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人形遣いの心、兄弟の絆

 ――――

 しばらくし、ベコニアは泣き止むと俺から離れ、立ち上がる。

「大丈夫~? 無理しなくていいんだよ~?」

「大丈夫よ……もう平気だから」

「そうか。ではベコニアとやら。この学園を案内せい」

 キルシュ……いくら相手が改心したからって、いきなりそれはなくね?

「それは……無理。今は一緒に行けない」

 が、ベコニアは力無く首を横に振って断った。

「なんだよ。まだなんか怒ってんのか?」

「いや、バロータ。違うって、多分。……な?」

 なぜなら、ベコニアは“今は”って言ってるからな。

「うん……私、アレを造っちゃったから……」

「……なあ。前々から聞きたかったんだが、アレって一体なんなんだ?」

 ブロッサムがベコニアにたずねる。
 ……たしかにアレじゃわからないし、目茶苦茶気になる。

「ゴメン……その始末は自分でつけるから……それが終わったら……プリシアナに戻ろうかな……」

「……そうか。無理はするなよ」

「……うん」

 よろめきながら学園の奥へ消えていった。
 だけどベコニアはもう大丈夫。弱々しいけど、笑顔が浮かんでるから。

「行っちゃった……」

「ベコニアなら大丈夫だろ。……アレってのがなんなのか気になるが」

 それは言うな、ブロッサム。
 忘れたいのに気になって忘れられないだろうがあ!!←

「何が待ち受けているのかわからない。僕らも油断せずに進もう」

「そうだな。まだ闇の生徒会はいるんだし」

 手の関節を鳴らしたり、身体の調子を確かめたりしながら言う。
 まだ闇の生徒会は残っている。終わった訳じゃない。

「じゃあ行くか。あ、おまえらも気をつけろよ」

「はい。……あの、アユミさんも気をつけて」

「ん? ああ。ありがとう、フリージア」

 気にかけてくれたフリージアに小さく頷く。

「「…………」」

 ……あれ? なんか鋭い視線が後ろから二つもするんですが?
 なんでこっちを見てるのセレスティアの二人!

「ほら、アユミ。行くぞ」

「? ああ」

「フリージア。行こうか?」

「は、はい!」

 何故か怖い顔ですが……まあとりあえず頷いておくけど。

「よし……行くか」

「はーい」

「……おう」

 まだ先は長い。セルシア、キルシュたちに一言告げてから先に進むのだった。

 ――――

 モンスターたちを倒しながら、校舎の二階にたどり着いた。
 ……ここの生徒たちは、こんな迷路みたいな学校で面倒じゃないのかね?

