白夜物語
【登場人物】
・カギナ
吸血鬼の女主人。マイペースで周りの意見など気にしない。わがままに見えるが、困っている人に迷わず手を差し伸べる優しさをもつ。
・タマ
猫の獣人。カギナの執事。日々、主人に振り回されている。文句を言うものの、なんだかんだ甘い。
・フローラ
妖精の少女。宵闇祭の星花火役。自分の悪いところばかり考えてしまう。泣き虫。皆の期待を裏切りたくない。
・ファイラ
妖精の少年。フローラの幼馴染で、星花火役。気が強く、あまり素直になれない。ツンデレ。フローラのことを信じている。
【あらすじ】
舞台は白夜の国(びゃくやのくに)。
一年に一度行われる宵闇祭(よいやみまつり)にカギナはタマと共に訪れる。宵闇祭会場の下見を兼ねて観光していると、妖精のフローラとファイラに出会う。二人は"星花火"の練習をしていて…。
第一場〜極夜の国にて〜
カギナの邸宅。薄暗い部屋の中、タマはせっせと掃除している。カギナが思い付いたように話しだす。
カギナ:白夜の国に行こう!
タマ:…はい?
カギナ:白夜の国で宵闇祭という、夜を再現する祭りがあるらしい。気にならないか?
タマ:いえ、全く。
カギナ:な…!つまらん奴め。だが、行くことはもう決まっている。
タマ:お断りします。そもそも、あなたは吸血鬼なんだから行けないでしょ。あそこ太陽の沈まない国ですよ。
カギナ:日傘をさせばいいだろう。
タマ:…まさか、付きっきりで陽の光から守れと…?
カギナ:そうだ!
タマ:嫌です!日傘係としてわざわざ遠い国に行くなんて御免です!
カギナ:これは命令だ。私を白夜の国へ連れて行け。
タマ:…はぁ〜もう、分かりました!昼寝しても怒らないで下さいよ?
カギナ:うむ。良い子だ、タマ。
タマ:はいはい、ありがとーございます。ご主人様。まったく、猫より気まぐれなんだから…。(早速準備を始める。)
カギナ:…ふふ、楽しみだな。
暗転
第二場〜白夜の国にて~
明転。白夜の国の町外れ。暖かな日差しに包まれ、草花が咲き誇る。カギナは帽子と日傘で完全防備。観光を楽しみつつ、白夜の国の様子を見て回っている。
カギナ:私たちの国とは違って、全てが眩しく見えるな。
タマ:そうですね。日差しが暖かくて…ふあぁ…眠くなります。
カギナ:祭りの時間に寝るでないぞ?星花火が見られないからな。
タマ:星花火ってなんです?
カギナ:白夜の国に住む、妖精族の伝統でな。羽の鱗粉を空にまいて星のような、花火のようなきらめきを魅せるのだ。
タマ:へえ、星と花火で夜を再現ってことですか。
カギナ:そうだ。当日は暗幕で会場一帯が覆われる。さぞ、見物だろうな。
タマ:妖精か…。俺は初めて見ます。
カギナ:私もだ。ぜひ会って話をしてみたいものだな…。
フローラ:ここでターンして…おっとと!
よろけたフローラをカギナが抱きとめる。
カギナ:おお、平気か?
フローラ:わわっ!ごめんなさい!
ファイラ:おい、フローラ!何してんだよ。
フローラ:うう、ごめん…。
ファイラ:お客さん、すみません。うちのアホが迷惑かけて…。
カギナ:気にするな。子供は嫌いじゃないからな。
ファイラ:ほら、フローラ。さっさと練習戻るぞ。
フローラ:はーい。
タマ:あれ、その背中の羽って…。
フローラ:羽?ああ、これは妖精の羽だよ。
カギナ:では、君たちは妖精なのかね?
ファイラ:そうですけど。今は星花火の練習中なので話はあとに…。
カギナ:まさかここで会えるとは!君が星花火を生み出す妖精か!白夜の国に来たかいがあった!!聞きたいことは山のようにあるのだが、忙しいのなら仕方ない。あ、星花火楽しみにしているぞ!
フローラ:わ、わわ…!
