闇の賢者と格闘家と生徒会長
いくらか階層を進み、モンスターや闇の生徒やらを薙ぎ倒していく。
こっちは一年前からエデンに付け狙われて、何回も死線をくぐり抜けてきたからな。慣れればたいしたことはない。
「さて……そろそろ誰かと会っていいはずなんだけど」
「なっかなか見当たらないね~」
味方どころか敵すら見当たらない。
わずか二階層で一気に五人も削ったからしかたないだろうけど。
「……今思えば、よく勝てたな。二回戦」
ベコニアとはサシで戦い、ヌラリとジャコツ、スティクスとは三対三。
アマリリスを除くにしても、よく勝てたな、とつくづく思う。
(この調子で勝てるといいけど……残りも)
特にエデンと二大闇教師は厳しいからな。
アガシオン戦に向けて、なるべく体力は温存したいところだ。
「さ・あ・て。次のお相手はー……」
罠が無いか注意しつつ、扉を慎重に開ける。
「はぁッ!!!」
ビュッ――!!
バシッ!!
「はぅあ!?」
「……ッ!!!」
「アユミ!?」
危な……っ! 扉を開けた瞬間、俺の鳩尾目掛け、拳が飛んできた。
瞬発的にそれをガードした自分を褒めたいくらいだ。
(……というか、この拳のキレは……)
防いだ右腕がビリビリと痺れている。状態異常の麻痺にも似た感覚。
ただの攻撃でこんなことできるのは、俺の知る限りただ一人。
「……外した」
「外した、じゃねぇよ……」
目の前にドアップで映る紫髪のツインテール。ノーム特有の水色の瞳。
そして……術士系に適したノームには不釣り合いの拳武器。
「あ、ライラちゃん!」
「あの時の……」
勝手にはぐれたシルフィーを助け、軽く手合わせしたノーム、ライラだった。
「やっぱり、おまえらが来たか……」
その奥からもう一人現れる。
水色の髪を持ち、シルフィーと似た顔立ちのフェアリー――ディーム。
「兄ちゃん!」
「おまえらか……できればおとなしく投降してくれるとありがたいんだけど」
「……いまさらそんなこと、できるものか。ライラ!」
ディームの方はやる気満々だ。
ライラも彼の声により、即座に身構える。
「兄ちゃん……なんで闇の生徒会に力を……」
「……うるさい! もう黙ってろ!!」
そう言って数十枚のカードを出し、それを目の前の床に投げ付ける。
「何を……!」
突き刺さったカードを見て、次の瞬間、すべてカードから魔力が溢れ出した。
見ればカードが変化し、妖怪やら式神やら……タカチホのモノノケ軍団に早変わりする。
「ま、マジかよ……」
「タカチホの呪術も会得か……厄介だな」
ライラの格闘技も厄介なのに、さらに呪術でモノノケ召喚?
いくらなんでも……。
「多勢に無勢か……」
ブロッサムとシルフィーの魔法なら簡単に倒せるだろう。
けどディームの魔力がどれだけあるか。加えてライラの実力やモノノケ軍団の数を考えると、術士の二人をそのままにはできない。
かと言って俺がすべての攻撃を防御、受け流す訳にもいかない。俺の体力の方が先に果てる。
「どうするかな……」
居合で斬るにも限度がある。
三人で背中を合わせ、置かれた状況をどう打破しようと考えた時だった。
「あらあらあら……ずいぶんと派手な状態ですこと」
「!」
第三者が乱入してきた。
この状況下だと言うのに、その声はどこか楽しげ。
「ゆ、ユリ様……楽しんでる場合じゃ……」
「それくらいわかってるわ、リンツェ。……アイナちゃん、準備はよくって?」
「大丈夫だよ! ユリちゃん!」
「おーい。一応護衛の俺を通してくれねぇ?」
非常に聞き覚えのある四つの声。
見れば、モノノケ軍団の一角を吹っ飛ばし、ユリ、リンツェ、(なぜか)アイナ、カエデの四人が立っていた。
「なんでおまえらが? なんでアイナも一緒に?」
「私たち二人パーティずつだし、ユリちゃんたちと行動してたの。それだけだよ」
「あ、そう……。で、おまえらは……」
「あら。あの程度のモンスターなんて、私には造作もなくてよ?」
……まあ、おまえ ならそうだろうな。
「ゆ、ユリ様……。あ、あの……モノノケたちは俺たちでなんとかしますから……」
「わりぃ! 闇の生徒会の方を頼むわ!」
ま・た・か!
