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最近良いことがあった。それは他人から聞いたら極々小さいことであるかもしれないし、もしかしたらとてつもなく大きいことかもしれない。テストの点数が良かった?先生に褒められた?部活で活躍した?
私の場合は全部違う。正解は、みんなから一目置かれる彼と隣の席になったこと。多分、恐らく、いや絶対。ほとんどの女子に羨ましいと思われているに違いない。実際友人にもそう言われてしまった事で、私も否定することなく笑顔で肯定した。だからと言って、私は彼に恋心を抱いているのかと問われれば答えはNO。ただの興味本位でしかない。まあそんなことはどうでもいい事で。
人気の彼と隣の席になれたのは、最近勉強頑張ってるからかなと考えていると、その彼が珍しく慌てて教室に入ってきた。
相変わらず部活が忙しそうだなあ。朝からご苦労様です。
暇潰しに心の中で言葉を投げかける。彼は、ふう、と一息つきながら机の上に荷物を乗せるとゆっくり席に着いた。私はそれを見計らってから「おはよう」と声をかける。すると彼は、どんな相手でも頬を赤らめてしまいそうな程の眩しい笑みを浮かべて挨拶を返した。
隣の席になってから少しずつ話すようになっていった私達は、朝の挨拶は当たり前の行為だった。でも私と彼の関係はただのクラスメイトで、友人と言うには烏滸がましい。話すタイミングだって教室に居る時だけで、他のタイミングで見かけても話しかけづらさが先決する。彼は忙しい人だから、他の人といる時はどうしても躊躇われてしまう。今の状況でさえ羨ましがられるのに、私も欲深くなったなあ。
一つ溜息を吐いてから隣にいる彼に目を向ければ、なんだかいつもと纏う雰囲気が違った。
なんだろう。何が違うんだろう。慌てて来たことに関係するのかな。
何故だか一度気になるとわかるまで目が離せなくなり、まじまじと見つめてしまう。すると、私の視線が煩かったのか、彼は私に笑いかけた。
「見すぎだよ。俺に穴でもあけるつもり?」
からかいを含めた口調に慌てて謝罪すると、はは、と男らしく笑っていた。
「もしかして、何か付いてる?」
自身の顔を指差し、目を丸くさせながら尋ねてくる。少しだけ首を傾げている姿が麗しくて呼吸が難しい。
「う、ううん。そうじゃないんだけど、なんかいつもと違う気がしたから」
そう伝えると、彼はへえ、と納得した。
「それで俺の事ずっと見てたのか」
やっぱりずっと見てたのバレてたんだ。急に恥ずかしくなってしまい、彼から目を逸らす。そして、うんうん、と頷いた彼は続けざまにこう尋ねた。
「何が違うか、わかったかい」
目を細めて綺麗に弧を描く姿に今度は目が釘付けになる。早くなる鼓動を無理矢理抑えながら頭を捻り、私はえっとね、と答えた。
「今日、いつもより髪の毛がふわふわしてる……かも」
私の解答を聞いた彼は瞬きを繰り返し、沈黙の後に口を大きく開けて笑い始めた。彼がそんな風に笑うとは思っていなかったのと、周囲からの目が私達に刺さり、慌ててしまう。けれど彼はそんなことお構いなしにお腹を抱えて笑っている。
「え、ちょ、ごめん……そんな笑わないで……」
私が言った事の何がそこまで彼のツボを刺激したのか。反対に不安になってしまう。
彼は一頻り笑った後、あーあと呼吸を整えた。その時には既に私達を包んでいた他の目はとっくのとうに消えていた。
「涙出ちゃったよ」
「そんな笑うと思わなくて……」
彼は目尻を細長くも男らしい指で拭うと、朗らかに答えを教えてくれた。
「正解だよ。俺の髪の毛がいつもよりふわふわしてるって」
嬉々としてこちらを見つめる彼とは対照的に、私は何度も瞬きを繰り返す。
「当たったの?」
「まさか当てるとはね」
もしかして揶揄われてるんだろうか。わざと正解だって言ってくれてるんだろうか。彼の胸中が見えなくて疑問が浮かんだ。すると彼は、実はね、と秘密を打ち明ける。
「これ、寝癖なんだ」
「寝癖?」
聞き返すと、彼は柔らかそうなくせっ毛を触りながら頬を赤らめる。
「今日寝坊してしまってね。いつもより髪がふわふわして見えるのはそのせいだよ」
本当に当たってたんだ。感想を浮かべると共に、ふと彼が朝慌てる様子を想像した。いつも余裕のある姿しか見たことがなかったせいで、頭の中の彼を笑ってしまう。
「やっぱり変だったかな?」
私が笑ってしまったのを気にしたのか、眉を八の字にして尋ねる彼に、私は首を盛大に横に振った。
「変とかじゃないよ。全然気にならない。でも、」
「でも?」
「幸村君でも寝坊することがあるんだと思って」
感想を述べると、彼は恥ずかしそうに笑っていた。
「俺も人間だからね」
意外な一面に胸が温かくなる。隣の席という特別席だから知ることが出来たんだろう。今は優越感に浸ったっていいよね?
