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闇の学園・モーディアル学園

 途端に強くなったモンスターを薙ぎ倒しながら進む俺ら。

「……! アユミ!」

「あれは……」

 水晶の洞窟から抜けると、途端に拓けた空洞に出る。
 そしてその先には……。

「え~? 学校~!?」

「なんか、ちょー悪そうな学校だな!」

 ……そう。お子様コンビの言う通り、学校があった。
 学校、というより城に近い外見だけど。

「……つまりここが、闇の学園……とやらか?」

「その通りだ、アユミ」

「!?」

 俺のつぶやきに、学校の方から聞き覚えのある声が肯定した。
 目を向けると、そこには今一番会いたくない奴ランキング堂々の第一がいた。

「エデン……!」

「……露骨に嫌な顔をしているな、貴様」

 そりゃおまえには会いたくなかったからな! 決着以外に!

「ここはモーディアル学園。始原の学園の遺産を受け継ぐ最も古き学び舎にして、そいつらのような愚民には通えぬ学校だ」

 と言って後ろのブロッサムたちを指さす。
 あれ? 俺は外されてるの?←

「その通り! アンタたちみたいな落ちこぼれ生徒じゃ、とても通えない学校なんだからね!」

「ベコニア!?」

「ここまで宝具を運ぶ役目、ご苦労だった」

「あ! バカはげ!」

「ヌラリだ!」

 さらに隣からベコニアとヌラリも現れた。
 よりによってヌラリかよ……。

「ふん……ようやく純潔のオルゴールを目覚めさせたようだな。少々手間がかかったが、まあいい。その宝具、渡してもらおうか!」

「なんだと!?」

 さっきまでとは手の平返したようにストレートな要求だな。
 奪うことに本気だ。目がそう語ってる。

「ここまで来て渡すバカがいるか! やっぱりバカはげだな!」

「一々勘に障る小童よ! ……だが、これを見てもそう言っていられるか?」

「え……!!」

 ヌラリがそう言うと、ベコニアの隣から目が虚ろなクラティウスが現れてた。

「クラティウス!?」

「う~ふ~ふ~。この子はもう善の心を取り戻しちゃったから、私の技で、操り人形になってもらったわ! ……姫様と相思相愛だなんて、腹立たしい!」

「……クラティウスを人質に、オルゴールを渡せ。そういうことか」

 俺がそう聞くと「そうよ!」とベコニアが叫ぶ。

「ど、どうしましょうっ! クラティウスさんが人質なんて!」

 苦しむクラティウスを前にオロオロするブーゲンビリア。
 くそっ……どうすれば……。

「心配いらぬ! 魔界王女キルシュトルテ参上なのじゃ!」

「!?」

 と、ここで第三者の出現。
 振り返るとその先には先程までのキルシュトルテ御一行が。

「ボクもいるよ~」

「もちろん私たちもいますわよ」

「は、はい!」

「おまえら!」

 シュトレン、ユリ、リンツェ……。
 おまえらも来たのか。

「クラティウスのことはわらわたちに任せよ!」

「あの人形遣いの糸を切れば、クラティウスの操りはとけるからね。ボクたちはクラティウスを相手にするから、君たちは闇の生徒会の相手をしてくれるかな?」

「もちろん。……というか、俺らはどう足掻いてもアレの相手をしなくちゃいけないからな」

「……だな」

「エデン君、ず~っとアユミちゃんしか見てないもんね~……」

 言って俺らはエデンに向き直る。
 だって、エデンの奴がギラギラと眼光鋭くして俺を睨んでるし。
 それに対抗してブロッサムが俺を庇うように前に立つしな。

「ドラッケン学園も来たか……ならば、これで始末してくれる」

 エデンは言って指を鳴らした。
 するとどこからか色違いの制服を着た、闇の生徒たちがわらわらと出て来やがった。

「うひゃあ。不良がいっぱいだ!」

「闇の生徒たちは僕たちで食い止めよう!」

「サンキュ、セルシア!」

 闇の生徒たちと戦い始めたセルシアたちに礼を言い、刀と鞘を握り直す。

「ブロッサム、シルフィー! 行くぞ!」

「ああ!」

「はうっ!」

「来い……アユミ!」

 早速斬りかかる。が、安直な攻撃ではもちろん効果は無い。案の定防がれる。

「それで終わりか?」

「まだまだ!」

 刀で剣を受け流し、すかさず横っ面に回し蹴りを叩き込んだ。

 ガシッ。

「……甘いな」

「ぐっ……!」

 が、それも止められてしまった。
 力が強く、足が上がったまま動かない。

「見苦しい抵抗をするな……今楽にしてや――」

「シャイン!」

 バシンッ!

