三学園交流戦・後編
――――
アユミSide
「あーあ。あっちもそっちも派手にやったなあ」
「そうだね……アユミ君、ずいぶん余裕そうだね」
刀と剣の剣舞撃を繰り広げていたアユミとセルシアも、シルフィーのナイトメアの威力。そしてフリージアが放ったイペリオンの魔力を感じていた。
「余裕?」
「ああ。バロータはシルフィネスト君に負けてしまったけど……ブロッサムはフリージアに負けてしまったんだよ?」
打ち合う刀と剣。そして周りから聞こえる大歓声の中、セルシアの声が耳元から言われたかのようにはっきり聞こえる。
「理由はわからないが……フリージアはブロッサムにとても厳しい。さらに今の戦いで、やり過ぎかと思うくらい、本気で彼を攻撃していた」
「ほう? さすが長年のパートナー。離れていてもわかる的なやつか」
一際大きく打ち合ってから、お互い大きく距離を取る。
「ブロッサムも、君と出会う前よりすごく強くなった。だが……フリージアには敵わないよ」
「従兄弟より執事兼幼なじみを取るのか。……セルシアって、意外と薄情なんだな」
アユミは呆れたように両手を上げてため息をつく。
それにセルシアは苦笑しながら頷いた。
「否定はしないよ。僕はウィンターコスモス家の人間――兄様のように、立派な人間になりたい。その為にも、もっと強くなる」
「その為に付き合いは限定、綺麗さっぱりどころかばっさり切り捨てる訳か」
「否定できないだけに、さすがにその言葉は耳が痛いよ……」
容赦のない言葉にセルシアの苦笑は止められなかった。
「僕は立ち止まる訳にはいかない。たとえブロッサムでも「セルシア」……?」
「……一つ……面白いことを教えてやるよ」
言葉を遮ってアユミは話しかけた。
その表情は不敵な――そしてどこか悪戯めいた笑み。
「おまえがフリージアを信頼してるように、俺もブロッサムを信じてる。――勝つのはあいつだ」
「……? 何を言って……」
「あいつはあいつで、自分なりの目標を見つけたんだ。セルシアと比べたら小さいものだが……それでも奴には大きな目標だ」
意味がわからない、という表情のセルシアに、だが構わず彼に話し続ける。
「その目標を果たす為にも、奴はもう誰にも負けない」
「しかし……」
「なら見ろよ。――これから、面白いことになるからさ」
言ってアユミは刀を降ろし、フリージアの方へ視線を走らせる。
理由がわからないセルシアも、だが次の瞬間、弾かれたように同じ方向を見ることになった。
――――
ブロッサムSide
「はぁ……はぁ……」
「そんな……馬鹿な……」
今度はフリージアが信じられない、という表情になった。
なぜなら……イペリオンを喰らったはずのブロッサムが、何の変化もなく立っていたからだった。
「自分でも……大それたことを考えたもんだぜ……」
イペリオンが爆発する瞬間を狙い、ブロッサムは移動系の補助魔法、テレポルを唱え、遥か上空に転移したのだ。
そして爆発が止んだところを、再びテレポルで同じところに戻ってきたのだった。
「さすがにフリージアも気づかなかった、か……うまくいって何よりだ」
「ブロッサム……いったい、どうやって……」
「は……その答えは……」
言いながら、自分も魔力を集め始めた。
あの時開花した、フリージアの予想を上回るあの魔法を使うために。
「決着ついたら教えてやるよ……!」
「どうやって……魔法壁がある以上、私に普通の攻撃では……」
「ああ……“普通”の魔法なら、な」
つぶやいてブロッサムはにやっと笑った。
勝利を、確信した笑みを。
「けどウィスプ以上の魔法で……それを二倍にしたら?」
「ウィスプ以上の魔法で……二倍…………まさか」
フリージアの目が見開く。
それと同時に、ブロッサムから魔力が溢れ出した。
フリージアの、その倍を行く程の強大な魔力が。
(ああ……あいつの悪影響を受け過ぎたな、俺……)
時間稼ぎのために爆風の中でひそかに詠唱する。
完全に破天荒な思考を持つ彼女の影響だ、と苦笑するブロッサム。前の自分なら、きっと思い浮かばなかっただろう。
「あいつのために勝つんだ……悪いが……加減できないからな!!」
自分の魔力がねこそぎ無くなってしまうような感覚。
フリージアに注意を促してから、その魔力を解放した。
