忠義の執事
「ブロッサム、何やって――」
「嫌に決まってんだろ!! 助けたい奴を助けられないなんて……そんなの嫌なんだよ!!」
「待っ……!?」
その瞬間、ブロッサムの翼が広がった。
「うわ! ブロッサムも光ってない!?」
「……!」
レオの言葉通り、ブロッサムが徐々に光り輝きだす。
さっきのセルシアと同じく、身体からネメシアの闇を弾き飛ばしてしまいそうな程の光を溢れ出していた。
「それは……!!?」
「う、あ、あああぁぁぁ!!!」
「ブロッサム!?」
違う……ホントにネメシアの闇を消しているんだ!
現に先程まで強かった闇が急速に弱まっている。
「もうやめろ、ネメシア! これ以上セルシアや校長……自分を傷つけるな!!」
「…………」
さらに光を強くさせるブロッサムが必死に訴える。
ネメシアが目を見開いていると、ボソッとつぶやいた。
「その力……やはりおまえは“初代”の生き写し……」
「……え?」
ブロッサムと俺のつぶやきが重なった気がした。
……ブロッサムが、初代の生き写し……? どういうことだ、それは。
「ネメシア、それは……」
どういう意味だ。とたずねかけ、だけどそれは喉の奥で止めた。
闇の魔法陣から眩しい光が溢れ出したから。
「――愛しきプリシアナの子らよ……」
「! この声は……!」
転移の空間から聞こえてきた声。
その声にセルシアが即座に反応する。
「セントウレア様!」
「そっか! こっちから大聖堂が見えてるってことは、学校もこっちと繋がってるんだ!」
転移の空間の向こうから、翼を広げたセントウレアの姿が見えた。
叫んだフリージアの隣で、レオがポンッ、と手を叩いた。
「セントウレア兄様……」
「数々の試練を乗り越え、よく宝具を守り抜いてくれました」
空間の向こうから校長が全員に話しかけてきた。
そして視線を俺に向ける。
「校長……」
「予言されし光の学舎の子……やはり、あなたたちで間違いはなかったようですね。アユミさん。ブロッサム。そしてシルフィネストさん」
微笑みながら言うと、セントウレア校長の手から光が生まれた。
それが波動で弾き飛ばされたセルシア。そしてネメシアの闇を消し去る際、傷ついたブロッサムの傷を癒していく。
「こ、校長……っ。あの、まだネメシアが……」
「わかっています。ブロッサム。少し下がってください」
ブロッサムに下がるよう伝える校長。
それにブロッサムは、まだネメシアに抱き着いていたことに気づいて、それで大慌てで下がる。
「セント……ウレア……様……」
「ネメシア……あなたの闇からの調べは、ずっと聞こえていましたよ」
「プリシア……プリシアナッツの実ヲ……」
校長を見つめ、再び崩壊し始めた指先で伸ばすネメシア。
闇を消し去ったはいいが、肉体の方は限界突破らしいな。
「ネメシア……可哀相に……」
校長が手を翳し、ネメシアの身体を回復させた。
崩壊しかかったネメシアの身体はすぐに治っていく。
「ヲ……オオ……! セントウレア様ノ輝き……闇ノ中で、どれほど焦がれたコトか……」
校長の癒しの光にネメシアが感激する。
回復したコイツに「ネメシア」と校長が声をかけた。
「私は予言の時をずっと待っていました。それはプリシアナから予言の子らを送り出すため……そしてもう一つ。あなたと再会する時が、熟する時を待つためです」
いつも通りの慈悲深い笑み。
それにネメシアが目を見開いた後、ゆっくり首を横に振る。
「ワ、タシは……すでに闇に染まっております。セントウレア様とお話できる身ではありません……」
「ネメシア。私はあなたが裏切ったと思ったことは、これまでに一度もありませんよ」
「!!」
その言葉にネメシアが驚く。
校長は微笑みながら続けた。
「これでも私はあなたのことを理解していたつもりです。あなたが私の下を去り、闇の世界に行ったのには……理由があるのだと信じています」
「セントウレア様……」
「ネメシア……あなたが闇の世界から奏でていたピアノの音……ずっと聞こえていましたよ。私のパイプオルガンの音も、あなたに届いていたはずです」
校長が言うと、ネメシアは俯きながらも頷く。
「セントウレア様の聖なる調べのお陰で、私は闇の世界の中でも自我を保ち続けることができました……」
「ネメシア……」
「……ですが! ここで終わりではないのです! 私に……私にプリシアナッツの実を!! そうでなければ、私の計画が……!!」
「……計画?」
その言葉にぴくりと反応する俺。
校長はネメシアの言葉を聞いて、だけど静かに首を横に振った。
「これが創成のプリシアナッツの実です。これは予言の子であるアユミさんに託します」
「……え。俺?」
え、何。ここで俺?
