中央大陸到着
見張りを交代しつつ休み、とりあえず夜を過ごした。
闇の生徒会も襲撃して来なかったし、とりあえず休めた。ゆっくりは出来なかったけど。
「とりあえず、なんやかんやで一晩が過ぎてよかったな」
「全然よくねーよ。これからさらに大変なんだぞ」
うん、今日もブロッサムのツッコミは冴えている。
元気で何よりだ。
「さて……今日で大陸の中央まで辿り着けるといいんだが……」
「闇の生徒会の狙いは宝具、ついでに俺だからな。慎重に進み、出会ったら抵抗できない程度にボコボコに殴り倒そうか」
「それやり過ぎじゃないか!?」
恐ろしいものを見る目でブロッサムにつっこまれた。
「敵に情けなどいるか。……とにかく行こうか」
ここに立ち止まってもしかたないし。
全員が頷いたのを確認後、再び洞窟へ進んでいった。
――――
「……これは……」
真っ暗い洞窟を進んで行くと、突然でかい空洞を抜けてきた。
……つーかここが中央大陸?
「うっわー。これってもう地底世界だよね! 地底人とか住んでるかも!」
「地底人かー。可愛い女の子ならいいなー」
おまえらの第一の感想がそれかい← レオ、シルフィー。
「ここが……校長の言ってた、禁断の地ってやつか?」
「でも、いろいろおかしくねぇか?」
「何がだ? 意外と鋭いバロータ君」
「意外は余計だ! ……禁断の地は神の聖域で、無垢な子供たちしか入れないんだろ? その割に闇の生徒会の連中たちはこの奥から来てるみたいじゃねぇか」
「あ……」
バロータの言葉に全員が頷く。
まあそうか。言い伝えと話が違うからな。
「言い伝えが事実と違うか捩曲げられたか……あるいは……」
「誰かが今、変えようとしているか?」
「……なんで答えられるんだよ」
……なんでわかったんだろ。なんでそんなに勘が鋭いんだ、ブロッサムよ。
「……とにかく。大陸中央には何があるのかわからない、ということだろう?」
「まあな」
確認するようにたずねてきたセルシアに頷く。
まだ三学園すべてが合流した訳じゃない。気を抜けない、ってやつな。
「ねぇねぇ、アユミちゃん」
「なんだよ」
控えめにシルフィーに服を引っ張られた。
とりあえず返事はしておく。
「あれ……」
「ん……?」
シルフィーが指さす場所を見た。
そこには……。
「ウィンタースノーの花畑!?」
ブロッサムが叫ぶ。
遠目だから白い花、としかわからないが、何となくウィンタースノーの花っぽく見える。
「そんな……ウィンタースノーの花は、あの雪窟しか咲かないはず……」
「とにかく、近くまで行ってみましょう」
フリージアに連れられ、ウィンターコスモスの二人は花畑に近づいた。
……やっぱり花はウィンタースノーだった。
魔力で冷却された一角が雪原となっている。
「まあ綺麗! 純白の絨毯みたい!」
ブーゲンビリアが花を見て喜んでいる。
まあたしかに綺麗だけどね、この花。
「……たしかに本物だな」
「だろうな。違いなんざわかんねーけど」
「けどなんでここに? ……まさか、元々咲いて……?」
ブロッサムはじーっと花を見ている。
違いはよくわからないが、これは本物のウィンタースノーの花なのは確かだ。この雪のような白い花びらを持つ白雪姫、もとい白雪花は他に無い――と思う。
「ねぇ! こっちになんか部屋みたいなのがあるよ!」
チューリップの声が響いてきた。今度はそっちか……。
「これ……洞窟を利用した小部屋か?」
「あるのは数冊の本、紙、ペン……後は燃え尽きた使えねーランタンだけか」
どうやら誰かがここにいた、らしいな。
「でも、誰が……」
「ネメシア=スノーのようです」
「なるほど、ネメシア……は? ネメシア!?」
一冊の厚い本を取り出しながら答えたのはフリージアだった。
なんでここでネメシア? それ以前になんでわかったんだ、フリージア君!?
