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「ふあ……」
朝っぱらから口を大きく開けて欠伸をする。一限を目前に控えた状態なのに、今にも目が閉じてしまいそうになる。
どうしてこんなに睡魔に襲われているのかというと、昨日の告白が関わっていた。家へ帰ってからも考えることは仁王君のことばかりで、誰に言うでもなく一人で抱え込んだままだった。嫌悪感を示していたのに告白した挙句、了承されたなんて友達に口が裂けても言えない。
仁王君も仁王君だ。同じクラスだけれど話したことなんて記憶の中にはない。付き合うにも仁王君のことは全く知らないし、想像がつかなくて漠然とした不安に襲われる。
昨日のことは本当?と仁王君本人に問い質したかったけれど、私が突然仁王君に話しかければ友人達に不思議がられるか、告白するのか、なんて聞かれそうだから二の足を踏んでしまう。
それにしても、私はどうして彼に告白してしまったのだろう。絶対フラれる自信があったからとして言いようがなくて、今までフラれてきた本気の女の子達に顔向けできない。自分に自信があるわけでもないし、ただ友人達と話を合わせるぐらいにしか思ってなかったはず。まあ、後付けだけれど。
悶々としていると、先生が入ってきた。一限目は数学だったか。
号令に合わせ、私は重たい体を携え、ゆらりと立ち上がった。丸くなった背中をより曲げてから席についた。その際にちらりと仁王君の方を見たが、気怠そうに欠伸をしていた。彼も彼で背中が丸い。あれはいつも通りか、と私は黒板に向き直った。
告白してから数日、仁王君と話すことない日が続いたとある日の放課後。私は執行部の集まりに参加していたのだが、それも早々に終了した。行事で使う道具やら歴代の先輩達が置いていった無駄な物が乱雑に置かれている生徒会室に残ったのは、副会長の私と書記の柳蓮二。大きな机を目の前に、パイプ椅子を並べて座る私達。一、二年のときに同じクラスだったことと、執行部で顔を会わせていたことで私と蓮二は友人関係にあった。今は久しぶりの二人きりの状況。
他の執行役員は既に帰宅したり、部活に行ったりとそれぞれであるが、私は何をするでもなく生徒会室で暇を持て余していた。惰性で続けているソシャゲさえも開くことを躊躇われ、頭の中は仁王君のことだけ。そういえば、蓮二と仁王君は同じテニス部だったよね。そんなことをぼんやり考えながら隣で作業を続ける蓮二に目をやった。作業内容が気になった私は彼に内容を問う。
「蓮二、何やってんの」
パイプ椅子を寄せて彼の手元を覗き込みながら尋ねると、彼は手を止めることなく会話を続けた。
「英語の資料作りだ。後輩に英語が苦手な奴がいてな」
「あー、あかやくん……だっけ」
「正解だ」
蓮二がよく口にする後輩の名を口にすれば、少しだけ口角を上げた。
随分と可愛がっているんだなあと羨望の眼差しを向ける。私は美術部に所属しているが、テニス部のような先輩後輩関係はない。活動日も少なく、ほとんど自由。いても幽霊部員の多い部活では張り合いもない。
時たま耳にする蓮二を始めとしたテニス部の活躍には頭が下がる。いつ勉強しているのか不思議に思う。
「中間近いし、大変だね」
「一人でどうにかしてくれると助かるんだが」
眉を八の字にしているが、口元は笑っていた。あかやくん、可愛いんだろうな。
私も勉強しなくちゃなあ、と零すと、蓮二はそれはそうと、と話の舵を切る。
「何か悩みがあるんじゃないのか」
突然言い当てられ言葉を失う。思わず目線が彼の手元から顔へと移った。
「用もないのに生徒会室に残らないだろう」
さらりと言ってのける彼に胸がチクリと痛む。
「……よくわかったね。誰にも気づかれなかったのに」
ここ数日、誰にも言われることなく隠し切れていると思っていたが、彼には隠し事は無駄なようだ。
へらりと笑えば、彼は当たり前だというように笑った。
「自負があるからな。お前の友人であると」
「嬉しいこと言ってくれんじゃん」
直接的な言葉に体がこそばゆい。私は照れ隠しに両腕を天井へと伸ばした。
すると、蓮二は資料作成が終わったのか、持ち出したプリント類を仕舞い始める。
「今抱えている悩みは、口にしたくないんだろう」
「本当よくわかるね」
「確率は九十%だがな」
「たっか」
蓮二から見たら、私はわかりやすいのかな。嘘だってすぐ見抜くんだろうな。
そう思うと、少しだけ鼻の奥が痛んだ。
蓮二はまとめた荷物を背負うと、立ち上がった。
「じゃ、戸締りしとくね」
机の上にあった鍵を手に取り、チャリと音を立てて見せた。
「ああ。あまり遅くなるんじゃないぞ」
「お父さん?」
「お前を育てた覚えはないな」
別れの挨拶を交わして蓮二は生徒会室を出ようとしたが、ぴたりと動きが止まった。それを不思議に思い声をかけると、彼は私に向かってこう言った。
「お前に客人だ」
「え」
誰だと脳内会議を開く前にその人は生徒会室へと入ってくる。蓮二とは対照的な丸い背中の人物。
「さっきぶりじゃの」
仁王雅治。先程まで同じ教室にいた彼。ぽかんと口を開けていると、仁王君と蓮二で話を進め始める。
「名前ちゃんのこと借りてもええんかのう」
「ああ。好きにしたらいい」
「はっ!?」
好きにしたらいいとは?もしかして蓮二って知ってる?