戸惑う俺に気にせず、校長が俺に創成のプリシアナッツの実を差し出してきた。
とりあえずそれは受け取っておく。
「なりません! セントウレア様! 子供たちでは……いくら予言の娘や彼でも、アガシオンに勝つことはできません!」
俺とブロッサムを指さして必死に叫ぶ。
……なぜブロッサムも?←
「アガシオンの背後には、魔王アゴラモートの気配がある……子供たちでは始原の鐘を復活させることは不可能です!」
「どんだけ信用されてねーんだよ、俺は」
ボソッとつぶやく俺。
ネメシアはさらに続ける。
「始原の鐘の復活に失敗すれば、セントウレア様は、初代ウィンターコスモスようにその身を犠牲にされてしまう! それだけは避けなくてはいけない! その為に、私は闇の世界にきたというのに……!!」
校長第一なのな←
ネメシアの言い分に「なんだとー!」と反論したのはレオだ。
「失礼なことを言うな! ボクたちもアユミたちも、すっごく強いんだぞ! 魔王なんかに負けるもんか!」
「そうだ。ネメシア。僕たちは必ず、始原の鐘を復活させてみせる!」
「…………」
レオとセルシアの言葉を聞きつつ、それでもやはり心配そうな顔だ。
校長が空間の向こうから語りかけてくる。
「ネメシア……私の身を案じ、自らを闇の世界に置き、予言の時を待ってくれていたあなたには感謝の言葉もありません。あなたがこの子たちを不安に思う気持ちはわかります」
「ですが……」
「見てください。予言の子らの輝きを。この子たちは試練を乗り越え、見事宝具を運んできたではありませんか。ネメシア……あなたには、この子たちの輝きがわかるはずです」
まだ渋るネメシアに、校長は確信に満ちた表情で続ける。
「私は生徒たちを信じているのですよ。聖印の雪窟で私を信じてくれたあなたなら……この子たちの光が見えませんか?」
「セント、ウレア……様……セントウレア様が育てし、光の子ら」
ネメシアが俺たちをじっと見つめてきた。
俺も反らさず、ネメシアに「信じろ」と目で訴える。
「――その瞳の輝き……貴きプリシアナの花の香り。セントウレア様の祝福を受けし子ら……」
「こっちだって黙って殺される気はないからな。だから俺らを信じろよ」
「……そうですね」
俺の意思をそう伝える。絶対勝つから信じろって。
……言い方は俺なりの言い方だけど←
「この子たちなら……その強い意思と覚悟を決めたあなたなら……始原の鐘を完成させることができるかもしれない……」
「ネメシア」
「……だ、が!」
急にネメシアが俺たちに背中を向けた。
その直後だ。最奥からまがまがしい魔力が現れ、俺らに襲ってきたのは。
「……ぐうぅっ!」
「ネメシア!?」
「これがアガシオンの――魔王アゴラモートの力……!!」
ネメシアが俺らを庇うように立ちはだかり、闇の波動を受け止めた。
回復したとは言え、まだ完全じゃない、その身体で。
「ネメシア!」
「え……ボクたちを守ってくれたのか?」
「ネメシア、おまえ……!」
叫ぶセルシア。呆然としているレオ。
俺も二人の間から、ネメシアの背中に向けて声をかける。
「祝福されし予言の娘よ! 今のうちにプリシアナッツの実を手に、皆とともに奥まで走れ!」
「なっ!?」
「これはアガシオンから放たれし波動。奴の力は、完全に復活しつつある!」
「だが……!」
「ネメシア! おまえは!!」
「――私はここで可能な限りアガシオンの魔力を吸収し、果てましょう」
「ネメシアさ~ん……」
「……っ!!」
ギリッ、と強く拳を握りしめた。
何も出来ず、ネメシアを救うことが、ただ悔しかった。
「私の本来の目的は闇の学園に身を潜め、この手で、始原の鐘を復活させることだった……」
「ネメシア……」
「だが今ならセントウレア様が育てし、予言の子らを信じられる。その輝きはセントウレア様の輝き……」
波動を受け止めているネメシアは、顔だけこちらに向けた。
すごく、穏やかな笑顔だった。
「おまえたちになら……託せる……」
「……!」
闇の業火がネメシアを包み込んだ。
そしてその業火でネメシアの身体が崩壊していく。
「そ……んな……っ。ネメシア! こんなところで、その身を捨てるのか!?」
「……セルシア坊ちゃま……ご立派になられましたね。幼い頃のセントウレア様に、よく似ていらっしゃる……フリージア=スノー」
「はい……!」
「一人前の執事になったようだな。セルシア様を……セントウレア様を……ブロッサム様を、頼ん、だ……ぞ……」
「……ま、まだ私だけの力では無理です! ネメシア様! 私にいろいろなことを教えてください!」
「こんな……こんなことってあるかよ……!」
「……っ」
セルシアもフリージアもバロータも。
ブロッサムも、何もできない。
「セントウレア兄様! ネメシアを……ネメシアを助けてください!」
最後の頼みの綱と言わんばかりに校長に叫ぶセルシア。
