中央大陸到着
――――
アユミSide
「……やっぱり、知らないか」
「うん……残念ながら」
「あの野郎……ッ!!」
額に青筋が浮かび上がり、血圧が上がっていくのを感じた。
北と南のポイントにあるセレスティアの石像からシリンダーを手に入れ、現在俺らは東のポイントにいる。
北ではジャコツとペット(?)の蛇に襲われたが、俺の白刃一閃とブロッサムのウィスプで難無く撃破出来た。
……が。肝心のシルフィーが未だに見つからなかった。
マジでどこ行きやがったんだ、あいつは!!
「何とかして生け捕りにしないと……」
「生け捕りって……動物じゃあるまいし」
ブロッサムのツッコミもそこそこに、その場で行ったり来たりを繰り返す。
シルフィーがいないのは正直辛い。あいつはなんだかんだで魔法の腕前は最強だからな。たとえヘタレだろうがあいつも仲間だ。
……だが。
「なんでこんな時に……ッ!!」
……額の血管が切れていく音が聞こえた気がした。
なにせ怒りでそこら辺一帯を破壊したい衝動を抑えるのに必死だ。
「じゃあそこら辺で怒りの叫びでもあげろよ。奴なら泣いて返事するんじゃねぇの?」
「だからなんでわかったんだよ!! ……案は採用するけど」
どうしてブロッサムはこんなに勘がいいんだよ!
何? 読心術でも使えるのか!? それとも俺の顔に出てるとでも!!?
「……はあ」
まあ怒りが溜まってるのは事実なので、早速俺に溜まった怒りを吐き出そうと全員から少し離れた。
「……おまえら。死にたくなかったら耳を塞げ」
「え? なんで?」
「いいから。すぐにわかるから」
「? よくわからないけど……とりあえずみんな、耳を塞ごうか」
後ろの方では外野がガタガタ言ってるが、気にせず息を整える。
そして、
「シルフィー――とっとと出て来ねぇと痛いだけの仕置きじゃすまねぇぞゴルァアアアアアアッ!!!」
「びぇえええッ!!! ごめんなさぁあああいっ!!!」
キーーーー……ンッ!!!
「ぐぉおおお……ッ!!?」
「ひゃああああっ!!?」
「ぐぅ……ッ!?」
二つの大声が空洞内でものすごくハウリングし、外野の皆さんが耳を押さえて悶絶した。
……ん? 待て、二つ?
「……ブロッサム。今、ハウリングしたの、二つだったよな?」
「痛てぇ……あー……そういえば……?」
「ってことは……」
周囲をキョロキョロと見回す。
すると洞窟の角に、見知らぬノームと見慣れたフェアリーの二人。
「あっ! シルフィー!」
「すげえな……ホントに出てきたぞ……」
「え……俺、最後適当だったのに……」
「え、適当だったのか? てっきりアユミとシルフィネスト君を理解しての発言かと……」
「セルシア様……それは……」
後ろで男性陣(ブーゲンビリア除く)がまた何か言ってるが、俺の耳には入って来なかった。
「ごめんなさい! もう迷子にならないから! もうはぐれないからぶたないでぇえええ!!!」
「シルフィー~~~……ッ!!」
怒りで肩がぶるぶると震え、一発頭に拳を落とそうかと大股で詰め寄っていく。
……ザッ。
「……あ?」
「…………」
……何の真似だ?
色違いのプリシアナ制服を着たノームの小娘が、なぜか俺とシルフィーの間に無表情で割り込んできた。
いや、つねに無表情だけどね←
「おい、いったい何を……」
「……いじめる?」
「……は?」
いじめる……誰を?
「シルフィー……いじめる?」
「シルフィーを?」
え、なんでそーいう流れになってんの? ってかおまえ闇の生徒会じゃないの? つかシルフィーとどーいう関係?
