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白銀の海底洞窟

 ――――

 邪魔を退けたことなので、再び俺たちは洞窟内を進んでいった。

「って……」

「え~? 行き止まり~?」

 ……が。途中行き止まりに着いた。

「道を間違えた……? いや待て。だけど途中で分かれ道なんてないし……」

「ブロッサム。何とかできないのか?」

「ちょっと待てよ。今考え中――」

「おーい、フリージア先生ー。何とかならないかー」

「うぉーーーいッ!!」

 思案するブロッサムを他所に、扉を調べるフリージアに声をかける。
 がっくりうなだれるブロッサムを他所に、フリージアの方に扉に目を向けたまま話し出す。

「ここに文字が刻まれてますね。えっと……、この扉は……最初の封印……。悪しき力をここで止められなくば、封印の調べを…………この先はかすれていて読めません」

 壁の文字を読んだフリージアは途中で首を振った。
 要するに、途中で読めないってことか。

「…………」

 シルフィーも興味深そうに石の扉を見ていたり、触ったりしている。
 その間にも俺らはフリージアに質問攻めだ。

「僕らにこの扉を開けることはできないのか?」

「少し時間がかかると思いますが、もう少し解読を進めれば、なんとかなると思います」

 フリージアの言葉に、俺はちょっとげんなりする。

「時間かかんのかよ……。ブロッサム、やっぱりおまえが何とかしろや」

「だからなんで俺!?」

「こんな時の為の、一家に一台ブロッサムだろ」

「何ソレ? おまえ俺をなんだと思ってんの!?」

「僕には期待しないの? アユミ」

 何故かここでセルシアが口を挟んだ。
 ――気のせいか? なんか笑顔に陰りがかかってる気が……。

「……なんでテメーが口を挟む。つかしねぇよ、おまえには」

「それは遠回しに僕では役に立たないと言う意味かい?」

「セルシア様が役に立たないことなど、絶対有り得ません!」

「なんでおまえが力説してんだ、フリージア」

 セルシア至上主義なフリージアの叫びにツッコミを入れる。
 ……嫌な予感は当たるな。この辺りから俺たちの会話が暴走し始める訳で……。

「セルシアにできるのか? 魔力ならウチのブロッサム様が上だろ」

「ブロッサムに出来てセルシア様に出来ないことなどありません! というかこの私が認めません!」

「俺の扱いひどくね!?」

「え? べつに今に始まったことじゃないじゃん」

「ん゙な゙っ……!!」

 さりげないレオの追撃。
 ブロッサムの心にダメージを受けたのは明白だった。

「レオ。ちょっと言い過ぎよ」

「えー。事実なのになんでさ」

「事実でも言っていいことと悪いことがあるでしょー」

 ブーゲンビリアとチューリップが注意するが、レオは聞き流してぶーぶー文句言ってる。

「お……俺だってやる時はやるぞ! つーかいつまでもセルシアに負けてたまるか!」

「おおっ!? ブロッサムがすっごい頼もしいこと言ってるー!」

「……それは僕に対する宣戦布告と受け取っていいのかな?」

「え? 違っ……つかなんか笑顔が黒く見えるんだけど……!?」

「ブロッサム……セルシア様に対して何と言う無礼を……」

「すいませんごめんなさい申し訳ありませんでしたフリージア様ァ!!」

 怒りと殺気と冷気の冷たい黒いオーラを発するフリージア。それにコンマ一秒で土下座するブロッサム。
 うわぁ、面白い絵図←

「……あのさ、おまえら。時間もないんだし、そろそろ本題に戻ろうぜ?」

 ここで勇敢にも、軌道修正したのはバロータだった。
 たしかにそろそろ修正しないと、ボケ合戦で一日が終わってしまう←

「……そうだな」

「……そうですね」

 全員少し落ち着き、冷静になる。
 そして再び解決するべく、どうすればいいか話し合おうと口を開いた。

 ガシャン。

「……え?」

 ……時だった。
 ……今、なんか澄み切った音が……。
 そう思いつつ、全員で扉の方を向いた。

「みんなー、開いたよー♪」

『え゙』

 全員の声がシンクロした。
 なぜなら……扉の封印を、シルフィーが解除したからだった。

「あの、シルフィーさん……? いつの間に――というか、どうやって……?」

「え? みんなが話し合ってる内に、カチャカチャガチャーン! って」

「いや、抽象的過ぎてわかんねぇよ……」

 フリージアの問いに明るく答えるが、バロータに力無くツッコミを入れられる。
 ……要するに俺らが馬鹿話してる内に、シルフィーは一人で解読、解除したとのことらしい。

「……もしかしてさ。シルフィーって、意外と天才?」

「……いや。魔法の腕に関しては知ってたけど……封印解除までは……」

「俺もたった今思い知った……」

 レオのつぶやきに、俺もブロッサムもあらためて思い知らされる。

(((さすが昨年賢者学科トップの弟……)))

