白銀の海底洞窟
――――
邪魔を退けたことなので、再び俺たちは洞窟内を進んでいった。
「って……」
「え~? 行き止まり~?」
……が。途中行き止まりに着いた。
「道を間違えた……? いや待て。だけど途中で分かれ道なんてないし……」
「ブロッサム。何とかできないのか?」
「ちょっと待てよ。今考え中――」
「おーい、フリージア先生ー。何とかならないかー」
「うぉーーーいッ!!」
思案するブロッサムを他所に、扉を調べるフリージアに声をかける。
がっくりうなだれるブロッサムを他所に、フリージアの方に扉に目を向けたまま話し出す。
「ここに文字が刻まれてますね。えっと……、この扉は……最初の封印……。悪しき力をここで止められなくば、封印の調べを…………この先はかすれていて読めません」
壁の文字を読んだフリージアは途中で首を振った。
要するに、途中で読めないってことか。
「…………」
シルフィーも興味深そうに石の扉を見ていたり、触ったりしている。
その間にも俺らはフリージアに質問攻めだ。
「僕らにこの扉を開けることはできないのか?」
「少し時間がかかると思いますが、もう少し解読を進めれば、なんとかなると思います」
フリージアの言葉に、俺はちょっとげんなりする。
「時間かかんのかよ……。ブロッサム、やっぱりおまえが何とかしろや」
「だからなんで俺!?」
「こんな時の為の、一家に一台ブロッサムだろ」
「何ソレ? おまえ俺をなんだと思ってんの!?」
「僕には期待しないの? アユミ」
何故かここでセルシアが口を挟んだ。
――気のせいか? なんか笑顔に陰りがかかってる気が……。
「……なんでテメーが口を挟む。つかしねぇよ、おまえには」
「それは遠回しに僕では役に立たないと言う意味かい?」
「セルシア様が役に立たないことなど、絶対有り得ません!」
「なんでおまえが力説してんだ、フリージア」
セルシア至上主義なフリージアの叫びにツッコミを入れる。
……嫌な予感は当たるな。この辺りから俺たちの会話が暴走し始める訳で……。
「セルシアにできるのか? 魔力ならウチのブロッサム様が上だろ」
「ブロッサムに出来てセルシア様に出来ないことなどありません! というかこの私が認めません!」
「俺の扱いひどくね!?」
「え? べつに今に始まったことじゃないじゃん」
「ん゙な゙っ……!!」
さりげないレオの追撃。
ブロッサムの心にダメージを受けたのは明白だった。
「レオ。ちょっと言い過ぎよ」
「えー。事実なのになんでさ」
「事実でも言っていいことと悪いことがあるでしょー」
ブーゲンビリアとチューリップが注意するが、レオは聞き流してぶーぶー文句言ってる。
「お……俺だってやる時はやるぞ! つーかいつまでもセルシアに負けてたまるか!」
「おおっ!? ブロッサムがすっごい頼もしいこと言ってるー!」
「……それは僕に対する宣戦布告と受け取っていいのかな?」
「え? 違っ……つかなんか笑顔が黒く見えるんだけど……!?」
「ブロッサム……セルシア様に対して何と言う無礼を……」
「すいませんごめんなさい申し訳ありませんでしたフリージア様ァ!!」
怒りと殺気と冷気の冷たい黒いオーラを発するフリージア。それにコンマ一秒で土下座するブロッサム。
うわぁ、面白い絵図←
「……あのさ、おまえら。時間もないんだし、そろそろ本題に戻ろうぜ?」
ここで勇敢にも、軌道修正したのはバロータだった。
たしかにそろそろ修正しないと、ボケ合戦で一日が終わってしまう←
「……そうだな」
「……そうですね」
全員少し落ち着き、冷静になる。
そして再び解決するべく、どうすればいいか話し合おうと口を開いた。
ガシャン。
「……え?」
……時だった。
……今、なんか澄み切った音が……。
そう思いつつ、全員で扉の方を向いた。
「みんなー、開いたよー♪」
『え゙』
全員の声がシンクロした。
なぜなら……扉の封印を、シルフィーが解除したからだった。
「あの、シルフィーさん……? いつの間に――というか、どうやって……?」
「え? みんなが話し合ってる内に、カチャカチャガチャーン! って」
「いや、抽象的過ぎてわかんねぇよ……」
フリージアの問いに明るく答えるが、バロータに力無くツッコミを入れられる。
……要するに俺らが馬鹿話してる内に、シルフィーは一人で解読、解除したとのことらしい。
「……もしかしてさ。シルフィーって、意外と天才?」
「……いや。魔法の腕に関しては知ってたけど……封印解除までは……」
「俺もたった今思い知った……」
レオのつぶやきに、俺もブロッサムもあらためて思い知らされる。
(((さすが昨年賢者学科トップの弟……)))
再び全員の心が一斉にシンクロした。
何とも言えぬ沈黙がしばし流れる。
「……今日はもう遅いし、一旦休憩するか」
気まずい沈黙を打ち破る俺。
消耗仕切ってるのは事実だし、話が脱線したりなんだりで脱力感に襲われてる。ぶっちゃけもう何もしたくなかった。
みんなも同じ気持ちだったらしく、反論することなく休憩キャンプの準備を始めるのだった。
――――
(いろんな意味で)体力が消耗した俺らは休息に入る。
順番に見張りを交代しながらな。
「……ん……」
どれくらい寝たかな……?
