垣間見る者
「……すまん。もう一回言ってくれ」
「な、何度も言わせんなよっ! 恥ずかしいんだからな!」
赤面+涙目で俺を見下ろしている(うわ、可愛いんだけど←)この男、ブロッサムは再び泣きそうな顔で俺に懇願した。
「――い、一緒に……俺ん家来てくれ」
――――
「……つまり。おまえの親父が学校での評価を聞くべく、おまえに里帰りを命じたと」
「はい……」
「そんで帰りたくなかったおまえは俺の存在を話し、あろうことか『補習だらけで居残る羽目になったダメリーダー』と話した」
「……はい」
「けど親父殿は引かず、ならば勉強を教えるから連れて来い、と……。一人で帰るよりはマシと思ったおまえはそれで了承した」
「…………はい」
「…………。アホかおのれは」
「いだだだだッ!!!」
飛竜の上でアイアンクローを決め込みながら、長いため息をついた。
……まあ先程の説明通り、俺はブロッサムの(情けない理由で)家へ向かっている。
ローズガーデンのちょい先にあるっつーことだが……まったく、なんでこんなことに。
(分家と言えどウィンターコスモス家だろ……? ……うわ、やばい、死ぬほど帰りたい)
俺の実家のせいか、貴族とかは苦手だ。
さらに厳密に言えば、頭の固い上流階級の人間が一番嫌いだ。口うるさいことこの上ない。
(もしそんなところだったら、即刻日帰りしてやる!)
もちろんブロッサムを引き連れてな。
俺は心の底からそう誓った。
――――
「つ、着いたぞ……」
「へぇ……ここがおまえん家か」
飛竜から降り、ブロッサムの家を眺める。
外観は小洒落た洋館って感じだった。ローズガーデンに近いということもあり、草木のアーチや薔薇の庭など、緑に溢れている。
「……まあ、そこそこな大きさだな」
「そりゃ、あくまで分家だし……ちなみにセルシアんとこ本家はここより2.5倍くらいでかいぞ」
「微妙だな、おい」
まあここより大きいってことは認めてやる。
さすが天下のウィンターコスモス。
「……んじゃ、行くか」
「そうだな」
とにもかくにも、入ってみなければわからない。
ブロッサムに促されながら門をくぐっていった。
――――
「…………」
……目の前の光景に圧倒されそうだった。
なぜなら――。
『お帰りなさいませ、ブロッサム様』
メイドさん、執事さんが約20人。きっちり45度に頭下げてブロッサムの帰還を出迎えていた。
『ようこそ、アユミ様』
「い、いえ……」
俺にまで頭下げないでぇええええッ!!!
何なの、この召使い集団!?
(おい、ブロッサム! 何コレ!? まさかこれがノーマルとは言わないよね!?)
(え……? 違うのか?)
え゙え゙え゙え゙え゙え゙!!?
おまえん家ではこれが普通なのですかァアアアッ!!!?
(さ、さすがはウィンターコスモス家……)
天下と呼べる家柄だな、ホントにさ……。
「――ブロッサム」
「……!」
階段の上から聞こえた声。
厳格そうな雰囲気が声から伝わってくる。
「……あの人が……」
階段の上にいたのはセレスティアの男性。外見は……セントウレア校長並に若い(ウィンターコスモスのセレスティアはどいつもこいつも若いのか!!?)。セントウレア校長とは真逆な雰囲気だが。
短い銀髪、鋭い蒼の瞳、シルバーのアンダーフレーム眼鏡。それがより一層厳格な雰囲気に見える。
『ロータス様』
「ち、父上……」
「ようやく帰ってきたか。……その娘が、例の?」
言われ、俺に視線を向けられる。
「……はじめまして。アユミです」
「ブロッサムが世話になってる。……ネフライト。サファイア。客室まで案内しろ」
「「了解しました」」
言ってブロッサムの親父……ロータスはスタスタとどっかへ去った。
残された俺らに、同い年っぽい小柄なバハムーンとヒューマンの青年がやってくる。
「それじゃあお二方~♪」
「……こちらへ」
対称的な雰囲気の二人が俺らを促す。
特にやることもない俺とブロッサムは、その二人について行くのだった。
――――
「はい。んじゃ、ロータス様が来るまで、しばらく待っていてくださいな」
「――しばらくしたら来るので」
「ああ、ありがとう」
「悪いな、二人とも」
着いていった先の客室で、ネフライトとサファイアからお茶をいただいた。
――うん、おいしいや。
「――しっかし。まさか坊ちゃまが女の子連れで帰ってくるなんてねぇ~」
「な、なんだよ、ネフライト。そのにやけ顔は」
「べ~つ~に~?」
「……まあ。最初は男かと思ったけど」
「そ、それは言うなよ……」
……年齢が近いせいか? ブロッサムとこの二人、仲がいいように見える。
「……なあ。おまえら、どういう関係?」
「あっと……こりゃ失礼」
あは、と小柄のバハムーン、ネフライトが笑いながら、俺にずいっと近寄ってくる。
「ボクはネフライト=スノー。忍者と同時に、こう見えてロータス様の執事です。……ほら、サファイアも」
「……サファイア=スノー。ガンナー兼、同じくロータス様の執事だ」
スノー家だったんだ……。つーか、ブロッサムの家にも執事いたんだね←
「えっと……俺はアユミ。侍学科を専攻している」
「うん、うん。ロータス様からある程度聞いたよ。三学園交流戦で、セルシア様との一騎打ちに勝った猛者だって」
「え……父上、知ってんの!?」
驚きながら言うブロッサムに、「そりゃそっすよ」とネフライトが頷き返す。
「三学園交流戦のことは、新聞や連絡水晶ニュースを通じて放送してるんですから」
