埋まる溝
「……あ? 三学園交流戦?」
「うん! 全校共通行事だって!」
他校を訪問した数日後。
シルフィーが満面の笑みでプリント用紙を突き付けてきた。
「ああ……そういや、担任が言ってたっけ。学院祭なんだっけ?」
「うん! 大陸にある三つの学校が競い合うんだ」
ふよふよ飛びながら、「楽しみだな~!」とうきうきしている。
「大規模のイベントなんだよな……めんどくさい」
「え~……」
がっかりしているシルフィーだが、面倒なものは面倒なんだよ。
「アユミちゃあん! 行こうよ~! やろうよ~!」
「ヤダよ。だいたい学院祭は一週間後だろ」
「やあだ! 行きたい行きたあい~~~!」
駄々こねるシルフィーだが、俺は無視。
……つか、どこの子供(子供だけど)だ。
「むぅ……!」
「はぁ……なぁブロッサム――」
言って後ろを振り返る。
「…………」
……そう、ブロッサムはまだだんまり状態。
ったく、これだから男は……。
「……はぁ」
「ブロッサム、まだ落ち込んでるね~……」
……この数日間、ずっとこうだ。
声をかければ返事を返してくれるが、それでも必要最低限のことしかない。
「仮に参加しても、このままじゃアウトだな」
「み~ん……」
……そんな声出しても無理だって。
このバカの調子を治さないと……。
「……しょうがない。シルフィー。スポット使え」
「え? ど、どこに……」
「ブロッサム、おまえも来い!」
「……え?」
「アユミちゃあ~ん! どこに行くの~!?」
――――
冥府の迷宮
「……なんでここに?」
「えーっと……決まってるだろ。三学園交流戦で優勝するために修行するんだ」
「え? ホントに!?」
「……は?」
喜ぶシルフィーと唖然とするブロッサム。
そりゃそうだろうな。
「やるからには優勝だ。そこは譲れん。……が、シルフィーの性格矯正、ブロッサムの自信を取り戻さないと無理だ」
「えぅ……」
「…………」
こいつらの強化と同時に、俺も強くならないといけない。
……そのためには、多少きついがここが一番うってつけだ。
「俺は早く、敵を一撃で仕留められるように。ブロッサムは魔法の強化。シルフィーはさっくりやれるよう威力アップだ」
「はぅぅ……あい」
「……わかった」
渋々ながら同意してくれたようだ。
まあ……同意しなかったら、無理矢理にでも首を縦に振らせる気だったけど。
――――
という訳で、やる気もないのに始まてしまいました強化合宿です。
……と言っても、各自で修練(それも単純なモンスター退治)に励むだけだけど。
「せやぁ!」
前回と違うルートの最深部に行き、それぞれ分かれてモンスターを討伐していく。
もちろん死なれると困るので、それぞれ隣り合った通路にいるぞ。
「はぁ……はぁ……こんなもんか」
黄色の竜を叩き斬り、軽く振って刀の血を振り払う。
体力と持久力、腕力と素早さが欲しいんだけど……そこそこは上がってる、気がする。
「……ふぅ……」
少しずつだけど、確実に力はついてきている。
タカチホの頃の自分とは比べものにならない。……これなら。
「……奴でも……」
「……アユミ……?」
「うぉ!?」
考え込んでいると、真後ろから声をかけられた。
跳ねながら振り返れば、何故かシルフィーを背負ったブロッサムがいた。
「ブロッサム……何事だ?」
「シルフィーが疲れたと泣きついてきた……今はぐっすり寝てる」
「……こいつ、モンスター退治はどうした」
「やってきたみたいだぞ。……ほら」
ブロッサムに言われ、シルフィーがいた通路に顔を覗かせてみた。
……シュウゥゥゥ……。
バタンッ!!
