兄弟
「はあああっ!」
「とりゃあっ!」
プリシアナ学院を旅立って三日目。
俺たちは“絶たれた絆の道”というダンジョンを進み、そして襲い来るモンスターと戦っていた。
「キシャアッ!!」
「遅いんだよッ!」
抜刀し、複数のモンスターをまとめて一掃する。
そんなに強いモンスターじゃないし、仮に仕留めそこなっても後衛(一名除く)が撃退してくれるしな。
「……よし。こんなもんかな」
すべて撃退し、納刀する。
同じく前衛のセルシアとバロータ、そしてレオノチスとブーゲンビリアも一息つく。
「うっひゃ~。モンスター多過ぎだよ……」
「ここはプリシアナ大陸とドラッケン大陸を繋ぐ街道のようなものです。冒険者以外人が通りませんから、モンスターが多くいるのも仕方がないですよ」
回復魔法をかけている(セルシア優先に)フリージアがすらすらと答えた。
同じく回復魔法をかけているブロッサムがため息をつく。
「ワープゾーンもあるし……大丈夫か?」
「たしかに道は入り組んでいるけど、地図を見れば進んでいるのがわかる。今日中には着くと思うよ」
フリージアの地図を写す魔法、マプルで確認したセルシアが確信持って言った。
それを聞いた俺は立ち上がり、刀を持つ。
「んじゃ、とっとと行こうか。日が暮れる前に」
「そうね。アマリリスちゃんに早く会わなきゃ!」
アイドル兼格闘家のブーゲンビリアは意気込み、その場で足踏みしてる。
「目的地はもうすぐだ。急ぐか」
俺の言葉に全員が頷き、休憩もそこそこにまた進んでいった……。
――――
モンスターの大群も斬り捨て、ようやく第一の目的地、ドラッケン学園にたどり着いた。
「あ! アマリリスちゃんのコンサートポスターだ!」
「お、早速発見か」
シルフィーが指さす先には、アマリリスのポスターが何枚か貼られていた。
(『闇のアイドル・アマリリス・オンステージ!』……? ……なんで“闇”って言葉が出てくるんだよ)
ポスターにはすべてこの言葉が書かれている。
……可愛い外見のくせに、何の意味があるっつーの。
「やっぱりドラッケンの学園祭でコンサートやるんだね」
「だね~。ドラッケンの生徒さんから話を聞けないかな~」
チューリップとシルフィーは飛びながら、辺りを見回している。
「………………」
「……アユミ? どうした? 辺りをキョロキョロ見て……」
「いや……なんでもない……」
ブロッサムに言いつつ、周りに“あの女”がいないことにひそかに安堵する。
たしかこの学園にいるんだよなあ……。俺に数々のトラウマとトラブルを与えたアイツが……。
「む? なんじゃ。また見慣れぬ庶民がおるのぅ。転入生か?」
その時だ。背後から強い魔力を感じたのは。
振り返ると、そこには頭に小さめの王冠を被ったピンクの髪のディアボロス、そして腰に刀を持ったメイドみたいなフェルパーがいた。
「あ。おまえ、ドラッケン学園の生徒?」
「うむ。わらわはキルシュトルテ=ノイツェシュタイン――」
「キッス=フランケンシュタイン……? 変な名前……」
レオ……たずねていながら名前を間違えるな……。
当然「誰がフランケンシュタインじゃ!」と王女様はご立腹になる。
「このドラッケン学園がある地を治める栄えある王家の王女で、かの大魔道士アガシオン討ち倒した、英雄の血筋なるぞ!!」
「……!」
「大魔道士アガシオン?」
「だあれ?」
アガシオンという名前に、レオとシルフィーが同時に首を傾げた。
俺は……ちょっとぴくりと反応して、表情が少し固くなる。
「アガシオン……たしか、数百年前の魔王アゴラモートを蘇らせようとしたディアボロス――だっけ?」
「ああ。その大魔道士アガシオンを倒した英雄が二人存在したと言われている」
ウィンターコスモスのセレスティア二名が答え、それからセルシアはキルシュトルテを一瞥する。
「一人は、キルシュトルテさんのご先祖である初代ノイツェシュタイン。もう一人は僕のご先祖である、初代ウィンターコスモスだ」
「ほう、聞いたことはあるぞ。あまり役に立たない光の戦士がおったな」
……言っちゃったよ、この人。末裔様たちの前で言っちゃったよ。
当然、それにセルシアが反応し、ムッとした空気が一瞬流れる。
「……僕はご先祖様はその身を挺して大陸を救った立派な方だったと伝え聞いている」
「ほほほ。それは子孫を見れば一目瞭然じゃろうのう」
セルシアの表情にも気づかず、キルシュトルテは優雅に笑ってる。
「プリシアナは新進気鋭の学校と言えば聞こえはいいが、結局はドラッケンの真似っこ学校だと聞いておるぞ。歴史ある学園の王女と真似っこ学校のボンボンでは格がのう……」
「セルシア君を悪く言うな! 古びた石頭が校長の学校のくせに!」
おっとー。ここでレオがキルシュに食いつきましたー!
