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人形遣いの心、兄弟の絆

「なんでだ? なんだか、懐かしい……」

「それならドラッケンに戻れば? ドラッケンの生徒たちもここに来てるし……」

「……そんな……こと……」

 その言葉にわずかに迷いを見せる。
 が、すぐに「くっ……」と苦しそうに胸元を押さえた。

「スティクス!?」

「ダメだ……まずは精霊たちを抑えなくては……」

「おい、大丈夫かよ」

 よろめきながらふらりと立ち上がり、そのまま奥へ行こうとする。
 俺の声にも「平気だ」とか言うが……全然平気じゃないだろ。

「…………っ」

「……? ブロッサム……?」

 ……が、寸前でブロッサムが腕を掴んで引き止めた。
 いきなりのことに、俺もスティクスも戸惑っている。

「……はぁ……」

 深く深呼吸すると、ゆっくりと翼を広げた。
 ……すると……何故かブロッサムの身体から淡い光が溢れ出してきた。

「……光よ」

 翼が一際輝き、さらにその光がスティクスに纏わり付く闇の精霊を消し去ってしまった。

「え……」

「闇の精霊が……」

 全が員驚いて目を見開いている。
 その間にブロッサムは翼を閉じた。光もすでに消えている。

「……ふう……」

「……おまえ、どうやって……」

「いや……スティクスを放っておけなかったから……なんとか助けたいって思って……」

「……まさか。無意識ってこと……?」

 そう聞くと「……うん」と頷かれてしまった。
 え? マジで無意識!?

「……今の光……」

「? なんだよ」

 ヌラリが何かつぶやいた。
 振り返って聞くけど、「何も」とすっとぼけられるが。

「チッ……つーかさ、あとおまえらだけなんだけど。いい加減観念したら? スティクスは改心したっぽいから」

「……僕がいつそんなことを」

 律儀にツッコミを入れたスティクスに「たった今だ」と即答しておく。
 大丈夫だよ、スティクスは。多分だけど←

「で? どうする? まだ足掻くっつーんなら手足へし折って、動けない程度に放置すっぞコラ」

「アユミの方が悪魔だ……」

 ブロッサムの呆れたツッコミ。
 だってまた邪魔されても困るし、戦うのもさあ。

「ま、待ちなさい!」

「!」

 ヌラリに一歩近づいた時、ジャコツが即座に間に入ってきた。
 ボロボロの身体で、両手を広げて行く手を阻んでいる。

「ヌラリ様はこの私が、命に代えてもお守りする!」

「ジャコツ……」

 ……意外だな。あれだけぞんざいに扱われながら、それでもまだ庇うとは。

「……ずいぶん信用してるようで。言っとくが俺は先に行きたいから、邪魔するならおまえも瀕死にするぞ」

「やれるものならやってみなさい!」

 刀を向けても、なおそこからどこうとしないジャコツ。
 ……しかたない。気絶程度の一撃を――。

「二人とも待って! 待ってなの! オボロ兄さんからの話はまだあるの!」

 与えよう……って今度はトウフッコからのストップをかけられた!
 つーかまだ続きあるんかい!!

「トウフッコ……そういうのは一気に話せや」

「だって……みんな好き勝手に話して戦うから言う暇が無いの。人の話はちゃんと最後まで聞いた方、がいいと思う」

 うっ……それは……。
 いや!! 最初に遮ったのはヌラリだ! 俺は悪くねぇ!!←

「……コホン、それで……オボロ兄はなんつってた?」

 軽く咳ばらいしたあとにトウフッコに聞く。「あのね……」とヌラリに向き合う。

「ヌラリともう一度会えるなら、ぜひゆっくり話がしたいって」

「何……?」

「二人きりで、お酒でも酌み交わしながら……男同士の親友として……!」

「!!!」

 ヌラリの目が、大きく見開く。

「お願いなの、ヌラリ! 兄さんのその思い出を、もうこれ以上汚さないでほしいの! 兄さんが敬愛していたという、あの頃のヌラリに戻ってほしいの! タカチホの良き先輩として、ぼくたちを指導してもらいたいの! オボロ兄さんの為にも!」

