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忠義の執事

 ミカヅチを倒し、残るはネメシアとアガシオンのみとなった。
 階層も残りわずか。あと少しでゴール&突破だ。

「あと少し……か……」

 あと少しで、俺の勝手な予言とやらもおさらばだ。
 もっとも、その“少し”が面倒なんだけど。

「……やっぱ簡単にはいかない、かな」

「みたいだな」

 俺らは扉前で立ち尽くすセルシア、レオパーティに、嫌な予感バリバリです←
 はたしてこれは何回目のボス戦でしょうか←

「あ、アユミ!」

「よかった。アユミ、無事に着いたんだね」

 2パーティは俺らに気づいた。
 そして中央の扉をチューリップが指さす。

「ねぇ……またなんか音楽が聞こえてこない?」

「音楽?」

 チューリップに言われ、耳を澄ましてみる。

「……ホントだ」

「アマリリス……な訳ないよな……」

 それはないだろう。和解したんだから。
 というか、アマリリスだったらもれなく歌声も付いてくるし←

「この音は……ピアノだ」

 同じく耳を澄ましていたセルシアがつぶやいた。
 フリージアも隣で小さく頷く。

「このメロディは……音域は違いますが、セントウレア様が弾いてらっしゃるプリシアナのチャイムと同じです」

「そういえば……。……つーことは……」

 やはりか……。
 俺らが遭遇していない、最後の門番は……。

「――ネメシア」

 扉を開き、だだっ広い部屋へと踏み入れる。
 やはりというか、部屋の中央でネメシアが、ピアノを弾きながら俺らを待ち構えていた。

「生徒会長エデンを倒し、暗黒教師ミカヅチを倒し……よくここまで辿り着いた」

 ピアノを弾く手を止め、ゆっくり立ちながら俺らを見る。

「やはり、来るのはおまえたちだったか……予言の娘、そしてプリシアナの子らよ」

「やっぱりおまえが最後のガードですか。ネメシアさんよ」

 前に立ち、ネメシアと対峙する俺。
 他の仲間も次々と部屋へ入り込んでくる。

「アハハ! ボクらが最強さ! 今謝れば許してやるぞ!」

「三つの宝具を揃え、予言の時に間に合ったようだな」

「あ! さりげなく無視した!」

「おまえはだあっとれ!!」

 背後でブロッサムがツッコミながら、ベシッ! とレオの後頭部を殴る音が聞こえてきた。
 ……やはりネメシアはセントウレアの執事だな。なぜなら、スルースキルが高いからさ!!←

「ネメシア……おまえは、何を考えている?」

 二番目にスルースキルが高いセルシア(ちなみに一番はセントウレア←)が隣に並んだ。
 兄の執事という男に、声を震わせながらたずねる。

「この宝具で、本当に世界を闇に染めるつもりか? セントウレア兄様のことは……っ!」

「あなたの記録帳を見つけました。セントウレア様への忠義の心は、本物だったはず!」

「それなのに何故!?」とフリージアも訴える。
 ……が、ネメシアもさっきの連中同様、目を伏せ、俺たちから目を反らす。

「……余計なことを話している暇はない」

「ネメシア!!」

「始原の鐘復活には――まだ核が足りないのだ」

「え……核……?」

 ブロッサムの声が小さく部屋に響く。
 核って……宝具以外に、まだ何かあるのか?

「なんだよ……また宝具が不完全とか言うのか?」

「始原の鐘を鳴らすために必要なもの……おまえたちなら心当たりがあるだろう」

「は……?」

 いきなり俺らに棒を振られ、困惑する俺たち。
 え……なんか、あったっけ?

「……まさか」

 セルシアたちと顔を見合わせながら考え込んでいると、再びブロッサムがつぶやいた。

「プリシアナッツの実……か?」

「その通りだ。ブロッサム=ウィンターコスモス。始原の鐘を鳴らすは創成のプリシアナッツの実のみ」

「創成のって……つまり、天然物の~?」

 シルフィーがバロータの後ろから顔を覗かせながらたずねた。
「そうだ」とネメシアは肯定する。

「そして、今もプリシアナ学院の大聖堂で守られ続けていることを、おまえたちは知っていたか?」

「え……なんだと!?」

 驚きなんですけど、その情報!
 軽くのけ反っていると、ネメシアは両手を広げた。そして空間に魔法陣を描き始める。

「な……」

「懐かしい……花の匂いだ……」

「花って……あ!」

 シルフィーが突然指を魔法陣に指す。
 ……って魔法陣の向こうに大聖堂が見えんだけど!?

