兄弟
冥府の迷宮に送られ、無事に帰還してから一週間。
今日はメンバーと一緒にプリシアナ学院で平和に――。
「聞いた? 聞いた!? アイドルのアマリリスちゃんが、今度学祭コンサートするんだって!」
「ええっ!? 本当!?」
……過ごそうと思った矢先、チューリップが慌ただしく寮に入ってきやがった。
「え? 誰? アマリリスって……」
「レオは相変わらずそーいう話題に疎いのね……」
「アマリリスって……最近人気の学生アイドルじゃないか」
「ふーん……」
興味ないので軽く頷く俺。
しかしさすがブロッサム。アイドル学科(もぐりだが)だけに情報早いんだな。
「あ! 知ってる! 結構可愛い子だったよね♪」
「なんだ。アイドルってブーゲンビリアと同じじゃん」
「ブーゲンビリアみたいなアイドル“志望”と一緒にしないでよね! アマリリスちゃんはすでにデビューしてる、ちょー人気アイドルなんだから!」
チューリップ……サラっとひでぇこと言ったな、おい。
ブーゲンビリアが座り込んで泣きかけてるぞ。
「そんな言い方ひどいわ……アマリリスちゃんは――私の双子の弟なのに……」
「そうそう、双子の……って……」
ブーゲンビリアの発言の後、ブロッサム、シルフィー、チューリップが固まる。
「はぁあああ(えええええ)!!? 双子!?」
噂のアイドルの容姿を知っている三人が同時に叫んだ。
……そんなに驚くくらい似てないのか?
「あら、言ってなかったかしら。よく似てるでしょう?」
てへっ♪ とでも付きそうな喋り方に「どこが!?」とブロッサムとチューリップが同時に叫ぶ。
「アマリリスちゃんは男の子なのに小さくて可愛くて……」
「明らかにおまえとは正反対だろうが!」
いつも以上に剣幕が凄まじいぞ、おまえら……。
どんだけミーハー?
「シルフィー。アマリリスってどんな奴だ?」
「アマリリスちゃん? ちょっと待ってて~」
言うとシルフィーはポーチから何かをがさごそと捜索し始めた。
……途中であんパンとかお菓子とか見えた気がするが、気のせいと片付けておこう。
「ん~と……あったー! アマリリスちゃんのブロマイド!」
大声で叫ぶと「はい!」とブロマイドを差し出される。
写真には――ゴスロリ風の衣装を着た、男だが女だがわかんねぇエルフ(弟っつってから男だろうけど)が写ってた。
外見は……ブロッサムやチューリップが叫んだ理由がわかったくらい似てない。こっちは容姿端麗、って奴だな。
「なんだこりゃ? 男だが女だがわかんねーや」
「そこがいいんじゃない。中性的って感じで……」
疑問符を浮かべるレオに、何故か力説始めるチューリップ。
「……ブーゲンビリア。ぶっちゃけ似てなさ過ぎるんだが……双子っつー証明写真とかない?」
そんな二人を無視して、俺はブーゲンビリアに話しかける。
「あるわよ!」と野太い声で返された後、一枚の写真を手渡された。
「…………。たしかに、似てるな。これは……」
「ああ……。つか、ホントにブーゲンビリアか? と疑いたくなるんだが……」
写真を見た俺とブロッサムの感想。
そこには昔のアマリリスと、アマリリスに似た“可愛い”子供が写ってた。
可愛い子供。ここ重要だぞ? ブーゲンビリアと似てない、か・わ・い・い! 子供が写っているんだ。
「へぇ、これが子供の頃のブーゲンビリアか。こんなナヨナヨしたガキだったのに、今はちょーマッチョになるなんて、スゲー!」
あ、レオもそう思うか。
「俺もどうやったらそんな筋肉バリボーになれるのか、逆に気になってきたんだが」
「そんなの私も知らないわよ~……」
弟と外見が違うことがショックなのか、泣きべそかき始める。
……スマン。シュールで怖いんだが←。
「あれ~? でも、双子なら、どうしてアマリリスちゃんのコンサート情報知らないの?」
ここでシルフィーが首を傾げながらたずねてきた。
たしかに双子なら、知っていてもおかしくないはず……。
「それが……アマリリスちゃんは途中でグレちゃって……ソロでやるって言って家を飛び出して、プリシアナ付属の学校も辞めちゃって……それきりなの……」
ブーゲンビリアの顔が途端に悲しそうになる。
