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黒髪乱れし修羅となりて

 ――――

 ブロッサムSide

「アユミッ!!!」

 嘘だろ……あんなあっさり一撃を喰らうなんて……!

「なんて速さだよ……まったく目が追いつかねぇぞ!?」

 バロータの言う通りだ。
 アユミだけじゃない。俺もみんなも、この場にいる全員が動けなかった。

「おまえ……よくも!!」

「ふん」

 怒りに任せ、ミカヅチ目掛け、杖を振り上げる。
 が、ミカヅチはあっさり片手で防いだ。

「心を乱すな。こんなもの、隙だらけだ」

「ぐっ……!」

 杖がびくとも動かない。
 どれだけ力を込めても、ミカヅチには通用しなかった。

「だからって……諦めてたまるか! あいつが……あいつが……!!」

 アユミがやられたのに……アユミをやった奴にだけは、負けたくない!

「くそっ……」

「…………」

 杖を握る手が汗ばむのを感じる。
 どうすればいいか考えを巡らせていると、小さくミカヅチがつぶやいた。

「――所詮貴様は“生き写しの人形”か」

「……え?」

 俺が、人形……?
 え……どういう――。

 ヒュッ――ドスッ!

「む……!」

「あ……」

 その時だ。
 風を切るような音がして、そしてミカヅチの腕に脇差が突き刺さったのは。

「――テメェ……面倒な真似しやがって……」

 そして崩れた壁の中から、“異常なくらい膨大な魔力”とともにアユミの声がしたのは。

「な……何やコレは!?」

「なんか、すっごいビリビリする……」

 カータロやレオもその高すぎる魔力を感じている。
 これほどまでに高い魔力……まるで、アガシオン並のプレッシャーだ。

「アユミ――」

 土煙に映るシルエットを見て、だけどすぐに疑問を感じた。
 ――何かが違う、と。

「ミカヅチ……枷をぶっ壊したんだ……覚悟しろ」

 土煙の中から徐々にそのシルエットが現れる。

「アユミ……?」

 現れたのはアユミだ。間違いなく。
 ……だけど。

「アユミさん……髪の色が……」

「……それに、長くなってる」

「身長も、でかくねぇか?」

 フリージアもセルシアもバロータもそれぞれつぶやく。
 今のアユミは膝まである黒に近い藍色の髪。そして身長も伸びている……多分、170はあるんじゃないか?

「あーあ……説明すんの面倒くせぇのになあ……」

 ……声もより低く感じる。
 なんだか……こう、急成長したみたいな……。

「素晴らしい……!」

 ここで感嘆の声を上げたのはミカヅチだった。
 心の底から楽しそうな声を出している。

「自身の姿すらも変化させるその魔力……人間にしておくには実に惜しい」

「人を化け物みたいに言うな。言っとくが、今の俺はその気になればおまえ一人くらい簡単に消せるぞ」

 いや、その発言自体すでに人外な気が……。
 ってそれは今はどうでもいい。

「魔力で変化って……」

「高すぎたり異常な力は器に影響が出る。俺の場合はアガシオンの大量の闇の魔力や呪いを受けている。魔力に変換したとは言え、異質な力は自身に悪影響だからな」

「つまり……過剰な魔力を取り込んだことによって、身体に影響が出ている、と?」

 フリージアの指摘に「そ」と短く答えた。

「『転換の呪』による『枷』を着ければ戻るんだけどな……今では完全に俺の力だから、一度解放するとヤバイんだよ」

「どうヤバイんだよ」

 バロータの言葉に「んー」と考えながら、ミカヅチに刀を向けた。

「爆弾みたいなもんだし……魔力を全てぶっ放したら、ここと学園のある大陸は軽く吹っ飛ぶな」

『…………』

 ……今、サラっととんでもないこと口走ったよね……? それ絶対危険度マックスだよね!!?