……つか石頭って……さりげなく失礼な事を……。
「なっ! たしかに校長の頭は石じゃが、その言い方は失礼であろう!」
「やるか!?」
一触即発。レオの言葉にいきり立ち、再びキルシュトルテが怒り出した。
お互いに剣に手をかけ、抜こうと仕掛かった。
「おやめなさい、そこの二人」
……その時だ。
この二人に割って入るように声が掛かったのは。
「ふふふ。王女殿下ともあろうお方が、他校の生徒相手に子供のケンカかしら?」
「なっ……! や、止めぬか! コラッ! クラティウス、助けろ!」
「は、はい! 姫様!」
「ゆ、ユリ様……その辺で止めてください」
現れたのはユリと呼ばれたエルフの少女とディアボロスの少年。
少女は長い金髪を揺らしながら、杖の先端でキルシュトルテの頭を小突き、メイドのクラティウスとディアボロスが止めにかかる。
……が、俺はそんな光景など、全く目に入らなかった。
「…………」
こそこそとみんなに気づかれないように、最後尾にいるブロッサムの後ろに隠れるように逃げる。
アイツに見つからないように……。
「他校の生徒が、留学でもないのにやって来るなんて珍しいでしょう?」
「む、むぅ……たしかに」
「いい子ね、キルシュ。だからその理由を聞かなくちゃ」
言ってユリはクルッと俺らに振り返り、
「こそこそとセレスティア君の後ろにいるアユミ? 説明していただけますわよね?」
アウトォオオオッ!!!
なんでピンポイントで俺を指名するのぉおおお!!?
おかげでみんなの視線が俺に集中しちゃったし!
「知り合いなのか? ……つか、なんで俺の後ろにいるんだ?」
「あー……えっと……その……」
「まあ、ひどい……あんなに可愛がっであげたのに……」
「嘘つけ、この腹黒女!!」
もうばれたことなので、顔だけ後ろから出す。
……だって近くに行きたくないし←
「ちゃんと出てきていただけませんこと? そんなに嫌われてるのかしら?」
「当たり前だバカヤロー! おまえに植えられた数々のトラウマとトラブルのせいでな!!」
「そんなことで? 最後の、真夜中の職員室で、私の人形を大量にけしかけたのが原因かしら」
「しかもアレ、本気で俺を殺しにかかったよな? アレ以来、職員室もトラウマの原因になったぞ! おかげで抵抗覚えたぞ!?」
「あら、そうなの。とりあえず出てきて話をしませんこと?」
「断る! ってか近寄るな!」
「おまえら、俺を挟んで言い争うのやめてくれないか!?」
ぶんぶんと首を振りながら、迫り来るこの女の魔の手から逃れようとブロッサムの背にへばり付く。
「ちょっ……アユミ、離れろ! 離れてくれっ!」
「無理だブロッサム。死ぬ時はおまえの魂も連れて逝く!」
「ふざけんな! ……ってそれもあるが……おま……あ、当たっ、当たっ……!」
「あら、真っ赤。胸だけでそんな……可愛いセレスティア君ですわね」
「な、ななな……!!? か、顔を撫でるな、近づけるなあああ!!!」
背中からギューっと抱き着く俺。指先で顔を撫で、寸止めキス状態まで顔を近づけるユリ。
おかげでブロッサムは真っ赤どころか混乱して身動きすらも取れない状況にいた。
「う、羨ましい……!!」
「まあ! ブロッサムさん、モテモテね!」
「うん! いいなあ、ブロッサム」
「あははー。ブロッサムの顔、真っ赤だー」
「………………」
羨望の眼差しのバロータ。勘違いのブーゲンビリアとシルフィー。からかうレオ。
……フリージアは無表情で何かをつぶやいてるが、怖いので聞き流すという方向性で行こう。
残るセルシアたちは苦笑したり呆れたり、様々な反応をしている。
「や、やめろ頼むから!! 俺たちはアマリリスのコンサート情報を聞きに来たんだぞ!?」
「あ。そーだった」
「あら。そうでしたの?」
ブロッサムの叫びにようやく我に返り、あっさり離れる。
その途端ブロッサムはがっくり肩を落として荒い息を吐きまくった。
「ぜー……ぜー……。し、死ぬかと思った……」
「……ご安心を。すぐに楽になりますから」
「そうか……え?」
独り言に返答があったことに驚いたブロッサムが後ろを見た。
「とりゃあっ!」
プリシアナ学院を旅立って三日目。
俺たちは“絶たれた絆の道”というダンジョンを進み、そして襲い来るモンスターと戦っていた。
「キシャアッ!!」
「遅いんだよッ!」
抜刀し、複数のモンスターをまとめて一掃する。
