兄弟
さすが飛竜。空から直行するだけあって早く、わずか10分くらいでタカチホ義塾に着いた。
さすがに義塾の真ん中に降りる訳にもいかないので、手前の飢乾之土俵で降り、少し歩いて義塾へ向かう。
「タカチホ義塾……変わんねぇな、ここも」
「アユミさん、タカチホの生徒さんだったのよね。やっぱり懐かしい?」
「まあな。ガキの頃から入ってたし、やっぱ馴染み深いな」
「ガキの頃って……いつから?」
「11の時に入学だから……もう6年になるか」
「「そんなに!?」」
質問してきたブーゲンビリアとチューリップに答えながら、タカチホ独特の建物を眺める。
(こんなに早く帰ってくるとは思わなかったな……。この学校に)
義塾の神聖なるシンボルとも言える土俵を見る。
懐かしさ。そして同時に苦い思い出が蘇る。
土俵の破壊、そして俺へ勝利に執着してきた“アイツ”。
(もう……ここには現れていないのか? ……あいつも無事かな……)
昔、アイツとの戦いに巻き込み、傷つけたあの子。
この世で大切な俺の“家族”。
はたしてアイツは無事なのか……。
「……あ! ここにもあったわ! アマリリスちゃんのコンサートポスター!」
考えに老けっていると、義塾の寮入口でブーゲンビリアが叫んだ。
ハッと我に返り、ブーゲンビリアに駆け寄ってく。
「よかったね~♪ 今度は中止になってないかな~?」
「なってたら恨むぞ、俺は」
呑気にくるくる飛び回るシルフィーにため息をつくブロッサム。
なんか話を聞けないか、と思い、辺りを見回した。その時だった。
「え……嘘? アユミ……?」
「へ?」
聞き覚えのある声が聞こえ、後ろに振り返る。
振り返った先には、タカチホの制服を纏う金髪のエルフが、信じられないと言った表情で俺を見ている。
「……よっ。ロクロ。久しぶり」
「よっ、て……あ、アンタ何呑気な挨拶してんのよ!?」
相当驚いてる様子。……そりゃそうだろうな。俺もこんなに早くここに来るとは思ってもなかったから。
「アンタ、どうしてここに……? ってか、その制服……プリシアナ学院に転入してたの……?」
「してたって……なんで今知ったようなこと言うのさ?」
……さりげなく痛いところ突くな、レオ。
「あー……レオ。その話は――」
「アンタねぇ! 一体どこふらふらしてたのよ! 私たちに何も言わずに勝手に出て行っちゃって……それなのにそんな挨拶ってなくない!?」
「ちょ……ロクロ……! 声でかっ……!」
……かなり怒ってるようだ。俺の言葉を遮って、堪えきれない、と言った感じで俺に怒鳴っている。
「私たちや……アイナが、どれだけ心配したと思ってるのよ! わかってる!?」
「わ、わかった! わかったからその涙目はやめろ! 俺が泣かしたみたいじゃないか!」
「バカ! アンタが泣かしたのよ!」
ダメだ! 完全に俺が悪役だ!
……たしかにその通りだけど。
「勝手に……? どういうことだよ、それ」
……さすがに察しましたねブロッサム君。
セルシアもフリージアもバロータも、チューリップもブーゲンビリアも、レオにシルフィーすらも俺に問い掛けるような視線を向けていた。
「……あー……その。俺の転校って……実は、タカチホじゃ非公式な転校なんだよ」
「非公式……? どういう意味だ?」
俺の言葉にセルシアが首を傾げる。ブロッサムたちもわからないって感じだ。
「……事情があって、俺はタカチホを去ることにした。去らなきゃいけなかった。……その時たまたま、業務か何かで義塾に来てたセントウレア校長に誘われて、プリシアナ学院に転入した。同期には内密に。……それだけだ」
「サルタ校長やミナカタ先生にも進められたしな」と補足を加え、簡潔に説明する。
……それでも納得できないって奴らが多いけど。
「……そうだとしても、何故皆さんに黙って行かれたのですか? その意図がわかりません」
