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「ええ! 白石くんの誕生日って四月なん!?」
冬も最盛期を迎えそうな頃、私は席が後ろの男子と話していた。名を白石蔵ノ介。テニス部元部長で、頭が良い。顔も良い。完璧だけどおもんない。そんな彼と私は席が前後なこともあって休み時間によく話す間柄となっていた。席が前後だと知った当初は仲良くなれないだろうなと思っていた節もあったけれど、人というのは分からないもので案外気さくな彼の人柄に惹かれた。今では大事な友人の一人。だけれども、私はそんな彼の誕生日を知らなかったのだ。
「せやで。四月の十四日」
白石くんはニコニコと嬉しそうにしながら肯定している。祝ってもないのに笑顔なのはどうしてだろう。私はショックで堪らないのに。
「え、友達になるより早いやん……」
今はもう春を過ぎている。春も夏も秋も。そして冬が終わる。また次の春がくる。誕生日が早いというのはこんなにも無常なのか。
私は肩を落とし、無念さを体で表現した。
「なんや、祝ってくれるつもりやったん?」
白石くんは机の上で腕を組んで私の方に前のめりになった。そんなに誕生日祝われなかったんだろうかと不安になってくる。白石くんって友達少ないんやろか、と不要な心配が過ぎった。
「友達の誕生日は言葉だけでも伝えなあかんやろ」
口角を下げて微妙に頬を膨らましてみた。せめて何かあげられないだろうか。遅れた分を何かで補えないか。顎に手を当て考えた。
「嬉しいなあ。その言葉だけで十分やで」
今までもこうして知られずに過ぎ去ってというのを繰り返して慣れてきているんだろう。せっかく春という麗らかな日の誕生日なのに勿体ない。
「え〜、なんかめちゃくちゃ残念な感じする」
「ほんまに? その言葉めっちゃ嬉しい」
残念がる私とは裏腹に白石くんは変わらずニコニコとしていて何が嬉しいのか分からない。せやねんな、と同意するもんだと思ってたものだから拍子抜けだ。
「あ、ちょっと待って」
私はあるものを思い出し、机横に掛けていた鞄の中を探った。こういうときにこれを持っていてよかったと心底思う。私は鞄の中から一つの箱を取り出した。
「白石くんあんまお菓子食べるイメージないんやけど、これあげるわ」
箱から一つ取り出し、白石くんの手のひらに乗せる。食べてくれるかは置いといて、こういうのは気持ちが大事なのだ。そう自分に言い聞かせる。
「ふーゆのーきーっすは〜雪〜のよーおな、くち〜どけ〜」
CMソングを歌い上げると、白石くんはけらけらと笑った。声を上げて笑う姿は珍しくてつい凝視してしまった。何だか良いものを見れた気がする。
「はは、メルティーキッスやん」
「遅い誕生日プレゼント」
「次の誕生日きてまうで」
「ほんまやな」
ぎゅっと白石くんの手を握らせた。チョコレートが溶けてしまうかもしれないけれど、そこは我慢してもらおう。それかすぐ食べてもらうのがいい。
すると、白石くんは握った手を引っ込めると、すぐに鞄にしまった。
「おおきに。有難く頂くわ」
「どういたしまして」
白石くんの笑顔を確認してから私は箱をしまう。小さなものだけれど、喜んでくれたなら良かった。
元の姿勢に戻り、また次の話題に移ろうとすると、白石くんは私の名を呼んだ。
「なあ、名字さん」
「ん?」
「次の誕生日、期待してもええ?」
次の誕生日。私は頭の中でゆっくりと噛み砕いた。脳で処理をする前にチャイムが鳴った。お喋りの終わりの時間だった。
「……次のって、」
「また後でな」
私は白石くんに背中を押され、前を向かされた。言葉の意味を知る前に邪魔が入ってしまった。でも、きちんとした意味を知ってしまったら何かが壊れてしまいそうな気がして、授業に身が入らなくなるのはこの後の話。
