兄弟

 校門の前に着き、アマリリスが出てくるのを待つ。
 車も前にあることだし……出てきてブーゲンビリアが声をかければ一発なはずだ。

「……眠ぃ……ふわぁ……」

「おい、アユミ。頼むから起きててくれよ」

「へーへー」

 軽く返事はするが……正直眠い。
 久しぶりのタカチホの風や環境が気持ちいいから眠たくて仕方がない。

「まだかよ……羽毛に包まって寝るぞ、コノヤロー」

「そこで俺を見るな!」

 ブロッサムの羽をガン見してたら却下された。チッ。
 ……と、舌打ちした時だった。

「はあ……。めんどくさい。ディームがやればいいのに、こういうのは……」

 お。しばらくしたら義塾の校舎から待ち望んだ人物が出てきた。
 ゴスロリチックな服を着て、男だが女だがわからない外見エルフ、アマリリス。

「アマリリスちゃん!」

「ん? 誰?」

 ブーゲンビリアが叫ぶように声をかけると、アマリリスはあっさり振り返った。

「って、げっ! ブーゲンビリア!? おまえなんでこんなとこに!」

 姿を見ると、途端に嫌そうな顔をした。
 ブーゲンビリアはそれにめげず「アマリリスちゃんを探しに来たのよ!」と訴える。

「プリシアナを辞めてから全然連絡もよこさないで……。私と一緒にプリシアナに帰りましょう?」

「ヤダね! ソロになった途端ちょー人気アイドルになれたんだ。おまえと一緒だといつまでもデビューできないし……」

 ブーゲンビリアの訴えも虚しく、「誰が戻るもんか!」と一蹴しやがった。
 可愛いなりして生意気だなコノヤロー。

「でも……基礎のお勉強をしないままはダメだって言ってたのはアマリリスちゃんじゃない。学校はどうするのよ……」

「それならご心配なくー。学校なら裏の学校にちゃんと通ってるから」

「プリシアナと違ってうるさくないし」と手を振り、取り付くしまもない。
 ……が、俺らの興味はそこではなくなった。

「裏の学校……?」

「アマリリス君。裏の学校とは、何のことだ?」

「なっ……生徒会長にその従兄弟もいるの!? そういうことは早く言えよ!」

 ウィンターコスモス家の二人を知って驚いてる。
 ま、そりゃそうか。

「おい、どういう意味だよ。だいたい、ブーゲンビリアも必死なのに、そんな態度……」

「うるさいなー! ボクは次のコンサートで忙しいの!」

 ブロッサムの言葉にも耳に貸さず、キッと彼を睨む。

「説教とか聞きたくないよ。ウィンターコスモスの落ちこぼれのくせに!」

「……ッ!!!」

「アマリリスちゃん!!」

「! おい、おまえ!」

 アマリリスの言葉に怒りを覚え、ヤツに怒鳴り返した。
 その言葉は、ブロッサムを強く傷つけたのだから。

「な、なんだよ! おまえは!」

「やかましい! てめぇ……一回歯ァ食いしば……!」

 そのまま大股で近づき、一発頭に拳を叩き入れようとした、瞬間だった。

「エアー!」

「なっ……!!」

 アマリリスの後ろから、風の矢が襲い掛かってきた。
 咄嗟に抜刀し、魔法を防ぐ。

「おい、アマリリス。何をしている」

「あ! ディーム!」

「……ほぇ?」

 アマリリスの後ろから現れたのはフェアリーだ。
 水色に近い髪色でシルフィーと同じ瞳の色をしている。
 ……にしてもこいつ……誰かに似てるような……。

「あれ……ディーム兄ちゃん?」

「ん? なん……げっ!? シルフィネスト!?」

 やっぱりかッ!!
 今度はシルフィーの兄弟来たし!

「ええ~!? この人、シルフィーのお兄さんなの~!?」

「何なんだ……兄弟ばっかり絡んできてるぞ」

 気持ちはわかるが言うな、バロータ……。

「ねぇねぇ。なんで兄ちゃん、アマリリスちゃんと一緒なの? 賢者学科卒業した後、スノードロップに帰ったよね?」

「ちょっと! どういうことなのさ、マネージャー!?」

「誰がマネージャーだ! ――ああ、もう! 時間がないから早く帰るぞ!」

 言って奴――ディームはアマリリスの背中をぐいぐい押して車に乗せようとしている。

「待て! おまえ、マジで何なん……」

「あー! ったく、プリシアナ連中はこれでも相手をしていろ!」

 ズズズ……ッ!