「! これは……テレポートの魔法陣!!」

「ネメシア! プリシアナを襲うつもりか!?」

「私は……どうしても始原の鐘を手に入れねばならぬのだ!!」

「なんで……どうしてそこまで!?」

「黙れ! 邪魔する者は、たとえウィンターコスモスの者でも許さぬ!」

 急に強気になったネメシアから、突然手から闇の波動を出した。
 そしてほぼ同時に闇の使者が俺たちを取り囲む。

「ど、どれだけいるの~!?」

「こいつらが全部プリシアナになだれ込んだら……」

「学校が壊れちゃうわ!」

「生徒たちだって、ただじゃすまねぇぞ!?」

「ネメシア、やめ……!?」

 死なない程度に一撃を加えようとした時、いつのまにかセルシアが魔法陣の前に立ちはだかった。
 ……え? ホントに、マジでいつそこにいたの!?←

「ネメシア……。僕におまえの考えていることはわからない。心の奥底でセントウレア兄様のことをどう思っているのか……それも想像することしかできない」

「セルシア……?」

「だけど……」とセルシアから光が溢れ出す。

「プリシアナ学院を……闇に染めることだけは、許さない!!」

 力強く言い放ったセルシアに、次の瞬間、両手から大きな光が溢れ出した。

「え……」

「それは……! ウィンターコスモスの光の結界!!」

「わあっ!! セルシア君の全身が光り輝いてる! ま、眩しいよー!!」

 レオのアホなコメントはともかく……たしかにすごいな。
 つーか光が闇の魔法陣と重なって、なんかバチバチと火花が散っている。

「僕が闇の魔法陣を抑えている! その間に闇の使者とネメシアを抑えてくれ!」

「リョーカイ。……となると……やっぱ俺らはボスですよねー」

「言ってる場合かよ!」

「でもやるしかないかも~」

 各自武器を構え、ネメシアと向き合う。
 ネメシアは歯噛みしながら、強大な魔力を溢れ出す。

「くっ……仕方がない……! だが、何人たりとも邪魔することは許さぬ!」

「それは俺のセリフだ!」

 ダンッ、と床を蹴り、刀を構えてネメシアへ突撃する。

「ネメシア覚悟ッ!!!」

 セルシアがずっと持つとは思えない。例のごとく短期決戦、というやつだ。

「うるぁあああッ!!!」

「ベヒモス!!」

 刀を振り上げ、斬り下ろす瞬間、俺とネメシアの間に壁ができた。
 って、執事のくせに精霊魔法を使えるのかよ!

「行けッ!」

「わぷっ……!?」

 土の精霊を呼び、床や天井から岩をボコボコと出してきた。
 床もそうだが、天井からの攻撃はねーだろ!

「灼熱の業火より生まれし精霊――、フェニックス!」

 さらにここで第二撃だと!?
 不死鳥の名を持つ炎の精霊が呼ばれ、部屋を旋回しながら火の粉を飛ばしてきた。
 ……って火事で焼却される!?

「シルフィー!」

「い、イェッサー! 以下省略~っ。セイレーン!」

 あっさり詠唱破棄し、部屋に舞った火の粉を精霊ごと消し去った。
 うんうん。上出来、上出来。

「さてと……ネメシアァァァ!!!」

「!!」

 狙いを定め、ネメシア目掛けて突きを放つ。
 が、ネメシアは小さな魔力の盾を出すと、突きを受け流した。
 ……執事ってそんなことまでできるの?

