下手くそに愛を叫べⅡ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「蔵ノ介くん」
「はい」
「距離近ない?」
怪訝に顔を歪めて指摘したが、蔵ノ介くんは何が悪いのかと言いたげに頗る爽やかな笑顔で対抗してくる。目を背けたくなるほどの眩しさを備えた男は、私の頬を人差し指でついた。
「分かります?」
「そこまで鈍感とちゃうからな」
んー、と頬の弾力で遊び続ける。聞いているのか聞いていないのか、判断しづらい態度が気になってしまう。
クリスマスに期限を決めたあの日から一か月、蔵ノ介くんの距離が近くなった。精神的にではなく物理的な距離であり、今もソファに並んで座っているが必ずどこかが触れ合っている。腕や指先、爪先など、場所は様々で、その姿はさながら甘えん坊の子供でむず痒くなる。寒さを理由にするにも長時間過ぎるし、注ぐ視線は子供のように無邪気だけで片付けられない。今度は何を企んでいるのだろうか。今日も私の家に上がり込んでからというもの、トイレ以外で離れる様子はない。彼の挙動一つが気になり、野暮用で触っていたスマホにさえ集中出来ない。
すると、今度は首筋に頭部を擦り付けるように埋めた。外に跳ねた毛先がこそばゆくて、じゃれつく亜麻色の猫に押し倒されそうになる。スマホを落としかけながらも、近づいてくる蔵ノ介くんに抵抗しようと肩を押したが、ぴくりとも動かない体躯にとうとうスマホを机に置いた。この猫を野放しにしておくのは如何なものか、と無策のまま体勢を持ち直そうと座り直した。
「ん、ほんまに、近い」
じわじわと暖房だけでない熱が服の下に籠り始める。蔵ノ介くんの顔を見定めるように見つめると、彼はソファの上を滑りながら私との距離を詰めた。
「ドキドキしてます?」
口元は笑いながらも目の奥は笑っていない。耳元でわざとらしく囁く挑発に腹を立てながらも、確かに女としての反応を示してしまう現実。彼の声が、言葉が、ぐっと押していたはずの手から力を奪った。
「少し、だけ」
蔵ノ介くんの言う通りなのが憎い。たどたどしく顔を伏せつつ呟けば、蔵ノ介くんは私の頬を親指で撫でた。そして、余裕を携えた笑みを持って下から顔を覗き込んできた。
「嘘や」
「嘘ちゃう」
子供じみた言い合いを重ねた後、意地でも負けない私に諦めたのか、蔵ノ介くんは私の腰を抱き、胸の辺りに耳を当てた。突然の密着具合に心臓が驚いてしまい、動きまで制御されてしまう。聞かれたくないと思えば思う程、心臓の音が大きくなるようで彼が好き勝手するのを放置してしまっている。
「名前さんの心臓の音、めっちゃ聞こえる」
嬉々とした声色が私を更に辱めた。遠慮のない行動が襲い掛かってくるせいで、今、自分がどんな顔をしているのかなんて分からない。
「蔵ノ介くんには負けるわ」
不貞腐れたように吐き捨てると、蔵ノ介くんはクスリと笑った。余裕のある顔が私の腕を引っ張り、今度は私自身を胸元に呼び込めば、彼自身の心臓の音が衣越しに耳に届く。頭部を押さえて聞こえる鼓動は嫌なほど細部に浸透している。
「俺の音、もっと聞いて」
蔵ノ介くんの表情は見えなくても、少しだけ硬くなった声が大体の表情を作成した。お揃いの音が脳裏にこびりつき始め、果てには心地よさまで感じてしまう。この音が私のものである限り、彼と関係を続けられる。そう実感すれば、鼻の奥が痛んだ。
「こうやって、言葉だけやなくて行動も素直にした方が今の俺に慣れてくれるかな思て」
「ああ……」
分かったような分からないような、いや、分かっていないと眉間に皺を寄せて返事をした。確かに今の蔵ノ介くんと幼い蔵ノ介くんが重なるとは言ったが、そう頑張らなくても、と頭を抱えたくなる。彼は彼のままでいい。私が擦り合わせていくから、と言えばいいのに、彼の積極性を甘受している。正直に言葉にしたら、ずるい、なんて言われてしまうだろうか。