そんなに強いモンスターじゃないし、仮に仕留めそこなっても後衛(一名除く)が撃退してくれるしな。
「……よし。こんなもんかな」
すべて撃退し、納刀する。
同じく前衛のセルシアとバロータ、そしてレオノチスとブーゲンビリアも一息つく。
「うっひゃ~。モンスター多過ぎだよ……」
「ここはプリシアナ大陸とドラッケン大陸を繋ぐ街道のようなものです。冒険者以外人が通りませんから、モンスターが多くいるのも仕方がないですよ」
回復魔法をかけている(セルシア優先に)フリージアがすらすらと答えた。
同じく回復魔法をかけているブロッサムがため息をつく。
「ワープゾーンもあるし……大丈夫か?」
「たしかに道は入り組んでいるけど、地図を見れば進んでいるのがわかる。今日中には着くと思うよ」
フリージアの地図を写す魔法、マプルで確認したセルシアが確信持って言った。
それを聞いた俺は立ち上がり、刀を持つ。
「んじゃ、とっとと行こうか。日が暮れる前に」
「そうね。アマリリスちゃんに早く会わなきゃ!」
アイドル兼格闘家のブーゲンビリアは意気込み、その場で足踏みしてる。
「目的地はもうすぐだ。急ぐか」
俺の言葉に全員が頷き、休憩もそこそこにまた進んでいった……。
――――
モンスターの大群も斬り捨て、ようやく第一の目的地、ドラッケン学園にたどり着いた。
「あ! アマリリスちゃんのコンサートポスターだ!」
「お、早速発見か」
シルフィーが指さす先には、アマリリスのポスターが何枚か貼られていた。
(『闇のアイドル・アマリリス・オンステージ!』……? ……なんで“闇”って言葉が出てくるんだよ)
ポスターにはすべてこの言葉が書かれている。
……可愛い外見のくせに、何の意味があるっつーの。
「やっぱりドラッケンの学園祭でコンサートやるんだね」
「だね~。ドラッケンの生徒さんから話を聞けないかな~」
チューリップとシルフィーは飛びながら、辺りを見回している。
「………………」
「……アユミ? どうした? 辺りをキョロキョロ見て……」
「いや……なんでもない……」
ブロッサムに言いつつ、周りに“あの女”がいないことにひそかに安堵する。
たしかこの学園にいるんだよなあ……。俺に数々のトラウマとトラブルを与えたアイツが……。
「む? なんじゃ。また見慣れぬ庶民がおるのぅ。転入生か?」
その時だ。背後から強い魔力を感じたのは。
振り返ると、そこには頭に小さめの王冠を被ったピンクの髪のディアボロス、そして腰に刀を持ったメイドみたいなフェルパーがいた。
「あ。おまえ、ドラッケン学園の生徒?」
「うむ。わらわはキルシュトルテ=ノイツェシュタイン――」
「キッス=フランケンシュタイン……? 変な名前……」
レオ……たずねていながら名前を間違えるな……。
当然「誰がフランケンシュタインじゃ!」と王女様はご立腹になる。
「このドラッケン学園がある地を治める栄えある王家の王女で、かの大魔道士アガシオン討ち倒した、英雄の血筋なるぞ!!」
「……!」
「大魔道士アガシオン?」
「だあれ?」
アガシオンという名前に、レオとシルフィーが同時に首を傾げた。
俺は……ちょっとぴくりと反応して、表情が少し固くなる。
「アガシオン……たしか、数百年前の魔王アゴラモートを蘇らせようとしたディアボロス――だっけ?」
「ああ。その大魔道士アガシオンを倒した英雄が二人存在したと言われている」
ウィンターコスモスのセレスティア二名が答え、それからセルシアはキルシュトルテを一瞥する。
「一人は、キルシュトルテさんのご先祖である初代ノイツェシュタイン。もう一人は僕のご先祖である、初代ウィンターコスモスだ」
「ほう、聞いたことはあるぞ。あまり役に立たない光の戦士がおったな」
……言っちゃったよ、この人。末裔様たちの前で言っちゃったよ。
当然、それにセルシアが反応し、ムッとした空気が一瞬流れる。
「……僕はご先祖様はその身を挺して大陸を救った立派な方だったと伝え聞いている」
「ほほほ。それは子孫を見れば一目瞭然じゃろうのう」
セルシアの表情にも気づかず、キルシュトルテは優雅に笑ってる。
「プリシアナは新進気鋭の学校と言えば聞こえはいいが、結局はドラッケンの真似っこ学校だと聞いておるぞ。歴史ある学園の王女と真似っこ学校のボンボンでは格がのう……」
「セルシア君を悪く言うな! 古びた石頭が校長の学校のくせに!」
おっとー。ここでレオがキルシュに食いつきましたー!
