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三学園VS闇の学園

「さて……これでお互いのことがわかったな」

「はい。アユミさん。宝具も無事で何よりです」

 俺の言葉にフリージアが頷く。
 最近こいつも反応速度が早いような……まあいいや。

「さて……予言通り三つの学園が宝具を無事に運んできた訳か……。あとは、大陸の中央に達するのみ……」

「おそらく、このモーディアル学園の真ん中が、その中央とやらなんじゃろうのう」

「……そうだろうな」

 自然と刀を握る手に力が篭る。
 大陸の中央……きっとそこに元凶――アガシオンがいるから。

「いよいよ殴り込みだね!」

「おっしゃ! 気合いが入ってきた!」

「力を合わせて頑張ろうね!」

「も、もちろんですっ。アイナさん!!」

 レオ、カータロ、アイナも気合い十分だ。
 もちろんジーク(違う方面に)もな。

「じゃ、行こうか」

「うん……あ、お姉ちゃん待って!」

 全員に声をかけ、学園の校舎内に入ろうとした……瞬間、アイナに呼び止められた。

「……今度は何だ」

「あのね。これ、ロア君がお姉ちゃんに渡せって」

「……ロアが?」

 行って渡されたのは大きな袋だった。
 ……そういえば、なんであいつは来てないんだ。

「今のアユミなら渡しても大丈夫だろうってよ。特別に料金タダでくれてるしよ」

「……あいつが!?」

 あのきっちりちゃっかり金を取るロアが!?
 ……何かの前触れか?

「……あいつが来られないのと、何か関係が……?」

「いやあ……さすがに深く考え過ぎとちゃうか?」

「でも、校長先生が呼ばずに学校に待機させてるのはちょっと不思議なの」

「……サルタ校長が?」

 ……どういうことだ。
 校長自らが待機命令……?

「校長先生教えてくれなかったから、あたしたちもよく知らないのよねン」

「まあとにかく、せっかくだから装備してみませんか? あのロアさんがタダで作った物ですから」

「そ、それから、し、神聖な力をか、感じるんだな」

「……そうだな」

 ネコマパーティに促され、袋を開けてみる。

「……これ……鬼徹……?」

 刀には見覚えがある。
 妖刀の一種と言われている呪いの刀――鬼徹だ。

「なっ……!? 鬼徹って……それ、呪いの刀じゃない!」

「の、ののの、呪いだって!?」

 ロクロの、呪いという言葉に全員がぎょっとなる。
 ……まあそうだろうな。俺もそうだし。

「じゃあ……アユミは呪われるのか!?」

「大丈夫だよ、レオ君。呪いは解いてあるって」

「そ、そうなんですか……? ……ならよかった」

「ああ……まったくだ」

 アイナの言葉に心底安堵するフリージアとブロッサム。
 ……おまえら、そんなに意気投合してたっけ?

