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白銀の海底洞窟

 とうとう本格的な戦場に向かおう、と言うことで。

「来ちゃいましたな、海底洞窟」

「ああ……つかホントに来ることになろうとは」

 冥府の迷宮でチューリップが話していたとこにホントに行くとは、な。
 一足先に洞窟前に来た俺たちは顔を見合わせる。

「えっとぉ……プリシアナ学院の創始者兼大魔道士アガシオンを倒した人って、光のセレスティア、だっけ? その人の輝きがいろんな場所に残っているって言われてるんだよね~」

「あー……そういやそんなこと聞いたような……つかそいつ、ブロッサムのご先祖さんだっけ。どうでもいいけど」

「あってるけど……おまえ、どうでもいいって……」

 呆れたような表情をしているな……。
 気にしないけどネ☆←

「…………。よし、セルシアたちが来たら行こう」

「……そうだな」

「み~……」

 ここに居ても寒いしな。
 三人頷いたことにより、俺たちはセルシアたちが来るのをおとなしく待つことにした。

 ――――

「うっ……げほっげほっ。……き、きついな」

「アユミ、大丈夫か?」

 ヒールをかけてくれたブロッサムに「ありがとう」と頷き返す。
 ……予想以上に厄介な洞窟だった。
 モンスターは山ほどいる。トラップはある。
 マジでめんどくさいな。