タマ:カギナ様、妖精さんが困ってます。
カギナ:ああ、すまない。つい興奮してしまった。
フローラ:き、期待されてる…。うわ〜ん、あたしにはできないよ~!
タマ:え?
ファイラ:フローラ!まだそんなこと言ってるのか?今は弱音吐いてる場合じゃないだろ。
フローラ:だって、失敗ばっかりだし…。
ファイラ:一度の失敗で落ち込みすぎなんだよ。
フローラ:うう…。
タマ:練習、大変そうですね。
ファイラ:そうなんだよ。こいつのメンタルよわよわすぎてさ。もうすぐ本番だってのに、どーなることやら。
カギナ:良ければ、話を詳しく聞きたいのだが。あと星花火も少し見せてもら…
タマ:カギナ様!これは彼らの問題です。
カギナ:いいじゃないか、少しくらい。
タマ:ダメです!すみません、邪魔しちゃって。
ファイラ:大丈夫ですよ。ほら、戻るぞ。
フローラ:ちょ、ちょっとファイラ!引っぱらないでよ~っ!
カギナ、二人の後ろ姿を見つめる。
カギナ:……。
タマ:カギナ様?
カギナ:星花火の妖精…フローラとファイラ、か。
タマ:なんでもかんでも首突っ込むのはやめて下さいね?彼らには彼らの事情があるんですから。
カギナ:…分かっている。
暗転
第三場〜すれ違い〜
翌日、フローラとファイラは迫る本番に向けて星花火の演舞をしている。
ファイラ:フローラ、そこ一つ飛ばしてる。
フローラ:あ、またやっちゃった…!あ〜もうダメだ…!
ファイラ:ダメじゃない。フローラならできるって何度も言ってるだろ。
フローラ:でも!全然、完璧じゃないよ…。
ファイラ:お前はすぐネガティブなことを言う!ネガティブ禁止!
フローラ:無理だよ!ムリムリ!本当のことなんだもん。あたしじゃ、皆の期待に応えられないよ…!!
ファイラ:ほら、うじうじしてないで練習!……フローラ!
フローラ:無理〜!おうち帰りたい…!!
ファイラ:もういい!やりたくないならやらなきゃいいだろ!
フローラ:…ファ、ファイラ?
ファイラ:ボクが励ましてやってんのに、うだうだ言って!そんなに嫌なら帰れ!!
フローラ:…わかった。
ファイラ:…フン。
フローラ:ファイラのばかーっ!
フローラ、走って行ってしまう。
ファイラは見向きもせず、うつむく。
ファイラ:…くそ、そうじゃないだろ……。
暗転
明転。フローラたちの練習場所付近。
タマ:またあの子たちのところへ行くんですか?
カギナ:ああ。
タマ:そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。ていうか、覗きに行くのっていいんですか、不審者だと思われません?
フローラがカギナたちとすれ違う。
フローラ:…っ!
タマ:え、今の…妖精さん?どうしたんですかね。
カギナ:タマはファイラの元へ向かってくれ。
カギナ、タマから日傘を奪い、フローラを追いかける。
タマ:えっ!ちょ、ちょっとカギナ様…!!もう、好き勝手するんだから…!
暗転
第四場〜二人だけの話〜
明転。人気のない町の片隅。フローラがうずくまって泣いている。カギナがゆっくりと隣に座る。
カギナ:戻らなくていいのか。
フローラ:ほおっておいて、あたしのことなんて…。
カギナ:放っておけないな。私は君たちに興味津々なのでね。
フローラ:あなたが興味あるのは星花火のほうじゃないの…?
カギナ:もちろん星花火も興味深い。だが、それ以上に妖精の目、耳、羽、飛行能力、人々を魅了する姿…。つまり、君…フローラのことが知りたいのだよ。
フローラ:あなた…えっと。
カギナ:カギナだ。
フローラ:カ、カギナさんって不思議な人だね。
カギナ:まぁな。
フローラ:……あの、聞いてほしい話があるの。
カギナ:なんだね?