 再び全員の心が一斉にシンクロした。
 何とも言えぬ沈黙がしばし流れる。

「……今日はもう遅いし、一旦休憩するか」

 気まずい沈黙を打ち破る俺。
 消耗仕切ってるのは事実だし、話が脱線したりなんだりで脱力感に襲われてる。ぶっちゃけもう何もしたくなかった。
 みんなも同じ気持ちだったらしく、反論することなく休憩キャンプの準備を始めるのだった。

 ――――

(いろんな意味で)体力が消耗した俺らは休息に入る。
 順番に見張りを交代しながらな。

「……ん……」

 どれくらい寝たかな……?
 重たいはずのまぶたが勝手に開く。どうやら目が覚めたっぽいな……。

「ん? なんだ、起きちまったのか? アユミ」

「……そうらしいな」

 今の見張りはバロータか。どうやら起きてるのは俺とこいつだけっぽいな。
 他の皆様はぐっすり良眠中だ。

「全員よく寝てるな」

「ああ。セルシアもフリージアもブロッサムも、ガキみたいな顔しやがって……」

「たしかに」

 なんつーか……無防備全開? って感じか?
 ……三人ともスゲー可愛い寝顔なんですが←

(性格と口調につい喧嘩腰になっけど……こいつら全員顔は良いんだよなあ……)

 同じパーティのブロッサムの寝顔なら何度か(盗み)見たことはあるが、生徒会長とその執事の安らかな寝顔なんざ、初めて見た。
 ……つーか普通は見れないな。すごいレア映像だろ。
 ……写真撮ったら超高値で売りさばけるはず……!!←

「……おい、全部口に出てるぞ」

「……チッ」

 バロータに呆れながら言われてしまった。
 ……不覚だ←

「……セルシアもよくアユミを選んだな……」

「あ? なんか言った?」

「いーや。なんでもねーよ」

「……?」

 たしかに何か言った気がしたが……気のせいか。
 会話が無くなり、かと言って眠気も無いから、俺も座り直して炎を見つめる。

(そういや……バロータと二人だけで会話するのって初めてだな)

 音を発てて燃えるたき火を見ながら、ふとそう思った。
 バロータってたいていセルシアとフリージア、もしくはレオやシルフィーといるからな。
 授業でも、前衛学科組でレオやセルシア、ブーゲンビリアも一緒にいるし。

(……よくよく考えたら……俺、バロータのこと、あんまり知らないな)

 セルシアはここ最近いるし、フリージアはセルシア絡みで性格変わるからわかりやすい。
 ……けどバロータはわからなかった。話さなかったからってのもあるけど。

「(……なんか話してみるか)バロータ、ちょっと話し相手してもらってもいいか?」

「へ? なんだよ、改まって。べつにいいけど」

 どうせ寝れないし、話し相手はバロータだけだしな。
 こいつを知る良いチャンスだ。

「そうだな……バロータは、ブロッサムのことをどう思ってんだ? こいつ、なんだかんだで家名を気にしてっからさ」

「ブロッサム? そうだな……良いヤツってのはわかるぜ? ……あと、おまえと会ってから結構変わったな。良い方向にさ」

「ふぅん……結構見てんだな、おまえ」

 たき火越しに笑って言えば「わかりやすいだけだって」と返される。

「そういうアユミはどうなんだよ。ブロッサムのこと、どう思ってんだ?」

「俺か? 決まってるだろ」

 軽口を叩きながら言うバロータの問いに、すっと言葉が流れた。

「大切な奴」

 バロータが一瞬黙り、虚を突かれたような顔をする。

「こいつにはいろいろ助けられてんだ。ただの仲間じゃ足りやしねぇ。……命に代えても守りたい奴、だな」

 素直な気持ちが流れでる。
 冥府の迷宮の時も、不安に押し流されそうな時も、ブロッサムが助けてくれた。
 ブロッサムの存在があるから、俺はまだ戦えるし、負けられないんだ。

「掛け替えのない存在だよ」

 きっとこの先、ブロッサム以上に大切な奴なんていない。
 だって俺の相棒は、こいつじゃなきゃダメなんだから。
 俺を救ってくれた、ブロッサムじゃなきゃ。

「……うわあ。聞いてるこっちが恥ずかしいな」

「おまえはそういうのに縁がなさそうだしな」

「うっ……! めっちゃ気にしてることを……」

 ぶつぶつとつぶやくバロータだが、降参と言わんばかりに両手をあげた。

「もういいや。この話は……」

「そりゃ残念」

「おまえ、意外と意地悪だな。……まあいいや。俺からも質問あるけどいいか?」

 今度は俺が驚いた。まさかバロータに質問されるとは。
 面食いつつ「どうぞ」と促す。

「おまえはさ……執事とかメイドとか……主従関係とか、どう思ってる?」

「主従関係? んー……べつにどうでもいいな。つかむしろ欝陶しい」

 ストレートに意見を言う。
 俺は巫女の家系に生まれて、何かと付き人やら護衛とか付けられた経験がある。
 ……が、どの護衛も口煩い頭の固い奴ばっかりだったせいか、正直欝陶しかった。
 独自で学んだ剣術と体術と姑息な手(罠とか砂掛けとか)で全員ボコボコに叩きのめして追い出した過去があるくらいだ。

