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三学園交流戦・前編

「いよいよだ! ついに! ついにボクが英雄になる日だー!」

「よーし! ボクも、頑張っちゃうよ~!」

 大聖堂ではしゃぎ合い、すでに気合い十分のレオとシルフィーだ。
 冥府の迷宮で修行し、あっという間に一週間が過ぎた今日。
 プリシアナ学院の大聖堂で、三学園交流戦が開始されたんだ。

「ずいぶん張り切ってるな。セルシア」

「まあね。僕もプリシアナの生徒会長として、そしてウィンターコスモス家の人間として恥じない結果を残すつもりだよ。ブロッサムだって同じだろう?」

「まあ……な」

 俺の場合、ウィンターコスモス家とは関係なく、俺自身の全力が出せれば……だけど。

「大陸の学校を集めてのイベントだからね。たしかにここで優勝すれば大きなステップアップになるのは間違いない」

「英雄にもなれるよね! レオ様の天下は目の前だ~!」

「よーし! 俄然、やる気が出てきたぞ~!」

「……約1名を除けば、な」

 言って俺は横の、未だに椅子に座り込んでいるあいつを見る。

「……かー……こー……」

「……おい……いつまで寝てんだ、おまえはあああ!!」

 ……そう。アユミは開会式開始と同時に居眠りし始め、今もなお寝てやがるという訳だ。
“三学園交流戦”は大陸三つの学校の伝統的な行事。
 セルシアの説明通り、交流戦に優勝は、イコール三学園の頂点に立つということだから、ほとんどの奴らは張り切るのは当然だ。
 ……なのにこの女は……よく堂々と寝られるな、おい!!

「うわー……まだ寝てたんだ」

「アユミちゃん、気づけば寝てるからね~。朝なんて、中々起きてくれないし」

「よくもまあ、付き合ってられるな……」

 後ろでぐだぐだ何か言われてるが、ひとまずアユミを叩き起こすことに専念する。

「おい、起きろ! もう開会式終わったぞ!」

「ん~……そうか……んじゃ、交流戦始まったら……」

「交流戦も始まってんだよ!」

「……えー……マジでー……?」

 俺がそう叫べば、ようやくこいつは起きはじめた。
 ……毎度毎度起こす俺の苦労も考えてくれ。

「えっと……おはよう、かな? アユミ君」

「ん、おはようさん、セルシア」

 軽く言い、目を擦りながら立ち上がる。
 ……黙れば結構容姿は良いんだけどな。

「……おまえ。交流戦の説明とかわかるか?」

「あー……各校のターゲットモンスターが配置されて、それを一番多く狩り取るんだろ? わかってるって」

「……モンスターの名前は?」

「ドラッケンゴーレムとシキガミ。んで、ウチはプリシアナセンチネルというメカだろ」

「……どうやって発見するか」

「各校のレーダーで。プリシアナのレーダーは配られるが、他校のレーダーは直接行かなきゃもらえない、だろ?」

「……わかってるならもういい」

 事実、すべて合ってる。
 わかってるならこれ以上はツッコミは入れないことにしておこう。
 不毛なだけだし。

「大丈夫? 私たちも頑張るけど、あなたたちも頑張ってね!」

「正直、レオに優勝は期待してないし。アユミとセルシアが優勝候補かな?」

 ストレートに言ったな、チューリップ……。

「俺はこーいう面倒臭いイベント嫌いなんだけどな……」

「バロータ」

 バロータの発言に、フリージアの眼鏡が光った……。

「君がどう考えてようが勝手だが、セルシア様の足手まといになるようなことはしないようにしてください」

「はいはい。俺だって、セルシアに恥を掻かせたくはないからね」

 それに臆することなく軽く言うバロータ。
 ……俺だったら怖くて竦み上がるんだけど。

「やれやれ……。まあいい。セルシア、レオ。とりあえず頑張ってな」

「ああ。健闘を祈るよ。お互い全力を尽くそう!」

「元気に戻ってこいよな!」

「はいよー。……んじゃ、俺らも行くか」

「ああ」

「……み~……」

 セルシアたちに手を振った後、こいつもようやく活動モードになった。
 それから揃って大聖堂を出て行く。

「作戦わかってるか?」

「覚えてるよ。……実に恐ろしいこと極まりない作戦だが」

「ボク……やっぱり一人は怖いよぉ……」

「贅沢吐かすな。優勝するならこれが一番手っ取り早いんだよ」

 ……とは言うが、正直俺も賛成しかけない。

「各校に一人ずつって……これじゃリコリス先生の言う通り、ホントにコロシアムに放り込まれたような感じだぞ……」

「死ぬまでとは言わない。死ぬ気で勝て」

「無茶苦茶言うな!!」

 どうしてこいつはいつもこんなんなんだよ!

「一緒に回ってたら、他の奴が取られる。すべて奪い取るにゃ、こいつが一番だろ」

「そりゃそうだが……ああ、もうわかったよ! やりゃ、いいんだろ!?」

 いまさら反論してもこいつは聞かない……。
 ならば諦めて、もうどうにでもなれ、だ。

「そうこなくっちゃ♪ あ、さらにうまく行くように、プリシアナにはシルフィー。ドラッケンにはブロッサム。タカチホには俺が行くから」

「……へ? なんで」

「シルフィーは正直どこまでやる気が出るかわからない。下手に他校に送って、逃げ出して迷子にでもなるとまずいだろ。いろんな意味で」

「……たしかに」

 普段のモンスターですら怖がるんだ。
 交流戦専用のボスモンスター相手にどこまでやれるか……俺も不安だ。
 加えて限界が来て逃げ回る、と他校でそれをやったらプリシアナ学院にいろいろ傷がつく。

「タカチホの方は砂漠だ。土地勘ある俺が行った方がいい。暑さにも慣れてないといけないし」

 なるほど。これも納得できる。
 元タカチホ義塾の生徒のアユミなら、タカチホのダンジョンも攻略しやすいだろうな。

「消去法でドラッケンはブロッサムだが……ゴーレム以外さほど強いモンスターもいないし。おまえのその鍛えた魔力で一網打尽のフルボッコにできるだろ」

「俺の理由は納得できるようで無茶苦茶だな……」

 今に始まったことじゃないが……。

「とにかく行こう。シルフィー、せめて一体は仕留めろよ」

「い、イェッサー!」

「ブロッサム。タカチホまで送ってくれ。帰りは飛竜で学院に帰るから」

「わかった。……じゃ、行くぞ」

 シルフィーが一歩離れたのを確認してから呪文を詠唱し、スポットを発動させた。

「アユミちゃあん! ブロッサム~! 頑張ってね~!」

 パタパタと手を振るアイツを見て……一抹の不安が過ぎったのは言うまでなかった。

 ――――

 タカチホ義塾前

「着いたな。送りサンキュ」

「いや……べ、べつにたいしたことじゃ……」

 身長に差があるとはいえ、上目づかいで笑うのはやめてくれ……!
 なんか、性格とか頭からすっ飛ばして可愛い……なんて思うから。

「……んじゃ、俺行くから」

「あいよー」

 軽く手を挙げ、義塾内に入っていくアユミ。
 それを見てから、ドラッケンに向かうべく、もう一回スポットを発動させた。
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