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「私、告白しようと思うの」
とある日の休み時間。そう宣言した彼女の瞳は真っ直ぐで、私達の呼吸さえも奪った。時が止まったかのように私達三人の目は瞬きを繰り返すだけで、飲み込むのに時間がかかる。
「え、ごめん。もう一回」
友人の一人が頭を抱えながら、人差し指を上に差した。
「もう!だから……告白しようと思ってて」
言い直す友人を後目に、私を含めた三人は溜息を吐いた。
理由は単純。彼女はミーハーなせいで、今まで恋愛において長続きしたことがない。フラれてもすぐ次の相手を見つけて告白をしたり、次の相手を見つけたからと他の相手に告白をしにいったり、とそれを繰り返す恋愛脳なのだ。
それを知っている私達は、またか、とつまらぬ反応を突き返すだけ。
「あんた、一か月前にフラれたばっかじゃなかったっけ?」
「あ、あれはもういいの!」
「で、次は誰なの」
「仁王君……」
ふふ、と恥じらいを交えながら答えるが、相手の名前が出た瞬間に、私達は再び揃って溜息を吐いた。
「溜息吐かなくったっていいじゃん!」
彼女はそう言うが、相手が相手なだけに溜息を吐くのも仕方がない。
仁王雅治は何があろうと絶対に無理だと学年中の女子が周知の事実だった。強豪テニス部でレギュラーとして活躍し、ミステリアスな部分と端正な顔つきは、見る者を容易く惹きつける。だが、仁王雅治は恋人を作らない。今まで告白に挑戦した女子は数知れず。実った者はいない。
「この間もD組の子振ったらしいよ」
「わざわざ校舎裏まで呼び出したっぽいしね」
「あそこで成功した人いるっけ」
「知らない」
あれやそれやと好き勝手言う私達を睨みつけながら、友人はその場に勢いよく立ち上がる。
「私のこと応援しようって人はいないの!?」
「頑張れ~」
「心がこもってない!」
頬を膨らませて怒って見せる友人。だが、すぐに表情を明るく変えて話を戻す。
「でもでもでもでも!聞いて!」
まだ話すのか、と言いたげに目をやると、彼女は目を輝かせて言った。
「仁王君って断るけど、その断り方がすっご~く優しいんだって!」
後日、友人は私達に敬礼をしてから意気揚々と仁王雅治に告白チャレンジに行った。教室で待っていて欲しいと言われた私達は、どうせ成就するわけないと興味など全くなかった。
友人がチャレンジに行ってから十五分ぐらいだろうか。彼女は教室へと戻ってきた。
「おかえり~」
告白後の友人を迎えたが、何やら様子がおかしい。ふらふらと大人しく教室へと入ってくる。いつもなら煩いほどに騒いだり泣いたりするというのに、俯きがちの顔が浮かぶことはない。
「どしたの」
「もしかして、オッケーだったとか?」
さすがに他二人も異変を感じ取ったのか、恐る恐る答えを探る。
すると、彼女はぱっと顔を上げると真っ赤に染まった顔を晒した。
「ち、違うの……振られたのは振られたんだけど、断り方が……キャーッ!!」
私達は顔を見合わせては、首を傾げた。彼女はだらしない顔でふすふすと空気を漏らすように笑うばかりだ。
「ちょっと詳しく」
詳細を求めると、彼女の言い分としてはこうだ。校舎裏に仁王君を呼び出し、告白をした。案の定断られはしたが、噂通り予想外の優しい断り方だったらしく、余計に好きになってしまったということだった。
「気になるなら試してみたらいいと思うよ!」
絶対ファンになるよ!と気の抜けた顔で断言する。
なんてバカな。好きでもない相手に告白するなんて、趣味の悪い罰ゲームのようなものだ。この時の私は誰がするか、と鼻で笑っていた。
数日後、風邪で休んでいた私は久しぶりに学校へ行くと、友人達の様子がおかしくなっていた。まわりに花が飛ぶ幻覚が見えるほど浮かれ切った二人。気味悪く感じた私は理由を問うと、事の発端であろう一人が背後からやってきた。
「二人とも仁王君のファンになっちゃいました」
「……は?」
思わず顔が歪み、口元がヒクヒクと強ばっている。
ファンになった?私は数日前の出来事を瞬時に思い出し、答えを導き出す。まさか本当に仁王君に告白したというのか。遊びで、わざわざ?