すると彼は、口元に人差し指だけを持っていくと、私にだけ聞こえる声で囁いた。
「これは俺と君だけの秘密。いいね?」
そう言って彼は年相応の笑みを浮かべた。そんな彼と同じように笑っては、変わっていく感情を必死で隠した。
そうでないと、私はもっと欲張りになってしまいそうだったから。
おまけ
「どうしたんスか、幸村部長」
「赤也。聞いてよ」
朝練終わりに唇を尖らせながら鏡と睨めっこする幸村。ずっと髪の毛をいろいろな角度から見ては溜息を吐く。
「寝癖が直らないんだよ~」
「そうっスか?いつもと変わってないと思うんスけど、」
がっくりと肩を落とす幸村だが、赤也の目にはいつも通りだ。
「こんなんじゃ教室行けないよ……」
ジャージから着替えない幸村を見かねた柳が声をかける。
「隣の席の女子か?」
「……うん」
意気消沈した幸村の肩をポンと叩くのは仁王。
「大丈夫じゃろ」
しかし仁王の慰めも空しく、幸村は声を荒げる。
「毎日おはようって言ってくれるのに気づかれない訳ないだろ!?」
「いや俺らが気づいとらん」
「急げ。HRが始まる」
柳の声に、ようやく幸村は着替え始める。嫌々着替えていたために、教室に着いたのが遅くなり慌てて教室に入る羽目になった。しかし幸村にとって最終的に良かったんだろう。放課後は鼻歌を歌っていた。
私の場合は全部違う。正解は、みんなから一目置かれる彼と隣の席になったこと。多分、恐らく、いや絶対。ほとんどの女子に羨ましいと思われているに違いない。実際友人にもそう言われてしまった事で、私も否定することなく笑顔で肯定した。だからと言って、私は彼に恋心を抱いているのかと問われれば答えはNO。ただの興味本位でしかない。まあそんなことはどうでもいい事で。
人気の彼と隣の席になれたのは、最近勉強頑張ってるからかなと考えていると、その彼が珍しく慌てて教室に入ってきた。
相変わらず部活が忙しそうだなあ。朝からご苦労様です。
暇潰しに心の中で言葉を投げかける。彼は、ふう、と一息つきながら机の上に荷物を乗せるとゆっくり席に着いた。私はそれを見計らってから「おはよう」と声をかける。すると彼は、どんな相手でも頬を赤らめてしまいそうな程の眩しい笑みを浮かべて挨拶を返した。
隣の席になってから少しずつ話すようになっていった私達は、朝の挨拶は当たり前の行為だった。でも私と彼の関係はただのクラスメイトで、友人と言うには烏滸がましい。話すタイミングだって教室に居る時だけで、他のタイミングで見かけても話しかけづらさが先決する。彼は忙しい人だから、他の人といる時はどうしても躊躇われてしまう。今の状況でさえ羨ましがられるのに、私も欲深くなったなあ。
一つ溜息を吐いてから隣にいる彼に目を向ければ、なんだかいつもと纏う雰囲気が違った。
なんだろう。何が違うんだろう。慌てて来たことに関係するのかな。
何故だか一度気になるとわかるまで目が離せなくなり、まじまじと見つめてしまう。すると、私の視線が煩かったのか、彼は私に笑いかけた。
「見すぎだよ。俺に穴でもあけるつもり?」
からかいを含めた口調に慌てて謝罪すると、はは、と男らしく笑っていた。
「もしかして、何か付いてる?」
自身の顔を指差し、目を丸くさせながら尋ねてくる。少しだけ首を傾げている姿が麗しくて呼吸が難しい。
「う、ううん。そうじゃないんだけど、なんかいつもと違う気がしたから」
そう伝えると、彼はへえ、と納得した。
「それで俺の事ずっと見てたのか」
やっぱりずっと見てたのバレてたんだ。急に恥ずかしくなってしまい、彼から目を逸らす。そして、うんうん、と頷いた彼は続けざまにこう尋ねた。