「……ロータス様も、もちろん知ってる。決勝戦の様子も見てた」
マジかよ……そんなの全然知らなかった。
……ってことは……。
「……なあブロッサム。ひょっとしたら親父殿、おまえの嘘、ばれてんじゃないか?」
「……え。なんで?」
「だってさ……すでに交流戦の結果を知ってんだろ? なら俺のことも知ってると思うんだけど……あとおまえ、絶対嘘が下手だろ」
「ゔっ……」
あ、痛いところ突いたな。
ブロッサムが唇噛んでムッとしてる(だから可愛いって、おまえそれ←)。
ガチャ。
「ほう……さすがセルシア様と渡り合える実力者。頭の方もいいようだ」
「「ロータス様!」」
客室にロータスがやってきた。
それにネフライトとサファイアが同時に頭を下げる。
「父上……」
「……あとは下がれ」
「「御意」」
号令に従い、執事二人が下がっていった。
その後ロータスが俺に向き直る。
「……息子を強くしてくれたようだな。感謝しよう」
「いいえ、べつに。あと、ずいぶん上から目線ですね、お父様」
「い゙っ!!? ちょ、アユミ!!」
ブロッサムが冷や汗かきまくりながら俺を見る。
特に気にせずロータスと目を交える。
「……話には聞いていたが、本当に物おじしないのだな。……私が怖くないのか?」
「むしろあなたが、自分が怖いってことを認識してることに驚いてますが」
「……よくそう言われるだけだ。私は思っていない」
「ふぅん……ま。どっちでも構いませんがね」
べつにこの人は怖くないさ。
……俺を付け狙うヤンデレと比べればな。
「お、おいアユミ、その辺に――」
父親の視線と眼力が恐ろしいのか、ブロッサムがわたわたし出し……。
バシャ。
「あっづッ!!!」
「!」
「あ」
……見事、熱い紅茶のポットをひっくり返し、左腕に被ってしまった。
「おいおい……何やってんだ、テメェは」
「間違っただけ……いた……っ」
「バカ。あまり動かすな。……上着、脱がすぞ」
上着を脱がし、引っ被った部分を掴む。
「アクア」
掴んだ部分に初級水魔法のアクアをかけた。
あ。もちろんただの水だし、水温も調節してっから。
「え、おい……」
「応急処置だ。そんな状態じゃ、魔法なぞ使えないだろ」
「む、むぅ……」
アクアを腕にぶっかけられてるブロッサムが唇を尖らせる。だからなんでそんなに可愛いんだ、おまえは。
「……こんなもんかな」
「え……あ、あり……がと……」
「いいえ。……あ。でも悪いな。床とソファ、アクアでびっしょりになっちゃった」
言いながら、俺はロータスに軽く詫びる。
ブロッサムもハッとした表情で親父殿を見た。
「あ……えっと……」
「……大事はないか」
「え……は、はい……」
「そうか」
それだけ言うと立ち上がり、扉に向かって歩き出す。
「……手当を受けたら服を着替えろ。いつまでも制服でいるな」
「は……は、い」
「……アユミ。ブロッサムの自室の隣に部屋を用意してある。滞在中はそこに寝泊まりするがいい」
「あら、そいつはありがたい」
ロータスはちらっとブロッサムの腕を見る。
が、すぐに視線を反らし、そのまま部屋を出ていった。
「……あっさり行ったな」
「まあ……父上、忙しい人だし」
父親がいなくなったからか、ブロッサムが息を吐きながら一安心する。
……そんなに怖い人なのかね?
(……ま。あれじゃ誤解もされるわな)
セントウレア校長の柔和なイメージとは逆で、例えるなら氷だ。
どっちかっつーと、フリージアと被って見える(眼鏡もあるし)な。
「とりあえず部屋行くか……着替えさせ」
「るわけねぇだろッ!!!!」
あ、やっぱり却下されました←
――――
「ったく……油断も隙もねぇな」
「いいじゃん、減るもんじゃないしー」
「減る。俺のいろいろなものが」
「理性が? そうだな、おまえどっちかっつーとマ「おまえもう口を開くな!」」
ブロッサムの部屋で、ブロッサムが着替えしているところを見ながら茶々を入れる。
……見てるだけだ。
俺の両手首は後ろで縛られ、さらにギザギザ面の石の上に正座させられ、トドメに膝の上に分厚い石材を三つものせられていた。
もちろんやったのはブロッサムだ。……いつの間にこんなの覚えたんだ。誰だ、教えた奴←
「ったく、この変態め……」
ぐちぐち言いながら着替えはじめる(濡れたシャツだけな)ブロッサム。
まあ下手な抵抗でこれ以上石材を追加されても困るしな。
ここはおとなしく見てるだけにしようか。
(やっぱ肌白いなー……)
俺はそんな気にしないが……多分、女子とかうらやましがると思うな。
本当に白天使って感じ。
「……ん?」
ジーッと見ていると、ふと左肩に目がいった。
「なあ、ブロッサム。その左肩……」
「え……、――ああ、もしかして、これか?」
言ってあいつは左肩にある、花のような形をした痣に触れた。
「なんか、ガキの頃からあったんだ。結構大きいし、恥ずかしいから隠してたんだけど……」
「へぇ……」
気づかなかったな……。
まあ位置的に夏服でも隠せるからかもしれないが。
「このことは言うなよ。……見方によれば、気持ち悪いかもしれないし」
「知られて嫌になるようなことは多言しねぇよ」
気にしていることまでは言わないさ。
俺はそこまでバカじゃない。
「むしろ、おまえのいろいろな秘密は俺だけが知っていればいいし」
「――え、何? いろいろな秘密って……?」
「えーっと……タンスの裏のアレとか、クローゼットに隠したソレとか」
言うと、ブロッサムの顔がどんどん青ざめていった。