「それ、危ないどころか~……」

「絶対危険なの!」

「だ~か~ら~……」

 呆れたようにフェアリー二人に言い、

「――短期決戦がいいんだよ! マジで!!」

 瞬間、ミカヅチに強烈な踵落としを決め込んだ。

「む……! 貴様……!」

「まだまだあ!」

 そこでさらにムーンサルトで後退しつつ一撃を加えた。
 ……つーか待て……目が追いつかないんですが!?

「それほどの力を抑制していたとは……! 戦いがいがある!」

「テメェが完全にリミッターを外したんだからな。言っとくが、楽には終わらせねぇぞ!」

 叫びつつ、刀と拳の無双撃が始まる。
 ……二人の会話から察するに、どうやらアユミは呪いを解くと一気に強くなる(どっちかっつーと、真の実力?)らしいな。

「その力、いつまで持つかな?」

「やらなきゃダメならやるまでだ!!」

 超人バトルを見ているしかない俺らは、アユミの無事を祈るしかない。

「アユミさん……」

「アユミ…………っ」

 結局いつも、俺は肝心な時には助けてやれない。
 何もできない自分自身に苛立ちが込み上げてきた。

 ――――

 アユミSide

「うるぁ!!」

「ぐっ……!」

 刀の一撃を叩きつけ、ミカヅチを怯ませた。
 最初は余裕の表情を見せていたミカヅチも、次第にその顔を歪ませていく。

「ぐっ……おのれ、小娘が!」

「ハッ……こんな状態で負けてたまるかよ」

 リミッター解除した状態は開放的で動きやすいが、同時に大きく疲れが出るし……あまり使用し過ぎると、高過ぎる魔力により、生命力が侵蝕されてしまう。早いとこ決着を着けたい。

「くたばれ!」

「おっと」

 ミカヅチも悪あがきにまだまだ反撃を繰り出してくる。
 ……が、最初よりはパターンが読めてきた。
 あいつも結構ダメージを受けているからな。

「なら……」

 ミカヅチから距離を取り、刀を両手で構える。
 もううだうだやってる暇は無いからな……。

「ミカヅチ!」

「……!!」

「歯ァ喰いしばれやあッ!!!」

 ミカヅチの懐に潜り込み、大きく振りかぶって斬りつけた。

「ぐぉおおおっ!!!」

 斬りつけられ、鮮血を撒きながらよろけるミカヅチ。
 できればここでくたば……じゃない← 倒れてくれるとありがたいんだけど。

「ぐ……!」

 あ。また立ち上がった。……まだやる気か!?

