埋まる溝
――――
『俺は“おまえ自身”がいいんだよ』
さっきからこの言葉が、ずっと頭に離れずにいた。
「俺が……必要……」
アマリリスの言葉を引き金に、自分が“ウィンターコスモスの落ちこぼれ”だということを嫌でも再認識された。
……実際そうだけど。
家でもつねに本家のセルシアと比べられる。学校ではフリージア、バロータ。それと先生しか知らないからまだマシだけど。
「……あんな言葉、初めて言われた」
アユミは“俺”が必要だと言った。
ウィンターコスモスと関係なく、“俺自身”が必要だと。
「……ホント。訳わかんねぇ……」
……もうアユミの第一印象はそれしか浮かばねぇ。
つかそもそもよく考えたら、バロータがしゃべって知ってからも、あいつは比べることも家のことも口に出さなかったじゃないか。
「あいつにとって、関係ないこと、か」
……まあアユミもいろいろ何かあるようだからかもしれないけど。
それでも……アユミに話したのはよかった、と思う。
「……礼くらい、言っとくか」
アユミの心理はどうあれ、助けられたことに変わりはないから。
そう思って扉に近づいた時だ。
「……隙だらけだっ!!」
「うぁあっ!!」
扉越しに聞こえた金属音と衝撃音。それと……微かな血の匂いに気づいた。
――――
「……くそ……っ」
「それが“予言の子”の全力か? ……つまらん」
剣が突き刺さった脇腹の痛みに耐えながら、こいつ……エデンの冷たい笑みを睨みつける。
(完全に油断していた……)
殺気を感じれば、そこには迫り来る刃。気づいて咄嗟に避けたはいいが、左腕を斬られた。おかげで使い物にならない。
(しかも……)
……また一段と闇が濃くなっている。
それはもううっとうしいほどにな。
「前より弱くなったんじゃないか? ……それとも、ウィンターコスモスにも入らない奴の心配でもしていたのか?」
「……おまえには関係のない話だろ」
「…………」
ゴスッ!
「がはっ……!」
「……口の聞き方に気をつけろ。状況も見た方がいい」
「テ、メェ……」
思いきり腹を殴りやがって……。
バタン!
「アユミ……!?」
「……!?」
「……ふん。来たか」
視線を向ければ、そこには隣で悩んでいたブロッサムが来ていた。
「馬鹿……逃げろ……っ」
「逃げろって……おまえ……!」
「……ブロッサム。ウィンターコスモスにも入らない奴か」
「……ッ!」
「……取り消せ、コノヤロー」
また傷ついた顔させた……どいつもこいつも……ッ!!
「……そんなにこいつが大事か?」
「少なくとも俺を殺しにかかるどっかの誰かよりはな……」
「生意気な口ばかり叩くな。……殺して剥製にした方がよさそうだな」
「ふざけんな……」
どこのヤンデレの発言だ、それは……。
「嘗めるな……」
「遅い」
バキンッ!
「……ッ!」
最……悪……。
刀を、折られた……これで俺の武器はもうない。
「おまえの存在は“あの方”の邪魔になる。……惜しいが、消えてもらおう」
「ぐ……っ!!」
「なっ……!」
首を掴まれ、ズルリと剣を抜かれる感覚に吐き気を覚える。
もはや抗うだけの体力も残されていない……。
「……ブロッサム。早く……逃げ、ろ……」
「あ……」
だから、最後にブロッサムに視線を巡らせる。
……今の俺がどう動こうと、エデンの方が早いからな。
「終わりだ……!」
「……っ!!」
「……! や…………やめろぉおおおおおおッ!!!」
刃が振り下ろされ、これで終わると思った、その瞬間だった。
ドガァアアアンッ!!!
