二つの光の末裔
「……さて。どうする? 言っとくが、こっちはまだ余裕あるぞ?」
「く……悔しい……!」
ジャコツがわなわなと震える。
が、それを「気にするでない」とヌラリが抑えた。
「これもまた計画通り。ウィンターコスモスの者とノイツェシュタインの者を引き合わせるがこの度の役目……」
「……は?」
ウィンターコスモスとノイツェシュタインを……?
薄く笑うヌラリに、スティクスもやれやれと両手を上げる。
「仲間ながら気味の悪い奴だね」
「まあいい」とスティクスが踵を返した。
「間もなく決着の時が訪れる。急ぐ必要もない」
「決着? どういう意味だ!?」
ブロッサムの問い掛けにも「すぐにわかるさ」とわずかに振り向くだけだ。
「次に会う時は……“闇の学園”の前でね」
そういうと再び現れる闇の空間。三人はそれに入り、そのまま姿を消していった。
「“闇の学園”って……この先に闇の学園があるの?」
「彼らの言う通りなら、そうでしょうね」
俺らの視線は結界の奥へ向けられた。
この先に闇の学園――決戦の地があるんだろうな。
「……のう」
それぞれが思い思いに見ていると、キルシュが恐る恐る俺らに話し掛けてきた。
いつの間に出したのか、古びた本を片手に持っている。
「それは?」
「これは“始原の系譜”。我が王家に隠されていたある歴史書じゃ」
「隠されていた?」
聞き返すと「うにゅ……」と独特の唸り声で頷いた。
「少し長い話になるがの……聞いてくれるか?」
「……というか、必要だから聞かなきゃダメなんだろ?」
「ですわ。時として真実を聞き、受け止めなければなりませんから」
俺の問いに頷くユリ。
それからして、キルシュが歴史書片手に話し出す。
「コホン……そもそもクラティウスが闇の生徒会におるのは、ノイツェシュタイン家の秘密を守るためなのじゃ」
「ノイツェシュタイン家の秘密、ですか?」
フリージアの言葉に「うむ」とキルシュが頷きながら話を続ける。
「わらわの祖先、初代ノイツェシュタイン王が大魔道士アガシオンを倒し、最初の王となったことは、そなたらも知っておろう」
「ああ。というか、それは世間一般の常識だからな」
最低限の歴史くらい、誰だって知っている。
それも含めて頷いてみせた。
「……じゃが、の……その言い伝えには偽りがあったのじゃ」
「? どういうことなんだ?」
セルシアたちが首を傾げる。
……が、俺とブロッサムには思い当たるものがあった。
「大魔道士アガシオンは倒されていない。そういうことか?」
「! 知ってるのか?」
「知ってるっつーか……アユミの命を狙ってるのはアガシオン本人だからな」
「え!? そうなの!?」
これにはブロッサム以外の全員が驚いた。
まあそうだけどな。
「まあ、さすがに潜伏先までは知らないけど……」
「……いや、多分……」
ここで口を挟んだのはブロッサムだった。
一呼吸置いてから、目の前のキルシュにたずねる。
「潜伏先はノイツェシュタイン王家、だろ? つか、築き上げた奴そのものがアガシオン本人……じゃないのか?」
「なんでそなたはそんなに勘が鋭いのじゃ。……その通りじゃ」
再び驚く俺たち。
……というか、ブロッサムの勘もすごくないか?←
「……あれ? って言うことは……キルシュちゃんのご先祖様って……」
「うむ……アガシオン、ということになる……」
シルフィーのつぶやきに、苦々しくキルシュが頷いた。
「!!」
「そ……んなっ」
「それじゃあ、キルシュの家は悪者の家なのか!?」
「レオ!」
「……そのアホの子の言う通りじゃ。わらわは憎きアガシオンの子孫……」
レオの言葉にキルシュが一瞬悲しそうな顔をする。
「そなたたちも憎く思うか?」といつも自信家の彼女が恐る恐るたずねるくらいに。
「…………」
その言葉に、全員が押し黙る。
「関係ねぇだろ?」
「関係ないんじゃないか?」
「関係ないと思うな~」
