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中央大陸到着

「この気配……!」

「まさか……!」

 感じたことのある闇を感知した俺とブロッサムがバッと振り返る。

「――ようやく会えたな。アユミ……!」

「……エデン……!」

 何度も、数え切れないほど感じきった闇。
 予想通り……そこにいたのはエデンだった。

「げっ……しかもベコニアも」

「ちょっとブロッサム! その反応は何!?」

 隣にはベコニアもいた。ブロッサムの反応に憤慨しているが。

「アユミ……知ってるのか?」

「……こいつはエデン。闇の生徒会の生徒会長だ」

 即座に抜刀、加えて警戒してる俺にセルシアがたずねてきた。
 するとエデンは俺の隣にいるセルシアに視線を向ける。

「おまえがウィンターコスモスの本家、プリシアナの生徒会長、セルシア=ウィンターコスモスか……」

「エデン……おまえ……」

「……ブロッサム=ウィンターコスモス。ヌラリやスティクスから聞いた。セルシアより厄介な存在になった、とな……」

 ……やっぱりこいつらはブロッサムの方を敵視してるらしい。
 以前イペリオンで闇を浄化されたせいか、セルシアより向ける視線が鋭い。

「……アユミは殺させない」

「あら。一回倒したからって調子乗らないでよ。今日こそアンタたちを私の操り人形にしてあげるわ! それで……プリシアナの生徒会に入ってくださいって土下座させてやるんだから!」

「……それだけ?」

 ずいぶんハードル低いな、ベコニア……。

「ベコニア……おまえ、そんなにセルシアに生徒会入りを断れたのがショックだったのか?」

「ちっ、違うわよ! べ、べつにセルシアに憧れてプリシアナに入った訳じゃないんだからね!」

「え? そーなの?」

 意外な新事実発覚なんですけど!?
 ってかベコニア……もしかして、ツンデレ学科所属か?

「へぇ、ベコニアってセルシアのことが好きだったんだ。それでフラれたから、プリシアナ辞めて闇の生徒会に行っちゃったの?」

「まあ……ベコニアちゃんって、一途だったのね……」

「ちょっ……だ、誰もそんなこと言ってないでしょ!? せ、セルシアのバカなんか、どうして好きにならなくちゃいけないのよ!」

 チューリップとブーゲンビリアの言葉に、ベコニアの顔が真っ赤になった。
 ……呑気でいいな。オメーら←

「もういいわ! エデン生徒会長! さっさとやっつけちゃいましょう!」

「僕は初めからそのつもりだ。僕は宝具の運び手……アユミを狙う。ベコニア、おまえは他のヤツらを抑えていろ」

「了解。私は最初から転入生には興味ないしね!」

 ゆっくり剣を抜いたエデン。
 同時にベコニアが操り人形を呼び、セルシアたちに襲い掛かった。
 それを見届けると、エデンがゆっくりと、闇色の瞳をこちらに向けてくる。

「……これで二人だけだ。アユミ」

「……っ」

 まっすぐ……だが狂気に満ちた顔に、思わず後ずさる。
 ゾワリとした死の恐怖が身体に纏わり付く。

「……させない」

「ブロッサム……」

 蛇に睨まれた蛙のように動けなくなった俺を、人形を薙ぎ払ってきたブロッサムが前に出て庇った。

「もうアユミは傷つけさせない。……あんな思い、もうするものか!」

「チッ……邪魔をするな! ブロッサム!」

「こればかりは譲らねぇぞ」

 ……今日ほどブロッサムが頼もしく見えた日はなかった。
 纏わり付く恐怖が薄れていく。

(……大丈夫。ブロッサムがいる……!)

