闇の学園・モーディアル学園
「やばい……ヤンデレからの死刑宣告が……」
「大丈夫ですか? 顔色悪いですよ……別の意味で」
フリージアが背中をさすってくれる。
……うん。エデンより数倍マシだ! ホントに感謝だよ。
「大丈夫だ。……ありがとう、フリージア」
「……ッ! べ、べつに、礼を言われることではありませんから」
素直に笑顔を浮かべて言えば、またもふいっ、と視線を反らした。
……俺から見れば可愛いんだけど、ソレ←
「――フリージア」
「ッ!! は、はい! セルシア様!」
セルシアが(何故か違和感がある)素晴らしい笑顔でフリージアを呼んだ。
フリージアも何故かものすごく驚き、肩を跳ね上げながらセルシアに向き直る。
「さっきから歌声がするんだが……」
「「え」」
俺とフリージアが同時にハモった。セルシアは「アレ」と言って時計台を指さす。
「……この声はっ!」
「アマリリスちゃん!」
「暗黒アイドル・アマリリス! オン・ステージっ♪」
チューリップとブーゲンビリアがハッとなった。
そして歌声の主……アマリリスが時計台から飛び降りてくる。
「ふふ……生徒会長とか言っても、所詮は役立たずだね。やっぱりこのボクの魅力で、世界を支配してあげなくちゃ!」
「まだそんなこと言ってんのかよ……」
ここまで来ると、もはや呆れしか浮かばないな……。
やっぱアマリリスは好きになれん……←
「アマリリスちゃん。もう一緒に帰りましょうよ」
「嫌ったら嫌! せっかく闇の力で究極アイドルになれそうなんだから!」
「それ、結局他力本願じゃねぇか。自分の力じゃねーし」
「うるっさいな! 予言の女!」
俺が言うとキーキーと怒り出した。
俺はものともせずに睨み返す。
「相変わらず異常なくらい仲が悪いな……」
「二人のキャラが正反対だからじゃねーか?」
真後ろでブロッサムとバロータが何か話し合ってる。
もっとも、アマリリスと火花飛び散らかしてる今の俺には気にも留めなかったが。
「……ふん! いい加減アンタと白黒はっきり着けたかったんだ。ブーゲンビリアと兄弟ってばれて人気が落ちる前に、そろそろやっつけてやる!」
「やれるもんならやってみろや」
「あー、ホッントムカつく女!」
俺の言葉にイライラしながらも「いでよ! バックダンサー!」と高らかに叫んだ。
「だから、その呼び方やめなさいよ!」
怒りながらも律儀に出てくるのはジャコツだった。
「……おまえも大変だな。毎回そいつに付き合わされて」
「わかってくれる? 正直もう面倒なのよね……」
相当アマリリスに参ってるらしい。
俺とジャコツに奇妙な連帯感が生まれた。
「ちょっとジャコツ! 何敵と馴染んでるのさ!」
「少しだけでしょ!? 言われなくてもちゃんとやるわよ! ですよね、ヌラリ様!?」
「純潔のオルゴールも必要だからな。エデンには悪いが、予言の娘は我々で始末させてもらうか……」
アマリリスに怒鳴り返した後、杖を構えるヌラリに向き直った。
ヌラリはすでに俺に殺気を向けている。
「やるしかない、か。……アマリリスにだけは死んでも負けたくねぇな」
「それはこっちのセリフだよ! ……それじゃあ、いくよ! マジカルコンサート・スタート♪」
俺に一睨みした後、アマリリスが歌声を響かせた。
すると地面から無数の闇の観客がゾンビのように現れる。
「これもくらいな!」
さらに追撃。ジャコツが大量の蛇を放ってきた。大量で気持ち悪いな……でも可愛い←
「またこのパターン!」
「しかたない……ブロッサム」
「了解。任せとけ」
「じゃあボク、詠唱の早い魔法だけ使うね~」
「さすがだ、おまえら。よし……全員ブロッサムを守れ。絶対攻撃を当てさせるなよ」
俺が言うと「え?」とセルシアたちが目を丸くした。
が、「いいから!」と促せばとりあえず頷く。
「じゃあ……行くぞ!」
蛇と観客を斬り込みながら、俺はヌラリに突っ込んだ。
こいつが一番強い。それに俺を狙ってるなら、敢えて俺が引き付けておいた方がいいからな。
「ヌラリ様!」
「悪いけど行かせないよ!」
「チッ!」
「アマリリスちゃん!」
「ちょ……おまえら来んなよ!」
セルシアパーティはジャコツ、レオパーティはアマリリスの方へ向かっていった。
それぞれ蛇と闇の観客がいるけど……三人ずつだし、大丈夫だろ。