それをあっさり否定したのは、俺たちのパーティだった。
同時に三発言したことから、全員の視線が俺に集まる。
「祖先がアガシオンだろうが、キルシュはキルシュだろ? 違うか?」
「俺も同意見だ。昔なんて関係ない」
「キルシュちゃんが悪い人だなんて思ってないよ~」
正直な気持ちを言う。
俺は元から気にしてないし、ブロッサムも過去の自分あっての言葉だから説得力あった。
シルフィーもキルシュが悪い奴じゃないとわかっている。
「……僕もだ」
ここでセルシアも俺らの言葉に肯定してきた。
「祖先が何者であろうと、今のノイツェシュタインが立派な王家であることは間違いないと思う。あなたが高貴な生まれである、ということも変わりないはずだ。キルシュトルテ王女殿下」
「左様でございます」
セルシアとフリージアがキルシュの前で片膝をついた。
キルシュも目を丸くしながらそれを見ている。
「そうだよ! だって祖先って言ったら、すごーい昔の人の話でしょ? それとキルシュは関係ないとボクも思うな!」
レオも素直な気持ちを言う。
その後「キルシュが立派かどうかは別の問題だと思うけど……」といらんことまで言っているが。
「もう、レオったら。でも、私も同じ意見よ。キルシュトルテさんは関係ないわ」
「そうそう! だってキルシュさんも知らなかったんでしょ? 知らないことの責任まで持てないよね」
「祖先とか末裔とか、普通の奴らはそんなことまで気にしねぇよ」
ブーゲンビリアもチューリップもバロータも頷く。
キルシュトルテが、ノイツェシュタイン王家が悪い物ではないことは知っているから。
「その言葉を聞いたら、クラティウスも喜ぶじゃろう……」
安心したのか、キルシュに小さいながら笑顔が戻った。
「クラティウスさん……このことを表沙汰にすると脅されて、闇の生徒会に身を堕としたんです……」
「さらに言えば、背後には力を取り戻しつつあるアガシオンがついていますわ」
「あの野郎……」
卑怯な奴。刀を握る手に思わず力が入ってしまう。
「話を本筋に戻そう。セルシア、ブロッサム。そなたらの祖先、初代ウィンターコスモスはの……大魔道士アガシオンを倒そうとし敗北しておる」
「……だろう、な」
「…………」
予想はしていたが、やはりショックらしいな……特にセルシアはわかりやすいほどに。
「じゃが、それはただの敗北ではない。初代ウィンターコスモスはその身を犠牲にし、アガシオンから闇の魔力を奪ったのじゃ」
「あ……だから、アガシオンはノイツェシュタイン王家を作ったの? 身を隠す為に……」
「その通りじゃ」
「それでは……っ」
シルフィーの言葉にフリージアとセルシアに希望が生まれた。
「そなたの祖先は世界を救った立派な英雄じゃ。このノイツェシュタイン王家第一王女であるわらわが保証しよう」
「……!」
「キルシュ……ありがと、な」
「ほほほ。よいのじゃ、よいのじゃ。これもまたやんごとなき生まれの者の使命。冒険の記録には残すのじゃぞ?」
セルシアが元気になったのが嬉しいみたく、ブロッサムが小さく礼を言った。
キルシュ……おまえも成長したな、うん←
「……あ。けどよ。それじゃあ、なんでセルシアとブロッサムはオルゴールを鳴らせないんだ? ブロッサムは途中で鳴ったけど、完全じゃねぇし……」
バロータの疑問が突き刺さった。そういやそうだったな……すっかり忘れてた←
「二人が光のセレスティアの末裔で間違いないんだろ?」
「それなんじゃが……セルシア、ブロッサム」
キルシュが二人に向き直り、真っ正面から見据える。
「く……悔しい……!」
ジャコツがわなわなと震える。
が、それを「気にするでない」とヌラリが抑えた。
「これもまた計画通り。ウィンターコスモスの者とノイツェシュタインの者を引き合わせるがこの度の役目……」
「……は?」
ウィンターコスモスとノイツェシュタインを……?