「何が違うか、わかったかい」
目を細めて綺麗に弧を描く姿に今度は目が釘付けになる。早くなる鼓動を無理矢理抑えながら頭を捻り、私はえっとね、と答えた。
「今日、いつもより髪の毛がふわふわしてる……かも」
私の解答を聞いた彼は瞬きを繰り返し、沈黙の後に口を大きく開けて笑い始めた。彼がそんな風に笑うとは思っていなかったのと、周囲からの目が私達に刺さり、慌ててしまう。けれど彼はそんなことお構いなしにお腹を抱えて笑っている。
「え、ちょ、ごめん……そんな笑わないで……」
私が言った事の何がそこまで彼のツボを刺激したのか。反対に不安になってしまう。
彼は一頻り笑った後、あーあと呼吸を整えた。その時には既に私達を包んでいた他の目はとっくのとうに消えていた。
「涙出ちゃったよ」
「そんな笑うと思わなくて……」
彼は目尻を細長くも男らしい指で拭うと、朗らかに答えを教えてくれた。
「正解だよ。俺の髪の毛がいつもよりふわふわしてるって」
嬉々としてこちらを見つめる彼とは対照的に、私は何度も瞬きを繰り返す。
「当たったの?」
「まさか当てるとはね」
もしかして揶揄われてるんだろうか。わざと正解だって言ってくれてるんだろうか。彼の胸中が見えなくて疑問が浮かんだ。すると彼は、実はね、と秘密を打ち明ける。
「これ、寝癖なんだ」
「寝癖?」
聞き返すと、彼は柔らかそうなくせっ毛を触りながら頬を赤らめる。
「今日寝坊してしまってね。いつもより髪がふわふわして見えるのはそのせいだよ」
本当に当たってたんだ。感想を浮かべると共に、ふと彼が朝慌てる様子を想像した。いつも余裕のある姿しか見たことがなかったせいで、頭の中の彼を笑ってしまう。
「やっぱり変だったかな?」
私が笑ってしまったのを気にしたのか、眉を八の字にして尋ねる彼に、私は首を盛大に横に振った。
「変とかじゃないよ。全然気にならない。でも、」
「でも?」
「幸村君でも寝坊することがあるんだと思って」
感想を述べると、彼は恥ずかしそうに笑っていた。
「俺も人間だからね」
意外な一面に胸が温かくなる。隣の席という特別席だから知ることが出来たんだろう。今は優越感に浸ったっていいよね?
すると彼は、口元に人差し指だけを持っていくと、私にだけ聞こえる声で囁いた。
「これは俺と君だけの秘密。いいね?」
そう言って彼は年相応の笑みを浮かべた。そんな彼と同じように笑っては、変わっていく感情を必死で隠した。
そうでないと、私はもっと欲張りになってしまいそうだったから。
おまけ
「どうしたんスか、幸村部長」
「赤也。聞いてよ」
朝練終わりに唇を尖らせながら鏡と睨めっこする幸村。ずっと髪の毛をいろいろな角度から見ては溜息を吐く。
「寝癖が直らないんだよ~」
「そうっスか?いつもと変わってないと思うんスけど、」
がっくりと肩を落とす幸村だが、赤也の目にはいつも通りだ。
「こんなんじゃ教室行けないよ……」
ジャージから着替えない幸村を見かねた柳が声をかける。
「隣の席の女子か?」
「……うん」
意気消沈した幸村の肩をポンと叩くのは仁王。
「大丈夫じゃろ」
しかし仁王の慰めも空しく、幸村は声を荒げる。
「毎日おはようって言ってくれるのに気づかれない訳ないだろ!?」
「いや俺らが気づいとらん」
「急げ。HRが始まる」
柳の声に、ようやく幸村は着替え始める。嫌々着替えていたために、教室に着いたのが遅くなり慌てて教室に入る羽目になった。しかし幸村にとって最終的に良かったんだろう。放課後は鼻歌を歌っていた。