 無意識に、刀を握る手に力が篭る。

「さあアユミ……! 死を以て、僕にひざまずけ!」

「……誰がひざまずくかよ! このヤンデレストーカー野郎!」

 振るってきた剣を刀で受け止めた。
 エデンが昨年ドラッケンを卒業した優等生で、その実力の高さはよく知っている。
 男女の力の差はもちろん、剣と魔法の技術も並大抵のものでは勝てない。

「ふ……女のおまえが、僕に勝てるとでも?」

「……ッ! 嘗めんなよ……! いつまでも同じレベルだと思ったら大間違いだ!」

 受け流し、即座に膝蹴りの一撃を腹部に叩き込んだ。

「ぐっ……!」

 エデンは肺の空気を吐き出し、だがすぐに魔法によって距離を取られてしまう。

「この程度……!」

「ウィスプ!」

 直後、ブロッサムの精霊魔法が襲い掛かった。
 気づいたエデンは避けるが一歩遅く、左肩に魔法を受けた。

「ぐっ……!?」

「もらった!」

 瞬時に詰め寄り、エデンの剣を弾き飛ばした。
 そして右肩から左の腹まで袈裟斬りする。もちろん死なない程度にな。

「バ、カな……っ! この、僕が……!?」

 傷を押さえながら、ひざまずくエデン。
 俺の……いや、俺とブロッサムの勝利だ。

「……おまえの負けだ。エデン」

「……っ! くそっ……」

 悔しそうに顔が歪むエデン。
 だがよろけながらも立ち上がり、弾き飛ばした剣を再び握った。

「まだ負けてない……! 次は本気で……!」

 闇のオーラが膨れ上がった……!
 くるか……!?

「――エデン、ベコニア……誰が勝手に宝具を狙っていいと言った?」

 その時だ。
 闇の空間が開き、ウィンタースノーの指輪をした男……ネメシアが現れたのは。

「ネメシア……!」

 あ。セルシアたちも終わったらしい。
 ネメシアの姿を見て驚いている。

「まだ時は満ちていない……不完全な宝具を手に入れてどうする?」

「……不完全?」

 不完全……ということは、この宝具は使えないってことか?

「その宝具をよく見るがいい。エデン、ベコニア。おまえたちは先に戻れ」

「なんだと……宝具など、僕らの力でどうにでもなるだろう!」

 俺との決着を着けたいらしいエデンはネメシアに食い下がるが、ネメシアは首を横に振る。

「それはあの方のご意思ではない。わかっておろう、エデン」

「……チッ……」

 ……どうやら諦めたらしいな。渋々闇の空間の中へ姿を消した。
 ……正直助かった←

「命拾いしたわね! つ、次こそ私の玩具にしてやるんだから!」

 エデンに続き、ベコニアも闇の空間へ消えた。
 ……残るはネメシアただ一人。

「……ネメシア。宝具が不完全とは、どういうことなんだ?」

「……純潔のオルゴール。今のままでは音を奏でないことはわかるだろう」

 言われてオルゴールを取り出し、何が違うのかよく見てみる。
 ……これは……。

「シリンダーがない……」

「オルゴールの音を出す、あの筒みたいな部品か」

 言われて見れば、音を出す部品がなかった。
 これじゃただの箱だ……。

「要のシリンダーって、かつてのセレスティアさんがこの洞窟に隠したみたいなんだ~。この結界も、このオルゴールの音じゃないと解けないみたい~」

「そうか……ってなんでおまえがそれ知ってんの? シルフィー」

「え? そこの魔法陣の古代文字から」

「マジかよ!?」

 思わずのけ反ってしまった。
 だってこうも簡単にわかっちゃったんだもの! のけ反るしかないっしょ。

「ほう……さすがディムラピス……ディームの弟。古代文字もたやすく解読するとは」

「……たしかにびっくりだよ」

 ネメシアが褒めてるってことは間違いじゃないようだ。
 ……こいつにこんな特技があるとは。

「……ってかさ、ネメシア。おまえら宝具を運んじゃっても困んないの? おまえらが不利になるとしか思えないんだけど」

 気になったんでたずねてみた。

“不完全な宝具を手に入れてどうする?”