「な……ッ!? あ……あアあアアアアアッ!!!」
「……!」
強い、聖なる光が俺とエデンを包み、だが光の爆発はエデンにだけに襲い掛かった。
「な……なんだ……?」
「はぁ……はぁ……」
「ブロッサム……!?」
いつの間にかブロッサムが、息を切らしながら俺の背後に回っていた。
痛みで崩れ落ちそうになった身体は、どうやらこいつが支えているらしい。
「……さ……せ、ない……。こいつは……殺、させ……ない……」
「ブロッサム……おまえ……」
よほど魔力を使ったのか、意識が危うい状態だ。
「ぐっ……!? これは……まさか……“イペリオン”か……!?」
「イペリオンって……術師系学科最強の攻撃魔法って言う、あの……?」
……俺も魔法を少し使えるから知っている。
熟練した光術師だけが使える、最強の攻撃魔法。
その破壊力と魔力の消費量から、一説じゃ今も直、現代に伝わる古代魔法の一つとも言われる。
「……でも、各校の光術師学科の卒業生のすべてを合わせても、数える程しかいないんじゃ……」
「くそっ……力を開花させたか、それとも……ぐぅっ……!」
忌ま忌ましげにブロッサムを睨むエデンだが、途中でがっくりと膝をついた。
同時に、奴の身体から黒いオーラが現れては消えてやがる。
「や、闇が……アガシオンから受け取った、力が消えていく……!?」
「な……アガ、シオン……?」
「アガシオンの闇……まさか、さっきのイペリオンが闇の力ごとおまえを吹っ飛ばしたのか……?」
「くそっ……ここで倒れる訳には……」
戸惑うブロッサムや思案する俺を睨みながら、よろよろとエデンが立ち上がる。
「覚えてろ……“神々の予言に謳われし者”……いや、アユミ。そしてブロッサム! おまえたちは必ず……」
「僕が殺す……」と言いながら、まるで糸の切れた凧のようにふらふらと迷宮の奥に立ち去っていた。
「……行った、のか?」
「みたい、だな……、く……っ」
「アユミ!?」
エデンが去ったことを確認すると、安心したせいか、途端に身体から力が抜けた。
崩れ落ちる身体は、寸前にブロッサムに抱き留められる。
「まったく……あの野郎にも困ったもんだぜ……」
「腹、痛むのか? ……清浄なる光の波動よ……ヒーリング!」
脇腹に心地良い光が流れ込んでくる。身体の不調も直すって言う絶大な回復魔法の光が。
「……いつの間に」
「多分……イペリオンを使ってから。あれが使えるってことは、光術師を極めたってことだから」
「反則……」
消え行く痛みと光の心地良さを感じながら苦笑いが浮かび上がる。
「……ん。楽になった」
「そうか……よかった」
「ああ……ところで」
完全に感知した腹を押さえつつ、立ち上がりながらゆっくりと向き合う。
「……吹っ切れた? ん?」
「…………」
……彫像のように固まったな。
まさか吹っ切れてない?
「吹っ切れた……ってほどじゃないが……ただ」
「ただ?」
「……変わってみたい、とは思う……」
「変わる……?」
その言葉に、ちょっと首を傾げる。
変わるって……具体的に何を?
「俺……今まで自分のことしか考えられなくて……でも、おまえのおかげで……今までの俺と変えてみたいって……思った」
「…………」
「正直まだ不安だけど……でも……おまえを信じてみたい」
「……そうか。ブロッサムがそう決めたのなら、それでいい」
ブロッサムなりの答えを聞き、頷く俺。
自分の目標が決まったのなら、俺は何も言わないし。
「……あと、おまえが危なっかしいから守ってやりたいし……」
「ん? なんか言ったか?」
「あ……な、なんでもない! ……つ、つか、そんなことより!」
なんか聞こえたが遮られた……。まあいいけど。
「……あいつ、エデンだっけ? ……なんでおまえを……しかも、アガシオンって……」
……予想通り聞かれましたな。
「多分……俺が“予言の子”って奴だから」
「予言の……子……?」
聞き慣れない言葉に目を丸くしている。
……最初は俺も同じだけどね。
「具体的にはよくわかんねぇけど、去年から度々狙われていたんだよ。それも決まってアイツに」
「去年からって……」
「決まって一人の時だ。一回タカチホ義塾にも現れたけど……」
「もしかして、それが非公式の転校の理由か?」
「……よくわかったな」
こいつの勘の良さに恐れを抱きそうだ。
ある意味すごい。
「……ああ。その時に――俺の帰りを心配して迎えに来たアイナ……妹も巻き添えを受けた」
「……!」
驚きを隠せないブロッサム。
それに構わず、俺は続ける。