フリージアは眼鏡を上げながら、俺に鋭い視線を向ける。
「……それは……言えない」
「おいおい、そこまで話しておいてそんな……」
「バロータ」
バロータが食い下がってきたが、ブロッサムが止めた。
……俺が口を開かないとわかったらしい、諦めたようにため息をついた。
「わかったよ。そうなると、意地でも言わない気だろ。……今は聞かないでおく」
「……悪い。ありがとう、ブロッサム」
今はいいから、いつかは話して欲しいというところだろう。でも、今の俺にはそれが有り難かった。
さりげない気遣いに礼を述べ、小さく笑みを浮かべる。
「……まあ今はアマリリスの情報が欲しいしな。ロクロ、何かないか?」
「アマリリスちゃんの?」
サラっと話を変え、本来の目的を思い出す。
ここに来たのはアマリリスの情報が欲しかったんだからな。
「アマリリスちゃんなら――」
「にゃににゃに? ロクロったら、自分だけいい男と話しててずるいわン」
……なんだここでおまえが登場するんだ、ミーハー二号ことフェルパーくのいち・ネコマ。
こういう時だけ地獄耳だな。
「ネコマ。アユミとプリシアナ学院の子よ」
「へ……アユミ!? にゃンでここにン!?」
「後でロクロに聞け。俺はアマリリスのコンサート情報を知りてぇんだよ」
「アマリリスの? ふぅん……あの子はあんまり好みじゃにゃかったけど……そっちの子……なかなか……」
「類は友を呼ぶ、かしら? アユミってたいてい美少年と仲良くなるのよね……」
ロクロと揃って俺やブロッサム、セルシアをガン見してやがる。
……おまえら失礼だろう。
「お、おい……」
「あの……」
「やめろ、貴様ら。……で、アマリリスは来るのか? 来ないのか?」
戸惑うセレスティア二人の前に立ち、若干イライラを篭めてたずねた。
マジで変わってないな、こいつら……。
「アマリリスちゃん? 今来てるわよ」
「え? 本当!? アマリリスちゃんはどこなの!?」
「コンサートの打ち合わせでサルタ校長先生のとこに来てるってウワサだけど……ただのファンは会えないんじゃないの?」
いるとわかり、激しく食いついてきたブーゲンビリアに、ネコマが尻尾振って答えると「ただのファンじゃないのよ!」と叫び返した。
「私は……アマリリスちゃんの双子のお兄ちゃんなの!」
「「…………」」
「あ! 嘘だと思ってるのね!」
うん、ブーゲンビリア……信じろという方が無理だと思うから。
証拠写真見るまで俺もそうだったし。
「似てない双子かもしれないが、本当の話なんだ」
「ああ。証拠に、ガキの頃の写真もあるぜ?」
「長い間行方不明になってて、ようやく見つけたんだよ!」
「ふぅん。美少年の言うことなら信じようかなン」
セレスティア二人とレオの言葉にあっさり頷くネコマ。
おまえって奴は……。
「アマリリスちゃんの車が校門の前に迎えに来てたから、そのうち出てくると思うわよン」
「ありがとう! ああん! 私……美少年に生まれてよかった!」
情報を得られたことに感激し、ブーゲンビリアが大喜びしている。
いや、おまえは美少年の枠から外されてるから、この二人から。
「……ま、いいわン。お礼は……これで許してあげるわン」
言いながらネコマは男性陣を軽く一瞥し、ブロッサムに注目するとひょいっと近づき、
「それっ」
「んなッ!!?」
「な゙っ!!」
「……あ」
……この猫娘、ブロッサムの頬に軽くキスしやがった。
当然ブロッサムが真っ赤になって後ずさり、バロータが羨ましそうに見てたり、フリージアが再び抹殺しようとするのをセルシアが止めてたり……。
「うふふ。やっぱり可愛い子の肌は美味しいわン♪ また遊びに来てね~」
「いい男ならいつでも歓迎だよ。……特にあなた」
「にっ、二度と来るかッ!!」
頬を押さえながら寮を早歩きで去っていくブロッサム。
つーかコレ、何て言うハーレムだ?