藁にもすがる、と言った感じだ。
「ネメシア……その闇の業火の中では、その肉体も間もなく崩れ落ちるでしょう……」
「すべては覚悟の上でございます、セントウレア様。……あなた様を……あなた様の教えを信じてきられなかった、私を……お許し……ください……」
ネメシアの目から黒い涙がこぼれ落ちた。
校長への贖罪のように。
「ネメシア……あなたに、これを贈りましょう……」
校長が両手を広げると、ウィンタースノーが花吹雪となって舞い上がった。
それはネメシアを闇ごと包み込む。
「ああ……美しき……貴きウィンタースノーの香りがする……」
「ウィンタースノーは契約の花。ネメシア……どんな闇の中でも、この光があなたを守ります」
「セントウレア様……身に余る……光栄で……ございます」
花に包まれたネメシアが微笑んだ。
けど、無情にも闇がネメシアを飲み込み始める。
「ああ! ネメシアさんが、闇に飲み込まれちゃう……!」
「あ……ね、ネメシア!」
「ブロッサムッ!」
シルフィーの叫びに、再びネメシアへ駆け出しそうなブロッサムの腕を掴んで止めた。
ブロッサムは一瞬震えるが、拳を握って踏み止まる。
「くっ……ブロッサム様!」
「!! は、はい!」
闇の中、ネメシアがブロッサムを呼んだ。
顔を上げ、ブロッサムはネメシアへ向く。
「時間がない……よく聞いてください! あなたはこれから、自分について……“自分の真実”について、悩む時がやってくる……!」
「……え……?」
……ブロッサムの真実?
全員がそれに驚く中、ネメシアは笑みを向ける。
「しかし恐れないで……自分を信じてください……。予言の娘を――仲間を信じてください。ブロッサム坊ちゃま……」
「ネメ、シア……」
ネメシアの言葉の意味はわからない。だけどそれでもブロッサムのことを案じているのがわかった。
呆然となったまま、ブロッサムが指先をネメシアに伸ばす。
「く……くああぁぁぁッ!!!」
「ねっ――ネメシアあああッ!!!」
だけどネメシアは。
……ネメシアは、可能な限りアガシオンの魔力を身体に宿し……俺たちの前で闇の空間に消えてしまった。
「そ……そんな……」
「セントウレア兄様! ネメシア……ネメシアは!?」
フリージアが愕然となって立ち尽くす。
その隣でセルシアが、空間の先にいる校長に叫んだ。
「……ネメシアは闇の世界に囚われました。アガシオンの魔力を抱いた今……彼の身体は、闇に染まっていることでしょう」
「そんな……校長でも、どうにかならないのかよ……」
泣き出すような声でブロッサムがつぶやいた。
絶望感満ちた空間に「けれど……」と校長が言う。
「ウィンタースノーの花が、必ずネメシアを闇から導いてくれるはずです。私がウィンタースノーを通し、こちらの光を送り続けます。必ず……助け出してみせます!」
「兄様っ!」
……どうやら校長は諦めていないらしい。
その言葉にセルシアもようやく安心する。
「校長が大丈夫だって言うんなら大丈夫だね! オーケー、オーケー!」
「ん~……校長が言うなら~、ボクも安心かな~」
軽く言うレオはともかく……まあシルフィーの言う通りかな。たしかに。
「この転移ゲートは間もなく閉じるでしょう。私はここからあなたたちを見送ることしかできません」
「……校長」
「私はあなたたちを信じています。ですが……これだけは忘れないでください。――いつ、いかなる時も、私はあなたたちを愛しています。プリシアナの子らは……私が守ります」
校長が力強く頷く。
それを見て、ようやく俺たちも前を向き直る。
まだ、終わりじゃないからな。
「……ブロッサム」
「え。は、はい」
校長に呼ばれ、ブロッサムが一歩前に出た。
と、校長が何かを取り出す。
「……あなたに、これを」
そう言って、ブロッサムに一つの石を渡した。
それは輝きながらブロッサムの手に納まる。
「これは……」
「“天空の破片”と呼ばれるものです。気休め、と言っては何ですけど……」
「あ、ありがとう、ございます……?」
「……アユミさんには、すでに“彼”が“神のお守り”を渡しているみたいですし」
ブロッサムに渡したあと、校長は笑顔を浮かべたままボソッとつぶやいた。
「……は? 神のって……つーか校長……これ、何なのか知ってるのか?」
「え? 兄様、知っているのですか?」
……が、あいにく忍者学科など学んで、聴力がさらに鍛えられている俺にはバッチリ聞いてしまった。
つーか聞こえてしまった←
「……………………」
それを聞いた校長は固まった。
しかも笑顔で。
「……あの、兄様……?」
「……それではお行きなさい! プリシアナの子らよ! 始原の神々の祝福があらんことを!」
校長は笑顔でそう言うと……魔法で俺たちの傷を回復したあと、転移の魔法陣を跡形もなく消してしまった。
…………って、これ。
「……ごまかされたーーーッ!!!?」
校長にごまかされた!!