さらに続けて言おうとすると、「ギャーーーーッ!!!」と一気に真っ赤になって口を塞がれる。
「お、おま……なんで知って……ッ!!?」
「やだなあ、ブロッサム~。おまえのことなら、な・ん・で・も♪ 知ってるって♪」
「~~~っ、っとに油断ならない奴だな!!」
ひとしきり叫ぶと「絶対変えねーと」とぶつぶつ言うのが聞こえた。
……よし。後日また調べとこうか← いざという時の脅迫材料に使う為に←
「……まあとにかく。痣のこととか話さねぇから、絶対」
「ああ……うん。……それは大丈夫そうだな……あんまり安心材料にはならないが」
……勘が優れてるな。
薄々ながら気づいてやがる。
「ま、いいや。……ところで、この拷問はいつまで続きますか?」
「着替え終わるまで待ってろ」
……チッ←
――――
そんなこんなでとりあえずブロッサムが着替え終わり、俺もお仕置きから解放された。
あー、痛かった←
「……で」
「うん、何?」
「なんでこんなことになるんだよ!!」
ブロッサムががたがた騒ぎ立ててる。
……あ、多分俺がブロッサムの背中にぺったり張り付い――もとい、抱き着いてるからだと思う。
ってか絶対にそうですよねー←
「いいじゃないか。騒がしい 奴ら がいないんだし」
「サラっと本音が見えてないか? 今」
「んあー……おまえの翼、ふかふかー……。そこらの羽毛より一級品だよ~」
「ぎゃわぁあああッ!!! ちょ、やめ……ッ!!!」
もふもふしてると、ブロッサムがじたばた暴れ出した。
うわー……可愛い奴ー……。
ガチャ。
「坊ちゃまーっ。そろそろお夕飯のじ、か……」
「……あ」
「げ……っ!」
あ、ここでスノー家執事コンビが部屋に入ってきた。
……そして目を丸くした。
「ぼ、ぼぼぼ、坊ちゃまあああッ!!? なんで部屋でそこのお嬢様とうらやましいことをぉおおお!!?」
「いや、違うし! 誤解だ、ネフライト!!」
「誤解? 俺の前で声高くして鳴いたこともあったのに……?」
「ノォオオオオオオッ!!!」
「なんで悪化させとんじゃ、おまえはあぁあああッ!!!」
うわ、一気にカオスに陥った。
やばい、かなり面白い←
「ネフライト、落ち着け」
「むごっ!」
終止符を打ったのは、ネフライトに巨大ハリセンを叩き入れたサファイアだった。
……え? どっから出したのその巨大なハリセン。
「な、何すんですかィ、サファイアく~ん……」
「……くだらないことで騒ぐからだ」
……なんとクールな男。フリージア以上に冷静な男だな。
「ブロッサム様……入ってきたのは俺らだったからよかったものの、もし違う人だったらどうするんですか」
「す、すみません……」
「あらら、怒られちゃったな」
「おまえのせいだろ、120%!!! だいたいいつまで張り付いてんだよ!!」
「はーなーせー!!」と暴れまくるブロッサム。
しかたないので離れる。……むー、もうちょっと楽しみたかったのにな。
「んじゃ……夕飯、だっけ? がっつり食っちゃっていいの?」
「がっつり、はいけないが、とりあえず食べ方のルールは気にしなくて結構だ」
よっしゃ。とりあえずそこは怒られなくて済むな。
「よーし……んじゃ盛大にいただきますか」
「盛大に、も無理な気が……」
サファイアから律儀にツッコミをいただきました。
……もしかして、こいつもツッコミタイプか?
「……とりあえず食いに行くぞ」
考えに老けっていると、ブロッサムに腕を引っ張られた。
ものすごく疲れきった顔で……はい、お疲れ様です←
――――
「うーむ……さすが天下のウィンターコスモス……お抱えシェフも違うなー」
豪勢かつ豪華な料理をぺろりと平らげ、指定された部屋へと向かっている。
うーん……。ブロッサムと一緒じゃないのが残念だったが。
「ふぅ……ん?」
一足先に早く帰る俺は、ふとエントランスのある物に目を向けた。
「……これは……」
いや……向いた、というより、向いてしまったというのが正しいな。
エントランスの壁に張り付けられた一枚の絵画。絵画に写る、一人のセレスティア。
「――……ブロッサム……?」
つぶやいて、けどすぐにその考えを打ち消した。
「いや……年齢が違うもんな。明らかにこっちのが大人だし」
顔つきはたしかに似てるけど、これは二十代前半くらい(実際は不明だけど)に見えるな。
大人っぽいし、セントウレア校長みたく落ち着いた印象が伝わってくる。
「だから、似てるけど違う」
声に出して否定する。
彼は違う。――違う、はず。これはブロッサムじゃない。……ブロッサムなはずがない。
「……なのに……」
けど、何かが引っ掛かってる。
絵画の中の人物が、どうしても“ブロッサムとしか思えない”んだ。
「…………」
食い入るようにじっと見つめる。
どうして引っ掛かったか。何を感じたのか。何が彼とブロッサムを結び付けたのか。
「……!」
そして気づいた。
多分、これが原因。
「これ……」
「……アユミ?」
じっと見ていると声をかけられた。
我に返って振り返ると、終わったのか、ブロッサムが近くに立っていた。
「ブロッサム……? どうした? 夕飯は……」
「いや、もう終わったし……それにどうした? は、俺なんだけど。呼んでも上の空だし……」
やば……そんなに見てたのか……。
集中すると、周り見えなくなるからな……。
「……そんなに、“初代ウィンターコスモス”の絵画が気になるのか?」
「……え?」
初代ウィンターコスモスって……アガシオンと戦ったっていう、あの?
