運命の開幕
――――
校長同士の長い話は終わったらしい。
俺とブロッサム、シルフィー。そしてセルシアやレオたちが職員室に呼び出された。
「兄様……一体この大陸で、何が起ころうとしているんです?」
「こんなシリアスな場面にボクが呼び出されるなんて意外だ!」
「…………」
「アレ? アユミ、ツッコミないの?」
「頼むからおまえは黙ってろ」
ブロッサムが再びレオの口を塞ぐ。
……俺が今、あまり余裕がないってことに気づいているんだろうな。
「……校長」
「先程は不安な思いをさせてしまいましたね。あなたたちに大切な話があります」
「話してくれるんだな」
俺が言うと「はい」と校長が頷いた。
「あなたが話していた通り、天に現れし鐘の星座はこの大陸の危機を知らせるものなのです。まずは……三校に伝わる伝説の話から始めましょう」
「伝説……」
多分、予言の子とやらにも少なからず関係はあるだろうな。
俺は黙って聞くことにした。
「この世界が生まれた時、神々は最初の学校を創りました」
「それが……“始原の学園”か」
「はい。その始原の学園ではすべての種族が等しく神々から教育を受け、勉学に励んでいたと伝えられています」
「マジか……」
あまりのスケールの大きさにブロッサムがため息をつく。
「ですが……その学校からも、やがて神々を裏切り、力を我が物にしようとする者たちが現れました」
「それって不良?」
「そうですね。今の言葉で言えばそうなるでしょう」
「今の言葉でって……」
「そのいわば、世界で初めての“不良生徒”たちが後の魔王と呼ばれる存在になったのです」
「そうなのか!?」
盛大に驚くブロッサム。
これは……うん。俺も驚いたな。
「へぇ~……魔王の元は不良なのか。そう考えると、魔王もたいした奴じゃないみたい」
「レオノチス君にかかると魔王も形無しだな……」
「えへへ、そんなに誉めないでよ~」
「誉めてないって……」
セルシアの言葉に照れるレオ。それにツッコミを入れるブロッサム。……のんきな奴らだな。
「それで、その始原の学園はどうなったんですか?」
ここでフリージアが軌道修正に入った。
セントウレア校長は、衝撃的な真実を語った。
「始原の学園は……その魔王たちの手によって滅ぼされました」
「…………」
滅ぼされた……。だろうな。
もしくは封印か、とも思ったけど。
「自らの教えが生み出した悪に神々は絶望し、世界から姿を消したと言われています。けれど、長い歴史の中で再び神々の教えを学び、伝えようとする者たちが現れました」
「……もしかして。それがプリシアナ学院、ドラッケン学園、タカチホ義塾の創始者ですか?」
「その通りです」
勘の良いブロッサムが校長に言う。
相変わらずすごい……恐れ入るな。
「おお~! ついに学校誕生の秘密が明らかに! あー、面白かった」
「レオ……」
……気持ちはわかるぞ、ブロッサム。
「これはただの昔話ではないのですよ。レオノチス君」
「……なるほど。あの鐘の星座……あれ、始原の学園の復活を予言しているのか」
俺の問いに「はい」と頷く。
「始原の学園の復活? 兄様、それはどういうことなんですか? ……それに、どうしてアユミも……」
セルシアの視線、いや、他の全員も俺を見ている。
けど俺は気にせず黙って校長を見る。
「……残念ながら、私たちにも始原の学園の復活がどのようなことを意味するのかわかってはいません」
「……そうか」
「しかし、始原の学園が復活する時、それぞれの学園に伝わる宝具を大陸中央に集める定めになっています」