俺の頭の中には走馬灯のごとくそんな考えが頭を過ぎった。
「誰だが知らんが、おまえには関係ないだろ。安心しろ、シルフィーは頭にたんこぶのタワーができる程度に殴り掛かるだけだから」
「安心できないし、おまえおとなげないんだけど!?」
ブロッサムのツッコミもどこ吹く風。
つまり無視を決め込みながらノームを睨む。
「シルフィー、私を守るって言った。……守ってくれる人は、同じように守ってやりなさいって、ネメシアの教え?」
「答えになってねぇよ」
「大切な人なら死んでも守れ、とも言ってた」
「出会ってまだ一日も経ってねぇし」
「シルフィー、傷つけるの、ダメ」
「…………」
……理由はよくわからんが、どうやらこいつとシルフィーは何かしらあったらしい。
この小娘、いたく俺を敵視している。
「……知るか。とにかく説教だけはしないと――」
無視して、とりあえずシルフィーに説教を開始しようと近寄った。
「……!!」
「のわっ……!?」
「ライラちゃん!?」
瞬間、身体が一気に引っ張られた。
即受け身を取って体勢を整えたが、瞬速の速さで蹴りが襲いかかってきた。
「ぐっ!?」
「…………」
「アユミ!?」
とっさに腕で防御した。……はいいが、この小娘――ライラ? の蹴りがあまりにも強かった。
……要するに……。
「……ビリビリする」
「……シルフィー……守る」
「……どうやって口説かれたんだが」
ライラは無表情のまま、だけど即座にアッパーカットを放ってきた。
避けるはいいが、そこに手刀が襲いかかってくる。
手慣れた鋭い動きに抜刀する暇がない。
「おいおい……まさかあの娘、格闘家学科か!?」
「え? でもあの娘……どう見てもノームだよね?」
動揺が走るバロータとチューリップ。
土の精霊を祖とするノームは知恵と精神に優れた種族。さらに本来は実態を持たない精神体を依代たる機械の体に魂を移している。
故に大部分は魔術系学科に所属しているから他の、まして前衛の戦術系学科に所属することはほとんどいないんだ。
……目の前の小娘は格闘家という戦術系学科だけど。
「ホント……ッ! 闇の生徒会って何でもアリだなッ!!」
腕の痺れに耐えながら、手刀や拳をかわし、こっちも蹴りや鞘と言った打撃攻撃を開始する。
「はっ!」
「この……ッ!」
お互い蹴りを交え、その後大きく距離を取る。
先程よりいくらか表情が現れたライラはまっすぐな目で俺を睨み返してきた。
「……嘗めてたな」
闇の生徒会に所属しているだけはある。
隙のない体術に圧倒されたし、右腕も未だびりびりに痺れて使えない。
「シルフィー……守る」
「調子に乗るのも今のうちだ、コノヤロー」
おのれ、小娘……!!
キッと睨み返し、バチバチと火花を散らす。
「……おい。ちょっと待て」
ここでブロッサムが声をかけてきた。
……なんだよ、いったい。
「あのよ……べつに殴り合いする必要ないんじゃ……」
……………………。
「そういやそうだな」
「うん」
「あっさり頷いたぁあああ!!」
俺とライラはあっさり頷き、その場で構えを解いた。
あっさり事態が解決したことに、ブロッサムのツッコミが響き渡る。
「まあ向こうが仕掛けてきただから、ついムキになって反撃しちゃったし」
「仕掛けてきた……攻撃されると止まらないから?」
「だからって何も10分も殴り合わなくても!?」
「ライラちゃん、大丈夫?」
高速ツッコミが飛び交う中、シルフィーはてこてことライラに近寄った。
……ホントに敵じゃないのか? この小娘。
「シルフィネスト君。彼女は?」
「ライラちゃんだよー。闇の生徒会の人」
「の割には、なんかやけにフレンドリーだな」
バロータのツッコミに一斉に頷いた。
ライラの目的は宝具じゃない。あくまでシルフィーを守ること、だ。
他の連中のように危険性はそれほど感じられない。
「シルフィーさん。なぜ彼女と?」
「迷子になってた時に会ったんだよ。お花畑の様子を見に行きたかったんだって」
「花畑って……こんな洞窟に?」
チューリップが首を傾げる。
この洞窟は地下だ。さらに言えばここの地質は水晶に近い。花が育つとは思えない。
「奥の方にあるんだよ。兄ちゃんとネメシアさんが、育てやすい環境にしてくれたみたいなんだ」
「……ディームとネメシアが?」
これはまた意外な組み合わせが出てきたな。俺だけじゃなく、全員目を丸くしている。
……あの二人に接点なんかあったっけか?