「フッ……分家の奴に何をさせる気か知らんが、一人で残してよかったのかな?」
「その点についてはご心配なく」
ギリギリと刀と杖の押し合いしつつ、ニヤリと笑みを返しておく。
もちろんブロッサムは現在詠唱中で無防備だが、抜かりはない。
「炎と踊れ~。ファイガン~♪」
ドォオオオンッ!!! とド派手な爆発が後方で起こった。
もちろんやったのはシルフィーだ。魔法壁召喚でブロッサムを守り、かつ詠唱破棄のコストの低い魔法で雑魚を叩き潰しているのだ。
「最近頼もしくなってな。あの程度ならあいつ一人で十分だ」
「ほぅ……ずいぶんなことを。ディームが嫉妬するはずよ」
「……嫉妬?」
ヌラリの言葉に反応する。
……そういや、ディームが闇の生徒会にいる理由を知らないな。
「どういう意味だ、それ」
「言葉通りだ。あやつは弟が――弟の才能が怖いのだよ」
「才能だって?」
カキンッ! と一際激しく打ち、互いに距離を取る。
「そう……貴様も知っておろう? あの小僧の才能、力……すべてが並大抵のものではない、と」
「まあな」
ヌラリの言葉には頷くものがある。
たしかにシルフィーはヘタレだが、古代文字や仕掛けをあっさり解いたし、魔法だって撃ち方まで自由自在だからな。
「普通はできんことよ……。それを簡単に習得し、自分のものとしたのがあやつだ」
「……まあ。たしかにあいつならそうだろうな」
「努力しても届かぬ領域……それを簡単に手にしたとなれば、ディームも納得しがたいだろう」
なるほど。それが原因か。
シルフィーの才能に多大な嫉妬ね……。加えてあいつも天然だから、そのことに気づいてないだろうな。
「さて……おしゃべりはここまでだ。予言の娘」
「む、そうか」
そういや今は戦闘中だ。
しゃべってる場合じゃねぇ。
「純潔のオルゴールはいただく。ここで終わりにさせてもらおう」
「…………。そうだな」
武器を構えるヌラリに俺は――刀を納めた。
それにヌラリが訝しる。
「ここで終わりだ。……全員伏せろ!!」
苦笑しながら、戦ってる全員に知らせた。
同時に背後から膨れ上がる、膨大な光の魔力。
「倍加魔法――イペリオンッ!」
ブロッサムの光の魔力が敵に中心地に落ち――一瞬ですべてを飲み込んだ。
闇の観客、蛇たちは消し飛ばされ、闇の生徒会たちは一気に瀕死状態になってしまったようだ。
「うわっ……スゲー威力……」
「すごい! ブロッサムってば、いつの間にあんなに強くなったの!?」
敵だけを全滅させたブロッサムの倍加魔法イペリオンの威力に全員が驚いてるようだな。
もちろん俺とシルフィーは普通だけど。ブロッサムならできると思ったから。
「ブロッサム、無事か?」
「ああ。ま、さすがに少し疲れたけど」
「でも倍加魔法イペリオン使ってケロッてしているなら、大丈夫じゃないかなあ?」
「それもそうか」
交流戦の時はばったり倒れたが、今は普通に立っている。
もちろん多少の疲れはあるだろうが……それでも立ってるだけでもすごいしな。魔力や精神力がさらに上がっている証拠だな。
「ぐ、ぐぬう……! ま、まさか、これほどまで力をつけているとはッ!!」
おお。さすがにヌラリも予想を超えていたらしいな。
つーか全身から白い湯気が出てるぞ←
「やはりアレの完成を待つしかないか……ほれジャコツ。回復の術だ」
何か気になることを言いながら、ヌラリがジャコツに回復魔法をかけた。
こいつ……どこまで万能型なんだ?←
「ちょ……ボクへの回復魔法はどうしたんだよ! すごい痛いんだけど!!」
回復魔法をかけてもらえなかったアマリリスがヌラリに食ってかかった。
「……おぬしのことは……もう知らん」
「なっ……!? 何言ってんだよ! ハゲ!」
「元々おぬしのように男だか女だか区別のつかん奴が、わしは大嫌いなのだ!」
が、ヌラリの顔に苛立ちが浮かび上がるだけだった。
……いや。苛立ち、というよりも、憎々しい、の方に近い。
「ちょろちょろと目障りだったが……ちょうどいい。しばらく歌唄いのカラクリ人形として使ってやるか」
「なに……!?」
ブロッサムやブーゲンビリアがバッと反応すると同時に、ヌラリが闇の精霊を召喚した。
「ちょ……! 何これ……んぐっ!!?」
「アマリリス!?」
なっ……精霊たちがアマリリスの口の中に入りやがった!?
