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「ジャッカルー! 教科書貸して!」
盛大な声と共に勢いよくI組に入っていく。自分のクラスでもないくせに、ズカズカとある一点に向かってまっしぐら。他の生徒の視線が刺さるが、それもすぐに消える。ああ、またこいつか。そう思われてるに違いない。
周りも周りで「また来たよ〜、ジャッカル〜」なんて声がして、褐色の頭が振り返る。私は目が合うと同時に口角を上がるところまで上げた。ちょっとした優越感が気持ちいい。
私はジャッカルの目の前に立つと、手を差し出した。目的は勿論教科書。次の授業は国語でどうしても必要なのだ。
「お前なあ、いい加減自分の持ってこいよ」
溜息混じりに言われるけれど、これも恒例行事だ。両手では数え切れない。
「毎日何かしら忘れちゃうんだもん」
肩を竦め、おどけて見せる。ジャッカルは私の目当ての教科書を机の中から探している。
「だからって毎度俺のとこに来るなよ……」
なんて言いながらジャッカルは教科書を取り出すと、ほらよ、と私の手のひらに乗せてくれた。私はその代わりのように、何も無くなったジャッカルの手に飴を乗せる。するとジャッカルも慣れた素振りでズボンのポケットに突っ込んだ。
「ちゃんとお礼は渡してるじゃん?」
「それはそうだけどよ」
そう。私はジャッカルに物を借りるときは、いつも何かしらお菓子を持っていく。前にお菓子は忘れないんだな、なんて呆れられたこともあるけど糖分は勉強に必要不可欠。
私は借りた教科書を脇に挟み、もう一つ飴をポケットから取り出しては袋を開けて頬張る。カランコロンと音を鳴らしてジャッカルに笑顔を向ける。
「それにジャッカルより成績良いよ」
「お前それ言ったら終わりだろ」
「えへ」
実を言えばそうなのだ。全教科テストの点数で負けたことがない。私個人の感覚としては、どの科目も普通よりちょっと出来るってだけなんだけどね。
「じゃあ、また後でね」
「おー」
ジャッカルに手を振り、その場を後にする。ジャッカルはいつも通り手を挙げてヒラヒラと軽く手を振ってくれていた。さ、またフリガナ振っといてやろうかな。
ペラペラと捲りながら授業内容の確認をしようとすると、私と入れ替わりで他の子が教室に入っていった。ふわ、と髪が靡いて、花の香りがした。
「ジャッカル〜」
どうやらジャッカルに物を借りに来たみたいだ。私はなぜか身を隠すように廊下の壁に張り付いた。微かに聞こえる会話が仲の睦まじさが感じられる。
その瞬間にドク、と鼓動が大きく鳴る。
「……私だけじゃ、ないよね」
私は逃げるように教室へと戻った。
授業終わりのチャイムが鳴り、私はI組へと向かった。授業前の軽やかさはどこへやったのかと尋ねたくなるほどに足取りは重い。けど、次の授業で必要だろうから返さなくちゃならない。また花の香りのする、あの子はいるんだろうか。
不安を抱きつつ、I組の教室に入るとジャッカルは席に着いていた。私は背後から忍び寄って、ジャッカルの頭上に乗せてやろうかとも思ったけど、ぐっと堪えて正面へと回った。
「ジャッカル、はい」
胸がモヤモヤとしたまま、ずい、とジャッカルの目の前に突き出した。
ジャッカルは私から教科書を受け取ると、すぐに机の中にしまった。
「おう。もう忘れんなよ……って、」
「……何?」
「なんか元気ねぇな」
「え?」
心臓が掴まれたかと思った。
ジャッカルの目は私の顔を凝視していて、私はその目に囚われて動けない。はっとした後、思わず頬を撫でた。そんなに顔に出ていたろうか、と。
ジャッカルの目の前では笑顔をいつも作っていたつもりだ。先生に当てられて問題を間違えようとも、友達と喧嘩したときも、前日の放課後に面倒事を押し付けられた時も、ジャッカルの前では笑顔でいようと努めていたのに。元気で明るい友達でいようと思ってたのに。
私はずんと頬に重力がかかるのが嫌でもわかった。一気に表情が奪われる。
何も言わない私に、ジャッカルはあー、と声を出すと、頬をかいた。
「いや、俺の勘違いだったらいいんだけどよ、なんかそんな風に見えて……って何言ってんだ俺」
気まずそうに後頭部を撫でるジャッカル。私は彼の言葉が遅れて、じわじわと体内を駆け上がってくる。じくじくして、むず痒くて、でも暖かくて優しい。悪い気分じゃない。むしろいい気分。最高の気分。
私の口角は勝手に上がった。
「ふふ、」
「何で笑ってんだ?」
私は口元を手で覆った。ジャッカルは私の態度の急変に困惑しているようだ。私はそれを放って目を細めてはニコニコと笑みが止まらなくなってしまった。
「いや、なんか嬉しくなっちゃった」
理由は秘密だけれど。ジャッカルは手を机の上に戻すと、肩を一度上下に動かした。
「……変な奴だな」