だって自分で転移の魔法陣消しちゃったよね!? 俺の質問もセルシアの戸惑いもガン無視したよね!!?
ぜってー何かごまかしてるだろ、セントウレア!!
「えっと……ネメシア様は、大丈夫、ですよね……?」
「あ、ああ。僕たちは兄様とネメシアの絆を信じよう! ……ね、アユミ?」
「……そうだな」
「いいのかそれで……」
何とも言えない顔と表情で、フリージアとセルシアがぶっ壊れたシリアスを何とか無理矢理直した。
ブロッサムがしかめっつらのまま俺を見てきたけど、もう疲れきった俺はあえて何も言わず、そのまま二人に頷いて流れに身を任せることにした。
「……んじゃ、あとは校長のアガシオンだけか!」
「いよいよだね~!」
能天気な二人はとっとと気分を変え、アガシオンに向けて意気込んでいる。
……こういうだけ、この二人がうらやましいぜ。
「そいつを倒せばハッピーエンドってことか……」
「くうぅっ! ついに! ついにきてしまったー! このボクが、ラスボスを倒す時が!」
「あら。レオは怖くないの? 伝説の武器も防具も手に入らなかったのよ?」
バロータの隣で一人感動に浸っているレオに、意外そうな顔でブーゲンビリアがたずねる。
能天気なレオは「あはは!」と笑う。
「伝説の武器や防具なんてもういらないさ! だってもう、ここまで自力でこれたもん! 真の英雄に、そんなずるい武器は必要ないのさ!」
「もう。調子いいんだから……」
チューリップが苦笑する。
ま、うじうじ悩むわけないよな。レオだし←
「いよいよだな……。僕らの手には、ドラッケンとタカチホから預かった大切な宝具もある」
セルシアも気持ちを引き締め、薄れてもまだ闇の力が感じるに最奥に警戒する。
「アガシオンの野望を阻止する三つの宝具だからな……やられちゃ、連中に申し訳ないしな」
「ああ……彼らのためにも……敗北は許されない!」
託された経緯はともかく、それは間違いない。
俺は、負けるわけにはいかないんだ。
世界的にも自分的にも。
「んじゃ、行く「あー、お姉ちゃん!」げっ!?」
いざアガシオンへ、と行こうとした。
が、それは来た道からやってきたアイナによって阻まれた。
「むっ。げっ、て何!?」
「いや、べつに……」
「ちょっ!! 待て待て、アイナ! 落ち着け!」
「まあまあアイナちゃん。今はそんなこと言ってる場合ではないでしょう?」
「きっ、緊急事態です……!?」
さらに奥から変わらずにこやかなユリと、慌てた様子のカエデとリンツェもやって来た。
カエデとリンツェはともかく……ユリ。大変ならもう少し慌てろや。
「何かあったのですか?」
まだ休んでいるはずのこいつらが来たことにフリージアがたずねた。
それに「はい」とにこやかに頷くユリ。
「私たちも休みましたので、アガシオンの元へ行こうと来たのですが……」
「と、途中……モンスターの大群に襲われて……!」
「なんだって!?」
リンツェの言葉に衝撃が走った。
つまり……アガシオンの配下が襲ってきたってことか!?
「敵は強くないけど、数が多くて……それで私たち、何とか助けを求めに来たんだけど……」
「わかった。それなら僕たちが行こう!」
「え!? じゃあ、アガシオンはどうするの!?」
即座に答えたセルシアにレオが驚く。
セルシアは俺の方を向いてにっこりと笑う。
……もはやわかりきったパターンだな。
「まあ……元々俺はアガシオン討伐に行きたかったからいいけど」
「決まりだね。レオノチス君。僕らは他のみんなを助けよう!」
「うー……しかたないかー……」
レオは渋々ながら頷いた。で、セルシアたちは階段の方へ向かっていく。
「ふふふ♪ 物分かりがよくて助かりますわ」
「あのな……つーかおまえらは? ……まさか、ついて来る気か?」
嫌な予感がし、恐る恐るたずねてみると、「うんっ」と頷かれてしまった……。
「……やっぱりですか?」
「相手がアガシオンなら当然だよ!」
「アイナが行くなら俺も行くしかねぇだろ」
「私は楽しめたらそれでよろしいですわ」
「ゆ、ユリ様が行くなら……」
「…………」
……なんて不安なメンツなんだ。
大丈夫なのか、これ?