「ディームは私の恩人だから? ネメシアも優しいよ?」
「……ますますわからん」
あの二人の関係が知りたいんだけど。
ただ単にプリシアナ出身の繋がり? ……それとも単に他に相談相手がいないだけ?
「まあ……それは後で聞くか。どうしてここまで一緒に?」
「どうしてここまで……みんなのところに帰りたいけど、地図読めなくてどう行けばいいかわからないと、困ってたから?」
「……読めないのか?」
だからこいつに助けを?
そしてその情報初耳なんですけど!?
「困ってたらライラちゃんが送ってくれるって言ってくれたんだ~。おかげで助かったよぉ」
「おかげで助かった……どういたしました?」
「……おまえ、闇の生徒会だろ。いいのか、俺らを助けて」
「助けていいか……特に命令は出てないから?」
……いいのか、そんなんで。
「まあいいや……で? おまえ、これからどうするの?」
「これから?」
「俺らはシリンダーを手に入れた。これからあの魔法陣をぶっ壊して先に進む。おまえは闇の生徒会で、戦わなきゃならないんじゃないか?」
入った理由は知らないが、こいつも闇の生徒会。
シルフィーを助けたのは今は命令がないから(これも怪しいもんだが)で、本来は敵同士だ。
「私は……居場所があればいいから」
「居場所……?」
「そろそろ戻らないと、ディームが心配するから。バイバイ、シルフィー」
「あ! ライラちゃ――」
シルフィーに小さく手を振った後、颯爽と走り去っていった。
……なんだ? さっき、嫌に表情が無かったような……。
「あ……行っちゃった」
「何だが、ちょっと変わったコだったわね」
「変わったっていうか、変な奴って感じだけど」
レオパーティそれぞれの感想。
たしかにくせ者揃いの闇の生徒会に比べたら変わってるが……。
「……何かひっかかるか?」
「まあな」
例のごとく俺の心を読んだブロッサム。
……もうこいつの勘にツッコミはやめておこう。
「何かはわからんがな……それより」
「み?」
言って、シルフィーに近寄る。
ゴンッ!!!
「ぎゃふんっ!?」
「とりあえずこれで許してやる」
シルフィーの頭に一発拳を落とす。
散々引っ掻き回しやがって……!!
「今……スゲー音したぞ……?」
「力加減はしたつもりだがな」
「やれやれ……アユミは容赦ないな」
セルシアが苦笑……に見せかけて、面白そうに俺を見ていた。
こいつはこいつで何考えてんだが……。
「……まあいい。後でじ~~~っくり聞いてやる。……な?」
「ひぃ~ん……」
「うわあ……アユミの方が悪役面だ……」
レオのつぶやきは全員の思考と一緒らしい。
皆一様に同じ表情をしていた。
「どうでもいいわ! それより、行くか?」
シリンダーは完成したんだ。
後は魔法陣の解除をするだけ。
「そうだな。ここで喋っていても仕方がない」
「よーし! いよいよ、突入だあ!」
全員の意見が一致した。
まだライラのことは気になるが、闇の生徒会に所属しているなら、きっとまた会えるはずだ。
「じゃ、行くぞ!」
「ああ」
「よし! ライラちゃんと兄ちゃんの為にも、頑張るぞぉ!」
俺らにも異論はない。
全員士気を上げ、再び歩き始めた。
――――
きっとまた会える。
敵同士ならなおさら。
アユミSide
「……やっぱり、知らないか」
「うん……残念ながら」
「あの野郎……ッ!!」
額に青筋が浮かび上がり、血圧が上がっていくのを感じた。
北と南のポイントにあるセレスティアの石像からシリンダーを手に入れ、現在俺らは東のポイントにいる。
北ではジャコツとペット(?)の蛇に襲われたが、俺の白刃一閃とブロッサムのウィスプで難無く撃破出来た。
……が。肝心のシルフィーが未だに見つからなかった。
マジでどこ行きやがったんだ、あいつは!!
