このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

埋まる溝

「……あ? 三学園交流戦?」

「うん! 全校共通行事だって!」

 他校を訪問した数日後。
 シルフィーが満面の笑みでプリント用紙を突き付けてきた。

「ああ……そういや、担任が言ってたっけ。学院祭なんだっけ?」

「うん! 大陸にある三つの学校が競い合うんだ」

 ふよふよ飛びながら、「楽しみだな~!」とうきうきしている。

「大規模のイベントなんだよな……めんどくさい」

「え~……」

 がっかりしているシルフィーだが、面倒なものは面倒なんだよ。

「アユミちゃあん! 行こうよ~! やろうよ~!」

「ヤダよ。だいたい学院祭は一週間後だろ」

「やあだ! 行きたい行きたあい~~~!」

 駄々こねるシルフィーだが、俺は無視。
 ……つか、どこの子供(子供だけど)だ。

「むぅ……!」

「はぁ……なぁブロッサム――」

 言って後ろを振り返る。

「…………」

 ……そう、ブロッサムはまだだんまり状態。
 ったく、これだから男は……。

「……はぁ」

「ブロッサム、まだ落ち込んでるね~……」

 ……この数日間、ずっとこうだ。
 声をかければ返事を返してくれるが、それでも必要最低限のことしかない。

「仮に参加しても、このままじゃアウトだな」

「み~ん……」

 ……そんな声出しても無理だって。
 このバカの調子を治さないと……。

「……しょうがない。シルフィー。スポット使え」

「え? ど、どこに……」

「ブロッサム、おまえも来い!」

「……え?」

「アユミちゃあ~ん! どこに行くの~!?」

 ――――

 冥府の迷宮

「……なんでここに?」

「えーっと……決まってるだろ。三学園交流戦で優勝するために修行するんだ」

「え? ホントに!?」

「……は?」

 喜ぶシルフィーと唖然とするブロッサム。
 そりゃそうだろうな。

「やるからには優勝だ。そこは譲れん。……が、シルフィーの性格矯正、ブロッサムの自信を取り戻さないと無理だ」

「えぅ……」

「…………」

 こいつらの強化と同時に、俺も強くならないといけない。
 ……そのためには、多少きついがここが一番うってつけだ。

「俺は早く、敵を一撃で仕留められるように。ブロッサムは魔法の強化。シルフィーはさっくりやれるよう威力アップだ」

「はぅぅ……あい」

「……わかった」

 渋々ながら同意してくれたようだ。
 まあ……同意しなかったら、無理矢理にでも首を縦に振らせる気だったけど。

 ――――

 という訳で、やる気もないのに始まてしまいました強化合宿です。
 ……と言っても、各自で修練(それも単純なモンスター退治)に励むだけだけど。

「せやぁ!」

 前回と違うルートの最深部に行き、それぞれ分かれてモンスターを討伐していく。
 もちろん死なれると困るので、それぞれ隣り合った通路にいるぞ。

「はぁ……はぁ……こんなもんか」

 黄色の竜を叩き斬り、軽く振って刀の血を振り払う。
 体力と持久力、腕力と素早さが欲しいんだけど……そこそこは上がってる、気がする。

「……ふぅ……」

 少しずつだけど、確実に力はついてきている。
 タカチホの頃の自分とは比べものにならない。……これなら。

「……奴でも……」

「……アユミ……?」

「うぉ!?」

 考え込んでいると、真後ろから声をかけられた。
 跳ねながら振り返れば、何故かシルフィーを背負ったブロッサムがいた。

「ブロッサム……何事だ?」

「シルフィーが疲れたと泣きついてきた……今はぐっすり寝てる」

「……こいつ、モンスター退治はどうした」

「やってきたみたいだぞ。……ほら」

 ブロッサムに言われ、シルフィーがいた通路に顔を覗かせてみた。

 ……シュウゥゥゥ……。

 バタンッ!!