ユニット組む約束もしてた辺り、意外と仲は悪くないようだな……。
「私……アマリリスちゃんに、また学校に戻ってくるように説得したいわ! コンサート会場に行けないかしら……」
「うーん……コンサートは他の学校で行われるからね~……」
「あ。他の学校に行く時は校長の許可が必要なんだっけ」
三人が顔を合わせた後、ブーゲンビリアとチューリップが遠慮がちに俺に視線を向けてきた。
……よくあるパターンだな。わかるぞ。
「……はいはい、わかったよ。俺らも校長に頼めばいいんだろ?」
「! いいの?」
「ありがとー! 正直レオじゃ頼りないしねー」
「なんだよ、それー」
チューリップの直球な発言に不満そうな表情のレオ。まあわからないまでもないけど。
「まあまあ。それより、大聖堂に行こうよ~」
上手い具合にシルフィーがレオをなだめながら腕をぐいぐい引っ張る。
渋々ながら納得したレオに続き、俺たちも大聖堂に向かっていった。
――――
いつ見ても綺麗な大聖堂で、セントウレア校長が休み時間の調べを奏でてる。
毎度の事ながら尊敬するわ、マジで。
「おや。これは大勢で珍しい。何かあったんですか?」
「ああ。ブロッサム。説明頼む」
「なんで俺が!!?」
突然の来訪にも驚かず、冷静に静かな声で聞かれた。
ブロッサムに任せ、校長に事情を説明する。
「……という訳なんです」
「私、アマリリスちゃんに会って、学校に戻ってくるように説得したいんです! あの時は説得出来なかったけど……まだ諦めてないんです!」
「……そうですか。兄弟を大事に思うブーゲンビリア君の気持ちはわかります。他校に行くことを許可しましょう」
「マジですか、校長」
俺の言葉に静かに頷き、「ですが」と続ける。
「ドラッケン学園もタカチホ義塾も、我が校より古くから大陸に存在する伝統校です。礼を失することのないよう、また学ぶことが多い訪問であるよう願っていますよ」
「了解です」
……教育熱心とはよく言ったものだ。
慈悲のある笑みに頷きながら、俺はそう思った。
「そういうことなら、僕も一緒に行かせてください」
「い゙っ……セルシア!?」
ここでいつの間にやってきた(つかどっから話を聞いてたんだ)のだろうか。セルシアとフリージア、バロータがやってきた。
……ブロッサムがびくぅっ! と跳びはねたのは言うまでもない。
「レオノチス君たちにブロッサムやシルフィネスト君、そしてアユミ君だけで他校に行かせるのは不安です」
「サラっと失礼な事言ったな、オイ」
ボソッとつぶやく俺。
セルシア……やっぱブロッサムと真逆だ、真逆。
「……わかりました。セルシアはこの学校の生徒会長です。……それにセルシア? 本当はブーゲンビリア君とアマリリス君のことが気になるのでしょう?」
「……! 僕は……兄弟は信頼し合い、力になるべき存在だと思っているだけです」
校長がにっこり笑って言えば、セルシアが珍しく照れ臭そうに言った。
……畜生、カメラに収めたかったよ、このレア物←
「ふふ……さあ、お行きなさい。プリシアナの子らよ。実りある旅路であるよう、祈っています……」
セントウレア校長から、神に等しい笑顔を向けられる。
そして俺たちは大聖堂を後にしていった。
――――
結構長旅になるので、一旦準備を整え、それから校門前に全員で集まった。
「さて……チューリップ。先にどっちの学校に行くんだ?」
「まずはドラッケン学園ね。先にそっちでコンサートが開かれることになっているから」
「は~い。……それにしても、みんなで一緒に冒険って初めてだから、なんか新鮮だね~」
「だな。俺も冒険する時はセルシアとフリージアだけだから、この大人数で冒険ってのはなかったな」
ブロッサムの呑気な発言に、思い出すようにバロータが答えた。
まあ、たしかに9人は多いけどよ。
「とりあえず行くか。モンスターがきても、全員で連携して撃退ってことで」
「そうだね。ここはみんなで協力して、ドラッケン学園とタカチホ義塾を目指そう」
「よーし! そうと決まれば出発だあ! 先頭は未来の英雄である、このレオ様に任せてよ!」
「おまえが一番心配だから却下」
各パーティのリーダーで頷き合い(レオの案は即却下したが)、そして俺らのドラッケン学園への旅が始まった。