「これは我々スノー家の者が、ウィンターコスモス家にお仕えする時、主となる方からいただく記録帳です」
「ああ……僕がフリージアにあげた物と同じだ」
「そんなのあるのか!?」
記録帳って……待て待て、そんな子育てノートみたいなのがあるのかスノー家!?
「……絶対それフリージアに言うなよ」
そしておまえも無駄に勘が優れてるなブロッサム君!
「……コホン。それで、その記録帳には何が……」
フリージアが記録帳を開いたので横から覗く。
……が、全ページ白紙だった。
「って白紙かよ!!」
「いや、違う! 違うから! アユミ、刀をしまえ!」
ブロッサムの声に正気に戻る。
……どうやら無意識の内に抜刀してたみたいだ。
「ああ、すまない……イライラが高まると、つい抜刀しちまうんだ」
「俺、本気で斬られるかと思ったんだが……」
バロータががたがた震えながらつぶやく。
他の皆さんも多少後ずさったらしい。
「……で、ブロッサム。白紙とは違うってどういうこと? 30字以内で簡潔に言え」
「できるか!! あー、その記録帳はフリージアのあの眼鏡を掛けてないと読めないんだよ!」
「え゙!? それはつまり……フリージアの眼鏡は、実は伊達だったってことなのかあああ!!?」
「驚くとこそこォオオオッ!!?」
俺の(ボケの)叫びとブロッサムの(ツッコミの)叫びが空洞内にびりびりと響き渡った。
山ん中でも無いのに山彦が返ってきたからな←
「ちょ、貸せ! フリージア!」
「いだっ!? な、何をするんですか! あなたは! 返してください!」
「おお! ホントに眼鏡無しでも見えてんだな! さらに眼鏡無しでも整った顔はさすがフリージア! ついでに記録帳も眼鏡越しでホントに読めた」
「記録帳はついで!? 明らかにそれが一番重要だよな!?」
ブロッサムのツッコミもうるさいくらい響き渡る。
俺にとってはそっちは些細なことなのだよ!←
まあこれ以上怒られる訳にはいかないので、眼鏡はおとなしく返しました。
「つーかこの眼鏡何なの? 何? スノー家の最終兵器とでも言いたいワケ?」
「なんだよ、最終兵器って……。あの眼鏡はスノー家がこの記録帳と一緒にいただく眼鏡なんだよ。あの眼鏡でないと読めないようになってんだ」
「なるほど、ね。そうやってお家の秘密を守ってるワケね」
ブロッサムの説明にチューリップがうんうんと頷いた。
……財宝とか書いて、
「アユミさん?」
「すいません! もう考えませんので本の角向けないで!」
フリージアが殺気を纏って本の角をこちらに向けてきた。
闇の生徒会より恐ろしいんだけど!? この執事!
「そ、それで、結局何が書いてあんだよ?」
バロータが冷や汗をかきながらフリージアに聞いた。
フリージアはとりあえず本を下ろし、眼鏡越しに再び記録帳を読みはじめる。
「これは……ネメシア=スノーがセントウレア様にお仕えした時からの記録のようです。ネメシアは……セントウレア様の教育係でもあったのですね」
「じゃあ、ネメシアがウィンターコスモスの家を出た理由も書いてあるのか?」
横から見ながらセルシアが読み続けるフリージアに聞いた。
なるほど。たしかに気になるところだ。もしかしたら何か発見できるかもしれないし。
「……どうやら、ネメシアはプリシアナの宝具から力を得ようとし、セントウレア様から別離を言い渡されたようです」
「……宝具から?」
「ええ。……壊さないでくださいよ」
うたぐり深い目をしながらもフリージアが眼鏡を貸してくれた。
とりあえず真面目に記録帳を読んでみる。
『あの恐ろしい事態を防ぐ為には、どうしても力が必要なのだ……』
『純潔のオルゴール……あれから力を増幅させることができれば、セントウレア様を守れるというのに……』
『セントウレア様のお側を離れた今、私にできることは一つしかない……お許しください、セントウレア様。あなたを信じきれなかった、愚かな私を』
『けれど、私はあなたを初代ウィンターコスモス様のようにする訳にはいかないのです』
『セントウレア様が育てし英雄の子らが……私の考えが間違いであったと示してくれる日がくることを願っております……』
……記録帳はここで終わっていた。静かに記録帳を閉じる。
「セルシア。これ、校長に渡した方がいいんじゃないか?」
「ああ……ありがとう、アユミ」
セルシアに記録帳を渡しておく。