「オ……ボロ……」

 トウフッコとオボロ兄の気持ちを知ったヌラリから、涙がこぼれ落ちた。
 そして何かをつぶやくと、今まで歌っていたアマリリスの歌声が突然消えた。

「アマリリス!?」

「けほっ、けほっ……この……ハゲっ……よ……くもっ!!」

「アマリリスちゃん! 今、話したりしたら喉によくないわ!」

「喉潰したら、アイドル学科を退科だぞ」

「ぐっ……!!」

 俺の言葉にムッとなりながらも、そっぽ向いて黙り込んだ。
 ノンブレスで歌っていたからかなり咳込んでいるけど……あれだけの減らず口が叩けるなら大丈夫だな。
 仮にもアイドルだし、自ら喉潰すマネはしないだろ。

「ヌラリ様!? どうされたのですか!?」

「ジャコツよ……もうよい。わしはもうどうでもよくなった」

 突然術を解いたヌラリに困惑するジャコツ。
 そんな彼女をよそに、ヌラリは力無く笑い始める。

「闇の生徒会? 大魔王の復活? そんなもの、知ったことか」

「…………」

「今までよく尽くしてくれたな。ジャコツ、おまえももう好きにせい。わしの傍にいる必要はない。――こんな愚か者の傍にな」

 ヌラリは自傷気味に笑いながら言うと、そのままふらりとどこか立ち去ろうとする。

「――いいえ! ヌラリ様、私はお傍にいます!」

「じゃ、ジャコツ……?」

「お願いです。お傍に置いてください……」

 そう言って涙ぐみながらヌラリの手を取るジャコツ。
 ……あれ? もしかして、俺ら忘れられてる?

「え? 何この空気……勝手に二人の世界を作――」

「レオ! しっ! いいところなんだから! これはすっごいヒミツになるよ!」

 そう言ってレオの口を塞ぐチューリップ。
 ……あのさ、傍から見たらタチ悪いよ? おまえ。

「……私が闇の生徒会に属したのも……あなたの傍にいたかったから。それだけでした……」

「ジャコツ……こんなわしで構わないのか? 男に付け文など寄越し、振られたあげく、自暴自棄になって、学校施設を破壊し、逃げ出した愚かなわしで?」

 俺らなどアウト・オブ・眼中な二人は勝手に盛り上がっている。
 しかしヌラリ……おまえ、俺の預かり知らないところでそんなことやってたのか!!

「あなたでいいのです。いえ! あなたがいいのです、ヌラリ様」

 そう言って取った手を強く握るジャコツ。

「私がお慕いするこの世でただ一人のお方は……ヌラリ様、あなたなのですから」

「……ありがとう、ジャコツ。わしからも頭を下げよう。これから先……どこへ流れていくかもわからぬ身だが……それでも――」

 強く握るジャコツの手を、もう片方の手で重ね合わせる。

「わしの傍にいてほしい」

「!! そのお言葉……何にも勝る褒美です。あなたに尽くしてきて……本当に、本当によかった」

「ジャコツ……」

 そう言って見つめ合うヌラリとジャコツ。

「……おい。これ、俺ら忘れられてね?」

「ああ……もう完全にな」

「アユミちゃんとブロッサムも、よくボクを忘れるじゃんか~」

「え゙」

「あれ? そうだっけ?」

「ふぅん……ブロッサム。もう少し空気を読めるかと思ってたよ」

「そんなつもりは……ってなんでおまえも会話に混じってんの、スティクス!?」

 すっとぼけた俺の横で、クスクスと小さく笑うスティクス。
 そして会話に混じってきた彼に、ブロッサムが盛大にツッコミを入れる。

「トウフッコ」

 おっと。うかうかしてたら、ようやく正気に戻ったらしいヌラリが話しかけてきた。
 ……ジャコツと手を取り合いながら。

「兄さんに会ったら伝えてくれ。わしは愚かだったと。おぬしの兄さんに尊敬される資格など、はなからわしにはなかった」

「ヌラリ……」

「わしの犯した過ちを、おぬしたちは決して繰り返すでないぞ」

 そう言うと、どっからか霧が現れ、二人の身体を包んでいった。
 ……で。晴れたら二人の姿はとっくになかった。
 ……どういうトリック?

