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黒髪乱れし修羅となりて

 不本意な終わり方だがエデンを倒し、残るは暗黒教師のみとなった。
 仕掛けを解除し、少しずつだがゴールに近づいていく。

「……あれは!」

「!!」

 先に進めば、今度はタカチホ義塾のパーティ全員が倒れていた。

「お姉ちゃん……?」

「あ……」

 そしてその中に妹が……アイナが倒れている。
 ……頭の中が、真っ白になっていく。

「アイナ……アイナ!?」

「私は大丈夫……。お姉ちゃん……それより、みんなを……」

 アイナの視線を辿ると、向こうから闇の気配が立ち上る。

「諸君の実力は認めよう。だが……我らの野望が潰えぬ限り我が身も決して滅びはしない」

 ゆらりと現れたのは……ミカヅチだ。

「カータロ君! ネコマさん! 大丈夫か!?」

 セルシアパーティとレオノチスパーティもやってきた。
 それぞれカータロやネコマたちに付き添う。

「み、ミカヅチの奴……一回倒したはずなのに、また起き上がってきたんや……」

「闇の力を使ってるからなのン。これじゃ、何回戦っても同じだわン」

 言ってミカヅチに視線を向ける。
 ……なるほど。エデン以上に闇のオーラが立ち上っているな。

「それが諸君の限界だ。悲しかろう? 限界を知るのは。辛かろう? 敗北は」

「……だから、なんだ」

「より強い力を得るには正攻法ではダメなのだ。時には闇の力さえ我が物にしなくては……な」

 喉の奥で笑いを噛み殺しつつ、その視線を俺に向ける。

「ミカヅチは強さを求め続けて、闇の世界に足を踏み入れるやがったんだ……!」

「強さを……」

 カエデの言葉を聞きつつ、ミカヅチを睨み返す。

「コイツもエデンと同じかー。みんなカンニングが大好きだな」

「カンニング、だと?」

 レオの言葉に、ミカヅチがぴくりと反応する。

「だってさ、闇のパワーとか使って強くなるとかずるっこだろ? そんなのは本当の強さじゃない!」

「レオノチス君の言う通りだ。真の強さとは、何にも頼ることのない自分自身の強さだ」

「英雄とは自分自身と戦い続けることだって、グラジオラス先生が言ってたもん!」

 レオとセルシアがミカヅチに訴えた。
 しかしミカヅチは嘲笑を浮かべ、俺たちを睨み返す。

「私に説教とは、面白い。諸君のような若造に何がわかる?」

「つーと?」

「強さとは……自らの手でもぎ取っていくものなのだ!」

 そう言って、ミカヅチは全身からどす黒い霧を漂わせる。
 すると霧の中から、とんでもない数の闇の使者が姿を現した。

「す、すごい数のモノノケだ!」

「ただのモノノケではない。私の闇の力を分け与えた、特別仕様のモノノケたちだ」

「特別って……なんか手強いっぽい~!?」

 シルフィーが泣きながらバロータの足にしがみつく。
 その間にもモノノケたちは、俺たちを取り囲んでいた。

「プリシアナの精鋭諸君。はたして諸君は太刀打ちできるかな?」

 この野郎……ずいぶんとセコい真似しやがって。

「も、もうあかん……わいらに戦う力は残っとらん……」

「カータロ……テメェ、何情けないこと言ってんだコラ」

 弱音を吐いたカータロをギロッと睨む。
 ふざけんな。こんなところで諦めんなや。

「情けないことを言うなー! こんなずるっこ先生に負けていいのか!? タカチホのスモウマンはもっと強いはずだぞ!」

「そうだ! 君たちが闇の力に負けるはずがない!」

 レオ、セルシアも俺の言葉に続く。

「タカチホの先生方は……もっと素晴らしい教えを君たちに託したはずだ」

「にゃ……先生の教え……ミナカタ先生……」

 その言葉にネコマが猫耳をぴくりと動かした。
 他の連中も再び闘志を燃やし、むくりと立ち上がる。

「そうや! ここでミカヅチに負けたら……ミナカタ先生に会わす顔があらへん!」

 そう言ってタカチホ義塾のみんなが立ち上がる。
 先程の諦めきった表情はない。

「ほう? 立ったか……だが! 何度やっても同じことよ!」

「そんなこと、全然ないもん!」

「何を言うかと思えば……! やれるもんなら、やってみやがれ!」

 シルフィーの肩を借り、よろよろと立ち上がりながらアイナとカエデが叫んだ。

「ミナカタは優秀な教師になったようだが、生徒たちに“絶望”というものを教えなかったようだな……ならば、代わりに私が教えてやろう!!」

「ハッ。死んでも願い下げだな」

 こいつにだけは負けたくない。
 絶対、死んでも。

「負けるな! カータロ君たち!! 諦めたら、その時が敗北だ!」

「セルシア君の言う通りなの! ぼくたちは……まだ、戦えるの!」

 トウフッコは精一杯羽を動かしながら拳を固める。

「一回で勝てないなら何回でも戦えばいい! 戦えば戦うほど、経験値が入るんだからお得だよ!」

「お、面白いことを言うんだな」

「けれど、その通りかもしれませんね!」

 レオのエールにノッペ、ヌッペも武器を構えた。