「倍加魔法――イペリオン!!」
フリージアの周りに光が収束し、次の瞬間、仮想空間すらも揺るがす程の大爆発がフリージアを襲った。
「わぁあああああッ!!!」
魔法壁が一斉に粉々に散り、フリージアはその場から遠くへ投げ出された。
放射線を描くように吹っ飛び、床に叩きつけられる。
「くっ……うぅ……」
ダメージを受けたフリージアは立つこともままならず、その場でうずくまった。
倍加魔法により、音すらなく飲み込む程の強力な爆発。それは見事、フリージアに逆転勝ちを収めたのだった。
「は、はは……ホント……無茶、したなあ……」
フリージアが立ち上がらないことを見届けると、彼もその場で倒れた。
この戦法はブロッサムの最後の賭け。倍加魔法は威力を二倍にさせるが、同時に魔力も二倍消費する。
ましてイペリオンを倍加魔法で放つなど、熟練の光術師でも難しかった。
「……でも……これで、満足、だ……」
フリージアに、学院トップの光術師に勝てた。
それだけで彼は満足だ。
「アユミ……負け……るな、よ……」
すべての力を使い果たしたブロッサムは、そのまま意識が沈んでいくのを感じていった……。
――――
アユミSide
「フリージアが、負けた……」
「な? 言った通りだろ? あいつが勝つ……って」
未だに信じられない、という表情のセルシアに不敵な笑みを浮かべるアユミ。
あの後、強大な光の魔力を感じ、見るとやられたはずのブロッサムが立っていた。
それだけでなくフリージアと同じ、しかし彼より強力なイペリオンを使い、そして勝利を収めた。
「さて……これで残るは……生徒会長だけだぜ?」
「……そうみたいだね」
ほうけていたセルシアも、再び剣を構える。
「だが僕は負けない……君にも、自分にも!」
「そうこなくっちゃ、面白みがないな!」
アユミも刀を抜き、セルシアと対峙する。
「行くぞ! セルシア!」
「来るんだ……アユミ!」
叫び、同時に床を蹴った。
再びぶつかり合う刃。
金属同士の悲鳴が辺りにせわしなく鳴り響く。
「僕には叶えたい願いがある! そのためにも、君には負けない!」
セルシアは刀を受け流し、即座に彼女に超・鬼神斬りを繰り出す。
「俺は今を目一杯過ごし、強くなる。ならなきゃいけない。悪いがセルシア、おまえに足止めされる訳にはいかねぇんだ!!」
すさまじい連続斬りに頬や手が掠れつつも、彼女も負けじと刀で受け流し、さらに今まで使わなかったもう一本の刀を逆手で抜刀し、より攻撃を連発していく。
((やはり、強い……!))
斬りつけては受け流され、突かれては弾かれる。
息もつけない攻防が繰り返され、二人の手や足、頬や身体に斬り傷がどんどんできていく。
(このままじゃ、勝負がつかないんじゃ……)
終わらない攻防にちらりと考えるセルシアに、極わずかな隙が生まれた。
「いただいたぁッ!!!」
それを見逃さなかったアユミは思いきり刀を振り上げ、セルシアの剣を遠くへ吹き飛ばした。
「しまっ――!」
目がアユミから離れ瞬間、即座にセルシアに足払いを仕掛けた。
セルシアはバランスを崩され、次の瞬間、アユミに仰向けに押し倒される。
「ぐっ……!!」
――チャキッ。
「――俺の勝ちだ。セルシア」
喉元に冷たい感触。どうやら刀を当てられているようだ。
目の前で不敵に笑う彼女が言う。
「……安心しろ。刃は外だ。無駄に血は流さないんでね」
「……の割には、首にかかる手に力を込めているよね?」
「息が苦しいんだが……」と抗議するセルシアに、ますます手に力を込める。
「ああ……俺、真性のドSなものでして。……特にブロッサムやおまえみたいな奴はすごーく虐めたくなるんだよな」
「……悪趣味だね」
首にかかる微妙な力加減に苦しみながらも、「しかたない」と頷く。
「僕の負けだよ」
「認める?」
「ああ。……だから手と刃と身体を退けてくれないか? みんなの前でこの体勢は恥ずかしいからね」
「気にしてない、みたいな顔しながら言うなよ。つかおまえにもそんな感情があったんだな」
「一応人並みにはあるつもりなんだが」
「無縁仏みたいな顔してよく言うわ」
首にかかる手は外さず、アユミは身体を退け、セルシアと一緒に立ち上がった。
「……手を離してくれないか?」