全部が入り込むと、アマリリスが歌を唄い始める。
「しばらくはそうやってわしを楽しませい」
「あら、スピーカーね? 歌はいまいちだけど暇つぶしにはいいわね。いい気味」
「♪~♪~♪~」
薄ら笑いでアマリリスを見る二人。
反対にアマリリスは首を振り、泣きながら歌を唄っている。
「アマリリスちゃん! アマリリスちゃん!?」
「おい、アマリリス! しっかりしろ!」
たまらずブーゲンビリアと俺が駆け寄った。
アマリリスは泣きながら、俺らに手を伸ばす。
「♪~♪ ……お……♪ に……♪ い、ちゃ……~♪ ……ん~……♪」
「アマリリスちゃん……!」
「おい。アマリリスに何をした」
再び抜刀し、ヌラリとジャコツを睨みつける。
「あら……アンタ、アマリリスが嫌いじゃないの?」
「個人的に合わないだけでこんなことは望んでない! いいから質問に答えろ!」
威嚇にサンダガンを二人の前に落とした。
もちろん二人は軽く避ける。
「やれやれ……その子はね。ヌラリ様の術に掛かり、死ぬまで歌い続ける。それだけ」
「死ぬまで……!?」
「~♪ ……っ……♪」
俺らと会話している間にも、アマリリスは休むことなく歌を唄う。
けどそんなことしたら、喉が潰れちまう……!
「ジャコツ。ここは一旦退くぞ」
「はい、ヌラリ様」
ヌラリはブーゲンビリアからアマリリスを奪い取り、ジャコツと一緒にモーディアル学園に走っていった。
逃げられた……っ!
「アマリリスちゃん!」
追いかけようにもあいつらの足は素早く、すぐに見えなくなった。
ブーゲンビリアが悔しそうに唇を噛み、
「――チィィィ!! あんちくしょうッ!! なんてことをしやがる!!!」
――とんでもなくドスの効いた野太い叫びを上げた。
「うぉ、怖ェエッ!!?」
「わっ!! い、いきなりドスの効いた声出すなよ!」
「あ、あらん、失礼……つい……」
ブロッサムとバロータがビクゥッ! と跳ねて怯えた。
それによりすぐにブーゲンビリアが元に戻る。
「で、でも……アマリリスちゃんが!!」
「落ち着け!! ――安心しろ。必ず助けてやる」
「そうだ。力を合わせて、必ず救い出そう」
「あんなバカはげ! ボクがメッタメタのギッタギタにしてやるから心配すんな!」
「みんな……ありがとう!」
俺、セルシア、レオが順に声をかける。
ブーゲンビリアも落ち着き、とりあえず一段落つく。
「これでとりあえず、闇の学園からの出迎えは終わり、というところでしょうか」
「中々派手な歓迎のされ方だったね」
「こんな歓迎、二度とゴメンだ」
フリージアとチューリップの歓迎という言葉に悪態つく。
こんな歓迎はもうヤダよ……。
「ここから先はモーディアル学園に入るんだな……なあ。一旦他の学校と合流した方がいいんじゃないか?」
「そうだな。ドラッケン学園とタカチホ義塾からも宝具が運ばれているはず。それまで、全員でここで待っていよう」
目の前の学校を見て、ブロッサムとセルシアの言葉に全員が頷いた。
たしかに、ここから先は罠がないとも限らないからな。闇の生徒会も勢揃いで襲ってくるだろうし。
「さて……果たして誰が来るのやら……」
空洞にそびえ立つ敵の城を見上げながら、虎視眈々と狙っているだろうアガシオンとの決着に、刀に握る手に力を込めた。
――――
すべてを持って打ち砕く。
奴の野望と、
勝手に決められた運命を。
「大丈夫ですか? 顔色悪いですよ……別の意味で」
フリージアが背中をさすってくれる。
……うん。エデンより数倍マシだ! ホントに感謝だよ。
「大丈夫だ。……ありがとう、フリージア」
「……ッ! べ、べつに、礼を言われることではありませんから」
素直に笑顔を浮かべて言えば、またもふいっ、と視線を反らした。
……俺から見れば可愛いんだけど、ソレ←
「――フリージア」
「ッ!! は、はい! セルシア様!」
セルシアが(何故か違和感がある)素晴らしい笑顔でフリージアを呼んだ。
