マイナスからのキスを君に
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「なんでなの~……」
盛大な溜息と共に疑問の声が上がり、その声は情けなく青空に吸い込まれていった。空には雲一つないのに、私の心はどんよりと曇り空。
私は一人、誰もいない屋上で手摺にもたれかかっており、さらに眉間に皺を寄せては眉をハの字にしていた。今は昼休みなため、お弁当を食べるつもりでいたが、先程嫌なことがあり、こうして一人で嘆いているのだ。持ってきたお弁当も横に置いたままで、食欲が湧かない。
何がそうさせるのかと言えば、好きな人にフラれたせい。お昼休みに屋上に呼び出し、好きだと告白したものの、引きつった顔で断られた。その時の言葉が忘れもしない、「俺よりデカい子は……」と言われたのだ。
わかってた。話すとき私の方が目線を下げていたことなんてわかりきっていた。だって私デカいんだもん。
背の順で並べば一番後ろになるのは当たり前で、クラスメイトの男子を見下ろすことなんて日常茶飯事。見上げることの方が少ない。周囲の男子は170以上になることが目標であるのに、私は既にその目標を超えてしまっている。それでも一応私も思春期真っ只中の女子なわけで、好きな人が出来た。普段から仲良くしていて、もしかしたら、と期待した私がバカだった。身長関係ないと思わせるほど思いを寄せていたのは私だけだった。向こうは私を恋愛対象としてなんてカウントしてなかったんだ。せめてもの救いは同じクラスではなかったことぐらい。
「はあ~……」
再び溜息を吐き、天を仰ぐ。ずるずると腰を落とし、コンクリートにお尻をつけた。
午後の授業サボっちゃいたい。
鼻をすすった瞬間、人影が私を覆う。
「なーにやってんだ?」
突然現れた人物に瞬きを繰り返す。そして、やっと現実と脳が一致したところで私は声を張り上げた。
「ま、丸井君!?」
自分しかいないと思っていたために、驚きすぎて心臓が痛い。思わず胸に手を当てて擦った。パチパチと瞬きの止まらない私を放って丸井君は私の隣に、よっこらせ、と腰を下ろす。
「さっきから溜息ばっか吐いてってからさ」
突然現れた彼、丸井君はクラスメイトの一人。明るくて爽やかで男女問わず人気が高いのだが、そんな人がどうしてここに?疑問は浮かぶが、口に出ない。
私の身体は動かぬまま、ただ丸井君を見つめるだけしかできない。すると、丸井君は私をすり抜け、奥に置かれていたお弁当を見つけていた。
「それ、食わねえのかよぃ?」
丸井君が指差す先には大人しく鎮座したままのお弁当。すっかり存在を忘れていた私は、ああ、と他人事のように拾い上げ、膝に置いた。
「なんか、食欲無くて」
そう言うと、丸井君はじっとお弁当を見つめた。そんな姿を見て、一瞬考えたのちに、
「……食べる?」
と尋ねると、ぱっと顔を上げ、食う!と声を上げた。あまりの勢いの良さに圧倒されたが、それもすぐに笑いへと変わってしまった。けらけらと笑いながら手渡すと丸井君は、あ、と声を漏らし、一度だけお弁当を軽く上げた。
「これもらう代わりに俺が悩み聞くってのはどうよ」
にこやかに言ってのける彼に対し、私は、でも、と戸惑う。フラれたから傷心中です、なんてクラスの人気者に言えるわけがない。
「いいから、いいから。誰にも言いふらしたりしねえし」
そうは言いつつも、丸井君はお弁当に夢中だ。早速蓋を開けると目を輝かせている。
「うおっ!うっまそ~」