「……モンスターが焼死体で山になってるが」
「イグニスの連発だろ。現にこいつ、激しく魔力を消費しているし」
さすが魔法の専門家、ブロッサム先生。
軽く見ただけで状態がわかるとは。
「俺も少し使い過ぎた……休んでいいか?」
「ああ。俺も小休止するか」
並んでその場に座り込み、一息をつく。
シルフィーは降ろし、毛布を被せる。
「…………」
「…………」
…………。沈黙が辛い……そりゃ、まだ落ち込んでる訳だし。なんか、下手な会話もアレ的な?
「…………」
……どーしよ←
「……おい」
「うぉう!?」
と思ってたらいきなり話しかけられた!
「な、なんだよいきなり?」
「いや、だって……いえなんでもないです」
いきなり話しかけたられたから、なんて言えねーし。
「……まあいいけど。……一つ、聞いていいか?」
「何なりと」
「おまえ、さ……その……」
切り出しておいて、ブロッサムは視線をさ迷わせたり口を開いては閉じたりしている。
そんなに言いにくいことか?
「…………。アユミ……後悔、してないか?」
「――なんだと?」
「……俺を仲間したこと」
「……は?」
……えーっと。どういう意味だ、それは。意味不明だし。
「俺……俺は分家だけど、たしかにウィンターコスモスの血筋もあって……だけど、セルシアやセントウレア校長のように、強くも立派でもない。……みんな、期待した分だけ、落胆してく」
「ブロッサム……」
「……アマリリスの言う通り、本当に落ちこぼれ……いらない人間なんだよ」
「…………」
“いらない人間”。
その言葉が、より悲しげに響いた気がした。
「だから、おまえも……」
「ブロッサム」
「むごっ……!?」
それ以上言わせない、ということで手で口を塞いだ。
「それ以上、聞きたくない。つか言わせねぇよ」
「ぷは……っ。な、なんで……」
「おまえが自分を卑下するからだ。俺はそんなこと思ってない」
「……っ。なんで、そう言えんだよ」
わからない、って表情バリバリだな。
戸惑いとも言っていいが。
「俺は……っ、もう、誰かの足を引っ張りたくない。……おまえだって、俺がいない方が……」
「泣くなよ。だいたいそっちの方が嫌だよ、俺は」
「え……」
ボロボロと零れている涙を指で払いつつ、そのまま正面に向かい合う。
「おまえが誰かより劣っている、なんてことはねぇんだから」
「……! だ、けど……俺は、一応ウィンターコスモスの人間だぞ……?」
まだ不安なのかと、疑うような視線だな。
でも、そんなの関係ない。
「……んな、どんな家の生まれとかどうでもいいわ。俺は“おまえ自身”がいいんだよ」
「……俺、自身……?」
「そ」と短く頷く。
どんだけ家がよかろうと、それに差があろうと関係ない。
何故なら、ブロッサム自身、何度も俺を助けてきた。こいつの強さは誰よりも知っているつもりだ。
「おまえが不安なら何度だって言ってやる。俺にはおまえが必要だ」
「…………」
「……さて、俺は休憩終わり。もっかいやってくるわ」
立ち上がり、今度はブロッサムのいた通路(さすがにシルフィーの通路には行く気になれん)に行く。
「大丈夫……あいつなら……」
立ち直れるはず。
ウィンターコスモスがプリシアナで有数の家なのは知っている。
それにいる不安も辛さも並じゃないだろう。
ましてや本家のセルシアは成績優秀、品行方正、天然美少年の三拍子(最後は家と関係ないか)を合わせ持つ生徒会長だしな。
「……ま、そんなこと関係ないけど」
だって俺はウィンターコスモスとしてのブロッサムは知らない。
けど、“仲間”であるブロッサムはよく知っているから。
「不安なら、何度だって消してやる」
二度とそんなことを気にしないくらい、な。
「……やるか」
我ながら、らしくないかも。
