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闇の賢者と格闘家と生徒会長

 ――――

 ディームのことはライラに任せて、再び俺たちは歩いていく。
 ……とはいえめんどくさい←

「これ絶対、対侵入者用トラップ発動中だろ……」

 こんなめんどくさい学校があってたまるか!!

「まあ……たしかに歩きづらいけど……」

「み~……落とし穴とかもあったもんねぇ」

 まったくだ! ってか、なんなんだ、この要塞は!
 今だってムーブエリアのせいでエスカレーターのようにつるつる行くし!

「ったく……」

 まあ、そんな馬鹿でかくはないし、苦戦しなかったからすぐに終わったけど。
 ……けど、終わったら終わったらで新たな問題が発生した。

「……この奥、だな」

 一年間、俺を付け狙う闇の力。
 もはや慣れきった闇と殺気に、自然と強張る。

「あいつか……」

「ああ……」

「エデン君、だよね~……」

 ブロッサムとシルフィーも感じている。
 エデンの力。会う度に増えている闇の力に。

「……だからって。逃げるわけにはいかない」

 これ以上の引き延ばしは面倒だしな。
 これを機に、全部の決着をつけてやる。

「二人とも……行くぞ」

「ああ。一緒に行こう」

「う、うん!」

 二人が頷き返したのを確認し、一呼吸置いたあと、俺は扉を盛大に開けた。

「……!!」

「これ……!」

「あわばばば……」

 扉を開けると……一瞬、目を奪われてしまった。

「ふ……おまえたちの力はこの程度か」

「ぐ……ぐにゅう……っ」

「く……そ……」

「わー! キルシュ! ジーク! 死ぬなー!!」

 キルシュとジークが倒れていて、レオが叫び声をあげている。
 どうやらすでにVSエデンとの死闘が広がっており、ドラッケン学園の2パーティがやられ、途中参加と思われるプリシアナ学院組が彼らを庇っていた。

「ドラッケン学園……やはり僕がいるべき学校ではなかったようだな……そう思わないか? アユミ」

「え、エデン……」

 血塗られた大剣を持ちながら、ギロリと瞳を俺に向けてきた。
 ちょ……リアルヤンデレで怖いんですけど……!

「おまえ……! アユミに話し掛けるな!」

「チッ……退け、ブロッサム。最優先で用があるのはアユミだ」

「誰が退くか!」

 背筋に寒気に似た震えを感じていると、庇うように俺の前にブロッサムが割り込んだ。
 それが気にいらないのか、エデンの睨みがブロッサムに強く向けられる。

「レオ~! ドラッケンのみんなは……」

「シルフィー……ボクは惜しい奴を亡くした……。だが、これでボクのフェニックスバードフォームが完成する……」

 シルフィーの問いに拳を固めて言うレオ。
 と、同時にジークとキルシュがガバッと起き上がる。

「バカ! まだ死んでねぇ!」

「そうじゃ! まったく、アホの子じゃのう」

「えー、そうなの? それじゃ、ボクのフェニックスバードフォームは?」

 勝手に殺すな、レオ。
 不服そうなレオに「そんなの知るか!」とジークが叫び返す。

「今はそんな冗談言ってる場合じゃねぇんだよ! 本当にヤバイんだ!」

「エデンがアガシオンの闇の力を吸収してっからか?」

 俺がそう言うと「そ、そうなんだよ!」と驚きながらエデンを見る。

「え、エデン先輩が……カンニングして強くなってたなんて!」

「へー。そうだったんだー。なあんだ」

 レオがたいしたことないな、的な顔で頷く。
 いや、レオ。もっと真面目になれや。

「傷が深いな……大丈夫か?」

「私のことより……まず姫様を……」

「うにゅにゅ……少しだけクラクラするのじゃ……」

 セルシアはクラティウスとキルシュの手当を行っている。
 ディアボロスのキルシュも血の気の低い顔だけど、いつもよりさらに無い。

「……アユミ」

「……エデン」

 ドラッケンのみんなはプリシアナの仲間たちに任せ、俺はエデンと向き合う。

「どうやら……予言の子と謳われしおまえを倒さなければ、終わることはないようだな」

「……みたいだな」

 視線を交えると、互いに武器を構える。

「おまえのようなヤンデレストーカーはもうこりごりだ。一年間の礼もかねて、すべて終わらせてやる」

「僕もだよ……おまえに味合わされた数々の敗北も、煩わしい思いももうたくさんだ」

 こういう時だけ意見が合うな……。
 そんなことを考えながら、俺たちは視線を交え続けた。

「アユミ……! 一気に勝負をつけてくれる!!」

 エデンが大剣を構える。
 すると、闇の魔力が漂い出し、それは奔流となってエデンに吸い込まれていく。

「……ッがッ……」

「お、おい……?」

「ォ……ウォオオオオオオッ!!」

 ……ッ、マジかよ……。
 エデンの奴、闇に飲まれて自我を失ってやがる!