「この男が……初代ウィンターコスモス……?」
「あ、ああ。そうだけど……?」
「ふぅん……、…………」
確かめるようにたずねると、戸惑いながらブロッサムは頷く。
じっと絵画を見つめ、その後、ブロッサムと絵画を交互に見比べる。
「……? な、なんだよ……?」
「……いや? ただ……似てるなって」
「……何が?」
「おまえと、初代ウィンターコスモス」
絵画を見ながら横目で告げると、ブロッサムはキョトンと目を丸くする。
「お、俺と……?」
「ああ、そっくりだ。顔立ちとかな」
「いや……似てないって! ありえないから!」
驚きながら、必死で首を横に振るブロッサム。
きっと冗談とか思ってるだろうな。
(……けど)
俺は冗談で言ってない。
ブロッサムと初代ウィンターコスモス。俺の目には“同じ顔”にしか見えなかった。生き写しと言ってもいい。
「ほ、ほら! もう休むぞ!」
「ああ――わかった」
……これ以上突いても無駄だろうな。
情報も拾えなさそうだし、ここは一旦戻ろうか。
(……それに……)
後でも情報は拾えそうだしな。
なぜなら……そこに知ってそうな奴がいるからな。
「…………」
本当に、面白い滞在になりそうだな。
そう思いながら、ブロッサムと一緒に部屋へ戻っていった。
――――
???Side
「……気づかれた、か」
戦闘能力も申し分ないが……なるほど。頭の回転が早いな。
気づかないようなことにも気づくとは……。
「さすが“予言の子”……“あいつ”の言う通り、か」
――――
アユミSide
とりあえず部屋に戻り、ベッドに寝転ぶ。
「――やっぱり……気になる……な」
とはいえ、やっぱ気になる。気になって眠れない。
絵画とブロッサム。どうしても二人が結び付く。
「偶然にしては、出来過ぎじゃないのか……?」
関係があるとは限らない。
けど、繋がってる気がする。
「はたして、何があるのやら」
知ってそうな奴もいることだし。……ちょっと調べてみますか。
――――
翌日。
ブロッサムの翼並に超ふっかふかなベッドで熟睡できました。
「何なんだ……畜生、これだからスーパー金持ちは……」
金があればいろいろできるし……。
……貴族という点はあまり気にいらないが、マジでブロッサムで玉の輿狙うかっ!!?←
「……さて……」
よし、行くか……朝飯たかりに!!←
……え? まずはそこからだって? ええ、そこからですよ!!←
――――
「いやあ、うまいな。テラスでブランチってのも♪」
「あらら。喜んでくれました?」
「おい……頼むから、ちゃんと礼儀正しくしろよ……?」
はらはらしながら隣に座るブロッサムが俺を見る。
いいじゃないか。いるのはスノー家執事コンビだけなんだし。
「飯は美味く食べたもん勝ちなんだよ。貴族だろうが知ったことか」
「……婦女子と思えないセリフ」
サファイアから冷静なツッコミをいただきました。
……表情があまり変わってないぞ……。
「うるさいわボケ。あ、そのサンドイッチおいしそう。取って」
レタスとトマトのおいしそうなサンドイッチを指差してせがむ。
それを「はいはい」とブロッサムが取ってくれる。
「サンキュー♪ ……あ、ブロッサム。顔にソース付いてる」
「え……ど、どこ?」
口元に付いてるのがわからず、ぺたぺたと顔を触ってる。
……ほんのちょっとなんだけどね。でも仕草が萌えるからいい←
「バカ。……ここだって」
口元拭こうとして……ここでちょっと。いや、かなり加虐心が沸々と沸いて来た。
接近して顔を近づけて、舌でソースを舐め取る。
「ッ!!!」
「ウボァアッ!!?」
「あ」
ブロッサムが一瞬硬直して、それからすぐに顔を紅潮させる。
ネフライトが変な悲鳴を上げ、サファイアは……やっぱあんまり変わってない。
「お、おま……ッ!!!? いいい、いったい何を!!」
「何をって……ソース付いてたから」
「だからって舐め取るか、普通!?」
うっは← ものすごく真っ赤で慌ててまくし立ててる。
やばい……超弄り倒してェ!!
「坊ちゃま……あの、やはり、この人とはそーいう――ちょっとアレな関係で……!?」
「さらに言えば、ソレやコレなこともしちゃったり?」
「キャーーーッス!!!?」
「ソレってなんだよ! 頼むから悪化させんな!!!」
「ブロッサム様、静かに。おまえも落ち着け」
暴走するブロッサムをなだめつつ、サファイアがハリセンでネフライトを叩く。
おまえもどっから出してんの? ソレ。
ザッ……。
「……楽しんでるようだな」
「「……あ゙」」
「「あ。親父殿(ロータス様)」」
あれま。いつの間にか親父殿がこちらにいました。
俺は気にしないけど……気配を感じなかったのか、ブロッサムとネフライトが同時にビクゥ!! と跳ね上がってる。
「おかげ様で。景色は良いし飯は美味いし、執事コンビは面白いしお宅の息子は可愛いしで最高です」
「なんでそこで俺を出すの!?」
「面白いって何ッスか!?」
「……しかもブロッサム様が可愛いって……」
野郎三人が同時に俺を不審な目で見ている。
けど気にしないよ? ……なぜなら! ブロッサムを後ほど好き放題弄るからな!
「(……ッ!! 今なんか変な悪寒が……!?)あ、あの……父上は、なぜこちらに……?」
「そいつに用がある」
と言ってロータスが指さしたのは――。
「……あれ? 俺?」
「……サファイア。そいつを私の部屋へ連れて来い」
「仰せのままに」
サファイアが一礼したのを見て、ロータスがすぐに踵を返した。
残された俺らにしばし沈黙が流れる。
「ロータス様の御指名って……ホント、このお姉さん何者的な?」
「アユミ……その……ち、父上、大丈夫か?」
「べつに平気だけど。怖くない」
「「怖く……え゙え゙え゙え゙え゙え゙!!?」」
同時にリアクションが返ってきた。
……ホントに面白いな、この二人←
「銀髪でクールなイケメンもカッコイイぜ? あーいう人も好きだよ、俺」
「え……アユミ……父上みたいな人が好み……なのか?」
ブロッサムが往年の消費者金融のチワワみたく、唇噛みながら不安そうな目で俺を見ている。
……何このツンデレ天使。可愛くてしかたないんだけど! 誘拐して監禁していい!!?←
「親父さんみたいな奴も良いって話だ。……だいたい」
身を乗り出し、ブロッサムの顎を撫でながら上に乗っかる。
「俺がおまえ以外の男に、目移りすると思う……?」
「……ッ!!!」
息を吹き込みつつ、耳元に低い声で囁いた。
ビクッ、と身体を跳ね上がらせるブロッサムに、心の底から満足する。
「おい」
「ぐぇっ」
……している時だった。
急に首根っこを掴まれ、潰れた蛙のような声が出る。
「ロータス様を待たせるな……行くぞ」
「あいあ~い……じゃあね~」
そのままサファイアに連れられ、真っ赤になって固まっているブロッサムとネフライトを置いて、俺はテラスを出たのだった。
「な、何度も言わせんなよっ! 恥ずかしいんだからな!」
赤面+涙目で俺を見下ろしている(うわ、可愛いんだけど←)この男、ブロッサムは再び泣きそうな顔で俺に懇願した。
「――い、一緒に……俺ん家来てくれ」
――――
「……つまり。おまえの親父が学校での評価を聞くべく、おまえに里帰りを命じたと」
「はい……」
「そんで帰りたくなかったおまえは俺の存在を話し、あろうことか『補習だらけで居残る羽目になったダメリーダー』と話した」
「……はい」
「けど親父殿は引かず、ならば勉強を教えるから連れて来い、と……。一人で帰るよりはマシと思ったおまえはそれで了承した」
「…………はい」
「…………。アホかおのれは」
「いだだだだッ!!!」
飛竜の上でアイアンクローを決め込みながら、長いため息をついた。
……まあ先程の説明通り、俺はブロッサムの(情けない理由で)家へ向かっている。
ローズガーデンのちょい先にあるっつーことだが……まったく、なんでこんなことに。
(分家と言えどウィンターコスモス家だろ……? ……うわ、やばい、死ぬほど帰りたい)
俺の実家のせいか、貴族とかは苦手だ。
さらに厳密に言えば、頭の固い上流階級の人間が一番嫌いだ。口うるさいことこの上ない。
(もしそんなところだったら、即刻日帰りしてやる!)