「俺だったら息が詰まりそうだ。ブロッサムに執事がいないことに感謝してるくらい」

「アユミ全開な言い方だな……まあいいけど」

「けどなんでそれを? ……セルシアとフリージアに関係してんだろ」

 俺が聞けば「んー……」と生返事が返ってくる。

「なんつーかさ……このご時世に執事とかメイドとか、おかしな制度だと思わねぇ?」

「……つまり?」

「フリージアはセルシアに仕えることが幸せだとか言ってるけど……俺にはよくわからねぇや。対等な友達の方が、ずっと楽しいと思うんだけどよ」

「……ソレ、寂しいってこと?」

 トーンの落ちた声に言えば、バロータは「……どうだろ」と苦笑いでごまかされた。

「……考えなんて人それぞれだし、俺とおまえの考えが、必ずしも同じって訳じゃないだろ? 俺は主従関係はいらないけど、だからってフリージアや執事を否定してる訳でもない」

 個人の幸せなんてばらばらだ。すべてが一致なんてありえない。

「おまえは何を考えて俺に聞いたんだ? 何がおまえにそう言わせてんだ?」

「……おまえって奴は……」

 核心ついたのか、ため息をつかれた。
 ……もしかしたら、バロータはフリージアが羨ましいと思ってるのかもしれない。
 他人には踏み込めない、主従という関係で結ばれている二人が。

「バロータ。おまえ……」

 どこか遠慮しがちな感じはそれが原因か?
 そう聞こうとした瞬間、ハッと気づいた。

「隠れてないで出てこい。……そこにいるだろ!」

 気配のある奥へ向け、サンダーを放つ。

 バシッ!

「……っ! なるほど……ヌラリの言う通り、ホント勘が鋭いね。キミって」

 軽く火傷を負った左手を摩りながら、緑の髪のエルフが現れた。
 色違いのドラッケン学園の制服を着ている……闇の生徒会だろうな。

「いつの間に……! おい! 皆、起きろ! 敵だ!」

「!! どうした!?」

「むにゃ……」

「みー……」

 抜刀し、対峙する俺の代わりに、バロータが全員を起こす。
 ……約二名は半分夢の世界にいるようだけど。

「誰だ、おまえ」

「僕はスティクス」

「そうか。宝具狙いなら即刻帰れ、闇の生徒会」

「いきなりだね……それに、言ってないのに闇の生徒会扱い?」

「この洞窟で俺らの襲撃を行う物好きはおまえらしかいねぇよ」

「なるほど……一理あるね。……しかし残念だけど、僕の目的は宝具じゃない……紹介だよ」

「……紹介?」

 意味がわからない。
 そう思ってると、奥からまた誰かの気配が現れた。

「…………」

「……おまえは……」

「紹介しよう。闇の生徒会の新メンバー、クラティウス君だ」

 現れたのは……キルシュトルテのメイド――クラティウスだった。

「クラティウス……なんで、闇の生徒会に……!?」

 ブロッサムが信じられない、といった感じに叫ぶ。
 まさか知り合いが敵になるとは、な。

「何を言った」

「主従関係がくだらない制度だってことだよ。……フリージア君、君もウィンターコスモスの奴隷なんかやめて、僕らと来ないか?」

「!」

 セルシアの息が飲むのが聞こえた。
 こいつ……フリージアまでたぶらかす気か。

「お断りします。私の命は、スノーの名を名乗った時よりセルシア様にお預けしておりますので」

「その覚悟もいつまで持つかな? ――まあいい。せっかくだ……力を見せてもらおうか!」

 スティクスが叫ぶと、同時に寒気に似た感覚が背筋を走った。
 闇の魔力が溢れ、そしてスティクスの前に闇の精霊が大量に召喚される。

「召喚魔法……精霊使いか」

「ブロッサム。術者を任せていいか? ……俺、メイドの相手をしなくちゃいけないみたいだから」

 刀を構え、こちらに刃を向けるクラティウスと向き合いながら伝える。
 本職はメイドだが、奴は侍学科にも所属している。ブロッサムには少々荷が重いだろうな。
 かと言ってセルシアたちの助けも期待できない。なぜなら奴らは闇の精霊たちを倒すので精一杯だからな。

「相手は精霊使いだけど……大丈夫か?」

「無茶苦茶言うな、おまえ……。べつにいいけど」

 呆れながらも杖を構えるブロッサムに、不敵な笑みを返しておく。

「乗ってくれるって信じてたよ。……じゃ! よろしく!」

 軽口を叩きながら、クラティウスに向かって突っ込む。
 もちろん命のやり取りはしない。何があったか問い詰めないといけないからな。

「クラティウス。何が目的でそっちについた」

「…………」

「だんまり、か。これは相当根が深いようだな」

 目を見ながらたずねるが、答える気はないらしい。
 ただ……時折目が泣きそうに歪んでる気がする。
 自分でそっちに行ったが、本心ではないってことかな……。

(とにかくブロッサムがあいつを倒すまで、足止めしておかないと……)

 クラティウスも本気か、剣術が凄まじい。互いを傷つかずに凌ぐには、少々難しい。
 早く、向こうが決着つけてくれないと……。
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