「仮想空間が無くなったら離してやろう」
「信用されてないんだね。……腕が疲れないかい?」
「喧嘩売るなら今すぐ息の根止めるぞコラ」
背の高い自分の首に手を伸ばしている彼女に、首を絞められかけているにも関わらず微笑みを浮かべる。
そんな彼に一瞬殺意が湧くアユミだが、仮想空間が解かれたことにより、渋々だが手を離すのだった。
「アユミちゃあん! セルシア君~!」
「おい、大丈夫か? セルシア」
その時、シルフィーとバロータが二人に駆け寄ってきた。
「よ、二人とも。バロータ、復活早いな」
「シルフィーが回復してくれたんだよ。フリージアとブロッサムは保健室行きになったがな。……心配しなくても、魔力の消費が激しいだけで命に別状はねぇよ」
「そうか……よかった……」
フリージアが無事とわかり、ホッとするセルシア。
「しかし学内最強って言われていたセルシアにアユミが勝つとはねぇ……ブロッサムといいシルフィーといい、マジですごいな!」
「伊達で生きてる人生じゃないからな」
感心するバロータにサラっと答える。
……が、セルシアの強さは本物だった。正直なところ、よく勝てたな。と自分でも思う程に。
「アユミ」
「ん?」
「君が……いや、君たちが大陸最強の冒険者だ。おめでとう!」
「……ふっ。有り難くいただいておこう」
セルシアの差し出した手を握り、固く握手をする。
その光景に周りの歓声が大きく響き渡り、二人を大きく包み込んでいった。
(……今はまだ、もう少しだけ)
この勝利に酔いしれたい、とアユミは思う。
三学園交流戦の閉会の言葉を校長が話しながら、自分の運命が間近に迫りつつあるのを、心のどこかで予感していた――。
アユミSide
「あーあ。あっちもそっちも派手にやったなあ」
「そうだね……アユミ君、ずいぶん余裕そうだね」
刀と剣の剣舞撃を繰り広げていたアユミとセルシアも、シルフィーのナイトメアの威力。そしてフリージアが放ったイペリオンの魔力を感じていた。
「余裕?」
「ああ。バロータはシルフィネスト君に負けてしまったけど……ブロッサムはフリージアに負けてしまったんだよ?」
打ち合う刀と剣。そして周りから聞こえる大歓声の中、セルシアの声が耳元から言われたかのようにはっきり聞こえる。
「理由はわからないが……フリージアはブロッサムにとても厳しい。さらに今の戦いで、やり過ぎかと思うくらい、本気で彼を攻撃していた」
「ほう? さすが長年のパートナー。離れていてもわかる的なやつか」
一際大きく打ち合ってから、お互い大きく距離を取る。
「ブロッサムも、君と出会う前よりすごく強くなった。だが……フリージアには敵わないよ」
「従兄弟より執事兼幼なじみを取るのか。……セルシアって、意外と薄情なんだな」
アユミは呆れたように両手を上げてため息をつく。
それにセルシアは苦笑しながら頷いた。
「否定はしないよ。僕はウィンターコスモス家の人間――兄様のように、立派な人間になりたい。その為にも、もっと強くなる」
「その為に付き合いは限定、綺麗さっぱりどころかばっさり切り捨てる訳か」
「否定できないだけに、さすがにその言葉は耳が痛いよ……」
容赦のない言葉にセルシアの苦笑は止められなかった。
「僕は立ち止まる訳にはいかない。たとえブロッサムでも「セルシア」……?」
「……一つ……面白いことを教えてやるよ」
言葉を遮ってアユミは話しかけた。
その表情は不敵な――そしてどこか悪戯めいた笑み。
「おまえがフリージアを信頼してるように、俺もブロッサムを信じてる。――勝つのはあいつだ」
「……? 何を言って……」
「あいつはあいつで、自分なりの目標を見つけたんだ。セルシアと比べたら小さいものだが……それでも奴には大きな目標だ」
意味がわからない、という表情のセルシアに、だが構わず彼に話し続ける。
「その目標を果たす為にも、奴はもう誰にも負けない」
「しかし……」
「なら見ろよ。――これから、面白いことになるからさ」
言ってアユミは刀を降ろし、フリージアの方へ視線を走らせる。
理由がわからないセルシアも、だが次の瞬間、弾かれたように同じ方向を見ることになった。
――――
ブロッサムSide
「はぁ……はぁ……」