「でも、刀を持った人間は魔力を吸い取られるって……」

「それはこの刀の性質みたいなものみたいで、何ともできないみたいだけど……代わりに、これを装備しろって」

 そう言われ、今度はお守りを差し出される。

「……なんだ。これは」

「鬼徹の魔力を吸う性質は変えられないから、これを装備して相殺しろって」

「いや、それはわかるんだけど……ただ、これ……」

「……ああ。異常なくらい、神聖な力を感じる」

 見ただけでブロッサムもわかったらしい。頷きながら、俺はお守りを手に取る。
 ……神聖な力に溢れ、持つと力が沸き上がる感覚。これはただのお守りじゃない。

「私にもわからないよ。ただ、お姉ちゃんに渡せって……」

「……そうか。いいさ。終わったら問いただすから」

 何がなんだか知らないが、強力なのは間違いない。
 アガシオンに勝つ為にも、せっかくだから使わせてもらおうか。

「じゃ、あらためて……入るぞ」

「ああ」

「み~……」

 刀を持ち替え、ブロッサムとシルフィーが頷いたのを見てから校舎内に入った。

「ここが……モーディアル学園……」

「うわあ……暗いね~……」

 さすが闇の学園。内部も陰湿っつーかなんつーか……。
 そう思いながら校舎内へ歩きはじめる。

「……!! アユミ! 危ない!!」

「え……」

 その時だ。
 突然ブロッサムに腕を思いきり引っ張られた。
 すると同時に、さっき俺がいた場所に巨大な落雷が落ちた。

「う、嘘だろ……?」

「闇の生徒会の奇襲か……!」

 驚くと同時に、訳がわからない感覚に襲われる。
 もしあのまま歩いていたら……俺は……。

「……大丈夫。俺がいるから」

 震えを感じ始めた瞬間、ブロッサムが支えている腕に力を込める。
 ……不思議と震えが消えた。それどころか、逆に足や手に力が戻ってくる。

「わ、わりぃ……ありがとう、ブロッサム」

「あ、いや…………」

 俺の言葉に顔が赤くなった……と思いきや、すぐに目を見開く。

「また来るぞ!!」

「……っ! ブロッサム! アユミ!」

 瞬間、フリージアが俺たちの前に立ち、魔法防壁を張った。
 そしてほぼ同時に凄まじい吹雪が襲いかかってくる。

「くっ……!」

「フリージア!」

「だ、大丈夫か!? フリージア!」

「平気です。このくらい……」

 なんとか冷気を防げたらしいな……。
 フリージアも疲れが見えるが、それでも小さく笑顔を見せる。

「そうか。よかった……ってブロッサム。おまえ、何複雑そうな顔をしているんだ?」

「え……? き、気のせいだろ……」

 何故かごまかされた。フリージアもどっか気まずそうだ。
 ……なんなんだ、おまえら。

「……ほほう。今ので一人くらいは死ぬかと思ったがな」

「いやいや。まだこの程度では……」

「…………」

「! 誰だ!」

 俺らの上空――学園の屋上から三人の気配。
 俺の声に全員もその方向へ目を向ける。

「ネメシア=スノー……推参いたしました」

「ネメシア……!」

 一人は、セントウレア校長の執事であるディアボロス。ネメシア=スノー。

「ミカヅチ見参」

「み、ミカヅチだって!?」

「ミカヅチ……ミナカタ先生を負かした、唯一の人物……」

 一人は、かつてタカチホにいた、ミナカタ先生のライバル。バハムーンのミカヅチ。

「……ディムラピス=オーベルデューレ」

「に、兄ちゃん……」

 一人はシルフィーの兄。昨年プリシアナの賢者学科を卒業した、ディムラピス――ディーム。

「……よくぞここまでたどり着いた。光の学び舎の子らよ」

「……!!」

 三人の奥からもう一つ現れる。
 強大で邪悪で、そして――俺に纏わり付く、闇の魔力。

「な、何……? この魔力……」

「アユミ……まさか、あいつが……」

「ああ……間違いねぇ……」

 散々俺を付け狙ってきた闇。
 エデンを通じて感じた、強大な力。

「……アガシオン!」

「そう。我こそが大魔道士アガシオン……いや」

 三人の後ろから現れ、俺たちの前に姿を見せた。
 魔王と言っても間違いじゃない凶悪な顔。炎を思わせるような髪。そして……見る者を畏怖させるかのような、血のような赤い瞳。