いただきます、と両手を合わせ、卵焼きを口に運ぶ。
「うっま!」
美味しそうに次々おかずを口に運んでいる彼をじっと眺めていたが、それに気づいた彼は口の中のものを飲み込むと、話を元に戻した。
「で、それで?」
忘れてなかったか、と口を一文字に結び、目を泳がした。そして、えっと、と言い淀む私に対し、彼は気にせず購買で買ってきたであろう苺ミルクを飲む。
「まあ、無理に聞き出すつもりはねえけどさ」
そう言うと、再びお弁当に意識を戻す。
友達には片思いしてたことを一言も伝えていなかったし、むしろ全然知らない相手に聞いてもらった方がいいのかな。ずっともやもやしたままっていうのも悲しいな。本当に、黙っててくれるかな。
一抹の不安を覚えつつ、
「丸井君にとってはしょうもないことだよ?」
と前置きするも、簡単に一蹴されてしまう。
「そんなもん、人によって違うに決まってんだから気にすんなって」
彼の言葉に目を見開いた。人気の訳はこういうところなのか、とやっと理解できた気がした。
私は心を決め、あのね、と切り出し全てを伝えた。片思いしてた相手がいたこと。その相手に綺麗にフラれたこと。特にその理由に傷ついているということも。
途中涙ぐみつつも全てを伝え終えると、うんうん、と頷く丸井君。気づいた時には彼の目の前に空のお弁当箱が広がっていた。
「やっぱ、嫌だよね。男子からしたら自分より大きい女なんて」
床のコンクリートにぽつりぽつりと濃淡を作る。
こんなつもりではなかった。でもかなり深い傷を負ってたんだとようやく理解した。
「そんなことねえと思うけど。人の好みだろぃ」
先程とは打って変わって真剣な表情で答える丸井君。こうして一対一で話すの初めてなのに優しい人だなあ、なんてお気楽に考えていた。
「でも普通考えたら嫌じゃない?丸井君だって自分より背の高い女とは付き合えないでしょ?」
少し突っぱねたように返答すると、彼はんん、としばらく黙った後、驚きの言葉を口にする。
「じゃあ、俺と付き合う?」
真面目な顔をしているが、言葉と表情が合っていないように思う。
「ふざけてるの?」
「マジ。真面目に言ってる」
夢でも見てるんだろうか。どうしてそんな答えになっちゃうんだろう。
全く丸井君の言葉が飲み込めず、身動きが取れない。ただ丸井君と真っ直ぐ見つめ合うことしかできない。
「俺、本気なんだけど」
顔を近づけられ、身体がびくりと反応する。丸くて大きい瞳が私を捉えて離さない。
「試しでいいから。お試し」
念押ししてくるけれど、そんな容易に首を縦に触れるわけもなく。だって、フラれたばっかりだし、もしかしたら今からかわれてるのかもしれないし!
しばらくの間、ドキドキと胸を高鳴らせたまま黙っていると、痺れを切らしたのか彼が先に口を開いた。
「俺の方が背低いから、ダメ?」
「そ、そういうわけじゃ……!」
ない。決してそうじゃない。だって好きだった人は私より背が低かったんだもん。確かにその人より丸井君の方がさらに低いけど。
私が完全に否定する前に彼はにかっと眩しく笑えば、
「じゃあ決まりな!」
と言って立ち上がった。そして手早くお弁当を片すと、そのまま屋上を去ろうとする。
「ちょ、ちょっと待って!お弁当箱!」
お弁当箱を返してもらおうと声をかけるも、丸井君は自分のものかのように見せつける。
「俺が作って返すから、また明日屋上でな」
約束だぜい!と言うと、私を屋上に残していった。
あれは本気、なの?というより、私はどんな顔して教室に戻ればいいの!?