「そんな……馬鹿な……」
今度はフリージアが信じられない、という表情になった。
なぜなら……イペリオンを喰らったはずのブロッサムが、何の変化もなく立っていたからだった。
「自分でも……大それたことを考えたもんだぜ……」
イペリオンが爆発する瞬間を狙い、ブロッサムは移動系の補助魔法、テレポルを唱え、遥か上空に転移したのだ。
そして爆発が止んだところを、再びテレポルで同じところに戻ってきたのだった。
「さすがにフリージアも気づかなかった、か……うまくいって何よりだ」
「ブロッサム……いったい、どうやって……」
「は……その答えは……」
言いながら、自分も魔力を集め始めた。
あの時開花した、フリージアの予想を上回るあの魔法を使うために。
「決着ついたら教えてやるよ……!」
「どうやって……魔法壁がある以上、私に普通の攻撃では……」
「ああ……“普通”の魔法なら、な」
つぶやいてブロッサムはにやっと笑った。
勝利を、確信した笑みを。
「けどウィスプ以上の魔法で……それを二倍にしたら?」
「ウィスプ以上の魔法で……二倍…………まさか」
フリージアの目が見開く。
それと同時に、ブロッサムから魔力が溢れ出した。
フリージアの、その倍を行く程の強大な魔力が。
(ああ……あいつの悪影響を受け過ぎたな、俺……)
時間稼ぎのために爆風の中でひそかに詠唱する。
完全に破天荒な思考を持つ彼女の影響だ、と苦笑するブロッサム。前の自分なら、きっと思い浮かばなかっただろう。
「あいつのために勝つんだ……悪いが……加減できないからな!!」
自分の魔力がねこそぎ無くなってしまうような感覚。
フリージアに注意を促してから、その魔力を解放した。
「倍加魔法――イペリオン!!」
フリージアの周りに光が収束し、次の瞬間、仮想空間すらも揺るがす程の大爆発がフリージアを襲った。
「わぁあああああッ!!!」
魔法壁が一斉に粉々に散り、フリージアはその場から遠くへ投げ出された。
放射線を描くように吹っ飛び、床に叩きつけられる。
「くっ……うぅ……」
ダメージを受けたフリージアは立つこともままならず、その場でうずくまった。
倍加魔法により、音すらなく飲み込む程の強力な爆発。それは見事、フリージアに逆転勝ちを収めたのだった。
「は、はは……ホント……無茶、したなあ……」
フリージアが立ち上がらないことを見届けると、彼もその場で倒れた。
この戦法はブロッサムの最後の賭け。倍加魔法は威力を二倍にさせるが、同時に魔力も二倍消費する。
ましてイペリオンを倍加魔法で放つなど、熟練の光術師でも難しかった。
「……でも……これで、満足、だ……」
フリージアに、学院トップの光術師に勝てた。
それだけで彼は満足だ。
「アユミ……負け……るな、よ……」
すべての力を使い果たしたブロッサムは、そのまま意識が沈んでいくのを感じていった……。
――――
アユミSide
「フリージアが、負けた……」
「な? 言った通りだろ? あいつが勝つ……って」
未だに信じられない、という表情のセルシアに不敵な笑みを浮かべるアユミ。
あの後、強大な光の魔力を感じ、見るとやられたはずのブロッサムが立っていた。
それだけでなくフリージアと同じ、しかし彼より強力なイペリオンを使い、そして勝利を収めた。
「さて……これで残るは……生徒会長だけだぜ?」
「……そうみたいだね」
ほうけていたセルシアも、再び剣を構える。
「だが僕は負けない……君にも、自分にも!」
「そうこなくっちゃ、面白みがないな!」
アユミも刀を抜き、セルシアと対峙する。
「行くぞ! セルシア!」
「来るんだ……アユミ!」
叫び、同時に床を蹴った。
再びぶつかり合う刃。
金属同士の悲鳴が辺りにせわしなく鳴り響く。
「僕には叶えたい願いがある! そのためにも、君には負けない!」
セルシアは刀を受け流し、即座に彼女に超・鬼神斬りを繰り出す。
「俺は今を目一杯過ごし、強くなる。ならなきゃいけない。悪いがセルシア、おまえに足止めされる訳にはいかねぇんだ!!」
すさまじい連続斬りに頬や手が掠れつつも、彼女も負けじと刀で受け流し、さらに今まで使わなかったもう一本の刀を逆手で抜刀し、より攻撃を連発していく。
((やはり、強い……!))