重たいはずのまぶたが勝手に開く。どうやら目が覚めたっぽいな……。
「ん? なんだ、起きちまったのか? アユミ」
「……そうらしいな」
今の見張りはバロータか。どうやら起きてるのは俺とこいつだけっぽいな。
他の皆様はぐっすり良眠中だ。
「全員よく寝てるな」
「ああ。セルシアもフリージアもブロッサムも、ガキみたいな顔しやがって……」
「たしかに」
なんつーか……無防備全開? って感じか?
……三人ともスゲー可愛い寝顔なんですが←
(性格と口調につい喧嘩腰になっけど……こいつら全員顔は良いんだよなあ……)
同じパーティのブロッサムの寝顔なら何度か(盗み)見たことはあるが、生徒会長とその執事の安らかな寝顔なんざ、初めて見た。
……つーか普通は見れないな。すごいレア映像だろ。
……写真撮ったら超高値で売りさばけるはず……!!←
「……おい、全部口に出てるぞ」
「……チッ」
バロータに呆れながら言われてしまった。
……不覚だ←
「……セルシアもよくアユミを選んだな……」
「あ? なんか言った?」
「いーや。なんでもねーよ」
「……?」
たしかに何か言った気がしたが……気のせいか。
会話が無くなり、かと言って眠気も無いから、俺も座り直して炎を見つめる。
(そういや……バロータと二人だけで会話するのって初めてだな)
音を発てて燃えるたき火を見ながら、ふとそう思った。
バロータってたいていセルシアとフリージア、もしくはレオやシルフィーといるからな。
授業でも、前衛学科組でレオやセルシア、ブーゲンビリアも一緒にいるし。
(……よくよく考えたら……俺、バロータのこと、あんまり知らないな)
セルシアはここ最近いるし、フリージアはセルシア絡みで性格変わるからわかりやすい。
……けどバロータはわからなかった。話さなかったからってのもあるけど。
「(……なんか話してみるか)バロータ、ちょっと話し相手してもらってもいいか?」
「へ? なんだよ、改まって。べつにいいけど」
どうせ寝れないし、話し相手はバロータだけだしな。
こいつを知る良いチャンスだ。
「そうだな……バロータは、ブロッサムのことをどう思ってんだ? こいつ、なんだかんだで家名を気にしてっからさ」
「ブロッサム? そうだな……良いヤツってのはわかるぜ? ……あと、おまえと会ってから結構変わったな。良い方向にさ」
「ふぅん……結構見てんだな、おまえ」
たき火越しに笑って言えば「わかりやすいだけだって」と返される。
「そういうアユミはどうなんだよ。ブロッサムのこと、どう思ってんだ?」
「俺か? 決まってるだろ」
軽口を叩きながら言うバロータの問いに、すっと言葉が流れた。
「大切な奴」
バロータが一瞬黙り、虚を突かれたような顔をする。
「こいつにはいろいろ助けられてんだ。ただの仲間じゃ足りやしねぇ。……命に代えても守りたい奴、だな」
素直な気持ちが流れでる。
冥府の迷宮の時も、不安に押し流されそうな時も、ブロッサムが助けてくれた。
ブロッサムの存在があるから、俺はまだ戦えるし、負けられないんだ。
「掛け替えのない存在だよ」
きっとこの先、ブロッサム以上に大切な奴なんていない。
だって俺の相棒は、こいつじゃなきゃダメなんだから。
俺を救ってくれた、ブロッサムじゃなきゃ。
「……うわあ。聞いてるこっちが恥ずかしいな」
「おまえはそういうのに縁がなさそうだしな」
「うっ……! めっちゃ気にしてることを……」
ぶつぶつとつぶやくバロータだが、降参と言わんばかりに両手をあげた。
「もういいや。この話は……」
「そりゃ残念」
「おまえ、意外と意地悪だな。……まあいいや。俺からも質問あるけどいいか?」