「何とかして生け捕りにしないと……」
「生け捕りって……動物じゃあるまいし」
ブロッサムのツッコミもそこそこに、その場で行ったり来たりを繰り返す。
シルフィーがいないのは正直辛い。あいつはなんだかんだで魔法の腕前は最強だからな。たとえヘタレだろうがあいつも仲間だ。
……だが。
「なんでこんな時に……ッ!!」
……額の血管が切れていく音が聞こえた気がした。
なにせ怒りでそこら辺一帯を破壊したい衝動を抑えるのに必死だ。
「じゃあそこら辺で怒りの叫びでもあげろよ。奴なら泣いて返事するんじゃねぇの?」
「だからなんでわかったんだよ!! ……案は採用するけど」
どうしてブロッサムはこんなに勘がいいんだよ!
何? 読心術でも使えるのか!? それとも俺の顔に出てるとでも!!?
「……はあ」
まあ怒りが溜まってるのは事実なので、早速俺に溜まった怒りを吐き出そうと全員から少し離れた。
「……おまえら。死にたくなかったら耳を塞げ」
「え? なんで?」
「いいから。すぐにわかるから」
「? よくわからないけど……とりあえずみんな、耳を塞ごうか」
後ろの方では外野がガタガタ言ってるが、気にせず息を整える。
そして、
「シルフィー――とっとと出て来ねぇと痛いだけの仕置きじゃすまねぇぞゴルァアアアアアアッ!!!」
「びぇえええッ!!! ごめんなさぁあああいっ!!!」
キーーーー……ンッ!!!
「ぐぉおおお……ッ!!?」
「ひゃああああっ!!?」
「ぐぅ……ッ!?」
二つの大声が空洞内でものすごくハウリングし、外野の皆さんが耳を押さえて悶絶した。
……ん? 待て、二つ?
「……ブロッサム。今、ハウリングしたの、二つだったよな?」
「痛てぇ……あー……そういえば……?」
「ってことは……」
周囲をキョロキョロと見回す。
すると洞窟の角に、見知らぬノームと見慣れたフェアリーの二人。
「あっ! シルフィー!」
「すげえな……ホントに出てきたぞ……」
「え……俺、最後適当だったのに……」
「え、適当だったのか? てっきりアユミとシルフィネスト君を理解しての発言かと……」
「セルシア様……それは……」
後ろで男性陣(ブーゲンビリア除く)がまた何か言ってるが、俺の耳には入って来なかった。
「ごめんなさい! もう迷子にならないから! もうはぐれないからぶたないでぇえええ!!!」
「シルフィー~~~……ッ!!」
怒りで肩がぶるぶると震え、一発頭に拳を落とそうかと大股で詰め寄っていく。
……ザッ。
「……あ?」
「…………」
……何の真似だ?
色違いのプリシアナ制服を着たノームの小娘が、なぜか俺とシルフィーの間に無表情で割り込んできた。
いや、つねに無表情だけどね←
「おい、いったい何を……」
「……いじめる?」
「……は?」
いじめる……誰を?
「シルフィー……いじめる?」
「シルフィーを?」
え、なんでそーいう流れになってんの? ってかおまえ闇の生徒会じゃないの? つかシルフィーとどーいう関係?