「消えちゃった……これって勝ち?」

「まあ……勝ちでええんやないの?」

 ぽかーん、と一連の流れを見ていたカータロが苦笑いを浮かべながら頷く。
 それにレオは「そっかー! やったー!」と単純に喜んだ。

「ったく……それより、アマリリスは?」

 早々に見切りをつけ、ぐったりしているアマリリスに目を向ける。

「大丈夫? アマリリスちゃん……」

「……相変わらずバカみたいな筋肉の腕だね」

「とか何とか言っちゃって。ホントはうれしいんじゃないの?」

 俺が言えば「うるさい……」と力無く睨まれる。

「ねぇ、もういいでしょ? アマリリスちゃん……。闇の生徒会の人達も散り散りになったし……」

 俺との会話に割り込んできたブーゲンビリアが、「一緒に帰りましょう?」とアマリリスに再三の説得。

「い……やだ……」

 ……が、アマリリスはまたも否定した。
 よろよろのくせに、ブーゲンビリアの腕から立ち上がる。

「ったく……アマリリス。テメェいつまでブーゲンビリアを嫌ってんだよ。……つーかなんでそんなに嫌うんだよ?」

「え~っと……ブーゲンビリアのせいでアイドルデビューできないからケンカになっちゃった……んだっけ?」

 俺とシルフィーが外野からアマリリスに言う。
 いつまでもこんな調子じゃ、面倒でうっとうしいからな。

「そう……私が足を引っ張っちゃったから、アマリリスちゃん怒っちゃったのよね……わ、私がこんなにマッチョだから!」

「ごめんなさい!!」と微妙に野太さのある涙声でブーゲンビリアは謝る。
 ……うん、いい兄貴だよ、ホントに←

「と。まあ、良い感じだし。嫌いなのはわかったけど、ここはさっくり許してたもれ、アマリリス」

「何キャラだよ! つか、うるさいよ! 予言の娘!」

 茶化したら怒鳴られた。当然だけど。

「だ、だいたい……」

「ん?」

「べ、べつにブーゲンビリアのこと、足手まといだなんて……本当に、思ってるわけないだろ……」

「ほう」

「その身体だって……か、可愛いとボクは思ってるし!」

 おお……ようやく素直になったらしいな。
 しかもサラっとすごいこと言ってるし。

「私のせいでデビューができないから、家出しちゃったんじゃないの? それじゃあ……どうして……」

「おまえがボクとのユニットじゃなくて――ソロデビューを狙ってるって知ったからだよ!」

「え……?」

「ブーゲンビリアが?」

 コイツがソロデビュー……?
 いや、弟バカのコイツにはありえないだろ。

「な、なんのこと? 私、そんなの知らないわ!」

 ほら、やっぱり知らないみたい。
 けど確信あるのか「とぼけるなよ!」と怒鳴りつける。

「おまえの引き出しに、“ソロデビュー計画”って書いてあるノートを見つけたんだからな!」

「!!」

「ブーゲンビリア。それはマジ話か?」

「え、ええ……でも、あれはアマリリスちゃんのなのよ!」

「……え?」

 あ。やっぱりそういうオチか。
 何となく読めてたけど。

「私のせいで、いつまでもアマリリスちゃんがデビューできなかったら申し訳ないと思って……」

「それで、アマリリスのソロデビューを計画してたってわけ、か?」

 優れた勘の持ち主たるブロッサムがたずねた。
 ブーゲンビリアはそれにコクッと頷く。

「なんや……ここも勘違いがもとかいな……」

「人間関係って難しいの……」

「まあしょうがないさ……そればっかりは、な……」

 経験談による為か、ブロッサムの奴、妙に悟りきった顔をしているな……。

「だから言ったじゃない! 私はマネージャーでもいいって! アマリリスちゃんの為なら私、アイドルやめてもいいのよ」

 献身的かつ最強の決意だな、ソレ。

「ばっ……ばーか! そ、そんなのダメに決まってるだろ! ブーゲンビリアだって、アイドルになるのが夢だったのにっ!」

「いいのよ……アマリリスちゃんの為なら……」

「お、おまえのそういうところがボクは嫌いだ! 自分のしたいことはしたいって言えよ! ボクのために我慢とかするなよ!」

「そ、そんなこと言われても……」

 怒鳴り出すアマリリスに身を縮めこますブーゲンビリア。
 不機嫌な弟にご機嫌取りなお兄さんってか。

「……まあまあ、そんなにしょげるなって」

「アユミさん……」

「それに……」

 言って、ずいっとアマリリスに詰め寄る。

「な、何……?」

「よかったな。ブーゲンビリアと仲直りができるぞ?」