深い信頼、絆……いや、思い、かな? それが篭っているから。
「……で? 結局そのネメシアは何がしたいんだ? セントウレア校長先生を守りたいのか? それとも恨んでるのか?」
「この記録だけではわからない。だが……ネメシアがこの花を育てたのなら……」
全員が花畑に視線を向けた。
真っ白い雪のような花に。
「ウィンタースノーは私たちにとっては忠義の証。ネメシア=スノーは、セントウレア様を裏切っていないのかもしれません……」
「……おまえらには、大切な花だからな」
そう。この花はウィンターコスモス、スノーの人間にとって大切な花。
本当に悪い人間なら、ここまで美しく咲かすことはできないだろうな。
「少なくとも、ネメシアは校長を大切に思ってる。闇に堕ちた今も。とりあえずこれでいいだろ? ……多分、この先嫌でもわかるだろうし」
白い花びらに触れ、花畑を眺めながら全員に言う。
そう……この先、嫌でもまた会う。予言の子である俺が、宝具を持っている以上、な。
「アユミの言う通りだ。今ここで立ち止まっていても仕方がない」
「ああ。先に進むか」
まだ先は続いている。立ち止まる訳にはいかないんだ。
全員頷いたのを確認し、再び歩き出した。
――――
シルフィーSide
「……あれ?」
また奥へ歩き出そうとした一瞬、角に何かが見えた。
……ノームの女の子っぽい気がしたな……。
「おーい、シルフィー! 置いてくぞー」
「あ! バロータ待って~!」
ああん、置いてかれるー!
女の子のことを気にしながらも、ボクは慌てて皆を追いかけるのでした。
――――
アユミSide
「……あれ? ここ、何もないはずなのに、前に進めないよ」
だだっ広い空間ばかりが広がる洞窟を進んで行くと、突然レオが足を止めた。
……よく見るとでかい魔法陣が虚空にある。触るとガラスみたいな感じで、向こう側へいけないみたいだ。
「……魔法陣か?」
「みたいだ。結界か何かか……。どうだ? シルフィー先生」
さっきの洞窟の封印を軽々とぶっ壊したシルフィーにたずねた。
シルフィーは興味深そうに、じーっと魔法陣を見ている。
「んー……この魔法陣の文字、さっきの扉のやつと一緒っぽいよ~。ふんふん……」
「……そうみたいですね。ただ私にもわからない文字がありますが……。……シルフィーさん、わかりますか?」
フリージアが一応聞いてみると、「うん」と頷き返される。
「これね、仕掛けの方式が全然違うんだ~。ほら、ここに古代文字があるよ」
「……たしかに……」
シルフィーが指さす場所を見ると、フリージアが頷く。
「古代文字……何とか解読できれば……」
「……純潔……オルゴール……光……末裔……鳴らす……あっ、そっかそっかぁ」
「え……よ、読めるんですか……?」
驚き半分、悔しさ半分ってとこかな。フリージアが目を丸くしていた。
まあ俺もびっくりだけどさ。
「うん。意味もわかったよ」
「え!? 全部読んでねぇだろ!?」
「え~、簡単だよ~?」
サラっと言ってのけたシルフィー。
……全員驚きで声が出なかった。
「シルフィーって、ちょー天才だったのか!?」
「マジかよ……フリージアすら読めなかったのに……」
「能ある鷹は爪を隠す、だな」
レオ、バロータ、俺のセリフ。
もうシルフィーがただのアホじゃない、ということがよくわかった。
「じゃあシルフィー。この魔法陣の意味は……ッ!!」
聞こうとした瞬間、背筋に嫌な悪寒が走った。
闇の生徒会も襲撃して来なかったし、とりあえず休めた。ゆっくりは出来なかったけど。
「とりあえず、なんやかんやで一晩が過ぎてよかったな」
「全然よくねーよ。これからさらに大変なんだぞ」
うん、今日もブロッサムのツッコミは冴えている。
元気で何よりだ。
「さて……今日で大陸の中央まで辿り着けるといいんだが……」
「闇の生徒会の狙いは宝具、ついでに俺だからな。慎重に進み、出会ったら抵抗できない程度にボコボコに殴り倒そうか」
「それやり過ぎじゃないか!?」
恐ろしいものを見る目でブロッサムにつっこまれた。
「敵に情けなどいるか。……とにかく行こうか」
ここに立ち止まってもしかたないし。
全員が頷いたのを確認後、再び洞窟へ進んでいった。
――――
「……これは……」
真っ暗い洞窟を進んで行くと、突然でかい空洞を抜けてきた。
……つーかここが中央大陸?