「まるで魔獣じゃないか!」

「あ! 危ない!」

「ウォオオオオオオッ!!!」

 エデンを包む闇の魔力が、周囲にも溢れ出した。
 間一髪、俺らに向かってきた闇の衝撃波はシルフィーの魔法壁が防いでくれる。

「悪ィな、シルフィー」

「ううん♪ みんな~、大丈夫~!?」

 くるりと後ろを向き、ドラッケン組とプリシアナ組の両方にシルフィーがたずねる。

「私たちは大丈夫です! ……しかし、あれは今のドラッケン学園の皆さんにはキツイですね……」

「僕たちが衝撃波の盾になろう。ドラッケンのみんな、後ろへ!」

 フリージアの言葉に頷きつつ、セルシアがドラッケン学園の全員の前に立つ。
 たしかに瀕死状態の彼らには、結構キツイかもな。

「しかたありませんわね……。ここは素直に甘えましょうか」

「すみません……皆さん……」

「いいって、いいって。気にすんな!」

 ユリとリンツェに軽く言いながら「よおし!」とレオが気合いを入れる。

「ここはボクたちで防ぐぞ! 気合い入れろよ! ブーゲンビリア!」

「うふふん★ こーいうのは任せて! ――ふんぬあああぁ!!」

 レオの声に、ブーゲンビリアも野太い叫びを上げながら防御の構えを取る。
 ……端から見ると恐ろしいな←

「私たちがドラッケンのみんなを守るから!」

「アユミたち! エデンをやってくれ!」

「わーってるよ!」

 チューリップとバロータに叫び返す。
 その後、魔獣化しているエデンに向き合い、刃を向けた。

「アユミ」

「行こ~!」

「ああ。決着を――」

 ブロッサムとシルフィーがそれぞれ隣に並んだ。
 二人に頷き、刀を強く握る。

「着けようかッ!!!」

 大丈夫。……俺はもう負けない!

「はああああっ!!!」

「ウウウ……ッ!」

 魔獣化したエデンに向け、刀を横に振るった。それをエデンは受け止める。
 ふむ……まだ意識は残されているっぽいな。

「ウガァアアアッ!!!」

「――ッ!!!」

 ぐっ……キツ……ッ!
 な、なるほど……魔獣化とはよく言ったもんだな……力が、とんでもなく上がってやがるっ!

「今度コソ……勝ツ……ッ! 今度コソ……!!」

「ぐぎぎ……っ」

 にもかかわらず、俺への完全勝利に執着してやがる。
 相変わらずしつこいな……ッ!

「アユミ――ッ!」

「ガイア!」

 力で押し切られる瞬間、シルフィーの土魔法が発動した。
 エデンは足元から魔法攻撃を受け、思いきり態勢を崩す。

「グッ……!?」

「隙だらけだ!」

 ガイアで出現した岩場を飛び伝いながら、エデンの元へ突っ込んでいく。

「グッ……アアアッ!!」

「ッ!」

 空中でも態勢を取り、剣で弾き返した。
 そのまま空中による刀剣の打ち合い合戦に入る。

「オオオッ!!!」

「どりゃあッ!!!」

 甲高い金属音が小さく響き続ける。連続で鳴り続け、耳鳴りがする。

「ゴォ……ッ!!」

「ウィスプ!」

「ガ……ッ!!?」

 剣が振り下ろされる寸前、ブロッサムの魔法がエデンの背中に直撃した。

「ウ……ウァアアアッ!!?」

「……!?」

 ……どういうことだ?
 ブロッサムの魔法が直撃した背中のダメージもでかそうだが、それよりも……。

(闇が……薄れた……?)

 かつての冥府の迷宮と同じだ。さっきより闇が弱くなってる。
 ……ブロッサム限定で、効いてる?