今日はメンバーと一緒にプリシアナ学院で平和に――。
「聞いた? 聞いた!? アイドルのアマリリスちゃんが、今度学祭コンサートするんだって!」
「ええっ!? 本当!?」
……過ごそうと思った矢先、チューリップが慌ただしく寮に入ってきやがった。
「え? 誰? アマリリスって……」
「レオは相変わらずそーいう話題に疎いのね……」
「アマリリスって……最近人気の学生アイドルじゃないか」
「ふーん……」
興味ないので軽く頷く俺。
しかしさすがブロッサム。アイドル学科(もぐりだが)だけに情報早いんだな。
「あ! 知ってる! 結構可愛い子だったよね♪」
「なんだ。アイドルってブーゲンビリアと同じじゃん」
「ブーゲンビリアみたいなアイドル“志望”と一緒にしないでよね! アマリリスちゃんはすでにデビューしてる、ちょー人気アイドルなんだから!」
チューリップ……サラっとひでぇこと言ったな、おい。
ブーゲンビリアが座り込んで泣きかけてるぞ。
「そんな言い方ひどいわ……アマリリスちゃんは――私の双子の弟なのに……」
「そうそう、双子の……って……」
ブーゲンビリアの発言の後、ブロッサム、シルフィー、チューリップが固まる。
「はぁあああ(えええええ)!!? 双子!?」
噂のアイドルの容姿を知っている三人が同時に叫んだ。
……そんなに驚くくらい似てないのか?
「あら、言ってなかったかしら。よく似てるでしょう?」
てへっ♪ とでも付きそうな喋り方に「どこが!?」とブロッサムとチューリップが同時に叫ぶ。
「アマリリスちゃんは男の子なのに小さくて可愛くて……」
「明らかにおまえとは正反対だろうが!」
いつも以上に剣幕が凄まじいぞ、おまえら……。
どんだけミーハー?
「シルフィー。アマリリスってどんな奴だ?」
「アマリリスちゃん? ちょっと待ってて~」
言うとシルフィーはポーチから何かをがさごそと捜索し始めた。
……途中であんパンとかお菓子とか見えた気がするが、気のせいと片付けておこう。
「ん~と……あったー! アマリリスちゃんのブロマイド!」
大声で叫ぶと「はい!」とブロマイドを差し出される。
写真には――ゴスロリ風の衣装を着た、男だが女だがわかんねぇエルフ(弟っつってから男だろうけど)が写ってた。
外見は……ブロッサムやチューリップが叫んだ理由がわかったくらい似てない。こっちは容姿端麗、って奴だな。
「なんだこりゃ? 男だが女だがわかんねーや」
「そこがいいんじゃない。中性的って感じで……」
疑問符を浮かべるレオに、何故か力説始めるチューリップ。
「……ブーゲンビリア。ぶっちゃけ似てなさ過ぎるんだが……双子っつー証明写真とかない?」
そんな二人を無視して、俺はブーゲンビリアに話しかける。
「あるわよ!」と野太い声で返された後、一枚の写真を手渡された。
「…………。たしかに、似てるな。これは……」
「ああ……。つか、ホントにブーゲンビリアか? と疑いたくなるんだが……」
写真を見た俺とブロッサムの感想。
そこには昔のアマリリスと、アマリリスに似た“可愛い”子供が写ってた。
可愛い子供。ここ重要だぞ? ブーゲンビリアと似てない、か・わ・い・い! 子供が写っているんだ。
「へぇ、これが子供の頃のブーゲンビリアか。こんなナヨナヨしたガキだったのに、今はちょーマッチョになるなんて、スゲー!」
あ、レオもそう思うか。
「俺もどうやったらそんな筋肉バリボーになれるのか、逆に気になってきたんだが」
「そんなの私も知らないわよ~……」
弟と外見が違うことがショックなのか、泣きべそかき始める。
……スマン。シュールで怖いんだが←。
「あれ~? でも、双子なら、どうしてアマリリスちゃんのコンサート情報知らないの?」
ここでシルフィーが首を傾げながらたずねてきた。
たしかに双子なら、知っていてもおかしくないはず……。
「それが……アマリリスちゃんは途中でグレちゃって……ソロでやるって言って家を飛び出して、プリシアナ付属の学校も辞めちゃって……それきりなの……」
ブーゲンビリアの顔が途端に悲しそうになる。
ユニット組む約束もしてた辺り、意外と仲は悪くないようだな……。