「こうすごいと、ホントに魔王が眠ってそうだよ~」

「いたら目ェ覚める前に首を斬り落とすさ」

「おまえの方が魔王っぽいな……」

 ため息をつくブロッサム。
 が、突然足を止めた。

「どうした」

「あれ、レオとセルシアたちじゃないか?」

「何?」

 ブロッサムが指さす方向を見ると……そこにはレオパーティとセルシアパーティがいた。

「何やってんだろ~」

「さあ。おい、何があった」

「あ! アユミさんたち!」

 声をかけると六人一斉に気がついた。
 全員の視線が集まると同時にあることに気づく。

「……これ……音楽か?」

「あ。あっちから明るい光が見えるよ~」

「……嫌な予感バリバリだな」

 ……そう。このセリフの通り、この洞窟にとても不自然な音楽が流れていた。
 加えて明らかに人工的な光がある。

「……行くのか?」

「行きたくない。……が、道がない以上、他に手段はない。……とりあえず様子を見ようか」

 幸い角から見えるからな。
 死角となった場所まで行き、奥の様子を覗いてみた。
 そこには――。

「はーい♪ 今日もボクのマジカルコンサートに集まってくれてありがとー!」

 そこには……でかいライブステージ、それに取り囲むように集まる闇の精霊たち。
 そしてステージの上でスポットライトを浴びて、ノリノリで歌っているアマリリスがいた。

「今はこんな場所でしか歌えないけど……もう少ししたら世界征服しちゃって、世界がボクのライブステージだからね!」

 闇の精霊相手に何を言ってんだが……。

「おいアマリリス。時間ないんだからちゃっちゃっと終わらせろ」

「もーうるさいなあ! マネージャーは黙っててよ」

「誰がマネージャーだ!」とステージの脇で憤慨しているのは……。

「あ! 兄ちゃん!」

 ……ディームだった。
 ……アマリリスとよく組むな、こいつ。

「さあ……今夜も君たちの歓声で、ボクの魔力……高めてね……♪」

「! ダメよ! アマリリスちゃん! そんなますます不良になるようなことをしちゃ!」

「兄ちゃーん! やめさせてよぉー!」

 兄弟の行動に、シルフィーとブーゲンビリアがステージ目掛けて走っていった。

「今飛び出しちゃダメだ! ブーゲンビリア君! シルフィネスト君!」

「いや、もう手遅れだっつの」

 ワンテンポ遅いセルシアにツッコミを入れた後、俺も二人の後を追った。
 前回のことを考えれば、アマリリスが俺らに攻撃してくる可能性はバリバリ高いからな。

「なっ!」

「!! ブーゲンビリア!? それにプリシアナの! どうしてここに!?」

「そんなことどうでもいいじゃない! もう一緒に帰りましょう? アマリリスちゃん!」

 ブーゲンビリアが説得するが、「どーでもよくないし!」と首を振る。
 が、脇にいる俺を見て少しだけ表情を変えた。

「……けど……予言の女やおまえたちがここにいるってことは……プリシアナの宝具を運んでるんだ?」

「……!」

 ……どうやら嫌な予感は最悪な状態で当たったらしい。
“予言の子”と“宝具”と言った。それはつまり……。

「アマリリスもディームも闇の生徒会ってことか」

「そうだよ! 予言の娘さん!」

「え……? 兄ちゃん、も……?」

「……っ」

 信じられないって顔をするシルフィー。
 だがディームはシルフィーから目を反らしている。

「テメェらも闇の生徒会とはな。薄々はそうじゃないかとは思ったけど。……とにかく、邪魔するならば退かすまでだ」

「ふんだ! ボクの人気アップの為にも、ここで宝具を奪って、ついでにアンタを悔しがらせてやるんだから!」

 俺をキッと睨むと「よし!」と意気込み、マイクを構えてきた。

「いでよ、バックダンサー!」

「誰がバックダンサーよ!」

 ……バックダンサー? かどうかは知らんが、アマリリスの叫びの後、色違いタカチホ制服を着込んだノームの女が出てきた。
 ちなみにどういう訳か、肩にはなかなか可愛い蛇がくっついてる。

「私は闇の生徒会メンバー、ジャコツ。言っておくけど、アマリリスのバックダンサーじゃないわよ!」

「ふん。ボクの人気に乗じて自分もアイドルデビューしたいとか言い出してるくせに」

「そんなんじゃないわよ!」

 ……アマリリス。こいつ、どんだけ生意気なんだ。味方とも仲が悪いじゃないか。
 現にジャコツは「アンタみたいな男より私の方がずっと人気が出るだろうって思ったから……」とか何とか言って反論してる。

「はいはい。ま、ボクの方が可愛いけどね!」

「可愛いだけで世の中やってけるかよ。身の程わきまえろ。ついでに常識と世渡りの知識も学んでこい」

「あー! もうー!! 一々うるさいんだよ、予言の女!」

 アマリリスとバチバチ睨み合う。
 ……どうやら俺とこいつはとことん相性が悪いらしい。

「落ち着けアマリリス。……とにかくやるぞ」

「はいよ! それじゃあちょっと予定が変わっちゃったけど……特別イベントってことで、コンサート始めるよ!」

 ディームの声掛けに頷き、歌いだすアマリリス。
 同時に地面からいつか見た黒い渦が現れ、闇の精霊たちが俺らに牙を向いてきた。

「またこいつらかよ!」

「しかも今回は数が多い!」

 素早く構えるバロータとレオ。
 ……つかセルシアパーティとレオパーティ囲まれてね!?

「アマリリス、ジャコツ。そいつらは任せたぞ」

「え? マネージャーは?」

「マネージャーじゃねぇ! ……俺はセルシアたちを抑えとく」

「ふぅん……ま、いいケド」

 ディームの顔を薄く笑いながらじろじろ見ているジャコツだが、すぐに俺に武器を向けてきた。
 ディームはそのまま闇の精霊と一緒に、セルシアとレオたちに攻撃し始める。

「あ……に、兄ちゃん!」

「な……!? シルフィー!」

 あのバカ……!
 闇の精霊を指揮するディームを追いかけ、あいつも群れの中に突っ込んでいった。
 ……まあそのあと、光の魔法で闇の精霊を攻撃しているから、多分大丈夫だろうが。

「アマリリス。あの娘は殺しちゃダメよ。エデンに斬られるのはゴメンなんだからね!」

「わかってるよ!」

 ……問題は俺とブロッサムか。
 2対2とは言え、ジャコツがどんな攻撃してくるかわからないからな。
 ……アマリリス? 奴は端から眼中に無い←

「ほら、行くよ!」

「くっ……このっ!」

 ジャコツが突っ込み、俺に短刀を向けてきた。
 右手の脇差で受け止め、素早く襟首掴んでこいつを放り投げる。

「……甘いわねっ!」

 ドスッ!