「何とか撃退して、早急に保健医に運んだよ。妹も思ったより無事だったし……でもこの一件で俺が……その予言の子だとわかった。……詳しくは聞かされなかったけど」
「……だから、プリシアナに?」
「あ、いや……ホントは……また妹が巻き添えになるんじゃないかって、思ってな……」
……そう。それが俺の転校の理由。
もしアイナが……なんて、考えるだけでも背筋が凍る。
「……それじゃ、アガシオンは? だって、倒されたはずじゃ……」
「さあな。ただ……エデンの口ぶりから考えれば、生きている可能性が高い」
「マジかよ……」
「……というか、生きてるんだろうな。本人と思われる奴に、何度か呪いをかけられたことがあるんだから」
「へぇ……はあ!!?」
さすがにブロッサムも驚いているな。
……それもそうか。魔王を甦らせようって奴に目を付けられているわけだし。
「そ、それでなんで、無事なんだよ……」
「……『転換の呪』」
「……え?」
「俺が“自分自身にかけた”、タカチホ式の呪いだ」
そう言うと、ブロッサムの目がますます見開いていく。
「タカチホ義塾に入学する前、ある事情で俺が自分にかけたんだ。これは自分の魔力に枷……つまりほとんど封印することで、呪いや封印術といった術を無効化し、さらに自分の力として変換させる呪いなんだ」
「それが……おまえにかかってるから、アガシオンの呪いが効かないってことか?」
「まあな……ホントに偶然なんだが、今となってはあってよかったと思ってる」
「……だろう、な」
ブロッサムの顔面が蒼白となっている。
当然だ。俺だって、背後にそんな奴がいて、それで命が狙われているなど、正直たまったもんじゃない。
「……だいたいこんなもんかな。俺の知っている限りはな」
「そうか……教えてくれて、ありがと、な」
……礼を言われることじゃないけど。
むしろブロッサムは巻き込まれた方だ。それも飛び切りやばい奴に。
「絶対俺が守らなきゃな……そのためにも」
言って俺はしゃがみ、折れた刀を拾い上げる。
「……まずは刀を直さないと」
「あ……エデンにへし折られたんだっけ」
そうだ、だからまず俺の武器を手に入れないと!
……転科? それはそれでまた装備に金がかかるから嫌だ!←
「……ブロッサム。ここを出て、タカチホ義塾へ行けるか?」
「え? あ、ああ……」
「よし、早速行くぞ!」
「はあ!?」
未だ寝てるシルフィー(あれだけやってなんで起きない……)を背負ったあと、素早くブロッサムの腕を掴んで出口へ一直線に走って……。
「いや、待て! 帰還札あるだろうが!」
あ。そーでした←
『俺は“おまえ自身”がいいんだよ』
さっきからこの言葉が、ずっと頭に離れずにいた。
「俺が……必要……」
アマリリスの言葉を引き金に、自分が“ウィンターコスモスの落ちこぼれ”だということを嫌でも再認識された。
……実際そうだけど。
家でもつねに本家のセルシアと比べられる。学校ではフリージア、バロータ。それと先生しか知らないからまだマシだけど。
「……あんな言葉、初めて言われた」
アユミは“俺”が必要だと言った。
ウィンターコスモスと関係なく、“俺自身”が必要だと。
「……ホント。訳わかんねぇ……」
……もうアユミの第一印象はそれしか浮かばねぇ。
つかそもそもよく考えたら、バロータがしゃべって知ってからも、あいつは比べることも家のことも口に出さなかったじゃないか。
「あいつにとって、関係ないこと、か」
……まあアユミもいろいろ何かあるようだからかもしれないけど。
それでも……アユミに話したのはよかった、と思う。
「……礼くらい、言っとくか」
アユミの心理はどうあれ、助けられたことに変わりはないから。
そう思って扉に近づいた時だ。
「……隙だらけだっ!!」
「うぁあっ!!」
扉越しに聞こえた金属音と衝撃音。それと……微かな血の匂いに気づいた。
――――
「……くそ……っ」
「それが“予言の子”の全力か? ……つまらん」
剣が突き刺さった脇腹の痛みに耐えながら、こいつ……エデンの冷たい笑みを睨みつける。
(完全に油断していた……)
殺気を感じれば、そこには迫り来る刃。気づいて咄嗟に避けたはいいが、左腕を斬られた。おかげで使い物にならない。
(しかも……)
……また一段と闇が濃くなっている。
それはもううっとうしいほどにな。
「前より弱くなったんじゃないか? ……それとも、ウィンターコスモスにも入らない奴の心配でもしていたのか?」
「……おまえには関係のない話だろ」
「…………」
ゴスッ!
「がはっ……!」
「……口の聞き方に気をつけろ。状況も見た方がいい」
「テ、メェ……」
思いきり腹を殴りやがって……。
バタン!