もちろんブロッサムを引き連れてな。
俺は心の底からそう誓った。
――――
「つ、着いたぞ……」
「へぇ……ここがおまえん家か」
飛竜から降り、ブロッサムの家を眺める。
外観は小洒落た洋館って感じだった。ローズガーデンに近いということもあり、草木のアーチや薔薇の庭など、緑に溢れている。
「……まあ、そこそこな大きさだな」
「そりゃ、あくまで分家だし……ちなみにセルシアんとこ本家はここより2.5倍くらいでかいぞ」
「微妙だな、おい」
まあここより大きいってことは認めてやる。
さすが天下のウィンターコスモス。
「……んじゃ、行くか」
「そうだな」
とにもかくにも、入ってみなければわからない。
ブロッサムに促されながら門をくぐっていった。
――――
「…………」
……目の前の光景に圧倒されそうだった。
なぜなら――。
『お帰りなさいませ、ブロッサム様』
メイドさん、執事さんが約20人。きっちり45度に頭下げてブロッサムの帰還を出迎えていた。
『ようこそ、アユミ様』
「い、いえ……」
俺にまで頭下げないでぇええええッ!!!
何なの、この召使い集団!?
(おい、ブロッサム! 何コレ!? まさかこれがノーマルとは言わないよね!?)
(え……? 違うのか?)
え゙え゙え゙え゙え゙え゙!!?
おまえん家ではこれが普通なのですかァアアアッ!!!?
(さ、さすがはウィンターコスモス家……)
天下と呼べる家柄だな、ホントにさ……。
「――ブロッサム」
「……!」
階段の上から聞こえた声。
厳格そうな雰囲気が声から伝わってくる。
「……あの人が……」
階段の上にいたのはセレスティアの男性。外見は……セントウレア校長並に若い(ウィンターコスモスのセレスティアはどいつもこいつも若いのか!!?)。セントウレア校長とは真逆な雰囲気だが。
短い銀髪、鋭い蒼の瞳、シルバーのアンダーフレーム眼鏡。それがより一層厳格な雰囲気に見える。
『ロータス様』
「ち、父上……」
「ようやく帰ってきたか。……その娘が、例の?」
言われ、俺に視線を向けられる。
「……はじめまして。アユミです」
「ブロッサムが世話になってる。……ネフライト。サファイア。客室まで案内しろ」
「「了解しました」」
言ってブロッサムの親父……ロータスはスタスタとどっかへ去った。
残された俺らに、同い年っぽい小柄なバハムーンとヒューマンの青年がやってくる。
「それじゃあお二方~♪」
「……こちらへ」
対称的な雰囲気の二人が俺らを促す。
特にやることもない俺とブロッサムは、その二人について行くのだった。
――――
「はい。んじゃ、ロータス様が来るまで、しばらく待っていてくださいな」
「――しばらくしたら来るので」
「ああ、ありがとう」
「悪いな、二人とも」
着いていった先の客室で、ネフライトとサファイアからお茶をいただいた。
――うん、おいしいや。
「――しっかし。まさか坊ちゃまが女の子連れで帰ってくるなんてねぇ~」
「な、なんだよ、ネフライト。そのにやけ顔は」
「べ~つ~に~?」
「……まあ。最初は男かと思ったけど」
「そ、それは言うなよ……」
……年齢が近いせいか? ブロッサムとこの二人、仲がいいように見える。
「……なあ。おまえら、どういう関係?」
「あっと……こりゃ失礼」
あは、と小柄のバハムーン、ネフライトが笑いながら、俺にずいっと近寄ってくる。
「ボクはネフライト=スノー。忍者と同時に、こう見えてロータス様の執事です。……ほら、サファイアも」
「……サファイア=スノー。ガンナー兼、同じくロータス様の執事だ」
スノー家だったんだ……。つーか、ブロッサムの家にも執事いたんだね←
「えっと……俺はアユミ。侍学科を専攻している」
「うん、うん。ロータス様からある程度聞いたよ。三学園交流戦で、セルシア様との一騎打ちに勝った猛者だって」
「え……父上、知ってんの!?」
驚きながら言うブロッサムに、「そりゃそっすよ」とネフライトが頷き返す。
「三学園交流戦のことは、新聞や連絡水晶ニュースを通じて放送してるんですから」
「……ロータス様も、もちろん知ってる。決勝戦の様子も見てた」
マジかよ……そんなの全然知らなかった。
……ってことは……。
「……なあブロッサム。ひょっとしたら親父殿、おまえの嘘、ばれてんじゃないか?」
「……え。なんで?」
「だってさ……すでに交流戦の結果を知ってんだろ? なら俺のことも知ってると思うんだけど……あとおまえ、絶対嘘が下手だろ」
「ゔっ……」
あ、痛いところ突いたな。
ブロッサムが唇噛んでムッとしてる(だから可愛いって、おまえそれ←)。
ガチャ。
「ほう……さすがセルシア様と渡り合える実力者。頭の方もいいようだ」
「「ロータス様!」」
客室にロータスがやってきた。
それにネフライトとサファイアが同時に頭を下げる。
「父上……」
「……あとは下がれ」
「「御意」」
号令に従い、執事二人が下がっていった。
その後ロータスが俺に向き直る。