なんでどいつもこいつも俺を頼りにしてんの!?
お願いだからおまえらも一緒に戦え! 後方支援じゃなくって!
「はあ……心の底からめんどくせぇ……」
「アユミちゃん~……」
「おまえって奴は……」
本音を吐露すれば、二人に呆れ顔をされた。
……だって事実だし!←
「あー……とにかく。アレ、何とかしますか」
「ああ」
「うん……」
気を取り直し、ディーム、ライラに向き直る。
「チッ……ライラ! 援護するから前衛頼むぞ!」
「うん」
拳を構え、すでに準備万端なライラ。
ディームはその背後で杖を構える。
「行けッ! アクアガン!」
「おっと」
杖を構えると、素早く水魔法を発動された。もちろんそれは素早く避ける。
……なるほど。さすがシルフィーの兄貴。腕前は確か、らしい。
「やぁッ!!!」
「わっ!?」
うぉ、危なッ!?
かわした瞬間、ライラの蹴りが顔面すれすれに飛んでくる。
瞬発的にかわした自分を褒めてぇくらい……。
「何ボケッとしてるんだよ! 避けろ!」
と考えてると、ブロッサムが叫んできた。
熱が上がったのを感じ、ハッとその場を離れる。
ゴォオオオンッ!!!
「チッ!!」
「……ッ! やばかった……っ」
俺のいた位置に炎が吹き荒れる。
ディームの舌打ちからして……どうやらイグニスで焼却されることを免れたらしいな。……ブロッサムに感謝しなくっちゃ。
(コンビネーションは抜群だな……厄介な)
ディームの魔法の発動も早く、さらにそこに格闘家学科のライラの素早さと腕力ときた。
スピード主戦の二人だけあり、反撃のチャンスもそうそうない。
「……どうする? あまり時間は……」
「わーってる。……短期決戦と行きたいところだな」
これ以上かかっても時間がもったいない。
体力や魔力も無尽蔵じゃないんだ。なるべくさっさと終わりにしないと……。
「ね、ねぇアユミちゃん、ブロッサム……」
と、ここでシルフィーがくいくい、と制服の裾を引っ張ってきた。
「なんだよ」
「あのね……ちょっと協力してほしいんだ」
「……協力?」
シルフィーからの協力って……いったいなんだ?
ライラとディームに目を向けたまま、シルフィーの声に耳を傾ける。
「……いいのか? 本気でやっちゃって……」
「うん……先に進むためだし……死なない程度にやっちゃって」
「……おまえもアユミの悪影響を受けてきたな」
はあ、とため息をつきつつ、杖を構えるブロッサム。
俺も習って刀を構え直す。
「そんじゃ、お言葉に甘えて……やるぞ!」
「「おおーっ!」」
声が揃い、俺とブロッサムは前に出た。
シルフィーは後方で魔法の待機だ。
「な……術師学科のくせに前衛って……」
「俺だってやりたくないってのッ!!」
杖と杖が打ち合い、ゴォンっ! と小気味よい音が響きあった。
まあ同じ術師学科、それも相手がフェアリーなら、ブロッサムも肉弾戦で負けることはないだろ。
問題は……。
「むしろ俺――かっ!!!」
足と足がぶつかり合い、打撃音が響く。
こちらはこちらで格闘打撃戦。術師同士のぬるい一撃じゃないから、正直命のやり取り賭けてます←
「ぐ……っ、きつ……」
「…………」
相変わらず格闘技の腕は強いな……。
ノームのくせに、いったいどんな依代に憑依しているんだ?
「ったく……キツイっつの!」
こうなりゃヤケだ。
全部終わったら気の済むまでブロッサムを弄りまくってやる!←
「ってりゃあッ!!!」
「……!」
ライラの拳を受け止める。
腕がかなり麻痺してるが、無理矢理でも耐える。
「この! それっ!」
「がっ! 痛ッ!?」
ブロッサムはブロッサムで必死に杖を振るっていた。
端から見れば弱いものイジメの図にも見えるな← まあ足止めはできているので良しとしよう。
「……あとは……」
待てばいい。あいつが発動するまで……。
「このっ!」
「くっ……!!」
……とはいえキツイ!!