「グッ……ウウウ……!!!」

「ブロッサムの光なら……まさか……」

 そうと決まれば、取るべきことはただ一つ。

「ブロッサム! ライトエッジをかけろ!」

「え? それって……補助魔法の?」

「そう、それ!」

 武器に光の属性を付与させる補助魔法を指名し、「いいから早く!」と催促させる。

「わ、わかった! ――それ!」

 戸惑いながらもライトエッジをかけてくれた。
 鬼撤に白い光が帯びていく。

「上出来だ、ブロッサム」

 刀に光の魔力を帯びたのを確認すると、持っていた鞘を投げ捨てる。
 そして刀を両手で構え、弱体化したエデンに向き直る。

「ここで終わらせる……!」

「グッ……」

 エデンと決着。これで最後だ!

「――だりゃあぁああああああッ!!!!!」

 一気に駆け寄り、大きく斜め上に斬りつけた。
 持っていた大剣も刀で吹っ飛び、一撃をまともに喰らう。

「グッ!! アァアアアーーーッ!!!!」

 血とともに闇が流れる。
 吸い込まれていた闇が、傷口から溢れ出てきた。

「くっ……う……」

 トドメの一撃を喰らい、膝をつくエデン。
 そして渦巻いていた闇の力が、四方八方に流れ出ていった。

「力……が……抜けていく……」

「……ああ。やっぱり……」

 あの時と同じだ。
 冥府の迷宮で、ブロッサムのイペリオンを喰らった時と。

(あいつの光の力が、アガシオンの闇を消していってる……?)

 セルシアが浄化するところを見ていないからそう思ってるだけかもしれない。
 ……だけど、どうしてか“ブロッサムだけ”に力があるようにしか思えなかった。
 ……奴には、知らない何かがある?

「…………」

「……アユミ」

 考え事をしていると、闇の力が抜けたエデンが話しかけてきた。

「僕の……負けだ。殺せ……」

「エデン……」

 焦点が定まってねぇ。
 いつもの強気なおまえは、闇と一緒に流れたらしいな。

「何言ってるんだよ、エデン先輩!?」

 俺の代わりに大声を出したのはジークだ。
 ジークは拳を握り、エデンに必死で話しかける。

「これでやっとアガシオンの魔力が全部抜けたんだろ!? 改めて、ドラッケン学園に戻ってくれよ! 一緒にアガシオンを倒そう!」

 ジークの説得に、だがエデンは首を横に振る。

「僕はアユミとブロッサムの手で……闇の力のすべてを失った。闇の力抜きの僕の実力では、もう君たちには遥かに及ばない……」

「おまえ……」

「君たちは、かつて優等生と呼ばれた僕より……ずっと強くなっているんだ……」

 つぶやいたエデンは、悔しそうに俺を睨んでくる。

「君たちはなぜ重荷に思わない? アユミも……なぜ平気な顔で予言の子の期待を背負うことができる?」

「…………」

「そんなの……決まってるだろ」

 無言の俺の代わりに答えたのはブロッサムだった。
 同時にセルシアも前に出る。

「アユミもブロッサムも、僕たちも……一人じゃないからだ」

「ああ。俺はそれを、アユミに教えられたからな」

「セルシア、ブロッサム」

 それぞれ俺の隣に立つ。
 そうだな。ここまでの道中、おまえらが一番苦悩あったもんな。

「セルシア……! ブロッサム……!!」

 それに対し、エデンは今度二人を睨む。
 ……どれだけ捻くれてんだ、テメェの心は。

「君たちなら……君たちならわかるだろう? 許されぬ敗北、常に付き纏う困難な使命と期待のまなざし! ……それがどうして」

「怖くない……?」と小さな声でたずねる。
 自分と同じ苦悩を抱えた二人が、それを恐れずにいることが不思議なんだな。

「俺はアユミと……おまえのおかげかな?」

「……どういう意味だ?」

 ブロッサムの言葉にエデンが首を傾げた。
 ……うん、俺も少し驚いています←

「たしかにおまえの言う通り、俺も押し潰されかけていた。みんなの期待が怖くて、落胆されるのが怖くて……アユミと会わなければ、一生自分を信じられなかったかもしれない」

