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闇の迷宮

「……ずいぶん凶悪だな。約束の雪原のがまだマシだったぜ」

「前に校長が言ってたが、ここは度々闇の力が集まることがあるみたいなんだ」

「闇……? ――へぇ……闇、ねぇ……」

「み~……?」

 ……たしかにここは不気味だからな。
 闇や邪な物が溜まるのも頷ける。

(……きっとあの“男”も)

 闇と聞き、俺の脳裏に銀髪のヒューマンが浮かび上がった。
 凶悪とも言える瞳と力を持ち、俺を殺しかねない程本気で、何度も何度も俺に挑んできたアイツの姿が。

(……いや、もう考えるな)

 あまり思い出したくない。
 無意識に首を振って考えを振り払った。

(もう知るか……付き合いきれん)

 今は負傷者が優先だ。
 俺は考えを切り替え、刀を強く握りしめて前を歩き続けていった。

 ――――

「あ」

「……? なんだ、ブロッサム」

「負傷者を見つけたぞ、アユミ!」

「マジで!?」

 しばらく進んだ後、ブロッサムが負傷者を見つけた……いやあ、ここまで長かったよ、ホント。

「うわあい! これで学校に帰れる~!」

「おまえ、それは気が早……」

 シルフィーとブロッサムは普通に、そのまま負傷者に近づいていく。

「……! 下がれ!」

「「え?」」

 二人の声が揃うのを聞きながら、俺は素早く前に出た。

 バキィンッ!

「……っ!?」

 う……腕が痺れる……っ。
 びりびりと痙攣する腕に耐えながら前を見る。

「ギ、ギ、ギ……」

 ……うわあお。これはまた毒々しーい水晶を身体中に生やしたゴーレムさんだこと。
 水晶が妖しげに輝いていて、より一層不気味さが増している。

「びぇえええん!! ボスとーじょーーーーッ!!!」

「ま、マジかよ……こんなのが相手かよ!?」

「……うだうだ言うならまず戦えコノヤロー」

 震えながら隅っこに逃げるシルフィーはこの際無視し、杖を構えるブロッサムを背後に、俺は刀を納刀してから構えた。

「はあっ!」

「シャイガン!」

 ブロッサムの援護を受けつつ、俺は帯刀状態で殴り掛かった。
 外見は堅そうだが、シャイガンでヒビが入ったところに鞘や蹴りで殴れば簡単にボロボロと崩れていく。べつに強敵ではなかった。

「勝てると思った? ……おあいにく~」

 手をひらひらさせながら、ゴーレム(の残骸)に決めセリフ。
 ……このセリフわかった奴、あえてツッコむな←

「おまえ……容赦ねぇな……ってか体術もできるのかよ!?」

「ああ。格闘家学科とタカチホのカンフー学科。それとくのいち学科も修得済みだからな」

「はぁあああっ!!?」

 ブロッサムの絶叫が響いた。
 うるせぇよ、ホント。

「宝箱取りたいから盗賊にしただけだ。帯刀型の体術とかは俺の独学だがな」

「どこの抜刀剣士だ、おまえは!!」

 小姑の如く食い下がるこいつ。
 あー、うるさいうるさい←

「……あれ? ブロッサムにアユミ君?」

「え?」

 あれ? 背後から王子様ボイスが聞こえるぞ?
 とか馬鹿なこと考えながら振り返ると、セルシアたち六人が救急箱持参でやってきたとこだった。

「これは……モンスター、の残骸?」

「ああ。襲ってきたから撃退した。シルフィーのバカは除いてな」

「こんなところまでモンスターが出るとは……。ブロッサム、怪我はないか?」

「ま、まあな」

 セルシアがゴーレムの残骸を見ながら、ブロッサムに視線を移す。
 反対にチューリップは辺りを飛びながら「噂は本当だったのかなあ……」とつぶやいていた。

「噂?」

「さすが学園一の情報通チューリップちゃん。噂って何?」

 そのつぶやきが聞こえた俺とバロータが同時にたずねると、「大陸中央に繋がる秘密の地下通路があるんだって!」とあっけらかんに答えた。

「そこには怖ーいモンスターたちがうじゃうじゃいて、禁断のダンジョンになってるって噂があるんだよ」

「ひーん……怖いよ~……」

 いつの間にか俺の腰にしがみついてるシルフィーはがたがたと震えている。
 安心しろ、行く機会あってもおまえは置いてくから←

「その大陸中央には何があるのさ?」

「さあ? それだけ秘密の場所になってるんだから、魔王でも眠ってるんじゃない?」

 チューリップは両手を上げながら言えば、「魔王!」とレオが目を輝かせまくった。

「それじゃ、いずれボクにやっつけられる奴が眠ってるんだな! あはは! 今のうちによーく眠っておくがいいさ!」

「そういうことは一人でモンスターを倒せるようになってから言うんだね」

「調子に乗って痛い目にあっても知らねぇぞ」

 ため息をつくセルシアと呆れ顔の俺に言われても「本気出せば軽い軽いー」などとぬかしやがる。

「まったく心配性だなあ……だからアユミはクラッズ並にちっこい――」

 スパンッ!! バガンッ!!

「…………ああ、すまねぇな。“うっかり”抜刀しちまったな」

「「「……~~~っ」」」

 全員が一斉に黙り、俺の言葉の後に時間が動き出した。レオとバロータとブロッサムは静かに震え出し、セルシアとフリージアとチューリップは唖然となって。シルフィーとブーゲンビリアは再び震え上がっていた。
 ……あ? さっきの効果音? あれはレオの後ろにある扉を、俺が居合によって片方弾き飛ばし、壁に叩きつけて粉砕した音だ。

「レオ? ……次言ったらその首、胴体から離れるからな」

「~っ、~~~っ!!」

「以後、気をつけます! ……だって」

 超の付くドSな笑みを浮かべながら、刀を構える俺。
 そんな俺に恐れたのか、レオがガタガタと震えながらコクコクと頷いている。ちなみに訳したのはチューリップだ。

「よろしい。……さて。モンスターも退治したことだし……テメェら、行くぞ」

「え……」

「え~~~!?」

 負傷者はセルシアやフリージアに任せれば問題無しだろう。
 俺としても魔物退治の方が楽だし。

「うだうだ言うな。行くぞ」

「……はいはい」

「うぇええんっ!」

 ブロッサムは諦め気味に、シルフィーは泣きながら着いていく(シルフィーは俺が引きずってる)。
 うん、俺に逆らえるとは思ってないようだ。よかったよかった←

(鬼だろ、アイツ……)

 ……なんか後ろからバロータの視線が向けられた気がするが――まあいいや。
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