 それはつまり、完全にしないといけないってこと。
 ……まあ、完全な力って何なのかわからないけど。

「私たちには私たちの目的がある。今はそのオルゴールを完成させてもらわねば私も困るのだ」

「不利と有利は紙一重ってか?」

「そんなとこだ。また会おう……予言の娘」

 俺の質問もそこそこに、ネメシアは闇の中に消えていった。
 ……残された俺らは顔を見合わせる。

「……さて。どうする? 宝具を完成させないとこの先に進めないけど、罠があるかもだぞ?」

「僕たちの役目は宝具を大陸中央まで運ぶことだ。ここで立ち止まる訳にはいかない」

「殴り込みか。ってことは……まず、オルゴールのシリンダーを見つけないといけない、のか……?」

「ここで……?」とブロッサムがため息をついた。
 この馬鹿でかい洞窟の中で小さな部品を探すんだから、まあしかたないよな……。
 みんなも頷き、この広い洞窟を見回した。

「……でもこのでかーい洞窟をむやみに探し回るのもなあ。何か目安とかないのかなあ」

「だよなあ」

 レオの言う通りだ。
 どれだけ広いかわからないし、つーかそもそもいったいどこにあるのか。予想すらつかん。

「……という訳でフリージア。そのネメシアの記録帳に、ヒントか何かない?」

「セントウレア様のお許しなく、この記録帳を見ることはあまり感心しません」

「即答かよ。本当に何か書いてあるかもしれないのに? 頭が固いな、フーちゃんは」

「なんですか、その呼び方は!? ……まあ、あなたの言うことも一理ありますが……」

 セルシアに「どうしましょう……?」と目で聞くフリージア。

「そうだな……他に手掛かりがある訳ではないし……少し調べてみよう」

「……と、セルシア様は御達示ですが?」

 俺がそういうと「くっ……」と悔しそうに俺を睨む。

「……仕方ありませんね。セルシア様がそうおっしゃるなら……」

「よっしゃ!」

「おまえって奴は……」

 ブロッサムが心底呆れたようなため息をついた。……失礼な。
 そうこうしてる内にフリージアが記録帳を開いて読みはじめる。

「どれどれ? うーん……」

「レオノチスさん、あまり本を引っ張らないでくださいっ」

「まあまあ、そう言わないで……わー! 校長の子供の頃の話とかが書いてある!」

「何!? なんか高値で売れそうな「アユミさん……」嘘! 嘘、嘘!! 悪かったってば!」

 向けられる光魔法が闇魔法に見えるのは何故!?
 ブロッサムの感じてた恐怖がよくわかったよ!

「ねーねー、レオ。どんなこと書いてあるの?」

「待ってよ、シルフィー……えーっと。『セントウレア様が初めて自分の足でお歩きになった。同時に剣術、乗馬、魔法学の勉強を習得される』……え? 歩き始めたって、まだ赤ん坊の頃だよね!?」

「ま、まあ……文章読む限り、そうじゃねぇの……?」

「えええ!? 校長って赤ちゃんの時に剣使って馬に乗って魔法も使えたの!? 神か!?」

 レオが大袈裟に後ずさった。
 たしかにある意味、校長は神だけどさ……いくら何でもそれはすごくね!?

「『数百年に一人、ウィンターコスモス家に生まれる神の子と謳われしセントウレア様。その成長の早さには私も驚かされる』、ね」

 ……成長って言葉だけで片付けていいのか、甚だ疑問なんだが……。

「……ブロッサム、セルシア。これ、マジ情報なのか?」

「いや、俺に聞かれても……」

「さ、さあ……僕も兄様の幼少時代の話はあまり知らないから……」

「セントウレア様なら当然のことだと私は思います」

 なんでおまえが即答してんの、フリージア!?

「他は……『今日は驚くべきことがあった。ウィンターコスモス家、5歳の通過儀礼としてセントウレア様が聖印の雪窟に向かわれた』。……え? 5歳で?」

 ネメシアも一緒だろうけど……だからって早いだろ!?
 続きはこうだ。

『時悪く、雪窟に封印されていたいにしえの魔獣が姿を現す』

『この身を捨ててでもセントウレア様をお守りしようと覚悟を決めたが……』

『セントウレア様がその魔獣を人睨みし、背の翼を広げると全身から溢れんばかりの輝きが迸った』

『私が次に目を開けた時には、その魔物はセントウレア様の輝きに焼き尽くされていた』

『高貴なお生まれであることはわかっていたが……その輝きは神の光のようだった』

 神の光って……どんだけスゲーの!? ウチの校長!
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