「……息子を強くしてくれたようだな。感謝しよう」
「いいえ、べつに。あと、ずいぶん上から目線ですね、お父様」
「い゙っ!!? ちょ、アユミ!!」
ブロッサムが冷や汗かきまくりながら俺を見る。
特に気にせずロータスと目を交える。
「……話には聞いていたが、本当に物おじしないのだな。……私が怖くないのか?」
「むしろあなたが、自分が怖いってことを認識してることに驚いてますが」
「……よくそう言われるだけだ。私は思っていない」
「ふぅん……ま。どっちでも構いませんがね」
べつにこの人は怖くないさ。
……俺を付け狙うヤンデレと比べればな。
「お、おいアユミ、その辺に――」
父親の視線と眼力が恐ろしいのか、ブロッサムがわたわたし出し……。
バシャ。
「あっづッ!!!」
「!」
「あ」
……見事、熱い紅茶のポットをひっくり返し、左腕に被ってしまった。
「おいおい……何やってんだ、テメェは」
「間違っただけ……いた……っ」
「バカ。あまり動かすな。……上着、脱がすぞ」
上着を脱がし、引っ被った部分を掴む。
「アクア」
掴んだ部分に初級水魔法のアクアをかけた。
あ。もちろんただの水だし、水温も調節してっから。
「え、おい……」
「応急処置だ。そんな状態じゃ、魔法なぞ使えないだろ」
「む、むぅ……」
アクアを腕にぶっかけられてるブロッサムが唇を尖らせる。だからなんでそんなに可愛いんだ、おまえは。
「……こんなもんかな」
「え……あ、あり……がと……」
「いいえ。……あ。でも悪いな。床とソファ、アクアでびっしょりになっちゃった」
言いながら、俺はロータスに軽く詫びる。
ブロッサムもハッとした表情で親父殿を見た。
「あ……えっと……」
「……大事はないか」
「え……は、はい……」
「そうか」
それだけ言うと立ち上がり、扉に向かって歩き出す。
「……手当を受けたら服を着替えろ。いつまでも制服でいるな」
「は……は、い」
「……アユミ。ブロッサムの自室の隣に部屋を用意してある。滞在中はそこに寝泊まりするがいい」
「あら、そいつはありがたい」
ロータスはちらっとブロッサムの腕を見る。
が、すぐに視線を反らし、そのまま部屋を出ていった。
「……あっさり行ったな」
「まあ……父上、忙しい人だし」
父親がいなくなったからか、ブロッサムが息を吐きながら一安心する。
……そんなに怖い人なのかね?
(……ま。あれじゃ誤解もされるわな)
セントウレア校長の柔和なイメージとは逆で、例えるなら氷だ。
どっちかっつーと、フリージアと被って見える(眼鏡もあるし)な。
「とりあえず部屋行くか……着替えさせ」
「るわけねぇだろッ!!!!」
あ、やっぱり却下されました←
――――
「ったく……油断も隙もねぇな」
「いいじゃん、減るもんじゃないしー」
「減る。俺のいろいろなものが」
「理性が? そうだな、おまえどっちかっつーとマ「おまえもう口を開くな!」」
ブロッサムの部屋で、ブロッサムが着替えしているところを見ながら茶々を入れる。
……見てるだけだ。
俺の両手首は後ろで縛られ、さらにギザギザ面の石の上に正座させられ、トドメに膝の上に分厚い石材を三つものせられていた。
もちろんやったのはブロッサムだ。……いつの間にこんなの覚えたんだ。誰だ、教えた奴←
「ったく、この変態め……」
ぐちぐち言いながら着替えはじめる(濡れたシャツだけな)ブロッサム。
まあ下手な抵抗でこれ以上石材を追加されても困るしな。
ここはおとなしく見てるだけにしようか。
(やっぱ肌白いなー……)
俺はそんな気にしないが……多分、女子とかうらやましがると思うな。
本当に白天使って感じ。
「……ん?」
ジーッと見ていると、ふと左肩に目がいった。
「なあ、ブロッサム。その左肩……」
「え……、――ああ、もしかして、これか?」
言ってあいつは左肩にある、花のような形をした痣に触れた。
「なんか、ガキの頃からあったんだ。結構大きいし、恥ずかしいから隠してたんだけど……」
「へぇ……」
気づかなかったな……。
まあ位置的に夏服でも隠せるからかもしれないが。
「このことは言うなよ。……見方によれば、気持ち悪いかもしれないし」
「知られて嫌になるようなことは多言しねぇよ」
気にしていることまでは言わないさ。
俺はそこまでバカじゃない。
「むしろ、おまえのいろいろな秘密は俺だけが知っていればいいし」
「――え、何? いろいろな秘密って……?」
「えーっと……タンスの裏のアレとか、クローゼットに隠したソレとか」
言うと、ブロッサムの顔がどんどん青ざめていった。
さらに続けて言おうとすると、「ギャーーーーッ!!!」と一気に真っ赤になって口を塞がれる。
「お、おま……なんで知って……ッ!!?」
「やだなあ、ブロッサム~。おまえのことなら、な・ん・で・も♪ 知ってるって♪」
「~~~っ、っとに油断ならない奴だな!!」
ひとしきり叫ぶと「絶対変えねーと」とぶつぶつ言うのが聞こえた。
……よし。後日また調べとこうか← いざという時の脅迫材料に使う為に←
