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白銀の海底洞窟

 ――――

 ブロッサムSide

「……悪いけど、あいつには近づけさせないからな」

 いつも通りあいつの無茶苦茶に言われ、闇の生徒会……スティクスと戦うことになった。
 こいつ、きっとアマリリスより強い。エデンのが上だろうけど←

「ふふ……まあいいけど。元々僕の狙いは君だからね」

「え……俺……?」

 どういう意味だ……?
 こいつはアユミには眼中にないってことか?

「闇の生徒会でも噂はあるんだよ。エデン生徒会長に瀕死の一撃を与えたってことね」

「だからか……」

「交流戦の時、ドラッケンでも君の力を見たよ……君は興味深い。セルシアより、ね」

「あ、ああ……?」

 せ、セルシアより……?
 う、嬉しいようなそうじゃないような……ふ、複雑だ……←

「……ど、どうでもいいだろ! シャイガン!」

 ハッ! ダメだ、ダメだ!
 褒められたからって調子に乗るな、俺! 敵だぞ!

 バキンッ!

「……あれからさらに腕をあげたみたいだね」

「……魔法壁召喚か」

 攻撃を防ぐ防御スキル。
 シャイガンで結構ひび割れたが破壊に至ってない。

「こっちもやらせてもらうよ……ジェイド!」

「うおっ!?」

 うかうかしてたら向こうも攻撃してきた!
 闇の精霊が怒涛のように突撃してくる。

「くそっ! ウィスプ!」

 こっちも光の精霊を召喚して反撃する。
 このままだとこっちがやられる!

「くそっ……! 早く倒さないと……」

 クラティウスがどういう訳で闇の生徒会に入ったか知らないが、本心じゃないに決まってる。
 アユミの負担が増える前に終わらせないと……!

「しつこい……っ」

「逃がすか!」

「うぉっ!?」

 ギリギリで闇の精霊の攻撃を避ける。
 はあ……ギリギリセーフ――。

「あ……っ」

「え……」

 しまった……!
 俺の後ろに攻撃を避けた後らしく、クラティウスがいた。
 突然のことで驚いてるのか、クラティウスはすぐ動かない。

「クラティウスッ!!」

 瞬間、聞き慣れた声が響いた。
 そしてクラティウスと彼女に突撃する精霊の間に割り込む、見慣れた姿。

「あ――」

 ドガァアアアンッ!!

「ぐぁあああッ!!」

 精霊はそのまま直撃し、割り込んだあいつ――アユミに攻撃した。

「アユミさん!?」

「アユミッ!!!」

 ギリギリ防御はしたみたいだが、盛大に地面を転がった。
 そのままばったりと倒れる。

「おい、大丈……ッ!?」

 慌てて駆け寄るが、血の臭いに足を止めた。
 ――直撃を受けたらしい右肩から血が流れていた。

「――う……うぁああああああッ!!」

 頭が真っ白になって、ただわかったことは、あいつが攻撃を受けて傷を負ったこと。
 それを認識した瞬間……ウィスプをスティクスに放った。

「なっ……ぐわぁあああッ!!」

 あの時……ドラッケン学園の時と同じ、いつもより強い力。
 召喚したウィスプはスティクスの精霊を簡単に消し飛ばし、魔法壁もぶち破って術者であるスティクスに命中した。