「……ってことは、校長会議の結論は……」
「はい。予想通り――各学校の代表に宝具を託し、大陸中央に送り出す……という結論に至りました」
「それじゃあ、僕たちが呼ばれた理由は……」
校長に視線が集まる。
それを見ると「ええ……」と校長は言った。
「三学園交流戦で優秀な成績を残したあなたたちに、宝具を運ぶ役目を担っていただきたいのです」
「……だよな」
この流れは絶対そうだと思ったよ……。けどしかたないだろうな。
多分……いや、絶対俺一人じゃ勝てない。
エデンだけでも厄介なのに、あいつと同じ強さの奴が何人いるやら……。
「始原の学園があったと言われる禁断の地は神の聖域。無垢な子供たちしか入れないと伝えられています」
「えー。無垢な子供ってブーゲンビリアも大丈夫なの?」
またしても直球なレオの発言。
……たしかに一理あるな←
「ひ、ひどいわ、レオ! 私だって純粋無垢よ!」
「あはは。禁断の地に着いてブーゲンビリアだけ弾かれたら面白いなー」
「面白くないわ! そ、そんなことになったら私、暴れちゃうから!」
……それはそれで厄介だな。
暴れられるのは困る。
「やれやれ……レオノチス君たちと一緒だと、緊張が和らぐな」
「ただのバカって気もするけど……」
たしかに……。だけど正直、これくらいがいいのかもしれない。
変わらないこの空気は、実に心地良いから。
「ふふふ……。ではアユミさん」
「……はい」
「これがプリシアナの宝具、『純潔のオルゴール』です。これをあなたに託しましょう」
「了解です」
校長が出した箱……純潔の名にふさわしい真っ白いオルゴールを受け取った。
「……。まだ幼いあなたたちにこのような運命を課してしまうことをとても心苦しく思っています」
「校長……」
生徒(しかも身内含む)を送るんだからな……。
勘の良い校長のことだ。相手の強さ、アガシオンの存在。
この旅が、どれだけ危険なのか充分わかっているはず……。
「セントウレア兄様。僕らは誇り高きプリシアナの生徒です。覚悟はできています」
迷いなく兄をまっすぐ見るセルシア。そんな彼に「そうだよ!」とレオも頷く。
「こういうのって英雄っぽいし! 冒険の途中で絶対に伝説の武器とか手に入る流れだよね!」
「あ、わかるかも! 魔王……に近そうなのがいて、ババーン! と聖剣引っこ抜き! とか」
「楽しみだなー」と声を揃えて言うレオとシルフィー。
……前言撤回。この二人はものすごく不安だな←
「ふふ……私はあなたたちを心から誇りに思います」
「いや、校長……約二名危険なのが……」
「ブロッサム。校長にツッコミは無駄だと思うぞ?」
果敢にも校長にツッコミを入れたブロッサムだが、バロータに言われてしまった。
……ああ。そうだな。校長にツッコミは無駄だと思う。
現に校長は慈悲ある笑みで口を開く。
「厳しい旅路になるかもしれません。けれど、あなたたちなら必ず乗り越えてくれると信じています」
「はあ……(やっぱり無駄なツッコミだったな)」
「校長……(……うるさい)」
とりあえず頷く俺ら(ちなみに()内は俺とブロッサムによるアイコンタクト会話←)。
「それではお行きなさい、プリシアナの子らよ。始原の神々の祝福があらんことを!」
校長の言葉に、俺たちは一斉に頷いた。
(運命の始まりってか……負けてなるものか)
エデンにも闇の生徒会にも負けない。勝手に決められた運命なぞに負けてたまるか。
(あの時のようにはさせない……!)
もう誰一人、傷つけさせるか!