 ポンポンッと頭を撫でながら、ニカッと笑いかける。
 アマリリスだって生意気なところを除けば、兄想いのいい子だしな。

「……っ、~~~ッ!! こ、こここっ、子供扱いすんなーーーッ!!!」

「あ、アマリリスちゃん?」

「おまえなんかに――アユミなんかに言われなくたってわかってるんだからッ!!」

 叫びながら俺の手を払いのけると、そのままモーディアル学園の奥に逃げるように走り出した。
 みんなの前で子供扱いは嫌だったのか、顔を赤くしながら全速力でな。

「あああん! アマリリスちゃん!」

「……スマン。対応まずったか?」

「いや~、大丈夫じゃないかな? 素直じゃないだけで、仲直りの日も近いと思うよ?」

「そうなのか? ブロッサム」

 チューリップは軽く言うが、念のためブロッサムに聞いてみる。

「……待て。なんで俺なんだ」

「いや。さっきのアマリリス、なんかツンデレっぽかったし。同じくツンデレ同盟軍のブロッサムならわかるかなーって」

「なに、その同盟軍!? つーかツンデレって言うな!!」

「違かったか? なあ、スティクス」

「性格似てるから同じだと思うけど……ってなんで僕に聞くの?」

「いや、おまえもストーカー紛い(偵察)なことをしてたから知ってるかなーって」

 笑いながら言うと、「殺していい?」と笑顔で言い返された。
 隣のブロッサムには「無視すんな!!」と怒鳴られる。
 ……うん、すっかり丸くなったな←

「……まあそれはともかく。わかってる、とは本人も言ってたから、大丈夫だと思うぜ?」

「アユミさん……」

「少なくとも闇の生徒会として現れることはないだろ。よくよく考えたら主戦力三人+αを除いて、一気に削っちゃったし」

 エデンと教師二名、それからディーム、ライラが残っている。
 けどアマリリス自身、真実知って納得しただろうし、闇の生徒会につくことはないだろ。

「……そうよね。私、頑張るわ! きっとアマリリスちゃんと帰って見せる!」

「そうそう、その意気だよ~♪」

 納得してくれたっぽいな。
 これでブーゲンビリアはもう大丈夫。

「……んじゃ、俺たちも行くとするか……スティクス、おまえはどうするの?」

 拳の調子を調えながら聞く。
 ……そういやこいつは去ろうとしたところ、ブロッサムが引き止めて治したんだよな。

「そうだね……どうするか、ちょっと考えてみようかな。闇の生徒会はもう終わりだし」

「ったりめーだ。逃しはしない」

 特に約一名、いい加減白黒着けないと永遠に狙われるからな。

「……まあ、ブロッサムの力は気になるけど」

「え?」

 何か言ったみたいで聞き返すが「なんでもないよ」とごまかされた。

「じゃあね。エデン生徒会長、首を長くして待ってるから」

「はいはい。ご忠告どーも」

「シルフィネスト。お兄さんの方も待ってるから、気をつけた方がいいよ。もう一人、護衛もいるし」

「あ、あう……」

 丁寧に忠告をしてくれたスティクスは「それじゃ」と部屋から出ていった。

「……意外と良い奴だな」

「そうだね~。兄ちゃんのことも教えてくれたし」

 頷き合う俺とシルフィー。
 スティクス……見かけと性格によらず、世話焼きポジション?←

「……さて、呑気に話をしている暇は無いな」

「せやな。他のみんなに置いてかれるで」

 俺の言葉に頷くながら、パシッ! と拳を打ち付けるカータロ。
 さっきも言ったが、強敵はまだ残ってる。その上にはラスボスもいるしな。

「それじゃ、私たちも行くわ」

「ようし! このままアガシオンの部屋まで、一番乗りだ!」

「その前のボスのことも忘れるなよー」

 カータロパーティ、レオパーティは軽く挨拶してから出発していった。
 残された俺らも互いに見合わせる。

「さて、行くか。アガシオンをぶっ倒しに」

「ああ。ネメシアに……エデンもいるしな」

「兄ちゃんも強いよ~、きっと」

「ミカヅチって教師も強いだろうな。……だからって、負ける気は無いけど」

 ここで人生を終わらせる気は更々無い。
 決められた運命も、降り懸かる火の粉も、みんなまとめて振り払ってやる。

(プリシアナ学院もシルフィーも……ブロッサムも、みんな大切だから)

 ――――

 災いも敵も斬り捨てる。

 すべての因縁に決着をつけてやる!
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