フローラ:あたし、ファイラと喧嘩しちゃって…。それで、逃げてきちゃった。
カギナ:……。
フローラ:ファイラに見限られたんだ。あたしが、ダメダメだから…。
カギナ:本当に、君は愚図な妖精なのか?少なくとも、私にはそう見えないが。
フローラ:…上手にやろうって、精一杯頑張ってる、けど…思い通りにはいかなくて…。ファイラは気にするなって言ってくれるけど、失敗したことばっかりぐるぐる考えちゃって…。本番も近づいてきてて、焦って、悩んで、押しつぶされそうで。……こんな自分が、イヤになる。
カギナ:自己嫌悪する必要はない。好きなことでも考えてみたらどうだ?
フローラ:好きなこと…。
カギナ:星花火は、好きか?
フローラ、頷く。
カギナ:ファイラは、好きか?
フローラ:うん…!
カギナ:ならば、君はどうする?
フローラ:……仲直り、する!
カギナ:よし、私も協力しよう。
暗転
明転。ファイラの元にタマが駆け寄る。
タマ:あ、いたいた。おーい、ファイラくん!
ファイラ:あんたは…。
タマ:さっき、お友達が走ってくところ見ましたよ。追いかけなくていいんです?
ファイラ:…いい。あいつが選んだことだから。
タマ:どうしてそうなったんですか。
ファイラ:知らない…。てか、あんたには関係ないし。
タマ:それが…カギナ様が、フローラちゃん追いかけて行っちゃったんですよね…。「ファイラの元へ向かってくれ」ってだけ言われて。
ファイラ:前も思ったけど、なんか…大変そうだな。
タマ:そうなんですよ!俺のご主人、思い付きで動くし、人使い荒いし、目離したらすぐどこか行くし…。本当に自由すぎる!困ったもんですよ。
ファイラ:…はぁ。
タマ:でも、俺のこと信頼してくれてるから、好きなように行動してるんです、あの人は。
ファイラ:信頼?
タマ:そう、俺もそれを分かってるから、守ってあげなくちゃって思うんです。…あ、すみません、どうでもいい話ですよね。はは…。
ファイラ:…フローラは、真面目すぎるから、プレッシャーに弱くて。ボクは、フローラのそういうところ、欠点でもあるけどいいところだと思ってて。だから、ボクなりに自信つけさせようと頑張ったんだ。
タマ:……。
ファイラ:でも、うまく伝わらなくて……。ボクってそんなに頼りない?ボクが足りないところを補うのじゃ、だめなのかなぁ…!
タマ:…だめじゃないと思います。フローラちゃんにその思いを正直に言えば、きっと伝わりますよ。
ファイラ:……。
フローラとその後ろにカギナが現れる。
フローラ:ファ…ファイラ。
ファイラ:!
カギナ:君ならできる、さぁ。
カギナ、フローラの背中を押す。
フローラ:えっと…。さ、さっきはごめん!あたし、不安でいっぱいで…ファイラに迷惑かけちゃった…。でもね、やめたいわけじゃないの!ファイラと星花火できるの、本当はすごく嬉しいんだよ。だから…その…
タマ:ファイラくん、今こそその時ですよ。
ファイラ:…ボ、ボクこそ、あんなこと言ってごめん。ホントは、フローラと一緒に成功させたいんだ。フローラの力が必要なんだ。……ボクと、星花火やろう。
フローラ:…うん、もちろん!
暗転
第五場〜寄り添う星々~
明転。宵闇祭当日。暗幕に覆われた空に、二人の星花火が咲き乱れる。光の煌めきと歓声が一帯を包む。
タマ:たーまやー!
カギナ:なんだその呪文は。
タマ:呪文じゃないですよ。日の出の国の、花火が打ち上がる時の掛け声です。
カギナ:ほう。日の出の国にも花火があるのか。
タマ:はい。火薬を使って夜空に大輪の花を咲かせるそうですよ。
カギナ:それも興味深いが、一番心惹かれるのは…美しき星花火だな。
タマ:そうですね。二人の絆の賜物ですから。
カギナ:……タマ、これからも私を守ってくれ。
タマ:は、はい。…もしかして、ファイラくんとの話聞いてました?