動揺して立ち上がった私を他所に、蓮二はそのまま出て行ってしまう。仁王君も気に素振り一つせず、私の隣に腰を下ろした。先程まで蓮二が座っていた席だ。私は観念したように静かに座り直した。
生徒会室には二人っきり。突然始まる二人きりに何とも気まずい沈黙が流れる。
「……仁王君、部活は?」
「あるぜよ」
「そりゃ蓮二今行ったもんね。仁王君も行かないとダメなんじゃない?」
「お前さんとの話が終わってからじゃのう」
ギシ、とパイプ椅子を軋ませて私を見つめる。彼は背もたれに体を最大限預けている。
話というのは確実に私の告白のことだろう。どんなバカだって、これくらいのことはわかる。付き合うと言った手前、仁王君はどうするんだろう。
やっぱりあの話はなかったことにとか、告白した理由とか聞かれるんだろうか。こういうときばかり無駄に頭が働くのは人間の嫌なところだ。
何を言われるのかと、びくびく怯えていると、彼は柔らかく頬を緩めた。
「そんな怯えた顔せんでも、取って食ったりせんよ」
クス、と目を細める仁王君の何と様になることやら。これはモテるのも頷ける。
ぐ、とか、あ、とか戸惑っていると、仁王君は更にクツクツと笑った。それが恥ずかしくて委縮すると、彼は私に顔を近づけてこう言った。
「お前さんに約束してほしいことがあってのう」
「約束?」
首を傾げると、彼は私と自身を交互に指差した。
「俺と付き合う上での約束」
現実だ。私本当に仁王君の彼女だった。
夢じゃなかったんだと頭を抱えそうになっていると、彼は確認作業を始めた。
「誰かに言うたんか。俺と付き合うって」
「言ってない。誰にも」
「柳にもか?」
こくりと一度頷くと、ほう、と意外そうな顔をした。
ということは、仁王君も蓮二には言ってないってことだよね。でもあの蓮二のことだ。すぐに疑義の念を抱くに違いない。次会ったときに何か言われそうで今から恐怖に襲われる。
「ほいじゃあ、約束は一つだけ」
彼は人差し指を上へ向けた。何を言われるのかと口を一文字に結び、彼を見つめて身構える。
「月曜は一緒に帰る」
「へ?」
月曜は一緒に帰る?私の身体は固まってしまった。
たったそれだけなのかと呆気にとられ、またもや言葉を失う。
「月曜だけ一緒に帰る。待ち合わせは裏門。どうじゃ」
「……それだけ?」
「不満か?」
「い、いや、全然」
全然っていうのもおかしいか、と言ってから気付いた。自分が思っているより冷静でいられないようだ。
それにしても月曜一緒に帰ることだけが約束?それ以外は何もないってこと?
「俺からの話は終わりじゃ」
「え、ああ……うん、」
私が納得した様を確認すると、仁王君はそのまま生徒会室を後にした。
未だに実感できない現実に、ふわふわと体が浮いているような感覚。本当に付き合うんだ、私と仁王君。
でも、あの仁王君が私の嘘に気付いてないわけないよね。もしかして、本当に気付いてない?気付いてないとわざわざ来ない、よね?