この小娘、ホントいったいどんな依代をしているんだ!?
「まだか……!」
「アユミちゃあん! ブロッサム~! 逃~げて~!!」
「来たか!」
シルフィーの声が響いた。
同時に俺らの周りに熱気が纏わり付く。
「アユミ!」
「ブロッサム!」
翼を広げ、全速力で飛んできたブロッサムの腕を掴んだ。
そのままブロッサムに腕を引っ張られ、真上へ連れて行かれる。
「火炎の帝王、すべてを飲み込む! イグニス~!」
シルフィーの魔力が、炎となって二人を飲み込んだ。
「あっ……」
「ライラ……うぉ……っ!」
容赦のない炎の波は二人を焼く。
……ブロッサムが連れてってくれなきゃ、俺らも丸焼きだったろうな。
「……相変わらず恐ろしい腕前だな」
「ああ……っと。そろそろ降ろすぞ」
炎の勢いが消え、焼け焦げた後の床に着地する。
……見回せば二人は倒れてる。所々焦げた跡がある。
「……負けちゃった」
「くそっ……イグニスだけで、こんな……」
どうやら二人は結構な重傷を負ったようだ。
身体を起こすのだけで、結構精一杯らしい。
「兄ちゃん……ライラちゃん……」
「諦めろ。おまえらの負けだ」
「……くっ……! こんな……こんなこと……!!」
負けた事実を受け入れがたいのか、ディームは悔しそうに床に拳を叩きつけた。
反対にライラはどこか無表情で俺らを見ている。
「おまえらに――シルフィネストに負けるなんて……」
「認めたくない気持ちはわかるが……」
「あなたの負け、ですわ」
おお、カエデにユリ。おまえらも終わったのか。
「お姉ちゃんたちの勝ち、だね」
「は、はい……です!」
「うるさい……うるさい! おまえらなんかに言われなくたって……!」
よほど認めたくないのか。
それとも……。
「兄ちゃん……」
「……なんで」
途端に声が弱々しくなった。
がくりとうなだれ、泣き出しそうな顔でつぶやいた。
「なんで……いつも、おまえばかり……」
「ディーム……」
「努力してきて、頑張って……なのに、おまえが俺より上にいて……俺の努力が、全部無駄になってきたように思えて……」
「兄ちゃん……?」
「くそっ……おまえなんかに、負けるなんて……」
ギリギリと歯ぎしりしながらシルフィーを睨む。
……アマリリスと違って、こっちは相当根が深いな。
「兄ちゃん……どうして……」
「どうして……ディーム、シルフィーがうらやましかったから?」
「ライラちゃん……?」
シルフィーの疑問に答えたのはライラだった。
さっきと違い、明らかに悲しそうな表情だ。
「勉強ばかりで一人ぼっちだった自分なのに、シルフィーは全部を手に入れてるから。つねに自分の上にいるから。どんなに努力しても、シルフィーを越えられないから」
「え……」
「自分の欲しいものを、シルフィーはすべて持ってるから」
「そうなの? 兄ちゃん……」
「……っ」
シルフィーから視線をそらす。
ライラの言葉が真実という証拠だ。
「アマリリスさんより複雑、ですね……」
「あ~……嫉妬関係って面倒なんだよなぁ……」
「まったくですわ。どう説得しますの?」
「わ、私に聞かれても~……」
リンツェ、カエデ、ユリ、アイナも困り顔だ。
純粋な嫉妬だもんなー……。対処も難しいんだろ。
「……けど、言えることは」
「……?」
ディームに向き直り、一言。
「闇の生徒会に堕ちるようじゃ、一生勝てない。ってこった」
「!!」
「ちょ……アユミ!?」
俺の言葉にディームが顔を歪ませた。
それにブロッサムが慌てだす。
「事実だろ? 真っ正面からぶつかんねぇで、逃げ出すような真似して……卒業からその後どうしたか知らねぇが、陰でシルフィーを憎んでただけの奴に、シルフィーが負けるわけない」
「な……に……!?」
顔が怒りに歪んでいる。
ギリッ、と歯ぎしりする音が聞こえた。