冬も最盛期を迎えそうな頃、私は席が後ろの男子と話していた。名を白石蔵ノ介。テニス部元部長で、頭が良い。顔も良い。完璧だけどおもんない。そんな彼と私は席が前後なこともあって休み時間によく話す間柄となっていた。席が前後だと知った当初は仲良くなれないだろうなと思っていた節もあったけれど、人というのは分からないもので案外気さくな彼の人柄に惹かれた。今では大事な友人の一人。だけれども、私はそんな彼の誕生日を知らなかったのだ。
「せやで。四月の十四日」
白石くんはニコニコと嬉しそうにしながら肯定している。祝ってもないのに笑顔なのはどうしてだろう。私はショックで堪らないのに。
「え、友達になるより早いやん……」
今はもう春を過ぎている。春も夏も秋も。そして冬が終わる。また次の春がくる。誕生日が早いというのはこんなにも無常なのか。
私は肩を落とし、無念さを体で表現した。
「なんや、祝ってくれるつもりやったん?」
白石くんは机の上で腕を組んで私の方に前のめりになった。そんなに誕生日祝われなかったんだろうかと不安になってくる。白石くんって友達少ないんやろか、と不要な心配が過ぎった。
「友達の誕生日は言葉だけでも伝えなあかんやろ」
口角を下げて微妙に頬を膨らましてみた。せめて何かあげられないだろうか。遅れた分を何かで補えないか。顎に手を当て考えた。
「嬉しいなあ。その言葉だけで十分やで」
今までもこうして知られずに過ぎ去ってというのを繰り返して慣れてきているんだろう。せっかく春という麗らかな日の誕生日なのに勿体ない。
「え〜、なんかめちゃくちゃ残念な感じする」
「ほんまに? その言葉めっちゃ嬉しい」
残念がる私とは裏腹に白石くんは変わらずニコニコとしていて何が嬉しいのか分からない。せやねんな、と同意するもんだと思ってたものだから拍子抜けだ。
「あ、ちょっと待って」
私はあるものを思い出し、机横に掛けていた鞄の中を探った。こういうときにこれを持っていてよかったと心底思う。私は鞄の中から一つの箱を取り出した。
「白石くんあんまお菓子食べるイメージないんやけど、これあげるわ」
箱から一つ取り出し、白石くんの手のひらに乗せる。食べてくれるかは置いといて、こういうのは気持ちが大事なのだ。そう自分に言い聞かせる。
「ふーゆのーきーっすは〜雪〜のよーおな、くち〜どけ〜」
CMソングを歌い上げると、白石くんはけらけらと笑った。声を上げて笑う姿は珍しくてつい凝視してしまった。何だか良いものを見れた気がする。
「はは、メルティーキッスやん」
「遅い誕生日プレゼント」
「次の誕生日きてまうで」
「ほんまやな」
ぎゅっと白石くんの手を握らせた。チョコレートが溶けてしまうかもしれないけれど、そこは我慢してもらおう。それかすぐ食べてもらうのがいい。
すると、白石くんは握った手を引っ込めると、すぐに鞄にしまった。
「おおきに。有難く頂くわ」
「どういたしまして」
白石くんの笑顔を確認してから私は箱をしまう。小さなものだけれど、喜んでくれたなら良かった。
元の姿勢に戻り、また次の話題に移ろうとすると、白石くんは私の名を呼んだ。
「なあ、名字さん」
「ん?」
「次の誕生日、期待してもええ?」
次の誕生日。私は頭の中でゆっくりと噛み砕いた。脳で処理をする前にチャイムが鳴った。お喋りの終わりの時間だった。
「……次のって、」
「また後でな」
私は白石くんに背中を押され、前を向かされた。言葉の意味を知る前に邪魔が入ってしまった。でも、きちんとした意味を知ってしまったら何かが壊れてしまいそうな気がして、授業に身が入らなくなるのはこの後の話。