斬りつけては受け流され、突かれては弾かれる。
息もつけない攻防が繰り返され、二人の手や足、頬や身体に斬り傷がどんどんできていく。
(このままじゃ、勝負がつかないんじゃ……)
終わらない攻防にちらりと考えるセルシアに、極わずかな隙が生まれた。
「いただいたぁッ!!!」
それを見逃さなかったアユミは思いきり刀を振り上げ、セルシアの剣を遠くへ吹き飛ばした。
「しまっ――!」
目がアユミから離れ瞬間、即座にセルシアに足払いを仕掛けた。
セルシアはバランスを崩され、次の瞬間、アユミに仰向けに押し倒される。
「ぐっ……!!」
――チャキッ。
「――俺の勝ちだ。セルシア」
喉元に冷たい感触。どうやら刀を当てられているようだ。
目の前で不敵に笑う彼女が言う。
「……安心しろ。刃は外だ。無駄に血は流さないんでね」
「……の割には、首にかかる手に力を込めているよね?」
「息が苦しいんだが……」と抗議するセルシアに、ますます手に力を込める。
「ああ……俺、真性のドSなものでして。……特にブロッサムやおまえみたいな奴はすごーく虐めたくなるんだよな」
「……悪趣味だね」
首にかかる微妙な力加減に苦しみながらも、「しかたない」と頷く。
「僕の負けだよ」
「認める?」
「ああ。……だから手と刃と身体を退けてくれないか? みんなの前でこの体勢は恥ずかしいからね」
「気にしてない、みたいな顔しながら言うなよ。つかおまえにもそんな感情があったんだな」
「一応人並みにはあるつもりなんだが」
「無縁仏みたいな顔してよく言うわ」
首にかかる手は外さず、アユミは身体を退け、セルシアと一緒に立ち上がった。
「……手を離してくれないか?」
「仮想空間が無くなったら離してやろう」
「信用されてないんだね。……腕が疲れないかい?」
「喧嘩売るなら今すぐ息の根止めるぞコラ」
背の高い自分の首に手を伸ばしている彼女に、首を絞められかけているにも関わらず微笑みを浮かべる。
そんな彼に一瞬殺意が湧くアユミだが、仮想空間が解かれたことにより、渋々だが手を離すのだった。
「アユミちゃあん! セルシア君~!」
「おい、大丈夫か? セルシア」
その時、シルフィーとバロータが二人に駆け寄ってきた。
「よ、二人とも。バロータ、復活早いな」
「シルフィーが回復してくれたんだよ。フリージアとブロッサムは保健室行きになったがな。……心配しなくても、魔力の消費が激しいだけで命に別状はねぇよ」
「そうか……よかった……」
フリージアが無事とわかり、ホッとするセルシア。
「しかし学内最強って言われていたセルシアにアユミが勝つとはねぇ……ブロッサムといいシルフィーといい、マジですごいな!」
「伊達で生きてる人生じゃないからな」
感心するバロータにサラっと答える。
……が、セルシアの強さは本物だった。正直なところ、よく勝てたな。と自分でも思う程に。
「アユミ」
「ん?」
「君が……いや、君たちが大陸最強の冒険者だ。おめでとう!」
「……ふっ。有り難くいただいておこう」
セルシアの差し出した手を握り、固く握手をする。
その光景に周りの歓声が大きく響き渡り、二人を大きく包み込んでいった。
(……今はまだ、もう少しだけ)
この勝利に酔いしれたい、とアユミは思う。
三学園交流戦の閉会の言葉を校長が話しながら、自分の運命が間近に迫りつつあるのを、心のどこかで予感していた――。