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三学園交流戦・前編

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 アユミSide

 今頃ブロッサムはドラッケン学園で頑張ってるだろう、と思ってる時……義塾の前で一種異様な光景を見ていた。

「う、うえーん……お、お腹が~……」

「君、大丈夫? しっかりして」

「おーい。大丈夫かぁ?」

 何故か学校前でレオが腹抱えてうずくまってる。そしてそれを介抱するように治癒の波動をかけているアイツと護衛という立場にもある男……。

「そこのアンタ! なんでレオに腐った豆腐なんか食べさせるのよ!」

「ぼ……ぼくは……ちゃんと言ったの。腐ってるから食べないでって……」

「聞く間もなく、美味しそう~って口に放り込んじゃうんだもん、その子」

「アハハハ。まったくだねぇ。あっという間だったよ」

 チューリップがトウフッコに怒鳴る横で、ロクロが呆れたように、ロアが愉快そうにレオを見ている。
 うん、一連の説明でよくわかったが、これは忠告無視したレオが悪いだろ。確実に。

「だ、大丈夫か~? 腐った豆腐持ち歩くとか、ホンマしょうのないヤツやな」

「ごめんなさいなの……」

「う、うう~……」

「アイナ、ロア。何とかならへんか?」

 未だ腹を押さえるレオを横目に、カータロがアイナとロアにたずねている。

「う~ん……このままかけてれば治るよ。ただ……」

「あと1時間はかけてやらないとね。何せトウフッコの豆腐は秘伝物だから、腐ったら強力な腹壊しだし」

 さすが臨時校医の資格も持つロア。見ただけで解決もしやがった。
 最高だな。……笑いながら言うのをやめればな。

「治るのはいいけど……その間、私たちは戦えないわね……」

「でもでも、ここの学校の生徒と戦わないとレーダーもらえないって説明されたじゃん!」

「どうするの~!」と慌てるチューリップ。
 それを聞いて……よし、レーダーはこいつら以外から……ネコマ辺りからいただくか。
 ……だって、アイナに会ったら確実に怒られるのは目に見えてるし。
 そう思って回れ右を決め込む、時だった。

「ま、まだ希望は捨てるな」

 ここでレオが立ち上がった。
 お……アイツも意外に根性あるじゃ……。

「ボクは英雄だ! こんなピンチには、親友が助けに来てくれるに決まってる! ……ってかここにいるじゃないか!」

 そう言うと何故か走り出した音、そして俺の腕にガシッ! としがみつき……え? あれ?

「同じ学校のよしみ、そしてこのレオ様の友人として助けるよな!?」

「俺が!?」

 せっかく無視しようとしたのに、このアホォオオオッ!!!
 つかこいつ……いつ俺の存在に気づいたんだ……!?

「なっ!? アユミやないか!」

「あ、アユミなの!」

「お姉ちゃん!!?」

「はぁ!?」

 あああ……ばれた……。
 っつか……途端に目が釣り上がってませんか、アイナさん?

「お姉ちゃん……なんで私に黙って転入しちゃったのよっ!! あと、前来た時私に会いに来てくれなかったの!?」

「いや……いろいろと事情が……」

「お・ね・え・ちゃ・ん?」

「……す、すんません……」

「いや、なんで反論出来ると思ったんだよ……」

 額に青筋見えますよ、アイナさん……。
 なんて言える訳ないので、ここは怒る妹に素直に謝罪しておこう。

「え、お姉ちゃん? ……ってかよく見ると、アユミが二人いるような……」

「なんや、知らんかったのか? アイナはアユミの双子の妹やで」

「まあ! そうなの!?」

「しかもブーゲンビリアと違ってそっくり……」

 そこ。話し込む暇があるなら、俺を助けてくれ……。

「あ、あのさ……カエデ。とりあえず、レーダーくんね? 二個」

「2個? それはおまえと……コイツの分?」

 釣り目ってる妹には声をかけづらいので、側にいる幼馴染……カエデにコクコクと頷きながら、両手を合わせて頼むのポーズ。

「頼む。あれはあれで同期だから。そうすりゃトウフッコの事はチャラにすっからさ!」

「うーん……ホンマは1パーティずつ戦わな、あかんのやがなあ……」

「でもぼくが悪いのも事実なの。だから、二個ぐらいいいと思うの」

 さすがトウフッコ!
 話がわかるぜ、この子は。

「そっか。トウフッコが言うんなら……。でも、まさかアユミと……?」

「安心しろ。俺一人だから」

「なおさらタチ悪いで……」

 こういう時だけ真面目だな、カータロ。
 ……単に俺の相手をしたくないだけかもだけど。

「……じゃあ、私がやるわ」

「……え?」

「お、おい。アイナ?」

 何故かアイナが立候補した。
 ……怒りのオーラ的な何かを纏って。

「お姉ちゃんにはまだまだ怒ってるもん。だから戦って少しは発散したいの!」

「なんでじゃーーー!!?」

 いくらなんでもイライラし過ぎだろ、おい!!

「あー……アイナがそこまで言うんなら、わいは止めへんけど……」

「ぼくも止めはしないの」

「私も。アイナの怒りはわかるし」

「……俺に止められると思う?」

「面白そうだから俺も止めない」

 おまえらァアアアッ!!!
 どういう理由で止めねぇんだよ(特にロア)!!