……つか石頭って……さりげなく失礼な事を……。
「なっ! たしかに校長の頭は石じゃが、その言い方は失礼であろう!」
「やるか!?」
一触即発。レオの言葉にいきり立ち、再びキルシュトルテが怒り出した。
お互いに剣に手をかけ、抜こうと仕掛かった。
「おやめなさい、そこの二人」
……その時だ。
この二人に割って入るように声が掛かったのは。
「ふふふ。王女殿下ともあろうお方が、他校の生徒相手に子供のケンカかしら?」
「なっ……! や、止めぬか! コラッ! クラティウス、助けろ!」
「は、はい! 姫様!」
「ゆ、ユリ様……その辺で止めてください」
現れたのはユリと呼ばれたエルフの少女とディアボロスの少年。
少女は長い金髪を揺らしながら、杖の先端でキルシュトルテの頭を小突き、メイドのクラティウスとディアボロスが止めにかかる。
……が、俺はそんな光景など、全く目に入らなかった。
「…………」
こそこそとみんなに気づかれないように、最後尾にいるブロッサムの後ろに隠れるように逃げる。
アイツに見つからないように……。
「他校の生徒が、留学でもないのにやって来るなんて珍しいでしょう?」
「む、むぅ……たしかに」
「いい子ね、キルシュ。だからその理由を聞かなくちゃ」
言ってユリはクルッと俺らに振り返り、
「こそこそとセレスティア君の後ろにいるアユミ? 説明していただけますわよね?」
アウトォオオオッ!!!
なんでピンポイントで俺を指名するのぉおおお!!?
おかげでみんなの視線が俺に集中しちゃったし!
「知り合いなのか? ……つか、なんで俺の後ろにいるんだ?」
「あー……えっと……その……」
「まあ、ひどい……あんなに可愛がっであげたのに……」
「嘘つけ、この腹黒女!!」
もうばれたことなので、顔だけ後ろから出す。
……だって近くに行きたくないし←
「ちゃんと出てきていただけませんこと? そんなに嫌われてるのかしら?」
「当たり前だバカヤロー! おまえに植えられた数々のトラウマとトラブルのせいでな!!」
「そんなことで? 最後の、真夜中の職員室で、私の人形を大量にけしかけたのが原因かしら」
「しかもアレ、本気で俺を殺しにかかったよな? アレ以来、職員室もトラウマの原因になったぞ! おかげで抵抗覚えたぞ!?」
「あら、そうなの。とりあえず出てきて話をしませんこと?」
「断る! ってか近寄るな!」
「おまえら、俺を挟んで言い争うのやめてくれないか!?」
ぶんぶんと首を振りながら、迫り来るこの女の魔の手から逃れようとブロッサムの背にへばり付く。
「ちょっ……アユミ、離れろ! 離れてくれっ!」
「無理だブロッサム。死ぬ時はおまえの魂も連れて逝く!」
「ふざけんな! ……ってそれもあるが……おま……あ、当たっ、当たっ……!」
「あら、真っ赤。胸だけでそんな……可愛いセレスティア君ですわね」
「な、ななな……!!? か、顔を撫でるな、近づけるなあああ!!!」
背中からギューっと抱き着く俺。指先で顔を撫で、寸止めキス状態まで顔を近づけるユリ。
おかげでブロッサムは真っ赤どころか混乱して身動きすらも取れない状況にいた。
「う、羨ましい……!!」
「まあ! ブロッサムさん、モテモテね!」
「うん! いいなあ、ブロッサム」
「あははー。ブロッサムの顔、真っ赤だー」
「………………」
羨望の眼差しのバロータ。勘違いのブーゲンビリアとシルフィー。からかうレオ。
……フリージアは無表情で何かをつぶやいてるが、怖いので聞き流すという方向性で行こう。
残るセルシアたちは苦笑したり呆れたり、様々な反応をしている。
「や、やめろ頼むから!! 俺たちはアマリリスのコンサート情報を聞きに来たんだぞ!?」
「あ。そーだった」
「あら。そうでしたの?」
ブロッサムの叫びにようやく我に返り、あっさり離れる。
その途端ブロッサムはがっくり肩を落として荒い息を吐きまくった。
「ぜー……ぜー……。し、死ぬかと思った……」
「……ご安心を。すぐに楽になりますから」
「そうか……え?」
独り言に返答があったことに驚いたブロッサムが後ろを見た。