「チッ……!」

 ……なるほど。こいつ、くのいち学科か。
 投げられたにもかかわらず、空中で華麗に回転、さらに苦無まで投げてきた。
 おかげで右肩に突き刺さったじゃないか。

「アユミ!」

「キミもボクの虜にしてあげるよ! ブロッサム!」

「うっ……!!?」

 俺の援護に行こうとしたブロッサムだが、あいつはアマリリスに邪魔された。
 アマリリスは歌魔法『シャウト』を使い、魔法の音でブロッサムを攻撃している。

「ブロッサム……!」

「アンタの相手は私よ!」

「テメェ……!」

 俺は俺でジャコツに邪魔される。
 くのいち学科故の素早さ、回避等あり、アマリリスよりかなりできる。

「……なるほど。思った通りやるじゃないか。アマリリスより」

「あら、ありがとう。でもだからって手は抜かないわよ!」

 手裏剣やら短刀やら投げ付け、さらに飛び道具で死角からも襲い掛かられる。
 ……思った以上にできるな、こいつ。

(ディームもいるからセルシアたちの援護は期待できないな……シルフィーも戻って来ないし。……ブロッサムも難しいな)

 簡単に状況をまとめて……しかたない。俺だけで何とかするしかなさそうだ。
 だがどうしようか……。

(接近戦なら押し切れるが、飛び道具で距離は取られるし……一瞬。一瞬だけでも何とか……)

 そこまで考え、あることを思いついた。

「……しゃあねぇ。チクチクやられるよりマシか」

 真っ正面に向き直り、刀を収める。
 ここで一気にケリを着けないとな。

「もらった!」

 ジャコツは飛び道具を放ち、立ち止まった俺に向かって投げてきた。

「……のは俺だ!」

 最大のチャンス。
 放たれた飛び道具に、白刃一閃を放つ。
 元々は大勢のモンスターを薙ぎ払う居合だが、効果は覿面。放たれた飛び道具はみんな床に叩きつけられたり、弾かれたりされた。

「なっ……!?」

「隙だらけだ!」

「きゃあっ!?」

 驚いたジャコツにできたわずかな隙を見逃さず一瞬で詰め寄り、強烈な蹴りで地面に叩き落とした。
 ジャコツも防御が間に合わなかったのか、受け身を取った後肩を押さえて息を切らしている。

「……悪いが、俺の勝ちだな」

「チッ……ちょっとアマリリス! 援……」

 ジャコツは未だ助けに来ないアマリリスに、苛立ちながら声をかけた。

「ウィスプ!」

「うわぁっ!」

 あ。向こうは向こうで決着ついたらしいな。
 ブロッサムがアマリリスにウィスプを放ち、それを受けたアマリリスは後方へ吹っ飛ばされた。

「……終わったみたいだな」

「あいつ……」

 うわあ、額に青筋浮かんでますよ? ジャコツさん。
 起き上がったアマリリスは立ち上がり、その場でじだんだ踏みはじめる。

「~~~っ! こんな奴らに負けるなんて、悔しい! ジャコツ! おまえが弱いせいだからな!」

「はあ? なんでアンタはすぐに人のせいにするのよ!」

「くそっ、負けた……ってなんですぐにおまえら言い合いするんだよ!」

 俺らに敗北した二人は目の前で言い合いを始め、同じく敗北したディームは戻って来るなり額に青筋を浮かべながら叫んだ。
 つか……アマリリス、どんだけ人に責任なすりつけるんだよ。ディームの気苦労が垣間見た気がする。