俺の頭の中には走馬灯のごとくそんな考えが頭を過ぎった。
「誰だが知らんが、おまえには関係ないだろ。安心しろ、シルフィーは頭にたんこぶのタワーができる程度に殴り掛かるだけだから」
「安心できないし、おまえおとなげないんだけど!?」
ブロッサムのツッコミもどこ吹く風。
つまり無視を決め込みながらノームを睨む。
「シルフィー、私を守るって言った。……守ってくれる人は、同じように守ってやりなさいって、ネメシアの教え?」
「答えになってねぇよ」
「大切な人なら死んでも守れ、とも言ってた」
「出会ってまだ一日も経ってねぇし」
「シルフィー、傷つけるの、ダメ」
「…………」
……理由はよくわからんが、どうやらこいつとシルフィーは何かしらあったらしい。
この小娘、いたく俺を敵視している。
「……知るか。とにかく説教だけはしないと――」
無視して、とりあえずシルフィーに説教を開始しようと近寄った。
「……!!」
「のわっ……!?」
「ライラちゃん!?」
瞬間、身体が一気に引っ張られた。
即受け身を取って体勢を整えたが、瞬速の速さで蹴りが襲いかかってきた。
「ぐっ!?」
「…………」
「アユミ!?」
とっさに腕で防御した。……はいいが、この小娘――ライラ? の蹴りがあまりにも強かった。
……要するに……。
「……ビリビリする」
「……シルフィー……守る」
「……どうやって口説かれたんだが」
ライラは無表情のまま、だけど即座にアッパーカットを放ってきた。
避けるはいいが、そこに手刀が襲いかかってくる。
手慣れた鋭い動きに抜刀する暇がない。
「おいおい……まさかあの娘、格闘家学科か!?」
「え? でもあの娘……どう見てもノームだよね?」
動揺が走るバロータとチューリップ。
土の精霊を祖とするノームは知恵と精神に優れた種族。さらに本来は実態を持たない精神体を依代たる機械の体に魂を移している。
故に大部分は魔術系学科に所属しているから他の、まして前衛の戦術系学科に所属することはほとんどいないんだ。
……目の前の小娘は格闘家という戦術系学科だけど。
「ホント……ッ! 闇の生徒会って何でもアリだなッ!!」
腕の痺れに耐えながら、手刀や拳をかわし、こっちも蹴りや鞘と言った打撃攻撃を開始する。
「はっ!」
「この……ッ!」
お互い蹴りを交え、その後大きく距離を取る。
先程よりいくらか表情が現れたライラはまっすぐな目で俺を睨み返してきた。
「……嘗めてたな」
闇の生徒会に所属しているだけはある。
隙のない体術に圧倒されたし、右腕も未だびりびりに痺れて使えない。
「シルフィー……守る」
「調子に乗るのも今のうちだ、コノヤロー」
おのれ、小娘……!!
キッと睨み返し、バチバチと火花を散らす。
「……おい。ちょっと待て」
ここでブロッサムが声をかけてきた。
……なんだよ、いったい。
「あのよ……べつに殴り合いする必要ないんじゃ……」
……………………。
「そういやそうだな」
「うん」
「あっさり頷いたぁあああ!!」
俺とライラはあっさり頷き、その場で構えを解いた。
あっさり事態が解決したことに、ブロッサムのツッコミが響き渡る。
「まあ向こうが仕掛けてきただから、ついムキになって反撃しちゃったし」
「仕掛けてきた……攻撃されると止まらないから?」
「だからって何も10分も殴り合わなくても!?」
「ライラちゃん、大丈夫?」
高速ツッコミが飛び交う中、シルフィーはてこてことライラに近寄った。
……ホントに敵じゃないのか? この小娘。
「シルフィネスト君。彼女は?」
「ライラちゃんだよー。闇の生徒会の人」
「の割には、なんかやけにフレンドリーだな」
バロータのツッコミに一斉に頷いた。
ライラの目的は宝具じゃない。あくまでシルフィーを守ること、だ。
他の連中のように危険性はそれほど感じられない。
「シルフィーさん。なぜ彼女と?」
「迷子になってた時に会ったんだよ。お花畑の様子を見に行きたかったんだって」
「花畑って……こんな洞窟に?」
チューリップが首を傾げる。
この洞窟は地下だ。さらに言えばここの地質は水晶に近い。花が育つとは思えない。
「奥の方にあるんだよ。兄ちゃんとネメシアさんが、育てやすい環境にしてくれたみたいなんだ」
「……ディームとネメシアが?」
これはまた意外な組み合わせが出てきたな。俺だけじゃなく、全員目を丸くしている。
……あの二人に接点なんかあったっけか?
