスタルを通るようにすれば……世界には、生徒たちの心を悪に染める流星雨が降り注ぐ、というわけだ」

 そう言って、奴はゆっくりと俺たちの方へ向き直った。
 そして視線は俺へと向けられる。

「予感していたぞ。我と戦うのはおまえだと。宝具をもたらすのは、おまえたちだと」

「……それは光栄だな」

 アガシオンの闇の瞳が細める。
 狂喜に似た笑みが浮かび上がる。

「さあ来い、予言された学び舎の子らよ。三校長の教えの結晶よ」

 自然と俺たち全員が武器を取って構えた。
 アガシオンも自分自身の強大な魔力を放出させる。

「その力のすべてを見せてみろ! 我を止めてみせろ!!」

「……言われずとも!」

 高らかに言いやがったアガシオンに走り、刀を振り下ろした。

「ぬぅ……!」

「ぐっ……!」

 杖で受け止められ、金属音が鳴った。
 こいつ……やっぱり力強いな……っ。

「はあッ!」

「わぁ!?」

 魔力を帯びた一撃で振り払われた。
 思った以上に強い……ッ!

「ダクネスガン!」

 さらにそこに闇魔法を発動される。
 ただのダクネスガン……より数倍威力強そうな暗黒球が現れる。
 やば……ッ!

「結界!」

「ライトガード!」

 当たる寸前、アイナの術とブロッサムの魔法が発動した。
 お陰でダクネスガンは当たることなく消え去った。

「トール!」

「ナイトメア!」

 ユリの護衛人形の背後で、シルフィーのレーザー化したトールとユリのナイトメアがアガシオンを襲った。
 二つの強大な魔法は容赦なくアガシオンに降り注ぐ。

「ぐっ……おのれ……!!」

「もらっ……!」

 隙ができ、再び斬りに突っ込む。
 ……が、俺らの周りに再び暗黒球が大量に降ってきた。

「うわわっ!!」

「危な……!」

 慌ててそれらを避けるのに専念する。
 ……が、その間に再び魔力が立ち上っていく。

「終わりだ……。おまえたち全員、すべて無に落としてやろう!」

 真っ黒な闇の魔力が立ち上っていく。
 暗黒球を避けたため、アガシオンから距離を取ってしまっている。
 距離が広がり過ぎて、止められない……っ!

「無意味に抗う愚か者よ、永遠の停滞に飲まれよ――シヴァ!!」

「……ッ!!!」

 上空より、巨大な闇が現れる。
 シヴァは最強の即死魔法。
 アガシオンの放ったものなら……確実に、死ぬ。

「やばい……!?」

 防ぎようがない……!
 直感で死を予感した時。

「――やあああぁぁぁッ!!!」

「くぅだぁけぇろぉおおおおおおッ!!」

 ヒュン、と風が鳴るほど素早く突っ込んだのはリンツェとカエデだった。
 突っ込み、それぞれ大剣と戦斧を思いきり振り下ろす。

「ぐ……ぬおぉおおお……ッ!!!?」

 アガシオンも杖で受け止めたが、二人の一撃は杖を破壊し、アガシオンの胸を大きく斬りつけた。
 鮮血が床に散らばっていく。

「よくできましたわ。リンツェ」

「さっすがカエデ!」

「は、はいっ! アユミさん……っ! 今です……!!」

「今の内にトドメを!!」

 ユリに褒められながら、リンツェが叫んだ。
 アイナを背に庇いつつ、カエデも呼びかけてくる。

「……ああ!」

 リンツェの一撃を受け、アガシオンは瀕死寸前。ダメージにより魔力は乱れ、シヴァも消滅している。
 狙うのは、今しかない。

「これで――トドメだああああああッ!!!」

 瀕死のアガシオンに目掛け、刀を振り上げた。

「ぐぁああああああッ!!!」

 振り上げた刀はアガシオンを捕らえ――深く斬りつけた。
 再び一撃を受けたアガシオンは、大量の鮮血とともに床に伏せる。

「……ぅ……ぐ……み、見事……だ……予言の、娘……」

「……どーも」

 死にかかったアガシオンは傷を押さえながら立ち上がる。
 が、ダメージが強かったか、すぐに膝をついてしまった。

「ゲシュタルト……セントウレア……サルタ……。奴らの理想の真髄……。いや、それだけではない……」

 アガシオンはゆっくりと首を横に振る。

「おまえたち自身が、教師どもの教えを……さらに磨いていった……力……か……」

「……当然だ」

 刀を収め、アガシオンと睨み合う。

「今の俺は――昔の俺じゃない。ブロッサムとシルフィーと出会って、一緒に強くなれたんだ」

「……ふ。なるほど……。この身に刻んだぞ……フフ……ハハハハっ……」

 高笑いをするアガシオン。
 こいつの目から、生気が消えかかってる。

「“始原の学園”が甦る……! その時こそ、我は、我……は……!」

「じゃあな。二度と来るなよ」

「……ぐふっ!!」

 喀血し、崩れ落ちるアガシオン。
 床に血を滲ませながら、奴の体は塵となって、俺たちの前から消えていった。
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