「アユミ……!?」
「……!?」
「……ふん。来たか」
視線を向ければ、そこには隣で悩んでいたブロッサムが来ていた。
「馬鹿……逃げろ……っ」
「逃げろって……おまえ……!」
「……ブロッサム。ウィンターコスモスにも入らない奴か」
「……ッ!」
「……取り消せ、コノヤロー」
また傷ついた顔させた……どいつもこいつも……ッ!!
「……そんなにこいつが大事か?」
「少なくとも俺を殺しにかかるどっかの誰かよりはな……」
「生意気な口ばかり叩くな。……殺して剥製にした方がよさそうだな」
「ふざけんな……」
どこのヤンデレの発言だ、それは……。
「嘗めるな……」
「遅い」
バキンッ!
「……ッ!」
最……悪……。
刀を、折られた……これで俺の武器はもうない。
「おまえの存在は“あの方”の邪魔になる。……惜しいが、消えてもらおう」
「ぐ……っ!!」
「なっ……!」
首を掴まれ、ズルリと剣を抜かれる感覚に吐き気を覚える。
もはや抗うだけの体力も残されていない……。
「……ブロッサム。早く……逃げ、ろ……」
「あ……」
だから、最後にブロッサムに視線を巡らせる。
……今の俺がどう動こうと、エデンの方が早いからな。
「終わりだ……!」
「……っ!!」
「……! や…………やめろぉおおおおおおッ!!!」
刃が振り下ろされ、これで終わると思った、その瞬間だった。
ドガァアアアンッ!!!
「な……ッ!? あ……あアあアアアアアッ!!!」
「……!」
強い、聖なる光が俺とエデンを包み、だが光の爆発はエデンにだけに襲い掛かった。
「な……なんだ……?」
「はぁ……はぁ……」
「ブロッサム……!?」
いつの間にかブロッサムが、息を切らしながら俺の背後に回っていた。
痛みで崩れ落ちそうになった身体は、どうやらこいつが支えているらしい。
「……さ……せ、ない……。こいつは……殺、させ……ない……」
「ブロッサム……おまえ……」
よほど魔力を使ったのか、意識が危うい状態だ。
「ぐっ……!? これは……まさか……“イペリオン”か……!?」
「イペリオンって……術師系学科最強の攻撃魔法って言う、あの……?」
……俺も魔法を少し使えるから知っている。
熟練した光術師だけが使える、最強の攻撃魔法。
その破壊力と魔力の消費量から、一説じゃ今も直、現代に伝わる古代魔法の一つとも言われる。
「……でも、各校の光術師学科の卒業生のすべてを合わせても、数える程しかいないんじゃ……」
「くそっ……力を開花させたか、それとも……ぐぅっ……!」
忌ま忌ましげにブロッサムを睨むエデンだが、途中でがっくりと膝をついた。
同時に、奴の身体から黒いオーラが現れては消えてやがる。
「や、闇が……アガシオンから受け取った、力が消えていく……!?」
「な……アガ、シオン……?」
「アガシオンの闇……まさか、さっきのイペリオンが闇の力ごとおまえを吹っ飛ばしたのか……?」
「くそっ……ここで倒れる訳には……」
戸惑うブロッサムや思案する俺を睨みながら、よろよろとエデンが立ち上がる。
「覚えてろ……“神々の予言に謳われし者”……いや、アユミ。そしてブロッサム! おまえたちは必ず……」
「僕が殺す……」と言いながら、まるで糸の切れた凧のようにふらふらと迷宮の奥に立ち去っていた。
「……行った、のか?」
「みたい、だな……、く……っ」
「アユミ!?」
エデンが去ったことを確認すると、安心したせいか、途端に身体から力が抜けた。
崩れ落ちる身体は、寸前にブロッサムに抱き留められる。
「まったく……あの野郎にも困ったもんだぜ……」
「腹、痛むのか? ……清浄なる光の波動よ……ヒーリング!」
脇腹に心地良い光が流れ込んでくる。身体の不調も直すって言う絶大な回復魔法の光が。
「……いつの間に」
「多分……イペリオンを使ってから。あれが使えるってことは、光術師を極めたってことだから」
「反則……」
消え行く痛みと光の心地良さを感じながら苦笑いが浮かび上がる。
「……ん。楽になった」
「そうか……よかった」
「ああ……ところで」
完全に感知した腹を押さえつつ、立ち上がりながらゆっくりと向き合う。
「……吹っ切れた? ん?」
「…………」
……彫像のように固まったな。
まさか吹っ切れてない?