 言うとディームの手から黒い光が地面に放たれた。
 ……すると何故だ。

「キシャアァア!!」

「ブクブク……」

 モンスターが大量召喚されましたが!!?

「これは……!?」

「セルシア様! これだけの数を、義塾内に入られたら……!」

「わかってる……! アユミ君、今はモンスターを!」

「……チッ!」

 車に入り込む二人を見て、なのに手出しできないことに苛立つが、今はモンスターの討伐が優先なのは間違いなかった。

「ブロッサム! おまえもボーッとするな!」

「……! わ、わかってる!」

 俺の言葉に我に返ったか、慌てて杖を構える。
 ……よほどアマリリスの言葉が効いているみたいだな。

「はぁ!」

「シャイガン!」

 スライム――バブルン――や飛び回る小型の竜――ケルチャトラ――をまとめて薙ぎ払う。
 召喚されたモンスターは強い奴らでもないので、簡単に倒すことができる。
 ……ただ、数がかーなーり、多いってとこが厄介だな。

「シルフィー! おまえもやれや! 殴るぞ!」

「ひぇ! ごめんなさぁい! なんでもするからぶたないでぇえええ!!」

「……怖ぇ女……」

 飛び回るケルチャトラを斬り落としながら、未だバロータの後ろにいるシルフィーを叱咤する。
 ……だってこいつが全体攻撃魔法使えば済む話だしね!

「吹っ飛べファイヤー! イグニスー!」

 半泣き状態で高速詠唱したシルフィーが炎の嵐を放った。
 嵐は敵を飲み込み、瞬く間にこんがりと焼き上がる。

「うわぁい、上手に焼けたよ~」

「……この肉、食えるか?」

「食べないでください」

 フリージアからツッコミを入れられてしまった。
 いやだって、香ばしい匂いがしたからさ……。

「アマリリスちゃん!」

 おっと。物思いに老けっていると、ブーゲンビリアがキョロキョロと辺りを見回していた。
 ……ま。肝心のアマリリスはディームってフェアリーととんずらしたからいないけど。

「……いない」

「ふむ。俺らに見つかったからな。こりゃ、タカチホのコンサートも中止なパターンじゃないか?」

 俺の考えを率直に言えば「そんな……」と肩を落とす。
 ま……再会した弟に拒否られたんじゃな。
 あの態度じゃ、多分向こうが折れないと、連れ戻すことは不可能だろうな。

「元気出せよ、ブーゲンビリア!」

「そうだよ~。今日会えたんだから、また会えるよ。ボクも、応診不通の兄ちゃんに会えたんだから~」

「……そ、そうよね! ありがとう、レオ! シルフィーさん!」

 レオとシルフィー(こいつもややこしそうだが)の声に、ブーゲンビリアが元気を出した。
 単純だな……だからこそレオのパーティにいるかもしれないが。

「……でも……裏の学校ってなんだ? ちょー悪い秘密の学校みたいで気になるなあ……すげー番長とかがいる不良学校だったら面白いのになー」

 と、ここでレオがぽつりとつぶやいた。後半はいらんことを言ってるが。

「そんなところにいたら、アマリリスちゃんが危険じゃない! やっぱり早く連れ戻さないと……!」

「そうだね……僕も、その裏の学校というのは気になる。アマリリス君が転入した学校を調べてみよう」

「んじゃ、プリシアナ学院に帰るか。…………」

 ブーゲンビリアやセルシアの言うことも気になるので、とりあえず帰ることを提案する。だってもう用はないし。
 ……それからちらっと後ろにいるブロッサムを一瞥する。

「…………」

 ……相当気にしていることを言われたからか、さっきからずっとだんまりだ。
 悔しそうに、そしてどこか悲しそうな表情で俯いたままだった。

「……帰るぞ。ブロッサム」

「え? あ、ああ……」

 呼びかけにハッとなり、慌てて頷く。
 ……どっか痛々しいほどにな。

「…………」

 かけてやるべき言葉が見つからない。
 それを探すように、先に行くレオやセルシアたちの後を追いかけていった。
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