「さようなら……私の皆勤賞……」
私の嘆きは誰にも聞かれることなく、風に攫われていった。
***
「よお、ブンちゃん。機嫌がええのう」
教室に戻った後、ニタニタと意味ありげな笑みで近づいてくるのは仁王。
「まあな」
仁王に負けず劣らず緩み切った顔の俺は机にだらりと抱き着く。すると、ゆっくり俺の前の席に腰を下ろし、的確に俺の胸中を当ててきた。
「あの子とお近づきにでもなれたんか?」
浮かれ切っていた俺は、へっへ、と笑い、口にガムを放り込む。そんな姿を見ていた仁王はチャイムをBGMにこう言ってのけた。
「おまん、顔まで締まらんようになっとるよ」
「誰がデブだ!」
盛大な溜息と共に疑問の声が上がり、その声は情けなく青空に吸い込まれていった。空には雲一つないのに、私の心はどんよりと曇り空。
私は一人、誰もいない屋上で手摺にもたれかかっており、さらに眉間に皺を寄せては眉をハの字にしていた。今は昼休みなため、お弁当を食べるつもりでいたが、先程嫌なことがあり、こうして一人で嘆いているのだ。持ってきたお弁当も横に置いたままで、食欲が湧かない。
何がそうさせるのかと言えば、好きな人にフラれたせい。お昼休みに屋上に呼び出し、好きだと告白したものの、引きつった顔で断られた。その時の言葉が忘れもしない、「俺よりデカい子は……」と言われたのだ。
わかってた。話すとき私の方が目線を下げていたことなんてわかりきっていた。だって私デカいんだもん。
背の順で並べば一番後ろになるのは当たり前で、クラスメイトの男子を見下ろすことなんて日常茶飯事。見上げることの方が少ない。周囲の男子は170以上になることが目標であるのに、私は既にその目標を超えてしまっている。それでも一応私も思春期真っ只中の女子なわけで、好きな人が出来た。普段から仲良くしていて、もしかしたら、と期待した私がバカだった。身長関係ないと思わせるほど思いを寄せていたのは私だけだった。向こうは私を恋愛対象としてなんてカウントしてなかったんだ。せめてもの救いは同じクラスではなかったことぐらい。
「はあ~……」
再び溜息を吐き、天を仰ぐ。ずるずると腰を落とし、コンクリートにお尻をつけた。
午後の授業サボっちゃいたい。
鼻をすすった瞬間、人影が私を覆う。
「なーにやってんだ?」
突然現れた人物に瞬きを繰り返す。そして、やっと現実と脳が一致したところで私は声を張り上げた。
「ま、丸井君!?」
自分しかいないと思っていたために、驚きすぎて心臓が痛い。思わず胸に手を当てて擦った。パチパチと瞬きの止まらない私を放って丸井君は私の隣に、よっこらせ、と腰を下ろす。
「さっきから溜息ばっか吐いてってからさ」
突然現れた彼、丸井君はクラスメイトの一人。明るくて爽やかで男女問わず人気が高いのだが、そんな人がどうしてここに?疑問は浮かぶが、口に出ない。
私の身体は動かぬまま、ただ丸井君を見つめるだけしかできない。すると、丸井君は私をすり抜け、奥に置かれていたお弁当を見つけていた。
「それ、食わねえのかよぃ?」
丸井君が指差す先には大人しく鎮座したままのお弁当。すっかり存在を忘れていた私は、ああ、と他人事のように拾い上げ、膝に置いた。
「なんか、食欲無くて」
そう言うと、丸井君はじっとお弁当を見つめた。そんな姿を見て、一瞬考えたのちに、
「……食べる?」
と尋ねると、ぱっと顔を上げ、食う!と声を上げた。あまりの勢いの良さに圧倒されたが、それもすぐに笑いへと変わってしまった。けらけらと笑いながら手渡すと丸井君は、あ、と声を漏らし、一度だけお弁当を軽く上げた。
「これもらう代わりに俺が悩み聞くってのはどうよ」
にこやかに言ってのける彼に対し、私は、でも、と戸惑う。フラれたから傷心中です、なんてクラスの人気者に言えるわけがない。
「いいから、いいから。誰にも言いふらしたりしねえし」
そうは言いつつも、丸井君はお弁当に夢中だ。早速蓋を開けると目を輝かせている。
「うおっ!うっまそ~」
いただきます、と両手を合わせ、卵焼きを口に運ぶ。
「うっま!」
美味しそうに次々おかずを口に運んでいる彼をじっと眺めていたが、それに気づいた彼は口の中のものを飲み込むと、話を元に戻した。
