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地主の場合

(もう嫌だ…)

目の前で延々と繰り広げられる怒号と罵声の応酬に、少女はいい加減参っていた。

(今日で終わり…今日で終わり…)

呪文のように何度も唱えた。
そう、こんな生活も今日で終わりなのだ。
なんたって今夜には全財産と共に屋敷を抜け出して亡命予定なのだ。
準備に手間取ったがようやく実行に移れる。

ほくそ笑んでいると、どうやら話の流れ…というより矛先…が少女に向いたようだ。

「だから、私は後継ぎにはならないって!」

だがそんな少女の声はその場の声にかき消されて誰の耳にも届かなかった。
本人をよそに如何に自分が後継ぎに相応しいかのマウントを取り合っている。
このやり取りも何度目になるだろう…。

(これなら、僕がわざわざこんなところににいなくても同じじゃないか…)

そう思った少女は「お手洗いにいく」と近くにいた侍女に伝えて部屋をそっと出た。

手洗いを済ませてそのまま自室へ戻る。
この時間で身辺整理の最終確認をしてしまおうと思ったのだ。



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最終確認は案外早く終わってしまった。
あとは本に挟んである置き手紙を机の上に置いてしまえば、荷物を持って屋敷を出るだけである。

しかしまあ…いつまで経っても血の気の多い客人達の話合いとやらは終わる気配がなさそうである。
本当は屋敷中寝静まったところで行こうと思っていたが、今行ったほうが都合が良さそうだ。
声をかけた侍女もこの部屋にいたくないと察してくれていたようだから、心配して探されることはないだろう。

少女は本から置き手紙を取り、机に置くと荷物を持ってそのまま正面玄関から堂々と出ていった。



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