明確にならない事実がじわじわと恐怖として襲ってくる。言うなら早く言わないといけないのに。詐欺師と呼ばれる彼を騙すだなんて。
朝っぱらから口を大きく開けて欠伸をする。一限を目前に控えた状態なのに、今にも目が閉じてしまいそうになる。
どうしてこんなに睡魔に襲われているのかというと、昨日の告白が関わっていた。家へ帰ってからも考えることは仁王君のことばかりで、誰に言うでもなく一人で抱え込んだままだった。嫌悪感を示していたのに告白した挙句、了承されたなんて友達に口が裂けても言えない。
仁王君も仁王君だ。同じクラスだけれど話したことなんて記憶の中にはない。付き合うにも仁王君のことは全く知らないし、想像がつかなくて漠然とした不安に襲われる。
昨日のことは本当?と仁王君本人に問い質したかったけれど、私が突然仁王君に話しかければ友人達に不思議がられるか、告白するのか、なんて聞かれそうだから二の足を踏んでしまう。
それにしても、私はどうして彼に告白してしまったのだろう。絶対フラれる自信があったからとして言いようがなくて、今までフラれてきた本気の女の子達に顔向けできない。自分に自信があるわけでもないし、ただ友人達と話を合わせるぐらいにしか思ってなかったはず。まあ、後付けだけれど。
悶々としていると、先生が入ってきた。一限目は数学だったか。
号令に合わせ、私は重たい体を携え、ゆらりと立ち上がった。丸くなった背中をより曲げてから席についた。その際にちらりと仁王君の方を見たが、気怠そうに欠伸をしていた。彼も彼で背中が丸い。あれはいつも通りか、と私は黒板に向き直った。
告白してから数日、仁王君と話すことない日が続いたとある日の放課後。私は執行部の集まりに参加していたのだが、それも早々に終了した。行事で使う道具やら歴代の先輩達が置いていった無駄な物が乱雑に置かれている生徒会室に残ったのは、副会長の私と書記の柳蓮二。大きな机を目の前に、パイプ椅子を並べて座る私達。一、二年のときに同じクラスだったことと、執行部で顔を会わせていたことで私と蓮二は友人関係にあった。今は久しぶりの二人きりの状況。
他の執行役員は既に帰宅したり、部活に行ったりとそれぞれであるが、私は何をするでもなく生徒会室で暇を持て余していた。惰性で続けているソシャゲさえも開くことを躊躇われ、頭の中は仁王君のことだけ。そういえば、蓮二と仁王君は同じテニス部だったよね。そんなことをぼんやり考えながら隣で作業を続ける蓮二に目をやった。作業内容が気になった私は彼に内容を問う。
「蓮二、何やってんの」
パイプ椅子を寄せて彼の手元を覗き込みながら尋ねると、彼は手を止めることなく会話を続けた。
「英語の資料作りだ。後輩に英語が苦手な奴がいてな」
「あー、あかやくん……だっけ」
「正解だ」
蓮二がよく口にする後輩の名を口にすれば、少しだけ口角を上げた。
随分と可愛がっているんだなあと羨望の眼差しを向ける。私は美術部に所属しているが、テニス部のような先輩後輩関係はない。活動日も少なく、ほとんど自由。いても幽霊部員の多い部活では張り合いもない。
時たま耳にする蓮二を始めとしたテニス部の活躍には頭が下がる。いつ勉強しているのか不思議に思う。
「中間近いし、大変だね」
「一人でどうにかしてくれると助かるんだが」
眉を八の字にしているが、口元は笑っていた。あかやくん、可愛いんだろうな。
私も勉強しなくちゃなあ、と零すと、蓮二はそれはそうと、と話の舵を切る。
「何か悩みがあるんじゃないのか」
突然言い当てられ言葉を失う。思わず目線が彼の手元から顔へと移った。
「用もないのに生徒会室に残らないだろう」
さらりと言ってのける彼に胸がチクリと痛む。
「……よくわかったね。誰にも気づかれなかったのに」
ここ数日、誰にも言われることなく隠し切れていると思っていたが、彼には隠し事は無駄なようだ。
へらりと笑えば、彼は当たり前だというように笑った。
「自負があるからな。お前の友人であると」
「嬉しいこと言ってくれんじゃん」
直接的な言葉に体がこそばゆい。私は照れ隠しに両腕を天井へと伸ばした。
すると、蓮二は資料作成が終わったのか、持ち出したプリント類を仕舞い始める。
「今抱えている悩みは、口にしたくないんだろう」
「本当よくわかるね」
「確率は九十%だがな」
「たっか」
蓮二から見たら、私はわかりやすいのかな。嘘だってすぐ見抜くんだろうな。
そう思うと、少しだけ鼻の奥が痛んだ。
蓮二はまとめた荷物を背負うと、立ち上がった。
「じゃ、戸締りしとくね」
机の上にあった鍵を手に取り、チャリと音を立てて見せた。
「ああ。あまり遅くなるんじゃないぞ」
「お父さん?」
「お前を育てた覚えはないな」
別れの挨拶を交わして蓮二は生徒会室を出ようとしたが、ぴたりと動きが止まった。それを不思議に思い声をかけると、彼は私に向かってこう言った。
「お前に客人だ」
「え」
誰だと脳内会議を開く前にその人は生徒会室へと入ってくる。蓮二とは対照的な丸い背中の人物。
「さっきぶりじゃの」
仁王雅治。先程まで同じ教室にいた彼。ぽかんと口を開けていると、仁王君と蓮二で話を進め始める。
「名前ちゃんのこと借りてもええんかのう」
「ああ。好きにしたらいい」
「はっ!?」
好きにしたらいいとは?もしかして蓮二って知ってる?
