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三学園交流戦・前編

 ――――

 シルフィーSide

「ふ、ふぇ……」

「グォオオオ……」

 アユミちゃんに言われた通り、プリシアナセンチネルを倒しにきたんだけどぉ……。

「グルルル……」

「ォオオオッ!!」

「二体同時は反則だよぉおおお!!!」

 橋の上で挟まれちゃったから、逃げ場がないよぉおおお!!
 どうしよぉおおお!!!

「ひ、ひぇ……」

「グルルル……!」

「グォオオオ!!」

「うっ……うわぁあああん!!」

 カッ――――ドガァアアアンッ!!!

「「オオオオオオッ!!?」」

「うぇえええん! 怖いよぉおおお!!」

 プリシアナセンチネル怖いぃいいい!!

 ――――

 ???Side

「……シルフィネスト」

 攻略戦ということで、(面倒だけど)上からの命令で三学園の生徒たちの様子を見に来ていた。
 ……その時、ふとシルフィネストの姿が見えた。

「ディーム。あの子、プリシアナセンチネルを二体同時にやっつけちゃった」

「ライラ……まあな。あいつは……強いから」

 後ろにいるノームの少女……ライラを一瞥してから、またシルフィネストを見る。
 ……あいつ、まだ大泣きするの、直ってないのな。

「そうなの? でも泣いてるよ?」

「泣き虫の弱虫だからな。……でもあいつ、ここまで」

 俺が卒業した後に入学し、現在の賢者学科で最強の魔力を得ている。
 性格が災いして、それはあまり周囲に伝わってないが。

「ディーム。まだ様子見るの?」

「そうだな……命令だし」

「うん、わかった」

 コクりと頷くライラを見て、再び生徒たちの実力を計測し始める。
 ……その中でシルフィネストが魔宝石を見つけ、大はしゃぎするのを見た時……嫌な顔に歪んでいくのが自分でもわかった。

 ――――

 ブロッサムSide

 アユミをタカチホに送り、すぐにドラッケンにやってきた。
 ……んで。校庭の方でとんでもない騒ぎがあったから来てみたんだ。
 ……だけど、来なきゃよかった。

「……僕の勝ちだね」

「ぐっ! ぐにゅう~っ!」

「姫様!」

 ドラッケン学園の校庭の中央で、勝者と思うセルシアがキルシュトルテに剣を突きつけていた。
 ……どうやら宣告した通り、二人は決着をつけてたようだな。

「これでこの前の答えもはっきりしたんじゃないかな。どちらが英雄の末裔として相応しいか……」

 セルシアは静かに言うが、「そ、そんなはずはない!」とキルシュが首を振って否定している。

「い……今のはわらわが弱いのではないぞ! そうじゃ……仲間のこやつらが弱いのじゃ!」

 い……言いやがった。
 あのお姫様言いやがったよ。
 どんだけ我が儘なんだよ……。

「キルシュトルテ様……今のは、お言葉が過ぎるかと」

「フリージアの言う通りだ。君には、クラティウスさんの姿がきちんと見えてないようだね」

「なんじゃと!? わらわが誰よりクラティウスのことは知っておるわ! ……だ、だから、だらけておるのもわかる! 愛の鞭じゃ!」

「僕はフリージアには、決してそんなことは言わないよ」

「うるさい! 一国の王女ともなれば、そう簡単にはいかぬのじゃ!」

「……無茶苦茶だな」

 ボソッとつぶやく俺。
 フリージアとセルシアは正論を言うが、あのお姫様、なんつー言い分を……。

「ええい! こうなれば、ドラッケンの真の力を見せてやるのじゃ! いでよ! ドラッケンゴーレム!」

 ズドォオオオンッ!!!

 おいィイイイッ!! いくらなんでも反則だろ、それは!!?