「事実だろうが。こちとらおまえらのせいで、全員死に物狂いの戦いをしているんだ。嫌でも強くなるし」
「だ、だからってそいつが強くなるわけ……」
「もう逃げるだけのこいつじゃない。一人で戦っているわけじゃないから」
「……ッ!」
びくっ、と顔を強張せる。
……痛いとこを突かれたって感じだな。
「おまえが何を思ってそっちに付いたか知らんが、嫉妬に捕われたおまえに、俺らが負けるかよ」
「ぐ……ッ!」
悔しそうに歯噛みするが、言い返せないのか、黙り込んだまま拳を固めるだけだった。
「よーし。とりあえず倒したし、仕掛け解いて先行こうや」
「アユミ……他よりざっくり過ぎないか……?」
ブロッサムが呆れ顔をしてる。
だって、個人の問題にこれ以上首突っ込みたくないし←
「ま、とりあえず俺は先行くぞ」
「あ! ちょ……先行くな!」
仕掛けを壊……解き、扉に手を掛ける。
「あ、ちょっと待って!」
が、ここでシルフィーが呼び止めた。
足を止め、首だけ後ろに向けると、シルフィーがディームに近寄るのを見る。
「兄ちゃん……」
「……なんだよ……」
「ボクね? たしかに兄ちゃんの言う通り、泣き虫だし弱虫だし、アユミちゃんたちがいなかったら何にもできないよ?」
「…………」
返事もせずに黙るディーム。
だがシルフィーは「でもね」と続ける。
「アユミちゃんやブロッサムと一緒にいるとすごく楽しいんだ。怖いこともまだまだあるけど、一緒にいたいから、ボク頑張ろうって思えるんだ」
「……一緒に、いたいから……」
「うん。ずっとボクと一緒にいてくれたからね。兄ちゃんだって、そういう人いるでしょ?」
にこにこと話し掛けるシルフィーに対し、ディームは苦い顔をする。
「……俺に、そんな奴……」
「いるよ~。ね、ライラちゃん」
シルフィーがディームの横にいるライラに呼びかけた。
ディームも少しだけ顔を上げ、隣のライラを見る。
「ディーム」
「……ライラ」
「私、ディームと一緒で楽しかったよ? みんなも良くしてくれたし……ディームは違う?」
「お……俺は……」
「アマリリスと一緒にいる時とか、ディーム楽しそうだったよ?」
「…………」
ライラの言葉にうまく言えないのか、ディームはまた黙り込む。
「兄ちゃん」
「……?」
「ボク、兄ちゃんが大好きだよ」
「え……」
シルフィーの言葉にディームが面食らう。
「兄ちゃんがどう思ってても、ボク、兄ちゃんが大好き!」
「シルフィネスト……シルフィー」
「じゃあそろそろ行くね! アユミちゃん、ブロッサム、行こっ!」
と言って俺とブロッサムの腕をぐいぐいっと引っ張り込むシルフィー。
「良いのか?」
「うん! 言いたいこと言ったし!」
にこにこと笑顔で言い切る。
……なるほど。どうやらこいつは大丈夫だ。俺が思ったよりもずっと、な。
「……わかった。おまえがそこまで言うなら。いいな? おまえら」
「まあシルフィーが言うなら……」
「まあ、それはそちらの問題なので私は気にしませんわ」
「えと……シルフィーさんが納得したなら……」
「私も深くは言わないよ~」
「本人同士が納得してんなら問題ないんじゃねぇか?」
全員納得したようだ。
よしよし、これ以上やっても時間がもったいないしな。
「じゃあな。……今一度、自分の身の在り方を考えるんだな」
「…………」
何も言わないところを見ると……こいつも納得してくれたかな。
「……じゃあ。行くか」
「ええ。ご機嫌よう」
「うん! お姉ちゃん、気をつけてね!」
ユリとリンツェ、アイナとカエデも別ルートを歩いていく。
……さて。
「二大闇教師。そしてヤンデレ生徒会長! まずはそいつらを撃破するぞ」
「はいよ」
「イエッサー!」
エデンにはこの一年間、いろいろやられたからな。
さあ、ここでとっとと終わらせたらぁ!!