今度は俺が驚いた。まさかバロータに質問されるとは。
面食いつつ「どうぞ」と促す。
「おまえはさ……執事とかメイドとか……主従関係とか、どう思ってる?」
「主従関係? んー……べつにどうでもいいな。つかむしろ欝陶しい」
ストレートに意見を言う。
俺は巫女の家系に生まれて、何かと付き人やら護衛とか付けられた経験がある。
……が、どの護衛も口煩い頭の固い奴ばっかりだったせいか、正直欝陶しかった。
独自で学んだ剣術と体術と姑息な手(罠とか砂掛けとか)で全員ボコボコに叩きのめして追い出した過去があるくらいだ。
「俺だったら息が詰まりそうだ。ブロッサムに執事がいないことに感謝してるくらい」
「アユミ全開な言い方だな……まあいいけど」
「けどなんでそれを? ……セルシアとフリージアに関係してんだろ」
俺が聞けば「んー……」と生返事が返ってくる。
「なんつーかさ……このご時世に執事とかメイドとか、おかしな制度だと思わねぇ?」
「……つまり?」
「フリージアはセルシアに仕えることが幸せだとか言ってるけど……俺にはよくわからねぇや。対等な友達の方が、ずっと楽しいと思うんだけどよ」
「……ソレ、寂しいってこと?」
トーンの落ちた声に言えば、バロータは「……どうだろ」と苦笑いでごまかされた。
「……考えなんて人それぞれだし、俺とおまえの考えが、必ずしも同じって訳じゃないだろ? 俺は主従関係はいらないけど、だからってフリージアや執事を否定してる訳でもない」
個人の幸せなんてばらばらだ。すべてが一致なんてありえない。
「おまえは何を考えて俺に聞いたんだ? 何がおまえにそう言わせてんだ?」
「……おまえって奴は……」
核心ついたのか、ため息をつかれた。
……もしかしたら、バロータはフリージアが羨ましいと思ってるのかもしれない。
他人には踏み込めない、主従という関係で結ばれている二人が。
「バロータ。おまえ……」
どこか遠慮しがちな感じはそれが原因か?
そう聞こうとした瞬間、ハッと気づいた。
「隠れてないで出てこい。……そこにいるだろ!」
気配のある奥へ向け、サンダーを放つ。
バシッ!
「……っ! なるほど……ヌラリの言う通り、ホント勘が鋭いね。キミって」
軽く火傷を負った左手を摩りながら、緑の髪のエルフが現れた。
色違いのドラッケン学園の制服を着ている……闇の生徒会だろうな。
「いつの間に……! おい! 皆、起きろ! 敵だ!」
「!! どうした!?」
「むにゃ……」
「みー……」
抜刀し、対峙する俺の代わりに、バロータが全員を起こす。
……約二名は半分夢の世界にいるようだけど。
「誰だ、おまえ」
「僕はスティクス」
「そうか。宝具狙いなら即刻帰れ、闇の生徒会」
「いきなりだね……それに、言ってないのに闇の生徒会扱い?」
「この洞窟で俺らの襲撃を行う物好きはおまえらしかいねぇよ」
「なるほど……一理あるね。……しかし残念だけど、僕の目的は宝具じゃない……紹介だよ」
「……紹介?」
意味がわからない。
そう思ってると、奥からまた誰かの気配が現れた。
「…………」
「……おまえは……」
「紹介しよう。闇の生徒会の新メンバー、クラティウス君だ」
現れたのは……キルシュトルテのメイド――クラティウスだった。
「クラティウス……なんで、闇の生徒会に……!?」
ブロッサムが信じられない、といった感じに叫ぶ。
まさか知り合いが敵になるとは、な。
「何を言った」
「主従関係がくだらない制度だってことだよ。……フリージア君、君もウィンターコスモスの奴隷なんかやめて、僕らと来ないか?」
「!」
セルシアの息が飲むのが聞こえた。
こいつ……フリージアまでたぶらかす気か。