「このっ……」

「甘い」

 しつこく突きを繰り出し、だが手首を取られ、思いきり引っ張られた。体が浮かび、壁に放り投げられる。

「ゲホ……ッ!」

「アユミ!」

 壁に叩き付けられたあと、ブロッサムの声が響いた。
 ま、まさか、背負い投げを決め込まれるとは……。そういや執事学科って、刀と体術で戦うんだったな……←

「いつつ……」

「おい、大丈夫か?」

 ブロッサムがヒーリングをかけてくれた。
 おかげで体中の痛みが引いていく。

「サンキュ、ブロッサム」

「これくらい……けど、どうするか……」

「戦闘もオールオーケーなんだしね~……」

 基本は精霊魔法で吹っ飛ばし、だが攻め入ったところで体術で反撃される。
 ……なるほど。たしかに難しいな。

「同時に攻めるって手はあるが……」

「相手は執事さんだからね~。魔法壁があるよ~」

 そう、それが最大の難関だ。
 もっとも、フリージアやスティクスみたく、大規模な障壁は作ってない(精霊魔法って、それなりに魔力を使うからな)からまだいいけど……。

「…………」

 どうしようかな……。

「1.魔法で攻める。2.連携で接近戦で仕留める。3.捨て身。……かな」

「え? いきなり何!?」

 いきなりの俺の発言に、ブロッサムがツッコミを入れてくれました← ……そんなことはどうでもいいな←
 魔法で攻める? ……いや、精霊魔法で相殺されるな。
 じゃあ連携で接近戦。……体術と魔法壁で防がれるな。
 ……残るは……。

「……ブロッサム。シルフィー。あのさ。勝つために、ちょ~~~っとご協力して欲しいんだけど」

「「…………」」

 そう言うと……スゲーしかめっつらされた。
 何て言うか……「ああ、またかよ……」みたいな感じ――って失礼だな、コラ←

「おまえら、なんだよ。その顔は……おっと」

「いや~、だって~……」

「またおまえの無茶難題かと思うと……なあ?」

 ネメシアが喚んだベヒモスの攻撃を避けつつ、二人に呆れ顔を向けられる。
 うー……そりゃあたしかに、無茶の十回や二十回や三十回、は……んー……。

「……と、とにかく! 時間をかけられないし……即刻倒さないと……」

「はいはい。わかったって……」

「う~、しょうがないな~……」

 とりあえず二人は納得してくれました←
 よかったよかった……さて。
 ……ネメシア、どうしようか←

「……シルフィー。ネメシアが強い精霊魔法使った時、魔法壁で何とかできるか?」

「え? う~ん……多分、できると思うけど」

 よし……なら……。

「シルフィー、ネメシアが精霊魔法使ったら魔法壁で防げ。で、イグニスでネメシアに目眩ましをかけろ」

「え? い、イグニスで目眩まし?」

「ああ」

 べつに本気で当てなくていいから。
 そう伝えると、「は~い」と、とりあえず不安なく頷いた。
 ……腕に期待するか。ほとんど賭けだけど←

「さて……ブロッサム、おまえはだな――」

「あ?」

 ネメシアから目を離さず、ブロッサムに素早く耳打ち。

「…………アユミ」

「なんだ」

「鬼かおまえは」

「ハッハッハー。……終わったら軽い体術――いや、護身術習おうか。手取り足取り――」

「それは賛成だが、おまえからは絶対嫌だ!」

 断られた……チッ←
 ――コホン。まあバカ話は置いといて……。

「じゃ、ブロッサム。やること、よろしくー♪」

「はいはい……はあ……」

 ブロッサムがため息をつきながら杖を構えた。
 その心意気や良し……にっ、と笑いかける。

「んじゃ……行くか!」

 刀を構え直し、ネメシアと向き直った。
 直後、ネメシアから魔力が立ち上る。

「これ以上邪魔されては敵わん……終わりにしてもらうぞ!」

「……!」

 魔力が、一段と濃い……ってことは、来るか!