 カータロも「よっしゃ!」と拳を打ち付け、小気味よい音を鳴らす。

「だけど……もう一回ミカヅチにぶつかっていくだけの力はあらへん……」

「お姉ちゃん! モノノケたちは私たちで倒すからミカヅチをお願い!」

 あ、やっぱり?←
 ……まあ一回やり合ったみたいだし、今回は許してやろう。

「結局俺か……」

「まあまあ……それより来るぞ」

 ブロッサムに促され、刀を抜いて構えた。
 武器を構える俺に、ミカヅチは愉快そうにみる。

「やはり貴様が相手か……」

「なんだよ。俺では不満か?」

 挑発するように言えば、「まさか」とミカヅチは不敵に笑う。

「三学園最強の戦士であるおまえを倒せば、彼らは大きく絶望するだろう」

「そうでなくとも」と俺に……俺の首筋に鋭く視線を向けた。

「俺と“同類”たる貴様なら、多少は楽しめそうだからな」

「……!」

 こいつ……。

「同類って……」

「黙りなさい、ミカヅチ。アユミさんがあなたと同類って……失礼にもほどがあるでしょう!」

 俺と同じく気づいたブロッサムが息を呑んだ。代わりにフリージアが怒鳴る。
 ……が、ミカヅチは気にせず、「知らぬのか」と笑いながら一蹴する。

「闇の力を得た俺にはわかる……アユミ、貴様は俺と同じだろう?」

「……何のことだ?」

 一応とぼけるが「無駄だ」とあっさり否定される。

「貴様に宿るその“呪い”……俺が気付いていないと思ったか?」

「…………」

「!!」

 目を見開くブロッサムとは反対に、俺は無表情のままだ。

「呪い、って……」

「ど、どういうこっちゃ!?」

「おい、アユミ! おまえに呪いって……!」

 セルシアやカータロ、カエデたちが驚いている。
 ……まあ当然ですよねぇ←

「呪いって……お姉ちゃん……」

「……否定はしない。ミカヅチ。呪いがあるのは、確かな事実だ」

 片手でネクタイを外し、わずかに首元――そこに刻まれた、『転換の呪』を晒す。

「アユミ……」

「ええええええ!! じゃあ……アユミの強さも、実はカンニングだったのか!?」

「ちょ、レオ!!」

「いいさ、ブーゲンビリア。あながち間違いじゃないし」

 俺を締め付ける『枷』を感じながら、やんわりと首を振った。

「ほう……『転換の呪』か。小娘の分際で、よくそのような高度な呪いを扱えたものよ」

「何としても“魔力を封印しなくちゃいけなかった”んだ。必死にもなるさ」

「『転換の呪』……! おまえが“一人”になった原因って、それかよ!」

「……は? ひと……り……?」

「お姉ちゃん……」

 カエデの発言に、ブロッサムとアイナが揃って俺を見つめる。

「“イカリ”の一族……後継者は巫女となり、それ以外は巫女を守る戦士となる。……おまえは」

 ミカヅチが哀れむように俺を見る。

「妹の為に、自ら“捨て駒”になったと言うのか」

「捨て駒って……どういう訳ですか……?」

 震える声でフリージアがたずねた。
 ……隠すのは無理だな。

「カビの生えた古臭いしきたり。10歳で跡継ぎを決め、巫女は16まで家で修行。それ以外はさっさとタカチホ義塾の初等部に預けられる……候補が巫女になるまでは帰れねぇしな」

「それって……まさか、おまえが6年間もタカチホ義塾にいた理由って……」

「巫女は魔力の強さで候補が決まる。……だから何としても封印をかける必要があったんだ」

 ブロッサムが良い勘を働かせやがる。
 こいつに隠すものは何もない。

「アイナに、んな死ぬようなことさせる訳にはいかねぇだろ。ブロッサムも知ってるだろ? この『転換の呪』の効果を」

「呪いや封印術を無効化する代わりに、魔力に枷を着けられ……あ」

 効果を口にし、そこで気づく。
“魔力に枷を着ける”。それは=魔力が使えなくなるということ。

「……候補から、外される……」

「そ。そうすればアイナは家に残る。俺は別に、家じゃなくても生きていけるしな。まあ一年くらいは大モメあったが」

「だからって呪いに手を出すなんて……」

 全員がなんとも言えない、と表情を堅くする。

「……俺は呪いを使ったことを後悔していない」

「そうだろう。アガシオン様の呪い、闇も己の力とさせるその呪い。おまえも力を得て強くなったはずだ」

 ミカヅチがにやりと笑いながら、さも楽しそうに語りかけてくる。

「おまえと一緒にするな。あの野郎の呪いなぞ、俺の呪いを維持するための魔力に変換したんだ。強くはなってない」

「ほう、そうか……なら」

 瞬間、ミカヅチが消えた。

「おまえを縛るその『枷』……破壊すれば、どうなるのだろうな!!」

「――ッ!!」

 かと思ったら、いつの間にか背後を取られた。

「なっ――」

「遅い!」

 振り返った瞬間、思いきり強烈な一撃を喰らった。

(しまった……)

 防御すら間に合わず、壁までぶっ飛んでいく。
 そして激突する瞬間――俺の中で甲高い音が響くのが聞こえた。
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