「……暗黒校長アガシオンだ!」

 奴、大魔道士――もとい、暗黒校長・アガシオン本人で間違いなかった。

「暗黒校長……」

「アガシオン……!」

「あやつがわらわの先祖……くっ!!」

 ジークとレオの横で、キルシュが唇を噛みながらアガシオンを睨みつける。

「……貴様らをここに送り込んだ三校長の言う通り、間もなく予言の時は成就し、この地に始原の学園は復活する」

 アガシオンは気にせず、まっすぐ俺を見ながら話し出す。

「失われた始原の鐘が鳴り響き、世界には新たな知恵と学びの時代が訪れる……本来ならば、な」

「本来なら、だと?」

 ニヤリ、とアガシオンに嫌な笑みが浮かぶ。

「始原の学園が復活しようとする瞬間、大陸中央から大量のエネルギーがほとばしる……」

「だがそこに……アガシオン様が数百年かけて闇の世界から吸い出した悪のエキスを混入させたら、どうなると思う?」

「そんなことしたら、世界中に悪のエネルギーが……」

 ミカヅチの言葉にジークがつぶやき、それにブロッサムがハッと気づく。

「この大陸全域に悪のエネルギーを降り注ぎ、それを浴びた生徒たちは、闇に捕われる……」

「ブロッサム……つまり?」

「……生徒全員が不良生徒になるってことだ!」

「そ、そんな……!?」

 その言葉にリンツェ……全員が驚いた。

「さすがだ、ブロッサム=ウィンターコスモス……。……手を打っておいて正解だったな」

「……え?」

 ……どういう意味だ?
 だけどアガシオンは答えず、話を続ける。

「そして、幾万の不良生徒の魂を贄として……大魔王アゴラモート様は甦る……!」

「アゴラモート、だと……!」

 かつてアガシオンが甦らせようとした魔王。
 それを復活させる、だと!?