「まあ……行くしかないんじゃないか?」
「とりあえず強力な味方がいるからね~」
「……どうなっても知らねーからな」
……まあしかたないか。やるしかないよな。
「……んじゃ、行くぞ」
時間が無いのも事実だしな。
――――
あとはアガシオンだけ。
だから、絶対に勝つ。
「嫌に決まってんだろ!! 助けたい奴を助けられないなんて……そんなの嫌なんだよ!!」
「待っ……!?」
その瞬間、ブロッサムの翼が広がった。
「うわ! ブロッサムも光ってない!?」
「……!」
レオの言葉通り、ブロッサムが徐々に光り輝きだす。
さっきのセルシアと同じく、身体からネメシアの闇を弾き飛ばしてしまいそうな程の光を溢れ出していた。
「それは……!!?」
「う、あ、あああぁぁぁ!!!」
「ブロッサム!?」
違う……ホントにネメシアの闇を消しているんだ!
現に先程まで強かった闇が急速に弱まっている。
「もうやめろ、ネメシア! これ以上セルシアや校長……自分を傷つけるな!!」
「…………」
さらに光を強くさせるブロッサムが必死に訴える。
ネメシアが目を見開いていると、ボソッとつぶやいた。
「その力……やはりおまえは“初代”の生き写し……」
「……え?」
ブロッサムと俺のつぶやきが重なった気がした。
……ブロッサムが、初代の生き写し……? どういうことだ、それは。
「ネメシア、それは……」
どういう意味だ。とたずねかけ、だけどそれは喉の奥で止めた。
闇の魔法陣から眩しい光が溢れ出したから。
「――愛しきプリシアナの子らよ……」
「! この声は……!」
転移の空間から聞こえてきた声。
その声にセルシアが即座に反応する。
「セントウレア様!」
「そっか! こっちから大聖堂が見えてるってことは、学校もこっちと繋がってるんだ!」
転移の空間の向こうから、翼を広げたセントウレアの姿が見えた。
叫んだフリージアの隣で、レオがポンッ、と手を叩いた。
「セントウレア兄様……」
「数々の試練を乗り越え、よく宝具を守り抜いてくれました」
空間の向こうから校長が全員に話しかけてきた。
そして視線を俺に向ける。
「校長……」
「予言されし光の学舎の子……やはり、あなたたちで間違いはなかったようですね。アユミさん。ブロッサム。そしてシルフィネストさん」
微笑みながら言うと、セントウレア校長の手から光が生まれた。
それが波動で弾き飛ばされたセルシア。そしてネメシアの闇を消し去る際、傷ついたブロッサムの傷を癒していく。
「こ、校長……っ。あの、まだネメシアが……」
「わかっています。ブロッサム。少し下がってください」
ブロッサムに下がるよう伝える校長。
それにブロッサムは、まだネメシアに抱き着いていたことに気づいて、それで大慌てで下がる。
「セント……ウレア……様……」
「ネメシア……あなたの闇からの調べは、ずっと聞こえていましたよ」
「プリシア……プリシアナッツの実ヲ……」
校長を見つめ、再び崩壊し始めた指先で伸ばすネメシア。
闇を消し去ったはいいが、肉体の方は限界突破らしいな。
「ネメシア……可哀相に……」
校長が手を翳し、ネメシアの身体を回復させた。
崩壊しかかったネメシアの身体はすぐに治っていく。
「ヲ……オオ……! セントウレア様ノ輝き……闇ノ中で、どれほど焦がれたコトか……」
校長の癒しの光にネメシアが感激する。
回復したコイツに「ネメシア」と校長が声をかけた。
「私は予言の時をずっと待っていました。それはプリシアナから予言の子らを送り出すため……そしてもう一つ。あなたと再会する時が、熟する時を待つためです」
いつも通りの慈悲深い笑み。
それにネメシアが目を見開いた後、ゆっくり首を横に振る。
「ワ、タシは……すでに闇に染まっております。セントウレア様とお話できる身ではありません……」
「ネメシア。私はあなたが裏切ったと思ったことは、これまでに一度もありませんよ」
「!!」
その言葉にネメシアが驚く。
校長は微笑みながら続けた。
「これでも私はあなたのことを理解していたつもりです。あなたが私の下を去り、闇の世界に行ったのには……理由があるのだと信じています」
「セントウレア様……」
「ネメシア……あなたが闇の世界から奏でていたピアノの音……ずっと聞こえていましたよ。私のパイプオルガンの音も、あなたに届いていたはずです」
校長が言うと、ネメシアは俯きながらも頷く。
「セントウレア様の聖なる調べのお陰で、私は闇の世界の中でも自我を保ち続けることができました……」
「ネメシア……」
「……ですが! ここで終わりではないのです! 私に……私にプリシアナッツの実を!! そうでなければ、私の計画が……!!」
「……計画?」
その言葉にぴくりと反応する俺。
校長はネメシアの言葉を聞いて、だけど静かに首を横に振った。
「これが創成のプリシアナッツの実です。これは予言の子であるアユミさんに託します」
「……え。俺?」
え、何。ここで俺?