「うっわー。これってもう地底世界だよね! 地底人とか住んでるかも!」
「地底人かー。可愛い女の子ならいいなー」
おまえらの第一の感想がそれかい← レオ、シルフィー。
「ここが……校長の言ってた、禁断の地ってやつか?」
「でも、いろいろおかしくねぇか?」
「何がだ? 意外と鋭いバロータ君」
「意外は余計だ! ……禁断の地は神の聖域で、無垢な子供たちしか入れないんだろ? その割に闇の生徒会の連中たちはこの奥から来てるみたいじゃねぇか」
「あ……」
バロータの言葉に全員が頷く。
まあそうか。言い伝えと話が違うからな。
「言い伝えが事実と違うか捩曲げられたか……あるいは……」
「誰かが今、変えようとしているか?」
「……なんで答えられるんだよ」
……なんでわかったんだろ。なんでそんなに勘が鋭いんだ、ブロッサムよ。
「……とにかく。大陸中央には何があるのかわからない、ということだろう?」
「まあな」
確認するようにたずねてきたセルシアに頷く。
まだ三学園すべてが合流した訳じゃない。気を抜けない、ってやつな。
「ねぇねぇ、アユミちゃん」
「なんだよ」
控えめにシルフィーに服を引っ張られた。
とりあえず返事はしておく。
「あれ……」
「ん……?」
シルフィーが指さす場所を見た。
そこには……。
「ウィンタースノーの花畑!?」
ブロッサムが叫ぶ。
遠目だから白い花、としかわからないが、何となくウィンタースノーの花っぽく見える。
「そんな……ウィンタースノーの花は、あの雪窟しか咲かないはず……」
「とにかく、近くまで行ってみましょう」
フリージアに連れられ、ウィンターコスモスの二人は花畑に近づいた。
……やっぱり花はウィンタースノーだった。
魔力で冷却された一角が雪原となっている。
「まあ綺麗! 純白の絨毯みたい!」
ブーゲンビリアが花を見て喜んでいる。
まあたしかに綺麗だけどね、この花。
「……たしかに本物だな」
「だろうな。違いなんざわかんねーけど」
「けどなんでここに? ……まさか、元々咲いて……?」
ブロッサムはじーっと花を見ている。
違いはよくわからないが、これは本物のウィンタースノーの花なのは確かだ。この雪のような白い花びらを持つ白雪姫、もとい白雪花は他に無い――と思う。
「ねぇ! こっちになんか部屋みたいなのがあるよ!」
チューリップの声が響いてきた。今度はそっちか……。
「これ……洞窟を利用した小部屋か?」
「あるのは数冊の本、紙、ペン……後は燃え尽きた使えねーランタンだけか」
どうやら誰かがここにいた、らしいな。
「でも、誰が……」
「ネメシア=スノーのようです」
「なるほど、ネメシア……は? ネメシア!?」
一冊の厚い本を取り出しながら答えたのはフリージアだった。
なんでここでネメシア? それ以前になんでわかったんだ、フリージア君!?