「ありがと! じゃあお姉ちゃん、遠慮しないでね!」

「げ……!」

 すでに武器を構え、俺に戦いを余儀なくされる。
 ……つかアイナ……おまえは後衛の巫女学科だろ……。

「ええい!」

「……!」

 咄嗟に横に避けると、ブンッ、と空を切る音が耳元で鳴る。
 いかん……完全に本気だ。

「チッ……」

 長秀の脇差を抜き、振り回してきた武器を受け止める。
 おお……さすが日本刀の強化版。性能がかなりアップじゃん。

「む……逃がさない!」

「甘いわ!」

 躍起になって武器を振り回してるが……アイナ、それが短所だって気づいてるか?

「はぁっ!!」

 バキィンッ!!

「きゃあっ!?」

 武器を叩き落とし、そんで刀――の鞘を突き付ける。
 いや、さすがに刀を突き付けたくないし……。

「……ほら、どうする?」

「え、えう……うう~……」

 悔しそうに俺を睨むアイナ。
 だが武器を叩き落とした以上、前衛職である俺の方が圧倒的に有利だ。

「アハハ……完全に負けたねぇ、アイナ」

「わ、わかってるよ! ……私の負けだもん」

「……はあ……やれやれ」

 ロアに言われてアイナが拗ねて座り込んでしまった。
 刀を納め、アイナを立たせる。
 こいつ……意地っ張りだからな、結構。

「アユミ、強ぉなったなあ……! 剣技に一層磨きがかかっとるで!」

「まあな。つーか、んなこたぁいいから、カータロ。レーダー二個渡せコラ」

 手を出し、早く出せと催促する。
「せっかちなやっちゃな……」とぶつくさ何か言ってるが、それでもレーダー二つを俺に渡してくれた。

「ほら、これがシキガミの場所がわかる“モノノケ羅針盤”や」

「サンキュ。有り難くちょうだいすっから。……ほら、チューリップ!」

 レオは腹痛(ちなみに戦ってる間はロアが治療してた)なので、その横のチューリップに渡す。

「ありがとう、アユミ!」

「助かったわ! ホントにありがとう!」

「いえいえ、どーいたしまして」

 軽く手を振り、そのまますたこらと飢渇之土俵に行こうとする。

「お姉ちゃん!」

「ぐっほぁ!!?」

 ……が、それは腰にタックルかましたアイナに遮られた。
 ってかまだ怒ってるの!?

「なんだよ、今度は……」

「お姉ちゃん、約束! プリシアナに行った理由言わないんなら、遊びに行ってもいいよね!?」

「はあ!?」

 なんでそれを今聞くんだよ!
 やだよ、巻き添えまたあうの!

「それは……」

「……む~……!」

「アユミ。折れた方が早いぞ。多分」

「~~~……っ! わーったよ、たまにならな! たまになら!」

「! やった!」

 カエデに言われて渋々許可する。
 くそっ……なんだかんだで弱いな俺も。
 許可をいただいたことにより、妹はすくっと立ち上がって跳びはねている。

「よかったね、アイナ。たしかに言ったから、いつでも遊びに行けるわね」

「うん! プリシアナ学院、一度行って見たかったんだ~」

「あら、そうなの? だったら今度、一緒にお茶会でもしましょう♪」

「ホント? やったー♪」

 早速仲良くなったな……。
 ……できれば俺はパスりたいとこだな。

「……アイナ。もう行っていいか?」

「あ、うん。いいよ」

 あっさり頷き、俺からどく。
 ……んで俺は立ち上がり、そのままスタスタと立ち去る。

「お姉ちゃあーーーん! 絶対遊びに行くからねーーーッ!」

 そんな俺に気にも止めず、ニコニコと上機嫌で手を振るアイナ。
 とりあえず片手を上げて「おー……」とやる気なく返した。
 そしてそのままロアの脇を横切ろうとする。

「気をつけなよ~。――いろいろ、ね」

「……ああ」

 ――含みのある言い方。
 ……こいつ、ホント何者なんだ。ロアの言葉の意味は……もちろんわかってる。

「…………」

 タカチホに来てから感じたもの……。それは何回も俺を狙う、うっとうしい“闇”の力。

「……。殺しにきた――訳じゃないな。これは監視、と言った方がいいのか?」

「ほう……ワシの気配に気づいていたか。なるほど……エデンが執着する訳よ」

 飢渇之土俵に入る寸前、気配に溶け込んでいたディアボロスの男に話し掛けた。
 そいつは姿こそ見せない(かなり近くにいるけど)が、俺の言葉に返答する。

「生徒の監視……いや、戦闘力でも測りに来たのか? ずいぶん仕事熱心なことで」

「貴様こそワシの気配に気づくとはたいしたものよ。他の連中と違ってやりおるやりおる……」

 ずいぶんジジイみたいな喋り方するな。
 たいして年変わらねぇくせに。

「で。どーするの? 俺を殺るか?」

「残念だが、そのような命は受けておらぬ。それに……ワシはエデンよりも血気盛んではないからな」

「血圧上がるからか?」

「人を老人扱いするな! ……まあいい。せいぜいつかの間の一時を過ごすが良い。“予言の子”よ……」

 そう言うとそいつは気配を消した。
 多分俺から離れただけで、まだタカチホにいるだろうけど。

「……いいか。深追いも面倒だし」

 つか、むしろした方が危険だ。
 俺一人で……またアイナを巻き込む危険もある。
 それだけは絶対避けたい。

「……行こう」

 少なくとも向こうから襲って来る気配はない。
 ならばアイツの言う通り、今は交流戦を楽しませていただくとしよう。

「……気にしてたらキリねーし」

 どのみち、近い内にまた派手にやり合いそうだからな。
 そう思いながら、熱気強い砂漠へ足を踏み入れていった。
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