このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

白夜物語

【登場人物】
・カギナ
吸血鬼の女主人。マイペースで周りの意見など気にしない。わがままに見えるが、困っている人に迷わず手を差し伸べる優しさをもつ。

・タマ
猫の獣人。カギナの執事。日々、主人に振り回されている。文句を言うものの、なんだかんだ甘い。

・フローラ
妖精の少女。宵闇祭の星花火役。自分の悪いところばかり考えてしまう。泣き虫。皆の期待を裏切りたくない。

・ファイラ
妖精の少年。フローラの幼馴染で、星花火役。気が強く、あまり素直になれない。ツンデレ。フローラのことを信じている。


【あらすじ】
舞台は白夜の国(びゃくやのくに)。
一年に一度行われる宵闇祭(よいやみまつり)にカギナはタマと共に訪れる。宵闇祭会場の下見を兼ねて観光していると、妖精のフローラとファイラに出会う。二人は"星花火"の練習をしていて…。




第一場〜極夜の国にて〜
カギナの邸宅。薄暗い部屋の中、タマはせっせと掃除している。カギナが思い付いたように話しだす。

カギナ:白夜の国に行こう!

タマ:…はい?

カギナ:白夜の国で宵闇祭という、夜を再現する祭りがあるらしい。気にならないか?

タマ:いえ、全く。

カギナ:な…!つまらん奴め。だが、行くことはもう決まっている。

タマ:お断りします。そもそも、あなたは吸血鬼なんだから行けないでしょ。あそこ太陽の沈まない国ですよ。

カギナ:日傘をさせばいいだろう。

タマ:…まさか、付きっきりで陽の光から守れと…?

カギナ:そうだ!

タマ:嫌です!日傘係としてわざわざ遠い国に行くなんて御免です!

カギナ:これは命令だ。私を白夜の国へ連れて行け。

タマ:…はぁ〜もう、分かりました!昼寝しても怒らないで下さいよ?

カギナ:うむ。良い子だ、タマ。

タマ:はいはい、ありがとーございます。ご主人様。まったく、猫より気まぐれなんだから…。(早速準備を始める。)

カギナ:…ふふ、楽しみだな。

暗転

第二場〜白夜の国にて~
明転。白夜の国の町外れ。暖かな日差しに包まれ、草花が咲き誇る。カギナは帽子と日傘で完全防備。観光を楽しみつつ、白夜の国の様子を見て回っている。

カギナ:私たちの国とは違って、全てが眩しく見えるな。

タマ:そうですね。日差しが暖かくて…ふあぁ…眠くなります。

カギナ:祭りの時間に寝るでないぞ?星花火が見られないからな。

タマ:星花火ってなんです?

カギナ:白夜の国に住む、妖精族の伝統でな。羽の鱗粉を空にまいて星のような、花火のようなきらめきを魅せるのだ。

タマ:へえ、星と花火で夜を再現ってことですか。

カギナ:そうだ。当日は暗幕で会場一帯が覆われる。さぞ、見物だろうな。

タマ:妖精か…。俺は初めて見ます。

カギナ:私もだ。ぜひ会って話をしてみたいものだな…。

フローラ:ここでターンして…おっとと!

よろけたフローラをカギナが抱きとめる。

カギナ:おお、平気か?

フローラ:わわっ!ごめんなさい!

ファイラ:おい、フローラ!何してんだよ。

フローラ:うう、ごめん…。

ファイラ:お客さん、すみません。うちのアホが迷惑かけて…。

カギナ:気にするな。子供は嫌いじゃないからな。

ファイラ:ほら、フローラ。さっさと練習戻るぞ。

フローラ:はーい。

タマ:あれ、その背中の羽って…。

フローラ:羽?ああ、これは妖精の羽だよ。

カギナ:では、君たちは妖精なのかね?

ファイラ:そうですけど。今は星花火の練習中なので話はあとに…。

カギナ:まさかここで会えるとは!君が星花火を生み出す妖精か!白夜の国に来たかいがあった!!聞きたいことは山のようにあるのだが、忙しいのなら仕方ない。あ、星花火楽しみにしているぞ!

フローラ:わ、わわ…!

