兄弟

 後ろには……光の精霊魔法、ウィスプ発動寸前のフリージアがいた。
 眼鏡が光って表情が読めねぇが……なんか殺気を纏ってるぞ!!?

「ま、待て、フリージア! 何をする気だ!?」

「黙りなさい、ウィンターコスモスの恥さらし……! あなたは一度、浄化の魔法で焼却処分いたします」

「いや、明らかに原因は俺じゃなくてこいつら……!」

「言い訳無用です! 消えなさい!」

「ぎゃあぁあああ!!!」

 問答無用と言わんばかりにウィスプをぶっ放したフリージア。
 もちろんブロッサムは避けるが……怒りのせいかフリージアの攻撃が止まることがない。

「……どうする、セルシア。フリージアがマジギレ起こしたぞ」

「何とか止めたいが……今回も止められるかどうか……」

「“も”ってなんだよ!?」

 つまり主人の命令も聞かないってか!?
 いいのか、そんなのが執事で!

「ほほほ。これは面白き余興じゃのう! ほれ、セレスティア! とっとと避けぬか」

「姫様……あまり前に行くと巻き添えを……!」

 キルシュは二人のバトル(つーか一方的な私刑)に面白がり、上機嫌で眺め出した。
 もちろんクラティウスは止めに入ってる。

「あの……アマリリスちゃんのコンサート情報聞けないんだけど」

「そうだな。どうしようか」

 チューリップがため息混じりに言うが、光の爆音のせいでキルシュはそっちに注目しちゃってるし。

「アマリリス……リンツェ。アマリリスってコンサート中止にされちゃったあの子?」

「……だと思います」

「……は?」

 ふと、横にいたユリがディアボロス――リンツェにたずねた言葉に耳を疑った。

「おい……中止って……」

「あら、知りませんの? アマリリスちゃんのコンサート、中止になりましたの」

「はあああ!!?」

 ユリの言葉につい叫んじまった。
 その叫びにブロッサムとフリージア以外の全員が振り返る。

「マジかよ……コンサート中止って……」

「残念ながら事実ですわ。そうでしょう? キルシュ」

「うむ。あの男女め……わらわを讃える歌を作れと申したのに、生意気に断りおったのでな!」

 その事を思い出したのか、「わらわの独断でコンサートを中止させた」と怒り心頭の様子で言った。

「そんな……ようやくアマリリスちゃんに会えると思ってたのに……ぐすっ、ぐすすんっ」

「ええい! その顔で泣くな!」

「……アユミさん。あの人には、泣くほど落ち込む事ですか?」

「あー……実はな……バロータ。頼む」

「俺が!!?」

 再び首を傾げたリンツェに、彼含むドラッケン組全員に説明した。
 ブロッサムは襲われているのでバロータが。

「ほほう……そなたの行方不明の弟じゃったのか……」

「なるほど……まったく似てませんわね」

“まったく”を強調したユリに「そんなこと言われなくてもわかってるわ!」とめっちゃドスの効いた声でブーゲンビリアが叫んだ。

「なあリンツェ。なんかいい情報知らないか?」

「え……俺、ですか? え、えっと……えっと……」

 急に俺に話を振られ、リンツェがオロオロあわあわとし出した。

(すまん。話すの苦手だったっけな……。ギャップが可愛いからつい……)

 謝罪と同時に、内心ほくそ笑みながら必死な顔を眺めていた。
 こいつ、悪魔のくせに意外と可愛い奴なんだよなー←

「えっと……た、タカチホへ向かったらどうでしょうか……?」

「……タカチホに?」

「ああ……ドラッケンの後にタカチホに行くと言ってましたわね。たしか」

 リンツェの言葉に思い出したか、ユリもこくりと頷いた。
 リンツェもコクコクと必死に首を振ってる。

「じゃあタカチホに行くか! アマリリスがいないんじゃ、こんなとこにいても時間のムダだし」

 あっけらかんと言ったレオに全員が頷いた。
 それから私刑を行っていたフリージアを止め、死にかけたブロッサムに回復魔法をかけた後、下ろしていた荷を再び持ちはじめる。