目の前の竜……ドラゴンデスを見据え、抜刀で一瞬で首を落とす。
……だから、うかつだった。
「…………」
背後からの“アイツ”の殺気に、遅れて気づいたことに。
「うん! 全校共通行事だって!」
他校を訪問した数日後。
シルフィーが満面の笑みでプリント用紙を突き付けてきた。
「ああ……そういや、担任が言ってたっけ。学院祭なんだっけ?」
「うん! 大陸にある三つの学校が競い合うんだ」
ふよふよ飛びながら、「楽しみだな~!」とうきうきしている。
「大規模のイベントなんだよな……めんどくさい」
「え~……」
がっかりしているシルフィーだが、面倒なものは面倒なんだよ。
「アユミちゃあん! 行こうよ~! やろうよ~!」
「ヤダよ。だいたい学院祭は一週間後だろ」
「やあだ! 行きたい行きたあい~~~!」
駄々こねるシルフィーだが、俺は無視。
……つか、どこの子供(子供だけど)だ。
「むぅ……!」
「はぁ……なぁブロッサム――」
言って後ろを振り返る。
「…………」
……そう、ブロッサムはまだだんまり状態。
ったく、これだから男は……。
「……はぁ」
「ブロッサム、まだ落ち込んでるね~……」
……この数日間、ずっとこうだ。
声をかければ返事を返してくれるが、それでも必要最低限のことしかない。
「仮に参加しても、このままじゃアウトだな」
「み~ん……」
……そんな声出しても無理だって。
このバカの調子を治さないと……。
「……しょうがない。シルフィー。スポット使え」
「え? ど、どこに……」
「ブロッサム、おまえも来い!」
「……え?」
「アユミちゃあ~ん! どこに行くの~!?」
――――
冥府の迷宮
「……なんでここに?」
「えーっと……決まってるだろ。三学園交流戦で優勝するために修行するんだ」
「え? ホントに!?」
「……は?」
喜ぶシルフィーと唖然とするブロッサム。
そりゃそうだろうな。
「やるからには優勝だ。そこは譲れん。……が、シルフィーの性格矯正、ブロッサムの自信を取り戻さないと無理だ」
「えぅ……」
「…………」
こいつらの強化と同時に、俺も強くならないといけない。
……そのためには、多少きついがここが一番うってつけだ。
「俺は早く、敵を一撃で仕留められるように。ブロッサムは魔法の強化。シルフィーはさっくりやれるよう威力アップだ」
「はぅぅ……あい」
「……わかった」
渋々ながら同意してくれたようだ。
まあ……同意しなかったら、無理矢理にでも首を縦に振らせる気だったけど。
――――
という訳で、やる気もないのに始まてしまいました強化合宿です。
……と言っても、各自で修練(それも単純なモンスター退治)に励むだけだけど。
「せやぁ!」
前回と違うルートの最深部に行き、それぞれ分かれてモンスターを討伐していく。
もちろん死なれると困るので、それぞれ隣り合った通路にいるぞ。
「はぁ……はぁ……こんなもんか」
黄色の竜を叩き斬り、軽く振って刀の血を振り払う。
体力と持久力、腕力と素早さが欲しいんだけど……そこそこは上がってる、気がする。
「……ふぅ……」
少しずつだけど、確実に力はついてきている。
タカチホの頃の自分とは比べものにならない。……これなら。
「……奴でも……」
「……アユミ……?」
「うぉ!?」
考え込んでいると、真後ろから声をかけられた。
跳ねながら振り返れば、何故かシルフィーを背負ったブロッサムがいた。
「ブロッサム……何事だ?」
「シルフィーが疲れたと泣きついてきた……今はぐっすり寝てる」
「……こいつ、モンスター退治はどうした」
「やってきたみたいだぞ。……ほら」
ブロッサムに言われ、シルフィーがいた通路に顔を覗かせてみた。
……シュウゥゥゥ……。
バタンッ!!