「……まあとにかく。痣のこととか話さねぇから、絶対」
「ああ……うん。……それは大丈夫そうだな……あんまり安心材料にはならないが」
……勘が優れてるな。
薄々ながら気づいてやがる。
「ま、いいや。……ところで、この拷問はいつまで続きますか?」
「着替え終わるまで待ってろ」
……チッ←
――――
そんなこんなでとりあえずブロッサムが着替え終わり、俺もお仕置きから解放された。
あー、痛かった←
「……で」
「うん、何?」
「なんでこんなことになるんだよ!!」
ブロッサムががたがた騒ぎ立ててる。
……あ、多分俺がブロッサムの背中にぺったり張り付い――もとい、抱き着いてるからだと思う。
ってか絶対にそうですよねー←
「いいじゃないか。
「サラっと本音が見えてないか? 今」
「んあー……おまえの翼、ふかふかー……。そこらの羽毛より一級品だよ~」
「ぎゃわぁあああッ!!! ちょ、やめ……ッ!!!」
もふもふしてると、ブロッサムがじたばた暴れ出した。
うわー……可愛い奴ー……。
ガチャ。
「坊ちゃまーっ。そろそろお夕飯のじ、か……」
「……あ」
「げ……っ!」
あ、ここでスノー家執事コンビが部屋に入ってきた。
……そして目を丸くした。
「ぼ、ぼぼぼ、坊ちゃまあああッ!!? なんで部屋でそこのお嬢様とうらやましいことをぉおおお!!?」
「いや、違うし! 誤解だ、ネフライト!!」
「誤解? 俺の前で声高くして鳴いたこともあったのに……?」
「ノォオオオオオオッ!!!」
「なんで悪化させとんじゃ、おまえはあぁあああッ!!!」
うわ、一気にカオスに陥った。
やばい、かなり面白い←
「ネフライト、落ち着け」
「むごっ!」
終止符を打ったのは、ネフライトに巨大ハリセンを叩き入れたサファイアだった。
……え? どっから出したのその巨大なハリセン。
「な、何すんですかィ、サファイアく~ん……」
「……くだらないことで騒ぐからだ」
……なんとクールな男。フリージア以上に冷静な男だな。
「ブロッサム様……入ってきたのは俺らだったからよかったものの、もし違う人だったらどうするんですか」
「す、すみません……」
「あらら、怒られちゃったな」
「おまえのせいだろ、120%!!! だいたいいつまで張り付いてんだよ!!」
「はーなーせー!!」と暴れまくるブロッサム。
しかたないので離れる。……むー、もうちょっと楽しみたかったのにな。
「んじゃ……夕飯、だっけ? がっつり食っちゃっていいの?」
「がっつり、はいけないが、とりあえず食べ方のルールは気にしなくて結構だ」
よっしゃ。とりあえずそこは怒られなくて済むな。
「よーし……んじゃ盛大にいただきますか」
「盛大に、も無理な気が……」
サファイアから律儀にツッコミをいただきました。
……もしかして、こいつもツッコミタイプか?
「……とりあえず食いに行くぞ」
考えに老けっていると、ブロッサムに腕を引っ張られた。
ものすごく疲れきった顔で……はい、お疲れ様です←
――――
「うーむ……さすが天下のウィンターコスモス……お抱えシェフも違うなー」
豪勢かつ豪華な料理をぺろりと平らげ、指定された部屋へと向かっている。
うーん……。ブロッサムと一緒じゃないのが残念だったが。
「ふぅ……ん?」
一足先に早く帰る俺は、ふとエントランスのある物に目を向けた。
「……これは……」
いや……向いた、というより、向いてしまったというのが正しいな。
エントランスの壁に張り付けられた一枚の絵画。絵画に写る、一人のセレスティア。
「――……ブロッサム……?」
つぶやいて、けどすぐにその考えを打ち消した。
「いや……年齢が違うもんな。明らかにこっちのが大人だし」
顔つきはたしかに似てるけど、これは二十代前半くらい(実際は不明だけど)に見えるな。
大人っぽいし、セントウレア校長みたく落ち着いた印象が伝わってくる。
「だから、似てるけど違う」
声に出して否定する。
彼は違う。――違う、はず。これはブロッサムじゃない。……ブロッサムなはずがない。
「……なのに……」
けど、何かが引っ掛かってる。
絵画の中の人物が、どうしても“ブロッサムとしか思えない”んだ。
「…………」
食い入るようにじっと見つめる。
どうして引っ掛かったか。何を感じたのか。何が彼とブロッサムを結び付けたのか。
「……!」
そして気づいた。
多分、これが原因。
「これ……」
「……アユミ?」
じっと見ていると声をかけられた。
我に返って振り返ると、終わったのか、ブロッサムが近くに立っていた。
「ブロッサム……? どうした? 夕飯は……」
「いや、もう終わったし……それにどうした? は、俺なんだけど。呼んでも上の空だし……」
やば……そんなに見てたのか……。
集中すると、周り見えなくなるからな……。
「……そんなに、“初代ウィンターコスモス”の絵画が気になるのか?」
「……え?」
初代ウィンターコスモスって……アガシオンと戦ったっていう、あの?