「吹っ切れた……ってほどじゃないが……ただ」
「ただ?」
「……変わってみたい、とは思う……」
「変わる……?」
その言葉に、ちょっと首を傾げる。
変わるって……具体的に何を?
「俺……今まで自分のことしか考えられなくて……でも、おまえのおかげで……今までの俺と変えてみたいって……思った」
「…………」
「正直まだ不安だけど……でも……おまえを信じてみたい」
「……そうか。ブロッサムがそう決めたのなら、それでいい」
ブロッサムなりの答えを聞き、頷く俺。
自分の目標が決まったのなら、俺は何も言わないし。
「……あと、おまえが危なっかしいから守ってやりたいし……」
「ん? なんか言ったか?」
「あ……な、なんでもない! ……つ、つか、そんなことより!」
なんか聞こえたが遮られた……。まあいいけど。
「……あいつ、エデンだっけ? ……なんでおまえを……しかも、アガシオンって……」
……予想通り聞かれましたな。
「多分……俺が“予言の子”って奴だから」
「予言の……子……?」
聞き慣れない言葉に目を丸くしている。
……最初は俺も同じだけどね。
「具体的にはよくわかんねぇけど、去年から度々狙われていたんだよ。それも決まってアイツに」
「去年からって……」
「決まって一人の時だ。一回タカチホ義塾にも現れたけど……」
「もしかして、それが非公式の転校の理由か?」
「……よくわかったな」
こいつの勘の良さに恐れを抱きそうだ。
ある意味すごい。
「……ああ。その時に――俺の帰りを心配して迎えに来たアイナ……妹も巻き添えを受けた」
「……!」
驚きを隠せないブロッサム。
それに構わず、俺は続ける。
「何とか撃退して、早急に保健医に運んだよ。妹も思ったより無事だったし……でもこの一件で俺が……その予言の子だとわかった。……詳しくは聞かされなかったけど」
「……だから、プリシアナに?」
「あ、いや……ホントは……また妹が巻き添えになるんじゃないかって、思ってな……」
……そう。それが俺の転校の理由。
もしアイナが……なんて、考えるだけでも背筋が凍る。
「……それじゃ、アガシオンは? だって、倒されたはずじゃ……」
「さあな。ただ……エデンの口ぶりから考えれば、生きている可能性が高い」
「マジかよ……」
「……というか、生きてるんだろうな。本人と思われる奴に、何度か呪いをかけられたことがあるんだから」
「へぇ……はあ!!?」
さすがにブロッサムも驚いているな。
……それもそうか。魔王を甦らせようって奴に目を付けられているわけだし。
「そ、それでなんで、無事なんだよ……」
「……『転換の呪』」
「……え?」
「俺が“自分自身にかけた”、タカチホ式の呪いだ」
そう言うと、ブロッサムの目がますます見開いていく。
「タカチホ義塾に入学する前、ある事情で俺が自分にかけたんだ。これは自分の魔力に枷……つまりほとんど封印することで、呪いや封印術といった術を無効化し、さらに自分の力として変換させる呪いなんだ」
「それが……おまえにかかってるから、アガシオンの呪いが効かないってことか?」
「まあな……ホントに偶然なんだが、今となってはあってよかったと思ってる」
「……だろう、な」
ブロッサムの顔面が蒼白となっている。
当然だ。俺だって、背後にそんな奴がいて、それで命が狙われているなど、正直たまったもんじゃない。
「……だいたいこんなもんかな。俺の知っている限りはな」
「そうか……教えてくれて、ありがと、な」
……礼を言われることじゃないけど。
むしろブロッサムは巻き込まれた方だ。それも飛び切りやばい奴に。
「絶対俺が守らなきゃな……そのためにも」
言って俺はしゃがみ、折れた刀を拾い上げる。
「……まずは刀を直さないと」
「あ……エデンにへし折られたんだっけ」
そうだ、だからまず俺の武器を手に入れないと!
……転科? それはそれでまた装備に金がかかるから嫌だ!←
「……ブロッサム。ここを出て、タカチホ義塾へ行けるか?」
「え? あ、ああ……」
「よし、早速行くぞ!」
「はあ!?」
未だ寝てるシルフィー(あれだけやってなんで起きない……)を背負ったあと、素早くブロッサムの腕を掴んで出口へ一直線に走って……。
「いや、待て! 帰還札あるだろうが!」
あ。そーでした←