薄く笑うヌラリに、スティクスもやれやれと両手を上げる。
「仲間ながら気味の悪い奴だね」
「まあいい」とスティクスが踵を返した。
「間もなく決着の時が訪れる。急ぐ必要もない」
「決着? どういう意味だ!?」
ブロッサムの問い掛けにも「すぐにわかるさ」とわずかに振り向くだけだ。
「次に会う時は……“闇の学園”の前でね」
そういうと再び現れる闇の空間。三人はそれに入り、そのまま姿を消していった。
「“闇の学園”って……この先に闇の学園があるの?」
「彼らの言う通りなら、そうでしょうね」
俺らの視線は結界の奥へ向けられた。
この先に闇の学園――決戦の地があるんだろうな。
「……のう」
それぞれが思い思いに見ていると、キルシュが恐る恐る俺らに話し掛けてきた。
いつの間に出したのか、古びた本を片手に持っている。
「それは?」
「これは“始原の系譜”。我が王家に隠されていたある歴史書じゃ」
「隠されていた?」
聞き返すと「うにゅ……」と独特の唸り声で頷いた。
「少し長い話になるがの……聞いてくれるか?」
「……というか、必要だから聞かなきゃダメなんだろ?」
「ですわ。時として真実を聞き、受け止めなければなりませんから」
俺の問いに頷くユリ。
それからして、キルシュが歴史書片手に話し出す。
「コホン……そもそもクラティウスが闇の生徒会におるのは、ノイツェシュタイン家の秘密を守るためなのじゃ」
「ノイツェシュタイン家の秘密、ですか?」
フリージアの言葉に「うむ」とキルシュが頷きながら話を続ける。
「わらわの祖先、初代ノイツェシュタイン王が大魔道士アガシオンを倒し、最初の王となったことは、そなたらも知っておろう」
「ああ。というか、それは世間一般の常識だからな」
最低限の歴史くらい、誰だって知っている。
それも含めて頷いてみせた。
「……じゃが、の……その言い伝えには偽りがあったのじゃ」
「? どういうことなんだ?」
セルシアたちが首を傾げる。
……が、俺とブロッサムには思い当たるものがあった。
「大魔道士アガシオンは倒されていない。そういうことか?」
「! 知ってるのか?」
「知ってるっつーか……アユミの命を狙ってるのはアガシオン本人だからな」
「え!? そうなの!?」
これにはブロッサム以外の全員が驚いた。
まあそうだけどな。
「まあ、さすがに潜伏先までは知らないけど……」
「……いや、多分……」
ここで口を挟んだのはブロッサムだった。
一呼吸置いてから、目の前のキルシュにたずねる。
「潜伏先はノイツェシュタイン王家、だろ? つか、築き上げた奴そのものがアガシオン本人……じゃないのか?」
「なんでそなたはそんなに勘が鋭いのじゃ。……その通りじゃ」
再び驚く俺たち。
……というか、ブロッサムの勘もすごくないか?←
「……あれ? って言うことは……キルシュちゃんのご先祖様って……」
「うむ……アガシオン、ということになる……」
シルフィーのつぶやきに、苦々しくキルシュが頷いた。
「!!」
「そ……んなっ」
「それじゃあ、キルシュの家は悪者の家なのか!?」
「レオ!」
「……そのアホの子の言う通りじゃ。わらわは憎きアガシオンの子孫……」
レオの言葉にキルシュが一瞬悲しそうな顔をする。
「そなたたちも憎く思うか?」といつも自信家の彼女が恐る恐るたずねるくらいに。
「…………」
その言葉に、全員が押し黙る。
「関係ねぇだろ?」
「関係ないんじゃないか?」
「関係ないと思うな~」
それをあっさり否定したのは、俺たちのパーティだった。
