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三学園交流戦・後編

 ――――

 シルフィーSide

「悪いが、シルフィーでも容赦しないぞ」

「わ、わわわ、わかってるよぉ……!」

「……本当に大丈夫かよ」

 言いながら構えを解かないバロータ。
 シルフィーの魔力の高さ、並びにその威力は充分知っている。下手に手を出すと自分が魔法の餌食だ。
 だから彼は狙う。隙を見せた時に捕まえる瞬間を。

(つか、殴ると悪役になっちまいそうだからな……これしかないか)

 彼自身、怯えるシルフィーを傷つける真似はしたくない。
 その為無傷で勝利するにはこれしかなかった。

「み……み~……!」

「う~~~……」

 膠着状態が続く。
 いくら二人に手助け無用でもこれはきつかった。

「よ、よーし……さ、サンダガン!」

 先に均衡を壊したのはシルフィーだった。
 彼は震えながらも(なけなしの)勇気を振り絞り、バロータに攻撃魔法を仕掛けた。

「うぉっと! ……よっしゃ!」

 嵐のように降り注ぐ雷を、だがバロータは軽く避けた。
 そして待ってましたと言わんばかりにシルフィーの前へ突っ込んだ。

「悪いがいただいた!」

「ひぇっ!? 嘘ぉ!!」

 即座に方向転換して逃げようとするシルフィー。
 ……が、足のリーチの差もあり、速効彼に捕まった。

「うわぁあああんっ! 離してぇぇぇ!!」

「ちょ、待て! 殴るようなことはしないから安心しろって!」

 パタパタと手足を振りながら、必死でバロータから逃げようとする。

「びぇえええんっ!!」

(セルシア! フリージア! 早く終わらせてくれ!)

 泣き叫ぶシルフィーに罪悪感を感じながら、彼は早く終われ、と念じる。
 ……が、彼は一つ、あることに気づかなかった。

「はーなーしーてーーー!! ――ナイトメアァアアアッ!!!」

 類い稀な魔法の才能を持つシルフィーが、上級魔法すらも詠唱破棄で簡単にぶっ放せることに。

「えっ? 嘘だろ――ぎゃあぁああああああッ!!!」

 ドガァアアアンッ!!!

 突然魔法を使ったシルフィーにバロータは彼を捕まえていた為防御すらできず、さらに至近距離で闇属性の上級攻撃魔法をまともに喰らった為、彼はあっさり戦闘不能になってしまった。

「ま、マジかよ……っ、がふっ」

「あうっ」

 さすがに油断し過ぎたらしい。
(仮想空間内とはいえ)大聖堂の壁をも一瞬で崩壊させたナイトメアをまともに喰らったバロータはそのまま気絶してしまった。
 解放されたシルフィーも突然拘束を解かれ、ベチッと床に落下する。

「……あれ? バロータ?」

 惨劇の張本人(本人無自覚)シルフィーは気絶したバロータ、そして崩壊した壁に首を傾げ、「あれ?」とつぶやくしかなかった……。

 ――――

 ブロッサムSide

「……バロータ……哀れな」

「……予想以上ですね。彼にこれほどの才能があるとは……」

 一瞬で膨れ上がった強大な魔力を感知した二人は手を止め、彼らに目を向ける。
 ばらばらに崩壊した大聖堂の壁。闇の魔力をまともに受け、戦闘不能と化したバロータ。
 そしてどうすればいいかわからず、困惑するシルフィーに。

「上級魔法も一瞬で使えるとは……シルフィーさんの認識を改めなければなりませんね」

「……俺への認識は変わらないのな」

 ブロッサムのつぶやきに「当然でしょう」と即答するフリージア。

「あなたもまた、ウィンターコスモス家の人間。ですが……卑屈の塊みたいな性格ならば、当然容赦はしません」

「ぐっ!!」

 サラっと気にしてることを指摘された。
 当然ブロッサムの(心の)体力が削られる。

「……前々から思ってたが……おまえ、俺に恨みでもあるのか?」

 あまりにも厳しいフリージアの態度につい彼にたずねる。
 ……が、フリージアの表情に変化はない。

「恨んでなんかいませんよ。……私はただ、セルシア様に応えられないあなたが嫌いなだけです! シャイガン!」

「セルシアに……? ってか危な!!」

 フリージアの連発してきたシャイガンを空中に飛んで逃げる。
 翼を持つセレスティアでよかった……とブロッサムは心底思った。

「待てよ、フリージア! セルシアに応えられないって……それ、どういう――」

「……弱いあなたに答える必要はありません!」

 容赦のない魔法攻撃をかわしつつ彼に話しかける。
 だが彼は答えるどころか、ますます攻撃の連発を放ってきた。

「待て、フリージア! 人の話を……うぉおっ!?」

 右から左、上に下にと光の爆発が彼に襲いかかる。
 彼はセルシアの執事だが、同時にブロッサムと同じ光術師学科の生徒だ。
 しかも彼と違い、光術師学科の超の付く優等生なのだ。自分とは天と地の差があるくらい。