「……ふふっ。アユミ、ま・た・ね♪ 今度はお手製の兵士人形で迎えますわ」

「二度と会うかッ!!」

「じゃあ、今度は私がプリシアナに……」

「来たら殺すからな! 根暗エルフ!」

「……セルシアとやら……大魔道士アガシオンを倒した英雄は一人のディアボロスということになっておる。真実を知った時に落ち込まぬようにな」

「僕はご先祖様を信じている。それにどちらを英雄の末裔として認めるか……それはこれからわかることじゃないかな?」

「にゅにゅにゅ! 何か気に障る言い回しじゃな」

「また会おう、キルシュトルテさん。次に会う時はどちらが英雄の末裔にふさわしいか、はっきりさせたいものだね」

「ふん! 望むところじゃ!」

「刀を構えるな、アユミ! セルシアも他校にケンカ売るな!」

「ユリ様、キルシュ様……どうか、この辺で……!」

 斬りかかる寸前の俺と不機嫌なセルシアをブロッサムが。
 優雅に、だが斧とギロチン鎌を持つ人形を抱えるユリとベーッと子供っぽく睨むキルシュをリンツェが引きはがした。
 そのままドラッケン学園を発つ。……あの女、後で覚えてろよ。

 ――――

「……あ、あのっ」

「んあ?」

 再び絶たれた絆の道に入ろうとした時、ドラッケンで別れたはずのリンツェがやってきた。
 ……こいつ一人らしいな。ユリもキルシュもクラティウスもいないし。

「……あ、あのっ。アユミさん、これっ……」

「……ん? これは……飛竜召喚札じゃないか」

 息を切らしながらやってきたリンツェに差し出されたのは、街から街へと運ぶ飛竜を召喚する札だった。

「アマリリスさんは、二日前に旅立ったので……アユミさんはタカチホ義塾に在籍してましたから、これで直行できるはず……」

「あ、そっか。飛竜って、“使った人が一度でも行ったことのある場所”に連れて行ってくれるんだっけ」

 札を見たレオが(珍しく)サラっと答えた。
 ……一応こいつも勉強しているようだな。

「いいのか? たしかこれ……一万もする代物だろ?」

 札を見たバロータがリンツェに恐る恐る話しかけた。
 バロータの言う通り、これはかなり貴重なアイテムで、簡単に手を出すことができない値段なんだ。

「はい……。ユリ様、スポットという魔法を覚えてますし……それに、一万くらいなら、いくらでも財布から払えます……」

「……ああ。おまえら揃ってドラッケンのボンボンだっけ」

 ボソッとつぶやくように言う。
 ……実はユリはドラッケンの貴族であり、リンツェはその付き人なんだ。しかもユリは王家直属の、結構高めの地位で。

「俺……タカチホで、アユミさんに助けられましたし……それに、ユリ様も、きっと会えて嬉しいと思ってますし……えっと、えっと……」

 オロオロと必死に言葉を探してるリンツェ。
 その様子がなんか微笑ましかったので、頭をわっしゃわっしゃと撫でる。

「……あの?」

「ああ……相っ変わらずいい子だな、おまえは……あの根暗エルフと大違いだ」

「……こ、子供扱いしないでください……!」

 硬直しつつ、普通の人間みたいに頬を赤く染めてる。
 血色の悪いディアボロスも、こうすればスゲー可愛いものに見える。

「悪い悪い。……んじゃ、有り難く使わせていただくか」

 札に魔力を篭め、赤い竜を呼び出す。

 ズドォ……オオオンッ!

 竜は俺の前に降り、俺たちを乗せやすいように屈み込む。

「じゃ、リンツェ。サンキュな!」

「ありがとう、リンツェ君」

「い、いえ……皆さんも、気をつけて……!」

 全員リンツェに手を振り、礼を言いながら竜に乗る。
 照れて赤い顔を手で隠しながら、手を振り返すリンツェに見送られながら、飛竜とともに、タカチホへ向かっていった。
3/6ページ
スキ