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私の彼氏は、テニス部部長だ。
全国大会を優勝で飾り、その後十七歳以下の合宿に参加、世界大会へと進出したメンバーがいるテニス部の部長。芯のあるストイックな精神には、前部長から与えられただろう、誇りを胸にしているに違いない。決して驕らず、日々精進する彼の姿は、いつ見ても眩しかった。
放課後、部活が休みの日。皆が家に帰ったり、遊びに行ったりする中、私は何となく教室に残っていた。別に何か特別なことがあるわけじゃない。誰かを待っている訳でもない。ただ、何となく帰りたくなかった。友達との帰りの約束さえも蹴った上でだ。
私は机の上に宿題を広げ、次々に数式を書き連ねていた。勉強は好きだった。やればやるほど実力がついて、テストという形で結果が出る。一番簡単で、身近で、自分が自分だと認めてやれるものだった。
教科書のページを捲り、次の問題に目をやったところでシャーペンを間に挟んだ。教科書は勢いよく開いていた口を閉じ、シャーペンを飲み込んだ。私はそれを放ったまま背伸びをした。ぐんと伸びた背からはパキ、なんて音がして、中学生が鳴らすものでは無いなと密かに笑った。
最近は二月にしては暖かい。春の陽気に近いなんて朝のニュースでは言ってたっけ。
ノートに肘をつき、手のひらに顎を乗せる。そして、ぼんやりと窓の外を眺めた。今日はいつ帰ろう。別に何時になったっていいけど、遅いと急激に冷えるから暗くなる前には帰らないと。
私は再び教科書を開いた。先程までスラスラと解いていた数式が急に呪文に見え始めた。集中力が切れたのだろうか。私は飲み込まれていたシャーペンを助け出すと、筆箱に閉まった。消しゴムも一緒に詰め込み、鞄へと仕舞う。続けてノートも教科書も閉じて鞄に仕舞えば帰り支度の完成だ。私は席を立った。その瞬間だった。
人気のない教室で、ガラガラと扉の開く音がした。私が音をする方に顔だけを向ければ、そこには海堂がいた。今日は暖かいからか、それとも体を動かしていたからかは知らないけれど、半袖にハーフパンツの姿であった。
「今帰るのか?」
海堂から声をかけてきた。明らかに中途半端な時間だと言いたいのだろう。それは私も思っていたことだ。でも気が向いて家まで歩けそうなのが今だった。ただそれだけ。簡単な答えだ。
「うん、海堂は自主練でしょ?」
「ああ」
海堂はそれだけ言うと、自分の席を漁り、忘れ物らしきノートを手にしていた。あれは明日必要な数学のノート。私の記憶が間違いじゃなければ確かだと思う。
「頑張ってね」
私は言い残すように彼より先に教室を出た。
もう彼は頑張っている。そんなの私じゃなくたって分かっている。それなのに私は在り来りな言葉しか彼にかけてあげられないのかと、自分に嫌気が差した。それなのに、彼は私の方を向くと、表情を変えず言い放った。
「ああ。当たり前だ」
私はそれを背中で受け取って、扉を閉めた。
知ってる? 海堂って私と話す時だけ目尻がほんのりと下がるんだよ。いつもの覇気のある姿も好きだけれど、それが私の前で緩むのが凄く好きなの。
私は海堂に分かるように扉のガラス部分に凭れた。
「うん。知ってる」
聞こえてなくていい。今はそれでいい。また次の夏、皆の前でハグしたら海堂は怒るかな。なんてね。
全国大会を優勝で飾り、その後十七歳以下の合宿に参加、世界大会へと進出したメンバーがいるテニス部の部長。芯のあるストイックな精神には、前部長から与えられただろう、誇りを胸にしているに違いない。決して驕らず、日々精進する彼の姿は、いつ見ても眩しかった。
放課後、部活が休みの日。皆が家に帰ったり、遊びに行ったりする中、私は何となく教室に残っていた。別に何か特別なことがあるわけじゃない。誰かを待っている訳でもない。ただ、何となく帰りたくなかった。友達との帰りの約束さえも蹴った上でだ。
私は机の上に宿題を広げ、次々に数式を書き連ねていた。勉強は好きだった。やればやるほど実力がついて、テストという形で結果が出る。一番簡単で、身近で、自分が自分だと認めてやれるものだった。
教科書のページを捲り、次の問題に目をやったところでシャーペンを間に挟んだ。教科書は勢いよく開いていた口を閉じ、シャーペンを飲み込んだ。私はそれを放ったまま背伸びをした。ぐんと伸びた背からはパキ、なんて音がして、中学生が鳴らすものでは無いなと密かに笑った。
最近は二月にしては暖かい。春の陽気に近いなんて朝のニュースでは言ってたっけ。
ノートに肘をつき、手のひらに顎を乗せる。そして、ぼんやりと窓の外を眺めた。今日はいつ帰ろう。別に何時になったっていいけど、遅いと急激に冷えるから暗くなる前には帰らないと。
私は再び教科書を開いた。先程までスラスラと解いていた数式が急に呪文に見え始めた。集中力が切れたのだろうか。私は飲み込まれていたシャーペンを助け出すと、筆箱に閉まった。消しゴムも一緒に詰め込み、鞄へと仕舞う。続けてノートも教科書も閉じて鞄に仕舞えば帰り支度の完成だ。私は席を立った。その瞬間だった。
人気のない教室で、ガラガラと扉の開く音がした。私が音をする方に顔だけを向ければ、そこには海堂がいた。今日は暖かいからか、それとも体を動かしていたからかは知らないけれど、半袖にハーフパンツの姿であった。
「今帰るのか?」
海堂から声をかけてきた。明らかに中途半端な時間だと言いたいのだろう。それは私も思っていたことだ。でも気が向いて家まで歩けそうなのが今だった。ただそれだけ。簡単な答えだ。
「うん、海堂は自主練でしょ?」
「ああ」
海堂はそれだけ言うと、自分の席を漁り、忘れ物らしきノートを手にしていた。あれは明日必要な数学のノート。私の記憶が間違いじゃなければ確かだと思う。
「頑張ってね」
私は言い残すように彼より先に教室を出た。
もう彼は頑張っている。そんなの私じゃなくたって分かっている。それなのに私は在り来りな言葉しか彼にかけてあげられないのかと、自分に嫌気が差した。それなのに、彼は私の方を向くと、表情を変えず言い放った。
「ああ。当たり前だ」
私はそれを背中で受け取って、扉を閉めた。
知ってる? 海堂って私と話す時だけ目尻がほんのりと下がるんだよ。いつもの覇気のある姿も好きだけれど、それが私の前で緩むのが凄く好きなの。
私は海堂に分かるように扉のガラス部分に凭れた。
「うん。知ってる」
聞こえてなくていい。今はそれでいい。また次の夏、皆の前でハグしたら海堂は怒るかな。なんてね。