フリージアも何故かものすごく驚き、肩を跳ね上げながらセルシアに向き直る。
「さっきから歌声がするんだが……」
「「え」」
俺とフリージアが同時にハモった。セルシアは「アレ」と言って時計台を指さす。
「……この声はっ!」
「アマリリスちゃん!」
「暗黒アイドル・アマリリス! オン・ステージっ♪」
チューリップとブーゲンビリアがハッとなった。
そして歌声の主……アマリリスが時計台から飛び降りてくる。
「ふふ……生徒会長とか言っても、所詮は役立たずだね。やっぱりこのボクの魅力で、世界を支配してあげなくちゃ!」
「まだそんなこと言ってんのかよ……」
ここまで来ると、もはや呆れしか浮かばないな……。
やっぱアマリリスは好きになれん……←
「アマリリスちゃん。もう一緒に帰りましょうよ」
「嫌ったら嫌! せっかく闇の力で究極アイドルになれそうなんだから!」
「それ、結局他力本願じゃねぇか。自分の力じゃねーし」
「うるっさいな! 予言の女!」
俺が言うとキーキーと怒り出した。
俺はものともせずに睨み返す。
「相変わらず異常なくらい仲が悪いな……」
「二人のキャラが正反対だからじゃねーか?」
真後ろでブロッサムとバロータが何か話し合ってる。
もっとも、アマリリスと火花飛び散らかしてる今の俺には気にも留めなかったが。
「……ふん! いい加減アンタと白黒はっきり着けたかったんだ。ブーゲンビリアと兄弟ってばれて人気が落ちる前に、そろそろやっつけてやる!」
「やれるもんならやってみろや」
「あー、ホッントムカつく女!」
俺の言葉にイライラしながらも「いでよ! バックダンサー!」と高らかに叫んだ。
「だから、その呼び方やめなさいよ!」
怒りながらも律儀に出てくるのはジャコツだった。
「……おまえも大変だな。毎回そいつに付き合わされて」
「わかってくれる? 正直もう面倒なのよね……」
相当アマリリスに参ってるらしい。
俺とジャコツに奇妙な連帯感が生まれた。
「ちょっとジャコツ! 何敵と馴染んでるのさ!」
「少しだけでしょ!? 言われなくてもちゃんとやるわよ! ですよね、ヌラリ様!?」
「純潔のオルゴールも必要だからな。エデンには悪いが、予言の娘は我々で始末させてもらうか……」
アマリリスに怒鳴り返した後、杖を構えるヌラリに向き直った。
ヌラリはすでに俺に殺気を向けている。
「やるしかない、か。……アマリリスにだけは死んでも負けたくねぇな」
「それはこっちのセリフだよ! ……それじゃあ、いくよ! マジカルコンサート・スタート♪」
俺に一睨みした後、アマリリスが歌声を響かせた。
すると地面から無数の闇の観客がゾンビのように現れる。
「これもくらいな!」
さらに追撃。ジャコツが大量の蛇を放ってきた。大量で気持ち悪いな……でも可愛い←
「またこのパターン!」
「しかたない……ブロッサム」
「了解。任せとけ」
「じゃあボク、詠唱の早い魔法だけ使うね~」
「さすがだ、おまえら。よし……全員ブロッサムを守れ。絶対攻撃を当てさせるなよ」
俺が言うと「え?」とセルシアたちが目を丸くした。
が、「いいから!」と促せばとりあえず頷く。
「じゃあ……行くぞ!」
蛇と観客を斬り込みながら、俺はヌラリに突っ込んだ。
こいつが一番強い。それに俺を狙ってるなら、敢えて俺が引き付けておいた方がいいからな。
「ヌラリ様!」
「悪いけど行かせないよ!」
「チッ!」
「アマリリスちゃん!」
「ちょ……おまえら来んなよ!」
セルシアパーティはジャコツ、レオパーティはアマリリスの方へ向かっていった。
それぞれ蛇と闇の観客がいるけど……三人ずつだし、大丈夫だろ。
「フッ……分家の奴に何をさせる気か知らんが、一人で残してよかったのかな?」
「その点についてはご心配なく」
ギリギリと刀と杖の押し合いしつつ、ニヤリと笑みを返しておく。
もちろんブロッサムは現在詠唱中で無防備だが、抜かりはない。
「炎と踊れ~。ファイガン~♪」