「この男が……初代ウィンターコスモス……?」
「あ、ああ。そうだけど……?」
「ふぅん……、…………」
確かめるようにたずねると、戸惑いながらブロッサムは頷く。
じっと絵画を見つめ、その後、ブロッサムと絵画を交互に見比べる。
「……? な、なんだよ……?」
「……いや? ただ……似てるなって」
「……何が?」
「おまえと、初代ウィンターコスモス」
絵画を見ながら横目で告げると、ブロッサムはキョトンと目を丸くする。
「お、俺と……?」
「ああ、そっくりだ。顔立ちとかな」
「いや……似てないって! ありえないから!」
驚きながら、必死で首を横に振るブロッサム。
きっと冗談とか思ってるだろうな。
(……けど)
俺は冗談で言ってない。
ブロッサムと初代ウィンターコスモス。俺の目には“同じ顔”にしか見えなかった。生き写しと言ってもいい。
「ほ、ほら! もう休むぞ!」
「ああ――わかった」
……これ以上突いても無駄だろうな。
情報も拾えなさそうだし、ここは一旦戻ろうか。
(……それに……)
後でも情報は拾えそうだしな。
なぜなら……そこに知ってそうな奴がいるからな。
「…………」
本当に、面白い滞在になりそうだな。
そう思いながら、ブロッサムと一緒に部屋へ戻っていった。
――――
???Side
「……気づかれた、か」
戦闘能力も申し分ないが……なるほど。頭の回転が早いな。
気づかないようなことにも気づくとは……。
「さすが“予言の子”……“あいつ”の言う通り、か」
――――
アユミSide
とりあえず部屋に戻り、ベッドに寝転ぶ。
「――やっぱり……気になる……な」
とはいえ、やっぱ気になる。気になって眠れない。
絵画とブロッサム。どうしても二人が結び付く。
「偶然にしては、出来過ぎじゃないのか……?」
関係があるとは限らない。
けど、繋がってる気がする。
「はたして、何があるのやら」
知ってそうな奴もいることだし。……ちょっと調べてみますか。
――――
翌日。
ブロッサムの翼並に超ふっかふかなベッドで熟睡できました。
「何なんだ……畜生、これだからスーパー金持ちは……」
金があればいろいろできるし……。
……貴族という点はあまり気にいらないが、マジでブロッサムで玉の輿狙うかっ!!?←
「……さて……」
よし、行くか……朝飯たかりに!!←
……え? まずはそこからだって? ええ、そこからですよ!!←
――――
「いやあ、うまいな。テラスでブランチってのも♪」
「あらら。喜んでくれました?」
「おい……頼むから、ちゃんと礼儀正しくしろよ……?」
はらはらしながら隣に座るブロッサムが俺を見る。
いいじゃないか。いるのはスノー家執事コンビだけなんだし。
「飯は美味く食べたもん勝ちなんだよ。貴族だろうが知ったことか」
「……婦女子と思えないセリフ」
サファイアから冷静なツッコミをいただきました。
……表情があまり変わってないぞ……。
「うるさいわボケ。あ、そのサンドイッチおいしそう。取って」
レタスとトマトのおいしそうなサンドイッチを指差してせがむ。
それを「はいはい」とブロッサムが取ってくれる。
「サンキュー♪ ……あ、ブロッサム。顔にソース付いてる」
「え……ど、どこ?」
口元に付いてるのがわからず、ぺたぺたと顔を触ってる。
……ほんのちょっとなんだけどね。でも仕草が萌えるからいい←
「バカ。……ここだって」
口元拭こうとして……ここでちょっと。いや、かなり加虐心が沸々と沸いて来た。
接近して顔を近づけて、舌でソースを舐め取る。
「ッ!!!」
「ウボァアッ!!?」
「あ」
ブロッサムが一瞬硬直して、それからすぐに顔を紅潮させる。
ネフライトが変な悲鳴を上げ、サファイアは……やっぱあんまり変わってない。
「お、おま……ッ!!!? いいい、いったい何を!!」
「何をって……ソース付いてたから」
「だからって舐め取るか、普通!?」
うっは← ものすごく真っ赤で慌ててまくし立ててる。
やばい……超弄り倒してェ!!
「坊ちゃま……あの、やはり、この人とはそーいう――ちょっとアレな関係で……!?」
「さらに言えば、ソレやコレなこともしちゃったり?」
「キャーーーッス!!!?」
「ソレってなんだよ! 頼むから悪化させんな!!!」
「ブロッサム様、静かに。おまえも落ち着け」
暴走するブロッサムをなだめつつ、サファイアがハリセンでネフライトを叩く。
おまえもどっから出してんの? ソレ。
ザッ……。
「……楽しんでるようだな」
「「……あ゙」」
「「あ。親父殿(ロータス様)」」
あれま。いつの間にか親父殿がこちらにいました。
俺は気にしないけど……気配を感じなかったのか、ブロッサムとネフライトが同時にビクゥ!! と跳ね上がってる。
「おかげ様で。景色は良いし飯は美味いし、執事コンビは面白いしお宅の息子は可愛いしで最高です」
「なんでそこで俺を出すの!?」
「面白いって何ッスか!?」
「……しかもブロッサム様が可愛いって……」
野郎三人が同時に俺を不審な目で見ている。
けど気にしないよ? ……なぜなら! ブロッサムを後ほど好き放題弄るからな!
「(……ッ!! 今なんか変な悪寒が……!?)あ、あの……父上は、なぜこちらに……?」
「そいつに用がある」
と言ってロータスが指さしたのは――。
「……あれ? 俺?」
「……サファイア。そいつを私の部屋へ連れて来い」
「仰せのままに」
サファイアが一礼したのを見て、ロータスがすぐに踵を返した。
残された俺らにしばし沈黙が流れる。
「ロータス様の御指名って……ホント、このお姉さん何者的な?」
「アユミ……その……ち、父上、大丈夫か?」
「べつに平気だけど。怖くない」
「「怖く……え゙え゙え゙え゙え゙え゙!!?」」
同時にリアクションが返ってきた。
……ホントに面白いな、この二人←
「銀髪でクールなイケメンもカッコイイぜ? あーいう人も好きだよ、俺」
「え……アユミ……父上みたいな人が好み……なのか?」
ブロッサムが往年の消費者金融のチワワみたく、唇噛みながら不安そうな目で俺を見ている。
……何このツンデレ天使。可愛くてしかたないんだけど! 誘拐して監禁していい!!?←
「親父さんみたいな奴も良いって話だ。……だいたい」
身を乗り出し、ブロッサムの顎を撫でながら上に乗っかる。
「俺がおまえ以外の男に、目移りすると思う……?」
「……ッ!!!」
息を吹き込みつつ、耳元に低い声で囁いた。
ビクッ、と身体を跳ね上がらせるブロッサムに、心の底から満足する。
「おい」
「ぐぇっ」
……している時だった。
急に首根っこを掴まれ、潰れた蛙のような声が出る。
「ロータス様を待たせるな……行くぞ」
「あいあ~い……じゃあね~」
そのままサファイアに連れられ、真っ赤になって固まっているブロッサムとネフライトを置いて、俺はテラスを出たのだった。