「あーあ。我が儘王女様を怒らせちゃったワケか」

「ほほほ! 交流戦でゴーレムを使ってはいけないという決まりなどなかったからのう!」

「これで再び勝負じゃ!」とゴーレムに乗りながら言うキルシュ。
 ……それ。多分当たり前過ぎるからルールにないだけだと思うけど……。

「……どうする? 連戦はキツイぜ?」

「だからと言って、ここで引き下がれる訳がないだろう」

 セルシアは再び剣を構える。
 ……けど無理だ。セルシアもバロータもフリージアも、結構ダメージを受けているし……。

「しかしセルシア様。先程のキルシュトルテ様との戦いでかなりのお怪我を……」

「大丈夫。このくらい平気だ」

 キルシュと対峙しようとするが「無理はやめとけよ」とバロータが止めに入った。

「このお姫様と戦うことが、今回の目的じゃないんだからさ」

「バロータの言う通りです。セルシア様」

「だけどっ! ……くっ!」

 飛び出しかけたセルシアだが、すぐに片足をついた。
 そのあと脇腹を押さえ込んでいる。

「セルシア様!?」

「さっき脇腹にくらった一撃が効いてんのか!」

「どうした? ウィンターコスモスのボンボン! 参らぬか!」

 あからさまな挑発。それに痛みに耐えながら立ち上がるセルシア。

「ほほほ! では行く「おい!」にゅ!?」

「……!?」

 咄嗟に、ゴーレムとセルシアたちの間に入り込んじまった。
 ……セルシアの姿が、冥府の迷宮でのアユミと重なっちまったから。

「む? そなたは確か……そこのボンボンの従兄弟とやらか。何の真似じゃ!」

「……セルシアはおまえとの戦いで傷を負ってんだ。だから、俺が代わりに戦う」

「ブロッサム……!?」

 後ろでセルシアが驚いているのがわかる。
 正直、俺もこんな大それたことを言っちまうとは思わなかったし。

「わらわは別に構わぬが……まさか、そなた一人だけでやる気か?」

「……しかたないだろ。一人はプリシアナ、もう一人はタカチホだし」

「え……おまえら全員別行動かよ!? やられたらおしまいじゃねーか!」

 ……そうだ。今は俺一人。やられちまえばそれで終わりだ。

「ほほほ! 威勢が良いのぅ! よかろう、かかってくるのじゃ!」

「ブロッサム、無茶はしなくていい! ここは僕が!」

「いや、どのみち俺一人でゴーレム狩りだし!」

 無茶するなって言われても、ゴーレム退治に行くから意味ねぇし。
 一体増えようが同じだろ……多分。

「行け! ドラッケンゴーレム!」

「ブロッサム!」

「うぉっ!?」

 ゴーレムが腕を振り回してきやがった!
 咄嗟に範囲外の空中まで逃げる。動きが鈍くて助かった……。

「くっ……こんなところで……!」

 空中で向き直り、ゴーレムと向かい合う。
 ……アユミのやること成すこと言うことは無茶苦茶だが、それでも“俺自身”を信じてくれる。
 ……だから。

「アイツを守るためにも……絶対、ここは俺一人で勝ってやる」

 杖を構え、光魔法の詠唱に入る。
 こんなところで、負けられねぇから。

「我が仲間を助ける為、具現せよ、光の精霊! いでよ、ウィスプ!」

 上位の光術師やプリンス・プリンセス学科。そしてエルフ専用学科、精霊使いが使える光の精霊魔法・ウィスプをゴーレムに向けて放つ。

 キュイイイン――ドガァアアアンッ!!!

「え……あだあっ!!?」

 ……あ、あれ?
 なんか、前に召喚した時よりウィスプがでかい……ってか、反動強すぎて後ろに尻餅着いちまったぞ……!

「ほにゅあーーーッ!!?」

「ひ、姫様!?」

「ちょ……大丈夫!? 姫様!?」

 キルシュはキルシュでゴーレムがバラバラにぶっ壊れたことにより、地面に強く落下する。
 ……そのあとはクラティウスや忍者みたいなクラッズを振り切り、半壊したゴーレムに「なんじゃ、動かぬか! このポンコツめ!」とポカポカ殴っている辺り、大丈夫そうだがな。

「ブロッサム……今のは……?」

「あ……いや……普通に、精霊魔法のウィスプを……」

「普通って……どう見てもあの威力は普通じゃねぇだろ」

 ……バロータに指摘された。
 たしかにそうだな……使った俺ですら、あんなに威力が出るとは思わなかったんだし。

「ブロッサム……あなた、いつの間にその魔法を……?」

「えっと……いろいろ、紆余曲折がありまして……」

 フリージアがものすごく睨んでる……!
 やめろ……怖いんだけど!