こっちは一年前からエデンに付け狙われて、何回も死線をくぐり抜けてきたからな。慣れればたいしたことはない。
「さて……そろそろ誰かと会っていいはずなんだけど」
「なっかなか見当たらないね~」
味方どころか敵すら見当たらない。
わずか二階層で一気に五人も削ったからしかたないだろうけど。
「……今思えば、よく勝てたな。二回戦」
ベコニアとはサシで戦い、ヌラリとジャコツ、スティクスとは三対三。
アマリリスを除くにしても、よく勝てたな、とつくづく思う。
(この調子で勝てるといいけど……残りも)
特にエデンと二大闇教師は厳しいからな。
アガシオン戦に向けて、なるべく体力は温存したいところだ。
「さ・あ・て。次のお相手はー……」
罠が無いか注意しつつ、扉を慎重に開ける。
「はぁッ!!!」
ビュッ――!!
バシッ!!
「はぅあ!?」
「……ッ!!!」
「アユミ!?」
危な……っ! 扉を開けた瞬間、俺の鳩尾目掛け、拳が飛んできた。
瞬発的にそれをガードした自分を褒めたいくらいだ。
(……というか、この拳のキレは……)
防いだ右腕がビリビリと痺れている。状態異常の麻痺にも似た感覚。
ただの攻撃でこんなことできるのは、俺の知る限りただ一人。
「……外した」
「外した、じゃねぇよ……」
目の前にドアップで映る紫髪のツインテール。ノーム特有の水色の瞳。
そして……術士系に適したノームには不釣り合いの拳武器。
「あ、ライラちゃん!」
「あの時の……」
勝手にはぐれたシルフィーを助け、軽く手合わせしたノーム、ライラだった。
「やっぱり、おまえらが来たか……」
その奥からもう一人現れる。
水色の髪を持ち、シルフィーと似た顔立ちのフェアリー――ディーム。
「兄ちゃん!」
「おまえらか……できればおとなしく投降してくれるとありがたいんだけど」
「……いまさらそんなこと、できるものか。ライラ!」
ディームの方はやる気満々だ。
ライラも彼の声により、即座に身構える。
「兄ちゃん……なんで闇の生徒会に力を……」
「……うるさい! もう黙ってろ!!」
そう言って数十枚のカードを出し、それを目の前の床に投げ付ける。
「何を……!」
突き刺さったカードを見て、次の瞬間、すべてカードから魔力が溢れ出した。
見ればカードが変化し、妖怪やら式神やら……タカチホのモノノケ軍団に早変わりする。
「ま、マジかよ……」
「タカチホの呪術も会得か……厄介だな」
ライラの格闘技も厄介なのに、さらに呪術でモノノケ召喚?
いくらなんでも……。
「多勢に無勢か……」
ブロッサムとシルフィーの魔法なら簡単に倒せるだろう。
けどディームの魔力がどれだけあるか。加えてライラの実力やモノノケ軍団の数を考えると、術士の二人をそのままにはできない。
かと言って俺がすべての攻撃を防御、受け流す訳にもいかない。俺の体力の方が先に果てる。
「どうするかな……」
居合で斬るにも限度がある。
三人で背中を合わせ、置かれた状況をどう打破しようと考えた時だった。
「あらあらあら……ずいぶんと派手な状態ですこと」
「!」
第三者が乱入してきた。
この状況下だと言うのに、その声はどこか楽しげ。
「ゆ、ユリ様……楽しんでる場合じゃ……」
「それくらいわかってるわ、リンツェ。……アイナちゃん、準備はよくって?」
「大丈夫だよ! ユリちゃん!」
「おーい。一応護衛の俺を通してくれねぇ?」
非常に聞き覚えのある四つの声。
見れば、モノノケ軍団の一角を吹っ飛ばし、ユリ、リンツェ、(なぜか)アイナ、カエデの四人が立っていた。
「なんでおまえらが? なんでアイナも一緒に?」
「私たち二人パーティずつだし、ユリちゃんたちと行動してたの。それだけだよ」
「あ、そう……。で、おまえらは……」
「あら。あの程度のモンスターなんて、私には造作もなくてよ?」
……まあ、
「ゆ、ユリ様……。あ、あの……モノノケたちは俺たちでなんとかしますから……」
「わりぃ! 闇の生徒会の方を頼むわ!」
ま・た・か!