戸惑う俺に気にせず、校長が俺に創成のプリシアナッツの実を差し出してきた。
とりあえずそれは受け取っておく。
「なりません! セントウレア様! 子供たちでは……いくら予言の娘や彼でも、アガシオンに勝つことはできません!」
俺とブロッサムを指さして必死に叫ぶ。
……なぜブロッサムも?←
「アガシオンの背後には、魔王アゴラモートの気配がある……子供たちでは始原の鐘を復活させることは不可能です!」
「どんだけ信用されてねーんだよ、俺は」
ボソッとつぶやく俺。
ネメシアはさらに続ける。
「始原の鐘の復活に失敗すれば、セントウレア様は、初代ウィンターコスモスようにその身を犠牲にされてしまう! それだけは避けなくてはいけない! その為に、私は闇の世界にきたというのに……!!」
校長第一なのな←
ネメシアの言い分に「なんだとー!」と反論したのはレオだ。
「失礼なことを言うな! ボクたちもアユミたちも、すっごく強いんだぞ! 魔王なんかに負けるもんか!」
「そうだ。ネメシア。僕たちは必ず、始原の鐘を復活させてみせる!」
「…………」
レオとセルシアの言葉を聞きつつ、それでもやはり心配そうな顔だ。
校長が空間の向こうから語りかけてくる。
「ネメシア……私の身を案じ、自らを闇の世界に置き、予言の時を待ってくれていたあなたには感謝の言葉もありません。あなたがこの子たちを不安に思う気持ちはわかります」
「ですが……」
「見てください。予言の子らの輝きを。この子たちは試練を乗り越え、見事宝具を運んできたではありませんか。ネメシア……あなたには、この子たちの輝きがわかるはずです」
まだ渋るネメシアに、校長は確信に満ちた表情で続ける。
「私は生徒たちを信じているのですよ。聖印の雪窟で私を信じてくれたあなたなら……この子たちの光が見えませんか?」
「セント、ウレア……様……セントウレア様が育てし、光の子ら」
ネメシアが俺たちをじっと見つめてきた。
俺も反らさず、ネメシアに「信じろ」と目で訴える。
「――その瞳の輝き……貴きプリシアナの花の香り。セントウレア様の祝福を受けし子ら……」
「こっちだって黙って殺される気はないからな。だから俺らを信じろよ」
「……そうですね」
俺の意思をそう伝える。絶対勝つから信じろって。
……言い方は俺なりの言い方だけど←
「この子たちなら……その強い意思と覚悟を決めたあなたなら……始原の鐘を完成させることができるかもしれない……」
「ネメシア」
「……だ、が!」
急にネメシアが俺たちに背中を向けた。
その直後だ。最奥からまがまがしい魔力が現れ、俺らに襲ってきたのは。
「……ぐうぅっ!」
「ネメシア!?」
「これがアガシオンの――魔王アゴラモートの力……!!」
ネメシアが俺らを庇うように立ちはだかり、闇の波動を受け止めた。
回復したとは言え、まだ完全じゃない、その身体で。
「ネメシア!」
「え……ボクたちを守ってくれたのか?」
「ネメシア、おまえ……!」
叫ぶセルシア。呆然としているレオ。
俺も二人の間から、ネメシアの背中に向けて声をかける。
「祝福されし予言の娘よ! 今のうちにプリシアナッツの実を手に、皆とともに奥まで走れ!」
「なっ!?」
「これはアガシオンから放たれし波動。奴の力は、完全に復活しつつある!」
「だが……!」
「ネメシア! おまえは!!」
「――私はここで可能な限りアガシオンの魔力を吸収し、果てましょう」
「ネメシアさ~ん……」
「……っ!!」
ギリッ、と強く拳を握りしめた。
何も出来ず、ネメシアを救うことが、ただ悔しかった。
「私の本来の目的は闇の学園に身を潜め、この手で、始原の鐘を復活させることだった……」
「ネメシア……」
「だが今ならセントウレア様が育てし、予言の子らを信じられる。その輝きはセントウレア様の輝き……」
波動を受け止めているネメシアは、顔だけこちらに向けた。
すごく、穏やかな笑顔だった。
「おまえたちになら……託せる……」
「……!」
闇の業火がネメシアを包み込んだ。
そしてその業火でネメシアの身体が崩壊していく。
「そ……んな……っ。ネメシア! こんなところで、その身を捨てるのか!?」
「……セルシア坊ちゃま……ご立派になられましたね。幼い頃のセントウレア様に、よく似ていらっしゃる……フリージア=スノー」
「はい……!」
「一人前の執事になったようだな。セルシア様を……セントウレア様を……ブロッサム様を、頼ん、だ……ぞ……」
「……ま、まだ私だけの力では無理です! ネメシア様! 私にいろいろなことを教えてください!」
「こんな……こんなことってあるかよ……!」
「……っ」
セルシアもフリージアもバロータも。
ブロッサムも、何もできない。
「セントウレア兄様! ネメシアを……ネメシアを助けてください!」
最後の頼みの綱と言わんばかりに校長に叫ぶセルシア。