「お断りします。私の命は、スノーの名を名乗った時よりセルシア様にお預けしておりますので」
「その覚悟もいつまで持つかな? ――まあいい。せっかくだ……力を見せてもらおうか!」
スティクスが叫ぶと、同時に寒気に似た感覚が背筋を走った。
闇の魔力が溢れ、そしてスティクスの前に闇の精霊が大量に召喚される。
「召喚魔法……精霊使いか」
「ブロッサム。術者を任せていいか? ……俺、メイドの相手をしなくちゃいけないみたいだから」
刀を構え、こちらに刃を向けるクラティウスと向き合いながら伝える。
本職はメイドだが、奴は侍学科にも所属している。ブロッサムには少々荷が重いだろうな。
かと言ってセルシアたちの助けも期待できない。なぜなら奴らは闇の精霊たちを倒すので精一杯だからな。
「相手は精霊使いだけど……大丈夫か?」
「無茶苦茶言うな、おまえ……。べつにいいけど」
呆れながらも杖を構えるブロッサムに、不敵な笑みを返しておく。
「乗ってくれるって信じてたよ。……じゃ! よろしく!」
軽口を叩きながら、クラティウスに向かって突っ込む。
もちろん命のやり取りはしない。何があったか問い詰めないといけないからな。
「クラティウス。何が目的でそっちについた」
「…………」
「だんまり、か。これは相当根が深いようだな」
目を見ながらたずねるが、答える気はないらしい。
ただ……時折目が泣きそうに歪んでる気がする。
自分でそっちに行ったが、本心ではないってことかな……。
(とにかくブロッサムがあいつを倒すまで、足止めしておかないと……)
クラティウスも本気か、剣術が凄まじい。互いを傷つかずに凌ぐには、少々難しい。
早く、向こうが決着つけてくれないと……。
邪魔を退けたことなので、再び俺たちは洞窟内を進んでいった。
「って……」
「え~? 行き止まり~?」
……が。途中行き止まりに着いた。
「道を間違えた……? いや待て。だけど途中で分かれ道なんてないし……」
「ブロッサム。何とかできないのか?」
「ちょっと待てよ。今考え中――」
「おーい、フリージア先生ー。何とかならないかー」
「うぉーーーいッ!!」
思案するブロッサムを他所に、扉を調べるフリージアに声をかける。
がっくりうなだれるブロッサムを他所に、フリージアの方に扉に目を向けたまま話し出す。
「ここに文字が刻まれてますね。えっと……、この扉は……最初の封印……。悪しき力をここで止められなくば、封印の調べを…………この先はかすれていて読めません」
壁の文字を読んだフリージアは途中で首を振った。
要するに、途中で読めないってことか。
「…………」
シルフィーも興味深そうに石の扉を見ていたり、触ったりしている。
その間にも俺らはフリージアに質問攻めだ。
「僕らにこの扉を開けることはできないのか?」
「少し時間がかかると思いますが、もう少し解読を進めれば、なんとかなると思います」
フリージアの言葉に、俺はちょっとげんなりする。
「時間かかんのかよ……。ブロッサム、やっぱりおまえが何とかしろや」
「だからなんで俺!?」
「こんな時の為の、一家に一台ブロッサムだろ」
「何ソレ? おまえ俺をなんだと思ってんの!?」
「僕には期待しないの? アユミ」
何故かここでセルシアが口を挟んだ。
――気のせいか? なんか笑顔に陰りがかかってる気が……。
「……なんでテメーが口を挟む。つかしねぇよ、おまえには」
「それは遠回しに僕では役に立たないと言う意味かい?」
「セルシア様が役に立たないことなど、絶対有り得ません!」
「なんでおまえが力説してんだ、フリージア」
セルシア至上主義なフリージアの叫びにツッコミを入れる。
……嫌な予感は当たるな。この辺りから俺たちの会話が暴走し始める訳で……。