「これは我々スノー家の者が、ウィンターコスモス家にお仕えする時、主となる方からいただく記録帳です」
「ああ……僕がフリージアにあげた物と同じだ」
「そんなのあるのか!?」
記録帳って……待て待て、そんな子育てノートみたいなのがあるのかスノー家!?
「……絶対それフリージアに言うなよ」
そしておまえも無駄に勘が優れてるなブロッサム君!
「……コホン。それで、その記録帳には何が……」
フリージアが記録帳を開いたので横から覗く。
……が、全ページ白紙だった。
「って白紙かよ!!」
「いや、違う! 違うから! アユミ、刀をしまえ!」
ブロッサムの声に正気に戻る。
……どうやら無意識の内に抜刀してたみたいだ。
「ああ、すまない……イライラが高まると、つい抜刀しちまうんだ」
「俺、本気で斬られるかと思ったんだが……」
バロータががたがた震えながらつぶやく。
他の皆さんも多少後ずさったらしい。
「……で、ブロッサム。白紙とは違うってどういうこと? 30字以内で簡潔に言え」
「できるか!! あー、その記録帳はフリージアのあの眼鏡を掛けてないと読めないんだよ!」
「え゙!? それはつまり……フリージアの眼鏡は、実は伊達だったってことなのかあああ!!?」
「驚くとこそこォオオオッ!!?」
俺の(ボケの)叫びとブロッサムの(ツッコミの)叫びが空洞内にびりびりと響き渡った。
山ん中でも無いのに山彦が返ってきたからな←
「ちょ、貸せ! フリージア!」
「いだっ!? な、何をするんですか! あなたは! 返してください!」
「おお! ホントに眼鏡無しでも見えてんだな! さらに眼鏡無しでも整った顔はさすがフリージア! ついでに記録帳も眼鏡越しでホントに読めた」
「記録帳はついで!? 明らかにそれが一番重要だよな!?」
ブロッサムのツッコミもうるさいくらい響き渡る。
俺にとってはそっちは些細なことなのだよ!←
まあこれ以上怒られる訳にはいかないので、眼鏡はおとなしく返しました。
「つーかこの眼鏡何なの? 何? スノー家の最終兵器とでも言いたいワケ?」
「なんだよ、最終兵器って……。あの眼鏡はスノー家がこの記録帳と一緒にいただく眼鏡なんだよ。あの眼鏡でないと読めないようになってんだ」
「なるほど、ね。そうやってお家の秘密を守ってるワケね」
ブロッサムの説明にチューリップがうんうんと頷いた。
……財宝とか書いて、
「アユミさん?」
「すいません! もう考えませんので本の角向けないで!」
フリージアが殺気を纏って本の角をこちらに向けてきた。
闇の生徒会より恐ろしいんだけど!? この執事!
「そ、それで、結局何が書いてあんだよ?」
バロータが冷や汗をかきながらフリージアに聞いた。
フリージアはとりあえず本を下ろし、眼鏡越しに再び記録帳を読みはじめる。
「これは……ネメシア=スノーがセントウレア様にお仕えした時からの記録のようです。ネメシアは……セントウレア様の教育係でもあったのですね」
「じゃあ、ネメシアがウィンターコスモスの家を出た理由も書いてあるのか?」
横から見ながらセルシアが読み続けるフリージアに聞いた。
なるほど。たしかに気になるところだ。もしかしたら何か発見できるかもしれないし。
「……どうやら、ネメシアはプリシアナの宝具から力を得ようとし、セントウレア様から別離を言い渡されたようです」
「……宝具から?」
「ええ。……壊さないでくださいよ」
うたぐり深い目をしながらもフリージアが眼鏡を貸してくれた。
とりあえず真面目に記録帳を読んでみる。
『あの恐ろしい事態を防ぐ為には、どうしても力が必要なのだ……』
『純潔のオルゴール……あれから力を増幅させることができれば、セントウレア様を守れるというのに……』
『セントウレア様のお側を離れた今、私にできることは一つしかない……お許しください、セントウレア様。あなたを信じきれなかった、愚かな私を』