カギナ:さぁ、なんのことやら。
タマ:……お守りしますよ、この先もずっと。
--END--
・カギナ
吸血鬼の女主人。マイペースで周りの意見など気にしない。わがままに見えるが、困っている人に迷わず手を差し伸べる優しさをもつ。
・タマ
猫の獣人。カギナの執事。日々、主人に振り回されている。文句を言うものの、なんだかんだ甘い。
・フローラ
妖精の少女。宵闇祭の星花火役。自分の悪いところばかり考えてしまう。泣き虫。皆の期待を裏切りたくない。
・ファイラ
妖精の少年。フローラの幼馴染で、星花火役。気が強く、あまり素直になれない。ツンデレ。フローラのことを信じている。
【あらすじ】
舞台は白夜の国(びゃくやのくに)。
一年に一度行われる宵闇祭(よいやみまつり)にカギナはタマと共に訪れる。宵闇祭会場の下見を兼ねて観光していると、妖精のフローラとファイラに出会う。二人は"星花火"の練習をしていて…。
第一場〜極夜の国にて〜
カギナの邸宅。薄暗い部屋の中、タマはせっせと掃除している。カギナが思い付いたように話しだす。
カギナ:白夜の国に行こう!
タマ:…はい?
カギナ:白夜の国で宵闇祭という、夜を再現する祭りがあるらしい。気にならないか?
タマ:いえ、全く。
カギナ:な…!つまらん奴め。だが、行くことはもう決まっている。
タマ:お断りします。そもそも、あなたは吸血鬼なんだから行けないでしょ。あそこ太陽の沈まない国ですよ。
カギナ:日傘をさせばいいだろう。
タマ:…まさか、付きっきりで陽の光から守れと…?
カギナ:そうだ!
タマ:嫌です!日傘係としてわざわざ遠い国に行くなんて御免です!
カギナ:これは命令だ。私を白夜の国へ連れて行け。
タマ:…はぁ〜もう、分かりました!昼寝しても怒らないで下さいよ?
カギナ:うむ。良い子だ、タマ。
タマ:はいはい、ありがとーございます。ご主人様。まったく、猫より気まぐれなんだから…。(早速準備を始める。)
カギナ:…ふふ、楽しみだな。
暗転
第二場〜白夜の国にて~
明転。白夜の国の町外れ。暖かな日差しに包まれ、草花が咲き誇る。カギナは帽子と日傘で完全防備。観光を楽しみつつ、白夜の国の様子を見て回っている。
カギナ:私たちの国とは違って、全てが眩しく見えるな。
タマ:そうですね。日差しが暖かくて…ふあぁ…眠くなります。
カギナ:祭りの時間に寝るでないぞ?星花火が見られないからな。
タマ:星花火ってなんです?
カギナ:白夜の国に住む、妖精族の伝統でな。羽の鱗粉を空にまいて星のような、花火のようなきらめきを魅せるのだ。
タマ:へえ、星と花火で夜を再現ってことですか。
カギナ:そうだ。当日は暗幕で会場一帯が覆われる。さぞ、見物だろうな。
タマ:妖精か…。俺は初めて見ます。
カギナ:私もだ。ぜひ会って話をしてみたいものだな…。
フローラ:ここでターンして…おっとと!
よろけたフローラをカギナが抱きとめる。
カギナ:おお、平気か?
フローラ:わわっ!ごめんなさい!
ファイラ:おい、フローラ!何してんだよ。
フローラ:うう、ごめん…。
ファイラ:お客さん、すみません。うちのアホが迷惑かけて…。
カギナ:気にするな。子供は嫌いじゃないからな。
ファイラ:ほら、フローラ。さっさと練習戻るぞ。
フローラ:はーい。
タマ:あれ、その背中の羽って…。
フローラ:羽?ああ、これは妖精の羽だよ。
カギナ:では、君たちは妖精なのかね?
ファイラ:そうですけど。今は星花火の練習中なので話はあとに…。
カギナ:まさかここで会えるとは!君が星花火を生み出す妖精か!白夜の国に来たかいがあった!!聞きたいことは山のようにあるのだが、忙しいのなら仕方ない。あ、星花火楽しみにしているぞ!
フローラ:わ、わわ…!