「すべてを浄化せし、清浄なる精霊よ。我が命の下、今ここに降臨せよ!」

「……!」

 ディアボロスには似つかない、清浄な光の魔力。

「いでよ――セラフィム!」

 ウィスプより上位の光の精霊――セラフィムがネメシアの前に現れた。
 強大な光の力が俺らの前に集まっていく。

「……シルフィー!」

「い、イェッサー!」

 爆発する寸前、抜け出し、俺はそのままネメシアに斬りかかった。
 もちろん魔法壁で弾かれたけどね←

「……予言の娘よ。ブロッサムや仲間を見捨てて特攻か?」

「見捨てたわけじゃないけど……おまえと違って」

 刀で押し合いをしながら、思いきり皮肉ってやる。

「……生意気な口を……!」

 ……わずかだけど、ネメシアの目が釣り上がった。
 意外とわかりやすい奴だな。

「じゃあ言いなよ。本音と真実をよ」

「ほざけ……!」

 怒りに任せて押し切ろうとしているが、瞬時に目が見開く。
 周りに熱が急上昇する。

「火炎の炎帝、すべてを飲み込む! イグニス~!」

「ッ!!!」

 シルフィーのイグニスが、俺ごとネメシアを包み込んだ。
 流石のネメシアも俺から離れ、魔法壁による防御を行う。

「くっ……これはただのめくらましだな……っ! その程度で私を騙したつもりか!?」

 やっぱり騙されない、か。
 ……まあこれも想定内だけど。

「くっ……! どこだ!?」

 揺らめく炎の中で、ネメシアが俺の姿を捜している。
 ……チャンス!

「もらった!」

「!!」

 炎のめくらましが有効な中、すかさず真後ろからネメシアに攻撃を仕掛けた。

「残念だった……!?」

「っぐ……っ!!」

 もちろん、反射神経のよろしいネメシアは両手の魔法壁で防いだ。
“ブロッサム”の攻撃をな。

「おまえは……!」

「かかったな!!」

 響いたのは、またも俺の声。
 すかさず俺が後ろからネメシアの背中を斬りつけた。

「ぐはああぁぁぁっ!!」

 ブロッサムの攻撃を両手の魔法壁で受け止めていたため、がら空きだった背中に簡単に一撃を与えることができた。
 ほぼ数秒間の出来事だな。

「い、いつの間に……」

 斬られた背中を押さえながら、ネメシアは俺を睨む。
 死なない程度、とは言え、一撃がさすがにキツイらしいな。やっておいてなんだけど←

「真っ正面から突っ込んでも勝てそうに無いんでな。多少卑怯な手を使わせてもらった」

「ぐっ……さ、先のイグニスは、“二重”のめくらまし、ということか……!」

「まあな」

 刀を収め、体勢が崩れているネメシアと向き直る。
 ネメシアの言う通り、イグニスによるめくらましは二重の意味を持っていた。
 一つは、炎による単純なめくらまし。
 もう一つは、突撃するのがブロッサムとわからせないよう気配を隠すため。
 俺が背後に回っても、勘の良いネメシア相手ではすぐに防がれるからな。一瞬でも隙を作るために、ブロッサムに突っ込んでもらったってわけだ。