なんでどいつもこいつも俺を頼りにしてんの!?
お願いだからおまえらも一緒に戦え! 後方支援じゃなくって!
「はあ……心の底からめんどくせぇ……」
「アユミちゃん~……」
「おまえって奴は……」
本音を吐露すれば、二人に呆れ顔をされた。
……だって事実だし!←
「あー……とにかく。アレ、何とかしますか」
「ああ」
「うん……」
気を取り直し、ディーム、ライラに向き直る。
「チッ……ライラ! 援護するから前衛頼むぞ!」
「うん」
拳を構え、すでに準備万端なライラ。
ディームはその背後で杖を構える。
「行けッ! アクアガン!」
「おっと」
杖を構えると、素早く水魔法を発動された。もちろんそれは素早く避ける。
……なるほど。さすがシルフィーの兄貴。腕前は確か、らしい。
「やぁッ!!!」
「わっ!?」
うぉ、危なッ!?
かわした瞬間、ライラの蹴りが顔面すれすれに飛んでくる。
瞬発的にかわした自分を褒めてぇくらい……。
「何ボケッとしてるんだよ! 避けろ!」
と考えてると、ブロッサムが叫んできた。
熱が上がったのを感じ、ハッとその場を離れる。
ゴォオオオンッ!!!
「チッ!!」
「……ッ! やばかった……っ」
俺のいた位置に炎が吹き荒れる。
ディームの舌打ちからして……どうやらイグニスで焼却されることを免れたらしいな。……ブロッサムに感謝しなくっちゃ。
(コンビネーションは抜群だな……厄介な)
ディームの魔法の発動も早く、さらにそこに格闘家学科のライラの素早さと腕力ときた。
スピード主戦の二人だけあり、反撃のチャンスもそうそうない。
「……どうする? あまり時間は……」
「わーってる。……短期決戦と行きたいところだな」
これ以上かかっても時間がもったいない。
体力や魔力も無尽蔵じゃないんだ。なるべくさっさと終わりにしないと……。
「ね、ねぇアユミちゃん、ブロッサム……」
と、ここでシルフィーがくいくい、と制服の裾を引っ張ってきた。
「なんだよ」
「あのね……ちょっと協力してほしいんだ」
「……協力?」
シルフィーからの協力って……いったいなんだ?
ライラとディームに目を向けたまま、シルフィーの声に耳を傾ける。
「……いいのか? 本気でやっちゃって……」
「うん……先に進むためだし……死なない程度にやっちゃって」
「……おまえもアユミの悪影響を受けてきたな」
はあ、とため息をつきつつ、杖を構えるブロッサム。
俺も習って刀を構え直す。
「そんじゃ、お言葉に甘えて……やるぞ!」
「「おおーっ!」」
声が揃い、俺とブロッサムは前に出た。
シルフィーは後方で魔法の待機だ。
「な……術師学科のくせに前衛って……」
「俺だってやりたくないってのッ!!」
杖と杖が打ち合い、ゴォンっ! と小気味よい音が響きあった。
まあ同じ術師学科、それも相手がフェアリーなら、ブロッサムも肉弾戦で負けることはないだろ。
問題は……。
「むしろ俺――かっ!!!」
足と足がぶつかり合い、打撃音が響く。
こちらはこちらで格闘打撃戦。術師同士のぬるい一撃じゃないから、正直命のやり取り賭けてます←
「ぐ……っ、きつ……」
「…………」
相変わらず格闘技の腕は強いな……。
ノームのくせに、いったいどんな依代に憑依しているんだ?
「ったく……キツイっつの!」
こうなりゃヤケだ。
全部終わったら気の済むまでブロッサムを弄りまくってやる!←
「ってりゃあッ!!!」
「……!」
ライラの拳を受け止める。
腕がかなり麻痺してるが、無理矢理でも耐える。
「この! それっ!」
「がっ! 痛ッ!?」
ブロッサムはブロッサムで必死に杖を振るっていた。
端から見れば弱いものイジメの図にも見えるな← まあ足止めはできているので良しとしよう。
「……あとは……」
待てばいい。あいつが発動するまで……。
「このっ!」
「くっ……!!」
……とはいえキツイ!!