私はずるりと脱皮するように彼の腕の中から逃れれば、どちらかともなく笑ってしまった。
「恋人同士なんやから遠慮するんアホらしいやろ」
「開き直ったな」
「俺のこと、いっぱい知ってもらいたいからなあ」
へらりと可愛らしく笑うと、ちゅ、と頬にリップ音が鳴った。そこは唇じゃないのか、と言いたくなる欲をぐっと堪えて触れ合いを受け取った。言ってしまえば、彼の目の色が変わってしまいそうで、今だけはと呑み込んだ。
「名前さんからも触ってな」
柔らかい表情を変えずに言ってはいるが、思わず口が引き攣った。このままだと流されそうな危機感を覚えた私はテーブルからスマホを取り戻す。私としてはこちらの方が本題なのだ。
先程まで表示していた画面と再び顔を合わせれば、隣から疑問の声が飛んだ。
「さっきから何を真剣に見てるんです?」
ひょっこりと覗いた顔が私と画面を交互に見やる。私からも彼の体に添うように近づき、画面を見せた。
「引っ越ししよ思て」
「どこらへん?」
「なるべく会社近いとこにするつもりやけど、いくつか迷ってる」
画面をスワイプしては、適宜指を止めて蔵ノ介くんに物件を見せていく。きょろきょろと眼球だけを動かしていく彼を確認しながら数件流し、感想を問うた。
「どこがええ?」
「どこがって……防犯面がきちんとしとるとこがええんとちゃいますか」
「あーいや、そうやなくて」
きょと、と目を丸くさせている彼は本当に見当がついてないのだろう。真面目に感想を述べてくれる彼に対し、咄嗟に否定の言葉が飛び出してしまった。
「蔵ノ介くんが通いやすいのがええやろ」
クスクスと笑いながら言えば、蔵ノ介くんは面白い程早く顔を赤く染め上げた。そして、何度も首を縦に振っていた。先程までの遠慮のなさをどこに置いてきたのか、なんて意地の悪い質問は止めておこうか。だが、その代わりと言うように今度は私から蔵ノ介くんを抱きしめてやった。
「はい」
「距離近ない?」
怪訝に顔を歪めて指摘したが、蔵ノ介くんは何が悪いのかと言いたげに頗る爽やかな笑顔で対抗してくる。目を背けたくなるほどの眩しさを備えた男は、私の頬を人差し指でついた。
「分かります?」
「そこまで鈍感とちゃうからな」
んー、と頬の弾力で遊び続ける。聞いているのか聞いていないのか、判断しづらい態度が気になってしまう。
クリスマスに期限を決めたあの日から一か月、蔵ノ介くんの距離が近くなった。精神的にではなく物理的な距離であり、今もソファに並んで座っているが必ずどこかが触れ合っている。腕や指先、爪先など、場所は様々で、その姿はさながら甘えん坊の子供でむず痒くなる。寒さを理由にするにも長時間過ぎるし、注ぐ視線は子供のように無邪気だけで片付けられない。今度は何を企んでいるのだろうか。今日も私の家に上がり込んでからというもの、トイレ以外で離れる様子はない。彼の挙動一つが気になり、野暮用で触っていたスマホにさえ集中出来ない。
すると、今度は首筋に頭部を擦り付けるように埋めた。外に跳ねた毛先がこそばゆくて、じゃれつく亜麻色の猫に押し倒されそうになる。スマホを落としかけながらも、近づいてくる蔵ノ介くんに抵抗しようと肩を押したが、ぴくりとも動かない体躯にとうとうスマホを机に置いた。この猫を野放しにしておくのは如何なものか、と無策のまま体勢を持ち直そうと座り直した。
「ん、ほんまに、近い」
じわじわと暖房だけでない熱が服の下に籠り始める。蔵ノ介くんの顔を見定めるように見つめると、彼はソファの上を滑りながら私との距離を詰めた。
「ドキドキしてます?」
口元は笑いながらも目の奥は笑っていない。耳元でわざとらしく囁く挑発に腹を立てながらも、確かに女としての反応を示してしまう現実。彼の声が、言葉が、ぐっと押していたはずの手から力を奪った。