「な、ぜだ……この私が……敗れた……だと!?」

 敗北認めました←
 ……どうやら思っているよりダメージがでかいらしいな。
 床に血の染みが付きはじめているし。

「俺が……何故……!」

「ミカヅチ。おまえ、しつ、こ……」

 ミカヅチに怒鳴ろうとした瞬間……なんかふらっと目眩がした。

「危ない!」

 よろける寸前、フリージアに抱き留められた。
 うぉ……。地面と頭突きしなくてよかった……。

「ごめん……ありがとう……」

「いえ……あの……大丈夫、ですか?」

「ああ……平気……」

 多分ひさしぶりだから、身体とか追いつかないだけだと思う。
 フリージアに礼を言いつつ、再びミカヅチの前に立つ。

「俺の勝ちだ、ミカヅチ」

「な……何故……闇の……闇の力は!!」

「その闇の力こそが、おまえの敗因だ」

 俺の隣にセルシアが立った。
 反対側にいるフリージアもミカヅチに言う。

「人は、敗北を繰り返して強くなるもの。闇の力に頼るということは……己を磨くことを放棄しているのですよ」

「つまり、おまえは闇の学校に入った時点でレベルアップしなくなっちゃったんだよ!」

 ひょこっと顔を出したレオもあっけらかんに言う。
 相変わらず単純だなぁ……。

「そうや……ミナカタ先生もいつも言っとったわ……玉は磨けと……磨かんと巡りが悪くなると……」

 よろよろと立ち上がりながらつぶやくカータロに「ちょっと違うの!」とトウフッコが訂正する。

「玉は磨けば光る。光り輝けば、それは光となる。心身を鍛え続けること、それはすなわち、自らを光と化すことだ――なの」

「私たちはミナカタ先生の教えのもと、常に鍛練を積み重ねてきたわ!」

 トウフッコに続き、ロクロも凜とした態度でミカヅチに叫んだ。

「――なるほど……な。それが真の力というものか……」

「理解したか?」

「ああ。私は、負けておくべきだったのかもな。真の敗北を知らなかった故に、往くべき道を見誤った……」

 わずかだが遠い目をするミカヅチ。
 すぐにその目をこちらへ向ける。

「敗北こそが人を強くする。そんな簡単な真実にも、私は気づけないでいたのか」

「改心した? それならそれでオッケーだよ!」

「いい先生になるんなら、ボクたちに力を貸して~!」

 ……おい。いくらなんでもそれは早過ぎだろう←

「そうや。戻ってきたらええ。ミナカタ先生は度量の大きい先生や。きっと許してくれるで?」

「ミナカタ……」

 カータロの言葉にミカヅチがつぶやく。

「そうだな……あいつはそういう男だろう……」

 納得し、だけですぐ「だが」と首を横に振った。

「今は、できんよ」

「なんでなの?」

「今の私にミナカタと肩を並べ、タカチホの地を踏む資格は無い」

「そんな……」

 悲観するミカヅチに、アイナがしょんぼりと悲しそうな目をする。

「だが、私がもう一度己の心身を見つめ直し、手に染めた闇を振り払えた時……その時こそ……」

 ぐっと拳を固め、まっすぐ俺らを見る。

「この力を諸君に貸そう」

「ミカヅチ……」

「今はさらばだ。プリシアナに祝福されし子ら。そして我が誇り高きタカチホの子らよ」

 フッ、と小さく笑いながら、クルリと背を向けた。

「いつか……また――」

 そう言うとミカヅチに、白くまばゆい霧が取り巻き出した。

(光の……綱……?)

 そしてミカヅチの姿は光の中に溶け込み、そして消えていった。

「行っちゃいました~……」

「次に会う時は、タカチホの先生と生徒……ってことかしら?」

「はは、それは大変そうだな」

「ふにゃ~。厳しい先生が、一人増えちゃいそうねン」

 ネコマの耳と尻尾が垂れ下がった。
 たしかにミナカタ先生と張る強さを持ってるんだ。相当大変だろうな。

「でも、いい奴になったっぽくてよかったー」

「うんうん! ミカヅチ先生みたいな人がいつまでもいたら、気が抜けないもん~……」

「レオ! シルフィーさん! 今はどんな時も気は抜いちゃダメよ!」

 呑気なお子様コンビはのほほんと頷きあった。そこをブーゲンビリアが注意する。
 相変わらず脳天気なこった。

「過ちは償うことができる。彼ならきっと素晴らしい先生になって戻ってきてくれるだろう」

「そうですね」

「……ならいいけど」

 セルシアに頷くフリージア。反対にブロッサムはどっか不機嫌そうにつぶやく。
 ……なして?←

「はあああ~……っ。今度こそ本当にスタミナ切れや~……」

「ホント。さすがに、休憩が必要ね……」

 盛大に息を吐きながらヘロヘロと倒れ込むカータロに続き、ロクロも膝を押さえながらため息をついた。

「大丈夫か。おまえら?」

「今は何とか……って俺らのことより!」

 ここでカエデがハッとしながら俺に向き直る。

「! そや! アユミ、大丈夫でっか!? 呪い解けてしまったんやろ?」

「! あ! そうだよ、大変だよお姉ちゃん!」

「しかもアガシオンの呪いを受けてたって! どう考えても変換量がヤバい気がすんだが!?」

 ああ、そのことか……。
 そういや、ミカヅチに呪いを無理矢理破壊されたんだっけ←

「大丈夫だよ。またかけ直せばいいんだから」

「アユミ……かけ直すって、そんな簡単に」

「もう慣れてるから平気だよ。つーか離れろ。早速かけるから」

 全員から距離を取り、早速魔力を練り出す。

「――呪詛、展開」

 転換の呪の言霊を唱える。魔力が鎖状に変化し、それが俺の身体に巻き付いてくる。

「ぐっ……」

「アユミ!?」

 首にまでかかるならな……っ。
 驚くブロッサムが一歩踏み出した瞬間、

 ガキンッ!!!