「……モンスターが焼死体で山になってるが」

「イグニスの連発だろ。現にこいつ、激しく魔力を消費しているし」

 さすが魔法の専門家、ブロッサム先生。
 軽く見ただけで状態がわかるとは。

「俺も少し使い過ぎた……休んでいいか?」

「ああ。俺も小休止するか」

 並んでその場に座り込み、一息をつく。
 シルフィーは降ろし、毛布を被せる。

「…………」

「…………」

 …………。沈黙が辛い……そりゃ、まだ落ち込んでる訳だし。なんか、下手な会話もアレ的な?

「…………」

 ……どーしよ←

「……おい」

「うぉう!?」

 と思ってたらいきなり話しかけられた!

「な、なんだよいきなり?」

「いや、だって……いえなんでもないです」

 いきなり話しかけたられたから、なんて言えねーし。

「……まあいいけど。……一つ、聞いていいか?」

「何なりと」

「おまえ、さ……その……」

 切り出しておいて、ブロッサムは視線をさ迷わせたり口を開いては閉じたりしている。
 そんなに言いにくいことか?

「…………。アユミ……後悔、してないか?」

「――なんだと?」

「……俺を仲間したこと」

「……は?」

 ……えーっと。どういう意味だ、それは。意味不明だし。

「俺……俺は分家だけど、たしかにウィンターコスモスの血筋もあって……だけど、セルシアやセントウレア校長のように、強くも立派でもない。……みんな、期待した分だけ、落胆してく」

「ブロッサム……」

「……アマリリスの言う通り、本当に落ちこぼれ……いらない人間なんだよ」

「…………」

“いらない人間”。
 その言葉が、より悲しげに響いた気がした。

「だから、おまえも……」

「ブロッサム」

「むごっ……!?」

 それ以上言わせない、ということで手で口を塞いだ。

「それ以上、聞きたくない。つか言わせねぇよ」

「ぷは……っ。な、なんで……」

「おまえが自分を卑下するからだ。俺はそんなこと思ってない」

「……っ。なんで、そう言えんだよ」

 わからない、って表情バリバリだな。
 戸惑いとも言っていいが。

「俺は……っ、もう、誰かの足を引っ張りたくない。……おまえだって、俺がいない方が……」

「泣くなよ。だいたいそっちの方が嫌だよ、俺は」

「え……」

 ボロボロと零れている涙を指で払いつつ、そのまま正面に向かい合う。

「おまえが誰かより劣っている、なんてことはねぇんだから」

「……! だ、けど……俺は、一応ウィンターコスモスの人間だぞ……?」

 まだ不安なのかと、疑うような視線だな。
 でも、そんなの関係ない。

「……んな、どんな家の生まれとかどうでもいいわ。俺は“おまえ自身”がいいんだよ」

「……俺、自身……?」

「そ」と短く頷く。
 どんだけ家がよかろうと、それに差があろうと関係ない。
 何故なら、ブロッサム自身、何度も俺を助けてきた。こいつの強さは誰よりも知っているつもりだ。

「おまえが不安なら何度だって言ってやる。俺にはおまえが必要だ」

「…………」

「……さて、俺は休憩終わり。もっかいやってくるわ」

 立ち上がり、今度はブロッサムのいた通路(さすがにシルフィーの通路には行く気になれん)に行く。

「大丈夫……あいつなら……」

 立ち直れるはず。
 ウィンターコスモスがプリシアナで有数の家なのは知っている。
 それにいる不安も辛さも並じゃないだろう。
 ましてや本家のセルシアは成績優秀、品行方正、天然美少年の三拍子(最後は家と関係ないか)を合わせ持つ生徒会長だしな。

「……ま、そんなこと関係ないけど」

 だって俺はウィンターコスモスとしてのブロッサムは知らない。
 けど、“仲間”であるブロッサムはよく知っているから。

「不安なら、何度だって消してやる」

 二度とそんなことを気にしないくらい、な。

「……やるか」

 我ながら、らしくないかも。
 目の前の竜……ドラゴンデスを見据え、抜刀で一瞬で首を落とす。
 ……だから、うかつだった。

「…………」

 背後からの“アイツ”の殺気に、遅れて気づいたことに。
1/3ページ
スキ