「いいよ、変な奴で」
私はポケットに手を突っ込み、再びジャッカルに飴をあげた。
盛大な声と共に勢いよくI組に入っていく。自分のクラスでもないくせに、ズカズカとある一点に向かってまっしぐら。他の生徒の視線が刺さるが、それもすぐに消える。ああ、またこいつか。そう思われてるに違いない。
周りも周りで「また来たよ〜、ジャッカル〜」なんて声がして、褐色の頭が振り返る。私は目が合うと同時に口角を上がるところまで上げた。ちょっとした優越感が気持ちいい。
私はジャッカルの目の前に立つと、手を差し出した。目的は勿論教科書。次の授業は国語でどうしても必要なのだ。
「お前なあ、いい加減自分の持ってこいよ」
溜息混じりに言われるけれど、これも恒例行事だ。両手では数え切れない。
「毎日何かしら忘れちゃうんだもん」
肩を竦め、おどけて見せる。ジャッカルは私の目当ての教科書を机の中から探している。
「だからって毎度俺のとこに来るなよ……」
なんて言いながらジャッカルは教科書を取り出すと、ほらよ、と私の手のひらに乗せてくれた。私はその代わりのように、何も無くなったジャッカルの手に飴を乗せる。するとジャッカルも慣れた素振りでズボンのポケットに突っ込んだ。
「ちゃんとお礼は渡してるじゃん?」
「それはそうだけどよ」
そう。私はジャッカルに物を借りるときは、いつも何かしらお菓子を持っていく。前にお菓子は忘れないんだな、なんて呆れられたこともあるけど糖分は勉強に必要不可欠。
私は借りた教科書を脇に挟み、もう一つ飴をポケットから取り出しては袋を開けて頬張る。カランコロンと音を鳴らしてジャッカルに笑顔を向ける。
「それにジャッカルより成績良いよ」
「お前それ言ったら終わりだろ」
「えへ」
実を言えばそうなのだ。全教科テストの点数で負けたことがない。私個人の感覚としては、どの科目も普通よりちょっと出来るってだけなんだけどね。
「じゃあ、また後でね」
「おー」
ジャッカルに手を振り、その場を後にする。ジャッカルはいつも通り手を挙げてヒラヒラと軽く手を振ってくれていた。さ、またフリガナ振っといてやろうかな。
ペラペラと捲りながら授業内容の確認をしようとすると、私と入れ替わりで他の子が教室に入っていった。ふわ、と髪が靡いて、花の香りがした。
「ジャッカル〜」
どうやらジャッカルに物を借りに来たみたいだ。私はなぜか身を隠すように廊下の壁に張り付いた。微かに聞こえる会話が仲の睦まじさが感じられる。
その瞬間にドク、と鼓動が大きく鳴る。
「……私だけじゃ、ないよね」
私は逃げるように教室へと戻った。
授業終わりのチャイムが鳴り、私はI組へと向かった。授業前の軽やかさはどこへやったのかと尋ねたくなるほどに足取りは重い。けど、次の授業で必要だろうから返さなくちゃならない。また花の香りのする、あの子はいるんだろうか。
不安を抱きつつ、I組の教室に入るとジャッカルは席に着いていた。私は背後から忍び寄って、ジャッカルの頭上に乗せてやろうかとも思ったけど、ぐっと堪えて正面へと回った。
「ジャッカル、はい」
胸がモヤモヤとしたまま、ずい、とジャッカルの目の前に突き出した。
ジャッカルは私から教科書を受け取ると、すぐに机の中にしまった。
「おう。もう忘れんなよ……って、」
「……何?」
「なんか元気ねぇな」
「え?」
心臓が掴まれたかと思った。
ジャッカルの目は私の顔を凝視していて、私はその目に囚われて動けない。はっとした後、思わず頬を撫でた。そんなに顔に出ていたろうか、と。
ジャッカルの目の前では笑顔をいつも作っていたつもりだ。先生に当てられて問題を間違えようとも、友達と喧嘩したときも、前日の放課後に面倒事を押し付けられた時も、ジャッカルの前では笑顔でいようと努めていたのに。元気で明るい友達でいようと思ってたのに。
私はずんと頬に重力がかかるのが嫌でもわかった。一気に表情が奪われる。
何も言わない私に、ジャッカルはあー、と声を出すと、頬をかいた。
「いや、俺の勘違いだったらいいんだけどよ、なんかそんな風に見えて……って何言ってんだ俺」
気まずそうに後頭部を撫でるジャッカル。私は彼の言葉が遅れて、じわじわと体内を駆け上がってくる。じくじくして、むず痒くて、でも暖かくて優しい。悪い気分じゃない。むしろいい気分。最高の気分。
私の口角は勝手に上がった。
「ふふ、」
「何で笑ってんだ?」
私は口元を手で覆った。ジャッカルは私の態度の急変に困惑しているようだ。私はそれを放って目を細めてはニコニコと笑みが止まらなくなってしまった。
「いや、なんか嬉しくなっちゃった」
理由は秘密だけれど。ジャッカルは手を机の上に戻すと、肩を一度上下に動かした。
「……変な奴だな」
「いいよ、変な奴で」
私はポケットに手を突っ込み、再びジャッカルに飴をあげた。