――――
校長の話が終わり、寮で荷物を持ってエントランスに降りた。
俺とブロッサムは鐘の星座を見た時から予感してたからな。もう準備は終わってたって訳。
シルフィーはレオと一緒に準備しているところだ。
「いよいよ、か」
「ああ……長いようで短かったな」
既に準備を終えている俺とブロッサムは先にエントランスに来て話をしていた。
一学期と夏休みを満喫したと思ったら、その後に闇の生徒会との戦いとはな……。
「ま、いずれ来るとは予感していたさ。……こんなに早いとは思わなかったが」
「たしかにな……けど、今なら大丈夫だろ」
「……?」
意味がわからない。
どういう意味だ、と思いながら首を傾げると、察したのかブロッサムが答えた。
「俺がいるから」
「……え」
その言葉に不意を突かれ、目を見開く。
それと同時にブロッサムも真っ赤になって慌てだした。
「い、言っとくがな! お……俺は、エデンとかベコニアに負けたくないだけなんだからな! か……勘違いするんじゃねぇぞ!?」
「……ん。わかった。……ありがとう、ブロッサム」
「……っ。ま、まあ……闇の生徒会なんかに、負ける訳にいかないから、な……」
そっぽを向いて100点満点のツンデレ←
でもブロッサムの言いたいこと、伝えたいことがわかった俺は素直に礼を言った。
(そうだな……一年前とは違うから)
ブロッサムの存在は心強いな……。
いつだって、俺が負けそうな時に力を貸してくれるから。
「本当にありがとうな。……俺、今度は絶対負けないから」
「え……あ、ああ。……俺も、おまえを守ってやるから……」
ブロッサムの手を握り、今度こそ誓う。
絶対に、生きて帰るって。
「――良い雰囲気なところ、大変申し訳ないんだけど」
その時だった。
俺の真後ろから突然第三者の声がした。
驚いて振り向けば、そこにはセルシア様御一行が。
「やあ、アユミ、ブロッサム」
「……セルシア。テメェ空気読めや」
至って普通なセルシア。
……けどさっきまでのムードがこいつの出現でぶち壊されてしまった。
「い……っ、いいいいつからそこにッ!!?」
「あなたがアユミさんに『今なら大丈夫だろ』って言った辺りからすべてですね」
「よりによってそこから全部!?」
フリージアの言葉に顔がものすごく真っ赤になるブロッサム。
それはもう耳まで真っ赤になってるし。
「あー、ワリィ。俺は(もう少し見たかったから)邪魔する気なんかなかったんだが」
「おい待て! おまえ今ちょっと本音出しただろ!」
真っ赤な顔でバロータに全力でつっこむ。
反対に俺は冷静に、セルシアと冷戦を繰り返していた。
「アユミ、君と試練の時を迎えられることを心強く思うよ」
「そうか。なのに俺はまったくうれしくないがな」
「宝具、必ず大陸の中央まで運ぼう」
「ああ。ブロッサムがいれば百人力だ」
「僕は頭数に入ってないのかな」
「俺はこいつを一番信じているだけだ」
……こんな感じに、互いに笑みを向けているのに、なぜかバックにダークな何かがある感じだ。
「……ブロッサム。アユミさんのセルシア様に対する態度と口調、何とかなりませんか?」
「なるか! つかなんで俺に言うんだよ!?」
「そりゃおまえの彼女だからだろ?」
「かっ……!? ち、ち、違あーーーうッ!!!」
おお、向こうは向こうで盛り上がっているな。
ブロッサムを餌に←
「……おお!? なんか、ボクら抜きで盛り上がってない!?」
「え! アユミちゃあん、ブロッサム~! ずーるーいー!」
と、ここでシルフィー&レオノチスパーティ登場。
もちろん現状況にびっくりしています。
「よう、レオ……ってなんだ、その荷物は!」
「え? だって枕が変わると眠れないし、パジャマがないとリラックスできないし……」
「お菓子もないとお腹空いちゃうよ~」
「おまえら旅行じゃねぇんだっつの!!」
はい、ここでブロッサムの高速ツッコミ炸裂!
シルフィーとレオに盛大にツッコミを入れた!
「ブーゲンビリアに荷物持ちさせてるレオは気楽だからね~」
「ホントに……荷物重たくて嫌になっちゃう」
揃ってため息をつくチューリップとブーゲンビリア。
……まあ気持ちはわかるぞ。
「やれやれ……大丈夫か、俺ら」
「バロータ。私に聞かないでください」
向こうは向こうでバロータとフリージアが肩を落としている。
なんだかんだで真面目だからな、こいつら。
「…………これが俺ら、か」
傍から見ればただのバカって感じ。
だけど……無くしたくない居場所でもある。
「……大丈夫。俺は……」
みんながいる。
無くす訳にはいかない大切な居場所がある。
……エデンには、奴らには負けない!
――――
運命の歯車が回り始める。
未来を、仲間を、守ってみせる――!