「ぐっ……!?」

 ブロッサムの光魔法がエデンの腕に命中した。
 しかも剣を持っていた方なので、思わず落としてしまいそうになる。

「嘗めるな……!」

「このッ!!」

 だが出来た隙を見逃すほど俺もバカじゃない。
 すかさず膝蹴りを叩き入れ、さらに肘打ちという素早い体術を食らわした。

「よっしゃ!」

「くっ……この程度……!」

「よし! トドメ行け!」

「はーいっ」

 後方で待機し、最大限の威力を放つよう詠唱していたシルフィーに指示を出す。

「バリバリ響け! 雷の鉄槌! トール!」

 武器の本を広げ、片手に雷の魔力を集めると、それをエデンへ向けて一直線へ放った。

「何っ……ぐわぁああああああ!!!」

 ビームのようにして撃った古代魔法トールは、見事エデンに命中した。
 本来広範囲に雷の嵐を放つトールを一つに収束させて撃った為か、防御を簡単にぶっ壊した。

「撃ち方までアレンジするのか」

「勝ったからよくね?」

 成長したな、シルフィー……。
 お母さんは嬉しいよ←

「これで最後じゃ!」

 俺が感激に浸っていると、キルシュがベコニアの糸を剣で断ち切ったらしい。
 倒れるクラティウスをキルシュが抱き留める。

「姫……様……」

「何も申すな、クラティウス。戻ってきてくれて……」

「ありがとう、なのじゃ……」とクラティウスと感動的シーンを見せつけてくださるキルシュ様。

「まあ! 二人とも、ラブラブね!」

「きーっ!! 悔しい悔しい悔しい!! なんで女同士でそんなにラブラブなのよ!」

 ブーゲンビリアが頬を染める中、ベコニアが叫びながらじたんだを踏んでいる。
 ……明らかに嫉妬してやがる。

「ベコニア、おまえさあ……。セルシアのことが好きなら好きって、ちゃんと言ったのか?」

「……そうだな。あのセルシアが、相手が闇の学園に入るくらいひどいフリ方するとは思えないんだけど……」

 疑問に思ったらしいバロータがベコニアにたずねた。
 ……俺もブロッサムの考えに納得する。横暴なのは交流戦以降だから、その前は温厚だと思うんだが(俺限定かもしれないが)。

「ちゃ、ちゃんとラブレター書いたわよ! ラブラブのおまじない人形だって、一緒に入れたんだから!」

「そっ……それを……!」とベコニアは思い出したか、涙声になりながらセルシアに指を突き付けた。

「それなのに無視して! しかも手紙と人形を焼いたでしょ!! 私が一生懸命作ったのに……!」

「や、焼いた!?」

 聞いた内容に驚き、ブロッサムがバッとセルシアの方へ顔を向ける。

「……何の話だ?」

 ……が、聞いた本人は知らないらしい。
 首を傾げて困っている。

「セルシア……おまえ、受け取ってないのか?」

「僕は何も知らない」

 俺の問いに即答するセルシア。
 ……ホントに、何も知らないのか……?