私は咄嗟に仁王君の席を盗み見したが、まだ彼はそこにいない。
「残るは名前だけだよ!」
「他のクラスの子も結構いってるみたいだし」
「同じ思いを味わって!お願い!」
捲し立てながら両手を合わせて頼む友人。だが、私は眉を八の字にして笑うだけだった。
「失礼しましたー」
同日の放課後、職員室での用事を済ませ、廊下に出た瞬間だった。目の前に人影が現れ、バランスを崩す。転びそうになる私の腕を掴んでくれたのは、同じクラスの仁王君だった。
「仁王っ……くん、」
突然の出来事に思わず名を呼んでしまう。すると彼は訝しげにこちらを覗くと、反応を示した。
「……危なっかしいのう」
「えっと、ありがとう」
そう言うと、掴んでいた腕を簡単に離した。出会ってしまったせいで脳内にはあの告白云々の話が呼び起こされる。カッと沸騰したかのように熱が集い、ぐらぐらと心が揺れ動く。そして脳裏に浮かぶは、友人達の言葉。
「あのっ……さぁ……」
ぎこちなく声をかけると、仁王君はじっと黙ったまま私を見つめている。
待って。本当に待って。確かに彼女達の話を聞いて全く気にならなかったと言ったら嘘になる。かと言って想いのない相手に言う事なのか。
必死に打開策を考えようとする脳とは違って、口は勝手に回り始める。
「今、時間いい?」
「かまわんが」
「話したいことがあるんだけど……」
私は何を言っている。走って逃げてもいいから今すぐ自分の口を閉じてくれ。
しかし願いも空しく、口の動きに拍車がかかる。
「ここじゃなんだから、その、」
「校舎裏でも行くんか」
見透かされている。それもそうだろう。最近彼に話しかける女子は大抵告白目当てなのだから。
「あー……はは、そうしよっかあ……」
ここまで来たら腹を括るしかないのか。私は不気味に笑って肯定した。
そしてお互い何も話すことなく、校舎裏まで歩いた。誘い出した私の方が彼の後方を歩いている。微妙な距離がもどかしい。なんでこんなことしてんだろ。
気付けばあっという間に校舎裏。うちで有名な告白スポットだ。あっという間に緑に染まっている木々に囲まれながら、ポケットに手を突っ込んだままの仁王君に何となくで想いを告げた。吹き抜ける風が背筋を震わせる。
「えーっと、好きです。付き合ってくれると嬉しいです」
無駄に緊張する心を誤魔化しつつ、仁王君の対応を待つ。
流石にこんなはっきりわかる嘘の告白までまともに受け取らないか。さっさと帰ろう、と相手の反応を待っていると、予想外の答えが返ってきた。
「ええよ」
「……え?」
「ええよ。おまんと付き合うても」
今なんて言った。この人本当に仁王雅治なのか。開いた口が塞がらないとはこのことか。
「……嘘でしょ」
目をぱちくりとさせて、本音を零せば仁王君はにやりと口角を上げて笑っていた。そして私にゆっくりと近づくと、頭に手を乗せた。
「じゃあよろしくの。名前ちゃん」
仁王君はそう言うと、私の頭を撫でて去っていった。私は彼の背中を見つめるばかりで、撫でられた箇所を自分の手で覆う。
「……私の名前、知ってたんだ」
とある日の休み時間。そう宣言した彼女の瞳は真っ直ぐで、私達の呼吸さえも奪った。時が止まったかのように私達三人の目は瞬きを繰り返すだけで、飲み込むのに時間がかかる。
「え、ごめん。もう一回」
友人の一人が頭を抱えながら、人差し指を上に差した。
「もう!だから……告白しようと思ってて」
言い直す友人を後目に、私を含めた三人は溜息を吐いた。
理由は単純。彼女はミーハーなせいで、今まで恋愛において長続きしたことがない。フラれてもすぐ次の相手を見つけて告白をしたり、次の相手を見つけたからと他の相手に告白をしにいったり、とそれを繰り返す恋愛脳なのだ。
それを知っている私達は、またか、とつまらぬ反応を突き返すだけ。
「あんた、一か月前にフラれたばっかじゃなかったっけ?」
「あ、あれはもういいの!」
「で、次は誰なの」
「仁王君……」
ふふ、と恥じらいを交えながら答えるが、相手の名前が出た瞬間に、私達は再び揃って溜息を吐いた。
「溜息吐かなくったっていいじゃん!」
彼女はそう言うが、相手が相手なだけに溜息を吐くのも仕方がない。
仁王雅治は何があろうと絶対に無理だと学年中の女子が周知の事実だった。強豪テニス部でレギュラーとして活躍し、ミステリアスな部分と端正な顔つきは、見る者を容易く惹きつける。だが、仁王雅治は恋人を作らない。今まで告白に挑戦した女子は数知れず。実った者はいない。
「この間もD組の子振ったらしいよ」
「わざわざ校舎裏まで呼び出したっぽいしね」
「あそこで成功した人いるっけ」
「知らない」
あれやそれやと好き勝手言う私達を睨みつけながら、友人はその場に勢いよく立ち上がる。
「私のこと応援しようって人はいないの!?」
「頑張れ~」
「心がこもってない!」
頬を膨らませて怒って見せる友人。だが、すぐに表情を明るく変えて話を戻す。
「でもでもでもでも!聞いて!」
まだ話すのか、と言いたげに目をやると、彼女は目を輝かせて言った。
「仁王君って断るけど、その断り方がすっご~く優しいんだって!」
