このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

雪原とクエストと妖精

 ……という訳で。
 結局奥まで進み、何とかプリシアナッツの実がある場所まで来た俺たち。
 ……だけど。

「ぐるるる……」

 ……うん。
 すっごいでかぶつがいらっしゃいますヨ?
 口から冷気がバシバシほとばしってますヨ!?

「あはは……これ何? ボス登場? それとも死亡フラグ的な……」

「縁起でもないことを言うんじゃねぇよ!」

 ブロッサムに怒鳴られた。
 しょうがないだろ!? こっちは寒さと疲労で疲れてんだから!

「み、みゅ~……。ど、どうするの……?」

「……クエストの合格はプリシアナッツの実を持ち帰ることだ。じゃなきゃ意味がない」

「……それじゃあ……」

「ああ……」

 俺らのやるべきことは、一つ。

「倒して、手に入れっぞ!」

「や、やっぱり……」

 俺が刀を構えると、ブロッサムも杖を持つ。

「シルフィー。おまえは邪魔にならないとこまで下がってろ」

「え? で、でも二人じゃ……」

「いいから! ブロッサム、行くぞ!」

「わ、わかった!」

 いい淀むシルフィーは無視し、俺はそのまま唸る獣に突っ込んでいった。

「ぐるる……がぁあああ!!」

 獣は鋭い爪を振り上げ、そのまま俺を引き裂こうとする。

「そらよっ!」

 けど甘いな。俺は華麗に受け流し、それどころか逆に斬り込んだ。

「がぁあああ!!?」

 ……結構深くいったみたいだな。
 ボロッと前足が鮮血塗れで折れた。それはもう見事なスプラッタだ。

「うわっ、グロ……」

 折れた前足を見ないよう、ブロッサムが光魔法『シャイン』を放った。
 その隙間を縫って、俺が確実にダメージを与えていく。

「ぐるるる……!!」

「うぉ!?」

 その時だ。
 獣が俺とブロッサムに水の塊を次々落としてきやがった!
 ってか獣のくせに水魔法『アクアガン』なんて使うのかよ!?

「や、やば……っ!」

「ちょ……痛さで乱射か!?」

「こ、これじゃ反撃できないぞ!?」

 止む気配のない攻撃にひたすら避けるしかない俺たち。

「アユミちゃん、ブロッサム……っ」

 シルフィーは木の影から俺らを見てる。
 よかった……獣はこいつに気づいてないようだ。

「気づく前に何とかしないと……」

「あ、あう……っ、……!」

 ドゴン! ドゴーン!

 獣の攻撃が止む気配が一向にない。
 や、やばい……もう疲れが……っ。

「……ぐぁあああ!」

「げっ……うわっ!?」

「いでっ!」

 あ、避けるのに夢中で隣にいたブロッサムと派手にごっつーん、と……。
 ってこれ、や・ば・い!?

「……あれ。なんか、俺らに影が……?」

「気のせいじゃないぞ……これは……」

 言われて恐る恐る上を向く。
 ……あり? なんか水塊が一際でかく……?

「こ、こんなの落とされたら……」

「……終わりだな……勘弁してくれ……」

 二人揃って顔を引き攣らせる。
 どうしよ……疲れのせいか、体が動かない……。

「がぁあああ!!」

「「……っ」」

 あ、終わった……。
 タカチホの皆、先立つ不幸をお許しください――いや、死にたくねぇ!

 ドゴォオオオン!!

「……、……はれ?」

 ボケながら目を閉じてたら、なんか爆音が響きました。
 ……ってか、水塊どころか、獣も丸焦げですが? それはもう上手そうにこんがり丸焼きに。

「みゅ……みゅ……やった、よ~……」

「な……シルフィー?」

 加えてもう一つ。
 木の陰に隠れてたシルフィーが木の側で両手を突き出して立っていた。
 ……これはまさか。

「シルフィーが、やったのか……?」

 ブロッサムが呆然となってつぶやいた。
 ……俺も正直驚きだ。このへたれフェアリーのどこにそんな力が……?

「『イグニス』……うまくいったよ~……♪ …………ぁぅ」

 それだけつぶやくとバタッ、とぶっ倒れた。

「シルフィー!?」

 慌てて起き上がって容態を見る。

「アユミ。シルフィーは……?」

「……うん、気絶してるだけだ」

 ホントは気絶じゃなくて寝てるだけだが。まあ不毛なやり取りは面倒なので黙っておく。

「……とりあえず、プリシアナッツの実を取るか」

「ああ、わかった。俺が取ってくる」

 ブロッサムが翼を広げると、プリシアナッツの実を直接取ってきた。
 ――セレスティアって便利だな、オイ←

「取ってきたぞ」

「サンキュ。じゃ、ブロッサム。帰還札でこのまま帰るか?」

「そうだな……ローズガーデンで少し休んでから帰ろう。……体力がもたない」

「……だよな。んじゃ帰るか」

 シルフィーがいる以上、モンスターでも来られたら厄介だからな。
 帰還札を手にしながら、俺は軽くため息をつくしかなかった。

 ――――

 ……で。プリシアナッツの実を持ち帰り、クエストはクリアはした。
 ……クリアはしたんだ。ただいろいろとごたごたが残っているだけで。

「はぁ!? ブロッサム、なんでそうなってんだよ!?」

「いや、俺に言われても!」

「シルフィーのいたパーティのメンバーがやられたって……」

 ……そう。あのお気楽フェアリー、シルフィーのメンバー(こいつを見捨てたが)。
 実はスノードロップの街寸前でモンスターたちにやられてた。たまたま視察で街に来てた先生方が発見したらしい。

「……シルフィーは知ってるのか?」

「いや……本人はのほほんとしてるし、何より見つけたのは先生たちだからさ……。秘密裏に処理している」

「秘密裏、なあ……?」

「しょうがないだろ。ジャーナリスト学科がうるさいから」

「……わかってるよ」

 話題を求めるジャーナリスト学科のことだ。
 いらんことまであれこれ書くのは失礼だし、何よりシルフィーに知られたら……。

「……あー、それと……先生に言われたことがあるんだが……」

 と、ここでブロッサムが控えめに、かつ言いにくそうに切り出した。
 ……なんか、嫌な予感が……。

「実は……シルフィーなんだが……俺らのパーティに入れてくれと……半強制的に言われた」

「…………。な・ん・だ・と!?」

 やっぱりか! うっすら予想はしてたが! うっすら予想はできたけど!!

「なんでだ!? ってか半強制的って誰が言った!!」

「待て! 答えるから刀をしまえ! ……あー、シルフィー自身も俺らに懐いたし、俺らもこの先もう一人くらいいた方がいいって……校長とセルシアが」

 ……ここで従兄弟の方々が出てくるとは。
 まあ……たしかにシルフィーの能力はすごい。あれだけの魔法の強さがあれば、その辺のモンスターも敵じゃない。
 ……けど、あのヘタレ性格だけは何とかならんのか!?

「……もう決定事項?」

「……ほぼ」

「つーか、なんであっさり頷いたんだよ」

「……あの二人に反論できると思うか?」

「…………」

 ……無理だな←
 セルシアはまだしも、校長は言いくるめることは無理だと思う。
 そもそも、彼らの方が正当な意見を言っているはずだから、俺らの反論は人徳に反する。

「……シルフィーは? この事知ってるのか?」

「……多分。先生が話すって言ってたし……」

「……もう決定じゃないか」

 はたしてあいつは戦力になれるのだろうか……。
 そんなことを考えながら俺はため息をつくしかなかった。
3/3ページ
スキ