「セルシアにできるのか? 魔力ならウチのブロッサム様が上だろ」
「ブロッサムに出来てセルシア様に出来ないことなどありません! というかこの私が認めません!」
「俺の扱いひどくね!?」
「え? べつに今に始まったことじゃないじゃん」
「ん゙な゙っ……!!」
さりげないレオの追撃。
ブロッサムの心にダメージを受けたのは明白だった。
「レオ。ちょっと言い過ぎよ」
「えー。事実なのになんでさ」
「事実でも言っていいことと悪いことがあるでしょー」
ブーゲンビリアとチューリップが注意するが、レオは聞き流してぶーぶー文句言ってる。
「お……俺だってやる時はやるぞ! つーかいつまでもセルシアに負けてたまるか!」
「おおっ!? ブロッサムがすっごい頼もしいこと言ってるー!」
「……それは僕に対する宣戦布告と受け取っていいのかな?」
「え? 違っ……つかなんか笑顔が黒く見えるんだけど……!?」
「ブロッサム……セルシア様に対して何と言う無礼を……」
「すいませんごめんなさい申し訳ありませんでしたフリージア様ァ!!」
怒りと殺気と冷気の冷たい黒いオーラを発するフリージア。それにコンマ一秒で土下座するブロッサム。
うわぁ、面白い絵図←
「……あのさ、おまえら。時間もないんだし、そろそろ本題に戻ろうぜ?」
ここで勇敢にも、軌道修正したのはバロータだった。
たしかにそろそろ修正しないと、ボケ合戦で一日が終わってしまう←
「……そうだな」
「……そうですね」
全員少し落ち着き、冷静になる。
そして再び解決するべく、どうすればいいか話し合おうと口を開いた。
ガシャン。
「……え?」
……時だった。
……今、なんか澄み切った音が……。
そう思いつつ、全員で扉の方を向いた。
「みんなー、開いたよー♪」
『え゙』
全員の声がシンクロした。
なぜなら……扉の封印を、シルフィーが解除したからだった。
「あの、シルフィーさん……? いつの間に――というか、どうやって……?」
「え? みんなが話し合ってる内に、カチャカチャガチャーン! って」
「いや、抽象的過ぎてわかんねぇよ……」
フリージアの問いに明るく答えるが、バロータに力無くツッコミを入れられる。
……要するに俺らが馬鹿話してる内に、シルフィーは一人で解読、解除したとのことらしい。
「……もしかしてさ。シルフィーって、意外と天才?」
「……いや。魔法の腕に関しては知ってたけど……封印解除までは……」
「俺もたった今思い知った……」
レオのつぶやきに、俺もブロッサムもあらためて思い知らされる。
(((さすが昨年賢者学科トップの弟……)))
再び全員の心が一斉にシンクロした。
何とも言えぬ沈黙がしばし流れる。
「……今日はもう遅いし、一旦休憩するか」
気まずい沈黙を打ち破る俺。
消耗仕切ってるのは事実だし、話が脱線したりなんだりで脱力感に襲われてる。ぶっちゃけもう何もしたくなかった。
みんなも同じ気持ちだったらしく、反論することなく休憩キャンプの準備を始めるのだった。
――――
(いろんな意味で)体力が消耗した俺らは休息に入る。
順番に見張りを交代しながらな。
「……ん……」
どれくらい寝たかな……?
重たいはずのまぶたが勝手に開く。どうやら目が覚めたっぽいな……。
「ん? なんだ、起きちまったのか? アユミ」
「……そうらしいな」
今の見張りはバロータか。どうやら起きてるのは俺とこいつだけっぽいな。
他の皆様はぐっすり良眠中だ。
「全員よく寝てるな」
「ああ。セルシアもフリージアもブロッサムも、ガキみたいな顔しやがって……」
「たしかに」
なんつーか……無防備全開? って感じか?