この小娘、ホントいったいどんな依代をしているんだ!?
「まだか……!」
「アユミちゃあん! ブロッサム~! 逃~げて~!!」
「来たか!」
シルフィーの声が響いた。
同時に俺らの周りに熱気が纏わり付く。
「アユミ!」
「ブロッサム!」
翼を広げ、全速力で飛んできたブロッサムの腕を掴んだ。
そのままブロッサムに腕を引っ張られ、真上へ連れて行かれる。
「火炎の帝王、すべてを飲み込む! イグニス~!」
シルフィーの魔力が、炎となって二人を飲み込んだ。
「あっ……」
「ライラ……うぉ……っ!」
容赦のない炎の波は二人を焼く。
……ブロッサムが連れてってくれなきゃ、俺らも丸焼きだったろうな。
「……相変わらず恐ろしい腕前だな」
「ああ……っと。そろそろ降ろすぞ」
炎の勢いが消え、焼け焦げた後の床に着地する。
……見回せば二人は倒れてる。所々焦げた跡がある。
「……負けちゃった」
「くそっ……イグニスだけで、こんな……」
どうやら二人は結構な重傷を負ったようだ。
身体を起こすのだけで、結構精一杯らしい。
「兄ちゃん……ライラちゃん……」
「諦めろ。おまえらの負けだ」
「……くっ……! こんな……こんなこと……!!」
負けた事実を受け入れがたいのか、ディームは悔しそうに床に拳を叩きつけた。
反対にライラはどこか無表情で俺らを見ている。
「おまえらに――シルフィネストに負けるなんて……」
「認めたくない気持ちはわかるが……」
「あなたの負け、ですわ」
おお、カエデにユリ。おまえらも終わったのか。
「お姉ちゃんたちの勝ち、だね」
「は、はい……です!」
「うるさい……うるさい! おまえらなんかに言われなくたって……!」
よほど認めたくないのか。
それとも……。
「兄ちゃん……」
「……なんで」
途端に声が弱々しくなった。
がくりとうなだれ、泣き出しそうな顔でつぶやいた。
「なんで……いつも、おまえばかり……」
「ディーム……」
「努力してきて、頑張って……なのに、おまえが俺より上にいて……俺の努力が、全部無駄になってきたように思えて……」
「兄ちゃん……?」
「くそっ……おまえなんかに、負けるなんて……」
ギリギリと歯ぎしりしながらシルフィーを睨む。
……アマリリスと違って、こっちは相当根が深いな。
「兄ちゃん……どうして……」
「どうして……ディーム、シルフィーがうらやましかったから?」
「ライラちゃん……?」
シルフィーの疑問に答えたのはライラだった。
さっきと違い、明らかに悲しそうな表情だ。
「勉強ばかりで一人ぼっちだった自分なのに、シルフィーは全部を手に入れてるから。つねに自分の上にいるから。どんなに努力しても、シルフィーを越えられないから」
「え……」
「自分の欲しいものを、シルフィーはすべて持ってるから」
「そうなの? 兄ちゃん……」
「……っ」
シルフィーから視線をそらす。
ライラの言葉が真実という証拠だ。
「アマリリスさんより複雑、ですね……」
「あ~……嫉妬関係って面倒なんだよなぁ……」
「まったくですわ。どう説得しますの?」
「わ、私に聞かれても~……」
リンツェ、カエデ、ユリ、アイナも困り顔だ。
純粋な嫉妬だもんなー……。対処も難しいんだろ。
「……けど、言えることは」
「……?」
ディームに向き直り、一言。
「闇の生徒会に堕ちるようじゃ、一生勝てない。ってこった」
「!!」
「ちょ……アユミ!?」
俺の言葉にディームが顔を歪ませた。
それにブロッサムが慌てだす。
「事実だろ? 真っ正面からぶつかんねぇで、逃げ出すような真似して……卒業からその後どうしたか知らねぇが、陰でシルフィーを憎んでただけの奴に、シルフィーが負けるわけない」
「な……に……!?」
顔が怒りに歪んでいる。
ギリッ、と歯ぎしりする音が聞こえた。