タマ:カギナ様、妖精さんが困ってます。

カギナ:ああ、すまない。つい興奮してしまった。

フローラ:き、期待されてる…。うわ〜ん、あたしにはできないよ~!

タマ:え?

ファイラ:フローラ!まだそんなこと言ってるのか?今は弱音吐いてる場合じゃないだろ。

フローラ:だって、失敗ばっかりだし…。

ファイラ:一度の失敗で落ち込みすぎなんだよ。

フローラ:うう…。

タマ:練習、大変そうですね。

ファイラ:そうなんだよ。こいつのメンタルよわよわすぎてさ。もうすぐ本番だってのに、どーなることやら。

カギナ:良ければ、話を詳しく聞きたいのだが。あと星花火も少し見せてもら…

タマ:カギナ様!これは彼らの問題です。

カギナ:いいじゃないか、少しくらい。

タマ:ダメです!すみません、邪魔しちゃって。

ファイラ:大丈夫ですよ。ほら、戻るぞ。

フローラ:ちょ、ちょっとファイラ!引っぱらないでよ~っ!

カギナ、二人の後ろ姿を見つめる。

カギナ:……。

タマ:カギナ様?

カギナ:星花火の妖精…フローラとファイラ、か。

タマ:なんでもかんでも首突っ込むのはやめて下さいね?彼らには彼らの事情があるんですから。

カギナ:…分かっている。

暗転

第三場〜すれ違い〜
翌日、フローラとファイラは迫る本番に向けて星花火の演舞をしている。

ファイラ:フローラ、そこ一つ飛ばしてる。

フローラ:あ、またやっちゃった…!あ〜もうダメだ…!

ファイラ:ダメじゃない。フローラならできるって何度も言ってるだろ。

フローラ:でも!全然、完璧じゃないよ…。

ファイラ:お前はすぐネガティブなことを言う!ネガティブ禁止!

フローラ:無理だよ!ムリムリ!本当のことなんだもん。あたしじゃ、皆の期待に応えられないよ…!!

ファイラ:ほら、うじうじしてないで練習!……フローラ!

フローラ:無理〜!おうち帰りたい…!!

ファイラ:もういい!やりたくないならやらなきゃいいだろ!

フローラ:…ファ、ファイラ?

ファイラ:ボクが励ましてやってんのに、うだうだ言って!そんなに嫌なら帰れ!!

フローラ:…わかった。

ファイラ:…フン。

フローラ:ファイラのばかーっ!

フローラ、走って行ってしまう。
ファイラは見向きもせず、うつむく。

ファイラ:…くそ、そうじゃないだろ……。

暗転

明転。フローラたちの練習場所付近。

タマ:またあの子たちのところへ行くんですか?

カギナ:ああ。

タマ:そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。ていうか、覗きに行くのっていいんですか、不審者だと思われません?

フローラがカギナたちとすれ違う。

フローラ:…っ!

タマ:え、今の…妖精さん?どうしたんですかね。

カギナ:タマはファイラの元へ向かってくれ。

カギナ、タマから日傘を奪い、フローラを追いかける。

タマ:えっ!ちょ、ちょっとカギナ様…!!もう、好き勝手するんだから…!

暗転

第四場〜二人だけの話〜
明転。人気のない町の片隅。フローラがうずくまって泣いている。カギナがゆっくりと隣に座る。

カギナ:戻らなくていいのか。

フローラ:ほおっておいて、あたしのことなんて…。

カギナ:放っておけないな。私は君たちに興味津々なのでね。

フローラ:あなたが興味あるのは星花火のほうじゃないの…?

カギナ:もちろん星花火も興味深い。だが、それ以上に妖精の目、耳、羽、飛行能力、人々を魅了する姿…。つまり、君…フローラのことが知りたいのだよ。

フローラ:あなた…えっと。

カギナ:カギナだ。

フローラ:カ、カギナさんって不思議な人だね。

カギナ:まぁな。

フローラ:……あの、聞いてほしい話があるの。

カギナ:なんだね?