……三人ともスゲー可愛い寝顔なんですが←
(性格と口調につい喧嘩腰になっけど……こいつら全員顔は良いんだよなあ……)
同じパーティのブロッサムの寝顔なら何度か(盗み)見たことはあるが、生徒会長とその執事の安らかな寝顔なんざ、初めて見た。
……つーか普通は見れないな。すごいレア映像だろ。
……写真撮ったら超高値で売りさばけるはず……!!←
「……おい、全部口に出てるぞ」
「……チッ」
バロータに呆れながら言われてしまった。
……不覚だ←
「……セルシアもよくアユミを選んだな……」
「あ? なんか言った?」
「いーや。なんでもねーよ」
「……?」
たしかに何か言った気がしたが……気のせいか。
会話が無くなり、かと言って眠気も無いから、俺も座り直して炎を見つめる。
(そういや……バロータと二人だけで会話するのって初めてだな)
音を発てて燃えるたき火を見ながら、ふとそう思った。
バロータってたいていセルシアとフリージア、もしくはレオやシルフィーといるからな。
授業でも、前衛学科組でレオやセルシア、ブーゲンビリアも一緒にいるし。
(……よくよく考えたら……俺、バロータのこと、あんまり知らないな)
セルシアはここ最近いるし、フリージアはセルシア絡みで性格変わるからわかりやすい。
……けどバロータはわからなかった。話さなかったからってのもあるけど。
「(……なんか話してみるか)バロータ、ちょっと話し相手してもらってもいいか?」
「へ? なんだよ、改まって。べつにいいけど」
どうせ寝れないし、話し相手はバロータだけだしな。
こいつを知る良いチャンスだ。
「そうだな……バロータは、ブロッサムのことをどう思ってんだ? こいつ、なんだかんだで家名を気にしてっからさ」
「ブロッサム? そうだな……良いヤツってのはわかるぜ? ……あと、おまえと会ってから結構変わったな。良い方向にさ」
「ふぅん……結構見てんだな、おまえ」
たき火越しに笑って言えば「わかりやすいだけだって」と返される。
「そういうアユミはどうなんだよ。ブロッサムのこと、どう思ってんだ?」
「俺か? 決まってるだろ」
軽口を叩きながら言うバロータの問いに、すっと言葉が流れた。
「大切な奴」
バロータが一瞬黙り、虚を突かれたような顔をする。
「こいつにはいろいろ助けられてんだ。ただの仲間じゃ足りやしねぇ。……命に代えても守りたい奴、だな」
素直な気持ちが流れでる。
冥府の迷宮の時も、不安に押し流されそうな時も、ブロッサムが助けてくれた。
ブロッサムの存在があるから、俺はまだ戦えるし、負けられないんだ。
「掛け替えのない存在だよ」
きっとこの先、ブロッサム以上に大切な奴なんていない。
だって俺の相棒は、こいつじゃなきゃダメなんだから。
俺を救ってくれた、ブロッサムじゃなきゃ。
「……うわあ。聞いてるこっちが恥ずかしいな」
「おまえはそういうのに縁がなさそうだしな」
「うっ……! めっちゃ気にしてることを……」
ぶつぶつとつぶやくバロータだが、降参と言わんばかりに両手をあげた。
「もういいや。この話は……」
「そりゃ残念」
「おまえ、意外と意地悪だな。……まあいいや。俺からも質問あるけどいいか?」
今度は俺が驚いた。まさかバロータに質問されるとは。
面食いつつ「どうぞ」と促す。
「おまえはさ……執事とかメイドとか……主従関係とか、どう思ってる?」
「主従関係? んー……べつにどうでもいいな。つかむしろ欝陶しい」
ストレートに意見を言う。
俺は巫女の家系に生まれて、何かと付き人やら護衛とか付けられた経験がある。
……が、どの護衛も口煩い頭の固い奴ばっかりだったせいか、正直欝陶しかった。
独自で学んだ剣術と体術と姑息な手(罠とか砂掛けとか)で全員ボコボコに叩きのめして追い出した過去があるくらいだ。
「俺だったら息が詰まりそうだ。ブロッサムに執事がいないことに感謝してるくらい」
「アユミ全開な言い方だな……まあいいけど」
「けどなんでそれを? ……セルシアとフリージアに関係してんだろ」
俺が聞けば「んー……」と生返事が返ってくる。
「なんつーかさ……このご時世に執事とかメイドとか、おかしな制度だと思わねぇ?」
「……つまり?」
「フリージアはセルシアに仕えることが幸せだとか言ってるけど……俺にはよくわからねぇや。対等な友達の方が、ずっと楽しいと思うんだけどよ」
「……ソレ、寂しいってこと?」
トーンの落ちた声に言えば、バロータは「……どうだろ」と苦笑いでごまかされた。
「……考えなんて人それぞれだし、俺とおまえの考えが、必ずしも同じって訳じゃないだろ? 俺は主従関係はいらないけど、だからってフリージアや執事を否定してる訳でもない」
個人の幸せなんてばらばらだ。すべてが一致なんてありえない。
「おまえは何を考えて俺に聞いたんだ? 何がおまえにそう言わせてんだ?」
「……おまえって奴は……」
核心ついたのか、ため息をつかれた。
……もしかしたら、バロータはフリージアが羨ましいと思ってるのかもしれない。
他人には踏み込めない、主従という関係で結ばれている二人が。
「バロータ。おまえ……」
どこか遠慮しがちな感じはそれが原因か?