「毎回平均点しか取れないあなたに、私を倒すことはできません」

「おまえ、黙って聞いてれば……! だいたい人の点数ばらすなぁあああ!!」

 とうとうブロッサムも頭にきたらしい。
 彼は空中で杖を構え、攻撃を避けつつ詠唱に入った。

「おまえ、『弱い俺』には答えられないって言ったよな? ……なら、俺が勝てば、教えてくれるんだな!?」

「ええ、いいでしょう。万が一でも私に勝てましたら、お教えしてあげます」

「その言葉、忘れんなよ!」

 緩めることのない魔法攻撃を避けるブロッサム。

(一撃でも当てれば、何とか勝てるはず……!)

 相手はエルフで同じ光術師学科。自分と条件は一緒だ。

「行けぇ!! ウィスプ!」

 光の嵐をかい潜り、フリージアの真上から攻撃を仕掛けた。
 光の精霊を召喚し、フリージアに向かって突撃していく。

「これなら……!!」

 まるで吸い込まれるようにウィスプがフリージアに突撃した。
 彼のいた辺りに土煙と光の粒が舞っている。

「やっ――」

「ウィスプ!」

 勝利した、と思ったその瞬間、ブロッサムの放った魔法――ウィスプが、今度は自分に襲いかかってきた。

「なっ――ぐぁあああッ!!!」

 完全に油断していたブロッサムは魔法をまともに受けてしまった。
 強力な威力に、彼は地に叩き落とされる。

「うっ……つ……」

「……万が一でも不可能ですよ。あなたに私は倒せない」

「……!?」

 何とか身体を起こすブロッサムに、無傷のフリージアが話しかけてきた。
 目の前の状況が理解できず、信じられない、という表情になる。

「な……んで……、……!」

 攻撃はたしかに命中していた。どういうことかと彼を見る。
 ――そして、気づいた。

「まさか……『魔法壁召喚』か……!?」

 彼の周りに張られている、ヒビ割れた薄い光の壁の存在に。

「……そうですよ。私が執事であることをお忘れではないでしょう」

「……ああ」

 言って下唇を噛み締める。
 魔法壁召喚とは、人形使い学科や牧師・シスター学科、予報士学科やエルフ専門の精霊使い学科、そして執事・メイド学科のみ扱える防御系のスキルである。
 攻撃を防ぐ壁を召喚し、また、三人の魔力で召喚する守護防壁と違い、一人でも扱うことができるのだ。

「……腕を上げたとは言えど、まだまだです。この程度の壁で防がれるなら、私には傷一つ当てられませんよ」

「くっ……!」

 そう言ってフリージアはヒビ割れた魔法壁の上から、また新たな魔法壁を召喚する。
 一人の人物の魔力で扱うために壊れやすいのが難だが、熟練した者ならば、このように重複して召喚することが可能なのである。

「マジかよ……」

「あなたはセルシア様はもちろん、私ですら勝てません。……やはりあなたではセルシア様の――私の期待にも答えられない」

「な……」

 魔法壁の向こう、フリージアから強烈な光の魔力が集まっていく。
 この感覚は――ブロッサムは朧げながら覚えていた。

「殺す訳ではありませんので安心してください。それにセルシア様はアユミさんと、一対一の戦いを望まれていますので邪魔もしません」

「ですが……」とフリージアが右手を高くあげる。

「あなたは……ここで終わりです――ブロッサム」

「……!!」

 ブロッサムの目が見開く。
 そして――フリージアの右手が、ブロッサムに向かって突き出された。

「さよならです――イペリオン!!」

 それは清浄な光の力。熟練した光術師のみ扱える最強の攻撃魔法――イペリオン。
 それが今、ブロッサムに向けて放たれた。

「くっ……!」

 自分の周りに集まった光が、一斉に爆発したのを感じとれた――。
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