フローラ:あたし、ファイラと喧嘩しちゃって…。それで、逃げてきちゃった。

カギナ:……。

フローラ:ファイラに見限られたんだ。あたしが、ダメダメだから…。

カギナ:本当に、君は愚図な妖精なのか?少なくとも、私にはそう見えないが。

フローラ:…上手にやろうって、精一杯頑張ってる、けど…思い通りにはいかなくて…。ファイラは気にするなって言ってくれるけど、失敗したことばっかりぐるぐる考えちゃって…。本番も近づいてきてて、焦って、悩んで、押しつぶされそうで。……こんな自分が、イヤになる。

カギナ:自己嫌悪する必要はない。好きなことでも考えてみたらどうだ?

フローラ:好きなこと…。

カギナ:星花火は、好きか?

フローラ、頷く。

カギナ:ファイラは、好きか?

フローラ:うん…!

カギナ:ならば、君はどうする?

フローラ:……仲直り、する!

カギナ:よし、私も協力しよう。

暗転

明転。ファイラの元にタマが駆け寄る。

タマ:あ、いたいた。おーい、ファイラくん!

ファイラ:あんたは…。

タマ:さっき、お友達が走ってくところ見ましたよ。追いかけなくていいんです?

ファイラ:…いい。あいつが選んだことだから。

タマ:どうしてそうなったんですか。

ファイラ:知らない…。てか、あんたには関係ないし。

タマ:それが…カギナ様が、フローラちゃん追いかけて行っちゃったんですよね…。「ファイラの元へ向かってくれ」ってだけ言われて。

ファイラ:前も思ったけど、なんか…大変そうだな。

タマ:そうなんですよ!俺のご主人、思い付きで動くし、人使い荒いし、目離したらすぐどこか行くし…。本当に自由すぎる!困ったもんですよ。

ファイラ:…はぁ。

タマ:でも、俺のこと信頼してくれてるから、好きなように行動してるんです、あの人は。

ファイラ:信頼?

タマ:そう、俺もそれを分かってるから、守ってあげなくちゃって思うんです。…あ、すみません、どうでもいい話ですよね。はは…。

ファイラ:…フローラは、真面目すぎるから、プレッシャーに弱くて。ボクは、フローラのそういうところ、欠点でもあるけどいいところだと思ってて。だから、ボクなりに自信つけさせようと頑張ったんだ。

タマ:……。

ファイラ:でも、うまく伝わらなくて……。ボクってそんなに頼りない?ボクが足りないところを補うのじゃ、だめなのかなぁ…!

タマ:…だめじゃないと思います。フローラちゃんにその思いを正直に言えば、きっと伝わりますよ。

ファイラ:……。

フローラとその後ろにカギナが現れる。

フローラ:ファ…ファイラ。

ファイラ:!

カギナ:君ならできる、さぁ。

カギナ、フローラの背中を押す。

フローラ:えっと…。さ、さっきはごめん!あたし、不安でいっぱいで…ファイラに迷惑かけちゃった…。でもね、やめたいわけじゃないの!ファイラと星花火できるの、本当はすごく嬉しいんだよ。だから…その…

タマ:ファイラくん、今こそその時ですよ。

ファイラ:…ボ、ボクこそ、あんなこと言ってごめん。ホントは、フローラと一緒に成功させたいんだ。フローラの力が必要なんだ。……ボクと、星花火やろう。

フローラ:…うん、もちろん!

暗転

第五場〜寄り添う星々~
明転。宵闇祭当日。暗幕に覆われた空に、二人の星花火が咲き乱れる。光の煌めきと歓声が一帯を包む。

タマ:たーまやー!

カギナ:なんだその呪文は。

タマ:呪文じゃないですよ。日の出の国の、花火が打ち上がる時の掛け声です。

カギナ:ほう。日の出の国にも花火があるのか。

タマ:はい。火薬を使って夜空に大輪の花を咲かせるそうですよ。

カギナ:それも興味深いが、一番心惹かれるのは…美しき星花火だな。

タマ:そうですね。二人の絆の賜物ですから。

カギナ:……タマ、これからも私を守ってくれ。

タマ:は、はい。…もしかして、ファイラくんとの話聞いてました?

カギナ:さぁ、なんのことやら。

タマ:……お守りしますよ、この先もずっと。

--END--


1/1ページ
    スキ