そう聞こうとした瞬間、ハッと気づいた。
「隠れてないで出てこい。……そこにいるだろ!」
気配のある奥へ向け、サンダーを放つ。
バシッ!
「……っ! なるほど……ヌラリの言う通り、ホント勘が鋭いね。キミって」
軽く火傷を負った左手を摩りながら、緑の髪のエルフが現れた。
色違いのドラッケン学園の制服を着ている……闇の生徒会だろうな。
「いつの間に……! おい! 皆、起きろ! 敵だ!」
「!! どうした!?」
「むにゃ……」
「みー……」
抜刀し、対峙する俺の代わりに、バロータが全員を起こす。
……約二名は半分夢の世界にいるようだけど。
「誰だ、おまえ」
「僕はスティクス」
「そうか。宝具狙いなら即刻帰れ、闇の生徒会」
「いきなりだね……それに、言ってないのに闇の生徒会扱い?」
「この洞窟で俺らの襲撃を行う物好きはおまえらしかいねぇよ」
「なるほど……一理あるね。……しかし残念だけど、僕の目的は宝具じゃない……紹介だよ」
「……紹介?」
意味がわからない。
そう思ってると、奥からまた誰かの気配が現れた。
「…………」
「……おまえは……」
「紹介しよう。闇の生徒会の新メンバー、クラティウス君だ」
現れたのは……キルシュトルテのメイド――クラティウスだった。
「クラティウス……なんで、闇の生徒会に……!?」
ブロッサムが信じられない、といった感じに叫ぶ。
まさか知り合いが敵になるとは、な。
「何を言った」
「主従関係がくだらない制度だってことだよ。……フリージア君、君もウィンターコスモスの奴隷なんかやめて、僕らと来ないか?」
「!」
セルシアの息が飲むのが聞こえた。
こいつ……フリージアまでたぶらかす気か。
「お断りします。私の命は、スノーの名を名乗った時よりセルシア様にお預けしておりますので」
「その覚悟もいつまで持つかな? ――まあいい。せっかくだ……力を見せてもらおうか!」
スティクスが叫ぶと、同時に寒気に似た感覚が背筋を走った。
闇の魔力が溢れ、そしてスティクスの前に闇の精霊が大量に召喚される。
「召喚魔法……精霊使いか」
「ブロッサム。術者を任せていいか? ……俺、メイドの相手をしなくちゃいけないみたいだから」
刀を構え、こちらに刃を向けるクラティウスと向き合いながら伝える。
本職はメイドだが、奴は侍学科にも所属している。ブロッサムには少々荷が重いだろうな。
かと言ってセルシアたちの助けも期待できない。なぜなら奴らは闇の精霊たちを倒すので精一杯だからな。
「相手は精霊使いだけど……大丈夫か?」
「無茶苦茶言うな、おまえ……。べつにいいけど」
呆れながらも杖を構えるブロッサムに、不敵な笑みを返しておく。
「乗ってくれるって信じてたよ。……じゃ! よろしく!」
軽口を叩きながら、クラティウスに向かって突っ込む。
もちろん命のやり取りはしない。何があったか問い詰めないといけないからな。
「クラティウス。何が目的でそっちについた」
「…………」
「だんまり、か。これは相当根が深いようだな」
目を見ながらたずねるが、答える気はないらしい。
ただ……時折目が泣きそうに歪んでる気がする。
自分でそっちに行ったが、本心ではないってことかな……。
(とにかくブロッサムがあいつを倒すまで、足止めしておかないと……)
クラティウスも本気か、剣術が凄まじい。互いを傷つかずに凌ぐには、少々難しい。
早く、向こうが決着つけてくれないと……。