「で、それで?」
忘れてなかったか、と口を一文字に結び、目を泳がした。そして、えっと、と言い淀む私に対し、彼は気にせず購買で買ってきたであろう苺ミルクを飲む。
「まあ、無理に聞き出すつもりはねえけどさ」
そう言うと、再びお弁当に意識を戻す。
友達には片思いしてたことを一言も伝えていなかったし、むしろ全然知らない相手に聞いてもらった方がいいのかな。ずっともやもやしたままっていうのも悲しいな。本当に、黙っててくれるかな。
一抹の不安を覚えつつ、
「丸井君にとってはしょうもないことだよ?」
と前置きするも、簡単に一蹴されてしまう。
「そんなもん、人によって違うに決まってんだから気にすんなって」
彼の言葉に目を見開いた。人気の訳はこういうところなのか、とやっと理解できた気がした。
私は心を決め、あのね、と切り出し全てを伝えた。片思いしてた相手がいたこと。その相手に綺麗にフラれたこと。特にその理由に傷ついているということも。
途中涙ぐみつつも全てを伝え終えると、うんうん、と頷く丸井君。気づいた時には彼の目の前に空のお弁当箱が広がっていた。
「やっぱ、嫌だよね。男子からしたら自分より大きい女なんて」
床のコンクリートにぽつりぽつりと濃淡を作る。
こんなつもりではなかった。でもかなり深い傷を負ってたんだとようやく理解した。
「そんなことねえと思うけど。人の好みだろぃ」
先程とは打って変わって真剣な表情で答える丸井君。こうして一対一で話すの初めてなのに優しい人だなあ、なんてお気楽に考えていた。
「でも普通考えたら嫌じゃない?丸井君だって自分より背の高い女とは付き合えないでしょ?」
少し突っぱねたように返答すると、彼はんん、としばらく黙った後、驚きの言葉を口にする。
「じゃあ、俺と付き合う?」
真面目な顔をしているが、言葉と表情が合っていないように思う。
「ふざけてるの?」
「マジ。真面目に言ってる」
夢でも見てるんだろうか。どうしてそんな答えになっちゃうんだろう。
全く丸井君の言葉が飲み込めず、身動きが取れない。ただ丸井君と真っ直ぐ見つめ合うことしかできない。
「俺、本気なんだけど」
顔を近づけられ、身体がびくりと反応する。丸くて大きい瞳が私を捉えて離さない。
「試しでいいから。お試し」
念押ししてくるけれど、そんな容易に首を縦に触れるわけもなく。だって、フラれたばっかりだし、もしかしたら今からかわれてるのかもしれないし!
しばらくの間、ドキドキと胸を高鳴らせたまま黙っていると、痺れを切らしたのか彼が先に口を開いた。
「俺の方が背低いから、ダメ?」
「そ、そういうわけじゃ……!」
ない。決してそうじゃない。だって好きだった人は私より背が低かったんだもん。確かにその人より丸井君の方がさらに低いけど。
私が完全に否定する前に彼はにかっと眩しく笑えば、
「じゃあ決まりな!」
と言って立ち上がった。そして手早くお弁当を片すと、そのまま屋上を去ろうとする。
「ちょ、ちょっと待って!お弁当箱!」
お弁当箱を返してもらおうと声をかけるも、丸井君は自分のものかのように見せつける。
「俺が作って返すから、また明日屋上でな」
約束だぜい!と言うと、私を屋上に残していった。
あれは本気、なの?というより、私はどんな顔して教室に戻ればいいの!?
「さようなら……私の皆勤賞……」
私の嘆きは誰にも聞かれることなく、風に攫われていった。
***
「よお、ブンちゃん。機嫌がええのう」
教室に戻った後、ニタニタと意味ありげな笑みで近づいてくるのは仁王。
「まあな」
仁王に負けず劣らず緩み切った顔の俺は机にだらりと抱き着く。すると、ゆっくり俺の前の席に腰を下ろし、的確に俺の胸中を当ててきた。
「あの子とお近づきにでもなれたんか?」
浮かれ切っていた俺は、へっへ、と笑い、口にガムを放り込む。そんな姿を見ていた仁王はチャイムをBGMにこう言ってのけた。
「おまん、顔まで締まらんようになっとるよ」
「誰がデブだ!」
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