校長同士の長い話は終わったらしい。
俺とブロッサム、シルフィー。そしてセルシアやレオたちが職員室に呼び出された。
「兄様……一体この大陸で、何が起ころうとしているんです?」
「こんなシリアスな場面にボクが呼び出されるなんて意外だ!」
「…………」
「アレ? アユミ、ツッコミないの?」
「頼むからおまえは黙ってろ」
ブロッサムが再びレオの口を塞ぐ。
……俺が今、あまり余裕がないってことに気づいているんだろうな。
「……校長」
「先程は不安な思いをさせてしまいましたね。あなたたちに大切な話があります」
「話してくれるんだな」
俺が言うと「はい」と校長が頷いた。
「あなたが話していた通り、天に現れし鐘の星座はこの大陸の危機を知らせるものなのです。まずは……三校に伝わる伝説の話から始めましょう」
「伝説……」
多分、予言の子とやらにも少なからず関係はあるだろうな。
俺は黙って聞くことにした。
「この世界が生まれた時、神々は最初の学校を創りました」
「それが……“始原の学園”か」
「はい。その始原の学園ではすべての種族が等しく神々から教育を受け、勉学に励んでいたと伝えられています」
「マジか……」
あまりのスケールの大きさにブロッサムがため息をつく。
「ですが……その学校からも、やがて神々を裏切り、力を我が物にしようとする者たちが現れました」
「それって不良?」
「そうですね。今の言葉で言えばそうなるでしょう」
「今の言葉でって……」
「そのいわば、世界で初めての“不良生徒”たちが後の魔王と呼ばれる存在になったのです」
「そうなのか!?」
盛大に驚くブロッサム。
これは……うん。俺も驚いたな。
「へぇ~……魔王の元は不良なのか。そう考えると、魔王もたいした奴じゃないみたい」
「レオノチス君にかかると魔王も形無しだな……」
「えへへ、そんなに誉めないでよ~」
「誉めてないって……」
セルシアの言葉に照れるレオ。それにツッコミを入れるブロッサム。……のんきな奴らだな。
「それで、その始原の学園はどうなったんですか?」
ここでフリージアが軌道修正に入った。
セントウレア校長は、衝撃的な真実を語った。
「始原の学園は……その魔王たちの手によって滅ぼされました」
「…………」
滅ぼされた……。だろうな。
もしくは封印か、とも思ったけど。
「自らの教えが生み出した悪に神々は絶望し、世界から姿を消したと言われています。けれど、長い歴史の中で再び神々の教えを学び、伝えようとする者たちが現れました」
「……もしかして。それがプリシアナ学院、ドラッケン学園、タカチホ義塾の創始者ですか?」
「その通りです」
勘の良いブロッサムが校長に言う。
相変わらずすごい……恐れ入るな。
「おお~! ついに学校誕生の秘密が明らかに! あー、面白かった」
「レオ……」
……気持ちはわかるぞ、ブロッサム。
「これはただの昔話ではないのですよ。レオノチス君」
「……なるほど。あの鐘の星座……あれ、始原の学園の復活を予言しているのか」
俺の問いに「はい」と頷く。
「始原の学園の復活? 兄様、それはどういうことなんですか? ……それに、どうしてアユミも……」
セルシアの視線、いや、他の全員も俺を見ている。
けど俺は気にせず黙って校長を見る。
「……残念ながら、私たちにも始原の学園の復活がどのようなことを意味するのかわかってはいません」
「……そうか」
「しかし、始原の学園が復活する時、それぞれの学園に伝わる宝具を大陸中央に集める定めになっています」