藁にもすがる、と言った感じだ。
「ネメシア……その闇の業火の中では、その肉体も間もなく崩れ落ちるでしょう……」
「すべては覚悟の上でございます、セントウレア様。……あなた様を……あなた様の教えを信じてきられなかった、私を……お許し……ください……」
ネメシアの目から黒い涙がこぼれ落ちた。
校長への贖罪のように。
「ネメシア……あなたに、これを贈りましょう……」
校長が両手を広げると、ウィンタースノーが花吹雪となって舞い上がった。
それはネメシアを闇ごと包み込む。
「ああ……美しき……貴きウィンタースノーの香りがする……」
「ウィンタースノーは契約の花。ネメシア……どんな闇の中でも、この光があなたを守ります」
「セントウレア様……身に余る……光栄で……ございます」
花に包まれたネメシアが微笑んだ。
けど、無情にも闇がネメシアを飲み込み始める。
「ああ! ネメシアさんが、闇に飲み込まれちゃう……!」
「あ……ね、ネメシア!」
「ブロッサムッ!」
シルフィーの叫びに、再びネメシアへ駆け出しそうなブロッサムの腕を掴んで止めた。
ブロッサムは一瞬震えるが、拳を握って踏み止まる。
「くっ……ブロッサム様!」
「!! は、はい!」
闇の中、ネメシアがブロッサムを呼んだ。
顔を上げ、ブロッサムはネメシアへ向く。
「時間がない……よく聞いてください! あなたはこれから、自分について……“自分の真実”について、悩む時がやってくる……!」
「……え……?」
……ブロッサムの真実?
全員がそれに驚く中、ネメシアは笑みを向ける。
「しかし恐れないで……自分を信じてください……。予言の娘を――仲間を信じてください。ブロッサム坊ちゃま……」
「ネメ、シア……」
ネメシアの言葉の意味はわからない。だけどそれでもブロッサムのことを案じているのがわかった。
呆然となったまま、ブロッサムが指先をネメシアに伸ばす。
「く……くああぁぁぁッ!!!」
「ねっ――ネメシアあああッ!!!」
だけどネメシアは。
……ネメシアは、可能な限りアガシオンの魔力を身体に宿し……俺たちの前で闇の空間に消えてしまった。
「そ……そんな……」
「セントウレア兄様! ネメシア……ネメシアは!?」
フリージアが愕然となって立ち尽くす。
その隣でセルシアが、空間の先にいる校長に叫んだ。
「……ネメシアは闇の世界に囚われました。アガシオンの魔力を抱いた今……彼の身体は、闇に染まっていることでしょう」
「そんな……校長でも、どうにかならないのかよ……」
泣き出すような声でブロッサムがつぶやいた。
絶望感満ちた空間に「けれど……」と校長が言う。
「ウィンタースノーの花が、必ずネメシアを闇から導いてくれるはずです。私がウィンタースノーを通し、こちらの光を送り続けます。必ず……助け出してみせます!」
「兄様っ!」
……どうやら校長は諦めていないらしい。
その言葉にセルシアもようやく安心する。
「校長が大丈夫だって言うんなら大丈夫だね! オーケー、オーケー!」
「ん~……校長が言うなら~、ボクも安心かな~」
軽く言うレオはともかく……まあシルフィーの言う通りかな。たしかに。
「この転移ゲートは間もなく閉じるでしょう。私はここからあなたたちを見送ることしかできません」
「……校長」
「私はあなたたちを信じています。ですが……これだけは忘れないでください。――いつ、いかなる時も、私はあなたたちを愛しています。プリシアナの子らは……私が守ります」
校長が力強く頷く。
それを見て、ようやく俺たちも前を向き直る。
まだ、終わりじゃないからな。
「……ブロッサム」
「え。は、はい」
校長に呼ばれ、ブロッサムが一歩前に出た。
と、校長が何かを取り出す。
「……あなたに、これを」
そう言って、ブロッサムに一つの石を渡した。
それは輝きながらブロッサムの手に納まる。
「これは……」
「“天空の破片”と呼ばれるものです。気休め、と言っては何ですけど……」
「あ、ありがとう、ございます……?」
「……アユミさんには、すでに“彼”が“神のお守り”を渡しているみたいですし」
ブロッサムに渡したあと、校長は笑顔を浮かべたままボソッとつぶやいた。
「……は? 神のって……つーか校長……これ、何なのか知ってるのか?」
「え? 兄様、知っているのですか?」
……が、あいにく忍者学科など学んで、聴力がさらに鍛えられている俺にはバッチリ聞いてしまった。
つーか聞こえてしまった←
「……………………」
それを聞いた校長は固まった。
しかも笑顔で。
「……あの、兄様……?」
「……それではお行きなさい! プリシアナの子らよ! 始原の神々の祝福があらんことを!」
校長は笑顔でそう言うと……魔法で俺たちの傷を回復したあと、転移の魔法陣を跡形もなく消してしまった。
…………って、これ。
「……ごまかされたーーーッ!!!?」
校長にごまかされた!!