「とにかく! 敵の前でみっともない争いはやめろ! いいから一旦退くぞ!」

「そうね。ディームの言う通りだわ」

「チッ……」

 ディームの叫びに二人は言い争いをやめた。
 アマリリスはまだ不満そうだけど。

「また会いましょう。予言の子も分家も面白いわ……なんだったら、闇の生徒会に入れてあげてもいいわよ」

「「誰が行くか!!」」

 薄ら笑いで闇の中に姿を消したジャコツに怒鳴る俺とブロッサム。
 それはもう綺麗にハモってな。

「兄ちゃん……なんで……」

「……うるさい……」

「え……あ、待って! 兄ちゃん!」

 シルフィーの声も振り切り、ディームも転移魔法テレポルでどこかへ言ってしまった。
 残されたシルフィーは泣きそうな顔で呆然としている。

「こ、今度は負けないんだからな!」

 最後に残った(つーか取り残された)アマリリスも逃げようと踵を返す。

「待って! アマリリスちゃん!」

「!」

 寸前、ブーゲンビリアがアマリリスの手を掴んだ。
 そしてアマリリスに必死に懇願する。

「お願い、アマリリスちゃん! 戻ってきて……」

「嫌だって言ってんだろ! おまえと一緒じゃダメだって何度言えば……」

 まだブーゲンビリアを拒否しているな……。
 けどアマリリスの叫びに「それなら!」とブーゲンビリアが叫ぶ。

「私……アイドル辞めてもいいから!」

「な……!?」

「え!? ブーゲンビリアって、まだアイドルになれてないだろ!? なってないものをどうやって辞め……」

「しっ! 余計なこと言わない!」

 横から真面目に茶々入れたレオの口をチューリップが両手で塞いだ。
 その間にも、ブーゲンビリアの必死な説得が聞こえてくる。

「私、アイドル辞めてアマリリスちゃんのマネージャーになってもいい……」

「お、おまえ、何言って……アイドルになるって言うのは、ブーゲンビリアの子供の頃からの夢だろ!」

「それはアマリリスちゃんと一緒のステージに立てると思ってたからだもの!」

 おお……何と言う弟思い……俺とは大違いだ←

「一緒にアイドルでいられないのなら……私はマネージャーでいいから、アマリリスちゃんと一緒にいたい……私、今日で普通の女の子に戻るわ!」

「だから女じゃないし!」

「いいから黙れ、レオ!」

 今度はブロッサムがレオを止めた。
 うん、空気の読めるツッコミ係はやっぱブロッサムが一番だな←

「ばっ……ばっかじゃないの!? もう! テンション下がった! 今日は帰る!」

「ああん! アマリリスちゃあん!!」

 ブーゲンビリアの発言に気が削ぎれたんだな。
 闇の観客たちと一緒に黒い渦の中へ姿を消した。
 残された俺らに重苦しい沈黙が流れる。

「ここにきて闇の生徒会か……」

「アマリリスさんの言葉からして、私たちがここにくることを予期している者がいるようですね」

「……予期……思ったより襲撃も早かったし……まさか」

 フリージアの言葉に、事情を知ってるブロッサムが目で俺に訴える。

(……アガシオン……)

 闇の生徒会が絡むとなれば、エデン……背後のアガシオンが絡んでる。
 かつて大魔王とやらの復活を目論む、邪悪なディアボロス。

「……連中の狙いは、今のところ宝具だ。とにかく気をつけないと」

「わかってる。……アユミ、無理するなよ」

 小声でボソッと、でもブロッサムの声がはっきり聞こえた。

「……ん。あんがと」

 こんな小さな声も拾う辺り、俺も相当バカってことか。
 ……嬉しいからどうでもいいけど。
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