ドォオオオンッ!!! とド派手な爆発が後方で起こった。
もちろんやったのはシルフィーだ。魔法壁召喚でブロッサムを守り、かつ詠唱破棄のコストの低い魔法で雑魚を叩き潰しているのだ。
「最近頼もしくなってな。あの程度ならあいつ一人で十分だ」
「ほぅ……ずいぶんなことを。ディームが嫉妬するはずよ」
「……嫉妬?」
ヌラリの言葉に反応する。
……そういや、ディームが闇の生徒会にいる理由を知らないな。
「どういう意味だ、それ」
「言葉通りだ。あやつは弟が――弟の才能が怖いのだよ」
「才能だって?」
カキンッ! と一際激しく打ち、互いに距離を取る。
「そう……貴様も知っておろう? あの小僧の才能、力……すべてが並大抵のものではない、と」
「まあな」
ヌラリの言葉には頷くものがある。
たしかにシルフィーはヘタレだが、古代文字や仕掛けをあっさり解いたし、魔法だって撃ち方まで自由自在だからな。
「普通はできんことよ……。それを簡単に習得し、自分のものとしたのがあやつだ」
「……まあ。たしかにあいつならそうだろうな」
「努力しても届かぬ領域……それを簡単に手にしたとなれば、ディームも納得しがたいだろう」
なるほど。それが原因か。
シルフィーの才能に多大な嫉妬ね……。加えてあいつも天然だから、そのことに気づいてないだろうな。
「さて……おしゃべりはここまでだ。予言の娘」
「む、そうか」
そういや今は戦闘中だ。
しゃべってる場合じゃねぇ。
「純潔のオルゴールはいただく。ここで終わりにさせてもらおう」
「…………。そうだな」
武器を構えるヌラリに俺は――刀を納めた。
それにヌラリが訝しる。
「ここで終わりだ。……全員伏せろ!!」
苦笑しながら、戦ってる全員に知らせた。
同時に背後から膨れ上がる、膨大な光の魔力。
「倍加魔法――イペリオンッ!」
ブロッサムの光の魔力が敵に中心地に落ち――一瞬ですべてを飲み込んだ。
闇の観客、蛇たちは消し飛ばされ、闇の生徒会たちは一気に瀕死状態になってしまったようだ。
「うわっ……スゲー威力……」
「すごい! ブロッサムってば、いつの間にあんなに強くなったの!?」
敵だけを全滅させたブロッサムの倍加魔法イペリオンの威力に全員が驚いてるようだな。
もちろん俺とシルフィーは普通だけど。ブロッサムならできると思ったから。
「ブロッサム、無事か?」
「ああ。ま、さすがに少し疲れたけど」
「でも倍加魔法イペリオン使ってケロッてしているなら、大丈夫じゃないかなあ?」
「それもそうか」
交流戦の時はばったり倒れたが、今は普通に立っている。
もちろん多少の疲れはあるだろうが……それでも立ってるだけでもすごいしな。魔力や精神力がさらに上がっている証拠だな。
「ぐ、ぐぬう……! ま、まさか、これほどまで力をつけているとはッ!!」
おお。さすがにヌラリも予想を超えていたらしいな。
つーか全身から白い湯気が出てるぞ←
「やはりアレの完成を待つしかないか……ほれジャコツ。回復の術だ」
何か気になることを言いながら、ヌラリがジャコツに回復魔法をかけた。
こいつ……どこまで万能型なんだ?←
「ちょ……ボクへの回復魔法はどうしたんだよ! すごい痛いんだけど!!」
回復魔法をかけてもらえなかったアマリリスがヌラリに食ってかかった。
「……おぬしのことは……もう知らん」
「なっ……!? 何言ってんだよ! ハゲ!」
「元々おぬしのように男だか女だか区別のつかん奴が、わしは大嫌いなのだ!」
が、ヌラリの顔に苛立ちが浮かび上がるだけだった。
……いや。苛立ち、というよりも、憎々しい、の方に近い。
「ちょろちょろと目障りだったが……ちょうどいい。しばらく歌唄いのカラクリ人形として使ってやるか」
「なに……!?」
ブロッサムやブーゲンビリアがバッと反応すると同時に、ヌラリが闇の精霊を召喚した。
「ちょ……! 何これ……んぐっ!!?」
「アマリリス!?」
なっ……精霊たちがアマリリスの口の中に入りやがった!?