だって自分で転移の魔法陣消しちゃったよね!? 俺の質問もセルシアの戸惑いもガン無視したよね!!?
ぜってー何かごまかしてるだろ、セントウレア!!
「えっと……ネメシア様は、大丈夫、ですよね……?」
「あ、ああ。僕たちは兄様とネメシアの絆を信じよう! ……ね、アユミ?」
「……そうだな」
「いいのかそれで……」
何とも言えない顔と表情で、フリージアとセルシアがぶっ壊れたシリアスを何とか無理矢理直した。
ブロッサムがしかめっつらのまま俺を見てきたけど、もう疲れきった俺はあえて何も言わず、そのまま二人に頷いて流れに身を任せることにした。
「……んじゃ、あとは校長のアガシオンだけか!」
「いよいよだね~!」
能天気な二人はとっとと気分を変え、アガシオンに向けて意気込んでいる。
……こういうだけ、この二人がうらやましいぜ。
「そいつを倒せばハッピーエンドってことか……」
「くうぅっ! ついに! ついにきてしまったー! このボクが、ラスボスを倒す時が!」
「あら。レオは怖くないの? 伝説の武器も防具も手に入らなかったのよ?」
バロータの隣で一人感動に浸っているレオに、意外そうな顔でブーゲンビリアがたずねる。
能天気なレオは「あはは!」と笑う。
「伝説の武器や防具なんてもういらないさ! だってもう、ここまで自力でこれたもん! 真の英雄に、そんなずるい武器は必要ないのさ!」
「もう。調子いいんだから……」
チューリップが苦笑する。
ま、うじうじ悩むわけないよな。レオだし←
「いよいよだな……。僕らの手には、ドラッケンとタカチホから預かった大切な宝具もある」
セルシアも気持ちを引き締め、薄れてもまだ闇の力が感じるに最奥に警戒する。
「アガシオンの野望を阻止する三つの宝具だからな……やられちゃ、連中に申し訳ないしな」
「ああ……彼らのためにも……敗北は許されない!」
託された経緯はともかく、それは間違いない。
俺は、負けるわけにはいかないんだ。
世界的にも自分的にも。
「んじゃ、行く「あー、お姉ちゃん!」げっ!?」
いざアガシオンへ、と行こうとした。
が、それは来た道からやってきたアイナによって阻まれた。
「むっ。げっ、て何!?」
「いや、べつに……」
「ちょっ!! 待て待て、アイナ! 落ち着け!」
「まあまあアイナちゃん。今はそんなこと言ってる場合ではないでしょう?」
「きっ、緊急事態です……!?」
さらに奥から変わらずにこやかなユリと、慌てた様子のカエデとリンツェもやって来た。
カエデとリンツェはともかく……ユリ。大変ならもう少し慌てろや。
「何かあったのですか?」
まだ休んでいるはずのこいつらが来たことにフリージアがたずねた。
それに「はい」とにこやかに頷くユリ。
「私たちも休みましたので、アガシオンの元へ行こうと来たのですが……」
「と、途中……モンスターの大群に襲われて……!」
「なんだって!?」
リンツェの言葉に衝撃が走った。
つまり……アガシオンの配下が襲ってきたってことか!?
「敵は強くないけど、数が多くて……それで私たち、何とか助けを求めに来たんだけど……」
「わかった。それなら僕たちが行こう!」
「え!? じゃあ、アガシオンはどうするの!?」
即座に答えたセルシアにレオが驚く。
セルシアは俺の方を向いてにっこりと笑う。
……もはやわかりきったパターンだな。
「まあ……元々俺はアガシオン討伐に行きたかったからいいけど」
「決まりだね。レオノチス君。僕らは他のみんなを助けよう!」
「うー……しかたないかー……」
レオは渋々ながら頷いた。で、セルシアたちは階段の方へ向かっていく。
「ふふふ♪ 物分かりがよくて助かりますわ」
「あのな……つーかおまえらは? ……まさか、ついて来る気か?」
嫌な予感がし、恐る恐るたずねてみると、「うんっ」と頷かれてしまった……。
「……やっぱりですか?」
「相手がアガシオンなら当然だよ!」
「アイナが行くなら俺も行くしかねぇだろ」
「私は楽しめたらそれでよろしいですわ」
「ゆ、ユリ様が行くなら……」
「…………」
……なんて不安なメンツなんだ。
大丈夫なのか、これ?
「まあ……行くしかないんじゃないか?」
「とりあえず強力な味方がいるからね~」
「……どうなっても知らねーからな」
……まあしかたないか。やるしかないよな。
「……んじゃ、行くぞ」
時間が無いのも事実だしな。
――――
あとはアガシオンだけ。
だから、絶対に勝つ。