「事実だろうが。こちとらおまえらのせいで、全員死に物狂いの戦いをしているんだ。嫌でも強くなるし」
「だ、だからってそいつが強くなるわけ……」
「もう逃げるだけのこいつじゃない。一人で戦っているわけじゃないから」
「……ッ!」
びくっ、と顔を強張せる。
……痛いとこを突かれたって感じだな。
「おまえが何を思ってそっちに付いたか知らんが、嫉妬に捕われたおまえに、俺らが負けるかよ」
「ぐ……ッ!」
悔しそうに歯噛みするが、言い返せないのか、黙り込んだまま拳を固めるだけだった。
「よーし。とりあえず倒したし、仕掛け解いて先行こうや」
「アユミ……他よりざっくり過ぎないか……?」
ブロッサムが呆れ顔をしてる。
だって、個人の問題にこれ以上首突っ込みたくないし←
「ま、とりあえず俺は先行くぞ」
「あ! ちょ……先行くな!」
仕掛けを壊……解き、扉に手を掛ける。
「あ、ちょっと待って!」
が、ここでシルフィーが呼び止めた。
足を止め、首だけ後ろに向けると、シルフィーがディームに近寄るのを見る。
「兄ちゃん……」
「……なんだよ……」
「ボクね? たしかに兄ちゃんの言う通り、泣き虫だし弱虫だし、アユミちゃんたちがいなかったら何にもできないよ?」
「…………」
返事もせずに黙るディーム。
だがシルフィーは「でもね」と続ける。
「アユミちゃんやブロッサムと一緒にいるとすごく楽しいんだ。怖いこともまだまだあるけど、一緒にいたいから、ボク頑張ろうって思えるんだ」
「……一緒に、いたいから……」
「うん。ずっとボクと一緒にいてくれたからね。兄ちゃんだって、そういう人いるでしょ?」
にこにこと話し掛けるシルフィーに対し、ディームは苦い顔をする。
「……俺に、そんな奴……」
「いるよ~。ね、ライラちゃん」
シルフィーがディームの横にいるライラに呼びかけた。
ディームも少しだけ顔を上げ、隣のライラを見る。
「ディーム」
「……ライラ」
「私、ディームと一緒で楽しかったよ? みんなも良くしてくれたし……ディームは違う?」
「お……俺は……」
「アマリリスと一緒にいる時とか、ディーム楽しそうだったよ?」
「…………」
ライラの言葉にうまく言えないのか、ディームはまた黙り込む。
「兄ちゃん」
「……?」
「ボク、兄ちゃんが大好きだよ」
「え……」
シルフィーの言葉にディームが面食らう。
「兄ちゃんがどう思ってても、ボク、兄ちゃんが大好き!」
「シルフィネスト……シルフィー」
「じゃあそろそろ行くね! アユミちゃん、ブロッサム、行こっ!」
と言って俺とブロッサムの腕をぐいぐいっと引っ張り込むシルフィー。
「良いのか?」
「うん! 言いたいこと言ったし!」
にこにこと笑顔で言い切る。
……なるほど。どうやらこいつは大丈夫だ。俺が思ったよりもずっと、な。
「……わかった。おまえがそこまで言うなら。いいな? おまえら」
「まあシルフィーが言うなら……」
「まあ、それはそちらの問題なので私は気にしませんわ」
「えと……シルフィーさんが納得したなら……」
「私も深くは言わないよ~」
「本人同士が納得してんなら問題ないんじゃねぇか?」
全員納得したようだ。
よしよし、これ以上やっても時間がもったいないしな。
「じゃあな。……今一度、自分の身の在り方を考えるんだな」
「…………」
何も言わないところを見ると……こいつも納得してくれたかな。
「……じゃあ。行くか」
「ええ。ご機嫌よう」
「うん! お姉ちゃん、気をつけてね!」
ユリとリンツェ、アイナとカエデも別ルートを歩いていく。
……さて。
「二大闇教師。そしてヤンデレ生徒会長! まずはそいつらを撃破するぞ」
「はいよ」
「イエッサー!」
エデンにはこの一年間、いろいろやられたからな。
さあ、ここでとっとと終わらせたらぁ!!