「何故だ……なんであいつだけ、ここ最近あんな……!? ハーレムか……!?」
「くだらないこと言ってる場合ですか。……今度こそ息の根を」
「フリージア、やめてくれ」
呑気だなぁ、この三人……。
とりあえずアマリリスの情報を得たので、先に行ったブロッサムを追うように着いていった。
――――
アユミが去ってすぐのこと。
「……ねぇ、ネコマ。やっぱ、あの子呼ばない?」
「そうねン。いきにゃりいにゃくにゃって不安だったのあの子だし。……がっつりお説教していただこっか」
揃ってため息をつくと同時に、二人はどこか上機嫌に寮の奥へと歩いていった。
さすがに義塾の真ん中に降りる訳にもいかないので、手前の飢乾之土俵で降り、少し歩いて義塾へ向かう。
「タカチホ義塾……変わんねぇな、ここも」
「アユミさん、タカチホの生徒さんだったのよね。やっぱり懐かしい?」
「まあな。ガキの頃から入ってたし、やっぱ馴染み深いな」
「ガキの頃って……いつから?」
「11の時に入学だから……もう6年になるか」
「「そんなに!?」」
質問してきたブーゲンビリアとチューリップに答えながら、タカチホ独特の建物を眺める。
(こんなに早く帰ってくるとは思わなかったな……。この学校に)
義塾の神聖なるシンボルとも言える土俵を見る。
懐かしさ。そして同時に苦い思い出が蘇る。
土俵の破壊、そして俺へ勝利に執着してきた“アイツ”。
(もう……ここには現れていないのか? ……あいつも無事かな……)
昔、アイツとの戦いに巻き込み、傷つけたあの子。
この世で大切な俺の“家族”。
はたしてアイツは無事なのか……。
「……あ! ここにもあったわ! アマリリスちゃんのコンサートポスター!」
考えに老けっていると、義塾の寮入口でブーゲンビリアが叫んだ。
ハッと我に返り、ブーゲンビリアに駆け寄ってく。
「よかったね~♪ 今度は中止になってないかな~?」
「なってたら恨むぞ、俺は」
呑気にくるくる飛び回るシルフィーにため息をつくブロッサム。
なんか話を聞けないか、と思い、辺りを見回した。その時だった。
「え……嘘? アユミ……?」
「へ?」
聞き覚えのある声が聞こえ、後ろに振り返る。
振り返った先には、タカチホの制服を纏う金髪のエルフが、信じられないと言った表情で俺を見ている。
「……よっ。ロクロ。久しぶり」
「よっ、て……あ、アンタ何呑気な挨拶してんのよ!?」
相当驚いてる様子。……そりゃそうだろうな。俺もこんなに早くここに来るとは思ってもなかったから。
「アンタ、どうしてここに……? ってか、その制服……プリシアナ学院に転入してたの……?」
「してたって……なんで今知ったようなこと言うのさ?」
……さりげなく痛いところ突くな、レオ。
「あー……レオ。その話は――」
「アンタねぇ! 一体どこふらふらしてたのよ! 私たちに何も言わずに勝手に出て行っちゃって……それなのにそんな挨拶ってなくない!?」
「ちょ……ロクロ……! 声でかっ……!」
……かなり怒ってるようだ。俺の言葉を遮って、堪えきれない、と言った感じで俺に怒鳴っている。
「私たちや……アイナが、どれだけ心配したと思ってるのよ! わかってる!?」
「わ、わかった! わかったからその涙目はやめろ! 俺が泣かしたみたいじゃないか!」
「バカ! アンタが泣かしたのよ!」
ダメだ! 完全に俺が悪役だ!
……たしかにその通りだけど。
「勝手に……? どういうことだよ、それ」
……さすがに察しましたねブロッサム君。
セルシアもフリージアもバロータも、チューリップもブーゲンビリアも、レオにシルフィーすらも俺に問い掛けるような視線を向けていた。
「……あー……その。俺の転校って……実は、タカチホじゃ非公式な転校なんだよ」
「非公式……? どういう意味だ?」
俺の言葉にセルシアが首を傾げる。ブロッサムたちもわからないって感じだ。
「……事情があって、俺はタカチホを去ることにした。去らなきゃいけなかった。……その時たまたま、業務か何かで義塾に来てたセントウレア校長に誘われて、プリシアナ学院に転入した。同期には内密に。……それだけだ」
「サルタ校長やミナカタ先生にも進められたしな」と補足を加え、簡潔に説明する。
……それでも納得できないって奴らが多いけど。
「……そうだとしても、何故皆さんに黙って行かれたのですか? その意図がわかりません」
フリージアは眼鏡を上げながら、俺に鋭い視線を向ける。