「おいアユミ! しっかりしろ!」

「アユミさん……っ!」

 倒れたスティクスは無視し、クラティウスに起こされているアユミに駆け寄る。
 そして傷のある右肩にメタヒールをかけてやる。

「……うるさい。耳元で騒ぐな」

 左手でうるさそうに片耳を塞いだ。
 よかった……とりあえず大丈夫みたいだな。

「また無茶しやがって……俺の身にもなってくれ」

「あー、悪い……」

 とか言うが、多分言っても無駄だろうな。
 口は悪いが、なんだかんだで他人を放っておけないからな。

「……っく。なるほど……やはり君は興味深いね。さっきの力……とても気になる」

 背後から声が響いた。
 振り返れば、倒したと思われるスティクスが立っていた。

「僕の精霊たちも負けてしまったみたいだし、今日はこの辺で帰るとしよう。……クラティウス君」

 スティクスが呼ぶと、クラティウスがハッとなって立ち上がる。

「クラティウス!」

「失礼します。……すみませんでした、アユミさん」

「クラ……」

 当然呼び止めることは出来ず、クラティウスはスティクスと一緒に闇の中へ去っていった。

「クラティウス……なんで……」

「さあな……ただ、言えるのは――クラティウスは向こうにいる。……自分の意思でな」

「自分の……って」

 アユミの言葉がすぐに頭で処理できない。
 それはつまり……。

「洗脳でも催眠術でもない。あいつの目は正気だったからな」

「じゃあ……やっぱり王女様を裏切ったの?」

 チューリップの言葉に「裏切りかどうかはわからないがな」と付け足すアユミ。

「ドラッケンでも宝具を持った連中がいるんだろ? キルシュに会えっかもだし、そしたら聞けばいいんじゃね?」

「そうだな。それが一番だろうな。アユミ、怪我は無事か?」

 とりあえずメタヒールで怪我は治った。とはいえさすがに流れた血までは治せないからな。

「何とかな。あいたたた……」

「無理すんなよ。……そういえば、ウィンタースノーの花畑で会ったあいつ……」

 アユミの怪我をいたわると、ふとバロータがつぶやく。

「セントウレア校長先生の執事だった男なんだろ? あいつも主人である校長を裏切って闇側についたのか?」

 ……なんでこいつはそんなに直球で聞くんだよ。

「いや……俺に聞かれても……」

「僕もネメシアと兄様の話については知らないんだ」

 俺とセルシアは揃って首を振る。
 当たり前だ。ネメシアのことはつい最近知ったし……。

「やれやれ、主従だの裏切りだの……なんでそんな厄介な関係になるのかね?」

「知らねーよ。他人の心なんざ」

「まあな。おまえは裏切ったりしないだろうな? フリージア」

「バロータ!!」

「じょ、冗談だよ。そんなに怒るなよ」

「冗談でも言っていいことと悪いことがあるだろ……」

 ため息をつきながら言う俺。
 フリージアまで裏切る? そんなことはありえない。……というより、考えたくない。

「……私はセルシア様のお側におります」

「フリージア……」

 フリージアは裏切らない。きっとクラティウスだって、何かあるんだ。
 アユミは……そう確信しているから、俺もそれを信じる。

「ねぇねぇ……難しい話してるとこ悪いんだけど……」

 途中レオが会話に割り込んできた。
 なんだよ、人が悩んでいる時に……。

「途中で起こされちゃったから、もう一回寝ていい?」

 こ・い・つ・は……!!
 もう少し空気を読め! 頼むから!

「あ、ああ。そうだね。このまま出発するよりはもうしばらく休んだ方がいいだろう。見張りは僕がしてるよ」

「セルシア様が起きていらっしゃるのなら私も……」

 フリージアはそう言うが、セルシアは首を横に振った。

「いや、フリージアも休んでくれ。一人で大丈夫だ」

「セルシア様……」

 フリージアはそれ以上何も言わず、小さく頷くだけだった。

「アユミとブロッサムも休んでくれ。明日はもっと、過酷な戦いが待っているかもしれないから……特にアユミは怪我もしているんだし」

「……はいはい」

「いいけど……せ、セルシア……」

 俺が声をかければ「何?」と頷き返してくれた。

「……セルシアも、無理はするなよ……?」

「ブロッサム……」

「……じゃ、じゃあな!」

 ……こういうことは慣れない。恥ずかしい気がする。
 自分の毛布を頭から引っ被り、毛布の中で顔を押さえながらそう思った。

「…………」

 後ろにいたアユミも横になった音を聞きながら、ゆっくりと睡魔に身を委ねていった。

 ――――

 アユミSide

「闇の生徒会……クラティウスさん……アマリリス君にディームさんまで……」

 ぶつぶつとつぶやきが耳に入ってくる。
 ……言っとくが俺は眠れない訳じゃない。寝てないだけだ。

「…………」

 小さくため息をつくと、俺は身体を起こした。

「何を悩んでんだ。欝陶しい」

「! アユミ……起こしたのか?」

「寝れないだけだ。気にするな」

 驚くセルシアに言いつつ、右肩を押さえる。
 完全に傷は塞がったが、やっぱまだ本調子じゃないらしい。左利きでよかったよ、ホント←

「まだ痛むのか?」

「平気だ。ブロッサムは優秀だからな」

 実際メタヒール一発で回復してんだ。問題無い。

「……そう、か」

 ……一瞬。ほんの一瞬、セルシアの顔が無表情になった気がした。
 本当に一瞬だったからそんなに見れなかったけど。

「……アユミは、ブロッサムを信じてるんだね」

「心底な。……おまえとフリージアだって同じだろ?」

「当然だよ。当然……」

 即答……の割にはどこか自分に言い聞かせている気がする。

「……何かあるのか?」

「……え?」

「何かあるのか、って聞いてんだけど」

 俺が言えば、セルシアの瞳が揺らいだのが見えた。
 俺はそのまま問い詰める。

「おまえだって人間だ。悩みが無いなんてことあるかよ。俺にだってあるんだし」

「アユミ……」

「けどだからって疑い合っているってのもヤダし」

「……仲間を信頼してるって感じに聞こえるね」

 そういう意味で言ったんだ。
 特にブロッサムやシルフィーは嘘下手だから、やましいこととかあったらわかりやすい。……いや、俺が鋭いだけか。

「解釈はご自由に。……あんまり難しく考えるなよ」

 そう言って毛布に包まった。
 眠気は無い。……が、疲れたのは事実だ。
 横になってればそのうち眠れると思うし。

「……難しく、か」

 横目で見れば、セルシアがたき火の炎をじっと見ながら考え込んでいる。

(何を考えてんだが……けど)

 難しく考えるな、って言っておきながら、俺も実は頭の中がごちゃごちゃしていた。

(……ブロッサム)

 大切な奴。それも特別な。
 ……本人に言ったらどんな顔をするのだろうか。

(……言わないけどね)

 少なくとも今は。
 言って、その後に俺が死んだら、あいつはどうなるのか。逆にあいつが死んだら、俺はどうなるのか。
 そんな想像、考えたくない。

(今は目の前の敵に勝つんだ。今は……)

 それだけでいいんだ。俺と、あいつの為にも。

 ――――

 他人の心なんて知らない。

 それを本当に思い知るのは、

 今はまだ知らない。
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