『けれど、私はあなたを初代ウィンターコスモス様のようにする訳にはいかないのです』
『セントウレア様が育てし英雄の子らが……私の考えが間違いであったと示してくれる日がくることを願っております……』
……記録帳はここで終わっていた。静かに記録帳を閉じる。
「セルシア。これ、校長に渡した方がいいんじゃないか?」
「ああ……ありがとう、アユミ」
セルシアに記録帳を渡しておく。
深い信頼、絆……いや、思い、かな? それが篭っているから。
「……で? 結局そのネメシアは何がしたいんだ? セントウレア校長先生を守りたいのか? それとも恨んでるのか?」
「この記録だけではわからない。だが……ネメシアがこの花を育てたのなら……」
全員が花畑に視線を向けた。
真っ白い雪のような花に。
「ウィンタースノーは私たちにとっては忠義の証。ネメシア=スノーは、セントウレア様を裏切っていないのかもしれません……」
「……おまえらには、大切な花だからな」
そう。この花はウィンターコスモス、スノーの人間にとって大切な花。
本当に悪い人間なら、ここまで美しく咲かすことはできないだろうな。
「少なくとも、ネメシアは校長を大切に思ってる。闇に堕ちた今も。とりあえずこれでいいだろ? ……多分、この先嫌でもわかるだろうし」
白い花びらに触れ、花畑を眺めながら全員に言う。
そう……この先、嫌でもまた会う。予言の子である俺が、宝具を持っている以上、な。
「アユミの言う通りだ。今ここで立ち止まっていても仕方がない」
「ああ。先に進むか」
まだ先は続いている。立ち止まる訳にはいかないんだ。
全員頷いたのを確認し、再び歩き出した。
――――
シルフィーSide
「……あれ?」
また奥へ歩き出そうとした一瞬、角に何かが見えた。
……ノームの女の子っぽい気がしたな……。
「おーい、シルフィー! 置いてくぞー」
「あ! バロータ待って~!」
ああん、置いてかれるー!
女の子のことを気にしながらも、ボクは慌てて皆を追いかけるのでした。
――――
アユミSide
「……あれ? ここ、何もないはずなのに、前に進めないよ」
だだっ広い空間ばかりが広がる洞窟を進んで行くと、突然レオが足を止めた。
……よく見るとでかい魔法陣が虚空にある。触るとガラスみたいな感じで、向こう側へいけないみたいだ。
「……魔法陣か?」
「みたいだ。結界か何かか……。どうだ? シルフィー先生」
さっきの洞窟の封印を軽々とぶっ壊したシルフィーにたずねた。
シルフィーは興味深そうに、じーっと魔法陣を見ている。
「んー……この魔法陣の文字、さっきの扉のやつと一緒っぽいよ~。ふんふん……」
「……そうみたいですね。ただ私にもわからない文字がありますが……。……シルフィーさん、わかりますか?」
フリージアが一応聞いてみると、「うん」と頷き返される。
「これね、仕掛けの方式が全然違うんだ~。ほら、ここに古代文字があるよ」
「……たしかに……」
シルフィーが指さす場所を見ると、フリージアが頷く。
「古代文字……何とか解読できれば……」
「……純潔……オルゴール……光……末裔……鳴らす……あっ、そっかそっかぁ」
「え……よ、読めるんですか……?」
驚き半分、悔しさ半分ってとこかな。フリージアが目を丸くしていた。
まあ俺もびっくりだけどさ。
「うん。意味もわかったよ」
「え!? 全部読んでねぇだろ!?」
「え~、簡単だよ~?」
サラっと言ってのけたシルフィー。
……全員驚きで声が出なかった。
「シルフィーって、ちょー天才だったのか!?」
「マジかよ……フリージアすら読めなかったのに……」
「能ある鷹は爪を隠す、だな」
レオ、バロータ、俺のセリフ。
もうシルフィーがただのアホじゃない、ということがよくわかった。
「じゃあシルフィー。この魔法陣の意味は……ッ!!」
聞こうとした瞬間、背筋に嫌な悪寒が走った。