同時に三発言したことから、全員の視線が俺に集まる。
「祖先がアガシオンだろうが、キルシュはキルシュだろ? 違うか?」
「俺も同意見だ。昔なんて関係ない」
「キルシュちゃんが悪い人だなんて思ってないよ~」
正直な気持ちを言う。
俺は元から気にしてないし、ブロッサムも過去の自分あっての言葉だから説得力あった。
シルフィーもキルシュが悪い奴じゃないとわかっている。
「……僕もだ」
ここでセルシアも俺らの言葉に肯定してきた。
「祖先が何者であろうと、今のノイツェシュタインが立派な王家であることは間違いないと思う。あなたが高貴な生まれである、ということも変わりないはずだ。キルシュトルテ王女殿下」
「左様でございます」
セルシアとフリージアがキルシュの前で片膝をついた。
キルシュも目を丸くしながらそれを見ている。
「そうだよ! だって祖先って言ったら、すごーい昔の人の話でしょ? それとキルシュは関係ないとボクも思うな!」
レオも素直な気持ちを言う。
その後「キルシュが立派かどうかは別の問題だと思うけど……」といらんことまで言っているが。
「もう、レオったら。でも、私も同じ意見よ。キルシュトルテさんは関係ないわ」
「そうそう! だってキルシュさんも知らなかったんでしょ? 知らないことの責任まで持てないよね」
「祖先とか末裔とか、普通の奴らはそんなことまで気にしねぇよ」
ブーゲンビリアもチューリップもバロータも頷く。
キルシュトルテが、ノイツェシュタイン王家が悪い物ではないことは知っているから。
「その言葉を聞いたら、クラティウスも喜ぶじゃろう……」
安心したのか、キルシュに小さいながら笑顔が戻った。
「クラティウスさん……このことを表沙汰にすると脅されて、闇の生徒会に身を堕としたんです……」
「さらに言えば、背後には力を取り戻しつつあるアガシオンがついていますわ」
「あの野郎……」
卑怯な奴。刀を握る手に思わず力が入ってしまう。
「話を本筋に戻そう。セルシア、ブロッサム。そなたらの祖先、初代ウィンターコスモスはの……大魔道士アガシオンを倒そうとし敗北しておる」
「……だろう、な」
「…………」
予想はしていたが、やはりショックらしいな……特にセルシアはわかりやすいほどに。
「じゃが、それはただの敗北ではない。初代ウィンターコスモスはその身を犠牲にし、アガシオンから闇の魔力を奪ったのじゃ」
「あ……だから、アガシオンはノイツェシュタイン王家を作ったの? 身を隠す為に……」
「その通りじゃ」
「それでは……っ」
シルフィーの言葉にフリージアとセルシアに希望が生まれた。
「そなたの祖先は世界を救った立派な英雄じゃ。このノイツェシュタイン王家第一王女であるわらわが保証しよう」
「……!」
「キルシュ……ありがと、な」
「ほほほ。よいのじゃ、よいのじゃ。これもまたやんごとなき生まれの者の使命。冒険の記録には残すのじゃぞ?」
セルシアが元気になったのが嬉しいみたく、ブロッサムが小さく礼を言った。
キルシュ……おまえも成長したな、うん←
「……あ。けどよ。それじゃあ、なんでセルシアとブロッサムはオルゴールを鳴らせないんだ? ブロッサムは途中で鳴ったけど、完全じゃねぇし……」
バロータの疑問が突き刺さった。そういやそうだったな……すっかり忘れてた←
「二人が光のセレスティアの末裔で間違いないんだろ?」
「それなんじゃが……セルシア、ブロッサム」
キルシュが二人に向き直り、真っ正面から見据える。