「だけど」とまっすぐエデンを見据える。

「アユミと会って……そして、冥府の迷宮でおまえに殺されかけたアユミを見た時、死んでほしくない、守りたいって思った。俺を、“俺自身”を信じてくれたから」

「おまえ……自身……」

 つぶやくエデンにブロッサムが大きく頷く。

「期待とか落胆されるのは、俺はまだ怖い。……けど、俺を信じてくれるあいつがいるから、強くなりたいって思って……そしたら、こんなところまで来ちまった」

「だから」と続ける。

「俺はもう怖くない。少しだけど、俺は変われたから」

 嘘偽りのない、本当の心。
 うん。ブロッサムが、いかに強くなったか。それが見て取れるな。

「変われたから……」

「エデン。たしかに僕は、いろいろな人の期待を負っている」

 ここで今度はセルシアが語り出した。
 セルシアも笑みを浮かべて近寄る。

「執事であるフリージアからの期待。校長であるセントウレア兄様からの期待。そして……仲間たちからの期待」

「セルシア様……」

「けれど、誰も僕に無茶をすることを望んではいない。僕は一人で無理だと判断した時は仲間たちに、アユミたちに助けを求めることを知っている……エデン。君だってそうだったんじゃないのか?」

 フリージアの視線を背に、セルシアもエデンに慈悲ある笑顔を向けた。

「そうですよ! エデン先輩!」

 後ろからジークも前にずいっと出てきた。
 さすがバハムーン……タフだな、おまえ。

「べつにたまーに負けてもいいじゃないですか! 勇者と呼ばれるのが重荷になるなら、みんなが勇者になって、一緒に背負えばいいんですよ!」

 ジークらしい、率直な感想だな……。

「――エデン」

 ここでリンツェが出てきた。
 ボロボロの身体を必死に引きずりながら、エデンの前に座り込む。

「リンツェ……か」

「エデンがいれば、いろんなことができるけど……さ。いなくなったら、何もできないよ?」

「…………」

「もう、やめよ? もう……帰ろうよ……?」

 リンツェが泣きながらエデンに話しかける。
 ……そういやこいつ、前にエデンと知り合いっつってたけど……これ、ただの知り合いじゃないよな?

「……ということだ。エデン、もう終わりにしようぜ?」

 ……まあそれはあとで問いただすか。
 今はエデンが先だ。

「アユミ……おまえ……」

「これ以上ヤンデレになられると困るし。許してやっから改心しろや」

「アユミ……ここまで闇に堕ちた僕を……君を苦しめた僕を、まだ受け入れてくれるのか……?」

 差し出された手を見て、エデンの目から一つ、涙が流れた。
 ……些か上から目線で言ったが、特に気にしないらしいな。

「エデン……真の英雄というのは、勇者というのは、人を受け入れ、助けることを知っている。アユミのようにね」

「ああ。俺もセルシアも……何度もアユミに助けられたし、助けてきたからな」

「やれやれ……とは言え、俺は英雄なんて柄じゃないけど」

 そう言って二人を見る。
 英雄だの勇者だの、俺にはそういうのは向かない。
 とはいえ、ブロッサムや仲間を守るってんなら尽力しますけど。

「みんなが勇者ってのも面白いね! ホントはボクが一番英雄だと思うけど、やっぱり楽できるのも好きだし……」

「おい、それ英雄の発言じゃねぇぞ」

 俺は呆れてつっこむが、「いいじゃんかー」と頬を膨らますレオ。

「それにさー。エデン……だっけ? ボクは君のやり方をカンニングだとは思わないな!」

「ふぇ? レオ~、なんで~?」

「だってさ、お手軽に強くなる方針は楽じゃん! 悪い奴から力をもらうのは悪いけどね」

「英雄目指す奴が言うか、それ!?」

「もう! レオったら!」

 レオの言葉にブロッサムもつっこんだ。
 ブーゲンビリアも苦笑している。

「でも……闇の生徒会長から勇者に戻るのも、ダークヒーローみたいで素敵よ!」

「ダークというよりヤンデレだけどな」

 即撤回しやがった←
 言っとくがこいつは何度も俺の命を奪ったヤンデレだからな。ブーゲンビリア。

「もし勇者学科が本当にできたとしても、看板はジークよりエデン先輩の方がいいわよね……」

「あ、それはそうかも~」

 ベルタの案にチューリップも賛成した。
 ……たしかにジークより優等生かつ顔は良いからな。顔は←

「……ふふふ……」

「……ん?」

「ははは……まったく……面白いことを言う奴らばかりだな……」

「エデン……」

 ……おお。エデンが心の底からの笑顔を見せているな。
 まあ……ヤンデレさえなかったら、美形さんなんだし……。

「なんだ。笑えばカッコイイじゃないか」

「「「え゙」」」

「ふ……おまえからそんな言葉が出るとはな」

 エデンが苦笑いを浮かべながら俺を見る。
 ちなみに付け加えると、後ろからブロッサム、セルシア、フリージアの悲鳴染みた声も聞こえた。
 ……あれ? なんでフリージアも?←

