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「やばいやばいやばい、」
肩に掛けた鞄の持ち手を握りしめ、廊下を早足で歩く。既に人気の無くなった学校は季節柄もあってか、より冷えて感じる。
パタパタと音を立てて自分のクラスに戻れば、教室の灯りはまだ点いていて、誰かの存在を思わせた。
「あれ、乾?」
ひょっこりと教室内を覗けば、友人の乾がいた。私は安堵したのと同時に、床と足を擦り付けるようにゆったりと彼に近づいた。
「ああ、名字」
乾は私に呼ばれてから顔をこちらに向けた。目の奥の見えない眼鏡は卑怯なグッズに思えるけれど、特に感情が動いていないように見えて安堵すると共に少し残念に思った。
「あ、そっか。今日日直か」
「そう。今は日誌書いてる」
乾はシャーペンを持ち直すと、日誌に向かい合ってスラスラと書き進めた。私は大きな手が華奢なシャーペンを抱き締めているのを見て、これもまた少し狡いと思った。
「相手の子は?」
私は悶々とした気持ちを振り払うように話題を変えた。日直は二人一組で出席番号順に決まるのだけれど、姿は乾の一人しかない。
すると、乾は顔を上げ、私の方を見た。
「忘れている確率……」
「百パーセント、だね」
くすくすと笑って言葉を奪った。
「あとは? 日誌だけ?」
「ああ。俺も終わったら帰るよ」
「じゃあ途中まで一緒に帰ろうよ」
「うん。いいよ」
乾の言葉を受け、私は喜色を満面に浮かべた。すると、乾は眼鏡のブリッジを上げ、私に問うた。
「……君は?」
「あ、」
私は乾に尋ねられ、目を丸くした。
「宿題の数学のノートを忘れたんじゃないか?」
「そうそうそう! よく分かったね」
スタスタと自分の席に行き、机の上に残されていた数学のノートを急いで鞄の中にしまった。
「君のことだからね。戻ってくるだろうと」
「あ、机の上に置き忘れてたから予測出来たんでしょ。分かっちゃったよ、私も」
「それに君は真面目だからね。まあいいか、なんて思わないだろうから」
「ご名答」
褒められるとくすぐったい。私は日誌に向かう乾の旋毛を眺めながら、また声をかけた。
「ねえ、乾」
「ん?」
「物知りの乾に質問」
「何かな」
乾はシャーペンを置いた。そして、私に目を向けた。私は自分の席に鞄を置き、乾の元に近づいた。一歩、二歩、三歩。目の前に到達して、奥の見えない目を凝視する。いつもなら上を向くけど、今日は見下げている。
私は大きく息を吸い、乾に投げかけた。
「わざとノート忘れたって言ったら、どうする?」
乾は何も言わなかった。
「日直の子に頼んで早く帰ってもらったって言ったら、どうする?」
私の声が震えた。
「ねえ、教えてよ。データマン」
リップで潤した唇に少しだけ歯を立てる。ねえ、早く答えてよ。
すると、乾は表情一つ変えずに、また眼鏡のブリッジを上げた。初めて瞳の奥が見れた気がした。
「どうやら、君の勝ちみたいだな」
どくん、と心臓が跳ねる。瞬きをした瞬間に乾の顔が近づく。
ああ、リップ塗り直してて良かった。
肩に掛けた鞄の持ち手を握りしめ、廊下を早足で歩く。既に人気の無くなった学校は季節柄もあってか、より冷えて感じる。
パタパタと音を立てて自分のクラスに戻れば、教室の灯りはまだ点いていて、誰かの存在を思わせた。
「あれ、乾?」
ひょっこりと教室内を覗けば、友人の乾がいた。私は安堵したのと同時に、床と足を擦り付けるようにゆったりと彼に近づいた。
「ああ、名字」
乾は私に呼ばれてから顔をこちらに向けた。目の奥の見えない眼鏡は卑怯なグッズに思えるけれど、特に感情が動いていないように見えて安堵すると共に少し残念に思った。
「あ、そっか。今日日直か」
「そう。今は日誌書いてる」
乾はシャーペンを持ち直すと、日誌に向かい合ってスラスラと書き進めた。私は大きな手が華奢なシャーペンを抱き締めているのを見て、これもまた少し狡いと思った。
「相手の子は?」
私は悶々とした気持ちを振り払うように話題を変えた。日直は二人一組で出席番号順に決まるのだけれど、姿は乾の一人しかない。
すると、乾は顔を上げ、私の方を見た。
「忘れている確率……」
「百パーセント、だね」
くすくすと笑って言葉を奪った。
「あとは? 日誌だけ?」
「ああ。俺も終わったら帰るよ」
「じゃあ途中まで一緒に帰ろうよ」
「うん。いいよ」
乾の言葉を受け、私は喜色を満面に浮かべた。すると、乾は眼鏡のブリッジを上げ、私に問うた。
「……君は?」
「あ、」
私は乾に尋ねられ、目を丸くした。
「宿題の数学のノートを忘れたんじゃないか?」
「そうそうそう! よく分かったね」
スタスタと自分の席に行き、机の上に残されていた数学のノートを急いで鞄の中にしまった。
「君のことだからね。戻ってくるだろうと」
「あ、机の上に置き忘れてたから予測出来たんでしょ。分かっちゃったよ、私も」
「それに君は真面目だからね。まあいいか、なんて思わないだろうから」
「ご名答」
褒められるとくすぐったい。私は日誌に向かう乾の旋毛を眺めながら、また声をかけた。
「ねえ、乾」
「ん?」
「物知りの乾に質問」
「何かな」
乾はシャーペンを置いた。そして、私に目を向けた。私は自分の席に鞄を置き、乾の元に近づいた。一歩、二歩、三歩。目の前に到達して、奥の見えない目を凝視する。いつもなら上を向くけど、今日は見下げている。
私は大きく息を吸い、乾に投げかけた。
「わざとノート忘れたって言ったら、どうする?」
乾は何も言わなかった。
「日直の子に頼んで早く帰ってもらったって言ったら、どうする?」
私の声が震えた。
「ねえ、教えてよ。データマン」
リップで潤した唇に少しだけ歯を立てる。ねえ、早く答えてよ。
すると、乾は表情一つ変えずに、また眼鏡のブリッジを上げた。初めて瞳の奥が見れた気がした。
「どうやら、君の勝ちみたいだな」
どくん、と心臓が跳ねる。瞬きをした瞬間に乾の顔が近づく。
ああ、リップ塗り直してて良かった。
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