「……ってことは、校長会議の結論は……」
「はい。予想通り――各学校の代表に宝具を託し、大陸中央に送り出す……という結論に至りました」
「それじゃあ、僕たちが呼ばれた理由は……」
校長に視線が集まる。
それを見ると「ええ……」と校長は言った。
「三学園交流戦で優秀な成績を残したあなたたちに、宝具を運ぶ役目を担っていただきたいのです」
「……だよな」
この流れは絶対そうだと思ったよ……。けどしかたないだろうな。
多分……いや、絶対俺一人じゃ勝てない。
エデンだけでも厄介なのに、あいつと同じ強さの奴が何人いるやら……。
「始原の学園があったと言われる禁断の地は神の聖域。無垢な子供たちしか入れないと伝えられています」
「えー。無垢な子供ってブーゲンビリアも大丈夫なの?」
またしても直球なレオの発言。
……たしかに一理あるな←
「ひ、ひどいわ、レオ! 私だって純粋無垢よ!」
「あはは。禁断の地に着いてブーゲンビリアだけ弾かれたら面白いなー」
「面白くないわ! そ、そんなことになったら私、暴れちゃうから!」
……それはそれで厄介だな。
暴れられるのは困る。
「やれやれ……レオノチス君たちと一緒だと、緊張が和らぐな」
「ただのバカって気もするけど……」
たしかに……。だけど正直、これくらいがいいのかもしれない。
変わらないこの空気は、実に心地良いから。
「ふふふ……。ではアユミさん」
「……はい」
「これがプリシアナの宝具、『純潔のオルゴール』です。これをあなたに託しましょう」
「了解です」
校長が出した箱……純潔の名にふさわしい真っ白いオルゴールを受け取った。
「……。まだ幼いあなたたちにこのような運命を課してしまうことをとても心苦しく思っています」
「校長……」
生徒(しかも身内含む)を送るんだからな……。
勘の良い校長のことだ。相手の強さ、アガシオンの存在。
この旅が、どれだけ危険なのか充分わかっているはず……。
「セントウレア兄様。僕らは誇り高きプリシアナの生徒です。覚悟はできています」
迷いなく兄をまっすぐ見るセルシア。そんな彼に「そうだよ!」とレオも頷く。
「こういうのって英雄っぽいし! 冒険の途中で絶対に伝説の武器とか手に入る流れだよね!」
「あ、わかるかも! 魔王……に近そうなのがいて、ババーン! と聖剣引っこ抜き! とか」
「楽しみだなー」と声を揃えて言うレオとシルフィー。
……前言撤回。この二人はものすごく不安だな←
「ふふ……私はあなたたちを心から誇りに思います」
「いや、校長……約二名危険なのが……」
「ブロッサム。校長にツッコミは無駄だと思うぞ?」
果敢にも校長にツッコミを入れたブロッサムだが、バロータに言われてしまった。
……ああ。そうだな。校長にツッコミは無駄だと思う。
現に校長は慈悲ある笑みで口を開く。
「厳しい旅路になるかもしれません。けれど、あなたたちなら必ず乗り越えてくれると信じています」
「はあ……(やっぱり無駄なツッコミだったな)」
「校長……(……うるさい)」
とりあえず頷く俺ら(ちなみに()内は俺とブロッサムによるアイコンタクト会話←)。
「それではお行きなさい、プリシアナの子らよ。始原の神々の祝福があらんことを!」
校長の言葉に、俺たちは一斉に頷いた。
(運命の始まりってか……負けてなるものか)
エデンにも闇の生徒会にも負けない。勝手に決められた運命なぞに負けてたまるか。
(あの時のようにはさせない……!)
もう誰一人、傷つけさせるか!