「…………。でも、やっぱりダメだ……」

「……え?」

 ダメって……どういうことだ?
 エデンのつぶやきの意味がわからない。……が、すぐに理解した。

「エデン!?」

 突然、エデンが黒い炎に包まれ始めた。
 驚いて慌て出す俺に、エデンが静かに語り出す。

「僕の体は……あまりにも長い時間、闇の魔力にさらされ続けて……もう持たないんだ……僕は望んで、アガシオンの操り人形になったから……」

「なんだと……!?」

「肉体のほとんどが、アガシオンの魔力の受け皿に置き換わっている……魔力の糸が切れれば……命も……」

 つまり……俺らがエデンの中にあるアガシオンの闇をすべて消したから、死ぬってことか……?
 マジかよ……。それ……!

「……っ! そんなの、認めないぞ! 待ってろ、今助け……!」

 ブロッサムが回復魔法をかけようとしたが、エデンが首を横に降って止めた。

「さようならだ、後輩たち……最後に、僕を救ってくれて……ありがとう……」

「エ、デ……ン……」

「……アユミ」

 こんなエンドは望んでいない。
 呆然としている俺に、エデンが微笑んだ。

「君なら……勇者や英雄と呼ばれる重荷も仲間も分け合って……本当に、世界を救えるかもしれないな……」

「……俺は世界を救うとか、そんな柄じゃない。あくまでついでだ」

 いつもの口調で返した俺に「ふふっ……」と小さく笑い声を出す。

「わかってるよ……君がそういう人だってことくらい……だからかな。君だけを……執拗に追い詰めたのは……」

「お、おまえなあ……」

 ……一歩間違えれば告白にも聞こえるぞ←
 そんなこと言ってる状況じゃないけど。

「アユミ……君が……望みだ……アガシオンの、野望をくじいて……」

「……わかってるよ……」

「……ドラッケン……学園……ゲシュタルト校長先生……ドレスデン先生……カーチャ先生……それにシュピール先生……」

 ぼんやりと虚空を見つめるエデン。
 その目はすでに焦点が定まっていない。

「ごめん……なさ、い……、…………」

 それだけつぶやくと、黒い炎がすべて消えていった。
 それと同時に……エデンの瞳が閉じた。

「あ……!!? エ――」

 力尽きたエデンの身体が、闇の粒子に変わっていく。
 もう一度名前を呼んだ時には、エデンは完全に消えた。

「エデン!!」

「エデン先輩ーーーっ!!!」

「そんな……ううっ……」

「くそっ、くそーーーっ!!」

 リンツェ、ベルタが涙をこぼし、ジークは悔しさに何度も床に拳を叩きつける。

「ジーク……君は、やれるだけのことをしたよ……」

「……そうだ。悔しいのはおまえだけじゃない」

 悔しさに駆られるジークにフォルクスと俺が言う。
 悔しいのはジークだけじゃない。この場にいる全員だ。……俺だって、アガシオンの思惑通りみたくて、かなり悔しいんだ。