全部が入り込むと、アマリリスが歌を唄い始める。
「しばらくはそうやってわしを楽しませい」
「あら、スピーカーね? 歌はいまいちだけど暇つぶしにはいいわね。いい気味」
「♪~♪~♪~」
薄ら笑いでアマリリスを見る二人。
反対にアマリリスは首を振り、泣きながら歌を唄っている。
「アマリリスちゃん! アマリリスちゃん!?」
「おい、アマリリス! しっかりしろ!」
たまらずブーゲンビリアと俺が駆け寄った。
アマリリスは泣きながら、俺らに手を伸ばす。
「♪~♪ ……お……♪ に……♪ い、ちゃ……~♪ ……ん~……♪」
「アマリリスちゃん……!」
「おい。アマリリスに何をした」
再び抜刀し、ヌラリとジャコツを睨みつける。
「あら……アンタ、アマリリスが嫌いじゃないの?」
「個人的に合わないだけでこんなことは望んでない! いいから質問に答えろ!」
威嚇にサンダガンを二人の前に落とした。
もちろん二人は軽く避ける。
「やれやれ……その子はね。ヌラリ様の術に掛かり、死ぬまで歌い続ける。それだけ」
「死ぬまで……!?」
「~♪ ……っ……♪」
俺らと会話している間にも、アマリリスは休むことなく歌を唄う。
けどそんなことしたら、喉が潰れちまう……!
「ジャコツ。ここは一旦退くぞ」
「はい、ヌラリ様」
ヌラリはブーゲンビリアからアマリリスを奪い取り、ジャコツと一緒にモーディアル学園に走っていった。
逃げられた……っ!
「アマリリスちゃん!」
追いかけようにもあいつらの足は素早く、すぐに見えなくなった。
ブーゲンビリアが悔しそうに唇を噛み、
「――チィィィ!! あんちくしょうッ!! なんてことをしやがる!!!」
――とんでもなくドスの効いた野太い叫びを上げた。
「うぉ、怖ェエッ!!?」
「わっ!! い、いきなりドスの効いた声出すなよ!」
「あ、あらん、失礼……つい……」
ブロッサムとバロータがビクゥッ! と跳ねて怯えた。
それによりすぐにブーゲンビリアが元に戻る。
「で、でも……アマリリスちゃんが!!」
「落ち着け!! ――安心しろ。必ず助けてやる」
「そうだ。力を合わせて、必ず救い出そう」
「あんなバカはげ! ボクがメッタメタのギッタギタにしてやるから心配すんな!」
「みんな……ありがとう!」
俺、セルシア、レオが順に声をかける。
ブーゲンビリアも落ち着き、とりあえず一段落つく。
「これでとりあえず、闇の学園からの出迎えは終わり、というところでしょうか」
「中々派手な歓迎のされ方だったね」
「こんな歓迎、二度とゴメンだ」
フリージアとチューリップの歓迎という言葉に悪態つく。
こんな歓迎はもうヤダよ……。
「ここから先はモーディアル学園に入るんだな……なあ。一旦他の学校と合流した方がいいんじゃないか?」
「そうだな。ドラッケン学園とタカチホ義塾からも宝具が運ばれているはず。それまで、全員でここで待っていよう」
目の前の学校を見て、ブロッサムとセルシアの言葉に全員が頷いた。
たしかに、ここから先は罠がないとも限らないからな。闇の生徒会も勢揃いで襲ってくるだろうし。
「さて……果たして誰が来るのやら……」
空洞にそびえ立つ敵の城を見上げながら、虎視眈々と狙っているだろうアガシオンとの決着に、刀に握る手に力を込めた。
――――
すべてを持って打ち砕く。
奴の野望と、
勝手に決められた運命を。