「しらばっくれないでよ! そこの執事にちゃんと渡したんだからね!」

 そう叫んでベコニアが指さしたのは――。

「……マジ? フリージア」

 セルシアの執事、フリージアだった。

「たしかにベコニアから怪しい人形と文書を受け取った記憶はありますが……」

 一応頷き、「まさか……あれが……?」とぶつぶつつぶやいてる。
 どうやら心当たりがあるらしいな。

「……なあフリージア。おまえ……それどうしたんだ?」

 ブロッサムが恐る恐るって感じにフリージアにたずねた。
 フリージアは眼鏡を指で直し、一言。

「セルシア様に何かあったら大変ですので、浄化の魔法で焼却処分にしました」

 ――刹那。俺たちの間で石化が起こった。
 全員、数秒間無言になる。

「それって~……。ベコニアちゃんの気持ちは、セルシア君に伝わってすらなかったってこと~?」

「……ということになるな」

 シルフィーがあたふたとベコニアとフリージアを見ながら、誰に言う訳でもなくぽつりとつぶやいた。
 とりあえずその問いに頷いておく俺。

「な、なんですって……!!? きーっ!! そこのメガネ!」

 真相を知ったベコニアがフリージアを睨みつけた。
 それはもう恐ろしい、鬼のような顔で。

「アンタ、ヤキモチを妬いたのね! セルシアを取られるのが嫌で邪魔をっ!」

「……失礼なことを言わないでください。アユミさんならまだしも、あなたなど敵ではありません。ブロッサムと同じくらいに」

「それどういう意味!?」

 ベコニアの言葉に気が触ったか、フリージアがいつになく好戦的だ。
 それでいてさりげなくブロッサムにダメージを与えるのだからさすがだろう。

「おお!? なんか、火花が散ってる!?」

「きゃあっ。セルシアさんを廻る、愛の戦い!?」

「ま、フリージアの奴なら、中身を読んで故意に処分したって可能性も――いや、ゲフンゲフン!」

 それを見て好き勝手言い出すレオ、ブーゲンビリア、バロータ。
 つかバロータ……いくらなんでもそれはあるわけ……ねぇ、よな……?

「ベコニア! 僕に話があるなら聞こう! だから、プリシアナ学院に戻るんだ!」

「そ、そんなこと今更……! な、何よ……セルシア。アンタ……私が好きなの?」

 そうこうしてる内にセルシアがベコニアの説得にかかった。
 おお……効果てきめんか? ベコニアが「それなら、特別に戻ってやっても――い、いいわよ!?」って……これなら……!

「いや! 君には特別な感情はない! だが、話は聞く!」

「んなっ!!?」

 セルシアァアアアッ!!!
 おまえ、なんてことを!! せっかく労せずして一人潰せるところだったのにっっっ!!!

「せ、セルシア……」

「ありゃりゃ……セルシアに恋愛の機微は難しいのかねぇ」

「天然の時点でアウトだろ、それは……」

 天然タイプほど他人からの好意に疎い奴はいねぇよ……。

「……? 僕は何か悪いことを言ったか?」

「いいえ。セルシア様の忽然とした態度はご立派でございます」

 セルシアの疑問を打ち消すようにフリージアが笑みを浮かべながら言った。
 それはもうとんでもなく素晴らしい、勝ち誇った笑顔で←

「あははー。二回もフラれてやんの。こりゃおかしい」

「れ、レオ。その辺にした方が~……」

 ケラケラ笑ってるレオにシルフィーが怯えながら止めに入る。
 ……が、すでに遅い。

「お・ま・え・ら~!! うっきーっ!! 絶対に、ぜーったいに許さないんだからあっ!!」

 ああ……ベコニアが完全にキレた。
 もう説得なんて通用しないだろうな……。

「待つんだベコニア! 何をそんなに怒ってるんだ!?」

「おまえのせいだよ! 半分近く!」

「……僕が?」

「わかって! お願いだからわかってあげて!」

 わからないセルシアに悲鳴のようなツッコミを入れるブロッサム。
 とはいえ天然セルシア様は理解できないご様子。

「もう……ダメだな……」

「ああ……水の泡だ……」

 事態が悪化したことに、バロータと俺は同時にため息をつくんだった。

「最終兵器でアンタたちをメッタメタにしてやるんだからね! 行きましょう! エデン生徒会長!!」

「アレを始動させるのか……それもいいだろう」

「! 逃げるのか!?」

 去ろうとするエデンに叫ぶ俺。
 いや、むしろ逃げて! そしてしばらく来ないで!←

「今はまだ決着の時でないというだけだ。……心配しなくても、じきに僕から片付けに行ってやる」

「全力で拒否したい宣告だな!」

 俺に薄ら笑いを向けるエデンに叫び返す。
 エデンは特に気にせず、ベコニアと一緒にモーディアル学園に走ってったけどな。
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