――――
校長の話が終わり、寮で荷物を持ってエントランスに降りた。
俺とブロッサムは鐘の星座を見た時から予感してたからな。もう準備は終わってたって訳。
シルフィーはレオと一緒に準備しているところだ。
「いよいよ、か」
「ああ……長いようで短かったな」
既に準備を終えている俺とブロッサムは先にエントランスに来て話をしていた。
一学期と夏休みを満喫したと思ったら、その後に闇の生徒会との戦いとはな……。
「ま、いずれ来るとは予感していたさ。……こんなに早いとは思わなかったが」
「たしかにな……けど、今なら大丈夫だろ」
「……?」
意味がわからない。
どういう意味だ、と思いながら首を傾げると、察したのかブロッサムが答えた。
「俺がいるから」
「……え」
その言葉に不意を突かれ、目を見開く。
それと同時にブロッサムも真っ赤になって慌てだした。
「い、言っとくがな! お……俺は、エデンとかベコニアに負けたくないだけなんだからな! か……勘違いするんじゃねぇぞ!?」
「……ん。わかった。……ありがとう、ブロッサム」
「……っ。ま、まあ……闇の生徒会なんかに、負ける訳にいかないから、な……」
そっぽを向いて100点満点のツンデレ←
でもブロッサムの言いたいこと、伝えたいことがわかった俺は素直に礼を言った。
(そうだな……一年前とは違うから)
ブロッサムの存在は心強いな……。
いつだって、俺が負けそうな時に力を貸してくれるから。
「本当にありがとうな。……俺、今度は絶対負けないから」
「え……あ、ああ。……俺も、おまえを守ってやるから……」
ブロッサムの手を握り、今度こそ誓う。
絶対に、生きて帰るって。
「――良い雰囲気なところ、大変申し訳ないんだけど」
その時だった。
俺の真後ろから突然第三者の声がした。
驚いて振り向けば、そこにはセルシア様御一行が。
「やあ、アユミ、ブロッサム」
「……セルシア。テメェ空気読めや」
至って普通なセルシア。
……けどさっきまでのムードがこいつの出現でぶち壊されてしまった。
「い……っ、いいいいつからそこにッ!!?」
「あなたがアユミさんに『今なら大丈夫だろ』って言った辺りからすべてですね」
「よりによってそこから全部!?」
フリージアの言葉に顔がものすごく真っ赤になるブロッサム。
それはもう耳まで真っ赤になってるし。
「あー、ワリィ。俺は(もう少し見たかったから)邪魔する気なんかなかったんだが」
「おい待て! おまえ今ちょっと本音出しただろ!」
真っ赤な顔でバロータに全力でつっこむ。
反対に俺は冷静に、セルシアと冷戦を繰り返していた。
「アユミ、君と試練の時を迎えられることを心強く思うよ」
「そうか。なのに俺はまったくうれしくないがな」
「宝具、必ず大陸の中央まで運ぼう」
「ああ。ブロッサムがいれば百人力だ」
「僕は頭数に入ってないのかな」
「俺はこいつを一番信じているだけだ」
……こんな感じに、互いに笑みを向けているのに、なぜかバックにダークな何かがある感じだ。
「……ブロッサム。アユミさんのセルシア様に対する態度と口調、何とかなりませんか?」
「なるか! つかなんで俺に言うんだよ!?」
「そりゃおまえの彼女だからだろ?」
「かっ……!? ち、ち、違あーーーうッ!!!」
おお、向こうは向こうで盛り上がっているな。
ブロッサムを餌に←
「……おお!? なんか、ボクら抜きで盛り上がってない!?」
「え! アユミちゃあん、ブロッサム~! ずーるーいー!」
と、ここでシルフィー&レオノチスパーティ登場。
もちろん現状況にびっくりしています。
「よう、レオ……ってなんだ、その荷物は!」
「え? だって枕が変わると眠れないし、パジャマがないとリラックスできないし……」
「お菓子もないとお腹空いちゃうよ~」
「おまえら旅行じゃねぇんだっつの!!」
はい、ここでブロッサムの高速ツッコミ炸裂!
シルフィーとレオに盛大にツッコミを入れた!
「ブーゲンビリアに荷物持ちさせてるレオは気楽だからね~」
「ホントに……荷物重たくて嫌になっちゃう」
揃ってため息をつくチューリップとブーゲンビリア。
……まあ気持ちはわかるぞ。
「やれやれ……大丈夫か、俺ら」
「バロータ。私に聞かないでください」
向こうは向こうでバロータとフリージアが肩を落としている。
なんだかんだで真面目だからな、こいつら。
「…………これが俺ら、か」
傍から見ればただのバカって感じ。
だけど……無くしたくない居場所でもある。
「……大丈夫。俺は……」
みんながいる。
無くす訳にはいかない大切な居場所がある。
……エデンには、奴らには負けない!
――――
運命の歯車が回り始める。
未来を、仲間を、守ってみせる――!