タマ:カギナ様、妖精さんが困ってます。
カギナ:ああ、すまない。つい興奮してしまった。
フローラ:き、期待されてる…。うわ〜ん、あたしにはできないよ~!
タマ:え?
ファイラ:フローラ!まだそんなこと言ってるのか?今は弱音吐いてる場合じゃないだろ。
フローラ:だって、失敗ばっかりだし…。
ファイラ:一度の失敗で落ち込みすぎなんだよ。
フローラ:うう…。
タマ:練習、大変そうですね。
ファイラ:そうなんだよ。こいつのメンタルよわよわすぎてさ。もうすぐ本番だってのに、どーなることやら。
カギナ:良ければ、話を詳しく聞きたいのだが。あと星花火も少し見せてもら…
タマ:カギナ様!これは彼らの問題です。
カギナ:いいじゃないか、少しくらい。
タマ:ダメです!すみません、邪魔しちゃって。
ファイラ:大丈夫ですよ。ほら、戻るぞ。
フローラ:ちょ、ちょっとファイラ!引っぱらないでよ~っ!
カギナ、二人の後ろ姿を見つめる。
カギナ:……。
タマ:カギナ様?
カギナ:星花火の妖精…フローラとファイラ、か。
タマ:なんでもかんでも首突っ込むのはやめて下さいね?彼らには彼らの事情があるんですから。
カギナ:…分かっている。
暗転
第三場〜すれ違い〜
翌日、フローラとファイラは迫る本番に向けて星花火の演舞をしている。
ファイラ:フローラ、そこ一つ飛ばしてる。
フローラ:あ、またやっちゃった…!あ〜もうダメだ…!
ファイラ:ダメじゃない。フローラならできるって何度も言ってるだろ。
フローラ:でも!全然、完璧じゃないよ…。
ファイラ:お前はすぐネガティブなことを言う!ネガティブ禁止!
フローラ:無理だよ!ムリムリ!本当のことなんだもん。あたしじゃ、皆の期待に応えられないよ…!!
ファイラ:ほら、うじうじしてないで練習!……フローラ!
フローラ:無理〜!おうち帰りたい…!!
ファイラ:もういい!やりたくないならやらなきゃいいだろ!
フローラ:…ファ、ファイラ?
ファイラ:ボクが励ましてやってんのに、うだうだ言って!そんなに嫌なら帰れ!!
フローラ:…わかった。
ファイラ:…フン。
フローラ:ファイラのばかーっ!
フローラ、走って行ってしまう。
ファイラは見向きもせず、うつむく。
ファイラ:…くそ、そうじゃないだろ……。
暗転
明転。フローラたちの練習場所付近。
タマ:またあの子たちのところへ行くんですか?
カギナ:ああ。
タマ:そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。ていうか、覗きに行くのっていいんですか、不審者だと思われません?
フローラがカギナたちとすれ違う。
フローラ:…っ!
タマ:え、今の…妖精さん?どうしたんですかね。
カギナ:タマはファイラの元へ向かってくれ。
カギナ、タマから日傘を奪い、フローラを追いかける。
タマ:えっ!ちょ、ちょっとカギナ様…!!もう、好き勝手するんだから…!
暗転
第四場〜二人だけの話〜
明転。人気のない町の片隅。フローラがうずくまって泣いている。カギナがゆっくりと隣に座る。
カギナ:戻らなくていいのか。
フローラ:ほおっておいて、あたしのことなんて…。
カギナ:放っておけないな。私は君たちに興味津々なのでね。
フローラ:あなたが興味あるのは星花火のほうじゃないの…?
カギナ:もちろん星花火も興味深い。だが、それ以上に妖精の目、耳、羽、飛行能力、人々を魅了する姿…。つまり、君…フローラのことが知りたいのだよ。
フローラ:あなた…えっと。
カギナ:カギナだ。
フローラ:カ、カギナさんって不思議な人だね。
カギナ:まぁな。
フローラ:……あの、聞いてほしい話があるの。
カギナ:なんだね?