「少し、だけ」
蔵ノ介くんの言う通りなのが憎い。たどたどしく顔を伏せつつ呟けば、蔵ノ介くんは私の頬を親指で撫でた。そして、余裕を携えた笑みを持って下から顔を覗き込んできた。
「嘘や」
「嘘ちゃう」
子供じみた言い合いを重ねた後、意地でも負けない私に諦めたのか、蔵ノ介くんは私の腰を抱き、胸の辺りに耳を当てた。突然の密着具合に心臓が驚いてしまい、動きまで制御されてしまう。聞かれたくないと思えば思う程、心臓の音が大きくなるようで彼が好き勝手するのを放置してしまっている。
「名前さんの心臓の音、めっちゃ聞こえる」
嬉々とした声色が私を更に辱めた。遠慮のない行動が襲い掛かってくるせいで、今、自分がどんな顔をしているのかなんて分からない。
「蔵ノ介くんには負けるわ」
不貞腐れたように吐き捨てると、蔵ノ介くんはクスリと笑った。余裕のある顔が私の腕を引っ張り、今度は私自身を胸元に呼び込めば、彼自身の心臓の音が衣越しに耳に届く。頭部を押さえて聞こえる鼓動は嫌なほど細部に浸透している。
「俺の音、もっと聞いて」
蔵ノ介くんの表情は見えなくても、少しだけ硬くなった声が大体の表情を作成した。お揃いの音が脳裏にこびりつき始め、果てには心地よさまで感じてしまう。この音が私のものである限り、彼と関係を続けられる。そう実感すれば、鼻の奥が痛んだ。
「こうやって、言葉だけやなくて行動も素直にした方が今の俺に慣れてくれるかな思て」
「ああ……」
分かったような分からないような、いや、分かっていないと眉間に皺を寄せて返事をした。確かに今の蔵ノ介くんと幼い蔵ノ介くんが重なるとは言ったが、そう頑張らなくても、と頭を抱えたくなる。彼は彼のままでいい。私が擦り合わせていくから、と言えばいいのに、彼の積極性を甘受している。正直に言葉にしたら、ずるい、なんて言われてしまうだろうか。
私はずるりと脱皮するように彼の腕の中から逃れれば、どちらかともなく笑ってしまった。
「恋人同士なんやから遠慮するんアホらしいやろ」
「開き直ったな」
「俺のこと、いっぱい知ってもらいたいからなあ」
へらりと可愛らしく笑うと、ちゅ、と頬にリップ音が鳴った。そこは唇じゃないのか、と言いたくなる欲をぐっと堪えて触れ合いを受け取った。言ってしまえば、彼の目の色が変わってしまいそうで、今だけはと呑み込んだ。
「名前さんからも触ってな」
柔らかい表情を変えずに言ってはいるが、思わず口が引き攣った。このままだと流されそうな危機感を覚えた私はテーブルからスマホを取り戻す。私としてはこちらの方が本題なのだ。
先程まで表示していた画面と再び顔を合わせれば、隣から疑問の声が飛んだ。
「さっきから何を真剣に見てるんです?」
ひょっこりと覗いた顔が私と画面を交互に見やる。私からも彼の体に添うように近づき、画面を見せた。
「引っ越ししよ思て」
「どこらへん?」
「なるべく会社近いとこにするつもりやけど、いくつか迷ってる」
画面をスワイプしては、適宜指を止めて蔵ノ介くんに物件を見せていく。きょろきょろと眼球だけを動かしていく彼を確認しながら数件流し、感想を問うた。
「どこがええ?」
「どこがって……防犯面がきちんとしとるとこがええんとちゃいますか」
「あーいや、そうやなくて」
きょと、と目を丸くさせている彼は本当に見当がついてないのだろう。真面目に感想を述べてくれる彼に対し、咄嗟に否定の言葉が飛び出してしまった。
「蔵ノ介くんが通いやすいのがええやろ」
クスクスと笑いながら言えば、蔵ノ介くんは面白い程早く顔を赤く染め上げた。そして、何度も首を縦に振っていた。先程までの遠慮のなさをどこに置いてきたのか、なんて意地の悪い質問は止めておこうか。だが、その代わりと言うように今度は私から蔵ノ介くんを抱きしめてやった。