「……あれ? レオたちだ」

「なんだと?」

 階段の先にはレオパーティの姿があった。
 ……なんか、耳を澄ませているみたいなんだが。

「おい。どうした、おまえら」

「あ! アユミ!」

 俺が声をかけるとチューリップが気づいた。他の二人もすぐ振り返る。

「ねぇ、聞いて! これ……アマリリスちゃんの声じゃない!?」

「何……?」

 ブーゲンビリアに言われ、同じく耳を澄ませてみた。
 ……たしかに、通路の奥から声が響いている。

「あ。ホントだ~」

「けど……なんか、ずっと同じ歌を歌っていないか?」

「ああ。あの呪いみたいな術のせいか……」

 ブロッサムの言う通り、さっきからアマリリスは同じ歌しか歌ってない。
 ヌラリの術とやらが原因だろうな……。

「やっぱりあのバカはげをぶっ飛ばさなくちゃ! 行こう!」

「ああん!! アマリリスちゃーん!!」

「ちょっと! 置いて行かないでよ!!」

「あ! お、おい!」

 ブロッサムの制止も虚しく、レオパーティは声の方向へと走っていく。
 罠だったらどうすんだよ……相変わらず行き当たりばったりだな。

「やれやれ……俺たちも行くか」

「そうだな……レオたちだけじゃ危険過ぎる」

 多分アマリリスだけじゃない。闇の生徒会……ヌラリがいる可能性が高い。
 レオたちが戦闘になる前に、俺らも急いで声の方向へと向かっていった。

 ――――

 こういう時は異様に足が早いレオたちを追いかけながら、声の方向へと走っていく。

「……ここか!」

 だんだん近くになってきた。
 もうほとんど間近になった声を聞き、目の前の扉を盛大にぶち開けた。

「やはり来おったか……」

「アマリリスを仕掛けておいた甲斐がありましたね。ヌラリ様」

「ヌラリ! ジャコツ!」

「おっと。僕もいるよ」

「スティクス……!」

 開けた先にはアマリリスと……やっぱりヌラリがいた。
 当然ジャコツ、さらにスティクスも一緒にいる。

「アマリリスちゃん!」

 ヌラリの近くにいるアマリリスに叫ぶブーゲンビリア。
 アマリリスはブーゲンビリアに気付くと、必死に声を振り絞る。

「~♪ ……た……♪ す……♪ す~♪ ~♪ け……♪ て~……♪」

「アマリリス……」

 ……歌いながら助けを求めてる。
 ヌラリの術で、完全に歌う機械にされている。

「下手くそな歌だけど、聞いてると耳に馴染んでくるものね」

「僕はこういうの、趣味じゃないけどね」

「おぬしの趣味などどうでもよいわ。それより、闇の精霊どもの調子はどうだ?」

「精霊……?」

 調子って……何をする気だ?
 ……きっとろくでもないことだろうけど。

「おまえの言う通り、腹を空かせてあるよ。僕でも抑えるのに力がいるくらいだ」

「それでよい……」

 ……おい。今サラっととんでもないこと言ったよな?
 闇の精霊が狂暴な猛獣化してるってことだよな、それ!?

「スティクスが召喚した闇の精霊にわしの魔力を加えれば、最強のまがまがしい、悪しき精霊が誕生する! ゆくぞ、スティクス!」

「まったく偉そうに。僕の力がなければ、コイツらにも勝てないくせに……」

 スティクスは呆れながら「まあ、いい」と闇色のハープを出す。

「僕にとっても、目障りなのは同じだからね!」

「!?」

 スティクスが闇の精霊を召喚した。そこにヌラリがその精霊に魔力を注ぐ。
 ……やば、い……。闇の魔力が、肩に重くのしかかってくる……ッ!。

「す、すごい闇の力っ!!」

「近づけないわ!」

「くそーっ!」

 レオパーティも力の強大さに圧倒されている。
 ……あの野郎、ホントになんて事しやがる……!

「まだまだ……もっと力を注いでくれる」

「もっとって……な、何をする気だ!?」

 人一倍闇の力に敏感になったブロッサムが後ずさりながらヌラリにたずねる。
 するとヌラリ。とんでもなく嫌な笑みを浮かべ、とんでもないことを言いやがった。

「この精霊たちをすべて、アマリリスの中に入れたらどうなるかな?」

「なっ……!?」

「♪ ……!! ~♪」

「な、なんですって!?」

 アマリリスの中にって……そんなことしたら、アマリリスの身体、マジで持たねぇぞ!

「闇の拡声器として、良い武器になってくれそうだな!!」

 やっぱり道具扱いか!
 そんな俺の叫びなど知るはずなく、「スティクス!」と叫ぶ。

「精霊たちをアマリリスの中へ入れろ!」

「!!」

「まったく……悪趣味な男だね」

「や……」

 ため息をつきながら、スティクスが闇の精霊を……アマリリスへけしかけた。

「や――やめろぉおおおっ!!」

「「ブーゲンビリア!!」」

 その瞬間、ブーゲンビリアがアマリリスを庇うように抱きしめた。
 闇の精霊は間に入ったブーゲンビリアの背に激突する。

「っ!!」

「♪ ~お……♪ ……兄……♪ ちゃ……♪」

「ブーゲンビリア! 無事か?」

「大丈夫か? 背中から煙が出てるぞ!」

 ブロッサムとレオが同時に駆け寄った。
 ……ま、痛かっただろうけど、ブーゲンビリアなら大丈夫だろ←

「ちょっと、ヌラリとか! なんでそんなにアマリリスちゃんのことを敵視するのよ!」

「……友好関係はともかく、さすがにやり過ぎじゃねぇのか?」

 チューリップとともに、二人を庇うように立ちはだかる。
 当然俺はすでに抜刀済みだ。

「アマリリス……こやつは違う! コイツを見ていると、オボロを思い出すのだ!」

「……オボロ?」

 その名前に一瞬目を丸くする。
 オボロ……え? どっかで聞いたような……?