「わっ……!」

 魔力の鎖が音を立てながら、紫色の強い光を放った。
 ブロッサムたちが目をつむる。

「……ふう。あー、首痛ェ」

「……あ」

 彼らの目が開く。
 俺の姿は、いつもの姿に戻っていた。首にはきっちり呪いの刻印付きでな。

「あれが……『転換の呪』、ですか……」

「そ。魔力に着ける枷。目には見えない呪いの鎖が、俺を縛ってるってこと」

「だから鎖か……」

「たしかに、さっきより魔力が大幅に減っているな……」

 セルシアパーティがまじまじと俺を見る。

「大丈夫か、アユミ。……平気か?」

 その隣でブロッサムが俺をじっと見る。
 それはもう、今にも捨てられそうな子犬みたいな目で←

「ん、だいじょぶだいじょぶ。俺にとってはいつものことだし」

「そう、か……なら、いいけど」

「はいはい。……んなことより」

 ブロッサムににこりと微笑んだあと、タカチホ一同に目を向ける。

「おまえら、マジで大丈夫か?」

「んー……休めば大丈夫だけど、今、ぼくたちが襲われたら危ないの」

 そう言ってトウフッコは俺を見て笑いながら一言。

「……という訳で。タカチホの宝具はアユミたちに預かってもらった方がいいと思うの」

「そうか……ってなんだと!?」

 トウフッコの言葉に頷き、だが一瞬、その言葉に目を見開く。
 なんでどいつもこいつも俺に渡すワケ!?

「そうねン。ここで宝具を奪われたら、タカチホの面目丸つぶれだもんねン」

「さすがトウフッコ!」

「さ、賛成なんだな」

 トウフッコの言葉にネコマパーティが一斉に賛成。
 おまえら人に勝手になすりつけないでくれる!?

「ほな、ちょっとの間、宝具は預けるで!」

「というわけで……はい、お姉ちゃん♪」

「わかった。ほらアユミ。受け取ってあげて?」

「なんでテメーが仕切っとんのじゃ、セルシアァ!!!」

 キレながらセルシアに右ストレートを放った。だが拳はセルシアの右手にあっさり収まる。
 ぐ……おのれぇぇぇ……!!←

「気持ちはわかるが落ち着け。……とにかくほら。先に行こう」

「アユミちゃん、どうどう」

「馬か俺は!!」

 シルフィーをギッと睨む。が、すぐにバロータを盾にした。最近小賢しい知恵を付けやがったな。
 ……まあとにかく。なんやかんやで俺たちはタカチホの宝具“双竜の注連縄”を受け取った。

「めんどくさい……」

「ドラッケンでのシリアスはどこに行った……」

 それはそれ。これはこれだ←

「無理するなよ! スノーマン!」

「誰がスモウマンやねん! ……あ、あれ?」

「あはは。引っ掛かってやんの」

「それだけの元気があれば、大丈夫そうね」

 レオの言葉に引っ掛かったカータロ。
 たしかにブーゲンビリアの言う通り、これなら大丈夫だろうな←

「アユミ! 私たちもすぐに追いつくから!」

「頼みましたよ!」

「はいはい、頑張りますよコンチクショウ……」

 エールはとりあえず受け取っておく。
 ……なんでこんな英雄フラグが立ってるワケ?

「……急にめんどーになりました。だからブロッサム。敵が来るまでぎゅーってしてくれ」

「するかっ!!!」

 提案は即却下されました。
 そんなこんなで、結局俺は宝具を三つも預かりながら、重い足取りで進むことにするのだった。

 ――――

 次に待ち受けるのは、

 ウィンターコスモス家とスノー家との因縁。

 はてさてどうなることやらか。
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