動揺して立ち上がった私を他所に、蓮二はそのまま出て行ってしまう。仁王君も気に素振り一つせず、私の隣に腰を下ろした。先程まで蓮二が座っていた席だ。私は観念したように静かに座り直した。
生徒会室には二人っきり。突然始まる二人きりに何とも気まずい沈黙が流れる。
「……仁王君、部活は?」
「あるぜよ」
「そりゃ蓮二今行ったもんね。仁王君も行かないとダメなんじゃない?」
「お前さんとの話が終わってからじゃのう」
ギシ、とパイプ椅子を軋ませて私を見つめる。彼は背もたれに体を最大限預けている。
話というのは確実に私の告白のことだろう。どんなバカだって、これくらいのことはわかる。付き合うと言った手前、仁王君はどうするんだろう。
やっぱりあの話はなかったことにとか、告白した理由とか聞かれるんだろうか。こういうときばかり無駄に頭が働くのは人間の嫌なところだ。
何を言われるのかと、びくびく怯えていると、彼は柔らかく頬を緩めた。
「そんな怯えた顔せんでも、取って食ったりせんよ」
クス、と目を細める仁王君の何と様になることやら。これはモテるのも頷ける。
ぐ、とか、あ、とか戸惑っていると、仁王君は更にクツクツと笑った。それが恥ずかしくて委縮すると、彼は私に顔を近づけてこう言った。
「お前さんに約束してほしいことがあってのう」
「約束?」
首を傾げると、彼は私と自身を交互に指差した。
「俺と付き合う上での約束」
現実だ。私本当に仁王君の彼女だった。
夢じゃなかったんだと頭を抱えそうになっていると、彼は確認作業を始めた。
「誰かに言うたんか。俺と付き合うって」
「言ってない。誰にも」
「柳にもか?」
こくりと一度頷くと、ほう、と意外そうな顔をした。
ということは、仁王君も蓮二には言ってないってことだよね。でもあの蓮二のことだ。すぐに疑義の念を抱くに違いない。次会ったときに何か言われそうで今から恐怖に襲われる。
「ほいじゃあ、約束は一つだけ」
彼は人差し指を上へ向けた。何を言われるのかと口を一文字に結び、彼を見つめて身構える。
「月曜は一緒に帰る」
「へ?」
月曜は一緒に帰る?私の身体は固まってしまった。
たったそれだけなのかと呆気にとられ、またもや言葉を失う。
「月曜だけ一緒に帰る。待ち合わせは裏門。どうじゃ」
「……それだけ?」
「不満か?」
「い、いや、全然」
全然っていうのもおかしいか、と言ってから気付いた。自分が思っているより冷静でいられないようだ。
それにしても月曜一緒に帰ることだけが約束?それ以外は何もないってこと?
「俺からの話は終わりじゃ」
「え、ああ……うん、」
私が納得した様を確認すると、仁王君はそのまま生徒会室を後にした。
未だに実感できない現実に、ふわふわと体が浮いているような感覚。本当に付き合うんだ、私と仁王君。
でも、あの仁王君が私の嘘に気付いてないわけないよね。もしかして、本当に気付いてない?気付いてないとわざわざ来ない、よね?
明確にならない事実がじわじわと恐怖として襲ってくる。言うなら早く言わないといけないのに。詐欺師と呼ばれる彼を騙すだなんて。
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