「それに完全に諦めるのはまだ早い。始原の学園を復活させれば……彼を救う方法も見つかるかもしれない」

「……そう、だな……」

 セルシアもジークをなだめた。
 あくまで可能性だが、それでもジークに希望を持たせたようだ。

「けど……私たちが回復するには少し掛かりそうね」

「え……う、うあああっ!!」

「じ、ジーク……っ?」

 ベルタがつぶやくと、そのあとジークが急に倒れた。
 突然の出来事にリンツェが目を丸くしている。

「き、気が抜けたら……急に身体が痛くなってきた!」

「あら。ずいぶん都合のいいタイミングですわね」

「か、身体がーーーっ!!!」

 ぴくぴくと痙攣しながらのたうちまわるジークを見ながら、ユリが楽しそうに見ていた。
 ……やっぱこいつの方が悪魔だろ←

「まったくジークの奴はしかたないのう。しかし、わらわたちが少々消耗し過ぎたのも事実じゃ。今の状態で進んでも、全滅して宝具を失いかねぬ」

 反対にキルシュが現状を冷静に把握していた。
 少し考えたあと、「よし」と俺に視線を向ける。

「アユミ。この宝具を預かってくれぬか?」

「え!? 大事な宝具を他の学校の奴に預けちゃっていいのかよ!」

 キルシュの発言に、ジークがガバッと起き上がった。
 おい、身体の痛みはどうした←

「おかしな意地を張って、宝具を奪われでもしたら元も子もないじゃろう」

 慌てるジークに「忘れたのか?」とキルシュは続ける。

「こうして相手を信頼し、助け合うのも勇者であり、英雄なのじゃ」

「わー……キルシュとは思えない立派なセリフだ」

 レオが後ろで茶々をいれた。
 率直な感想だな、おい。

「姫様……本当にご立派でございます!」

「ほほほ! もっと誉めてよいのじゃぞ?」

 クラティウスに褒められ高笑いをするが、すぐに「いたた……っ」としかめっつらになった。

「もー、調子に乗って高笑いするからだよー」

 シュトレンもため息をつきながらキルシュの手当に入った。
 そこを入れ代わるように宝具を持ったユリが歩み寄る。

「それではアユミ。私たちは態勢を立て直してからすぐに追いかけますから……」

「プリシアナのみんな。宝具は頼んだよ!」

「OK!」

 ドラッケン学園パーティ全員に頷き返し、ドラッケンの宝具、“勇気の王笏”を受け取る。
 うわ、責任重大だな……。

「絶対守り抜かないとな」

「そうだね。でもだからって無茶はしちゃダメだよ。君に何かあったら大変なんだから」

「そうは言うが、おあいにくさま、俺は負けるのが大嫌いなんだよ」

 アガシオンの野郎……もう生かしておけねぇ。
 粉々に斬り刻んたらぁ!!

「はあ……まったく……。……困った人だね」

「あ? なんか言ったか?」

 聞き返すが「いや、何も言ってないよ」と笑顔で返された。
 なんかボソッと聞こえた気がするんだが……まあいいか←

「それじゃあ、僕たちは一足先に行くよ」

「……はい、セルシア様」

「まあまあ、フリージア……。あ、おまえら。無理しねぇでちゃんと治してからこいよな!」

 にこやかなセルシアと対称的に、フリージアはなんか不機嫌そうだった。
 それをバロータはなだめつつ、ドラッケン学園組に声かけしてから、二人と先に進んでいく。

「俺らも行くか。じゃあな」

「頼んだぜ!」

「わらわたちもすぐに追い付くからのう!」

 ジークとキルシュも片手を上げて振り返す。
 ドラッケン学園から希望を受け取り、俺らはまた先に進むのだった。

 ――――

「……そういやブロッサム」

「ん?」

 ある程度先へ進んでいった時に、ブロッサムに話しかけた。
 ブロッサムは首だけこっちに振り返る。

「……体調とか悪くないか? ほら。モンスターどころか、闇の生徒会の面々を連発で戦ってるし」

「? いや、平気だけど……」

「そっか。ならいいや」

 あっさり引き、頭に疑問符を浮かべるブロッサムから目を反らす。

(やっぱり本人は気付いてない、だろうな……)

 ブロッサムだけが、闇を浄化していることに。
 ウィンタースノーの花畑でのベコニアの時も、闇の精霊に蝕まれていたスティクスの時もそうだ。
 こいつは無意識にやっていて、自分自身で気付いていない。

(まさかこれが……ウィンタースノーの花の力、か?)

 かつてこいつの親父から聞いた話が思い浮かぶ。
 あの時は深く追求しなかったが……今となっては、最早関係がない、なんて言い切れない。

(ブロッサムに……いったい何があるんだ?)

 それが切り札だってわかるが――だけど、その力がいったい何なのか。
 正直予測不能だ。

「……根性見せろってか」

 いずれにせよ、俺はこいつらを傷つけさせない。
 アガシオンと決着着けて……。

(何もかも……終わりにしよう)

 ――――

 終わるまでの道のりも、

 終わってからのその先も、

 まだまだ山積みなんだしな。
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