フローラ:あたし、ファイラと喧嘩しちゃって…。それで、逃げてきちゃった。
カギナ:……。
フローラ:ファイラに見限られたんだ。あたしが、ダメダメだから…。
カギナ:本当に、君は愚図な妖精なのか?少なくとも、私にはそう見えないが。
フローラ:…上手にやろうって、精一杯頑張ってる、けど…思い通りにはいかなくて…。ファイラは気にするなって言ってくれるけど、失敗したことばっかりぐるぐる考えちゃって…。本番も近づいてきてて、焦って、悩んで、押しつぶされそうで。……こんな自分が、イヤになる。
カギナ:自己嫌悪する必要はない。好きなことでも考えてみたらどうだ?
フローラ:好きなこと…。
カギナ:星花火は、好きか?
フローラ、頷く。
カギナ:ファイラは、好きか?
フローラ:うん…!
カギナ:ならば、君はどうする?
フローラ:……仲直り、する!
カギナ:よし、私も協力しよう。
暗転
明転。ファイラの元にタマが駆け寄る。
タマ:あ、いたいた。おーい、ファイラくん!
ファイラ:あんたは…。
タマ:さっき、お友達が走ってくところ見ましたよ。追いかけなくていいんです?
ファイラ:…いい。あいつが選んだことだから。
タマ:どうしてそうなったんですか。
ファイラ:知らない…。てか、あんたには関係ないし。
タマ:それが…カギナ様が、フローラちゃん追いかけて行っちゃったんですよね…。「ファイラの元へ向かってくれ」ってだけ言われて。
ファイラ:前も思ったけど、なんか…大変そうだな。
タマ:そうなんですよ!俺のご主人、思い付きで動くし、人使い荒いし、目離したらすぐどこか行くし…。本当に自由すぎる!困ったもんですよ。
ファイラ:…はぁ。
タマ:でも、俺のこと信頼してくれてるから、好きなように行動してるんです、あの人は。
ファイラ:信頼?
タマ:そう、俺もそれを分かってるから、守ってあげなくちゃって思うんです。…あ、すみません、どうでもいい話ですよね。はは…。
ファイラ:…フローラは、真面目すぎるから、プレッシャーに弱くて。ボクは、フローラのそういうところ、欠点でもあるけどいいところだと思ってて。だから、ボクなりに自信つけさせようと頑張ったんだ。
タマ:……。
ファイラ:でも、うまく伝わらなくて……。ボクってそんなに頼りない?ボクが足りないところを補うのじゃ、だめなのかなぁ…!
タマ:…だめじゃないと思います。フローラちゃんにその思いを正直に言えば、きっと伝わりますよ。
ファイラ:……。
フローラとその後ろにカギナが現れる。
フローラ:ファ…ファイラ。
ファイラ:!
カギナ:君ならできる、さぁ。
カギナ、フローラの背中を押す。
フローラ:えっと…。さ、さっきはごめん!あたし、不安でいっぱいで…ファイラに迷惑かけちゃった…。でもね、やめたいわけじゃないの!ファイラと星花火できるの、本当はすごく嬉しいんだよ。だから…その…
タマ:ファイラくん、今こそその時ですよ。
ファイラ:…ボ、ボクこそ、あんなこと言ってごめん。ホントは、フローラと一緒に成功させたいんだ。フローラの力が必要なんだ。……ボクと、星花火やろう。
フローラ:…うん、もちろん!
暗転
第五場〜寄り添う星々~
明転。宵闇祭当日。暗幕に覆われた空に、二人の星花火が咲き乱れる。光の煌めきと歓声が一帯を包む。
タマ:たーまやー!
カギナ:なんだその呪文は。
タマ:呪文じゃないですよ。日の出の国の、花火が打ち上がる時の掛け声です。
カギナ:ほう。日の出の国にも花火があるのか。
タマ:はい。火薬を使って夜空に大輪の花を咲かせるそうですよ。
カギナ:それも興味深いが、一番心惹かれるのは…美しき星花火だな。
タマ:そうですね。二人の絆の賜物ですから。
カギナ:……タマ、これからも私を守ってくれ。
タマ:は、はい。…もしかして、ファイラくんとの話聞いてました?
カギナ:さぁ、なんのことやら。
タマ:……お守りしますよ、この先もずっと。
--END--
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