「……こ~ら~! おかしな戦いをしているのは誰ですか~!」

 その時だ。まるで助けのごとく子供のフェアリーが走ってきたのは。

「なんだよ。ここにも子供先生がいるのか」

「そうです、シュピール先生ですよ。子供ですけど、たくさんの学問を修めて飛び級で先生になったんです。ここにもって……プリシアナにも子供の先生がいるんですか?」

「いえ。我が校の子供先生は大人の先生です。外見が子供のようなので、そう呼ばれているだけです」

 シュピールっつーマジで子供な先生が首を傾げて聞いてきた。
 それにフリージアが対応する。

「はあ。いろんな子供先生がいるんですね。……それはそうと! ゴーレムに乗って戦ったりしちゃダメですよ~!」

 説明に納得したか、頷く先生。
 んで、すぐにキルシュに向き直って叫び出す。

「そんな規則、聞いてないのじゃ」

 サラっと言ったな、お姫様……。
 その返答に「当たり前過ぎて言ってないだけです!」と憤慨している。

「大丈夫かよ……ノイツェシュタイン王家の今後は」

 マジで心配だ……。
 他に跡継ぎはいないのか、と思ってもくる。

「あー、コホン。とにかく、ちょっとイレギュラーなケースでしたが、ゴーレムを倒したので君たちには魔道コンパスをあげます。頑張ってくださいね~」

 ドラッケンのレーダー、魔道コンパスを俺とセルシアに渡すと、シュピール先生はまた校内に戻った。
 そのあとキルシュが立ち上がり、「クラティウス、シュトレン! わらわたちも他の学校に急ぐぞ!」と二人に言った後、再びセルシアに振り返る。

「セルシア! 本当の勝負はこれからじゃ! 最後に勝つのはわらわじゃからな!」

 ……これまたお決まりの文句なことで。
 そのあと二人を引き連れ、ずんずんと去っていった。
 残された俺らには、ため息しか出てこない。

「なあセルシア……クラティウスは大丈夫だと思うか?」

「キルシュトルテさんも、本当に大切なものがわからないほど馬鹿じゃないだろう。……それよりブロッサム。さっきは助かった、ありがとう」

「な……べ、べつに礼を言われるようなことじゃ、ねぇし……」

 なんでこいつはこんなに素直なんだよ……。言われた方は照れるっつの……。

「ブロッサム、大丈夫か? 一人で行動しているみたいだが……」

「そういう作戦なんだよ……まあ、思ったより大丈夫、かも」

 伊達に冥府の迷宮で鍛えた訳じゃない。
 体力もそこそこ鍛えたし……。

「……ならいいんだけど。ブロッサムも気をつけて」

「わかってるよ。……せ、セルシアも、な」

 ……こういうのはなんかガラじゃないんだよ。
 つか、こいつ……時々ド直球ですごいこと言うしな。

「ま、そんだけ強くなってんなら大丈夫だろ」

「ブロッサム。申し上げますが……セルシア様やウィンターコスモス家に傷がつかぬようお願いします」

 バロータはともかく……フリージア、俺に恨みでもあるのか?
 なんで毎回小言言われるの!?

「あ、ああ……とりあえず、俺行くから……」

 会話も打ち切り、急いで立ち去る。
 ……フリージア、毎回毎回怖いんだよ、こいつは。

 ――――

 ???Side

「へぇ……少し興味深いね。ウィンターコスモスの分家」

 ドラッケンにはあの王女のお付き……クラティウスの様子を探りに来たけど……。
 ちょっと面白い余興が見つかったね。

「あれが、エデン生徒会長に一撃を与えた奴――ブロッサムか」

 プリシアナの生徒会長、本家であるセルシアにはあまり興味がない。
 だけど、彼が召喚した光の精霊……あれからはボクの闇の精霊と同じくらいの力を感じた……。

「精霊使いであるボクにこう思わせるなんて……。なるほど、彼との戦いは余興、興味……いや、楽しみかな?」

 嫌でもいずれ会う日が来る。
 その時が少し楽しみだよ、ブロッサム――。
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