「アガシオンっ! おまえはまだ……魔王復活を諦めていないのかっ!?」

「当然だ、ウィンターコスモスの末裔よ」

 叫んだセルシアに、アガシオンがぎらりと視線を移す。

「おまえの先祖に阻まれ、我は力の大部分を失った……それ故に我は一介のディアボロスに身を変え、ノイツェシュタイン王家を興し、その歴史の影に身を隠したのだ」

「やっぱり、始原の系譜に書かれてたことは事実なんだ~……」

 語り出したアガシオンの言葉に、バロータの後ろに隠れていたシルフィーが身震いしながらつぶやく。

「雌伏すること数百年……王家の隠し財産を使い、モーディアル学園を再建し、闇の生徒会を育ててきた」

 隠し財産、な。ふん……ご苦労なこった。

「長い年月であった。だが、もうそれも終わりだ! 我が野望の成就する時が来る!」

「そんなこと、させるものか!」

「そうや! 三つの宝具の力を使って、おまえらなんかやっつけてやるで!」

 アガシオンの狂気も気にせず、レオとカータロが叫ぶ。
 だけどネメシアが「そう」と何故か二人に頷く。

「時が来る前に予言の娘が三つの宝具を大陸の中央に運べば、始原の学園復活のエネルギーは制御され、アガシオン様の計画は妨害されてしまう」

「……え? 俺が?」

 まさかここで俺が出るとは……つーか俺、どんだけデンジャラスな人生歩んでんだ? いまさらだけど←

「……その為に」

 考え込んでいると、隣のブロッサムから低い声が聞こえた。
 同時に肩に置かれている手に力が込められる。

「その為に――今までアユミを殺そうと狙っていたのか!」

「その通りだ。……もっとも、エデンは何度も失敗したようだがな。まあ今となってはしかたない」

「エデン先輩が……!?」

 ブロッサムの静かな怒りも、ネメシアは冷静に受け止めていた。
 エデンが俺を殺そうとした、と盛大にショックを受けているのはジークだけど。

「……おい。話す暇はもうないんじゃないか?」

「そうだな、ディーム。彼らが私たちを止められるか……残された時間は少ない」

「俺が鍛えた生徒たちを倒し、闇の校舎の最下層まで来れるものか。ヌハハハハ!!」

 今まで黙っていたディームが苛立ちながらネメシアとミカヅチ、二人に話し掛けた。
 二人も頷き、早々と話を切り上げる。

「兄ちゃん……」

「…………っ」

 シルフィーと目が合ったが、ディームは自分から視線を反らした。
 ……嫉妬、というヌラリの指摘はあながち間違いじゃないみたいだな。

「さて……予言の娘よ。今こそ、試される時!」

 アガシオンが高らかに言いながら、俺を指さした。
 睨み返すように視線を交える。

「三校長の光の教えと我が闇の教え……どちらが始原の学園の力を手に入れるか! 待っているぞ。学び舎の子らよ……ハハハハハハッ!!!」

 高笑いを上げながら俺を睨み、そのまま四人は闇の中へと消えていった。
 残された俺らに緊張感が走る。

「闇の生徒会に闇の二大教師、天才賢者。そしてアガシオン! とんでもない強敵じゃのう!」

「だが、僕たち全員の力を合わせれば、きっと打ち破れるはず!」

 キルシュ、セルシアの掛け声に全員が頷く。
 たとえ敵が強かろうが、俺たちは決して負ける訳にはいかないから。

「ああ! なんたってこっちには、三学園の切り札・アユミたちがいるんだからな!」

「切り札って……つか俺らがエース?」

 驚きながらジークに聞けば「当ったり前だろ!!」とうるさく返された。
 ……おい。俺に先頭切って死ねってか、コラ←

「大丈夫大丈夫! 英雄と勇者だっているさ!」

「おうっ、そうだなッ!」

「おまえら、まだそれらじゃないだろ……」

 呆れながら言うが、ポジティブシンキングな二人は聞く耳持たず。
 ため息をつきながらも、全員と次に話を進める。

「……ここからは三つの学園みんなで、あの闇の校舎を攻略していくのね」

「でもでも。狭いダンジョンの中じゃ、この大人数で団体行動は無理だわ……」

「パーティ単位で連携して探検、ね。大丈夫、今までと同じよ」

「さすがベルタちゃんですわ」

 ネコマ、ブーゲンビリアに頷きながら、ベルタが冷静に言った。
 ユリも「その方がいい」と皆に言いながら頷く。

「…………。ブロッサム、シルフィー」

「ん?」

「なあに~?」

 方針が決まったことなので、俺は二人に話し掛けた。
 決戦前に、聞きたいことがあるからだ。

「……ホントに大丈夫か? 俺と一緒に来れば、多分今までとは比べものにならないほどの死地をくぐり抜ける羽目になるぞ」

「……あ。そういうことか……アユミ」

 勘の良いブロッサムは俺の言いたいことがわかったか、すぐに頷き返した。

「俺なら大丈夫。……むしろ、おまえが心配なんだよ。なんだかんだ、一人で背負って無茶するから」

「うっ……」

 事実、心のどこかで傷つけたくないからセルシアかレオのパーティに同行させるか、とも思ってたし。

「だから、俺は良いから一緒にいさせろ。……シルフィーだって、大丈夫だろ?」

「うん! ボク、アユミちゃんとブロッサムと一緒なら、どこだって大丈夫になったし!」

 シルフィーも笑顔で頷く。
 ……そうだな。もうこいつは、逃げるだけのこいつじゃない。

「わかった。……ってか悪かったな。変なこと聞いて」

「大丈夫! アユミちゃんの不器用な優しさだってわかってるから!」

「はは、違いない」

「テメェら……」

 否定できないのが悔しいところだな……。

「アユミたち。話は済んだかの?」

 ここでキルシュが話し掛けてきた。
 他の皆さんもスタンバってる。

「ああ、悪い……何か?」

「何、たいしたことではない。出発前に、一声かけてもらおうと思っての」

「俺が?」

 ……なんで俺なんだ。
 そう思ってると、キルシュの隣からカータロとセルシアが並んだ。

「そうや! アユミの一喝は気合いが入るからな。自然と身が引き締まるさかい、わいらがお願いしたんや」

「たしかに君の怒号を聞くと、殺されないようしっかりしなきゃって思うね。うん」

「カータロはともかく……セルシア。テメェはホントに殺すぞ」

 ひさしぶりの相変わらずだな! この横暴生徒会長!!
 ……まあ頼まれたので、とりあえず全員の前に立つ。

「よし。じゃあ……行くぞ、テメェらあ!! 闇の生徒会を――アガシオンをぶっ飛ばす!!!」

『おーーーっ!!!』

 俺の怒鳴り声の後、全員が拳を上げて返事を返した。

「……行くか!」

「ああ」

「み!」

 各パーティで出発し始める。
 俺、ブロッサム、シルフィーもまた、暗黒校舎へと足を踏み入れていった。

 ――――

 いよいよ始まる決戦。

 絶対に勝ってやる!!
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