「ぼくのお兄さんなの!」

 考え込んでいると、後ろからトウフッコの声が。
 振り返れば、タカチホ義塾のカータロパーティがやってきた。

「ぬ! またしても貴様らか!」

「最後まで話を聞かないで去って行っちゃダメなの、ヌラリ!」

 どうやらトウフッコと因縁があるらしい。
 ……あれ? トウフッコってたしか……。

「トウフッコちゃん~。話が見えないんだけど……」

 シルフィーがヌラリとトウフッコを交互に見ながらたずねる。
 ……と、ここで俺はあることを思い出した。

「……そうだ……オボロ兄はトウフッコの兄貴で……ヌラリが告白してフラれた相手だッ!!」

「え――ええええええ!!?」

 ビシィッ!! という効果音がつくくらい刀を突き付けてやった。
 衝撃の事実に、ブロッサムがのけ反りながら驚く。うーん……ナイスリアクション←

「なんだ。ベコニアと同じかー。ぷぷっ、かっこわるっ」

「しかも男にフラれてって……これはすごいヒミツだね!」

 もちろんレオたちも同様だ。
 ……もっとも、レオはものすごく笑って、チューリップは秘密を知ったことに喜びを感じているから、さらにタチ悪いけど。

「そ、その時のオボロは女だったのだ! 男に告白したわけではないわ!」

「あ……そういえば~……トウフッコちゃんって、ある年齢まで性別決まらないんだっけ~」

 ヌラリの言葉にシルフィーがトウフッコの体質を思い出す。

「そうなの。ぼくたちオカラ一族は……」

「成人するまでは雌雄同体! 学校を卒業する頃に、男女どちらになるかを決めるのよ」

 そう……トウフッコの一族はロクロの説明通り、成人後に、初めて性別を与えられるんだ。それまでにどちらか決めなければならない。
 ……たまたまヌラリが告白したオボロ兄は、男になるって決めただけの話だ。

「何と言うややこしい一族! 忌々ましい血筋!! だからわしはアマリリスのような、男か女かわからん奴が大嫌いなのだ!! オボロを思い出すからな!」

「わかりやすい恨み方やのう……」

 カータロが呆れながらため息をつく。
 うん、俺も激しく同意だ←

「いまさら男だったから交際を断られたと知ったところで、この積年の恨みはどうしようもないわ!」

「積年って……そんなに経ってもないだろ。たしかに顔は老けてるけど」

「やめろよ! そういうツッコミは!」

 ブロッサムからツッコミで怒られた。
 いや、だって事実じゃね?

「この恨み、タカチホを滅ぼし、この世界を破滅させるしか……」

「それで世界を滅ぼすって……」

 ブロッサムが何とも言えないような表情をしている。
 ……うん。実際こんな小さなことだとは……。

「でも! この話にはまだ続きがあるの!」

「……なん……だと?」

 トウフッコの叫びにヌラリの目が見開く。
 ……よく見るとトウフッコの奴、手紙を持っていた。

「ヌラリ様。わざわざ耳を貸すようなことでは……」

「大事なことなの! ぼく、オボロ兄さんから手紙をもらったの」

「オボロからの手紙……だと?」

 ジャコツの言葉を遮り、トウフッコが手紙を突き出した。
 ヌラリはますます動揺している。

「兄さん、こう言ってたの。『ヌラリのことはよく覚えている。成績優秀で体術にも秀でた、立派な同級生だった。残念な結果になってしまったけれど、今でも彼のことは尊敬している』って……そう言ってたの!」

「オボロが……わしを……尊敬……」

 驚きで目を見開いたまま呆然となっている。
 ……イケるか? 潰れるか!?

「くっ……そんな話を聞いたところで、退き下がれるか!!」

 あ、駄目だった。揺らぎはしたけど、迷いを振り払うように腕を大きく回す。

「ええい! アマリリスを武器にする計画はもういい! まずはおまえたちから直接息の根を止めてくれる!」

 ジャコツ、スティクスに叫び、戦闘体勢を取った。
 面倒だが、アマリリスの安全が確認されただけよしとしようか。

「ヌラリ様を惑わせた罪……償わせてやる!!」

「やれやれ……つまらない話を聞くのに疲れたところだ。一暴れさせてもらうよ!」

 スティクスがアマリリスを襲った闇を精霊を、今度は俺らに向けてきた。
 それにしても……スティクス、実は付き合い良いのか?←

「ブーゲンビリアはアマリリスを守れ!」

「レオ……!」

「この精霊たちは私たちで抑えるわ!」

「アユミ! 闇の生徒会を頼むで!」

「ったく……すき放題いいやがって……!」

 どうやら俺らが闇の生徒会を倒すことは決定らしい。
 ……まあ、予言の子の以上、多分しかたないだろうけどさ。

「予言の子と謳われし娘、アユミ。ウィンターコスモス家の末裔、ブロッサム。そしてオーベルデューレの血筋、シルフィネストか……」

 俺ら三人を順に見て「ちょうどいい」とヌラリが杖を構える。

「貴様らを始末すれば、少しはわしらの恐ろしさを思い知るだろう!」

「はい、そうですか。ってやられるわけねぇだろ!」

 杖を振るってきたヌラリの攻撃を受け止める。
 闇魔法も操るこいつは結構強敵なんだよなー……。

「行けぇ! ウィスプ!」

「うわわわ!! い、イグニスー!」

「迎え撃て! オシリス!」

「きゃあ!? ちょっと! 何するのよ!」

 向こうは向こうでブロッサム、シルフィー、スティクスが魔法合戦を繰り広げていた。
 ジャコツは……なんか三人のバトルに巻き込まれているっぽい。攻撃もシルフィーの魔法壁でシャットアウトされているし。