「私……アマリリスちゃんに、また学校に戻ってくるように説得したいわ! コンサート会場に行けないかしら……」
「うーん……コンサートは他の学校で行われるからね~……」
「あ。他の学校に行く時は校長の許可が必要なんだっけ」
三人が顔を合わせた後、ブーゲンビリアとチューリップが遠慮がちに俺に視線を向けてきた。
……よくあるパターンだな。わかるぞ。
「……はいはい、わかったよ。俺らも校長に頼めばいいんだろ?」
「! いいの?」
「ありがとー! 正直レオじゃ頼りないしねー」
「なんだよ、それー」
チューリップの直球な発言に不満そうな表情のレオ。まあわからないまでもないけど。
「まあまあ。それより、大聖堂に行こうよ~」
上手い具合にシルフィーがレオをなだめながら腕をぐいぐい引っ張る。
渋々ながら納得したレオに続き、俺たちも大聖堂に向かっていった。
――――
いつ見ても綺麗な大聖堂で、セントウレア校長が休み時間の調べを奏でてる。
毎度の事ながら尊敬するわ、マジで。
「おや。これは大勢で珍しい。何かあったんですか?」
「ああ。ブロッサム。説明頼む」
「なんで俺が!!?」
突然の来訪にも驚かず、冷静に静かな声で聞かれた。
ブロッサムに任せ、校長に事情を説明する。
「……という訳なんです」
「私、アマリリスちゃんに会って、学校に戻ってくるように説得したいんです! あの時は説得出来なかったけど……まだ諦めてないんです!」
「……そうですか。兄弟を大事に思うブーゲンビリア君の気持ちはわかります。他校に行くことを許可しましょう」
「マジですか、校長」
俺の言葉に静かに頷き、「ですが」と続ける。
「ドラッケン学園もタカチホ義塾も、我が校より古くから大陸に存在する伝統校です。礼を失することのないよう、また学ぶことが多い訪問であるよう願っていますよ」
「了解です」
……教育熱心とはよく言ったものだ。
慈悲のある笑みに頷きながら、俺はそう思った。
「そういうことなら、僕も一緒に行かせてください」
「い゙っ……セルシア!?」
ここでいつの間にやってきた(つかどっから話を聞いてたんだ)のだろうか。セルシアとフリージア、バロータがやってきた。
……ブロッサムがびくぅっ! と跳びはねたのは言うまでもない。
「レオノチス君たちにブロッサムやシルフィネスト君、そしてアユミ君だけで他校に行かせるのは不安です」
「サラっと失礼な事言ったな、オイ」
ボソッとつぶやく俺。
セルシア……やっぱブロッサムと真逆だ、真逆。
「……わかりました。セルシアはこの学校の生徒会長です。……それにセルシア? 本当はブーゲンビリア君とアマリリス君のことが気になるのでしょう?」
「……! 僕は……兄弟は信頼し合い、力になるべき存在だと思っているだけです」
校長がにっこり笑って言えば、セルシアが珍しく照れ臭そうに言った。
……畜生、カメラに収めたかったよ、このレア物←
「ふふ……さあ、お行きなさい。プリシアナの子らよ。実りある旅路であるよう、祈っています……」
セントウレア校長から、神に等しい笑顔を向けられる。
そして俺たちは大聖堂を後にしていった。
――――
結構長旅になるので、一旦準備を整え、それから校門前に全員で集まった。
「さて……チューリップ。先にどっちの学校に行くんだ?」
「まずはドラッケン学園ね。先にそっちでコンサートが開かれることになっているから」
「は~い。……それにしても、みんなで一緒に冒険って初めてだから、なんか新鮮だね~」
「だな。俺も冒険する時はセルシアとフリージアだけだから、この大人数で冒険ってのはなかったな」
ブロッサムの呑気な発言に、思い出すようにバロータが答えた。
まあ、たしかに9人は多いけどよ。
「とりあえず行くか。モンスターがきても、全員で連携して撃退ってことで」
「そうだね。ここはみんなで協力して、ドラッケン学園とタカチホ義塾を目指そう」
「よーし! そうと決まれば出発だあ! 先頭は未来の英雄である、このレオ様に任せてよ!」
「おまえが一番心配だから却下」
各パーティのリーダーで頷き合い(レオの案は即却下したが)、そして俺らのドラッケン学園への旅が始まった。