「この際なりふり構っていられないんだ。おまえを倒せば、次はアガシオンだからな」

「なるほど……さすがだ……預言の娘。そしてプリシアナの子らよ……」

 戦いの構えを解いたネメシアは、俺たちと、そして後ろのセルシアたちに見ながら続ける。

「あの方の輝きを、おまえたちからも感じるぞ。その光に身を灼かれ、この身を滅ぼすなら悔いはない……」

「ネメシア……」

 静かな口調。先程より落ち着いた感じに、俺らも終わりか、と思っていた。

「……だが!!」

「!? うぁッ!!!」

「アユミ!?」

 時だった。ネメシアに腕を取られ、思いっきり壁まで吹っ飛ばされたのは。

「今ではない! 今、ここで終わるわけにはいかぬのだ!」

「なっ……!」

 ネメシアの瞳が完全に漆黒に染まったのが見えた。
 さらに全身からは力尽きた時のエデンと同じ、闇の炎に包まれている。

「くおおぉぉぉ!!」

「ネメシア、やめろ!」

「そう……そうだ……! もっと……もっと闇の力を私に注げ!」

 セルシアが叫ぶけどネメシアには届かず、闇の空間から溢れる魔力の流れを、ネメシアは自らに注ぎ込んでいた。

「コホオォォォ……」

「ね、ネメシアさんが~……っ」

「あいつ……」

 ネメシアに怯えるシルフィー。
 あいつは闇の力を取り込んだため、身体も闇の炎に蝕まれていた。

「……なるほど。闇に侵食されるというのは、こういうこと……か……。自我を保つことすら、厳し、イ……」

 重低音が部屋に響いた。
 ……完全に、エデンと同じだ。
 唯一違うのは、ネメシアが何かの為に、まだ自我を必死に保ってることぐらいだ。

「私ガ……私デ、イラレルノモ……アト、少シ……カ……」

 自らの身体の限界を察ししたらしく、急に目つきが変わった。
 闇に捕われながら、俺を倒すことに執着してた、エデンと同じ目。

「ハアッ!」

「!? くっ!!」

「セルシアっ!!」

「セルシア様!」

 ネメシアの手から放った闇の波動がセルシアを襲った。
 それにセルシアが弾き飛ばされ、ブロッサムとフリージアが同時に叫ぶ。

「だ、大丈夫だ……。ネメシア……おまえは、どうしてそこまでして……!」

「ネメシア! おまえ、自分を闇に焼き尽くしてでも、世界を闇に染めたいのかよ!」

「……私ニハ……私ニハ、始原の鐘ガ……ドウシテモ必要ナノダ……!!」

 二人のセレスティアの叫び。
 だけどそれさえも無視し、苦痛に顔を歪めながらも闇の魔法陣に手をかけた。

「クハアァァァッ!!! 闇ガ、コノ身ヲ蝕ム……!」

 すさまじい音が魔法陣から響いてくる。
 ネメシアが苦しみに耐えながら、力付くで転移の空間を広げやがったからだ。

「やめるんだ、ネメシア!! 本当にプリシアナを滅ぼす気か!?」

「必要ナノダ……アレガ……プリシアナッツノ実ガ……!」

「ネメシア!?」

「ク、クウゥゥゥ!! 指が焼け落ちる! ……コレホドマデカ! 魔王カラ呼び覚まし……魔力は!」

 さらにその身を使い、どんどん転移の魔法陣を広げていった。
 それと同時に闇に焼かれ、ネメシアの身体がどんどん崩れていく。

「! こっちの闇の使者の力が弱まってきたよ!」

「闇の使者の力も、ネメシアさんに吸収されてるんだわ!」

「ヤダ……まるでゾンビみたい……」

 レオパーティが周りにうろつく闇の使者を見ながら言った。
 俺も見ると、闇の使者たちは苦しそうなうめき声を上げながら、ネメシアに吸い取られているらしい。

「アユミちゃん、大変~!」

「アユミ、ネメシアが!」

 ブロッサムとシルフィーの声に、視線をまたネメシアへ。
 闇の炎に焼かれたネメシアが、ズルズルと空間を這いずっていた。

「おい! コイツ、止められないのかよ!」

「ダメだ! 闇の力が強すぎて近づくことすらできない!」

「ふざけんな! このままじゃ……!」

 バロータ、セルシアに怒鳴り、また刀を抜く。
 殺してでも止める覚悟でいた。

「ダメです、アユミさん! 不用意に近づけば、私たちも闇に飲み込まれてしまいます!」

「フリージアっ! けど!」

 フリージアに捕まってしまった。
 止めることもできないのかよ……!

「懐カシキ……プリシアナ学院……コノ力ヲ持ッテスレバ……創成ノ実モ、手ニ入レラルハズ!!」

「ネメシア……なんでそこまで……」

 フリージアに止められ、俺は再び見るだけしかできない。
 ネメシアはその間にもボロボロの状態で進んでいる。

「アト少シデイイ……身体ヨ……保ッテクレ……!」

 ネメシアはもう意地で進んでいるようだ。
 なんでそこまで……。

「このままじゃ、ネメシアさんが学院の中に入っちゃうよ~!!」

「これだけ強大な闇の力が学内に入れば、学院もただでは済みませんよ!?」

「闇の爆弾ってとこか!?」

「……結局僕は……誰も救えないのか……!?」

 止める術がない俺たち。
 見ているしかできないため、全員が悔しそう表情を浮かべるしかなかった。

「……だ」

「……? ブロッサム……?」

 その時だ。ブロッサムがボソッと「嫌だ」と首を振ってきた。

「嫌だ……ふざけんなっ! こんなこと……こんなこと、あってたまるか!」

「ブロッサム!?」

 ひとしきり叫んだあと、ブロッサムはネメシアに抱き着いて止めた。
 ……って、何やってんだ、あいつは!?
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