「向こうは大丈夫かな……安心してやり合える」

「ふんっ、減らず口を!」

 安心したところを素早い手刀が襲ってきた。
 ま、この程度なら問題ない。

「とはいえ……時間はかけられないな」

 他のみんなは先に進んでいるはずだ。ここでもたもたしてられない。
 だけどヌラリはナイトメアやダクネスガン、その合間に杖による打撃を繰り出してくる。死角はない、とはよく言ったもんだよ。

「チッ……もううっとうしい!」

 アマリリスのこともあるしな。さっさと終わらせるか。

「ブロッサム! シルフィー!」

「なんだよ! 今忙しいぞ!?」

「わーってる! だから連携決めてさっさと終わらせるぞ!!」

「い、イエッサー!」

 二人に声かけし、敵に突っ込んでいく。二人は下がって魔法の詠唱に入ってるからな。

「うぉらぁあああッ!!!」

「ぐぅ……!!」

 ヌラリに力強く薙ぎ払い、一気にスティクスやジャコツの傍まで吹っ飛ばした。

「ヌラリ様!」

「ヌラリ。予言の女相手に何をしているんだ!」

「そんなものわかっ……!」

「狂乱の波。渦巻き、逆巻き、牙を剥く! セイレーン!」

「なっ……!」

 すぐに体勢を取られるが、そこはシルフィーがナイスタイミングで追撃を放った。
 水魔法のセイレーンが三人を飲み込み、大ダメージを与える。

「きゃあああっ!!?」

「しまっ……!!」

 詠唱中のスティクス、わずかだが無防備だったジャコツは吹っ飛んで倒れる。
 死んでは……いないな。微かにうめき声を上げて倒れている。

「これしき……!」

「させるか!」

 唯一かろうじて立っているのはヌラリだけだ。
 詠唱に入ろうとするところを詰め寄り、刀で連撃を叩き込む。

「くっ……この程度でいい気になるでない!」

「わーってるって。おまえ相手に、こんなの通用しないってことくらい……な」

 にやりと笑みを浮かべ、大きく振り払う。
 ――そして瞬間、後ろで光の魔力が爆発した。

「生命を糧とし、すべての闇を打ち砕け! イペリオン!」

 はい、ブロッサムの必殺技炸裂!
 というかあいつ、イペリオンすらも自由に操れるようになったな……何と言う急成長?

「ぐぉおおおっ!!!」

「これで――トドメだッ!!」

 最強の光魔法を喰らってのけ反ったところ、すかさず刀で袈裟斬りした。
 もちろん殺す程の深さじゃない。ま、痛みはじくじくと効いてるだろうけど。

「っと……どうだ!」

「ぐはっ! ま、まさか……!?」

 俺らに負けたのが信じられないのか、傷口を押さえながら愕然としている。
 あれだけ言って負けた、じゃあなあ……。

「ヌラリ様……! お怪我はありませんか?」

「こんな連中を相手に、怪我などするものか! ……う、うぐ!」

 強がるなよ……おまえ、俺に思いきり斬られただろうが←

「お待ちください! すぐに回復の呪文を……」

「ええい、いらんわ! 手を離せ! どいつもこいつも目障りな!」

 献身的、かつ健気なジャコツの手も払いのける。
 うわあ……カッコ悪い男だな。

「くうっ……」

 今度は二人の横から苦しそうな声。

「おまえを信用した僕がバカだったよ……闇の精霊を暴走させ過ぎた……」

 そう言ったのはスティクスだ。
 こいつは……どういうことか、身体が黒に染まっていた。

「や、闇の精霊に食べられかけてる~!?」

「精霊使いのこの僕が、自ら召喚した精霊に食われるとはね……僕もまだまだ、ということか……」

 自分の力を過信し、失敗した時に気づく、か……皮肉な話だな。

「おい! おまえ大丈夫か? 真っ黒だぞ! 改心するなら治してやるそ?」

「……ハハ……どこまでお人よしなんだ……おまえたちは……」

 レオの言葉に目を丸くして、それから力無く笑った。

「私たちもアユミたちも、すごーく優しいのよ! それに……同じ大陸の生徒じゃない」

「そうだよ~。間違ったことしちゃっても、気づけたなら、やり直せるじゃん!」

「……その目、嫌いだな。ドラッケンの……皆を思い出す」

 チューリップ、シルフィーの言葉に、思い出を浮かび、懐かしむ自分自身に不思議がっている。
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