「……それは……言えない」
「おいおい、そこまで話しておいてそんな……」
「バロータ」
バロータが食い下がってきたが、ブロッサムが止めた。
……俺が口を開かないとわかったらしい、諦めたようにため息をついた。
「わかったよ。そうなると、意地でも言わない気だろ。……今は聞かないでおく」
「……悪い。ありがとう、ブロッサム」
今はいいから、いつかは話して欲しいというところだろう。でも、今の俺にはそれが有り難かった。
さりげない気遣いに礼を述べ、小さく笑みを浮かべる。
「……まあ今はアマリリスの情報が欲しいしな。ロクロ、何かないか?」
「アマリリスちゃんの?」
サラっと話を変え、本来の目的を思い出す。
ここに来たのはアマリリスの情報が欲しかったんだからな。
「アマリリスちゃんなら――」
「にゃににゃに? ロクロったら、自分だけいい男と話しててずるいわン」
……なんだここでおまえが登場するんだ、ミーハー二号ことフェルパーくのいち・ネコマ。
こういう時だけ地獄耳だな。
「ネコマ。アユミとプリシアナ学院の子よ」
「へ……アユミ!? にゃンでここにン!?」
「後でロクロに聞け。俺はアマリリスのコンサート情報を知りてぇんだよ」
「アマリリスの? ふぅん……あの子はあんまり好みじゃにゃかったけど……そっちの子……なかなか……」
「類は友を呼ぶ、かしら? アユミってたいてい美少年と仲良くなるのよね……」
ロクロと揃って俺やブロッサム、セルシアをガン見してやがる。
……おまえら失礼だろう。
「お、おい……」
「あの……」
「やめろ、貴様ら。……で、アマリリスは来るのか? 来ないのか?」
戸惑うセレスティア二人の前に立ち、若干イライラを篭めてたずねた。
マジで変わってないな、こいつら……。
「アマリリスちゃん? 今来てるわよ」
「え? 本当!? アマリリスちゃんはどこなの!?」
「コンサートの打ち合わせでサルタ校長先生のとこに来てるってウワサだけど……ただのファンは会えないんじゃないの?」
いるとわかり、激しく食いついてきたブーゲンビリアに、ネコマが尻尾振って答えると「ただのファンじゃないのよ!」と叫び返した。
「私は……アマリリスちゃんの双子のお兄ちゃんなの!」
「「…………」」
「あ! 嘘だと思ってるのね!」
うん、ブーゲンビリア……信じろという方が無理だと思うから。
証拠写真見るまで俺もそうだったし。
「似てない双子かもしれないが、本当の話なんだ」
「ああ。証拠に、ガキの頃の写真もあるぜ?」
「長い間行方不明になってて、ようやく見つけたんだよ!」
「ふぅん。美少年の言うことなら信じようかなン」
セレスティア二人とレオの言葉にあっさり頷くネコマ。
おまえって奴は……。
「アマリリスちゃんの車が校門の前に迎えに来てたから、そのうち出てくると思うわよン」
「ありがとう! ああん! 私……美少年に生まれてよかった!」
情報を得られたことに感激し、ブーゲンビリアが大喜びしている。
いや、おまえは美少年の枠から外されてるから、この二人から。
「……ま、いいわン。お礼は……これで許してあげるわン」
言いながらネコマは男性陣を軽く一瞥し、ブロッサムに注目するとひょいっと近づき、
「それっ」
「んなッ!!?」
「な゙っ!!」
「……あ」
……この猫娘、ブロッサムの頬に軽くキスしやがった。
当然ブロッサムが真っ赤になって後ずさり、バロータが羨ましそうに見てたり、フリージアが再び抹殺しようとするのをセルシアが止めてたり……。
「うふふ。やっぱり可愛い子の肌は美味しいわン♪ また遊びに来てね~」
「いい男ならいつでも歓迎だよ。……特にあなた」
「にっ、二度と来るかッ!!」
頬を押さえながら寮を早歩きで去っていくブロッサム。
つーかコレ、何て言うハーレムだ?
「何故だ……なんであいつだけ、ここ最近あんな……!? ハーレムか……!?」
「くだらないこと言ってる場合ですか。……今度こそ息の根を」
「フリージア、やめてくれ」
呑気だなぁ、この三人……。
とりあえずアマリリスの情報を得たので、先に行ったブロッサムを追うように着いていった。
――――
アユミが去ってすぐのこと。
「……ねぇ、ネコマ。やっぱ、あの子呼ばない?」
「そうねン。いきにゃりいにゃくにゃって不安だったのあの子だし。……がっつりお説教していただこっか」
揃ってため息をつくと同時に、二人はどこか上機嫌に寮の奥へと歩いていった。