「ディームは私の恩人だから? ネメシアも優しいよ?」
「……ますますわからん」
あの二人の関係が知りたいんだけど。
ただ単にプリシアナ出身の繋がり? ……それとも単に他に相談相手がいないだけ?
「まあ……それは後で聞くか。どうしてここまで一緒に?」
「どうしてここまで……みんなのところに帰りたいけど、地図読めなくてどう行けばいいかわからないと、困ってたから?」
「……読めないのか?」
だからこいつに助けを?
そしてその情報初耳なんですけど!?
「困ってたらライラちゃんが送ってくれるって言ってくれたんだ~。おかげで助かったよぉ」
「おかげで助かった……どういたしました?」
「……おまえ、闇の生徒会だろ。いいのか、俺らを助けて」
「助けていいか……特に命令は出てないから?」
……いいのか、そんなんで。
「まあいいや……で? おまえ、これからどうするの?」
「これから?」
「俺らはシリンダーを手に入れた。これからあの魔法陣をぶっ壊して先に進む。おまえは闇の生徒会で、戦わなきゃならないんじゃないか?」
入った理由は知らないが、こいつも闇の生徒会。
シルフィーを助けたのは今は命令がないから(これも怪しいもんだが)で、本来は敵同士だ。
「私は……居場所があればいいから」
「居場所……?」
「そろそろ戻らないと、ディームが心配するから。バイバイ、シルフィー」
「あ! ライラちゃ――」
シルフィーに小さく手を振った後、颯爽と走り去っていった。
……なんだ? さっき、嫌に表情が無かったような……。
「あ……行っちゃった」
「何だが、ちょっと変わったコだったわね」
「変わったっていうか、変な奴って感じだけど」
レオパーティそれぞれの感想。
たしかにくせ者揃いの闇の生徒会に比べたら変わってるが……。
「……何かひっかかるか?」
「まあな」
例のごとく俺の心を読んだブロッサム。
……もうこいつの勘にツッコミはやめておこう。
「何かはわからんがな……それより」
「み?」
言って、シルフィーに近寄る。
ゴンッ!!!
「ぎゃふんっ!?」
「とりあえずこれで許してやる」
シルフィーの頭に一発拳を落とす。
散々引っ掻き回しやがって……!!
「今……スゲー音したぞ……?」
「力加減はしたつもりだがな」
「やれやれ……アユミは容赦ないな」
セルシアが苦笑……に見せかけて、面白そうに俺を見ていた。
こいつはこいつで何考えてんだが……。
「……まあいい。後でじ~~~っくり聞いてやる。……な?」
「ひぃ~ん……」
「うわあ……アユミの方が悪役面だ……」
レオのつぶやきは全員の思考と一緒らしい。
皆一様に同じ表情をしていた。
「どうでもいいわ! それより、行くか?」
シリンダーは完成したんだ。
後は魔法陣の解除をするだけ。
「そうだな。ここで喋っていても仕方がない」
「よーし! いよいよ、突入だあ!」
全員の意見が一致した。
まだライラのことは気になるが、闇の生徒会に所属しているなら、きっとまた会えるはずだ。
「じゃ、行くぞ!」
「ああ」
「よし! ライラちゃんと兄ちゃんの為にも、頑張るぞぉ!」
俺らにも異論はない。
全員士気を上げ、再び歩き始めた。
――――
きっとまた会える。
敵同士ならなおさら。