「……モンスターが焼死体で山になってるが」
「イグニスの連発だろ。現にこいつ、激しく魔力を消費しているし」
さすが魔法の専門家、ブロッサム先生。
軽く見ただけで状態がわかるとは。
「俺も少し使い過ぎた……休んでいいか?」
「ああ。俺も小休止するか」
並んでその場に座り込み、一息をつく。
シルフィーは降ろし、毛布を被せる。
「…………」
「…………」
…………。沈黙が辛い……そりゃ、まだ落ち込んでる訳だし。なんか、下手な会話もアレ的な?
「…………」
……どーしよ←
「……おい」
「うぉう!?」
と思ってたらいきなり話しかけられた!
「な、なんだよいきなり?」
「いや、だって……いえなんでもないです」
いきなり話しかけたられたから、なんて言えねーし。
「……まあいいけど。……一つ、聞いていいか?」
「何なりと」
「おまえ、さ……その……」
切り出しておいて、ブロッサムは視線をさ迷わせたり口を開いては閉じたりしている。
そんなに言いにくいことか?
「…………。アユミ……後悔、してないか?」
「――なんだと?」
「……俺を仲間したこと」
「……は?」
……えーっと。どういう意味だ、それは。意味不明だし。
「俺……俺は分家だけど、たしかにウィンターコスモスの血筋もあって……だけど、セルシアやセントウレア校長のように、強くも立派でもない。……みんな、期待した分だけ、落胆してく」
「ブロッサム……」
「……アマリリスの言う通り、本当に落ちこぼれ……いらない人間なんだよ」
「…………」
“いらない人間”。
その言葉が、より悲しげに響いた気がした。
「だから、おまえも……」
「ブロッサム」
「むごっ……!?」
それ以上言わせない、ということで手で口を塞いだ。
「それ以上、聞きたくない。つか言わせねぇよ」
「ぷは……っ。な、なんで……」
「おまえが自分を卑下するからだ。俺はそんなこと思ってない」
「……っ。なんで、そう言えんだよ」
わからない、って表情バリバリだな。
戸惑いとも言っていいが。
「俺は……っ、もう、誰かの足を引っ張りたくない。……おまえだって、俺がいない方が……」
「泣くなよ。だいたいそっちの方が嫌だよ、俺は」
「え……」
ボロボロと零れている涙を指で払いつつ、そのまま正面に向かい合う。
「おまえが誰かより劣っている、なんてことはねぇんだから」
「……! だ、けど……俺は、一応ウィンターコスモスの人間だぞ……?」
まだ不安なのかと、疑うような視線だな。
でも、そんなの関係ない。
「……んな、どんな家の生まれとかどうでもいいわ。俺は“おまえ自身”がいいんだよ」
「……俺、自身……?」
「そ」と短く頷く。
どんだけ家がよかろうと、それに差があろうと関係ない。
何故なら、ブロッサム自身、何度も俺を助けてきた。こいつの強さは誰よりも知っているつもりだ。
「おまえが不安なら何度だって言ってやる。俺にはおまえが必要だ」
「…………」
「……さて、俺は休憩終わり。もっかいやってくるわ」
立ち上がり、今度はブロッサムのいた通路(さすがにシルフィーの通路には行く気になれん)に行く。
「大丈夫……あいつなら……」
立ち直れるはず。
ウィンターコスモスがプリシアナで有数の家なのは知っている。
それにいる不安も辛さも並じゃないだろう。
ましてや本家のセルシアは成績優秀、品行方正、天然美少年の三拍子(最後は家と関係ないか)を合わせ持つ生徒会長だしな。
「……ま、そんなこと関係ないけど」
だって俺はウィンターコスモスとしてのブロッサムは知らない。
けど、“仲間”であるブロッサムはよく知っているから。
「不安なら、何度だって消してやる」
二度とそんなことを気にしないくらい、な。
「……やるか」
我ながら、らしくないかも。
目の前の竜……ドラゴンデスを見据え、抜刀で一瞬で首を落とす。
……だから、うかつだった。
「…………」
背後からの“アイツ”の殺気に、遅れて気づいたことに。