後日、友人は私達に敬礼をしてから意気揚々と仁王雅治に告白チャレンジに行った。教室で待っていて欲しいと言われた私達は、どうせ成就するわけないと興味など全くなかった。
友人がチャレンジに行ってから十五分ぐらいだろうか。彼女は教室へと戻ってきた。
「おかえり~」
告白後の友人を迎えたが、何やら様子がおかしい。ふらふらと大人しく教室へと入ってくる。いつもなら煩いほどに騒いだり泣いたりするというのに、俯きがちの顔が浮かぶことはない。
「どしたの」
「もしかして、オッケーだったとか?」
さすがに他二人も異変を感じ取ったのか、恐る恐る答えを探る。
すると、彼女はぱっと顔を上げると真っ赤に染まった顔を晒した。
「ち、違うの……振られたのは振られたんだけど、断り方が……キャーッ!!」
私達は顔を見合わせては、首を傾げた。彼女はだらしない顔でふすふすと空気を漏らすように笑うばかりだ。
「ちょっと詳しく」
詳細を求めると、彼女の言い分としてはこうだ。校舎裏に仁王君を呼び出し、告白をした。案の定断られはしたが、噂通り予想外の優しい断り方だったらしく、余計に好きになってしまったということだった。
「気になるなら試してみたらいいと思うよ!」
絶対ファンになるよ!と気の抜けた顔で断言する。
なんてバカな。好きでもない相手に告白するなんて、趣味の悪い罰ゲームのようなものだ。この時の私は誰がするか、と鼻で笑っていた。
数日後、風邪で休んでいた私は久しぶりに学校へ行くと、友人達の様子がおかしくなっていた。まわりに花が飛ぶ幻覚が見えるほど浮かれ切った二人。気味悪く感じた私は理由を問うと、事の発端であろう一人が背後からやってきた。
「二人とも仁王君のファンになっちゃいました」
「……は?」
思わず顔が歪み、口元がヒクヒクと強ばっている。
ファンになった?私は数日前の出来事を瞬時に思い出し、答えを導き出す。まさか本当に仁王君に告白したというのか。遊びで、わざわざ?
私は咄嗟に仁王君の席を盗み見したが、まだ彼はそこにいない。
「残るは名前だけだよ!」
「他のクラスの子も結構いってるみたいだし」
「同じ思いを味わって!お願い!」
捲し立てながら両手を合わせて頼む友人。だが、私は眉を八の字にして笑うだけだった。
「失礼しましたー」
同日の放課後、職員室での用事を済ませ、廊下に出た瞬間だった。目の前に人影が現れ、バランスを崩す。転びそうになる私の腕を掴んでくれたのは、同じクラスの仁王君だった。
「仁王っ……くん、」
突然の出来事に思わず名を呼んでしまう。すると彼は訝しげにこちらを覗くと、反応を示した。
「……危なっかしいのう」
「えっと、ありがとう」
そう言うと、掴んでいた腕を簡単に離した。出会ってしまったせいで脳内にはあの告白云々の話が呼び起こされる。カッと沸騰したかのように熱が集い、ぐらぐらと心が揺れ動く。そして脳裏に浮かぶは、友人達の言葉。
「あのっ……さぁ……」
ぎこちなく声をかけると、仁王君はじっと黙ったまま私を見つめている。
待って。本当に待って。確かに彼女達の話を聞いて全く気にならなかったと言ったら嘘になる。かと言って想いのない相手に言う事なのか。
必死に打開策を考えようとする脳とは違って、口は勝手に回り始める。
「今、時間いい?」
「かまわんが」
「話したいことがあるんだけど……」
私は何を言っている。走って逃げてもいいから今すぐ自分の口を閉じてくれ。
しかし願いも空しく、口の動きに拍車がかかる。
「ここじゃなんだから、その、」
「校舎裏でも行くんか」
見透かされている。それもそうだろう。最近彼に話しかける女子は大抵告白目当てなのだから。
「あー……はは、そうしよっかあ……」
ここまで来たら腹を括るしかないのか。私は不気味に笑って肯定した。
そしてお互い何も話すことなく、校舎裏まで歩いた。誘い出した私の方が彼の後方を歩いている。微妙な距離がもどかしい。なんでこんなことしてんだろ。
気付けばあっという間に校舎裏。うちで有名な告白スポットだ。あっという間に緑に染まっている木々に囲まれながら、ポケットに手を突っ込んだままの仁王君に何となくで想いを告げた。吹き抜ける風が背筋を震わせる。
「えーっと、好きです。付き合ってくれると嬉しいです」
無駄に緊張する心を誤魔化しつつ、仁王君の対応を待つ。
流石にこんなはっきりわかる嘘の告白までまともに受け取らないか。さっさと帰ろう、と相手の反応を待っていると、予想外の答えが返ってきた。
「ええよ」
「……え?」
「ええよ。おまんと付き合うても」
今なんて言った。この人本当に仁王雅治なのか。開いた口が塞がらないとはこのことか。
「……嘘でしょ」
目をぱちくりとさせて、本音を零せば仁王君はにやりと口角を上げて笑っていた。そして私にゆっくりと近づくと、頭に手を乗せた。
「じゃあよろしくの。名前ちゃん」
仁王君はそう言うと、私の頭を撫でて去っていった。私は彼の背中を見つめるばかりで、撫でられた箇所を自分の手で覆う。
「……私の名前、知ってたんだ」
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